お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第337話 ねんがんの 半裸で磔になれたぞ!

「お帰りなさいませ、陛下!!」

「陛下のお帰りを我ら一同、心よりお待ちしておりました!!」

 

 時間は、ユーハバッハら滅却師(クインシー)藍俚(あいり)を捕まえて姿を消した頃にまで――

 虚圏(ウェコムンド)から影の領域(シャッテン・ベライヒ)へ、影を用いた移動を行い見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の主城たる銀架城(ジルバーン)へとユーハバッハたちが帰陣した時にまで遡る。

 

 皇帝たるユーハバッハの帰還を今か今かと待ちわびていた星十字騎士団(シュテルンリッター)滅却師(クインシー)たちは、空間の揺らぎを感知するなり待ちきれなかったとばかりに外へ飛び出した。

 虚圏(ウェコムンド)へ侵攻したユーハバッハたちが告げるであろう、完全勝利という吉報を直接耳にし、褒め称える為である。

 

 ――だが。

 

「へ、陛下……!?」

「そのお姿は……!?」

 

 戻ってきたユーハバッハと、彼に従い参戦していたキルゲ・オピー率いる狩猟部隊(ヤークトアルメー)の様子に、出迎えの兵たちは目を丸くした。

 

 (ホロウ)破面(アランカル)らを蹂躙し、虚圏(ウェコムンド)を領地とする。そのついでに、手駒となりそうな破面(アランカル)を捕縛する――今回の侵攻計画の主目的はその程度のことだった。

 付け加えるならば、ユーハバッハの錆落としという目的もあるだろう。

 とはいえ、言ってしまえばその程度。

 負けるどころか苦戦すらありえない、失敗の要素など微塵もない簡単な侵攻。

 容易に計画を終えて、戻ってきたユーハバッハたちは勝利の空気を身に纏いながら、待機していた見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)滅却師(クインシー)たちはその勝利を褒め称えるはずだった。

 

 だが現実は、その想定とは異なっていた。

 

 戻ってきた全員が身に纏っている気配は勝利に酔いしれるといった雰囲気からはほど遠く、むしろその逆に幾ばくかの緊張感を孕んでいる。

 浮かべる表情も――鉄面皮のユーハバッハは除くとして――どこか納得できないというか、不満といった様子を覗かせており、口を開く者すらいない。

 当初の予定通りと呼べるのは、破面(アランカル)を捕まえているということくらいだろう。捕縛した数は参加した狩猟部隊(ヤークトアルメー)の人数と比較すれば少なく、当初の予定すら遙かに下回っていることを除けば。

 

 しかし出迎えた者たちを一番驚かせたのは、ユーハバッハの姿だろう。

 身に纏った装束はところどころが破れ、血で汚れている。加えてユーハバッハ本人の頬が、僅かに赤く腫れていた。

 その様子から、彼らはまさかユーハバッハを脅かすような相手がいたのかと悪い予感を想念する。決して重い怪我ではないものの、それは絶対君臨者であったはずのユーハバッハが僅かにでも遅れを取った証だ。

 

 そして一番の想定外と呼べる事柄は――

 

「キルゲ様! そ、その肩に担いでいる者は……!!」

「死神、死神ですか!?」

虚圏(ウェコムンド)への侵攻ではなかったのですか!?」

「いや待て! この死神は……まさか例の……!?」

 

 ユーハバッハの腫れた頬の衝撃すら覚めやらぬ彼らの目に飛び込んできたのは、キルゲ・オピーが担いでいる湯川藍俚(あいり)の姿だった。

 こちらはあちこちに傷を負っており、虫の息だ。意識すら無いのだろう、手足や髪が担がれるままに力無く揺れている。

 

 (ホロウ)の本拠地たる虚圏(ウェコムンド)に出向いたはずが、なぜ死神を連れて戻ってきたのか? それ以前になぜ死神と出会うような状況に陥ったのか?

 ましてやその死神が警戒対象の一人として名の知られた存在であれば、彼らの疑問も当然は当然のことだった。

 

「黙れ」

 

 堪えきれずに飛び出てくる疑問の言葉の数々に向けて、ユーハバッハは一言だけ呟いた。

 その声を聞いた瞬間、騒がしかった兵士たち全員の喧騒がピタリと止んだ。そればかりか、全員が一斉にユーハバッハの周囲から離れ、直立不動の姿勢を取りながら主城への道を作りあげる。

 

「だが御前達の疑問は当然だ。何があったのかについては追々(おいおい)、改めて場を設けよう」

 

 両側に並んだ兵士たちへそう告げると、一度止めた歩みを再び再開する。

 だがその途中、ユーハバッハは思い出したかのようにふと足を止め、並んでいた兵の一人に声を掛ける。

 

「件の(ぼう)の準備は出来ているか?」

「……は、はっ! 万事、問題ありません! 当初の予定通り――」

「対死神用の物に変更だ」

 

 まだ続く言葉があるにも関わらず、そう短く告げる。

 

「――に……死神用に変更、ですか……?」

「不服か?」

「いえ、何も問題はありません! すぐ準備をいたします! 失礼いたします!!」

 

 問いかけに全身を竦めながらも、兵の一人は敬礼と共に列から離れると通信機を取り出し、連絡を始める。受けた命令を伝えているのだろう。

 だがそんなものには目もくれることなくユーハバッハは再び歩みを再開した。当然、キルゲら狩猟部隊(ヤークトアルメー)もそれに続く。

 

「……」

「どうした? 何が意見があれば構わぬぞ」

「ッ!!」

 

 不意に投げかけられた言葉に、キルゲは己の心を読まれたような恐ろしさすら感じ、思わず息を呑んだ。胸元に手を当てて、心を落ち着かせるように一呼吸をしてから、ようやく口を開く。

 

「では、僭越ながら……先ほどの命令、あれは本来捕らえた破面(アランカル)を、虚圏(ウェコムンド)の首魁たる破面(アランカル)を捕縛するための物のはずです。それをなぜ、この死神のために? いえ、それよりこの死神は今すぐにでも処刑すべきです! 特記戦力として――」

「奇遇だな。私も同じ考えだ」

「で、ではなぜ!? どうして捕獲を……!?」

 

 藍俚(あいり)を殺すべきだ、と言いかけたところに同意され、再びキルゲは言葉を詰まらせかける。それを精神力で捻じ伏せ、何を考えているのかを尋ねる。

 

「この死神には、正確にはこの死神の持つ斬魄刀にはまだ使い道がある」

「斬魄刀、ですか……? 情報(ダーテン)によると、この死神の卍解は回復や蘇生などに特化した物と……まさか!」

「その通りだ。この死神の持つ卍解、それを奪うためよ」

 

 ゆっくりと頷た後、ユーハバッハは僅かに顔を顰める。

 

「あの卍解は、上手く用いれば零番隊にすら通じる。捕獲するだけの価値はある」

「零番隊にですか!?」

 

 まったく予期していなかった名前に、キルゲばかりか狩猟部隊(ヤークトアルメー)たちすらもざわつき始める。

 千年前、かつて尸魂界(ソウルソサエティ)へと侵攻したユーハバッハを相手にし、彼の持つ能力を封じ込ませた怨敵にして、護廷十三隊以上の強敵としてその存在を知られているのが、零番隊である。

 そんな相手に通じる能力と告げられては、キルゲからすれば面白いはずもない。ユーハバッハの率いる滅却師(クインシー)の中でも精鋭という誇りと自負があればなおさらだ。

 

「信じられません……この死神の卍解がそこまでとは……」

「そこまででなくとも聖章騎士(ヴェルトリッヒ)に持たせれば、十分に戦力となる。山本重國の卍解とはまた違った意味でな」

 

 そこまで言うと、肩越しに視線を飛ばし藍俚(あいり)を一瞬だけ視界に捉える。

 

「貴様が虚圏(ウェコムンド)へと現れたとき、斬魄刀を持っていなかったのは偶然にしては出来過ぎだったな。おかげで予定が繰り上がり、余計な手間が増えた」

「予定……」

 

 虚圏(ウェコムンド)藍俚(あいり)を捕縛した時にも口にしていた予定という言葉の真意を読み切れず、キルゲは眉を寄せる。

 だが聞き返すことはしない。ユーハバッハが口を開く気配を察したからだ。

 

「キルゲ、その死神は特別房に閉じ込めておけ。痛めつけても構わぬが、殺さぬ程度にしておけ」

 

 殺してしまっては卍解が奪えぬからな、と冗談めかしながら言うと、さらに続く命令を下す。

 

「その後は全星十字騎士団(シュテルンリッター)を大広間へと集めよ。今回の件も含め、今後の動向について通知を行う」

「はっ! では陛下をお待たせすることのないよう、この死神は迅速に処置させて頂きます!!」

 

 嬉々として命令を復唱するキルゲと、その言葉に従うように部下たちもまた敬礼する様子を、ユーハバッハは薄く笑う。

 

「そう急がずともよい。少し用事がある故、多少時間が掛かっても手抜かりの無いようにしっかりとやっておけ。確実に、念入りにな」

「承知いたしました……ですが、御用とは……? 必要であれば、我々がお手伝いをさせていただきますが……」

「着替えだ」

「は……?」

「少し汚れたのでな。故に手伝いも不要だ」

 

 いたずらを成功させた子供のように洒落た笑顔と言い回しを見せると、ユーハバッハはキルゲらから離れていく。

 その後ろ姿を、彼らは敬礼姿勢のまま見えなくなるまで見送っていた。やがて完全に見えなくなったところで姿勢を戻し、キルゲが口を開く。 

 

「お前達、聞いた通りだ。捕らえた破面(アランカル)共は当初の予定通り、牢に閉じ込めておけ。少数だが使い道もあるだろう。ワタクシは陛下のご命令通り、この汚らわしい死神を特別房へと叩き込んでおく」

「はっ!」

「ああ、そこのお前。陛下が仰っていた、対死神用の準備はどうなっている?」

「連絡済みです! 特別房の前にて合流するとのこと!!」

「よろしい」

 

 自らの部下と、そして先ほどユーハバッハが直接命令を下した兵からの報告に満足そうに頷き、キルゲもまた自らの任務を遂行すべく動き出した。

 

 

 

 

 

 

 特別房。

 

 それは本来ならば今回の虚圏(ウェコムンド)侵攻で破面(アランカル)たちの王を捕らえておくために用意していたはずの部屋だ。

 捕らえた破面(アランカル)が、それも王と呼ばれるほどに強力な破面(アランカル)を捕まえ、無力化し、暴れても抜け出せないように作られた暗く冷たい特別な牢獄。

 その房の中へと、藍俚(あいり)は囚われていた。

 

 ……なお身も蓋もない言い方をするなら「原作でハリベルが半裸で磔にされていたあの部屋」のことである。

 

 とっ捕まえたハリベルを入れるために用意していたはずの部屋が、何の因果か藍俚(あいり)を捕まえた。丁度良いので、代わりにそこに入れておけというユーハバッハの命令であり、その命令通りに藍俚(あいり)を特別な牢獄へと繋ぐ羽目になった可哀想な部屋である。この部屋だって、本当はハリベルを捕まえたかったんだと思うよ。

 

 部屋の中の藍俚(あいり)は、酷い有様だった。

 意識の覚醒を防ぐために対死神用の強力な麻酔薬を打たれ。手足は目覚めた彼女へ自由の一切を与えぬようにと頑丈な鎖で繋がれていた。

 口にも同様に枷を嵌められ磔にされている。

 ユーハバッハとの戦いに耐えきれなかった死覇装はあちこちが破れ、その隙間からは白い肌が見え隠れしていた。

 開いた襟元からは大きな胸が今にも零れ落ちそうなほど。鎖で縛り上げられ、広がった裾からは太ももが見え隠れしている。

 前髪で隠れて表情は半分ほどしか見えないが、それが陰となって見る者の加虐心を昂ぶらせるような儚げな姿へと藍俚(あいり)を変貌させていた。

 彼女の手足を縛り上げる鎖の存在も、彼女を休ませぬようにと無理矢理に起き上がらせ続ける姿勢も、どうやら一役買っているのだろう。

 

「……処置、全て完了しました」

 

 ちらりと藍俚(あいり)の姿を見て、生唾を飲み込んでから処理係の男はキルゲへとそう報告した。

 キルゲが藍俚(あいり)を連れて特別房へ入ってから、およそ三十分後。

 部屋の前で処置用の道具を持った滅却師(クインシー)と合流したキルゲは、ユーハバッハの命令通りに藍俚(あいり)への処置を終えていた。

 

 藍俚(あいり)を生かしたまま捕らえておくための処理。

 気絶したまま、目覚めないように。目覚めたとしても暴れ出したり脱獄しないように封じ込めておくのは当然として、彼女はユーハバッハの手によって大怪我を負っている。

 その怪我が元で死なれてしまっては、それはそれで困るのだ。

 捕まえた以上、最低限度でも生かしておけるように気を遣わなければならない。

 つまり、無力化のために薬や鎖を使うのは当然として、怪我の手当までしなければならなかった。

 

「しかし、本当によろしいのでしょうか? ご命令通り、規定量の倍の薬剤を投与しましたが……」

「構いませんよ。この死神は、この程度の扱いでも贅沢すぎるくらいです」

 

 死神をいたぶるのではなく、生かすために捕らえて治療をしなければならない。

 ユーハバッハからの命令とはいえ、それは屈辱だった。ギリギリと奥歯を鳴らしながら、キルゲは藍俚(あいり)を見下ろす。

 

「それにしても、まさか死神の傷の手当てをする羽目になるとは……しかもこの死神は……」

「ワタクシとて同じ気持ちですよ……ですがこれは陛下のご命令。陛下はこの汚らわしい死神の斬魄刀にご執心のようです」

 

 しかし同時にユーハバッハはこうも言っている。

 殺さぬ程度にしておけ――すなわち、死ななければ何をやっても良いのだ。

 

「フンッ!」

 

 キルゲは唐突に、藍俚(あいり)の頬を力一杯殴りつけた。

 重々しい打撃音と共に彼女の身体が軽く仰け反り、続いて手足を縛りつける鎖がギシギシと音を立てて軋む。

 だがそれだけだ。藍俚(あいり)は悲鳴どころか呻き声すらあげず、身じろぎ一つすることもなかった。

 むしろ隣にいた処置係の男が、キルゲの突然の蛮行に驚いたくらいだ。

 

「なっ! なにを!?」

「薬がきちんと効いているか、少し確かめただけです。どうやら問題は無いようですね」

 

 そう呟くものの、キルゲの視線は藍俚(あいり)に向いていなかった。

 殴りつけた手――正確にはその手袋に付着した返り血を嫌悪感の籠もった瞳で見つめ、やがて忌々しげに舌打ちする。

 

「……チッ、運の良い奴め……さて、我々も大広間へ急ぐぞ! 陛下は時間を掛けても良いと仰られたが、陛下をお待たせするわけには行かぬ!!」

「はっ!!」

 

 号令の声を挙げ、キルゲは特別房から退出する。その後をキルゲに着いて来た狩猟部隊(ヤークトアルメー)の部下二名が続く。

 足早に移動する中、キルゲは部下の二人にもう一つだけ命令を下した。

 

「ワタクシの着替えと、消毒薬を用意しておきなさい」

「何に使うのでしょうか……?」

「決まっているでしょう? 汚れた死神に触れた服を着替え、清めるのですよ」

 

 その言葉を、遙か後方の処置係がゾッとしない表情で聞いていた。

 




(タイトルが何にも浮かばない……半裸で磔って語句を使いすぎ……芸が無い私……)

●ねんがんの~~
 念願ではありませんが、一応「半裸・傷だらけ・破れた衣服から除く素肌・手足に鎖・口枷・お薬・特別な独房・気絶」と、必要になりそうなものは揃えてみました。

●陛下がお持ち帰りした理由
 斬魄刀(卍解(射干玉ちゃん))が欲しかった。
 つまり、ヒロインは真っ黒ゴムボール(ぬばたまちゃん)です。

 能力が和尚対策の一環として使えそうなので、陛下が欲しがった。
 使えなかったとしても部下に持たせれば役に立ちそうなので、殺すには惜しい。
 といった狙いからでもあります。残火の太刀とは真逆の理由です。
 (おかげで名実ともに藍俚(あいり)殿が特記戦力入りです)

 でも奪うには卍解しないと無理だし、そもそも刀持ってないし、奪う前に死神を殺すと卍解奪うタイミングが永遠に消えちゃうから、生かしておく必要があった。
(連絡を受けて大急ぎでやってきて、斬魄刀を忘れてきたことによるラッキーパンチ)

 以上のことからの、お持ち帰りです。
 けっして「薄い本を厚くしたかった」訳では無いです。きゅーいーでー

●死神用のお薬みたいなもの
 麻酔薬とか自白薬とかで、死神を相手にすると特別薬効が高い物。
 みたいなのを、滅却師(クインシー)が用意していても自然だと思ったので。

(単純に殺すより利用価値があれば、そういうお薬を使う場合もあるでしょうから)

●最後のキルゲの行動
どうにも私の中で、こういう事をやりそうって印象があるんです……
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