お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第314話 騒動終結

 黒腔(ガルガンタ)とへと通じる穴が開き、その中から痣城剣八を伴って湯川藍俚(あいり)が姿を現す。

 二人の姿を見た途端、内部にいた者たちからどよめきの声が上がる。

 なにしろ二人は並んで――というより藍俚(あいり)が痣城を案内するようにしてやってきたのだ。

 一体この短時間で関係性がどのように変化したのか。

 それを知らぬ者達からすれば、どよめくのは当然のことだろう。

 

「……痣城剣八を連れてきました。更木副隊長、あなたに用があるそうです」

「俺に?」

 

 用事がある、という言葉だけで何が目的かを鋭敏に感じ取ったのだろう。更木はにやりと犬歯を剥き出しにして好戦的な笑みを浮かべた。

 

「その様子なら多くを語る必要はなさそうだが、一応伝えておこう。更木剣八、剣八としてお前を倒すために私はここに来た」

「は、はははは! はははははははっ!! いいぜ!! てめえとも斬り合って見たかったんだ!!」

 

 予想通りの回答に我慢しきれなくなり、更木は上機嫌で腹の底から哄笑する。

 だが笑い声を上げながらも闘気だけは見る見るうちに濃くなっていく。

 つい先ほどシエンと戦っていたときと同じか、もしくはそれ以上に。近くにいた卯ノ花が思わず反応して、斬魄刀を半ばまで無意識に抜刀してしまったほどだ。

 

「なあ先輩よ、てめえ相手なら遠慮はいらねえよな? シエンのときには出し惜しんじまったが、使っても良いよな? なにしろ近くにゃ藍俚(あいり)がいるんだ。どんだけ死んでも問題ねえからよ!」

「いや、私にも治せる限界が……ん? 遠慮? 使っても良い? ……あっ! ま、まさか!!」

 

 その言葉に真っ先に反応したのは藍俚(あいり)だ。

 何が起こるか想像が付いたのだろう。彼女は慌てて自らの斬魄刀を抜く。

 

「やちる、来い! さっきの分も含めて盛大にやろうじゃねえか!!」

「うん! 剣ちゃん!!」

「卍解か」

 

 やちるが更木の背中に飛び乗ったのを見て、痣城もまた確信する。

 これは更木剣八が卍解を使うのだと。

 

「ならば私も、出し惜しみはせん」

 

 それに呼応するかのように、痣城は数秒の間を置いてから斬魄刀を始解に戻す。

 浅打と変わらぬ形をした何の変哲もない斬魄刀。だがその刃には、痣城の全霊圧が込められている。

 瀞霊廷全てと融合してなお余り、現世でも猛威を振るい続けたほどの霊子が凝縮された、最強の攻撃力を誇る刃。

 そんなものを放たれれば、更木といえどもただでは済まないだろう。いや、それ以前にこの空間が砕けても不思議では無い。

 

「ああもうっ!」

 

 二人の剣八の姿を見ながら、藍俚(あいり)は卍解にて空間の補強を始める。

 そんな苦労など知らずとばかりに、二人は戦いを始める。

 

 

 

 

 

 

 それと同じ頃――

 

「ロカ嬢よ、安心したまえ! このドン観音寺が控えているのだ!」

「ロカちゃん! やりなさい! 自分の想いを貫いて!!」

「……はい!」

 

 虚圏(ウェコムンド)では、ロカとシエンが戦いを繰り広げていた。二人の声援を受けながら、彼女は自らの糸の能力を十全に発揮して戦い続ける。

 見聞きした破面(アランカル)や死神の能力を再現する彼女の戦法は、ついには切り札を――藍染を止めた力までもを使い、シエンを打ち倒してみせた。

 

 だがそれは、自らの実力を大きく超えるほどの力だ。

 自分自身が崩壊しかねない程に消耗しながらも、ロカは笑顔を返してみせた。

 すぐ近くにいてくれた、大切な人たちへと。

 

 

 

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「――と、大体そんな感じになったわ」

「た、大変でしたね隊長……」

「ええ……大変だったわ、とっても……」

 

 私の言葉に、勇音は「本当にお疲れ様でした」と顔に書きながらねぎらってくれました。

 

 いや、本当に大変だったのよ。

 二人の剣八が激突すれば黒腔(ガルガンタ)やら断界(だんがい)やらが壊れるのは明白だから、射干玉の卍解で必死で防波堤を作ったの。

 

 大きな地震とかで巨大な津波が起こると、海流が変になったりするでしょ? あれと同じなの。霊子の流れが変になって、最悪の場合は現世や虚圏(ウェコムンド)に行けなくなる可能性があったから。

 だから必死で壁を作って止めたわ。

 

 その後もまた大変で。

 「ロカちゃんがボロボロになった」って言いながらネリエルがやってきて、ヘロヘロになりながらも必死で治療したわ。

 他にも治療しなきゃ死ぬって人が二名ほどいたから、そっちにも回道を使って……

 

 ……我ながら、本当によく生きてたわよね。

 

 でも、これで今回の騒動も終わったの。

 どうにかこうにか、という但し書きが着くけどね。

 

 痣城剣八は再び無間に収監されました。

 書類上は、十一番隊が捕縛したという形になってます。書類上はね。

 ……本当に、痣城はよく生きてたわよね……

 

 ロカちゃんは取り逃がしたものの、好戦的ではないこと。加えて虚圏(ウェコムンド)の奥地に逃げてしまったので、とても探し出して討伐することはできません。ということで見逃す形で決着を付けさせました。

 ええ、そうですよ。決着を付けさせました。

 

 最後に……ドン観音寺なんだけど……

 ロカちゃんとか、ピカロと仲良くなってたでしょ? あれがきっかけで「現世のただの人間が、破面(アランカル)と友好的になる!? ありえない!!」と恐れられました。

 一護クラスの霊圧とか戦闘能力とかがあればまだしも、そんなの一切無いってこともダメ押しの一つだったわね。

 それに加えて「師匠ポジション」というあの発言が、どうやら真に受けられたらしくて。

 「ただの人間が死神も破面(アランカル)滅却師(クインシー)までもが師と崇めるほどの存在なのか!?」という感じで、勘違いが勘違いを呼んでしまって。

 見事に"触れてはならない存在"と認められました。

 

 ……あの場には、私や卯ノ花隊長もいたからねぇ……

 

 そんなこんなで、瀞霊廷も空座町も平穏を取り戻しました。

 

「あの、ところで隊長? 何をやっているんですか……?」

「これ? 見ての通り、お菓子作りよ」

「いえそれは分かるんですけど……」

 

 炊事場の一角を占領して、必死にお菓子を作り続けていればそんな疑問も沸くわよね。

 それも朝からずーっと作業してるんだもの。

 

「ピカロたちに『あとでごちそうしてあげる』って約束しちゃったからねぇ……今、大急ぎで作ってる最中なのよ……」

「はぁ……でも、いくら何でも多すぎだと思うんですけど……」

「そう?」

 

 ピカロたちは大体二百人いるって計算だけど、あの子たちが一人前で満足するとは思えないから、多めに用意してるの。

 それに"二百人"って言うのも目算で「大体そのくらいの人数だと思う」程度の計算だから、もしかすると足らなくなるかもしれないのよね。

 その分も差し引いて、かなり多めに作ってて……

 オマケにロカちゃんやネリエルたちを労ってもあげたいから、ピカロたちとは別枠で作らなきゃで……

 

 ……うーん、今日は徹夜決定かしらね!

 

「そういうわけだから、明日の業務も……お願いしても良いかしら……?」

「ええええぇぇっ!! 今日だけだって言ったじゃないですかぁ!!」

「お願い! この通りだから!!」

 

 私のお願いに、勇音は困ったような表情で涙を浮かべながらも、不承不承なんとか頷いてくれました。

 

 ごめんね……こんな隊長でごめんね……

 




だって、ロカちゃん揉みに行かなきゃ(使命感)
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