お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

343 / 406
第341話 卍解は奪われるのがお仕事

「奏でろ、金沙羅!」

「バーナーフィンガー(ワン)!」

 

 斬魄刀を始解させ鞭のような形状へと変化させると、ローズはそのまま鞭を巧みに操りバズビーへと襲いかからせた。

 それを見たバズビーは再び人差し指の先から超高温の熱線を放ち、鞭を半ばほどから切り裂こうとする。

 

「甘いね」

 

 迫り来る熱線を視界に捕らえながら、ローズは手首を軽く捻った。

 その瞬間、鞭は生きているように曲がりくねって軌道を変えると熱線をひらりと避けながら、なおもバズビー目掛けて襲いかかる。

 

「おおっと! 効かねえんだよ!!」

 

 ローズの始解、金沙羅は斬魄刀の刀身を鞭のように変化させるものだ。だが普通に考える鞭とは少々形状が異なり、先端には薔薇の花を模した刃が備えられている。

 その刃を相手に突き刺すことが、金沙羅の基本的な攻撃方法だ。

 

 音速に近い速度で襲いかかってくる刃を、けれどもバズビーは腕を盾のように翳して防いでみせた。

 相手に突き刺さり食い込むはずだった一撃は、まるで鉄板を叩いたように刃を通すことなく弾かれてしまう。

 

「おや? どうやったかは知らないけど、防いだのか……厄介、だなぁッ!!」

「させっかよ!!」

 

 弾かれ、勢いを失った金沙羅を手元の操作で復活させると再びバズビーへと向かわせる。

 だがその単調な攻撃を不審に思ったのだろう。バズビーは地面を強く踏みつけると、その場所を中心に高熱が噴出して金沙羅を弾き飛ばした。

 

「バーナーフィンガー(ツー)!!」

「ちッ!」

 

 噴出させた高熱を煙幕代わりにしながら、バズビーはローズへと襲いかかる。

 今度は人差し指と中指の先の二カ所から熱線を生み出すと、それを鉤爪のようにして直接斬りつけてきた。

 凄まじい速度で放たれた攻撃を完全には避けきれず、高熱の鉤爪はローズの身体を僅かに切り裂く。

 

「甘ぇ!」

「……ぐあっ!?」

「鳳橋副隊長!?」

 

 焼き裂かれる痛みを傷口から感じた瞬間、火柱が上がりローズを包み込んだ。

 突然の事態に戸隠が部下の隊士たちの救助すら忘れて叫ぶ中。炎を切り裂くようにローズが姿を見せる。

 

「甘く見ていた、わけじゃないんだけどねぇ……まさか爆発するとは……」

「つい2本目を使っちまったが。ま、これで分かっただろ? てめえじゃ俺に勝てねえんだ」

「確かに、始解だけじゃ無理かな」

 

 霊圧を斬魄刀に集中させるローズの姿を見ながら、バズビーは小さく口笛を吹いた。

 

 

 

 

 

「スター・パーンチ!!」

「蛇尾丸!」

 

 始解させた恋次の斬魄刀の攻撃をまともに受けながらも、マスキュリンは傷一つ付けられることなく拳を振り抜いた。

 暴風のような威力を誇るパンチは、蛇尾丸の刃ごと恋次を吹き飛ばすほどだ。

 

「ふははははははっ!! 見たか死神よ! 正義のヒーローたるワガハイには、その程度の攻撃など効かぬ!!」

「うおおっっ!! ……なんてな。おらぁッ!!」

 

 吹き飛ばされた不安定な体勢になりながらも、恋次は冷静に斬魄刀を振るってマスキュリンへ再び攻撃を仕掛ける。

 高笑いしていたせいでマスキュリンの反応が一瞬遅れ、その攻撃をまともに受けることとなった。

 

「き~か~ぬ~……わぁっ!!」

「うおおおっ!!!」

 

 本来ならば身体をズタズタに切り裂くほどの威力のはずのその攻撃は、だがマスキュリンの身体を浅く切り裂くだけに留まっていた。

 半端な攻撃が注意を引きつけたらしく、お返しとばかりに恋次に向けてドロップキックが飛んでくる。

 それを無理矢理身体を捻って躱しながら、恋次は相手の様子をつぶさに観察し続ける。

 

 ――いくら不安定な体勢だからって、あんなに弱い攻撃になるわけがねえ! あとチラッと見えたが、攻撃を受ける時に体中に妙な文様みたいなのが浮かんでいやがった……ってことは、アレで攻撃を防いでるって事か!?

 

 蛇尾丸の一撃で衣服が切り裂かれ、その下の身体が見え隠れしている。

 そこから血装(ブルート)の文様が浮かび上がっているのを確認した恋次は、伸びきっていた蛇尾丸の刀身を一旦引き戻す。

 

「だったら、顔面はどうだ!?」

「なんと!!」

 

 引き戻した刃を腰だめに構え、相手の顔面目掛けて放つ。するとマスキュリンは大慌てで攻撃を避けた。

 やはり顔面なら効果があるのか!? と心の中でガッツポーズ

 

「貴様! マスクを剥いでワガハイの正体を白日の下に曝け出そうとするとは!! それは……それだけはダメだろうが!!」

「何がダメなんだよ!?」

 

 攻撃が恐ろしかったのではなく、マスクが破壊されるのを本能的に避けただけのようだ。

 どうやら「お前平田だろ!」とか言われるような真似はプロレスラー的に――もとい、正義のスーパースター的に御法度らしい。

 

「ええい、悪党の風上にもおけぬ奴め!! 貴様は10(テン)カウントではなくKOにて完全決着させてもらおう!!」

「そりゃこっちのセリフだ!!」

 

 ……恋次にはよく分からない美学だったが、相手を無駄に激昂させたことだけは理解できた。

 そして、相手が冷静さを欠いているということと、頭部の防御に意識が強く向けられているということも。

 

 ――なら、今が攻め時ってわけだ!!

 

 

 

 

 

「捩花!!」

 

 キルゲから放たれた神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)を、海燕は腰から斬魄刀を一振りだけ引き抜き始解させる。

 三つ叉の矛へと形状を変化させたその斬魄刀にて水を操ると、そこから生み出した流れに神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)を乗せて攻撃を見事に逸らす。

 

「いきなりやってくれるじゃねえか!! てめえらは下がってろ! コイツは俺が倒す!!」

 

 放たれた霊圧は平隊士では勝負にならないほど強烈なものだった。

 海燕は受け流しながらそれを感知し、大声で部下達に下がるように命じながらも自身は強烈な水流をキルゲに放つ。

 

「なるほど、これが捩花の能力……つまり私の相手は貴方ということですか」

 

 サーベル型の霊子兵装に霊圧を纏わせ、襲いかかる水を切り裂いて防ぎながら感心したように呟いた。

 そして、キルゲは海燕の腰に揺れるもう一振りの斬魄刀に視線を向けながら問いかける。

 

「でしたら、その腰のもう一本を使っても構わないのですよ? 遠慮なさらずに」

「コイツ……!」

 

 もったいぶった言い回しに、だが海燕は敵の言わんとするところを察して思わず顔を引きつらせた。

 先ほど「情報(ダーテン)に記載されている」と告げていた事からも推測できるように、自分たちの情報は完全に筒抜けらしい。海燕(じぶん)が「二振りの、それぞれ別の斬魄刀を持っている」ことも含めて。

 付け加えるなら、明らかに二本目の斬魄刀を抜くように誘っているのだということも直感的にだが理解できた。

 

「へっ! テメエなんざ捩花だけで十分なんだよ!!」

「そうですか……ならば、そのまま死んでいきなさい!」

「させん!!」

 

 再び神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)を放とうとするキルゲであったが、そこにルキアが割り込んできた。

 敵の攻撃を妨害するように斬魄刀を振るい、キルゲの眼前に立ち塞がる。

 

「朽木!? よせ、コイツは俺が……!!」

「いえ、ここは私が出ます! まだ別の敵が出てこないとも限りません! 海燕殿は後詰めと他の隊士たちへの指示をお願いします!」

「だが……!」

 

 未だ隊長が到着していないこの場では、その意見は頭ごなしに否定しがたいものだった。

 そうでなくとも前座の破面(アランカル)が暴れたおかげで状況は混乱しているのだ。海燕が中心となって立て直しに走るというのも間違いではない。

 付け加えるならばルキアの実力も海燕はよく知っている。

 

「それに、ご存じでしょう? 私も卍解を習得しました! 手練れの相手といえど、もう遅れは取りません!!」

「ほう……それはそれは……」

 

 ルキアの言葉にキルゲは、サングラスの奥で瞳を見開く。

 

 

 

 

 

「どうした? 根性はこれで打ち止めか?」

「ぐ、あああ……っ……!! な、舐めんなコラああぁっ!!」

 

 金属製の触手に腹部を貫かれながらも、射場は歯を食いしばって耐える。

 手にした斬魄刀で触手を切り落とすと、痛みを無視してBG9(ベーゲーノイン)へと斬りかかっていく。

 だがその動きは精細を欠いており、容易に回避されてしまう。

 そして、それが限界だったのだろう。腹部の傷を抑えながら射場の動きが止まった。

 

「観測終了。お前は死神が感情や精神でどの程度強化されるかについての、良いサンプルだった。だがもう生かしておく必要はない」

「くそ……ったれ……がぁ……っ……!!」

 

 無機質な声で、再びBG9(ベーゲーノイン)は金属の触手を伸ばす。

 数本切り落としたところで焼け石に水と言わんばかりのその行動に、悪態を吐くのが精一杯だ。

 だがそれら触手が襲いかかることはなく、代わりにBG9(ベーゲーノイン)はその場から大きく飛び退いた。それに一瞬遅れて巨大な刀が降ってくる。

 

「コイツは天譴! っちゅうことは……!!」

「無事か、鉄左衛門!」

「隊長!! ……あぐぐ……っ……!!」

 

 狛村の姿を見た瞬間、射場は思わず安堵したように息を吐き出した。と同時に張り詰めていた気が抜けたのだろう、腹の傷が猛烈に痛みだして、その場に蹲る。

 

「痛むか? だがもうしばらくの辛抱だ。儂も気をつけるが、この場から離れていろ」

「すんません、そうさせて貰います……」

 

 言い回しから、卍解を使うのだと察した射場は痛む傷を抱え、おぼつかない足取りで離れていく。

 それを気配で確認しながら、狛村はBG9(ベーゲーノイン)を睨み付ける。

 

「貴様はどうやら、襲う場所を間違えたようだな」

「間違えた? 質問の意図が不明瞭だ。一体何を間違えたというのだ?」

「この場所は黒稜門からの距離が近い」

「距離が近いのは理解している。それがどうして失敗に繋がるのか、その因果関係が不明だ。さらなる説明を求める」

「すなわち、儂が即座に駆けつけれるということだ!! おおかた、儂ら隊長が来る前に姿を消す腹づもりだったのだろうが、逃げられると思うな滅却師(クインシー)!!」

 

 

 

 

 

「やめてぇ! みんな、ミーのために争わないで!!」

 

 白々しい声と口調でぺぺが叫ぶ。

 その視線の先では十番隊の隊士たちが、互いに互いの仲間を傷つけ合っていた。

 

「お、おいなんで俺を襲う!? しっかりしろ! 目を覚ませ!!」

「何を言ってんだよ!? 俺は正気だ! ただぺぺ様の為にお前を斬ろうとしているだけじゃねえか!!」

 

 つい一瞬前まで肩を並べていたはずの仲間たちが突然、仲間割れしたように同じ死神へと攻撃を仕掛けてくる。

 その異様な様子に驚きながらも、攻撃を受け止めながらなんとか説得しようとする。

 だが仲間に刃を向けている死神は、さも当然といった様子で狂ったことを口にし続けながら躊躇うことなく仲間に刃を振るっていた。

 

「ミーの愛を感じれば、幸せになれるんだから! だからみんな、負けないで!」

「「はい! ぺぺ様!!」」

 

 ぺぺの言葉に、半数ほどの死神たちが目に見えて奮起した。

 

 聖文字(シュリフト)が示す様に、ぺぺの持つ能力は愛だ。

 手でハートマークを作り霊圧を込めて撃ち出し、それが命中した相手を「自分が忠誠を誓うべきはぺぺである」と認識を書き換えてしまう。

 しかも恐ろしいことに、その愛を受けた者は自分が操られていることに気付くことはなく、ぺぺの為ならば死すら厭わない。

 

 つまり、ぺぺという汚いオッサンのことを心の底から愛してしまい、彼のためならどんな状況でも何を裏切っても当然だと思ってしまうのだ。

 こんな恐ろしい能力は、そうそう無いだろう。

 付け加えるならば、彼が放つハートマークの汚い(きたねえ)こと汚い(きたねえ)こと。それは「()ピンク」と表現するのが相応しい絶妙な色合いをしていて、本能的に「絶対に触りたくない」と思わせるのに十分なインパクトを持っている。

 

 閑話休題(それはそれとして)

 その愛の能力にてぺぺは周囲にいた死神たちの半数ほどを操り、同士討ちを命じたのだ。だが狙いは互いに潰し合わせるのではなく、隙を作り出させるためだ。

 

「松本副隊長! 自分は、副隊長のことをお慕いしていました!」

「自分もです! そのおっぱいと谷間に、いつだって目が釘付けでした!!」

「ですが今は、ぺぺ様のために死んでください!!」

「ああ、そう! こんな状況じゃなけりゃ、デートの一つくらいはしてあげたんだけどねっ!!」

 

 ……こんな風に。

 

 部下たちから妙な言葉と斬魄刀を向けられ、辟易しながら乱菊は叫ぶ。

 ぺぺの汚いハートマークを本能で避けたものの、部下たちは見事に術中に落ちていた。

 

「あんたたち! 目を覚ましなさい!!」 

「痛い! なんてことをするんですか!! これじゃあ……これじゃあ、ぺぺ様のお役に立てなくなるでしょうが!!」

 

 動きを封じるべく灰猫を操って部下たちを傷つけるものの、彼らはその傷を無視するかのように襲いかかってきて――

 

「てめえら……頭冷やして反省しやがれ!!」

 

 ――そのまま氷漬けにされた。

 

 氷漬けといっても身体と口の自由を奪っているだけなので、命までは奪っていない。

 付け加えるのなら、愛の能力を封じ込める手段としては最適解の一つである。

 こういった相手の精神を操る能力は、常として術者を倒せば解除されるものだから。

 

「隊長、いいところに! 助かりました!!」

「何が起こったのかは分かんねえが、何が悪いのかは分かる……テメエだな?」

 

 そう口にしながら日番谷はぺぺを睨み斬魄刀を向ける。

 

 彼もまた狛村同様、偶然にも黒稜門から近い位置に部下たちが展開していたため、こうして他隊長に率先して合流できた。

 とはいえ現場に辿り着くなり部下たちは同士討ちの真っ最中、さらには副隊長を襲っている部下たちとぺぺの姿を見る羽目になるとか……シロちゃん可哀想……

 

「ゲッゲッゲッ、隊長の日番谷君だよね? 嬉しいなぁ、キミもミーの愛のために来てくれたんだね」

 

 斬魄刀を向けられながらも、ぺぺは一切反応を見せることなく日番谷へと下卑た笑いを向ける。

 その笑顔に日番谷は思わず背筋を震わせ、彼に一切の容赦なく卍解を使わせることを決意させた。

 

「おぞましい顔と格好しやがって……とっとと倒す!!」

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「「「「「卍解!」」」」」

 

 鳳橋楼十郎(ローズ)

 阿散井恋次。

 朽木ルキア。

 狛村左陣。

 日番谷冬獅郎。

 

 五名の死神は、目の前の滅却師(クインシー)を倒すべく卍解を発動させる。

 それを待っていたかのように滅却師(クインシー)たちは、星章(メダリオン)と呼ばれる真円状の金属板を取り出してみせる。

 

金沙羅舞踏団(きんしゃらぶとうだん)!」

双王蛇尾丸(そうおうざびまる)!」

白霞罸(はっかのとがめ)

黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)!」

大紅蓮氷輪丸(だいぐれんひょうりんまる)!」

 

 五名の死神の卍解が発現し――

 

「嘘だろ……!!」

「な……っ!!」

「何なのだ、これは……」

「これは……!!」

 

「チッ! やっぱりかよ……」

 

 四名の死神と、一名の滅却師(クインシー)が声を上げる。

 

「「「「卍解を、奪われた!!」」」」

 

「卍解は、奪えねえか!!」

 

 言葉の意味は、真逆であったが。

 

 

 

 

 

 ――卍解を奪えない……だって……!?

 

 金属で出来たメダルのような物を握りながら忌々しげに吐き捨てたバズビーの言葉に、ローズが疑問を持つのは当然のことだった。

 

 敵の言葉をそのまま信じるのならば、卍解を奪う方法が用意されていたということ。

 そして、何が理由かは不明だが自分は卍解を奪われなかった――より正確にいうのならば「やっぱり」と言っていたことから、奪えるかどうかは賭けだったのだろう――ことが推測できる。

 

 ――ボクの卍解だけが無理なのか……それとも誰の卍解であっても奪える可能性と奪えない可能性が等しくあるのか……見極めたいところだけど……

 

「そうノンビリもしていられないか!」

 

 思考を打ち切り、ローズは卍解にて攻撃を仕掛ける。

 

「戸隠君! 卍解を奪われるかもしれないと全隊士に連絡を!!」

「は、はい!!」

 

 同時に手早く命令を下し、危険性を周知させることも忘れない。

 何しろ彼は、本来ならば隊長となっていたはずなのだから。

 

 

 

 

 

「卍解を発動させたので思わず星章(メダリオン)を使ってしまったが……卍解は隊長しか持っていないのではなかったのか!?」

 

 手にしたメダルに視線を落としながら、マスキュリンは訳が分からないといった様子で頭の上に疑問符を浮かべていた。

 だが、訳が分からないと言いたいのはむしろ恋次の方だ。

 

「テメエ、一体何をしやがった……!?」

「なんだ理解できぬのか? 卍解を奪ったのだよ。悪党から力を奪い、その力で悪党を成敗する。これぞ因果応報! これもまたスーパースターの勤め!!」

 

 言われるまでも無く、斬魄刀からの反応が鈍いのは本人がよく分かっていた。

 

 ――何が起こった……!? ちょっと前に、蛇尾丸たちが実体化して勝手に暴れたことがあったが……あん時みたいなもんか!?

 

 

 

 

 

 ――いや、違う! あの時よりももっと……ごっそりと、まるで半身を失ったかのようだ!!

 

 恋次と同じ感想を、ルキアもまた抱いていた。

 手にした斬魄刀はまるで木の枝のように頼りない物に感じられ、彼女は全身から冷や汗を吹き出す。

 

「おい朽木! お前、卍解を奪われたって……」

「ええ、本当のことですよ」

 

 海燕の疑問の言葉に、キルゲが星章(メダリオン)を見せびらかすようにしながら答える。

 このとき海燕がもう少しだけ注意深く見ていれば、星章(メダリオン)が黒く染まっていた事に気付いていただろう。

 

「卍解を奪い取ることで、あなたたち死神を弱体化させる……あまり使いたくはなかったのですよ。死神の力で滅却師(クインシー)の聖なる力が穢れてしまうので」

「……その割にゃ、嬉しそうじゃねえか……」

「ええ、そうです。そうですとも! 朽木ルキア、貴女の卍解だけは例外として認めても良い! 尸魂界(ソウルソサエティ)で最も美しいとされる斬魄刀ならば、私に花を添えてくれることでしょうから!!」

 

 言葉とは裏腹に機嫌の良さそうな相手の様子を不審に思い尋ねれば、キルゲは堰を切ったように上機嫌でしゃべり出した。

 

「付け加えるのならば、氷雪系というのも素晴らしい。地獄には悪魔どもを氷漬けにするコキュートスという場所があるそうですが……神罰を体現するのに相応しいとは思いませんか?」

 

 

 

 

「卍解の奪取、完了」

 

 手にした星章(メダリオン)をスキャンし終えたBG9(ベーゲーノイン)は、完了の報告とばかりにそう口にする。

 

「隊長、卍解を奪われたって……まさか、んなアホなことが……」

「……事実だ」

 

 射場の言葉を、狛村は口惜しそうに肯定する。

 だがそのやりとりは、BG9(ベーゲーノイン)の耳には入っていなかった。

 狛村たちの存在など忘れ去ってしまったかのように、彼は手にした星章(メダリオン)に視線を注ぎ続ける。

 

「黒縄天譴明王……死神とリンクし、破壊されても死神とともに回復するという唯一の卍解……これならば……」

 

 機械音声にも似た無機質の筈の言葉が、この瞬間だけは妙に生々しい響いた。

 

 

 

 

 

「ゲッゲッゲッ、奪っちゃった貰っちゃった!」

「嘘だろ……おい、氷輪丸! 氷輪丸!! 何とか言ってくれよ……!!」

 

 星章(メダリオン)を手にして上機嫌なぺぺとは対照的に、日番谷は自らの斬魄刀へ必死に呼びかけていた。

 

「無駄無駄、この星章(メダリオン)は卍解を奪えるんだ。だから、日番谷君の卍解はもうミーの・も・の♡」

 

 気色悪く(しな)を作りながら告げるその様子は、どこから見ても立派なヘンタイである。

 

「でも本当はね、ミーってば卍解なんて要らなかったんだ。だってほら、ミーの愛があれば卍解だろうと死神だろうと、いつでもなんでも奪えるんだから♡ でも、この氷輪丸ならちょっとだけ話が別かな? ちょっとだけ、だけどね」

「テメエ!!」

「おお、怖い怖い。愛しの卍解を奪われてプンプンしちゃった? でもこのカッコいい氷の竜は、もうミーの・も・の♡ こんなに素敵な卍解だったら、欲しくなっちゃってもしかたないよね? 自分で使いたくなっちゃっても仕方ないよね!? これがあればミーってばもっと愛されちゃうと思わないかい?」

「っ! 氷輪丸!!」

 

 星章(メダリオン)星章化(メダライズ)で奪われるのは卍解だけ。始解ならば発動は可能だ。

 それを知ってか、それとも無意識か。日番谷は斬魄刀の名を叫びながら氷を放つ。

 

「きゃー、こわいッ!」

 

 だがぺぺも腐っても滅却師(クインシー)。それも、星十字騎士団(シュテルンリッター)聖文字(シュリフト)持ちに選ばれるほどである。

 氷の攻撃を躱しながら、手から汚いハートマークの霊圧を日番谷に向けて放つ。

 

「こんなもん……」

「隊長、ダメ!! それ避けて!!」

「うぉっ!?」

 

 ぺぺの能力を知らず、また頭に血が上っている日番谷は、浅慮にも放たれた気色悪い霊圧を斬魄刀で切り裂こうとする。

 だがそれは掠っただけでも愛の虜になってしまう、絶対に触れてはならない特級の危険物だ。

 日番谷の迂闊な行動にいち早く気付いた乱菊は、彼を全力で蹴り飛ばすことでハートの範囲から何とか逃す。

 だが彼女自身は逃げ切ることが出来ず、ハートマークを受けてしまった。

 

「っ……!! ま、松本……?」

「ぺぺ様ぁ……」

「オー! なんと乱菊ちゃんも!? これならミーってば、もう斬魄刀とかもなんでも手に入っちゃうよね!!」

 

 とろんとした熱の入った視線を敵に向ける副隊長の姿と、それを当然のことのように受け止める敵の姿。

 それらを目にした日番谷は、遅まきながら自分のミスにようやく気付いた。

 

 卍解も部下も、全てを奪われたのだと。

 




●卍解を奪われる
お約束です。一応やっておかないと。
(どこかの四番隊隊長が斬魄刀持って戦ってたら、きっとハリベルが教えてくれた。
 トコトン役に立ちませんねアレ)

●お前平田だろ
某プロレスラーが某マスクマンの正体をポロッと言ってしまった事件。
(マスクマンの正体をバラすのは御法度)

●原作で卍解を奪われた面々
原作での該当者は「シロちゃん・砕蜂・狛村・白哉」です。

並べると「コイツらの卍解はもう色々描写したし、奪われても困らないよね? キャラとかネタ的にもコイツらなら仕方ない」と妥当かつ順当で当然な人選だったんだなぁ……
と改めて納得。
(長次郎は色々と仕方ないので除外。知らなかったし)

副隊長が命がけで伝えてくれた情報を隊長たちがドブに捨てていくスタイル。
(「封じるらしい」までは分かっているんだから
 「(事前に相談して)誰か隊長の1人に(人身御供的に)卍解を使わせて、敵にワザと封印させる。その情報は即座に全員に共有して、卍解を使うかどうか改めて判断する」
程度のことは、出来たと思うんですよね。

 「(自分の部隊内だけで)副隊長と一緒に叩けば勝てる」とか「封印するよりも早く倒せば良いじゃん」とか自己完結的な考えはダメだということがよく分かります)

●(拙作中で)卍解を奪われた方々
隊長二人は偶然戦場が近かったんです(ご都合)
残る二人は、原作よりも先に卍解を取得してしまったのでこういう目に遭いました

(本文中でも表記しましたが)彼らの理由としましては
・恋次は、白哉がいないので(抑える人もいない)
・ルキアは、海燕がいるので(「ここは私が」としゃしゃり出た)

どちらも「ついつい焦りすぎて、やっちゃった」感じです。
(卍解が奪われることとか全く知らないし、仕方ないといえば仕方ない)

書いてる人としては「(仲が良い設定だから恋次とルキアと一緒に修行して)イヅルと桃も卍解を覚えている」はずなんですが……そこから妄想が全然膨らまないんですよねぇ……

●ぺぺが卍解を奪っているんですケド
()ったねえ()ッサンが、カッコいい卍解を自分の物として扱う。
それって最高に汚くて気色悪いと思いませんか?

シロちゃんとか斬魄刀をラブらせて操るのは、インパクトが弱い。
カッコいいシロちゃんが、汚いぺぺをガチで恨むのとか素敵だと思うんです。

(実は「一番美しい斬魄刀と呼ばれている袖白雪」を奪いたかったんです。
 奪わせてぺぺに気持ち悪いセリフを言わせたかったんですが、キルゲで妥協)
 (ぺぺのセリフの中に、微妙にその辺の名残がある)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。