お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第313話 全ては彼女たちの手の上の出来事

『何のことかな藍俚(あいり)ちゃん?』

 

 雨露柘榴は惚けたような態度を取ってきます。

 

 ……まあ、いいわ。私が勝手に話すから。

 

 私と射干玉がふざけて転神体を作ったときに、雨露柘榴が割り込んできた。

 あれって、ふざけてとかお喋りがしたかったんじゃなくて、何か別の狙いがあったんじゃないのかしら?

 

『…………』

 

 だんまり? まあいいわ、続けるわよ。

 

 私の中でおふざけして、射干玉と意気投合する。そうやって騒ぎまくることで、私が隊首会に集中できないようにする。

 そして極めつけに、痣城剣八の意外な面を披露することで無理矢理注目を集めさせて、 私にうっかり声を上げさせる。

 そうすれば私が痣城剣八騒動に全力で関わるようになるはず。

 

 あれって、そんな目的があったんでしょう?

 

『さぁて……考えすぎじゃないかい?』

 

『そうでござるよ藍俚(あいり)殿! 雨露柘榴殿は拙者のヌルヌルボディに惹かれてここまでやってきた……』

 

 多分あのとき、痣城剣八の方でも何かを煽っていたんじゃないの? 死神側からだけじゃなくて、痣城側からも話題に挙げることで私を関わらせる。

 私と痣城、二人の側に立って、無駄なお喋りのウラで必死に画策していた。

 

『仮にそうだとしても、どうしてそんなことしなきゃならないのさ! 私は藍俚(あいり)ちゃんたちと偶然知り合えたのが楽しくって、一緒に遊んでいただけだよ! キハハハ!!』

 

 うん、その可能性も考えたんだけどね。

 でも私は確認したはずよね? 卍解にまで至れるような斬魄刀が、持ち主をそう簡単に見捨てるわけがないって。

 となると、何か別の狙いがあったんじゃないかって思ったの。

 

 でもまあ、考えたら悩むまでもなかったのよね。

 

 痣城剣八は、融合の能力で無間に囚われた後もずっと瀞霊廷の様子を見聞きしていた。

 つまり、更木剣八と卯ノ花隊長のことも知っていた。

 

 ……更木剣八を危惧していたんでしょ?

 このままぶつかったら、負ける。剣八の掟通りに殺される。だからなんとか、助かる道を探したい……って。

 

『な、なななななんですと! まさかそのような……』

 

『キハ、藍俚(あいり)ちゃんやるねぇ……』

 

『え、ええええぇぇっ! まさか、そんな……』

 

 今の更木副隊長と、全力で斬り合いをしたら絶対に殺される。

 それはいやだ、助けてあげたい。

 良いところに便利な救急箱があって、しかも転神体みたいな雰囲気もある。

 よし、一時的に間借りしてなんとか痣城を助けよう。

 

 狙いはそんなところでしょう?

 だから、私と偶然に知り合ったっていうのは事実なんだろうけど。偶然だったからこそ、適当に騒ぐことで本当の狙いを悟らせたくなかった。

 だって痣城は一般的に見れば犯罪者だから、素直に「助けて欲しい」と言いにくい。あとは痣城本人に下手に悟られたくなかった、っていうのも可能性としてはあるかしら? 

 

『で、では拙者とは……』

 

『すまないねぇ射干玉ちゃん。でも、射干玉ちゃんと一緒にバカやってた時間、悪くなかったよ』

 

『ほ、本当でござるか! でしたら是非このまま!!』

 

 はいはい、射干玉もそこまで。

 雨露柘榴には決まった相手がいるんだから、無理言わないの。

 

『そ、そんなぁ……』

 

 泣かないの、私がいるでしょ? ほら、私の胸で泣きなさい。

 ハンカチ――じゃない、サラシで涙は拭いてあげるから。

 

『お゛ぉ゛ん゛! お゛ぉ゛ん゛!』

 

 そんな野生のケモノの鳴き声みたいな声、今まで上げてなかったでしょ……

 

 あとほらほら、雨露柘榴も。もう私に用は無いでしょ? そろそろ元の持ち主のところに帰りなさいな。

 

『えーっと……藍俚(あいり)ちゃん、その前に一つだけ聞いて良いかい? 私が藍俚(あいり)ちゃんを利用しているって気づいたのに、そのまま藍俚(あいり)ちゃんは利用されていたってこと?』

 

 そうなるわね。更木副隊長たちには申し訳ないけど、こっちを優先させてもらったの。

 それが何か?

 

『なんでそんなことを……?』

 

 そりゃあ勿論、可愛い斬魄刀の頼みだからね!

 

『…………ッハ! キハハハハハ!! なんだなんだ、そういうことかい!! なら、女の姿で生まれてきて幸運だったってことだね!!』

 

 後はまあ、ちょっと立場は違っても面倒な相手に振り回されている死神と斬魄刀の関係ってことによる同情、かしらね……?

 

『を゛ぉ゛ーーん゛! ……でへへ、藍俚(あいり)殿のおっぱい……』

 

『……なるほどね』

 

 ね?

 

『……おや、何が? 何か面倒な相手がどうたらと……? 一体誰のことなのか見当も付かないでござるよ……??』

 

 ううん、なんでもないの。

 そういうところも大好きよ射干玉。

 

『さーって、それじゃそろそろ私は消えるとするかねぇ……』

 

 ふわり、と風が軽く吹くような感覚が胸の中に訪れて、雨露柘榴の姿がゆっくりと薄くなっていきます。

 

藍俚(あいり)ちゃんも射干玉ちゃんも、世話になっちまったね! 今度また会えたら、そのときにはちゃんとお詫びをさせてもらうとするよ!』

 

 お詫びねぇ……でも痣城の懲役からすると大体二万年くらい待つのよ?

 しかも今回のことで刑期はさらに延びそうだし……

 

藍俚(あいり)ちゃんならそのくらい平気だろ! また一緒にバカやろうぜ! キハハハハハ!』

 

 高らかな笑い声を上げながら、雨露柘榴は完全に私の中から消えていきました。

 

『雨露柘榴殿ォォッ!! やっぱりカムバーック!! 拙者と一緒に夜の超融合を!! 今度はちゃんと名前も考えますからああぁぁぁっ!!』

 

 …………

 

 失敗したかしらねぇ……?

 

 

 

 

 

 

「ぐ、う……っ……」

「あら、気がついた? 具合はどう? 治療は必要かしら?」

 

 雨露柘榴が消えてから一分くらいでしょうか? 気を失っていたはずの痣城が目を覚ましました。

 私は彼の顔をゆっくりと覗き込みながら、容態を確認していきます。

 ……あ、さすがに(ホロウ)化は解除していますよ。卍解はそのままだけど。

 

「大丈夫、だ……失態を見せたな……」

 

 確かに、ものすごい失態だったわね。

 

「……湯川、私はどのくらい気絶していたんだ……?」

「大体二、三分くらい」

 

 雨露柘榴と話をして、そこから気絶した痣城を道の端に寝かせて、脈とか計っていた時間から逆算すると、大体そのくらいで間違いないわね。

 のろのろと身体を起こしながら、私の言葉をじっくりと噛みしめるように痣城は頷きました。

 

「そうか……それだけあれば十回死んでも釣りが来る……いや、お前に力を封じられた時点で負け、だろう……」

 

 なんだか痣城の表情が豊かになっています。

 そう呟いているものの、悔いは無いというか。全てを受け入れてすっきりとしたような顔つきになっていますね。

 

「夢を、見ていた……」

「夢ですか?」

「ああ……いや、正確には夢というよりも……あれは、私が今まで雨露柘榴の中に捨てていた、無駄だと断じていたはずの……記憶だ……」

 

 ああ、私がマッサージしているところをみてムラムラきた記憶とかね。

 ……あんなの知らされたら、そりゃあんな反応するに決まってるでしょうが!!

 

「だが、一度壊れるような衝撃を受けて取り戻したのだろうな……いつの間にか、私のところへ戻ってきていた……」

「きっと雨露柘榴が返してくれたんですよ。あなたに必要なものだからって」

「雨露柘榴が……?」

 

 意外そうな瞳で私を見つめます。

 ……あれ? 雨露柘榴って今、痣城のところに帰ってるわよね? (ウチ)に間借りしていた事とかって、まだ話をしていないのかしら?

 

「ええ、そうですよ。雨露柘榴は良い斬魄刀ですから」

「そうか……」

 

 なんだか遠い目をしながら、しみじみと呟いています。

 過去を懐かしんでいるのかしらね?

 

「少し、話を聞いてくれるだろうか?」

「私で良いんですか?」

「ああ、お前が良い……というよりも、お前で無ければ駄目だ……」

 

 唐突にそう言ったかと思うと、さらに自分語りが始まりました。

 

「姉さんは、私のことを命を賭して助けてくれたのだ。それは間違いない。だが私はいつの間にか、そんな大事なことすらも忘れていた……」

「……ああ、先ほどの。役立たずと言っていた、あの言葉ですね?」

 

 こくりと痣城が頷きます。

 

「あの言葉は、アレは本心では無い……いや、誤魔化すのはよそう。本心の一部ではあった。どこかでそう考えていたのも、きっと事実なのだろう。だから私は、あの記憶すら雨露柘榴の中に、不要な物として捨ててしまっていたのだ……そんなことすら、今まで気づかなかった……多くの物を捨てすぎた……」

「きっとこれからはゆっくりと拾っていけますよ」

「拾える、か……そうだな、だがそのときはもう雨露柘榴は……」

 

 …………?

 

 ああ、そっか。痣城は雨露柘榴が消えたって思ってるのね。

 いやいやいやちょっと! 悪ふざけが過ぎるでしょう! もう教えてあげなさいよ!! 隠れんぼはもう終わってるから!!

 いい加減にしないとタイミングを逃すわよ!?

 

 数秒間の沈黙が流れる中、やがて痣城の方から口を開いてきました。

 

「どうした? 私を殺さないのか?」

「……え?」

「お前は言っていただろう? 更木がもたもたするくらいならば、私を仕留めると」

 

 言いましたね、ええ確かに言いました。

 

「既に私はお前に負けた。ならば剣八の名を名乗る資格はあるはずだ。あとは、私をその剣で斬ればいい」

 

 抵抗するまでもなく、ただ淡々と告げてきます。

 雨露柘榴が返してくれた物の中に、そういった剣八としての矜持のような物も含まれていたんでしょうかね?

 

 決着が付いた以上、これ以上は戦うのも無駄。

 敗者は黙って勝者の行動を受け入れる、とでも言うような態度です。

 

『やりましたな藍俚(あいり)殿! これで十一番隊の隊長も兼任できますぞ!!』

 

 ……いやいやいや! 無理だから! それは無理だから!!

 分かってて言ってるでしょう射干玉!!

 

『ですが藍俚(あいり)殿が隊長になれば、新人の女性隊士がホイホイやってくる可能性もありますぞ?』

 

 うっ……!!

 

「…………遠慮しておきます」

「理由を、尋ねてもいいだろうか?」

「お忘れですか? 剣八を名乗るには証人が必要なんですよ。私は二百名以上の隊士の前で倒していませんから、無理なんです」

 

 そういうことだから、わかった射干玉!?

 あとね、他にも理由がちゃんとあるから!!

 

「それに、更木副隊長が虎視眈々と狙っていますからね。欲しくなったら、彼から奪うのが筋だと思います」

「……そうか、強いな湯川は」

 

 欲しくなったら、ですからね! そんな日、未来永劫来ませんから!!

 強くないですから!!

 

「ならば、私も剣八としての筋を通さねばならないようだ……」

 

 ……え?

 

「湯川、更木のところへ連れて行ってはくれないだろうか?」

 

 ……ええええっ!

 こ、このまま大人しくお縄を頂戴して「はい、おしまい」になると思ってたのに!!

 そこに行くって事は……何をするのか分かってるの!?

 

「それは、まさかその……良いんですか?」

「ああ、構わない。私なりのケジメだ」

「分かりました……」

 

 ご、ごめんね雨露柘榴!? これを回避したかったはずなのに、結局こうなっちゃったわ……

 これだけ覚悟が決まった状態で言われたら、拒否するなんて私には無理……

 あとは雨露柘榴! 頑張って説得してあげて!!

 

 

 

 

 

 

 

『おいおい剣の字、それじゃ自殺するのと変わらないよ? よわっちい剣の字が相手じゃ、更木も浮かばれないってもんだよ! キハハハハハ!!』

 

「こ、この声は……!?」

 

 突如、今まで聞こえなかったはずの声が耳に届いた。

 途端に痣城は周囲をキョロキョロと見回し始める。

 それを見た藍俚(あいり)が、何かを悟ったような表情でにっこりと微笑んでいたが、今の痣城にはそんなことに気づく余裕すらない。

 

「雨露柘榴! お前、なのか……だが、どうして……?」

 

『本当に消えたと思ってたのかい? バカだねぇ剣の字は、藍俚(あいり)ちゃんの能力じゃそこまでは無理だよ! ただちょっと、お世話になった相手にお礼を言いに行ってただけさ!』

 

「世話になった相手……?」

 

 雨露柘榴が藍俚(あいり)の中に間借りしていたことを未だ知らない痣城は、何のことかと首をひねる。

 

『それよりも剣の字、本気なのかい? 更木に挑むだって!? もう一回言うけど、今の弱っちい弱っちい剣の字じゃ無理だね! 死にに行くようなもんだよ? わかってるのかい?』

 

「だが……!」

 

『だが、じゃないよまったく世話が焼ける! どうせ止めても行くんだろ? ほら、だったらさっさと藍俚(あいり)ちゃんにお願いしな! 藍俚(あいり)ちゃんはゲキ甘だからね、嫌とはいわないはずさ! キハハハハハ!!』

 

「…………湯川、すまないのだが……」

「ええ、分かっていますよ。義骸から抜き出せば良いんですよね?」

 

 雨露柘榴の言葉に、半信半疑となりながらも痣城は意を決して口を開く。

 すると藍俚(あいり)は、それが当たり前といった調子で聞き返してきた。

 

「……できる、のか?」

「当たり前ですよ。私が作った物なんですから」

 

 卍解状態のまま、痣城の身体――義骸に手を当てると、そこからゆっくりと剥がし取り分離させていく。

 

 

 

『キハハハハ!! 藍俚(あいり)ちゃんは本当に……本当に……甘いねぇ……』

 

 

 こっそりと回道を併用して霊圧を流し込み、少しでも痣城が無事でいられるように藍俚(あいり)は小細工を施す。

 それに気づいたのは、雨露柘榴だけだった。

 




雨露柘榴からしたら剣ちゃんを敵に回すような事は無理だから。
そりゃ止めようとしますよ。
(痣城の心の中に「コイツには絶対に勝てない。殺される」って感情があって、でもそれを捨てた。捨てられた感情を拾った雨露柘榴、行動開始)
気づけば硬くて便利に利用できそうなのがいれば、そりゃ利用します。
二重スパイってヤツですね。

それに乗っかりつつ、藍俚(あいり)殿も色々気遣っているわけですよ。
仕方ないんですよ、雨露柘榴は女性斬魄刀だから。卯ノ花隊長よりも新しいおっぱいを優先するのは仕方ないんです。

(……こういうネタをやろうとするから、余計面倒なことになるんですよね……
 頭カラッポにして、ただ斬るだけで済めばどれだけ楽か……)
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