お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第33話 遭遇、偉い人

 全然卍解まで到達出来ません。時間ばっかり過ぎていきます。

 まあ、始解に百五十年も掛かった私です。焦っても仕方ないですね。

 

 卯ノ花隊長に月に一度、入念なお稽古(殺され掛ける)をしたり。射干玉と訓練したり、女性隊士にマッサージ(セクハラ)したり。

 

 歳月は流れ、なんと現在は第十四席まで出世しました!

 

 ……まだ席次ですら半分にも満たない……

 一世紀に一席ずつ出世してる感じよねコレ……普通だったら心折れるわよ……

 

 

 

 

 

 相変わらず尸魂界(ソウルソサエティ)は色々あって、四番隊も色々ありました。

 急患が担ぎ込まれたり、大規模戦闘を始めた他隊の援護に行ったり、大きな内乱があってその援護に借り出されたり――

 浮竹隊長が倒れて京楽隊長がお見舞いと称してサボりに来たり――気がついたらあっと言う間に隊長になってましたあの人たち――

 新人隊士が入ってきて指導をしたり、こんなの違うって腐って他隊への異動願いを出したり、重傷者の命を助けられずに自分を責め続ける平隊士を慰めたり――

 

 ……全部経験済みだったわ。無駄に何百年も死神やってないわね私……

 

「湯川先輩! 急患です!」

「急患!? どこから?」

 

 部下の言葉に我に返りました。

 

「六番隊です! そこの副隊長が倒れたって話で……」

「六番隊の副隊長って――」

 

 護廷十三隊の各部隊の中でも、六番隊は貴族との関わりが深い部隊でもあります。

 そしてそこの隊長は代々、とある五大貴族の家の者が務めるという慣習ができています。

 

「はい。なんでも朽木家の人だそうですよ」

「……だから私に話が回ってきたのね」

 

 前述の通り、出世はしてなくても死神歴だけは無駄に長いです。

 そういうVIPな患者が来た時の対応をしたことも、一度や二度ではありません。ある意味では"経験豊富だからコイツに任せて(おしつけて)しまおう"という事でもあります。

 

 ……え? 朽木家に売り込んで出世?

 無理無理、それは不可能です。

 朽木家は五大貴族の中でも特に規律を重んじることでも有名ですから。

 どこかの医者のドロドロした裏側も見せるドラマみたいな事を下手にすれば、逆にこっちの首が飛びかねません。

 

 ……だから私にお鉢が回ってきてるんですよ。

 

「まあ、わかったわ。何人かに声を掛けて、最上級の個室の用意をしておいて頂戴。私は診察室の準備と受け入れの細かい体制を整えておくから」

「わかりました!」

 

 一応、五大貴族ですからね。

 間違っても一般病棟に入れるのはちょっと……

 喩え本人が"一切気にしない"と口にしても、周りの貴族や朽木家の関係者が何を言ってくることやら……なので、VIP用の部屋を用意しておかないといけません。

 

「それが済んだら、一応全員に口頭で注意もしておいて。特級病室に朽木家の者が来ていることと、変に特別扱いはしないことだけを言っておいてくれればいいから……積極的に関わりたいなら、話は別だけど……それとも君、行ってみる?」

「い、いやぁそれは……僕にはちょっと荷が重いですかね……」

 

 一般隊士はこんな感じの反応です。

 ……しばらくの間は気苦労が増えそうですね。

 

 

 

 

 

 あの後、やってきた患者を受け入れ、診療室で救護を行いました。

 とはいえ治療自体はそれほど難しいものでもなく、寧ろ患者本人が身体が弱かったので、それに気をつけることの方が大変でしたね。

 速すぎても遅すぎても駄目という、とても面倒な治療でした。

 

 患者さんは病室へと移送も終えており、今現在はふかふかのお布団の上に寝ています。

 

「こ、ここは……?」

 

 あら、丁度目が覚めたみたいですね。

 

「ここは四番隊の綜合救護詰所です。何でも任務中に大怪我をしたとか……」

「そう、なんですか……? どうにも記憶が……」

「いえいえ、今はゆっくり休んでください。施術も完璧に終わりましたので、もう大丈夫ですよ」

「ありがとう……ございます……」

 

 無理矢理に身体を起こそうとしたので、慌てて止めます。

 

「ああ! まだ寝ていてください。薬の影響も切れていないんですから、今は身体を休めることが仕事ですよ」

「ははは……ありがとうございます……」

「一応、外ではお見舞い客も大勢いるようなので、目が覚めたことだけは伝えておきます。少し五月蠅くなるかもしれませんが、ご勘弁願います」

 

 そう言うと無言で頷いてきました。

 

「では、一旦失礼します。朽木(くちき) 蒼純(そうじゅん)副隊長」

 

 私は病室を後にしました。

 

 

 

 

 

 病室を出た途端、やってきていた見舞客に囲まれました。

 なので彼らには"処置は完璧に終えたこと"、"意識も取り戻して、今は安静にしていること"、"見舞いに行っても良いが、静かにしていること"、"患者に無理に喋らせるようなことはしないこと"を伝えておきました。

 六番隊の第三席の方や朽木家の従者の方がいらしたので、彼らに前述の注意を守るように伝え、短時間だけならば見舞いをしても良いと念押しして伝えておきました。

 

 それから時は流れておよそ二時間ほど。

 いい加減もう見舞客たちも終わっただろう頃を見計らって、私は再度病室を訪れます。

 

「朽木蒼純副隊長、入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わん」

 

 扉に向かって声を掛ければ、そう声が返ってきます。

 静かに扉を開け、礼をしながら入室したところで気付きました。

 

「失礼しま……あ! 朽木隊長!」

 

 そこにいたのは現六番隊隊長 朽木(くちき) 銀嶺(ぎんれい) でした。朽木家の当主も務めている、とってもとっても偉い人です。

 蒼純副隊長の父親でもあります。

 

 まあ、二人とも私より年下なんですけどね……あはは……涙が出そう……

 

「申し遅れました。朽木副隊長の主治医を担当しています、湯川 藍俚(あいり)と申します」

「なるほど、そなたが息子を救ってくれたのか。直接礼を伝えたく、待っていたのだ」

「そ、それは……お待たせしてしまい、もうしわけございません」

「いや、こちらが勝手にしたことだ。気に病むことはない。そして、蒼純の命を救っていただき、感謝する」

 

 そういうと、堂に入った礼をしてきました。

 

 うーん、流石は朽木家の当主ですね。

 銀嶺隊長は初老の男性といった容姿をしており、放っている貫禄もさすがの一言。威風堂々と言いますか、年季が入っています。

 蒼純副隊長はまだお若いですね。

 二枚目ですが線が細い感じです。銀嶺隊長と比べるとどこか頼りなく感じてしまいます。

 

 でも二人とも私より年下! 死神として働いている年月も私の方がずっと上!! だって瀞霊廷通信で二人が入隊したのそれぞれ見たもん!

 ……泣いていい?

 

「では蒼純、私はこれで戻る。ゆっくり養生するがよい」

「はい、銀嶺隊長」

 

 これで用事は全ては終わったとばかりに、銀嶺隊長は部屋を後にします。残ったのは蒼純副隊長と、彼の付き人と思わしき一人の男性だけ。

 

「あれが朽木隊長……」

「ははは、驚かれましたか?」

「はい……あっ、いえ! 直接お会いしたのは初めてだったのと、礼を言われたのに驚いてしまって! それよりも、具合の方はどうですか?」

 

 うっかり頷いてしまいました。

 

「まだ傷口は痛みますが、大分良い感じですよ。むしろ、見舞客や見舞いの品の対応の方が疲れました」

 

 その言葉を示すように、部屋の中には花や贈答品がこれでもかと置かれています。隅にひとまとめにしていますがかなりの量ですね。あの短時間でこれだけの量を持って来る程度の人たちと応対していたということは――

 

「はぁ……静かにするようにお願いはしていたのですが……」

 

 朽木家の覚えをめでたくしたい貴族連中には、そんな言葉はどこ吹く風ということですかね。権力に尻尾を振る方が優先ということでしょうか。

 

「申し訳ございません。できる限りご遠慮願ったのですが、こちらも付き合いがありまして……」

「いえいえ、そういうわけでは……」

 

 思わず出てしまった呟きを聞かれ、付き人の方に頭を下げられました。

 

「そ、それよりも! もう面会時間も終了していますので。朽木隊長も仰っていましたが、ゆっくりお休みくださいね」

「そうさせて貰います。中々気が休まる時間もないもので……」

 

 そう口にした蒼純副隊長は、どこか愁いを含んだ表情を見せていました。

 

 

 

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「なかなかどうして、気苦労が絶えなくて……」

「心中、お察しします」

 

 蒼純副隊長が担ぎ込まれてから二日後。

 見舞客も一段落したおかげか、ようやく静かな日々が送れるようになりました。生来の身体の弱さに加えて、朽木家はちょっと前に色々ありましたからね。

 あの騒動もあってか、蒼純副隊長は周囲から期待を掛けられているようです。

 その期待がプレッシャーとして重くのし掛かっており、それが原因で随分と調子を崩していました。

 

「怪我をしたり身体が弱っていると、それに引っ張られて心も弱るものですよ。そんなときは弱音を吐き出せる場所や相手が、黙って聞いてくれる存在が必要になるんです」

 

 なのでこうして、治療と平行してストレスを吐き出せる場も設けています。

 

「私でよければ、幾らでも話し相手に付き合いますよ。なにしろ私は、四番隊という他の部隊で、しかも流魂街出身の下級席官ですから。影響力なんてありませんよ」

 

 彼のこの話を聞けるのは、私と付き人の方だけです。そして守秘義務の大事さくらいは私だって知っています。

 前述の影響力が無い存在という自虐に加えて、聞いた話は墓の下まで持って行くので安心してくださいと伝えたことでようやく蒼純副隊長は愚痴を吐き出してくれました。

 

 今ではすっかりと信頼して貰えてます。

 

「ははは、毎日ありがとうございます。おかげで心も随分と楽になったような気がしますよ」

「それは良かった」

「姉もずっと塞ぎ込んでいましたが、最近になってようやく元気を取り戻してきましたからね。朽木の家の次期当主として頑張らないと」

「いえいえ、あまり頑張りすぎても空回りするだけですよ。ピンと張り詰めた糸は切れやすいものですから。心にゆとりを持つことも大事です」

 

 ……あれ!? 話をしていて今さら気付いたのですが、ひょっとしてこの人って……

 

 朽木白哉の――

 

 

 

 

 

 ――祖父なのでは!?

 

 

 

 

 

『(惜しい!!)』

 

 

 

 

 

 あら? 今何か聞こえたような……

 

「……さん? 湯川さん?」

「は、はい!」

「どうしたんですか? なんだかボーッとしていたので……」

「いえ、そろそろ昼食の時間だったのを思い出しただけですよ」

「もうそんな時間ですか。ここの食事は美味しいので、毎回楽しみなんですよ」

「そんな! 朽木家の食事と比べられるような物では――」

「素朴で、でもどこか温かくて懐かしく感じるような味です」

「そうですか? でしたら、後で調理係にも伝えておきます。きっと喜びますよ」

 

 そんな感じで、何でもない雑談混じりのやりとりをしながら数日後。

 蒼純副隊長はすっかり復調して退院していきました。

 

 私は朽木家とは関係ない、全然別の立場のおかげか、凄く仲良くして貰えました。

 将来の展望とかまで聞いちゃいました。

 凄く優しい方でした。

 




●銀嶺と蒼純
見た目は爺さんのクセに、京楽や浮竹よりもヒヨッコの銀嶺。
原作時点でもう完全に故人で台詞すらない蒼純。

なら勝手にやっちゃえ。
後のフラグのために。

(なお藍俚は関係性を微妙に間違えている)

●朽木家のあの騒動
だって、小説版でも書いてあったし。

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