お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第34話 滅却師殲滅作戦

「突然ですが皆さん、大規模遠征が予定されました」

 

 今日もお仕事――と思っていた矢先、卯ノ花隊長の口からそんなことが告げられました。朝のミーティングが始まったかと思えば開口一番そんなことを言われ、席官・平隊士関係なく落ち着きのない様子を見せています。

 

「この遠征には護廷十三隊全死神の半数以上が参加するほど大規模な物であり、当然私たち四番隊からも後方支援要員として多くの人員を割かねばなりません」

 

 半数以上!?

 

 た、確かに大規模と言っていましたが、規模が予想よりもずっとずっと大きいですね。

 驚きは他の隊士も同じようで、とうとう近くの同僚と小声でヒソヒソ囁き合う者まで出る始末です。

 まだ隊長が喋っているというのにそんな事をするなんて……

 それだけ動揺が大きいということでもありますが。

 

「そのため、これから名を呼ぶ者たちは全員、遠征部隊に加わって貰います。これは強制であり、拒否権はありません。残務は瀞霊廷に残り通常業務を行う者に引き継ぎ、遠征の準備を最優先で行ってください」

 

 隊長は次々と隊士たちの名を呼び上げていきます。

 それは四番隊の七割近い数。

 その中には、私の名前もありました。

 

 ……残りの人数で通常業務を回せるかなぁ……?

  瀞霊廷の死神の数も減っているから大丈夫だと思いたいのですが……業務最低限だけど結局一日何にも無くて待機で終わって定時上がり! 今日は久しぶりに飲みに行こうぜ! みたいな感じにしてあげたいですね。

 

「ああ、いけません。忘れるところでした。今回の遠征ですが、目的は(ホロウ)の討伐などではありません」

「「えっ!?」」

 

 何名かが声を上げました。

 無理もないですね。だって、

 

「今回の相手は、滅却師(クインシー)です。彼らの殲滅が、此度の遠征の目的です」

 

 そんなことを言われても、誰だって容易には飲み込めるはずがありませんから。

 

 

 

 

 

 滅却師(クインシー)

 原作では主人公の友人の石田……名前なんだっけ?

 

『雨竜でござるよ!』

 

 ――の種族でもある。

 

 死神と同じく、(ホロウ)と戦うために霊力や独自の様々な術を体得している。

 (ホロウ)を倒すという目的は死神と同じなので一見すれば仲良くなれそうなのだが、問題はそれぞれの倒し方――正確にはその性質にあった。

 

 死神は(ホロウ)を倒すことで浄化し、尸魂界(ソウルソサエティ)に送る。

 罪を洗い流し、新たな輪廻へと加えるわけだ。

 

 対して滅却師(クインシー)は、(ホロウ)を殺し魂魄すらをも消滅させる。

 消滅した(ホロウ)は輪廻の輪に加わることも出来ず、文字通り滅ぶ。

 

 現世と尸魂界(ソウルソサエティ)――二つの世界に存在する魂魄の量は均等でなければ世界のバランスが崩れて崩壊する。

 そのため滅却師(クインシー)(ホロウ)を殺し続けることは、世界の崩壊を加速させる行為に他ならない。

 崩壊を防ぐために死神は何度も滅却師(クインシー)に対して対話、交渉を何度も行い、(ホロウ)を殺すのを止めるように訴え続けた。

 だが滅却師(クインシー)側は聞く耳を持たず、やがて尸魂界(ソウルソサエティ)は遂に重い腰を上げた。

 

 世界崩壊の原因たる滅却師(クインシー)を殲滅することで、事態の解決を図る為に。

 

 それが、滅却師(クインシー)と死神との間に新たな因縁を生み出す引き金となるとも知らずに――

 

 

 

 

 

『モノローグ、お疲れ様でござるよ』

 

 ありがと、射干玉♪

 

 ということで、これが大まかな滅却師(クインシー)殲滅作戦の概要……というか大義名分です。

 死神が「お前らが勝手に(ホロウ)を殺すとバランスが壊れて世界まで壊れるから、もう止めてくれ」と、何度訴えても聞いてくれない。

 対話・交渉という外交を何度続けても、聞いてくれない。

 

 じゃあもう殴り合いの外交しかないじゃない!!

 

 という結論になってしまったわけですね。

 戦争なんて拳を使った会話です。犠牲になる方はたまったものではありませんが。

 

 滅却師(クインシー)の事については、私も霊術院で習いました。

 今から八百年ほど前に彼らは瀞霊廷に侵攻してきて、その時には多大な犠牲が出たものの、死神側が勝利したとのこと。

 それ以降、いわゆる"戦勝国だから優越権がある!"といった感じで、死神は滅却師(クインシー)を説得し続けていました。コッチの言うこと聞いてね! と思い切り。

 瀞霊廷通信にも、ごく稀に記事が載っていましたよ。

 "滅却師(クインシー)に訴えるも話を聞かず! 小規模な戦闘に!!"みたいな見出しを添えて。

 

 しかし、八百年前の侵攻で滅却師(クインシー)たちの戦闘力は充分に分かっていたのに、殲滅という強引な方針に舵を切ったということは……

 お尻に火が付いてもうそれ以外の方法が選べなくなったか、はたまた誰かが裏で糸でも引きましたかね……?

 

 例えば、どこかの眼鏡を握り潰した優男……とか?

 

 

 

 

 ――と、幾ら考えたところで、わからないんですけどね。

 貴族でもなければ上位席官でもない私が、情報なんて持っているわけないですから。信じるしかないわけです。

 

 今の私にできることは、四番隊のお仕事だけです。

 

 あれからあっと言う間に月日は流れ、遠征の準備を寝る間も惜しんで――どこのバカですか! こんな短い期間で遠征用の物資を用意しろって言ったのは!!――完了させました。

 現在は遠征部隊の一員として後方支援任務の真っ最中です。

 

 後方支援とは言っても補給部隊兼医療班みたいなもの。

 怪我人が担ぎ込まれてくれば野戦病院よろしくその場で手術や回道を使ったり、食料や装備の補給をしたりで、戦闘なんてしないんですけどね。

 

 続いて戦局ですが。

 滅却師(クインシー)たちはとある地方に集結して抵抗していますが、死神側にじわじわとその戦力を削り取られている。

 決着は時間の問題といったところです。

 少し目をやれば、向こうの方で滅却師(クインシー)が霊子兵装から神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)を放った際の光や、死神が鬼道を唱えたであろう炎や吹雪が見られます。

 

 ええ、今私たちがいるのは最前線(ホットスポット)のすぐ後ろです。

 戦線を押し上げる度に移動して、天幕を張ってキャンプ地を作り、最前線で戦っている死神の支援をしています。

 卯ノ花隊長に至っては、攻撃の飛び交う交戦地帯まで行って救護しているそうです。

 

 ……後方支援って一体……?

 

 私より上位の席官も参加しているんですよ。

 でも全員が私よりも後ろです。卯ノ花隊長に続いて二番目に前線にいます。

 イジメかしら? というよりも、付き合わされてしまう私と同じ班の子たちが可哀想で仕方ないです。

 一応私がここの責任者なので湯川班、なんて呼ばれてます。

 班員はみんな優秀な子です。少なくとも昔の私よりもずっと優秀ですね。

 

 割と補給線が伸びてるから、どこかで寸断されて孤立した状態を押し潰されそうなものですが、押せ押せムードなので訴えても棄却されています。

 とはいえ、全隊長の半数に加えて総隊長まで来ているので負けることはないでしょう。

 

 怪我人や犠牲者が何人出るかは分かりませんが。

 

 み、未来のおっぱい候補生たちが……

 

 そしてもしも、この戦いでバンビエッタがやられていたら……

 参加しているのかどうかすら私には分かりませんが、もしも、もしもそうなっていたらと思うと……

 

「よっ! どうしたい? 暗い顔をしてるじゃないかい!」

「……あ、曳舟隊長! お疲れ様です」

 

 救護テントから外を見ていたところに声を掛けられました。

 彼女は十二番隊隊長の曳舟(ひきふね) 桐生(きりお) さんです。

 薄紫色にウェーブの掛かった髪と、どこか女豹を連想させるような容姿が目を引くとても美人な方です。

 男勝りと肝っ玉母さんを足して二で割ったような性格も容姿とマッチしていて、隊士たちからの人気も高いようです。

 が、まあ一番に目を引くのはそれよりも胸でしょうね。

 締めるのは窮屈だ! と言わんばかりにグッと大きく開いた胸元からは大きなおっぱいがこぼれ落ちんばかり。

 見ているだけで吸い込まれそうなほどに見事な谷間を隠そうともせずにいるので、男性隊士は目のやり場に非常に困るみたいです。

 

 ……ホント、この人もなんでこんな格好なのに強いんでしょうか? 私なんて必死で窮屈な想いをしているのに……

 

「すみません、ちょっとこの戦いが気になってしまって……」

 

 嘘ではありません。

 

「なんだ、死神たちが犠牲になるのが嫌なのかい?」

「それもありますけれど、滅却師(クインシー)が犠牲になるのも、好きではありません……」

「そりゃ、その気持ちは分からなくもないけどねぇ……けれど放っておきゃ、そのうち世界がぶっ壊れちまうんだ。上だってそれを分かった上での決断だろうよ」

「それは、そうなんですけどね……」

「そんな浮ついた気持ちでいると、足下を掬われちまうよ! ほらほら、差し入れを持ってきたから、怪我人たちに振る舞ってやんな!!」

「ありがとうございます」

 

 曳舟隊長は"仮の魂"と、それを"体内に取り込む"技術を創り出した者として名の知れた人です。

 そしてその"体内に取り込む技術"の応用で"食事をすることで身体を作る"という生物の基本的な機能を極限まで高めた人でもあります。

 なにしろ、彼女が作った食事を食べるだけで新しく霊圧を取り込んで強くなれる、というとんでもない力を持っているのですから。

 

 彼女が持ってきてくれた差し入れは、その技術をちょっと医術に活かした料理でして。

 なんと"怪我人が食べると怪我が治りやすくなって、似たような怪我に耐性が出来る"という夢のような料理です。

 病院食としてはこの上ないですね。

 

「みなさん、曳舟隊長と十二番隊からの差し入れです! 焦らずに落ち着いて、ゆっくりよく噛んで食べてくださいね! 内臓に傷を受けた人は、特に気をつけて本当によく噛んでください! じゃないと死にますよ!!」

 

 そう告げると天幕の同僚たちに指示を出して、怪我人たちに渡していきます。

 大慌てで貪っていく者もいれば、私の指示を聞いてゆっくりよく噛んで食べる人もいます。が、その誰もが満足そうな表情を浮かべています。

 本当に美味しい物を食べた時にだけ浮かべられる、極上の笑顔です。

 

 その笑顔を浮かべている間にも、彼らは怪我がどんどん治っていってるわけですけどね。怪我人なので食べる量は抑えめなのですが、これなら明日には戦線復帰できる者もいるくらい。ガンガン治っています。

 

「こういう表情を見られると、冥利に尽きるねぇ……アタシも、藍俚(あいり)ちゃんに料理を教わった甲斐もあるってもんだよ」

「そんな! 私のしたことなんてホントに単純な事ですから」

 

 曳舟隊長は取り込む技術はありましたが、料理の腕や味はまた別だったようです。

 (私も食べたことがありますが、なんというか……とても個性的な味でした)

 その話をどこからか聞きつけた卯ノ花隊長が口を利き――

 

 私が推薦されました。

 料理を教えました。

 美味しくなりました。

 何故か効果も上がりました。

 なのでもっと教えてくれと言われました。

 

 ――というわけでして。

 

 一介の下位席官に一部隊の隊長が教えを請うという、少々異色な出来事を経て親しくなりました。

 あ、稽古を付けて貰ったことも一度だけあるんですよ。

 強かったです。ボロボロになりました。

 

「アタシはその単純な事すらわかってなかったんだよ! もっと自信を持ちなって!!」

 

 ハッパを掛けるように背中をバンバン叩かれます。

 

「前に藍俚(あいり)ちゃんが言った事があったろ? (うつく)しい(あじ)と書いて美味(おい)しいってさ。アレ聞いた時、感動してねぇ……!! もっと頑張らなきゃって思ったもんだよ!」

「実は……その言葉は引用しただけなんです……すみません……」

「そんなの気にしちゃいないさね! 誰が言った言葉だろうと、良い物は良いもんだ!」

 

 あははははは! と曳舟隊長は豪快に笑います。

 こういう気さくな性格も、人気の一つなんでしょうね。彼女を慕う死神は本当に大勢いて、特に――

 

「……っ!?」

 

 ――考えるより先に身体が動きました。

 

 一目散に天幕から飛び出しながら、同時に斬魄刀を抜き構えます。

 殺気と気配、そして霊圧がこの方向……向こうから伝わって来ています。

 

「な、なんだいこの霊圧は!?」

 

 曳舟隊長の声が聞こえると同時に――来ました!!

 霊子を固めた神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)が数本、音を置き去りにするほどの速度でこちらに向けて飛んで来ます。

 狙いは天幕の中の怪我人でしょう。

 前線の死神を迂回しながら移動してゲリラの様にこちらの陣地を狙う。ついでに補給地点を叩いて物資を奪ったり後方支援を途絶させる――その辺を目的とした破壊工作部隊といったところでしょうかね?

 

 というか、矢の数が多い!

 これはちょっと不味いです!! 斬魄刀だけでは難しいですね!

 

 ――虚閃(セロ)!!

 

 大勢の死神がいるので、さすがに口には出せません。

 片手に収束させた霊圧を壁になる様に放ちます。言霊を介さない(技名を口にしない)ため威力は下がっていますが、それでもどうにか矢を全部纏めて叩き落とせました。

 やはりこの速射性は鬼道にはない便利さがありますね。

 

「曳舟隊長! 申し訳ありませんが、万が一に備えて天幕内の怪我人を守ってください! 場合によっては後方への移送を!! 他の四番隊隊士は曳舟隊長の補佐!! 私は最前列で此処を死守します!!」

「あ、ああわかったよ! あんたたち! 藍俚(あいり)ちゃんに恥かかせるんじゃないよ!! 藍俚(あいり)ちゃんも、死ぬんじゃないよ!!」

 

 正面から視線を切らずに睨み付けながら叫びます。

 私ならば足止めくらいは出来るでしょうし、自慢じゃありませんが自己を回復させる腕前は嫌という程に上達しています。

 そして曳舟隊長の腕前なら仮に私が突破されても対処できますし、そんな戦況であっても怪我人を守る事も可能でしょう。

 

(まみ)れろ、射干玉!!」

 

 敵が次の矢をつがえているであろう間隙を縫うようにして、始解を発動させます。

 射干玉! 今回だけはお遊び抜きで真面目にお願いね。

 

『出番キター!! お任せあれ! お遊びもおふざけも、ワサビも抜きの真面目さマシマシで行くでござるよ!!』

 

 またそういうことを……と、文句を言ってる場合じゃないですね。

 

「くそっ! あれに気付く死神がいるとは……」

「超長距離狙撃は失敗した! けれど、次は外さない!!」

 

 飛廉脚(ひれんきゃく)によって移動してきたのでしょう。

 数人の滅却師(クインシー)たちが視線の先から一瞬で姿を現しました。

 全員が霊子で構成された翼のような装備を身に纏っており、パッと見ただけならば天使のようにも見えます。

 

 情報だけなら伝わってきていますが、実際に目にしたのは初めてです。

 

 あれが滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)……強力な戦闘能力を発揮出来る姿です。

 

「死ねぇっ!!」

 

 全員が弓を構え、そこから無数の矢を放ってきます。

 先程の攻撃が針の穴をも通すスナイパーライフルによる狙い澄ました一撃とすれば、今回はマシンガンの乱射。

 合算すれば一万発に届きそうな程の膨大な霊子の奔流が私と背後の天幕目掛けて浴びせられました。

 けれど今回は、少しだけ余裕があります。

 

「縛道の八十一! 断空(だんくう)!!」

 

 力ある言葉によって生み出されたのは、周囲を幾重にも取り囲む防壁。

 八十九番以下の破道を完全に防ぐ特殊な壁を生み出す断空という縛道、それに霊圧を複雑に編み込むことで、複数回詠唱したのと同じ効果を生み出す"疑似重唱(ぎじじゅうしょう)"という技術を組み合わせて使っています。

 

 その効果は劇的の一言。

 光の壁は視界を埋め尽くさんばかりに輝き、滅却師(クインシー)たちの矢を一本残らず防ぎ切ってもなお煌々と輝きその存在を誇示しています。

 

「な、なんだこりゃ!?」

「落ち着きなさい!! 前線で別の死神も使っていたでしょう!?」

 

 ああ、やっぱり誰かが使っていたんですね。

 断空は鬼道でなくとも、近い性質の攻撃であれば防御可能ですから。ここに来る前に経験していてもおかしくはありません。

 

 ……って、今言ったのって女性の滅却師(クインシー)ですか!?

 

 よくみれば確かに。

 戦闘で邪魔にならないようにするためでしょう、黒い髪を短く纏めており、立ち振る舞いや顔つきがあまりに凜々しかったので気付くのに遅れました。

 男性の中に混じって一人だけ、女性がいます。

 学級委員長を更に尖らせた様なタイプ、とでも表現すべきでしょうか? 厳格な雰囲気の中性的な美人さんですね。

 

「一度でも経験があるのなら、わかるでしょう? この壁は簡単には破れないし、簡単に突破させるつもりもない。下がりなさい!!」

「抜かせ!! ここで退けば、お前たち死神は我々を皆殺しにするんだろうが!!」

「そうよ! 滅却師(クインシー)の誇りにかけても、そんな無様な真似は出来ない!!」

 

 く……っ……! 言葉だけでは退いて貰えませんか……

 滅却師(クインシー)たちはそう叫びながら再び矢を放ちますが、たった一本ですら断空を突破できません。全ての矢が無力化されていきます。

 

「くそっ! なら術者だ!!」

「甘い!」

 

 私へと狙いを切り替えましたが、この程度なら問題ありません。

 襲い掛かる矢は斬魄刀で打ち払い、瞬歩(しゅんぽ)で一足飛びに接近すると返す刀で霊子兵装だけを切断します。ついでに粘液を塗りつけておいたので、仮に拾えても滑って使い物になりませんよ。

 

「どけっ! コイツならどうだ!?」

 

 私が移動したことで断空を破る好機と思ったのでしょう。

 また別の滅却師(クインシー)が矢の代わりに光を放つ剣のような物をつがえ、放ちました。

 

『ひょっとしては魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)でござるか!? 藍俚(あいり)殿、あれは下手をすると……!!』

 

 わかってるわよ!

 

 ――虚弾(バラ)! ……と同時に!

 

「破道の五十八! 闐嵐(てんらん)!!」

 

 さすがにあの一撃は断空で防いでも破壊されそうだったので、少し小細工をさせてもらいました。

 虚弾(バラ)を衝突させることで矢の勢いを殺しつつ、鬼道で生み出した竜巻で矢そのものを完全に吹き飛ばすことで無力化します。

 風の盾を得たことで断空の守りは更に強固となりました。同じような手段でもこれでかなり耐えられるはずです。

 

「ならこれでお前を!!」

 

 今度は光の剣を同時に何本もつがえ、私に放ってきました。

 至近距離からの束ね撃ちは確かに速くて強烈です――が、毎月死にかけている(卯ノ花と稽古している)身からすれば、このくらいは十分に対応可能です。

 複数本の矢をまとめてたたき落とし、ついでとばかりにその内の一本を掴んで止めてやりました。

 挑発や力の差を見せつけると言う意味ではかなりの効果があることでしょう。

 

「掴んだ、だと……!?」

「化け物め!」

 

 挑発が功を奏したらしく、他の滅却師(クインシー)たちも私に狙いを定めてきました。この距離と位置関係では仲間を撃つ可能性も高いというのに、怯むことなく矢を連射してきます。

 ……あれ!? さっきの美人さんがいない!?

 

「今だッ! やれえぇッ!!」

「どの道、この任務に生きて帰るという選択肢はない!! ならば……!!」

 

 私への攻撃は足止めと目眩ましですか!

 女性滅却師(クインシー)は懐からなにやら無数の筒をくくりつけたベルトのような道具を取り出しながら、天幕目掛けて突撃していきます。

 

滅却師(クインシー)の未来に栄光あれっ!!」

 

銀筒(ぎんとう)!? 藍俚(あいり)殿、アレはもしや……ッ!!』

 

 言われなくても見当が付くわよ!!

 

 筒の一本一本から強力な霊力を感じ取れますし、行動と言葉だけでも何をしようとしているのかは容易に推測できます。

 そもそもあの弾帯(だんたい)――機関銃の銃弾を横一列に繋いだ帯――を見れば、何をしたいのかは一目瞭然。これでも前世は男の子ですよ!

 

「やめなさい!」

 

 弾幕を掻い潜り接近しますが、どうやら僅かに遅かったようです。彼女が手にした筒が急激に霊力を高めていきます。

 自爆特攻だなんて……ああもうっ! 手荒な真似をしないと止められないわね!!

 

「歯を食いしばりなさい!!」

 

 その声は果たして相手に届きましたかね?

 斬魄刀で彼女の片腕を切断して、腕ごと強引に弾帯を奪い取ります。持った瞬間にわかりましたが、これもう爆発する寸前!! 処理してる時間がない!!

 

「ぐっ!! なにを……!!」

「ままよ!!」

 

 こうなったら力尽くで! 強力な霊圧で弾帯を押さえ込み、爆発の規模と被害を無理矢理にでも減らしてやります!

 と同時に、抱え込んだ弾帯が連鎖爆発を起こしました。

 

「やったか!?」

「くっ……暴発だ!?」

「だがあの死神も、これなら耐えられるはずがない!」

 

 滅却師(クインシー)たちは口々にそう言います。

 

「……勝手に殺さないで貰える?」

 

 が、煙の向こうから私が姿を現した途端、その声はピタリと止まりました。

 

「あ痛たたた……結構効いたわね」

「なん、だと……」

「嘘、だ……ろ……」

 

 とはいえ無傷とはいきません。

 至近距離で爆発を受けたので死覇装はボロボロ、身体はあちこちが焦げ痕だらけです。

 爆発を押さえ込みつつも一部にワザと穴を開けてそこから力を逃がしたおかげで何とか耐えられました。でなければ多分、間違いなく戦闘不能になっていたことでしょう。

 庇う物(・・・)色々(・・)ありましたからね。

 

 ……あれ? でも隊長とお稽古していた時の方がよっぽど大怪我していたような……

 

「退きなさい」

 

 とにかく、今は説得の絶好の好機。

 

「これ以上は命の保証はできません」

 

 力で圧倒しているからこそ話を聞いて貰え、要求も呑んで貰える。

 そんな場合も時にはあります。

 

「私たちは……私は、滅却師(クインシー)を滅ぼしたいのではなく、むやみに(ホロウ)を殺されて、魂のバランスを崩されたくないだけです」

 

 ならば説得です。説得しかありません。

 

「もしもあなたたちの親・兄弟・親友・恋人……そういった、大切な人が(ホロウ)になってしまった時に、それでもあなたたちはその(ホロウ)を殺せますか? 罪を償う機会を与えて欲しいと、思いませんか?」

 

 ……だってもしもここでこの人たちを殺しちゃったら、バンビエッタに会えないかもしれないじゃないですか!!

 そうでなくても、この人たちの子孫が美人になって私に会いに来てくれるかもしれないじゃないですか!!

 そもそもこの女性滅却師(クインシー)さん、美人です。その時点で殺したくなんてありませんよ!!

 

滅却師(クインシー)の力を全て捨てろとは言いません。生き方を否定するわけではありません。ただ、世界を壊さないように共存する……そんな生き方もあるとは思いませんか?」

 

『必死すぎワロタでござる! (ケダモノ)!! まさに可能性の(ケダモノ)でござるよ!』

 

 そこ、うるさい! というか、あんたも同意見でしょうが!! こっちだって分かるようになってきてるのよ!!!

 

「私たちを……許すというのか……?」

「……拠点に攻め込まれたが辛くも追い返す事に成功した。でも襲撃者たちには逃げられました……私に出来るのは、そんな報告をするだけよ……」

「…………」

 

 私の言葉に、彼女は斬られた腕を押さえながらも思案を続けていましたが――

 

「……撤退するぞ」

「お、おい! それじゃあ……」

「もう一度言う、撤退。隊長命令よ」

 

 彼女、隊長だったんですね。

 というかこの任務自体、決死隊でしょうし……命令とはいえ、どこか思うところがあったのかも知れません。

 

「待ちなさい」

 

 あ、いけない。

 部下を引き連れて戻ろうとする彼女を慌てて呼び止めます。

 

「腕を出して」

「何故だ?」

「いいから!」

 

 有無を言わさず強引に彼女の肩を掴むと、そのまま回道を施します。

 

「これは……腕が、治った!?」

「嘘だろ!! こんな一瞬で!?」

 

 斬った腕はずっと抱えていました。爆発からも守りました。なので無傷です。

 彼女は驚いたように繋がった腕をグーパーさせていますが、見た感じ違和感は一切ないみたいです。

 まあ、このくらいならもう慣れっこですから。

 主に自分の身体で何度も何度も……

 

「これは独り言よ。単純に片腕だと色々と大変だって思った。だから、爆発からも必死で守った……私は敵を追い払っただけだし、他の死神に見つかったらこうはならないかもしれないから気をつけて」

「……そうか。ならばこれも独り言だ。私たちは死神と共存することは出来ても、(ホロウ)の存在を許すことは絶対に不可能だ。ただ、お前の気持ちはありがたかった」

 

 互いにそう言い合うと、彼女たちはどこへともなく走り去って行きました。

 

 

 

 

 

「ははっ! 藍俚(あいり)ちゃん、大したものじゃないか!! アタシも万が一に備えて隙を窺っていたんだけどねぇ。出る幕がなかったよ」

「曳舟隊長! そちらの方は大丈夫でしたか!?」

 

 戦闘が終わったところで、曳舟隊長が再び顔を出してきました。

 

「ああ、大丈夫だよ。動かせる奴は後方に移送したし、十二番隊(ウチ)の隊士も護衛につけたからね。天幕の中の奴らも全員、擦り傷一つ負っちゃいないさ」

 

 良かった、コッチにも被害は無しですか。

 天幕の中では敵が去ったことで、助かった! と言う声が口々に聞こえてきます。

 

「でもいいのかい? あいつらを逃がしちまって?」

「私の任務は後方援護と怪我人の治療ですから。滅却師(クインシー)を殺せとは命令されていません」

 

 こういうのって命令の拡大解釈とかに当たるんでしょうかね?

 まあ、四番隊の十四席ならその程度でも仕方ない。と思って貰えるでしょう、多分。

 

「確かに、ねぇ……怪我人も拠点も守ったし、充分に仕事はしただろうね。けれど、今回の作戦からすりゃあ、倒せば評価も上がっただろうに……まっ、そこが藍俚(あいり)ちゃんらしさだね」

「そんな。守れたのは、相手が後方の救護施設だと思って油断していたおかげですよ。もっと手練れが来ていたら、私じゃ太刀打ちできませんでしたから」

「……ん?」

 

 曳舟隊長が不思議そうな顔をしました。

 

藍俚(あいり)ちゃん、アイツらは弱かったって思ったのかい?」

「……はい? いえ、確かに強かったですが、あの程度なら」

「…………そりゃまた……」

「????」

 

藍俚(あいり)殿……』 

 

 何、射干玉? どうかしたの?

 

「まあ、いいさね。あと、今回みたいな緊急事態は――規模から考えればそうそう起こらないだろうけれど、もし第二陣が来ても藍俚(あいり)ちゃんがいれば問題なさそうだね」

「そうですね、湯川班長がいれば!」

「凄く恐かったですけれど、凄く助かりました!!」

 

 班員のみんなもそう言ってきます。

 

 うーん、そこまでお礼を言われるようなことはしていないはずなのですが……

 

「まあなんだね、藍俚(あいり)ちゃん。まずは着替えておきな」

「え……? あ……っ!!」

 

 自爆を全力で抑え込んだとはいえ、その余波で服がボロボロです。ところどころ素肌が見えてました。

 

 ああもうっ! 最後の最後で締まらないなぁ……

 




●滅却師殲滅作戦
原作の200年ほど前に行われた、死神と滅却師の大規模戦争。
その戦いの結果、死神たちが滅却師を殆ど皆殺しにしてしまう。
なので滅却師は希少種になった。

ユーハの部下(見えざる帝国に引き籠もっていた奴ら)は助けに行かなかった。
見えざる帝国の外にいた滅却師たちだけが標的となって殺された。
(だからここで皆殺しにしてもバンビエッタは後々普通に出てくる)
(という認識でいいのだろうか?)

ただ(書いておいて何ですが)「突然ですが今から戦争します」みたいな突然の通達は普通しないと思う……
(いやでも卯ノ花さんだしなぁ……)

●滅却師最終形態(クインシー・レットシュティール)
●滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)
前者が、石田雨竜が爺さんに教えて貰った方。
後者が、最終章で使われていた方。
(どちらも辞書登録必須)

前者と後者は広義的には同じ物らしい。

前者は、身体がぶっ壊れるほどフル活用して強化するもの。
後者は、陛下に貰った力を「コレが俺の力だ!」と虎の威を借りて強くなるもの。

でいいのかな?
ここにいる滅却師はもしかしたら使えないのかも知れません。
でもまあ使えてもいいや、くらいの精神で。多めに大目に見てください。
(滅却師の細かい設定部分がホントに分からない)

●眼鏡を握り潰した優男
一枚噛んでいてもおかしくない、と思わせる程度には実績がある。

●曳舟 桐生
零番隊だともっと強力な効果を持つ料理を作れている。
ならば十二番隊の時点でもこのくらいは出来るだろうと想定。
(あと接点を作りたかったというのもあってお料理絡み)
この時点での彼女は、原作でいう「全力お料理後」の姿でいいはず。

●疑似重唱
RPGなどにある「通常の数倍魔力を注ぎ込んで効果を拡大する」というアレ。
(小説版にて、大前田の父親が使っていた)

●滅却師の使った道具
原作だと石田雨竜が使っていた物。なら他の滅却師が使ってもいいじゃない。
魂を切り裂くものは、超振動する剣みたいな形状の矢。
銀筒は、霊力をたっぷり溜め込んだ筒。多分特攻にも使えるはず。

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