お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第310話 想い人のところへ

「ふむ……この程度ですか……」

 

 斬魄刀を鞘へと納めながら、卯ノ花は詰まらなそうに呟いた。

 

「なかなかどうして、現世の武器というのも工夫を凝らしていますね。ただ、斬り甲斐がないというか、戦っていてもいまいち面白くないのが難点ですが……」

「そんなこと言えるのは、隊長だけですよ……」

「というか、その状況でそんなこと、よく言えますね……」

 

 一角がジト目を浮かべながら口にし、弓親がさらに二の句を継いだ。

 彼女の周囲にはバイクや銃器。さらには顔のない義骸といった無数の残骸がところ狭しと転がっている。

 そして、その全てに深い深い刀傷が刻まれていた。

 真っ向斬り、一文字斬り、袈裟斬り、突き――斬撃の種類という違いこそあるものの、全てが一撃でやられている。

 言うまでもないが、全て卯ノ花が斬ったものだ。

 一応、転がっている残骸の中には一角たち死神や破面(アランカル)たちが倒した物も幾らか混ざっているが、彼女が斬ったそれとは桁が違っていた。

 

「それにしてもこの人形。コイツ、アレだよな?」

 

 一角が地面に転がっている義骸の残骸の一つを、つま先で軽く蹴り飛ばした。

 その呟きを弓親が首肯する。

 

「ああ、断界(だんがい)の中で襲ってきたものだろうね」

「ケッ……! 自分で戦う度胸もねぇってことか?」

 

 これらの雑兵たちは全て、痣城剣八が放ったものだ。

 義骸を兵隊の代わりとし、現世で調達したライフルやグレネードランチャーといった火器を斬魄刀代わりに装備させて運用する。

 さらにはバイクを瞬歩(しゅんぽ)の代わりとして襲いかかってくる個体までいる。

 それら全ては融合の能力にて統率されて、完全に破壊されるまで戦い続けるのだ。

 十一番隊に所属する者たちからすれば理解出来ないだろうが、ある意味では軍勢として理想的とすら言える。

 とはいえその理想的な軍勢の悉くが、卯ノ花たち死神やネリエルら破面(アランカル)によって先ほど討伐されたところなのだが。

 

「面白かったねー!」「もっと遊びたい!」「あの火が出てボーンって爆発するやつ、楽しかったよね!」「途中、変じゃなかった?」「Grrrrrrr」「あ、そういえばそうだったかも!」「ねー、霊圧減ってるよ?」「おなか減った」

 

 ピカロたちもまた、戦いを振り返るようにそれぞれの個体がワイワイと話し合う。

 子供たちの無秩序な声を聞きながら、観音寺は高らかに叫んだ。

 

「なんと! すごいぞボーイズ&ガールズ!! あのミステリアスでデンジャラスなドールズをあっという間に片付けてしまうとは!!」

「わー!」「それ本当!?」「じゃあ次は鈍感おじさんが遊んでくれる!?」

 

 単純な褒め言葉に湧き上がるピカロたちの歓声をバックに、続いて彼は卯ノ花たちの方を向く。

 

「そしてユーたち! 同じ格好をしていたからもしやと思ったが、ユーたちは一護ボーイに勝るとも劣らない優れたウォリアーたちなのだな!!」

「まあ、ありがとうございます」

 

 一角らが絶句する中、卯ノ花は笑顔で会釈を返した。

 そして最後にネリエルを見る。

 

「上司のレディ! ユーもだ! なるほどこれならば、ロカ嬢を守れると考えるのも無理のない事かもしれない! だが油断は禁物だ!!」

「は、はぁ……」

「はぁー……っ……この男は……」

 

 気の抜けた返事をするネリエルの陰で、雨竜がこっそりと嘆息していた。

 それと同じように、十一番隊の死神たちも同じ相手が原因で困惑する。

 

「しかし、あの現世の人間……アイツはなんなんですかね? 問題の破面(アランカル)と一緒にいるし、藍俚(あいり)とも知り合いみてえでしたけど?」

「そういえば彼、さっき一護って言ったよね?」

 

「おや、聞いていないのかね!? 黒崎一護はこのカリスマ霊媒師、ドン・観音寺のマイ一番弟子なのだ!」

「嘘つけ!! んなもん聞いたこともねえぞ!!」

「それは彼がシャイなだけだ!!」

「あの~……」

 

 一角と観音寺、二人の言い争いに女性の声が割って入る。

 

「お取り込み中? だったら出直した方が良い?」

 

 いつの間に現れたのか、そこには藍俚(あいり)の姿があった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 痣城が泣きべそをかきながら逃げちゃったから、ロカちゃんの方に一旦合流したんだけど……

 相変わらずこの人の周辺は騒がしいわねぇ……しかも一角と言い争いを繰り広げられるとか……

 ただ者じゃないわね!

 

『それで納得してしまって、本当に良いのですかな!?』

 

 え、別に問題ないと思うけど……?

 

『拙者は納得が出来ません!!』

 

 いや、射干玉? あのね……

 

『なぜですか!? どうして拙者と雨露柘榴殿との熱く激しい、ヌルヌルしてヌメヌメしてグチョグチョするような戦闘シーンが無かったのですかな!?』

 

 あ、不満はそっちなの!? ドン観音寺全然関係ないの!?

 というかその擬音はなに!? 仮にも"戦闘シーン"って言葉に付ける音じゃないわよそれ!!

 

『キハ! 射干玉ちゃん、文句は剣の字に言ってやってよ! 私や藍俚(あいり)ちゃんに文句を言われても困るだけだっての!!』

 

『うう、た、確かに……藍俚(あいり)殿! 次は、次こそはお願いいたします!! もっとこう、逃げ場なく! 拙者の魅力を全力で引き出す感じで!!』

 

 そ、そうね……精一杯鋭意努力して最大限前向きに善処……

 

 できるかぁ!!

 そういうのは私の管轄じゃないの!!

 

『またまぁ! 藍俚(あいり)殿がやらなかったら、どなたがやるのですかな!? 他に適任者はおりませんぞ!!』

 

 ………………はっ! ち、違うから! 一瞬納得とか全然してないから!! 間違っても「出来ちゃうなぁ……」とか絶対に考えてないから!!

 

 もう! いいから話を進めるわよ!!!

 

藍俚(あいり)!?」

「おお、ガールではないか! すまなかった、勝手にあの場から去ってしまって!!」

 

 私の登場に言い争っていた二人が揃って声を上げます。

 観音寺の方は、頭を下げてきたところから見るに、ある程度の自覚はあったみたいね。

 

「本当ですよ、まったく!! それにしても……」

 

 続いて彼らの周辺、地面に転がっている壊れたゴミの山に目を向けます。

 軽重火器に二輪車にできの悪いマネキン、その全てが綺麗に壊れて残骸になってて……思わずその内の一体を拾い上げてしまいます。

 

 雨露柘榴、コレって……痣城の仕業よね?

 

『ああ、そうだよ。藍俚(あいり)ちゃんの相手をしながらも、こっちに手を出していたってことさ! 剣の字は手が早いからね、油断も隙もないよ! キヒヒ!!』

 

 はぁ……私とやりとりしつつ、融合で手駒を増やして、さらには時間稼ぎもされたってこと……?

 

『ちなみに壊したのは――』

 

 その情報はいらない。そっちが誰かは一目瞭然だもん。

 だってものすごく見たことのある太刀筋だもん。

 ……なんだったら自分の身体に何度も刻まれたから嫌でも覚えてるわ。

 

 それにしても……

 

「――よく生きてましたね、ドン観音寺さん?」

「おお! ユーは私の身を案じてくれるのかね!? だが安心したまえ! この観音寺、作戦の都合上一時撤退することはあっても、敵に背を向けるような真似はヒーローとして決して――」

「そうじゃなくて!」

 

 つかつかと停車中の車に近寄ると、ボンネットをドンと叩きます。

 ……あ、傷やヘコみは付かないように全力で加減してますよ。

 

「あの時に黙って逃げたことはもういいです! 本当はもっと言いたいけれど我慢します! でもそれ以上に、どうしてあなたも逃げなかったんですか!?」

「む、ガールよ? 何を言っているのかね? 私はヒーローとして背を向けられぬと言ったはずだが……?」

「ええ、聞きました! でも、だからって逃げちゃ駄目ってこともないでしょう!? あなたがヒーローとして常に活躍しなくちゃならないなんてことはない! 誰かを守って誰かに守られる、そんなヒーローがいても良いでしょうが!!」

「……ッ!!」

 

 あら、ロカちゃんが一瞬で顔を上げて私のことを見つめてきた……?

 何か言いたいことでもあるのかしら?

 

「……なるほど。つまりユーは、こう言いたいのだね? 私は師として、弟子たちの活躍を見守る! そしてマイ弟子たちがピンチになったら、颯爽と登場すべきだと!!」

「……もう、それでいいです……」

「なるほど、納得したよ」

 

 もうそれでいいわ……納得してくれたから……

 下手に首を突っ込まれて死なれるよりは、ずっと良いって思うことにしましょう。

 

『妥協! 妥協の産物でござるよ!! どうしてそこで諦めるでござるか藍俚(あいり)殿!! もっと熱くなるでござるよ!!』

 

 もう無理、熱くなれない……

 誰か氷輪丸を呼んで……春休みの東京に雪を降らせましょう……

 

『キハハハハ!! いいねえいいねえこの人間!! 見ていて本当に飽きないよ!!』

 

 対岸の火事だったら、私だって力いっぱいそう思うところなのよ……

 

「自分でも気づかぬうちに師匠ポジションを確立していたとは……! これもスーパースターとして活動している以上は仕方の無いことか! いや、まさか一護ボーイが宣伝してくれた!? 彼が支部として活躍したことで、本部の私を慕う者が自然と増えた……? ならば一護ボーイと同じバトルコスチュームを身に包んだ者達がこれほど多く集ってきたのも道理というもの!!」

 

 わなわなと震えながらなんだか呟いて、そして大いに納得したように頷きます。

 

 ……ね?

 コレ、自分と無関係だったら見てて飽きないでしょう? 面白いでしょう?

 いつのまにか私たち、ドン観音寺の弟子にされちゃったわよ……

 

「よし、マイ弟子たちよ。道は決まった! 次のステージに進むとしよう!! ロカ嬢を狙う悪鬼たちを倒しにいくのだ!!」

「おーっ!」「おーっ!」「冒険? 探検?」「次のステージって??」「あの変な死神じゃないの?」「私、シエンと遊びたいなぁ」「ハラ ヘッタ」「そういえば霊圧減ったよね」

 

 自分の愛車を踏み台にして、かっこいい決めポーズを取りながら叫び始めました。

 ピカロたちはそれに便乗するかのようにワイワイやっています。

 

 ……ん? 霊圧が減った? 戦ったから消耗するのは分かるけれど……

 ……あら? なんだかこの子供たち、すごく消耗しているわね……?

 

「あの、あの……観音寺さん!」

「どうしかしたかねロカ嬢?」

 

 ピカロたちの言葉が気になっている一方、ロカちゃんがなにやら観音寺に声をかけ始めました。

 

「私も、一緒に戦います! 観音寺さんと一緒に!」

「ロカ嬢!?」

「ロカちゃん!?」

 

 え、戦うの!? 確か、囚われのプリンセスみたいなことを言ってたから、てっきり非戦闘員だと思ってたんだけど……

 あ、でもネリエルが「本当はとっても強い」とか言ってたっけ……

 

『言っておりましたかな?』

 

 忘れちゃった? ほら、最初の頃にネリエルが伝令神機で言ってたでしょ。

 「ピカロたちが現世に行くかもしれない~」みたいな会話をしていたときよ。

 

『……おお! そういえば!!』

 

『キハハハハ! 剣の字がよだれを垂らして欲しがってた、色んな物と繋がって共有する能力だからね! そりゃ強いに決まってるよ!!』

 

 本当に強いのかしらね……?

 いえ、疑っているわけじゃないのよ。

 ただ、私の知ってる強い破面(アランカル)って言ったら"ハリベル・ネリエル・チルッチ"とかだから……

 

『その心は!?』

 

 強い女性破面(アランカル)は、全員立派なお山(おっぱい)を持っている!

 

『なるほど! だからロリ殿やメノリ殿は当てはまらないのですな!! これは世界の真理! 霊王の定めた絶対の掟!!』

 

 急に霊王とか言わないで! 今まで引き合いに出したことなかったじゃない!!

 

『いやぁ、そろそろ名前くらいは出しておこうかと……』

 

 なにが!? 何への気遣いなの!?

 

「私も、観音寺さんみたいなヒーローになってみたいって、そう思ったんです……皆さんを守るのは無理でも、今はせめて、観音寺さんを守れるようなヒーローに……なって、みたいって……!」

「ロカ嬢!!」

「ロカちゃん!!」

 

 あらら、二人が感涙しながらロカちゃんに抱きつきました。

 なんだかロカちゃんの表情も、最初に見たときよりも凜々しいような気がします。

 きっとネリエルたちは、彼女の成長を――

 

「わー! お姉さんだー!!」

「え……! なに!?」

「ねえねえお姉さん、お菓子もうないの?」「タベ タイ」「僕たち、ネリエルと一緒に頑張ったよ?」「あいりーん、あたしにも!」「お姉さんのおっぱいー」

「あ、ちょっと!! ……んっ! こら、それは駄目って言ったでしょ!! ……や、ぁ……っ……!」

「うわぁ……」「死神のお姉さん、えっちだぁ……」

 

 観音寺の方に意識を向けすぎていたようですね。

 ピカロたちに(たか)られて、またおっぱい揉まれちゃったわ……うう……

 ちょっとだけ、ちょっとだけ感じちゃったのが、何より不覚……

 

『おおっ、官能的だね!!』

 

『ああ、またしても拙者の藍俚(あいり)殿が……! ハンカチをこう、強く噛みながら思いっきり引っ張って悔しさをアピールするでござるよ!!』

 

 どっかの令嬢じゃないんだから!! なんのアピールなのよ!!

 

『そういえば、卯ノ花のおばあ……卯ノ花ちゃんには、この小僧たちは手を出さないんだね?』

 

『そこは勿論、子供というのは聡いですから!! 手を出したら駄目な相手には手を出しませんぞ!!』

 

 それ、私はチョロいって思われてるってことよね!?

 

藍俚(あいり)殿はそれが魅力でござるよ!!』

 

 ……ほらほら、ピカロたちも集まらないの!!

 

「ごめんね、お菓子もうないの。これが終わったらまた持ってくるから、もうちょっと待っててね……でも(キミ)はおやつ抜き!」

「えー!!」

「大人気ですねぇ、湯川隊長」

「あ、卯ノ花隊長」

 

 一段落するのを待っていたのかしら? 落ち着いたところを見計らってやってきました。

 

「ご無理を聞いていただいて、ありがとうございます」

「いえいえ、多少は楽しめましたから……それより、剣八はどうなりました?」

「……一応おたずねしますが、どっちの?」

「決まっているでしょう」

 

 にこりと微笑んだかと思えば、きっぱりと告げてきました。

 

「両方です」

 

 ……その答えは予想外だったわね。

 

「更木副隊長は、あの破面(アランカル)黒腔(ガルガンタ)の中に閉じ込めました。私も閉じ込められかけましたが、なんとか逃れて痣城の方の相手をしました」

「……倒したのですか?」

「いえ、逃げられました」

 

 私の言葉に、卯ノ花隊長はふむふむと納得したように頷きます。

 

「なるほど、通りで。戦いの最中、あの人形たちの動きが鈍ったわけです」

「あー、そういやそうでしたね。途中からデクの坊になってましたっけ」

 

 うんうんと一角も同意しました。

 

 動きが鈍ったってことは……十中八九、私が原因よね。相手をしていたし。

 泣きべそをかかせたのが、そこまで影響あったとは……

 

「となれば今度は、剣八の方が気になりますね。しかし黒腔(ガルガンタ)まで追いかけるとなると……」

「あの、卯ノ花隊長……?」

「なんですか、湯川隊長?」

 

 腕を組んで悩み始めた卯ノ花隊長に向けて、軽く挙手をしながら答えます。

 

黒腔(ガルガンタ)でしたら、そこに専門家が……」

「あら? あらあら……私としたことが……」

 

 私が指差したのは、ネリエルら破面(アランカル)の二人です。

 指摘されるまで気づかなかったのか、卯ノ花隊長は僅かに頬を赤らめながら数秒ほど目を泳がせ、やがて何事も無かったかのように咳払いをしました。

 

「ん、んんっ! 違いますよ? 私は死神として、必要以上に破面(アランカル)の力を借りてしまうのはどうかと、そういうことを言いたいのであって……」

「…………」

「……何か?」

「いえ! 全く以て卯ノ花隊長殿の仰る通りです!」

「さすがは隊長!! 感服しました!!」

 

 十一番隊の隊士は、心の声が甘いわね。

 私? 私は当然無心を貫いたわよ。無念無想って大事なことだから。

 

「し、死神の皆さん!」

 

 死神側(こっち)で話をしている間に破面側(あっち)も話がまとまったみたいです。

 ロカちゃんが真面目な表情で、私たちの方を見ています。

 

「お話、聞こえました……黒腔(ガルガンタ)へ行くんですよね? あの、背が高くて霊圧も高い死神を助けるために」

「助けに……? ええ、まあ。そのようなことです」

 

 見届けに行く、が正解よね。卯ノ花隊長に限っては。

 

「でしたら、私が道を開きます。ただ、その……そこにいるはずの(ホロウ)は、私に相手をさせてくださいますか……?」

「……なぜ?」

 

 卯ノ花隊長の言葉が、ほんの少し強くなりました。

 背後にいる十一番隊の隊士たちも、納得できないといった雰囲気を漂わせています。

 

藍俚(あいり)の話から判断するに、剣八は黒腔(ガルガンタ)の内部で一人斬り合いを楽しんでいるようです。そんなあの子の、相手を譲れと?」

「は、はい……」

 

 おお! ロカちゃん気圧されているけれど、それでもなお頑張ってるわ!!

 

「必要なこと、なんです……! 私が、私であるためにも……!!」

「…………」

 

 そう言い放ったロカちゃんを、卯ノ花隊長はたっぷり十秒近い時間を掛けて視線をぶつけていました。ですがやがて、ふぅと息を吐き出します。

 

「……剣八次第、といったところでしょう」

「ありがとうございます!」

 

 お礼を言うのはまだちょっと早いんじゃないかしら?

 あの更木副隊長が許可するかしらね……?

 ……っと、いけない。忘れるところだったわ。

 

「卯ノ花隊長、すみませんが私はもう少し現世に残ります」

「あら、どうしてですか?」

「まだ痣城剣八が残っていますから」

 

 私の言葉に、卯ノ花隊長はすっと目を細めます。

 

「……本気、なのですね?」

「はい」

「わかりました。そこまで覚悟があるのなら、私は何も言いません」

 

 卯ノ花隊長が口にしたのは、それだけでした。

 

『……よ、よろしいのですかな!?』

 

 え、何が? そりゃまあ、痣城は強いけど……

 でも、約束したでしょう?

 

『……はえ? 一体何を……???』

 

 約束したでしょう! 精一杯鋭意努力して最大限前向きに善処するって!!

 

『…………おおっ! そういえば!!』

 

 やるって言うんじゃ無かったわ……でもなあ、仕方ないか……

 

 かわいい斬魄刀のためだもんね。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

「隊長、ちょっ、ちょっと待った! 本当に良いんですか!?」

「斑目三席、何がでしょう?」

 

 藍俚(あいり)とのやりとりを終えて、黒腔(ガルガンタ)に向かおうとしていた卯ノ花のところへ一角が怒鳴り込む様にしてやってきた。

 

「何がって、藍俚(あいり)のことですよ! アイツが万一にも、痣城ってやつを斬っちまったら、更木副隊長は……」

「何か問題でも?」

 

 表情どころか眉一つ動かさぬまま、卯ノ花は聞き返す。

 その態度はむしろ、一角の方が面食らうほどだ。

 

「何って、隊長は更木副隊長に――」

「ええ、確かに。それが理想です」

 

 あっさりと肯定してみせた。

 

「ですが、藍俚(あいり)がやると決めた以上、口を挟むのも野暮というもの。それにあの子、言っていたでしょう?」

 

 そこまで口にすると、卯ノ花は一度言葉を切る。

 

「剣八の名を奪い取る、と」

「……は!? まさかアレ、本気だったんですか!?」

「さて、そこまでは私にもわかりかねます。単にあの子なりの激励でしかなかったのか、それとも本気だったのか……ですが、それはそれで良い経験になると思いますよ」

「一応聞きますがね。それは、誰にとっての良い経験で?」

 

 卯ノ花は何も答えず微笑を浮かべる。

 ただ、彼女の言葉を代弁するかのように空が大きく震えた。

 

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