時刻は既に夜を過ぎて真夜中――俗に言う
人通りも車の通りも見られなくなった町の中を、黒崎一護と銀城空吾の二人は共に走っていた。先頭を行くのは銀城であり一護はその後に続いている。
駆け続ける二人の顔に浮かぶのは恐怖と、そして焦燥感だった。
一護の
区切りもよいということで自宅へと戻った一護を待っていたのは、彼の妹たち。
そして月島秀九郎だった。
自身の能力にて「自分を親しい友人」と思い込ませることで、一護の周囲の人間たちからの信頼を一気に集める月島。その姿があまりにも不気味で恐ろしく、一護はその場から逃げ出してしまった。
誰かまともな人間を、月島に洗脳されていない人間を探し求めるように夜の通りを走り続ける一護の元に、銀城が追いついてきた。
そして彼は告げる。自分たちの仲間も、月島にやられた――と。
もはやまともな人間は自分たち二人だけ。
そう判断した銀城は、万が一に備えて用意しておいた秘密のアジトへ一護と共に向かっている最中のことだ。
「いようっ、一護!! お前なにをこんな時間に外に出てんだよ!」
「あ……!?」
突然、場違いなほど陽気な声が上の方から聞こえた。
その声に反応した一護は何事かと顔を上げ、そして目を見開き足を止める。
「夜遊びかぁ? まさか綺麗なオネーチャンをナンパしようってんじゃねえだろうな!? はっ! よく見りゃ隣になんかこう、カッコいい男までいやがる! まさかこの男と一緒になって大人の遊びを……ズルいぞ一護! オレ様も混ぜろ!!」
「コ、コン!? それに……えっと……!?!?」
「どうした一護……うおおおっっ!?」
そこにいたのは、黒崎家の居候ことヌイグルミのコンである。
コンは見覚えのない――少なくとも一護は見たことがない――女性死神の肩の上に乗ったまま、ふんぞり返っている。
一護の様子が変だと気づいた銀城は、後ろを振り返った途端に驚きの声を上げた。
「死神、か……!?」
「えっと……だ、誰だあんたは! コンの知り合いか!?」
「ん? ……ああ、そうか。一応は"はじめまして"だったな」
二人掛かりで誰何の声を上げられて一瞬怪訝な顔を見せるものの、すぐにその理由を理解したらしく、死神は上空から降りて一護たちと同じように地面へと着地する。
「私の名前は九条望実だ。コンから聞いているだろう?」
「く、九条って……あああぁっ! そうだ、コンのヤツが言ってた!! はじめまして!!」
「厳密には"はじめまして"ではない。お前が霊力を失っている頃に顔を合わせたこともあるんだぞ?」
「そうなのか!?」
「けどまあ、こうしてお互いに認識した状態なのは初めてだからな。だから"はじめまして"だ」
そう言われて一護もようやく理解する。
一護が藍染との戦いに勝利し、その代償として霊力を失ってから少し経った頃のことだ。
いつの間にか姿を見せなくなっていたと思っていたヌイグルミのコンが、気がつけば帰ってきていた。しかもいつの間にやら「彼女とデート」などと言い始める始末である。
相手は死神で名前も聞いていた(正確にはコンから聞かされていた)のだが、一護が顔を合わせることはなかった。
重ねて言うが、それらは全て一護が霊力を失ってた頃のことだ。コンに死神だ彼女だと言われても、一護には全く見ることができなかった。
だが
「どーよ一護!! うらやましいか!?」
「あ? いや、そのなんつーか……」
「なあ、お二人さんよ」
なおも会話を続けようとしたところへ、銀城が苛立ち混じりに口を挟む。
「悪いんだが、その話は長くなりそうか? 出来れば後にして欲しいんだけどよ」
「あ……すまねぇ銀城。けどコイツは味方――……っ!」
そう言いかけて一護は言葉を躊躇った。
コンのペースに飲まれて一瞬忘れかけていたが、二人は月島の手から逃れようとしている最中だったのだ。
そこへ都合良く現れた"一護の知り合い"という二人。
ならばこの二人もまた、月島の手に掛かっている可能性は十分にある。味方とは言い切れない。
「なあ、死神のアンタ」
「私か?」
「アンタも、月島にやられたのか……?」
そんな一護の葛藤を感じ取ったのだろう。言葉を失った一護のあとを引き継ぐように、銀城が尋ねる。
すると九条はあっけにとられた表情を見せた。
「月島? なんだそれは……? コンは知っているか?」
「お、おーおー知ってるぜ! もんじゃ焼きだろもんじゃ焼き!! あと有楽町線!! ……ん? なんだオメーらその反応は!? まさか、違う……のか……?」
「……どうやら、無事みたいだな」
「あ、はははははっ……ホッとしたぜ」
明らかに演技とは思えない様子の九条と、得意げに間違ったことを言うコン。
二人の様子に一護と銀城は互いに顔を見合わせて、安堵する。
少なくともこの二人は味方なのだ、と。
「すまねえが、今はかなりピンチでよ。一護の知り合いってんなら、手伝っちゃくれねえか? 理由は道すがら話すからよ」
「む、それは構わないが……いいかコン?」
「一護のピンチなんだろ? オレ様はかまわねえぜ!」
「助かる……」
「恩に着るぜ、コン。それと九条も」
そう告げながら銀城は真っ先に歩き出し、一護が後に続く。
そこまではさっきまでと同じだ。
だが今は少しだけ違う、たった二人でも仲間がいる。自分たちのことを心配してくれる、自分たちが正気だと保証してくれる味方がいる。
それだけで、二人の足取りはとても軽くなっていた。
「ふーん……ンなことになってるたぁな……」
「ああ。まさか、私たちが現世を離れていた一日足らずの間に……」
コンと九条は、異口同音のように似た感想を口にする。
あの後二人は道すがら、銀城たちによって現在の状況についての説明を受けていた。そして現在、万一のための秘密のアジトへと身を隠したところだ。
走り続けたことで全員多少の疲労感はあるものの、だが気持ち的にはそれほど落ち込んではいない。
空座町に駐在している死神と連絡が取れたということは、遠からず
とはいえ、死神たちにおんぶに抱っこされるつもりは一護にはない。
銀城たちと接触したのは自分なのだから、この騒乱も自分の手でなんとか解決したいと思っていた。
だがそれはそれとして、後から味方が来るのだという事実が彼の心に余裕を持たせているのもまた事実だ。
「ところでよ、お前らはなんで無事なんだ? そっちの九条が現世を離れているって言ってたけど、何かあったのか?」
「おっ! そうそう、そのことなんだけどよ! 一護! お――」
「コン、しっ!」
「むぐっ!?」
得意満面になりながらコンが何かを言おうとした途端、九条が素早く動くとコンを抱きしめながら口を強引に手で塞いだ。
「な、なんだオイ? なんか言っちゃいけないことでもあんのか?」
「いや、なんでもない。少し死神の用事で
「むごー! むごー!!」
「お、おう……コンは何を言ってるか全然わかんなかったけどよ……」
そう言われてはもうこれ以上は教えてくれないだろうと判断し、一護は追求を止めて銀城へと声をかけ始めた。
二人の興味が自分たちから離れたのを確認すると、九条は小声でコンへ語りかける。
「……! ……!!(それは秘密にして、後で感動の再会を演出する約束だっただろう! もう忘れたのか!? ……それに、今の状況だと万が一ということもある。下手に知らせず、情報はギリギリまで制限した方が良いだろう)」
「むぐむぐ! むーぐむぐむぐ! むごっふ!!(わかったぜ! へへっ、それにしても一護のヤツが死神の力を取り戻せるって知ったら驚くだろうぜ! ルキアの姐さんや
「だな……あ、すまない」
「……ぷはっ! ……まったく、一護のヤローは世話が掛かるぜ」
九条とコンが現世を離れなければならなかった理由。
それは一護に死神の力を取り戻させるために、刀へ霊圧を注ぐために
――現世の、それも空座町にいるのだから、
実際、浦原本人や一心。それに現世に残った
だがそれらは全員「護廷十三隊から離れた死神たち」であり、十三番隊の隊士として正式に活動している九条とは立場が異なる。
そのため、彼女はわざわざ遠回りをするかのように
だがその遠回りのおかげで、良い形で一護たちと合流することが出来たようだ。
もしも空座町に残り続けていたら、二人もまた月島の手に落ちていた可能性は高い。
最短が常に最善とは限らない、ということなのだろう。
だが、最善が最良の結果になるとも、限らないのだ。
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「チャド……井上……」
誰も知らないはずのアジトに案内役の雪緒がやって来た。
そして彼は告げた――帰ろう。だれも君たちのことを怒ってなんかいない。すぐにまともに戻してあげるよ――と。
その言葉を受け、そして逃げられないと悟った
だが月島たちの側に織姫と茶渡が味方として現れた。
織姫は傷つけた月島の腕を治し、そして茶渡はその身を挺して庇うように月島と一護との間へと立つ。
「やっぱりお前らも……同じなのかよ……?」
問いかける一護だが、二人の口から出てきたのは月島を庇うような言葉だった。
ルキアを助けることが出来たのも、藍染を倒すことができたのも、全部月島が居たからじゃないか――と。
「そうかよ、なら……コン!!」
「やっと出番かよっ!!」
一護の叫び声と共に、窓ガラスを突き破りながら九条が飛び込んできた。
彼女はコンを懐へと納めたまま乱暴に入室すると、室内にいた者たち目掛けて斬魄刀を振り回す。
とはいえ乱暴な登場をしながらの攻撃だ。部屋にいた者たちは、多少なりとも戦いの心得があることもあって、その殆どが奇妙な形の刃を躱していた。
だが、躱されることも想定内だったのだろう。着地すると同時に周囲全てへと気を配り、全員の動きを一瞬たりとも見逃すまいと神経を張り巡らせる。
「……
「オメーが月島か! どうやらオレたちが居ない間に、好き勝手暴れてくれたみてぇじゃねえか!! ああぁん!?」
「これは……!」
部屋の中心へと躍り出た九条は、斬魄刀を始解させる。
そしてコンは、懐から顔を片手を出すと月島目掛けて指を突きつけながら啖呵を切ってみせる。
予期せぬ乱入者に月島はおろか織姫たちも含めた全員が度肝を抜かれる中、一護はにやりと笑って見せた。
「へへっ……こっちにだって、奥の手の一つや二つはあるんだぜ……」
「なるほど。どこに行っていたのかと思ったが、この町の死神がようやく登場か」
「ああ、そうだ、本来なら死神の相手は
冷徹な瞳を向ける九条だが、その視線を前にしても月島は余裕の態度を崩さなかった。
「だけどそれがどうかしたのかい? たった一人、死神が援軍に来たところで僕たちをなんとか出来るとでも?」
「さて、な……今のところは未知数だが、分の悪い賭けでは無いと私は思っている」
「井上さーーん!! 今すぐに助けてあげますからねーーっ!!」
コンの言葉に、一瞬だけすさまじい怒気が放たれた気がした。
まるでその怒気に当てられたかのように、織姫は小さく呻き声を上げながら苦しそうに体を折り膝をつく。
「井上!?」
「月島さんがいたから……ううん、違う……月島さんなんて、知らない……知ってる……今までそんな人、いた……いなかった……」
「どうしたんだ井上!? しっかりしろ!!」
苦しそうな織姫に向けて茶渡が声を掛ける。
それを見て、一護たちは少しだけ口の端を釣り上げた。
「どうやら、賭けには勝てたみたいだな」
「ああ、らしいな……」
「えらいぞ
予想通りと頷き合う三人の姿に、月島の顔から少しだけ余裕が消える。
「……何を、したんだい?」
「ハッ! テメーにゃ教えねえよ!!」
一護が犬歯を剥き出しにして叫ぶ。
九条の持つ斬魄刀『
ならば
アジトにて一護たちが会議中に、ふとそんな案が浮かび上がった。
所詮は仮説でしかなく、立証する手立ても時間も無い。
だが現状で、最も逆転を打てる可能性は高いだろう。
そう判断した一護たちは、九条の存在を隠し切り札として運用することを決めた。
予期せぬタイミングで奇襲を掛けて、混乱しているところに始解状態の
残念なことがあるとすれば、織姫以外の者には刃が躱されてしまったことだが、一人とはいえ触れることに成功して、仮説の立証まで出来た。
記憶に迷いが生じているということは、能力に干渉できたということ。
完全に解除出来なかったのは、吸収する時間が短かったのか。それとも何か別の要因が関係しているのか、そこまでは分からない。
だが、過去を挟み込まれた相手を救う手立てが見つかったのは事実だ。
「一護! あと銀城も! こっちは任せろ! そっちは任せたぜ!!」
「おおっ!!」
「任せとけっ!!」
コンの言葉に二人が動いた。
ならばもう迷う必要などない、後は月島を倒すだけ。
自らにそう言い聞かせながら、一護と銀城は剣を振るう。
――だが。
「銀城……なんで……?」
戦いの最中、月島の刃を受けた銀城は一護の味方のように振る舞い、やがて彼のことを斬った。そして
「黒崎!」
「一護っ!! くそっ! 井上さん! 正気に戻ってくれよ!!」
援護にやってきた雨竜と、九条とコンが見守る中、一護は完全に無力化されていた。
ようやく取り戻したハズの力を全て奪われる恐怖に、死んだような目を浮かべる。
「正直、驚いていたぜ。失敗するかと思っていたくらいだ」
銀城は額に幾つもの汗の粒を浮かべながら口を開いた。
「お前に正体を悟られないように、俺の過去に敵としての月島を挟み込んだってのによ……傷口の形状の違いから推理されたときにゃ、負けを覚悟したくらいだ」
織姫が雨竜から教えられた情報を元に、銀城のことを疑ったときだ。
だがそのときの銀城は過去を挟み込まれていたおかげで自分を一護の完全な味方だと疑っておらず、加えて一護自らが「関係ない」と言い切ったことで有耶無耶になっていた。
「そこの死神の能力は、本当に肝を冷やしたぜ。完全に無力化されるかと思ってたが……結果はご覧の通りか」
そして一瞬だけ、織姫と茶渡の方へと視線を移す。
そこにいたのは、
「やめろ二人とも!! 目を覚ませ!!」
「ううぅ……月島さんは……違う、でも、月島さんは……」
「恩人は……月島さん……違う、違わない……」
「ま、過去に挟み込んだ能力を吸収して完全に無力化するなんざ、できっこねえよな」
吸収してもなお影響を与え続けるほどにブック・オブ・ジ・エンドの能力が強力なのか。はたまた九条が未熟なのが原因なのか。
そこまでは銀城にはわからない。だが、無力化できないと分かっただけで十分だ。
「じゃあな、黒崎」
「銀城!!」
もはや全ては用済みだと、背を向ける銀城。
その背に向けて全力で叫ぶ一護。
一護の身体に、死神たちの霊圧が込められた刀が突き刺さり――
続いて空中に巨大な
(この辺は原作通りなので、駆け足気味で)
●軽い時系列の説明
一護が完現術を覚えた(霊が見えるようになった)頃は
尸魂界に刀が持ち込まれて、霊圧を込めている頃です。
→ 九条は霊圧を込めに尸魂界へ行って、夜になって戻ってきた
(その頃の現世は月島が色々と挟んで目立っている頃だった)
→ 一護たち(月島に襲われて孤立しかけている頃)と合流する
→ 一護に「死神の力が戻るぞ」と言おうとしたけどサプライズで黙っておくことに
(けどお互いに見えるようになったので「初めまして」のご挨拶)
→ 一緒に行動して、完現術者たちの戦いに巻き込まれた
→ 助けられなかったけど、援軍が来ることも知ってるのでセーフ!
という感じです。
(原作でもイモ山さんが、人知れず巻き込まれてたりしていたのかしら……?)
●この辺りの妄想
この辺の話、原作でもコンがいたら
・孤立しかけた一護を元気づけたりとか
・月島に斬られても「効かないねえっ! ヌイグルミだから(にい)」
(ヌイグルミの中の義魂丸に過去を挟まないと、効果が無い的な意味で)
そんな展開があったのかしら? みたいな感じです。
そして「九条の斬魄刀で吸収することで、差し込んだ能力を解除できないか?」という感じの作戦で、対抗しようとしました。便利だなこの子。
(ちゃんと雪緒に案内される部分は「二人」と書いていますし、九条が飛び込んできたところは「奇妙な形の刃(始解状態の十字型の刀身)」と書いています)
(ですが「霊王様のカケラ由来の能力だから、強すぎて完全解除は無理だろう」という感じにしています)
そしてこれだけ色々あったのに、結局力を吸い取られる・・・
(ごめんよ。まだ時灘さん家が残ってるんだ)