お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第311話 宣戦を告げる

「では皆さん、準備は良いですか?」

 

 あれから数分後。

 最後の確認のようにロカちゃんが問えば、卯ノ花隊長が全体の意思を代弁するかのように首をゆっくりと縦に振り、頷きました。

 ロカちゃんはそれを見るとゆっくりと霊力を集中させ、黒腔(ガルガンタ)へと通じる穴を――

 

「勿論だともロカ嬢! ユーの背中は、常に私が守ろう!! だから安心して、ドーンと大きく構えていたまえ!!」

 

 ああ……台無し……

 ドン観音寺の言葉に、ロカちゃんはクスリと微笑んで応えています。

 あんなのでも、心強いみたいね。いい顔してるもの。

 

『ラブコメの波動! ラブコメの波動を感じますぞ!!』

 

 破道の十八、愛米(ラブコメ)……いえ、ごめんなさい。

 なんでもないわ、忘れて。

 

 えーっと……

 改めて説明するまでもないかもしれませんが、彼女たちはこれから黒腔(ガルガンタ)にいるシエンらのところに向かうわけです。

 参加メンバーは、まずロカちゃんとネリエルの破面(アランカル)二人。

 それから十一番隊の隊士たち。

 オマケで、シエンやロカちゃんのことが気になっているピカロたちです。

 

 反対に現世に残るのは、名前を挙げなかった人たち。

 主に私とか石田君とかですね。

 見送りとか痣城への対応とかそれ以外とか、色々事情があるのよ。

 

 黒腔(ガルガンタ)へと通じる穴が広がり、彼らはそこに入っていきます。

 私たちはそれをただ見送るだけです。

 やがて、全員が通過したところで穴はゆっくりと閉じていきました。

 

 …………あら?

 

「……来なかったわね、痣城」

「え!?」

 

 ぽつりとつぶやいた私の言葉に、石田君が反応します。

 

「どういう、ことですか?」

「痣城はロカちゃんを狙っている。でもこのまま見過ごせば、彼女は手の届かないところにまで逃げてしまう。となれば、今が最後の機会とばかりに狙ってくると思っていたんだけど……」

 

 ほら、大事な出発のシーンって大体邪魔が入るものでしょう?

 

『ロボットアニメではお約束でございますな! 大気圏を出たり入ったりするのを邪魔するのでございますよ!!』

 

 だからきっと、来ると思ってたんだけど……ねえ?

 

『キヒヒ! どうしてかねぇ!?』

 

「……となると、狙いは私かしら」

 

 浦原謹製の道具を持っているし、なんだったら個人でも虚圏(ウェコムンド)まで行けるもの。

 能力で融合するのか、それとも道具を奪いに来るのか。

 どちらにしても、後手に回るのは避けたいところよね。

 

「ならいっそ、こっちから出向くとしましょうか」

「は!? い、いや湯川さん! 何を言っているんだ!」

「そうですよ隊長! 大体、居場所だってわからないのに……」

「あら、それなら平気よ」

 

 困惑する二人へ向けて、手のひらを見せます。

 そこにはドロリとした黒い粘液がへばりついていました。

 

「ね?」

「いやあの……ね? と言われても……」

「むしろ黒腔(ガルガンタ)に向かった方が大変よねぇ……ほら、見てアレ」

 

 少し前から空は何度も大きく鳴り響いていて、その音に呼応するかのようにジワジワとヒビ割れが広がっています。

 多分、いえ間違いなく更木副隊長が暴れているんでしょうね。

 しかも空間を超えて、現世にまであれだけ影響を与えるなんて……どんな戦いをしているのやら、想像したくもないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 黒腔(ガルガンタ)内部。

 霊子を固めた足場の上で、更木剣八はシエンとの斬り合いを続けていた。

 

 ――いや、今の言葉には少し語弊があった。

 そこで繰り広げられるのは"斬り合い"という言葉が可愛く聞こえ、そんな生優しい言葉では到底追いつかないような光景。

 互いの魂を削り取り、存在全てを破壊しあうような"何か"だった。

 

「ハハハハハハ!! 楽しい、楽しいよ更木剣八!!」

「お前もやるじゃねえか!! なんで藍染のヤツの時に出てこなかったんだよ! そうすりゃもっと楽しい斬り合いが出来たってのによ!!」

「仕方ないだろう! その頃はザエルアポロだったんだ!」

「ああぁ!? 誰だそりゃ!」

「誰だっていいだろう!! この場にいない者のことなど!!」

「はははっ! そりゃそうだ!!」

 

 シエンの言葉に高らかに笑うと、更木は手にした斬魄刀を力一杯に振るう。既に始解を済ませており、彼が持つのは巨大な鉈のような姿となった斬魄刀だ。 

 一撃で周囲の霊子を打ち壊し、空間そのものをゆがませる。

 人間程度の大きさなど、掠めただけで肉片へと変えてしまえるその攻撃を、シエンは正面から受け止め、そして笑う。

 

「お返しだ!」

 

 野晒の攻撃を何度も受け、シエンの身体は既にズタズタだった。

 無傷な部分など、一カ所足りとて存在していない。

 流れ出た血は彼の髪を整髪料のごとく固め、皮膚を伝って滴り落ちては身に纏った衣服を濁った紅へと染め上げる。

 手足はどこか不格好に曲がり、よく見れば骨が突き出ているところまである。

 霊力の補充用にと捕まえておいたピカロは、既にカラカラに乾ききっており、ミイラを超えて骨すら残っていないほどだ。

 それでもピカロは死ぬことはない。

 彼らは命を共有する存在。群れの仲間が死にそうになれば、個が力を共有して助けに回る。それを知っているからこそ、シエンはピカロの一人を捕まえていた。自らの霊力を供給するための、非常食として。捕まえられた個体は、その役目を十分すぎるほどに果たしている。

 

 だがそんな状態でありながらもシエンは戦いを止めない。

 全身から流れ出た血を触媒に、無数の王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)を放つ。それも距離を取ることなく、更木に肉薄した状態でだ。

 霊圧の奔流は一切減衰することなく、更木の身を焼き焦がす。その熱量は更木だけでなく近くにいるシエンすら焼く。

 己の身に己で傷を増しながら、それでもシエンはニタリと口元を歪めた。

 

「通った! なるほど、これならば君に通じるということか!」

 

 全力を、自らの身体が崩壊するほどの全力を出しても、決して壊れない更木剣八という相手。

 強すぎる相手の霊圧を突破するため、この短時間でシエンは自らの限界を何度更新したことだろうか。そのたびに更木もまた己の霊圧を高め、通じなくなっていく。

 そんな中にあっても、先ほどの攻撃は会心の一撃だった。それも、これ以上は無いと確信できるほどの。

 ようやく相手の力の底が見えてきたのだ。これが喜ばずにいられようか。

 

「おう! やるじゃねえか!!」

 

 敵の攻撃を受け、傷を負う。その結果に、更木もまた口元をゆがませていた。

 常に戦う相手に飢えていた更木にとって、シエンという相手はまさに重畳。かつての卯ノ花を相手に斬り合いを繰り広げたときのように、どこまでも自分の力を出せる。

 これが喜ばずにいられようか。

 

「剣ちゃーん」

「おう、やちるか!」

 

 そんな極限の闘気と闘気が鎬を削り合う空間に、場違いなほど暢気な声が聞こえてきた。

 更木はその声に反応して、返事を返す。

 

「どこに行ってやがった? まあいい、喜べ! このシエンってやつ、もの凄え強えんだぜ!!」

「ええっ! それ本当!?」

「ああ! お前と一緒でも足りねえかもしれねえ!」

「うわぁ! いいないいな!! あたしも剣ちゃんと一緒に戦いたい!」

 

 視線は外さぬまま。だが意識の一部をやちるへと向けながら、更木は告げる。

 その評価を耳にしながらやちるはピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ねた。

 それまで続けていた闘争とはまるで異質な雰囲気に、更木ばかりかシエンまでもが戦いの手を止めてしまうほどだ。

 数回ほど飛び跳ねて歓喜の感情を表現し終えると、やちるは剣八をじっと見つめる。

 

「でもね、剣ちゃん。お客さんなの」

「客だぁ?」

「うん、代わって欲しいんだって」

 

 やちるが道を譲るようにスッと横へ移動する。

 まず卯ノ花が顔を覗かせ、彼女の後に続くようにネリエルと観音寺に挟まれるようにしてロカが姿を現した。

 さらにその後ろには死神たちやピカロたちが続く。

 

「……お前か」

「知り合いか?」

「腹立たしいことにね」

 

 ロカの姿を見るなり、シエンは苛立ちを隠そうともせずに吐き捨てた。

 憎しみの籠った瞳がロカに向けられる。その視線は、隣に立つネリエルが嫌悪感を露わにしながら眉を顰めるほどだ。

 

「だが、良いところに来た。ロカ、お前は僕に殺されろ。そうすれば僕はこの楽しい時間を、更木剣八との戦いをもっともっと続ける事が出来る」

「……お断りです」

 

 きっぱりと告げる。

 両隣の二人が揃ってガッツポーズをしたほどだ。

 

「ザエルアポロ様……いえ、シエン。私はあなたから自由になるために、ここに来ました」

「嘗めた口を聞いてくれるじゃないか。それが何を意味しているのか、理解しているんだろう?」

「ええ、理解しています。もう私は、あなたに使われる道具ではありません。ネリエル様や観音寺さん、それに死神の皆さんがそう教えてくれました」

 

 ロカは次に、シエンへと向けていた視線を更木へと向け直す。 

 

「更木剣八さん、ですよね? 身勝手なお願いだと分かっています。ですが、シエンとの戦いをどうか、私に譲ってはもらえませんか?」

「そいつは俺から獲物を横取りしたいってことだよな?」

「はい」

 

 その場にいた大半が背筋を凍らせそうな、猛々しい殺気が黒腔(ガルガンタ)を襲う。嵐の様に吹き荒れる殺気の中、真っ先に口に口を開いたのはシエンだった。

 

「いいじゃないか、更木。僕からも頼むよ」

「あん?」

「僕にも優先順位がある。ロカは真っ先に殺さなきゃならないんでね。君が嫌だといっても僕はアレを殺す。そうしなければ、いずれ僕は僕でいられなくなるかもしれないんだよ」

「それは私も同じです」

 

 シエンの言葉に続くように、ロカが口を開いた。

 

「私はもう、道具でいたくない。無価値な(ロカ)じゃない。観音寺さんが安心できない。私のことをずっと守らなきゃって心配し続けてしまうんです。だから私は、決めたんです」

「……聞こえただろう、更木? 互いに戦いたいって言ってるんだ。むしろ今この瞬間、お邪魔なのは君さ」

 

 やれやれと嘆息するようなポーズを取ると、シエンは瞳を爛々と輝かせた。

 

「何、心配することは無い。この使えない道具をとっとと破壊して、僕はもっと強くなってすぐに戻ってくる。これはただの一時休戦、小休憩のようなものさ。だってこんな楽しい殺し合いを中座するなんて考えられない……そうだろう?」

「……ああ、そうだな。その通りだ」

 

 剣を下ろして戦意が無いことを告げるかのように、更木は野晒を肩に担ぎ上げた。そしてシエンの瞳へ期待を込めた眼差しを向ける

 

「けど約束だ。必ず帰ってこい。んで、続きやるぞ。斬り合いが終えたら藍俚(あいり)に治してもらって、そしたらまたやろうぜ!」

「ああ、約束だ」

 

 

 

「……すげぇな。更木副隊長が獲物を譲ったぜ」

 

 一角の呟きが、静かに木霊した。

 

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