「ぐ、が……あああぁっっ!! 痛い、痛いいいいっぃっ!!」
「我慢して! 下手に動かないで! 無理に動くと本当に死ぬわよ!?」
沓澤さんという
まあ、麻酔も無しでこの大怪我だったからねぇ……
……というかこの人、良く生きていたわね。
阿散井君が相手で、卍解して戦ったって言ってたけど……
『それはつまり、阿散井殿に卍解させる程度には強かった、というわけでもありますからな』
実際に戦ってないからなんとも言えないんだけど、多分そうなのよね。
隊長並に強い阿散井君に、卍解を使わせた……沓澤さんが強いのか、それとも阿散井君がまだまだ未熟なのか……
……まあ私も卍解してるから、おあいこなんだけどね!
いやぁ、二人を相手にして戦うのは大変だったわぁ……全身マッサージして徹底的にスキンケアしてあげるの、とっても大変だったわぁ!!
二人の
『HAHAHAHAHA!
あっ、いっけなーい! 彼を無手で倒したことで、やろうと思えば三人とも始解すらせずに倒せたってことがバレちゃった!
『てへぺろ! でござるよ!!』
「ほら、ジッとしていなさい! 治療したとはいえギリギリの状態で止めてあるんだから! 無理に動くと傷口が開いて今度こそ死ぬわよ!?」
「な、なぜ私を!? 敵である私を、治療するのですか!?」
「あなたは大けがを負っていた! あなたを倒した阿散井君が、治療をお願いしてきた! それだけで治療する理由なんて十分すぎるの!」
そう告げながら、沓澤さんの傷を再び治療します。
ああ、もう……さっき塞いだのに、またここから出血してる……
「他に理由が必要なら、いくらでも言ってあげるわよ? 死神は人間を守るのが使命だとか、私は四番隊だから治療するのが仕事だからとか、百歳にもなっていない年下なんだから言うことを聞きなさいとか、敗者をどう扱おうと勝者の自由だ、とか色々ね」
「ぐ、ぐぅ……」
「わかったら、大人しくしていなさいな。死にたくは無いでしょう?」
ここまで説明したことで、やれやれ……やっと大人しくなってくれたわ。
こういう場合に備えて、命に別状は無いけれど動けなくなる程度の回復に留めておいたのは正解だったわね……
『サラッとそんな恐ろしいことをしていたでござるか……』
まだこの人の人柄とかよく分かっていなかったから、転ばぬ先の杖ってやつよ。
雪緒君っていう子供も縛道で縛り上げられていて動けなくなっているし、獅子河原君は気絶したままだし、リルカさんたちは私が口止めしているから、これでようやく――
「……ッ! この霊圧は!?」
まだまだ落ち着けないみたいね。
妙な霊圧を感じて浮竹隊長らが閉じ込められている空間へと目をやれば、その黒い空間は内側から一気に膨張してあっという間に弾け飛びました。
しかも一連の現象は、コンマ一秒にも満たないほどの一瞬の出来事です。
私と一緒に黒い空間を眺めていた皆さんは、大小の差こそあれど全員あっけにとられています。
「ウ、ウソだろ……! あれが、あんな簡単に……紙くずみたいにあっけなく壊されるなんて……!!」
特に
なまじ能力を知っているからか、開いた口が塞がらないようです。
能力者である雪緒君なんて、この世の終わりみたいな表情をしています。
「湯川ああああぁぁぁっ!!」
「海燕さん!?」
そして空間が吹き飛んだかと思えば、そこから海燕さんが猛烈な勢いで私に向けて駆け寄ってきました。
しかも浮竹隊長を横抱きに抱えています。
『お姫様抱っこ! 海燕殿が浮竹殿をお姫様抱っこでござるよ!! なんて
「頼む! 隊長を……隊長を……!!」
「何が……えっ! 浮竹隊長!? う……!!」
海燕さんの抱えている浮竹隊長は、一瞥しただけでも大怪我を負っている事が見て取れる程でした。
死覇装と隊首羽織のどちらもが出血で真っ赤に染まっていて、顔色は血の気が無く蒼白。それでいて表情は苦痛に歪んでいます。
……何があったの!? あの空間の中で何があったの!?
一体何がどうなったら、こんなことになるの!? 説得は!? 失敗したの!?
聞きたい、すっごくすっごく聞きたい……何があったのかを聞きたい……聞きたいんだけど……それは全部後回し!!
これはちょっと、おふざけは出来なそうにないわね……!!
「とにかく浮竹隊長を寝かせて! 寝かせたら服を脱がせて! 死覇装も隊首羽織も全部破っていいから、傷口を直接見せてください! あと
「お、おう……!」
「はっ、はい!!」
十三番隊の二人は、私の矢継ぎ早の指示に従って動き出しましたが……遅い!!
「何やってるの! 浮竹隊長を殺す気!?」
「す、すまねえ!」
「口じゃなくて手を動かす!! ……白哉! 何をボサッとしてんの!! あんたも
「わ、分かった!!」
「阿散井君と九条さんは周囲の警戒! 邪魔者がいたら問答無用で腕を切り落としなさい! 私が後で治すから!!」
「は、はい!!」
「分かりました!!」
指示を出しながら私も浮竹隊長の着物を破り、傷口の様子を確認します。
……う、これは予想以上に傷が深いわね。なのに野外で、道具も無しにやれと……!? 感染症は消毒用の術を唱えれば何とかなるけど、それ以外は……
いえ、やってやる! 絶対にやってやるわよ!!
『
今は射干玉も黙ってて!!
「手が空いたら声を掛けて! とにかく浮竹隊長の意識を繋ぎ止めさせなさい!! 気絶させたらその瞬間に全てが終わると思って!!」
傷の状態を確認し終えたら、回道を唱えます。
自発呼吸は、かろうじてアリ……脈は、かなり弱っている……
まずは重要器官から先に――
「す、すっげーのな湯川さんって……こんな姿初めてみたぜ……
「はぁ……黒崎。医者というのは他人の命を握っているんだ。いざとなったら、誰だってあんなものだぞ?」
「じゃあウチのオヤジもか!?」
「診療している姿を見たことは無いが、おそらくはな」
なんだか一護と石田君が話をしているけど、全然話が頭に入ってこないわね……
今はとにかく、治療に集中しないと……包帯、は無いけどサラシがあるわね……これで傷口を縛って――
「……ぅっ! ぐ……っ……!」
「浮竹隊長、聞こえますか!? もう少しだけ辛抱してください!!」
ゴホゴホと、血の塊を吐き出しながら咳き込みました。
それと同時に呼吸が少しだけ大きくなったのが感じられます。
「……そうだ井上! 井上にも協力を頼めば!!」
「馬鹿言わないで!!」
背後から聞こえてきた声に、私は怒鳴ります。
私の怒声に驚いたのか、全員の動きが一瞬止まりました。
「……大きな声を出してごめんなさい。今ちょっと余裕が無いのよ……それと、織姫さんだけど……」
静寂の中、私は口と手を動かし続けます。
頼れるなら私だって頼りたいんだけどね……でも彼女は今、ちょっと……なんとか相手を心配させない程度の言い回しを……
「……彼女は、先に休ませたわ……」
「そ、そっか……すまねえ、湯川さん……」
はぁ……
この反応から察するに、一護には気づかれたわね。織姫さんたちが月島君の能力に苦しめられているってことを。
「……う、うぅ……ここは……? 湯川、か……?」
「隊長!!」
「ええ、そうです。でもまだ動かないでください」
「そう、か……」
その後も治療を続け、浮竹隊長は意識を取り戻しました。
未だ顔は白く血の気が感じられませんが、意識や受け答えはハッキリしていますね。
海燕さんが瞳に涙を溜めながら安堵した表情を浮かべています。
そんな中、舌打ちの音が聞こえてきました。
「……チッ! そういうことかよ」
あら……?
今まで治療に集中してて気づくのが遅れたけれど、これって……銀城よね? なんだかすっかり姿が変わっているけれど……
高校デビューってヤツかしら?
『さすがに銀城殿のお歳で高校デビューというのは無理がありすぎでござるよ!! あれこそは一護殿の
なるほど、凄くよく分かったわ。
つまりアレが浮竹隊長を斬った……え? じゃあなんで追撃してこなかったの? 阿散井君たちに護衛をお願いしたけれど、特に戦闘は起こらなかったわよね?
……なんで?
「外にこれだけの回復能力を持ったヤツがいりゃ、命の一つや二つ簡単に賭けられる。どうやら、浮竹にまんまと一杯食わされたってことか……!!」
……どういうこと?
命を賭けるとか言うなんて……まさか浮竹隊長が自分で斬られに行ったとか、そういうこと!?
「いや、そう……でもない、かな……」
「浮竹隊長!? まだ喋らないで――」
注意しようとしましたが、浮竹隊長は力強い眼差しで私の目を見てきました。
それだけで、彼が何を言いたいのかが、なんとなく分かります。
「……という訳には、いかないみたいですね……分かりました。会話だけは許可します」
「はは、ありがとう……湯川……」
「それと、これが全部終わったら四番隊の集中治療室に入院です。数日は面会謝絶と思っていてくださいね」
「…………」
声を出す体力も惜しいのか、苦笑いで返事をしました。
「銀城……お前に、海燕を、斬らせたく、なかった……海燕、お前にも、銀城を斬らせ、たくなか……った……そう思ったら、なんでだろうな……身体が、勝手に、動いていたんだよ……俺が、銀城に斬られる、の、なら……いいか、と……」
「浮竹! 何を言ってやがるんだ……!!」
「隊長……!!」
ふむ、やはり自分から斬られに行ったんですか。
でもなんで?
「いや、それよりもだ! 今度こそ聞かせろ!! あの死神は、お前の命令で送り込んだんじゃないんだな!?」
「ああ……そうだ……俺は、そんなこと、していない……」
「副隊長として、俺も断言してやる。隊長は、そんな真似をするような死神じゃねえ!」
「なら、あの死神は何だったんだ……?」
死神を、送り込んだ……? 刺客、みたいな感じかしらね? それを浮竹隊長が派遣したと思っていた……?
「それは、わかんねえよ……繰り返しになるが、俺たちが知らされたのは『銀城空吾が乱心して仲間と連絡役の死神を斬り殺した』ってことだ。ご丁寧にその瞬間まで添えられていたぜ」
「馬鹿を言うな! 俺は、そんな真似はしてねえ! やったのは見た事もねえ死神だ!!」
浮竹隊長が満足に喋れないので、海燕さんが代わりにメインで会話をしていますね。
そして交わされる会話は……どうにも食い違ったもの。お互いがお互いを「お前がやったんだろ!」と言っています。
なんというか、こう……陰謀の匂いがしますね。
『きっと真犯人がいるでござるよ!! 科捜研に! 京都の科捜研に連絡を!! 科学の力で真実を解き明かして貰うでござる!!』
あそこは予算を使いすぎるからダメ!! あと現世の科学じゃ
「……つまり、俺たちは、罠に嵌められた、みたいだな……」
「浮竹!」
「誰かが、銀城たちの、命を、狙った……そして、嘘、の、報告を……よかった、銀城……お前が……」
「もういい、喋るな!! くそっ、マジかよ!! どっかの誰かに踊らされて、俺は……浮竹、お前の部下まで……畜生!! これじゃまるで
やりきれない気持ちを発憤するように、銀城は地面を思い切り殴りつけました。
腰の入っていない、感情任せのデタラメな一撃でしたが、それでも地面が小さな爆発を起こして吹き飛びました。
……かなりの霊圧ね。
「それに気づかねえまま! XCUTIONを作って、一護から力を奪って、浮竹を斬って……どこのどいつだ! 俺を……俺たちをこんな目に遭わせやがったのは!!」
ガンガンと続けざまに地面を殴りつけていきます。そのたびに地面に小さなクレーターが生み出されていきます。
ですが何度も殴って気が済んだのか、それとも維持しきれなくなったのか。銀城は卍解を解いて元の姿へと戻りました。
制御せずに暴れた影響からか、ハァハァと肩で息をしながら未だに怒りの表情を浮かべています。
「銀城……信じるのかよ、隊長の言葉を……?」
「当たり前だ! 仮に浮竹が全てを目論んでいたとしたんなら、俺に斬られる理由がどこにある!? 俺の言葉を否定して会話を求める理由がどこにある!? そんなもんはねえよ! ただ黙って俺を排除すりゃ良かったんだ!!」
そう叫ぶ銀城の姿は、なんとも悲しげでした。
私たち死神や、彼の仲間の
やがて、最後の一撃と言わんばかりにもう一度地面を殴りつけると、銀城は浮竹隊長の前までやってきて、両手を差し出しました。
「浮竹、俺を捕まえろ」
「ぎん、じょう……?」
「
それは罪人が自首するような姿でした。両手を差し出しているのも、手錠を掛けて捕まえろという意思表示でしょう。
ですが……どこか、裏の本音が透けて見えます。
「どんな理由があったにせよ、俺は浮竹……お前の部下の死神を斬った! それは事実だ! だが俺の罪は、現世の法じゃ裁けねえ! だから、俺を
「お前、まさか……!!」
「海燕……それ以上は、言うな……」
何かに気づいたような海燕さんを、浮竹隊長がやんわりと押しとどめます。
ですが……この場にいる者ならおそらく、誰でも銀城の狙いは読めますね。
浮竹隊長なら、それを上手く探し出してくれる。真犯人を教えてくれる。そういったことまで織り込み済みの行動ですね。
「それと、だ」
今度は
「リルカやらジャッキーやら、コイツらは全く関係ねえ。俺にただ騙されて、良いように使われていただけでの被害者だ」
「なっ……!」
「空吾!?」
「ちょ、ちょっとアンタ! 何言ってんのよ!?」
「分かんねえか? テメエらとはただ、仲良しごっこをして力を利用していただけだって言ってんだよ。それも終わりだ。お前らみたいな足手まといは、もう必要ねえんだよ」
……ああ、これは……アレですね……
『アンタ達なんか全然、仲間じゃないんだからねッ! 勘違いしないで!! 私一人がぜーんぶ悪いんだから、私に全部罪を押しつけなさいよ! この馬鹿ッ! 馬鹿犬ッ!! ……というヤツでございますな!!』
なんでツンデレ……?
「そういう訳だ。コイツらみたいなザコに構ってねえで、俺をさっさと――」
「ふざけるなアアァァッ!!」
若い男の声が響き渡りました。