お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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(一ヵ月近く間を開けてしまいまして、誠に申し訳ございません)


第332話 私をキレさせたら大したものだ

 こんな強そうな相手に素手……かぁ……

 

 でも今更泣こうが喚こうが、斬魄刀はやって来ないのよね……

 はぁ……仕方ない、こうなったら素手でやり合うしかない、か……

 

 よし! やってやるわよ!! 私はやれる、やれるんだ!!

 死神は斬拳走鬼が基本! 刀が無くたってイケるイケる!!

 私情を交えるくらいなら拳を交えろって、誰かが言ってたような気もする!! だから問題なし!!

 

 ――と、決意を新たにしたところで、もう一度周囲の状況を確認し直します。

 

 まず滅却師(クインシー)側。

 六尺六寸(200cm)はありそうな長躯に、背中の半ばまで伸びた長髪と立派な口髭。顔つきは精悍にして威圧的な容貌の大男……これがユーハバッハですね。

 白い軍服の上に外套を羽織った立ち振る舞いは歴戦の重みを感じさせ、その姿はどこか魔王を連想させます。

 藍染惣右介に比肩するほどの霊圧も、その連想に一役買っていると思います。

 

 そのユーハバッハの後ろに控えているのは、彼と同じ白い軍服をした軍人のような一団。

 三十人くらいの一団なんだけど、その中でも一人の男がやたらと目を引きました。

 なにしろ「俺は集団を率いる存在だ! コイツらの隊長だ!」と言わんばかりの立ち姿と存在感を放っています。

 軍帽を目深に被り色眼鏡(サングラス)をかけていて、ついでに少し距離が離れていることもあって表情は読み取れませんが、彼から漂ってくる気配もかなり強力です。

 もし仮に戦うのであれば死神側(こちら)は副隊長――いえ隊長クラスをぶつけないと、厳しいでしょうね。

 

『ああ、その方はキルゲ・オピーという名の御仁でございますよ』

 

 そう、キルゲって名前なのね……ってちょっと待って! 名前教えちゃって良いの!?

 

『知らせておいた方が色々と楽かと思いまして! 気配り上手な射干玉ちゃんと呼んいただいて構わんでござるよ!!』

 

 うん、ありがとう……楽になったのは間違いないから助かったわ。

 

 ……こほん。

 

 そ、そのキルゲが率いている軍人達ですが。よく見ると破面(アランカル)たちを捕らえているようです。あちこち怪我をして苦しんでいる破面(アランカル)たちの姿がちらほらと見えます。

 捕虜として捕らえている? いえ、狩猟って雰囲気の方が近いかしら……? 

 狩った獲物を弄ぶかのような、ニヤついた感情が微かに見て取れます。

 まさかとは思うけど、捕まえて剥製にでもして床の間にでも飾るつもりなのかしら……? だとしたら悪趣味すぎるでしょ……

 

『ハリベル殿を半裸で磔にされると告げた際に反応していた藍俚(あいり)殿も大概……』

 

 アーアー、きこえなーい。

 

 

 

 続いて破面(アランカル)側ですが。

 なんとオールスターです。見知った顔がほとんどいますね。

 

 ハリベル・スターク・ウルキオラ・ネリエル・グリムジョーといった十刃(エスパーダ)が勢揃いしており、全員が帰刃(レスレクシオン)しています。

 ウルキオラに至っては刀剣解放第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)までしています。

 それでもなお、劣勢というか……旗色が悪いみたいですね……

 全員が何らかの怪我を負っており、目に力がありません。

 そこから察するに、これだけの戦力を集めてもマトモに反撃できていないってことかしら……

 

 続いてペッシェら従属官(フラシオン)たちですが、少し離れたところにいました。

 自分たちの力では叶わないと悟ったのか、それともハリベルたちに「手を出すな」と命じられたのか、それは分かりませんけどね。

 ですがよく見れば彼女たちも何らかの傷を負っており、抵抗した後が見られます。特にアパッチたちに至っては片腕がありません。

 おそらくですが、アヨンを召喚したものの、一蹴された……んでしょうね。相手は滅却師(クインシー)ですから、文字通り存在そのものを無にされてしまった……

 

 つまり、あとで全員を揉む――もとい、治療する必要がありますね。

 

 なお、ロカちゃんとピカロたちは不在です。

 彼女たちは大虚(メノス)の森っていう離れた場所にいるから、きっとまだ巻き込まれていないんだと思います。

 

 

 

 ……あら? そういえばチルッチは……?

 

 いた、いました。

 ロリとメノリのさらに後ろで、彼女たちに庇われるような形で地に横たわっています。

 怪我の度合いも一番深くて、それでも目だけは死なずにユーハバッハたちを睨んでいました。

 状況からの推測ですが、チルッチが彼女たちを庇って怪我を負った。

 下がったものの、せめてもの恩返しのように、ロリとメノリが身体を張って守ろうとしている――といったところかしら? 希望的観測が多く含まれているけどね。

 って、そんなこと考えている場合じゃないわ!!

 

「チルッチ!」

 

 彼女の名を口にしながら一瞬で駆け寄り、優しく抱き起こします。

 

「ありがと、藍俚(あいり)……きて、くれたんだ……」

「ううん、連絡してくれてありがとう。私の方こそ、遅くなっちゃってごめんね……」

「来てくれただけで、十分よ。それに、あたしだってまだやれる……!!」

 

 そして全力の回道で傷を癒やしてあげれば、チルッチは再び立ち上がろうとしました。

 戦意を高揚させるためか、先ほどよりもさらに鋭い瞳で滅却師(クインシー)たちを睨んでいます。

 ですが私は、心を落ち着かせるように彼女の両手をぎゅっと握りしめながら、ゆっくりと首を横に振ります。

 

「その気持ちだけ、貰っておくわ」

「……ッ!!」

「あとは私に任せて。そのために連絡してくれたんでしょう?」

「……ああっ!! もうっ!!」

 

 ダンッ!! と音が響きそうなくらい強く、チルッチは地面へ拳を叩き付けました。

 ごめんねチルッチ……でも、現十刃(エスパーダ)くらいの強さがないと、多分だけど頭数として数えるのも、難しいと思うの……

 チルッチもそれを自分で分かっているんでしょう。だって、そうじゃなければ不安そうに手を震わせる事なんてなかったはずだし。

 悔しそうにしているものの、理解しているからこそ八つ当たりするだけで受け入れてくれたんでしょう。

 

「連絡してくれたのは、本当に嬉しかったの。だからね――」

「……!?」

 

 ――あとでいっぱい謝るから、許してね。

 

 そっと耳打ちしつつ、心の中でそう謝罪しながら最前線――つまりユーハバッハの前へと立ちます。

 

『おや、他の方々の治療はよろしいのですかな? アパッチ殿たちも怪我をしておりますが……』

 

 痛いところ突いてくるわねぇ……

 

 あの子たちの怪我の度合いなら、まだ治療は不要よ。

 ……本当は……治してあげたいんだけどね……

 でも、これ以上の回復リソースはハリベルたちに割きたいのよ……

 今でも全員、ボロボロだし……それに多分、これからもっとボロボロになると思うから……

 

 この程度で霊圧不足を懸念しちゃうなんて、まだ足りないのかしら……?

 稽古、サボっていたつもりは無いんだけどなぁ……

 

 自分の不甲斐なさをぶつけるように、爪が食い込むくらい強く拳を握りしめながら、目の前の相手へキッと強く視線を向けます。

 

「初めまして、ユーハバッハ。ところで滅却師(クインシー)の王様が虚圏(ウェコムンド)に一体何の用かしら?」

滅却師(クインシー)の!?」

「王、だと……!?」

「そんな野郎がどうして虚圏(ウェコムンド)まで来てやがる!?」

 

 あらビックリ。

 この反応から察するに、破面(アランカル)のみんなは相手が誰なのか知らずに戦っていたってことかしら?

 つまり敵側は、自己紹介なんて一切していない……完全に相手を舐めてるわね……

 さっき相手を"狩猟気分"って表現したのも、あながち間違いじゃないみたい。

 

「何用か、と問われたのならば答えてやろう。平和への礎――その尖兵を拾い集めているといったところ……あぁ、付け加えれば、我が力を試す稽古台という側面もあったな」

「陛下!!」

 

 案外素直に返事をしてくれたユーハバッハでしたが、その言葉にキルゲが反応しました。

 

「よろしいのですか!? 死神にそのような……」

「構わぬ。知られたところで不都合など無い」

 

 不都合など無い、ね……言葉通りの意味か、それとも生かして帰さないって意味か。

 どっちにしても自信満々、舐められまくってるわねぇ……私もハリベルたちも……

 それに尖兵を"拾い集めている"とはまた……

 

「なにより、虚圏(ウェコムンド)まで単身乗り込んできたのだ。疑問には可能な限り答える――そのくらいの敬意は払ってやらねば。なあ、四番隊隊長、湯川藍俚(あいり)よ?」

「……ッ!!」

 

 私のことも、名前も知っている!?

 ……つまり、そのくらいの調査はもう済んでいるってことか……いえ、戦力全部丸裸にされているくらいは考えておくべきね……

 

『戦力どころか藍俚(あいり)殿の うっふん♥ で あっはん♥ な恥ずかしい秘密までぜ~んぶ丸裸でござるよ!!』

 

 そっ、そんな恥ずかしい秘密なんてないもん!!

 私は人様から後ろ指をさされるような生き方はしていません!!

 

『ええ~っ! 本当でござるかぁ~!?』

 

 本当だもん!!

 

「……私の名前程度は調査済み、ってわけね……それじゃあユーハバッハ、一つ提案があるんだけど?」

「何かな? 聞くだけは聞いてやろう。述べてみよ」

「お互い名前を知っていたし、私がチルッチを治療している最中にも部下を動かさずにいてくれたし――」

 

 何気なく提案を述べる様子を見せながら、身体の奥底でたっぷりと霊圧を集中させます。

 

「その縁ってことで、もう退いて貰えないかしら?」

「出来ぬ相談だな」

「でしょうね!」

 

 予想通りの言葉を耳にしながら、開戦の狼煙代わりとばかりに鬼道を放ちます。

 

「破道の九十! 黒棺!!」

「ほう?」

 

 黒棺に周囲の空間ごと覆われながら、ユーハバッハは珍しい物を見たとでもいうような暢気な声を上げました。周囲の滅却師(クインシー)たちが目を丸くしているというのに、彼だけは楽しそうに眼を細めています。

 けどその反応はある意味では想定内。

 これはダメージを与えるというよりも、足止めと目くらましのための手段だから! 時間さえ稼げればそれで問題なし!!

 

 って、そんなことを気にしてる場合じゃなかった!

 稼げるであろう数秒の間に、私はユーハバッハから距離をとってハリベルたちのところまで一旦下がります。

 

「湯川!? なぜ私たちのところへ……!?」

「今すぐに治すから! 一緒に戦って!!」

 

 てっきりユーハバッハたちを相手に戦うと思っていたのでしょう。

 やってきた私の姿を見てハリベルが目を丸くしていますが、詳細に説明している時間はありません。

 戦闘に支障が出そうな部分から順番に。

 全員を瞬く間に治していきます。出し惜しみなしの、治療の大盤振る舞いですよ。 

 

「カッコ付けて首を突っ込んでおきながら恥ずかしいんだけど、私だけじゃユーハバッハを追い返すこともできそうにないの! だから!」

 

 と同時に、共闘を呼びかけます。

 

 本当は、逃げたいんだけどね……

 斬魄刀もないし、これだけの強さの敵を前にハリベルたちを守り切れる自信もない。

 だから、本音を言えば逃げ出したい。

 

 でも「一緒に逃げよう」って誘っても、多分首を縦に振ってくれないと思うの。自分たちの故郷に攻め込まれたら、誰だって頭に来るからね。

 そんな状態の彼ら彼女らを説得する時間なんて取れそうにない。

 となれば残るは、共闘して追い返す――これが一番マシなやり方だと思うの。

 

『ふむ……それなら、チルッチ殿を治療した後でハリベル殿たちも治療してからユーハバッハ殿とお喋りすれば良かったのでは?』

 

 それ、やりたかったんだけどね! でもその隙が無かったのよ!!

 多分相手は「チルッチは治してもいいけど、ハリベルたちは治されると面倒だ」って判断してたみたいなの!

 あの場でハリベルたちも治療に動けば、ほぼ間違いなく邪魔されてた!

 下手をすると、ハリベルたちを真っ先に潰されてた恐れがあったから、だからわざわざこんな面倒な真似をしなきゃならなかったのよ!!

 ジーッと動かなかったけど、でもユーハバッハは眼だけでずっと私のことを見てたの!!

 

「だから……お願い、一緒に戦って……」

「それ以上、言葉は不要だ」

 

 傷が完全に癒えたところで、ハリベルはスッと凜々しく立ち上がりながら口を開きます。

 

「アイツらは虚圏(ウェコムンド)へと侵略してきた敵だ。その敵を共に倒そうというのに、拒む理由は無いだろう?」

「だな。というより、今更だろう?」

「そうそう! 何度もごちそうになったしさ!!」

「愚問だな。答えるまでもない」

 

 スタークが手にした拳銃を私に見せつけるように掲げれば、そこからリリネットの同意する声が聞こえてきました。

 ウルキオラもまた、背中の巨大な翼を軽く震わせながら同意の意を示してくれます。

 

 ちょっと……いえ、かなり嬉しいわね。

 なんだかんだ、こうして信用されてたんだってことを実感できると。

 

「そうそう。それじゃあの滅却師(クインシー)たちには、私たち全員が集まってたところに攻め込んで来る迂闊さを、たっぷり味わってから帰って貰いましょう」

 

 ネリエルがなんだか好戦的な口振りね……

 ちょっと怒ってるのかしら? まあ、怒るわよね。

 

「ハッ、追い返すだぁ!? 温ィこと言ってんじゃねえよ! あの髭親父を、ここで倒しちまえばなんにも問題ねえだろうが!」

 

 そしてグリムジョーが、犬歯を剥き出しにしながら叫びました。

 傷がほぼ癒えたところで、これ以上は待ちきれないとばかりにユーハバッハ目掛けて飛び掛かっていきます。

 

「待てグリムジョー!? ウルキオラ!!」

「ああ、わかっている……チッ、馬鹿が……」

 

 予想外すぎる単騎での突撃にハリベルが焦ったように名を呼び、ウルキオラに視線を向ければ、ウルキオラもグリムジョーを追いかけるように駆け出していきました。

 ……小さく悪態を吐きながら。

 

「相談は済んだか?」

 

 そのグリムジョーの突撃を待っていたかのように。黒棺の超重力空間を内側から切り裂くようにしてユーハバッハが姿を現しました。

 壊れかたから察するに耐えたんじゃなくて、力を真逆に押し返すことで強引に突破したみたいね。

 それもわざとじっくり時間を掛けて……

 詠唱破棄とはいえ、九十番台が足止めにもならない……

 クッ、遊ばれてる……!!

 

「相談だァ!? そんなもん、いらねえんだよッ!!」

雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)

 

 黒棺の中から出てきたユーハバッハに少しも動揺することなく、グリムジョーは両手の鋭利な爪を走らせます。

 その攻撃にタイミングを合わせて援護するように、ウルキオラも霊子の槍を思い切り投げつけました。

 

 ですが、迫り来る二人の攻撃をユーハバッハは片手で受け止めてみせました。

 眼にも止まらぬ速度で迫るウルキオラの槍をキャッチボールでもしているかのように軽々と受け止め、あっという間に霧散させます。

 襲いかかるグリムジョーの爪に対しては、彼の手首を掴んで捻り上げることで瞬く間に無力化します。

 

「ぐ、あああぁぁっ!!」

「あのまま寝ていれば良いものを、湯川藍俚(あいり)の力で蘇ったことで勝機が生まれたとでも思ったか?」

 

 手首を捻り上げる力がさらに強まり、グリムジョーが苦痛の悲鳴を上げます。

 

「それとも、仲間の援護があれば私に勝てると思ったか? 雁首揃えたところで藍染惣右介にすら届かぬ破面(アランカル)どもが」

「く……っ! ざ、けん……なッ!!」

 

 捻り上げられた姿勢のまま、強引に蹴りを放ちます。

 その攻撃を鬱陶しいと思ったのか、感情の宿らぬ瞳のまま頭を軽く動かすことでユーハバッハは躱します。

 ですがその回避で力が緩んだのか、それとも最初から手を放すつもりだったのか。グリムジョーは拘束から抜け出すことに成功しました。

 ……片手はあらぬ方向に曲がり、手首そのものも今にも千切れそうなほど潰れかけていますが。

 一秒足らず握っただけで、グリムジョー相手にこれだけのダメージを与えるなんて……

 

 回復に動いた私の視界の片隅では、部下の滅却師(クインシー)たちが遅まきながら膝を着き頭を垂れる姿が見えました。

 

 黒棺の中から現れたことも。

 羽虫でも追い払うようにグリムジョーを撃退したことも。

 その全てが自身の実力を誇示するためだと言っているかのような……どこかそんな風にも感じられました。

 

「ご無事でしたか陛下!」

「申し訳ございません!」

「陛下、我々もあの死神と破面(アランカル)を――!!」

「よい」

 

 部下達が口々に謝罪の言葉を述べ、そしてキルゲが遅まきながらも戦線に加わる旨を告げようとしますが、ユーハバッハは一言で切って捨てました。

 

「し、しかし……!!」

「この程度の相手なら、何も問題はない」

 

 まさか断られるとは思ってなかったんでしょうね。

 なおも食い下がろうとするキルゲですが、ユーハバッハは表情を崩すことなく再度拒否の言葉を告げます。

 

「それに眼が閉じた状態でどこまで見えるか、死神を相手に試す良い機会だ」

「……かしこまりました」

 

 膝を着いたまま、地面に額をぶつけそうなくらい深々と頭を下げると、キルゲたちは一糸乱れぬ統率の取れた動きで下がっていきました。

 

 眼が、閉じた状態……? つまり、まだ何か隠し玉があるの……!?

 それに試すって言葉を信じるなら、まだ遊んでいるだけってことよね……

 

 いえ、それよりも!

 あそこで部下たちに「頼む」とか言ってくれれば、乱戦になって付け入る隙が生まれるはずだったのに!!

 アイツら程度の霊圧だったら、むしろ引っかき回して足を引っ張ってくれるから戦いやすい――

 

 いえ、それも見越していたってこと!? だから拒否した!?

 部下に見て学ばせるためって狙いもありそうね……

 

「グリムジョー、まだ行ける?」

「……余計な世話だ」

 

 潰れかけた手首を完治させながら、諸々の事象から敵側の考えを推測していきます。

 ああもう! 一挙手一投足を見る度に厄介ごとが増えていく!!

 

 どうやって切り崩せば……あっ!

 

虚閃(セロ)!!」

黒虚閃(セロ・オスキュラス)

 

 王の命令を受け、下がりつつある滅却師(クインシー)の軍団を狙ってスタークとハリベルが虚閃(セロ)を放ちました。

 意表を突くかのように部下達を狙う虚閃(セロ)の二重奏に対し、ユーハバッハ()は数歩ほど動くと彼らを庇うように前に立ちます。

 

「ふん」

「う……っ!」

「あらら、やっぱりダメか……」

 

 無造作に片手を翳すユーハバッハ。そこに二つの虚閃(セロ)が激突しますが、その奔流が真っ二つに分かれていきました。

 流れる川の水が岩にぶつかって二手に分かれるような、あんな感じです。

 

 ……いえ、ごめんなさい。そんな単純なものじゃないみたい。

 よく見れば、手のひらに衝突した虚閃(セロ)――その霊圧が分解されて、ユーハバッハに還元されています。

 おそらく、ウルキオラが先ほど投げた霊子の槍も同じようにして消したのでしょう。

 攻撃を吸収する……? いえ、それでも限度はあるはず。下手くそな霊圧での攻撃はしない方がマシと考えるべき……? ひょっとして今の動きも庇ったよりも吸収の方が目的だった……ッ!?

 

「ちっ……少しばかり、鬱陶しい……むっ!?」

「本命はこちらだ」

翠の射槍(ランサドール・ヴェルデ)!」

 

 ウルキオラとネリエルの二人が、ユーハバッハを左右から挟み込むように現れました。

 強烈な虚閃(セロ)を隠れ蓑にして響転(ソニード)でユーハバッハまで接近したようですね。

 二人とも既に攻撃態勢に入っており、弓を引き絞るかのように背筋を思い切り仰け反らせて槍を振りかぶっており――

 

「ぐっ!」

「きゃああぁっ!!」

 

 それを撃つより早く、ユーハバッハは円形の防御壁を作り出しました。

 ユーハバッハの周囲を覆う様にして現れたドーム状の霊圧は、一瞬で消えこそしたものの爆発的に膨れ上がると攻撃しようとしていたネリエルら二人を吹き飛ばします。

 

「いまっ!!」

「ほう?」

 

 二人への対応で手札を使ったそこへ便乗する形で、私は動きました。

 注意が逸れた一瞬を狙い、即座に接近すると拳を振るいます。

 顔面を正面から叩き潰そうと狙った一撃なのですが、ユーハバッハは一歩後退することで拳から逃れます。

 

 鼻先を僅かに掠める程度にしかならなかった攻撃ですが、私の攻撃はそれだけでは終わりません。

 ならば、ともう一歩踏み込んで左の拳を叩き込むものの、その頃にはユーハバッハにも余裕が出来ていたのでしょう。

 私の左拳をがっちりと掴んで止められてしまいます。

 

「蘇生だけでなく、攻撃にも参加するか……だがあの程度の者たち、治療したところで趨勢は変わらぬぞ?」

 

 ――ッ! まずい!! 直感だけど、なんだか凄く危険な気がする!! グリムジョーが手首を潰されたのとは比較にならないくらい!!

 

「破道の七十三! 双蓮蒼火墜!」

「む……ッ!?」

 

 掴まれた左拳を起点として、そこから破道を放ちます。

 相手の手のひら目掛けて直接放たれた青い炎は、一気に膨れ上がると大爆発を起こし、周囲に存在する全て物体を焼こう暴れ回ります。

 ユーハバッハに拳を掴まれたことを逆に利用してやった形ですね。

 

 当然、そんなことをすれば術者の私も無傷とはいきません。

 ほとんど自爆する形でユーハバッハの掴みを振りほどくと同時に、腕の半ばまで及んだ傷を回復させます。

 ユーハバッハを見れば、こちらは霊圧で押さえ込んだのでしょう。それでも僅かな焦げや火傷(やけど)の痕が腕に残っていました。

 

「これでもまだ、趨勢は変わらないとか口にできるかしら? 何より、一人とはいえ人数が増えているのよ?」

「ほう、斬魄刀を持たぬその身で私に勝てると思っているのか?」

 

 バレてる!!

 

「それがどうかした!? やり方はいくらでもあるのよ! 破道の九十一、千手皎天汰炮!!」

「無駄だ」

 

 鬼道で生み出された無数の霊子の矢を浴びせますが、相手もさるもの。足下に光りの柱を生み出したかと思えば、そこから無数の神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)を放って迎撃してきました。

 いえ、迎撃どころの騒ぎではありません。迎撃と私への攻撃を同時に兼ねています。詠唱破棄だったら、やっぱりこの程度が限界かしらね。

 

 でも、これだけ霊圧が入り乱れていたら集中力も落ちるでしょう?

 

刀剣解放(レスレクシオン)! 墨染奈落(ネグロ・パンターノ)!!」

「ぬ……!?」

 

 衝突し合う鬼道と神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)に隠れるようにして(ホロウ)化したのんだけど、ユーハバッハにはしっかり気づかれちゃったわね。

 僅かだけど目を見開いて、軽く息を呑んだのがわかるわ。

 

「この姿まで、調べていたかしら!?」

 

 仮面の下で微かに笑みを浮かべながら、喉の奥から叫び声を上げて、全力で霊圧を放ちます。

 

虚閃(セロ)!!」

「くっ……!」

 

 忌々しそうな表情を浮かべながらもユーハバッハは霊子で出来た巨大な弓を呼び出すと、自らの眼前に矢を放ちます。

 地面へと突き刺さった霊子の矢は剣になって、虚閃(セロ)を受け止めました。

 

 なるほど、そういう使い方もあるのね……

 でもちょっとだけ遅かったわね!

 

 打ち込んだ虚閃(セロ)を足止め代わりに、瞬歩(しゅんぽ)でユーハバッハの眼前まで接近すると同時に、血装(ブルート)もどきを発動させます。

 

「吹き飛べッ!」

「ぬうっ!?」

 

 ほぼ全力の状態へまで地力を高めたところで、身体を半回転させた回し蹴りを放ちます。

 その一撃はユーハバッハの横腹へと突き刺さり、彼を吹き飛ばしました。

 

 ようやく一撃、たたき込めたわ……

 ただ……少しだけ気になるのは攻撃を受ける直前の相手の表情なのよね……

 微かに驚いてほんの刹那だけど、動きが鈍ったような?

 

「貴様ッ!!」

 

 遠くにいたはずのキルゲが一際大きな声を上げました。

 

「それは血装(ブルート)……血装(ブルート)だと!? 邪なる死神が滅却師(クインシー)の聖なる力を!!」

「落ち着けキルゲ」

 

 血走った眼で私を睨み付けながら、キルゲが悲痛な叫び声を上げました。

 鬼のような形相で今にも私に向けて襲いかかろうとしたところに、ユーハバッハの声が響き渡ります。

 

「あれは所詮、ただの紛い物。そもそも湯川藍俚(あいり)血装(ブルート)(もど)きを使うことは情報(ダーテン)にも記してあったはずだぞ」

「も、申し訳ございません陛下!」

 

 一応蹴り飛ばしたはずなのですが、それほどダメージを与えられなかったみたいです。

 吹き飛び砂漠を転がったことで服に付いた砂を手で払いながら、悠然と立ち上がってくるユーハバッハに向けてキルゲは再び膝をつきながら仰々しく臣下の礼を取ります。

 

 ……頭下げているところ恐縮なんだけど……情報(ダーテン)って何?

 

『ウィキペディアでございますよ!!』

 

 うわぁ、すっごい分かり易い説明!!

 

 射干玉が「あんなことやこんなことまで袋とじ情報満載!」って言ってたのも無理はないわね……

 

『そんなこと、拙者いったでござるか……? もっと別の表現だったような……???』

 

 キルゲを一瞥したかと思えば、ユーハバッハは私へ射すくめるような視線を向けます。ですがその瞳の奥には、ほんの少しだけ感情の色が見え隠れしていました。

 

「血管を利用することで霊圧を全身に満遍なく、かつ効率的に巡らせることで自らの能力を底上げする……治癒に従事する者ならばその手法に辿り着くのも道理だが、褒めてやろう。その境地まで辿り着いたことを」

 

 ごめんなさい! あなたたちの技術からパクりました!!

 

「だがそれも、滅却師(クインシー)の操るそれとは似て非なる紛い物でしかない。その程度の児戯を嬉々として披露する蛮行、我ら滅却師(クインシー)に対する侮辱と判断させてもらうぞ!!」

 

 キレられた! なんかすっごくキレられたわ!!

 さっき僅かにユーハバッハから感じた感情ってコレだったの!?

 

 やっぱり勝手に使ったらダメだった!? 特許料とかライセンス契約とかしないとダメだった!? でもどこに申請すればいいかわからなかったし!!

 それにこれはこれで制御が難しい技術なのよ!! 頑張ったんだから許してくれたって良いでしょ!

 ケチいいぃっ!!

 

「真の血装(ブルート)とはどういうものか、その身に教えてやろう!」

「う……っ……!」

 

 胸元の霊子兵装(ペンダント)から剣を抜くと、私目掛けて斬りかかってきました。

 とっさに両手を上げて腕で受け止めますが、その刀身は半ばまで食い込んだところでようやく止められました。

 

 ぐううぅぅっ!! う、腕が……!!

 刀剣解放して血装(ブルート)もどきまで使って底上げしてるのに、まだ足りないの!? やっぱり章のボスはどいつもこいつも、化け物揃いってわけ!?

 

『勝手に技を使われた怒りもあるかと』

 

 やっぱりなの!? 使っちゃダメだったの!?

 




本当は1話だけで終わらせる予定でした。

また、全く関係ありませんが。
今回で通算で334話目でした。
前話は通算で、次話は番号付きで、333(ぞろ目)です。
(だからどうした? という話ですが)
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