「わーわー!!」「きゃーきゃー!!」「死神のお姉さん、もっと頂戴!」「あまーい!!」「あー、それ僕のだよ!」「あ、私ももっと欲しい!」「ウ マ イ」「Gurururururururu」「色んな味が付いてる」「もっと硬い方が好きかも?」「これ果物が入ってる!!」「それ美味しそう! 僕のと取り替えない?」「うん、いーよ!」
のっけから、ピカロたちの登場です。
私の前には総勢二百名ほどのピカロたちが雲霞のごとく集結していて、押すな押すなの大騒ぎになっています。
「みんな-、喧嘩しちゃ駄目よ? 喧嘩したり他の子のを取っちゃう悪い子は、もうお菓子あげないからね! いい?」
そんな集団の視線と熱意を一人で一手に引き受けながら、私はお菓子を配っています。
ええ、そうです。ちゃんと
ちゃんと約束を守らないと、どんなことになるか分かった物じゃありませんから。
『食べ物の恨みは恐ろしいですからな! 因縁が長々と無駄に続きますぞ!!』
具体的には?
『究極対至高とか言い出し始めます!』
あー、それは長くなりそうね。無駄に二十九回くらい戦いそう。
……って、いけないいけない。仕事だわ。
「あ、そこの君! 横入りしないの! ちゃんと順番守って、一番後ろに並び直し!」
「ちぇー……」「やーい、怒られてる」「ズルするからだよ」「ほら、僕の一つあげるからちゃんと並ぼ?」
ちなみに配っているのは
量と制作時間と手間暇を秤に掛けたら、これが一番楽だったのよ……
仕方ないでしょ! 凝った物ばっかり作っていたら時間がいくらあっても足りないし! 下手に違う物を作るとピカロ同士で喧嘩になりそうだったんだもん!
だから、基本は同じだけど中身で色々差を付けてみたの。
お結びだって、外側は一緒だけど中身で色々と差が出るでしょ?
どうやらこの狙いは当たりだったみたいで、ピカロたちは自分が食べられなかった味を羨ましがって交換してたりと、和気藹々としています。
……なんだかピカロの中に一人、妙にひねくれた感じで霊圧の高い子がいるんだけど……何か良からぬ事を企んでいるような……
うん、きっと気のせいよね!
だってその子もみんなと一緒に
そんなこと考えているわけないもんね♪
『(分かってて言ってる気しかしないでござるよ……)』
「あら? あなた確か、私と現世で最初に出会った子よね?」
「うん、そうだよ!」
「あなたが連絡してくれて、助かったわ。はいこれ。残念だけど、オマケは出来ないんだけどね」
「ううん! ありがとう死神のお姉さん!!」
「
一番最初に手懐けたピカロなので、少し丁寧にお礼を言いながら
それを少し離れたとこで見ていたチルッチが、何やら呆れるような関心するような声で呟きました。
「そう? お願いしたのは私の方だから、このくらいは当然でしょ? それよりチルッチの方はどう? 美味しい?」
「
「チルッチ、口に物を入れながら話すのはお行儀悪いわよ」
私が持ってきた
それを、同じテーブルに着いていたネリエルが軽く
『位置関係としては、
……え? なんで外で配っているのか?
それは当然、ピカロたちが食べかすをボロボロ零すからよ。
室内で二百人分の食べかすを掃除する羽目になるくらいなら、最初から外で食べさせた方が楽でしょ。
『零れた食べかすは、後でスタッフが美味しくいただきますから何の心配もないでござるよ!! ちなみにスタッフと書いて、小さい虫型の
説明は一旦これくらいでいいかしら? チルッチが何か言うみたいよ。
「別にいいじゃない! 藍染が目の前にいるわけでもないんだし、そもそも肩肘張るような場面でもないでしょうが!」
そう言いながら、彼女はもう一切れ焼き菓子を摘まんで口に入れました。
「
「それならあんまり食べ過ぎない方が良いと思うけど……?」
「う、うるさいわね!
途中からだけど、ちゃんと飲み込んでから続きを口にする辺り、一応は気にしてるみたいね。
「というか、食事会にまで参加するつもりなのだな」
チルッチの言葉に、同じテーブルにいたペッシェがため息を吐きながら肩を竦める「やれやれ」といったポーズを取りました。
「まったく……ネル様とロカと
「あ゛ぁ゛ん゛!?」
チルッチ! それ、女の子が出しちゃ駄目な声だから!!
そう注意する暇はありませんでした。
彼女は両手をテーブルに叩き付けながら立ち上がると、ペッシェに食ってかかります。
「ふざけんじゃないわよ! 今回の騒動、
「お、おう……」
「
『たまっておられますなぁ……ストレスが』
ねえ、本当に……この子も苦労人よねぇ……どうしてこうなっちゃったのかしら……?
……あ、今チルッチがちょっと話題に出して思い出したけど、食事会の説明を忘れていたわね。
といっても、たいしたことじゃないんだけどさ。
なんでもネリエルたちは昔、ロカちゃんを
そのときの計画を改めて実現しようってことで、食事会をすることになったの。
今回、色々と騒動があったけれど、一応は片付いたからちょうど良い機会だってことで。
伝令神機に連絡が来たと思ったら、そう説明されて。オマケに「迷惑を掛けちゃったから、出来れば
『そりゃもう! 参加するっきゃねえでござるよ!! 答えは聞くまでもなかろうよ!!』
まあ、射干玉の言う通りなんだけどね……
ちなみに、その連絡があったのは私がピカロに配るお菓子を必死で作っていた最中だったわ。
そんな状況で突然「明日食事会するから参加して?」って言われたら、さすがにちょっと大変だったわ。
だって手ぶらじゃ失礼だから、お土産くらいは持って行きたいって思うわよね?
食事会なんだから、食べ物を差し入れたら喜んでもらえるかなって思うわよね?
……大慌てで追加の食材を買いに走ったわ……そして、差し入れしたわ……
おかげで
以前、涅隊長が大量の戦利品を
ちなみに差し入れの食材は、ココに来たときに料理人のドンドチャッカとロカちゃんに渡したの。
そのときに私も「手伝おうか?」って尋ねたんだけど「お客さんだから待っててくれ」って言われたわ。
だからこうやって、ピカロにお菓子を配りながら待っていたの。
「チルッチ、そんなに怒らないで。ね?」
「あんっ……! ちょ、ちょっと
激昂していたチルッチの気持ちを和らげるべく、彼女の背後にこっそり回って揉みます。
「ほらほら、せっかくのお食事会でしょ? 短気は損気、ゆっくり待ちましょ?」
「んっ、やぁっ! だ、だめっ! そこ、は……弱い、んだからぁ……っ……」
「あらら、硬くなってるわよ? ほら、もっと力を抜いて……じゃないと気持ちよくしてあげられないから……」
「んんんんっ!!」
チルッチが顔を真っ赤にしながら、背中をゾクゾクと震わせました。
ビクビクと身体を小刻みに痙攣させつつも、切なそうな瞳で私の顔を肩越しにのぞき込んできます。
「あー、なになに!!」「なにかやってる!?」「たのしそう!」「僕たちも混ざっていい!?」「肩を抉ればいいのかな?」
「だめだめ。君たちにはまだ早いわよ? 肩、凝ってないでしょ?」
……あ、肩です。肩もみですよ?
なんだか疑いの目で見られてる気がする。
失礼しちゃうわ、どこを揉んだと思ってるのかしら?
『それは当然! おっぱ――』
「おーい、できたでヤンスよ~!!」
遠くからドンドチャッカの声が聞こえてきました。
彼とロカちゃんが大きなお盆を持ってこっちにやってきます。そのお盆の上には色々な料理が並んでいるのが、遠目にも分かります。
なんだか美味しそうな匂いもほんのりと漂ってきました。
「あら、もうそんな時間なのね。じゃあ、いただきましょうか?」
「うー……」
「あ、あはは……」
「うむむ……
パッと手を放し、さも何事も無かったかのような態度で席に着きます。
そんな私を、三者三様の瞳が向けられます。
「……どうしたでヤンスか?」
「さあ……?」
唯一理解していない二人だけは、お互いに顔を見合わせていました。
「へぇ……初めて食べたけど、これが
テーブルの上に並んだのは、洋風の郷土料理といった雰囲気でした。卓上にはスープやフライ、魚料理などの食べ物たちがところ狭しと並んでいます。
そのうちの一つに箸を付けたのですが、意外にも――って言ったら失礼かしらね? 美味しかったです。
とっても美味しかったです。
『それ具体的に言うと、星が幾つくらいですかな!?』
えっと……ほ、星で言うと……3.5は間違いないくらい……?
『あー、そちらでしたか……』
そちらって何!?
というかここはチューボーじゃないんだから!! どっかのグルメサイトみたいな感じで十分でしょう!?
「いやいやなんのなんの、差し入れてもらった食材が良かったでヤンス。オイラたちだけではとてもここまでの味は……」
「それに、半分くらいは糸の能力で現世から仕入れた知識を再現したものですから……ですが、満足いただけたようで光栄です」
星3.5以上とか言っちゃったのが申し訳ないくらい、二人は謙遜しながらも嬉しそうにはにかみました。
「いやいやドンドチャッカよ! 謙遜することはないぞ!」
「そうそう、ペッシェの言うとおりよ! ロカちゃんのお料理、すっごく美味しい!」
「……あ、これ美味し――ッ! ま、まあまあね……」
二人が手放しで褒める中、チルッチがツンデレっぷりを発揮してくれました。
ああ言うって事は、お世辞抜きに美味しいって思ってるみたいね。
「またまたぁ、チルッチってばそーんなこと言っちゃってぇ! 素直に褒めても、い・い・ん・だ・ぞ?」
「…………潰す」
「のわー! な、なぜ怒ったのだ!?」
あーあー、ペッシェったら調子に乗りすぎよ。
楽しかったはずのお食事の席に一瞬にして殺気が吹き荒れたかと思えば、追いかけっこが始まりました。
……埃が立つから止めて欲しいんだけどなぁ。
「まだおかわりはあるでヤンスから、遠慮なさらずにどうぞ。ピカロたちも軽く摘まめる程度の量はあるでヤンスよ」
「湯川さんがたくさん差し入れしてくれましたからね」
「そういうことだから、あなたたちも。今はお行儀良く食べなさい。間違っても、あの二人みたいなことはしちゃ駄目よ?」
「「「「「「はーい!!」」」」」」
……あ、あれ? ドンドチャッカもネリエルも、ペッシェの事は助けないの?
それどころかピカロたちへの悪いお手本みたいな扱いになってるけど……
ま、まあいいか……
チルッチも本気じゃないし、本当に危なくなったらいつでも助けに入れるように注意だけは払っておきましょう。
そうして全員で――あ、チルッチは適当に痛めつけたら満足したみたいで席に戻ってきたわよ――食事会は進んでいきます。
みんなが思い思いに箸を進める中、ロカちゃんがポツリとつぶやきました。
「……出来れば、ハリベル様たちにも召し上がっていただきたかったんですが……ご迷惑を掛けたお詫びに……」
「まあまあロカちゃん。その機会はまた今度私が作ってあげるから。今は食事を楽しみましょう?」
「あ、そういえば」
話題に上がったのをこれ幸いと、私は口を挟みます。
「ロカちゃんはピカロたちの面倒を見るように言われたのよね? ハリベルから聞いたわ」
「はい、そうです」
「大変じゃない? あれだけ大勢の面倒を見るのって……」
「確かにそうですね。大変ですけど、みんな良い子たちばかりですよ」
「ふーん……」
そっかそっか、大変なのね。
それは良いことを聞いたわ。
「ロカちゃんもそうだけど。湯川さん、あの痣城って死神はどうなったの?」
「痣城のこと?」
「ええ、ロカちゃんがまた狙われないかって心配なのよ。簡単に経緯は聞いたけれど……湯川さんの目から見て、どうかしら……?」
ネリエルの質問に「うーん……」と軽く声を上げて唸ります。
「無間に再度投獄されたし、結界も強化されたわ。だから、しばらくは問題ないでしょうね。今回の、それこそシエンくらい強い相手が計画的に暴れたら、また話は違ってくるけれど」
「それってつまり、問題ないって考えて良いのよね?」
「そうね……」
真剣な眼差しを受け止めながら数秒ほど黙り、結論を口にします。
「痣城も色々と考え直すところがあったみたいだし、当分は問題ないでしょうね」
「よかった……」
首肯すると、ネリエルは安堵したように息を吐きました。
無間の結界を改良したから、本当に大丈夫なのよね。
刑期を終えたら出てくるけれど、それは二万年以上も先のことだし……
それにしても今回の事件、もっと上手く出来たと思っちゃうのは自惚れかしら?
『まあ、仕方ないでござるよ! なるようにしかならないでござる!!
軽ッ! 最後の一文、もの凄くとってつけたみたいに軽いわねそれ!!
「ねえねえ、なくなっちゃった」「まだ食べたいの」「お料理美味しかったー!」
痣城のことを考えていたら、ピカロたちが集まってきました。みんな手には空っぽのお皿を持ちながら、おかわりはないのかと訴えてきています。
物足りないのか、お皿を舐めてる子もいますね。
「ああ、まだもう少しなら残っているでヤンスよ。ちょっと待ってて欲しいでヤンス」
「あ、私も手伝いますから」
「いいからいいから。もう今日はネル様のお相手をしてあげてほしいでヤンス」
立ち上がろうとするロカを手で制しながら、ドンドチャッカは一人で立ち上がりました。
……今の、ちょっとかっこ良かったわね。
『ペッシェ殿とドンドチャッカ殿……どこで差が付いたのか……慢心、環境、粘液の違い……』
粘液!? ……そうだね、粘液だね。
「でも、ドンドチャッカの言葉じゃないけれど。ロカちゃんはもっとちゃんと休んだ方が良いわよ? かなり霊圧を消費していたから心配なのよ」
申し訳なさそうにしている彼女に、私はそっと声を掛けます。
「あのときも回道を使って問題は無いと思うけれど、診察させてもらえないかしら? ああ、勿論お食事会が終わってから。ロカちゃんが了承してくれればだけど」
「え……診察、ですか? ですが私、身体の再構築はもう既に完了していますが……?」
診察させて欲しい。
私の心からの純粋な申し出に、ロカちゃんは目をぱちくりさせながらかわいらしく疑問符を浮かべて首をひねりました。
「……ロカちゃん、診てもらったら?」
そんな私の申し出を、ネリエルが後押ししてくれました。
「私も湯川さんには治療をしてもらったし、腕は超一流よ」
――まあ、ちょっと恥ずかしいかもしれないけど。
と小声で口の中で呟きつつも、ネリエルも太鼓判を押してくれます。
ああ、なんて心強い応援!
『勝ったでござるな! 風呂入りながら田んぼの様子を見てくるでござるよ!!』
「ネリエル様……わかりました」
ロカちゃんは決意したように言いました。
「湯川さん、診察をお願いします」