現世に駐在する死神たちは、普段通りの日々を過ごしていた。
暢気すぎるのでは!? ――という意見もあるかも知れないが、少し待って欲しい。
何しろ
加えて、そもそも「
おかげで瀞霊廷こそ対応できて最悪の事態を免れたものの、とてもではないが「戦力が足らないかもしれないから、現世の死神たちにも応援に来て貰おう」とまでは話が進まなかった。
そもそも
以上のことから、現世に駐在する死神たちは
連絡を受けなければ異変を知ることも出来ず、自発的に「
いつも通りの日常だと勘違いしても当然のこと。
それは、ここ空座町でも同じだった。
「……っし! 全部片付いたな」
「おっ! やるな一護! けどオレ様たちだって負けてねえぞ! なあ望実!?」
「ああ、そうだな」
死神姿となった一護と望実。そして望実の肩の上でふんぞり返るコンの三名が言葉を交わし合う。内容は、つい先ほどまで行っていた
ただでさえ重霊地であり、過去に色々とありすぎた空座町は
とはいえそこは空座町。
出現した
「しっかし、上も薄情だよなぁ? 前任者がいなくなって、追加で補充要員を出すだ出さないだって言ってたのに、結局送ってこねえでやんの! ……ま! 大方望実の実力が評価されて『お前なら一人でも問題ない!』って認められた証拠なんだろうけどよ!!」
ちなみに空座町担当死神のイモ山さんこと車谷は、少し前から駐在任務を終えて現世から
九条は車谷と交代する形で空座町担当の死神へと正式に任命され、基本的にはコンと二人で。時々は今日の様に一護らの手を借りながら、死神業務を行っている。
問題があるとすれば、コンの言葉通り少々評価が良すぎて「九条一人で問題なし。追加人員は不要」と判断されたくらいか。
……そうそう。本来なら補充要員として現世に行くはずだった竜ノ介と志乃という二人の死神が別の仕事に回されたのも、問題といえば問題かもしれない。
「そうか……? そうだったら、少し嬉しいかな」
とはいえその程度の問題など、彼女は気にしていなかった。
むしろ二人きりの時間が増えたことで、嬉しかったりもする。
「へーへー、お熱いこって」
コンの言葉に不器用ながらも素直にはにかむ九条を見ながら、一護は半目で呟く。
彼が霊力を取り戻してから一ヶ月と少し経過しているが、何かにつけてこんな感じのやりとりを見せられているのだ。少々辟易して不機嫌になったとしても、仕方ないだろう。
「んじゃま、終わったし俺は帰るから――」
「おや、それは少々困るな」
用件は済んだとばかりに帰路に着こうとしいていた一護だったが、耳慣れぬ声に反応すると即座に振り返る。同時に、既に背負っていた斬魄刀を反射的に引き抜くと油断なく構える事も忘れない。
「……誰だ?」
「ロバート・アキュトロン。陛下のご命令により黒崎一護、特記戦力たる貴方ともう一名の相手をさせていただこう」
「陛下? 特記戦力?? なんだそりゃ?」
突然現れた老紳士然とした姿の男の言葉に、一護は首を傾げる。
それと同じ頃、少し遅れてアキュトロンの存在に気付いた九条もまた、斬魄刀を向けながらゆっくりと慎重に近寄っていく。
「お前、一体何者だ?」
「死神……ってワケじゃネエよな? けどオレ様だけじゃなくて、一護や望実の姿まで見えてるみたいだし……霊感の強い人間、か?」
「……普通の人間が、こんだけ強い霊圧と敵意を向けてくるとは思えねえな」
願望に近いコンの言葉を、一護は軽く首を横に振って否定する。
「それにお前の霊圧には覚えがある……石田のと似てるな」
「石田……ああ、石田雨竜か……」
「ッ!!」
霊圧のパターンから相手が
それは反対に、一護を驚かせる結果となった。
「なるほど、確かに。彼には事情を説明しておくべきかもしれぬ。陛下のご命令には無かったが、接触したとしても特に不都合も無いはず……」
「おい! お前どうして、石田の名前を知っていやがる!?」
「……いや、まずは当初の目的を達成することにしよう」
一護の疑問の声を無視しながら呟くと、アキュトロンの姿が一瞬にして消えた。
まるで瞬間移動でもしたかのように、その場から忽然と消え失せたのだ。
「何ッ!? ……うおおおっ!?」
姿が消えたと認識した瞬間には、アキュトロンは一護の真横に悠然と立っていた。
そればかりか彼のコメカミには拳銃が押し当てられており、その銃口からは今にも銃弾が放たれそうなほどの殺気が放たれている。
意識がそれらを認識するよりも先に、反射的に叫び声を上げながら全力で頭を逸らす。ほぼ同時に銃口から放たれた霊圧は一護の頭部を掠め、髪を軽く焼き焦がす。
「……外したか」
必中に近いはずの一撃を避けられ、だがアキュトロンは特に感情を見せることもなく一護をただ見つめる。
一方、一護は死の予感に肝を冷やしながらもアキュトロンを睨む。
「拳銃かよ!? けどその一撃……石田の矢に似てやがった。ってことはやっぱりテメエ、
「……質問が多いな……だが、答えてやろう。全て、君の言う通りだよ」
軽く嘆息しつつ、アキュトロンは一護の並べた疑問に一つ一つ丁寧に答える。
「私は
そう告げながら、手にした拳銃を軽く見せる。
「矢を撃つのに弓じゃねえのか、随分ややこしいんだな」
「人間も弓から銃へ。銃からミサイルへと武器を進化させてきた。ならば
「なるほど、そりゃそう……だっ!」
相づちを打ちながら、アキュトロンを目掛けて斬撃を放つ。
だが一護の攻撃はまるで幻影を切り裂いたように手応えが無く、気付いたときにはアキュトロンの姿そのものが一護の視界から消えていた。
「……っ!?」
「続きだが」
その声は再び一護の真横から聞こえてきた。
またしても頭部を銃撃されるかと考えるものの、アキュトロンは意外にも銃口を向けたままの姿勢で続きを口にする。
「当初の目的とは、我々
「
「……い、いや。何も連絡は受けていない」
寝耳に水とばかり叫ぶと、一護は意識を九条へと向ける。
だがそんな気配を向けられるでもなく、アキュトロンの言葉を聞いた苦情は懐から伝令神機を取り出すと、真偽を確かめるべく操作する。
もし仮に、本当に
けれど、何も連絡が無い。その事実に、アキュトロンは唇を薄く歪めて笑う。
「それは重畳。こちらにも都合があったので、少々駆け足気味に攻め込んだが……連絡を受けていないということは、現世への連絡も出来ないほど混乱していることの証明だな。どうやら仲間達は上手くやっているようだ」
「そんな話、信じられるかよ!!」
「待って一護ッ!!」
今度の声は上空からやってきた。
今にも追撃を仕掛けようとしていた一護だったが、その声に出鼻をくじかれながらも視線を上空へと向け、そして驚かされた。
そこにいたのは、彼
「な……
「ええっ!! 一護、なんでそんなことを……あ、そっか」
自分に敵意を向けてくる一護の様子に、ネリエルは一瞬悲しそうな表情を浮かべるものの、すぐに事情を察する。
「私はネルよ! 色々あったけど、湯川さんに治してもらって元の姿に戻ったの!」
「へっ……!? ネ、ネルなのかお前!? けどお前、その姿は……!?」
「お前は! 以前の騒動の時に……」
「あ、死神さん。お久しぶり」
「お前ら知り合いなのかよ!?」
お忘れかも知れないが、一護はネリエルとの面識が無い。
彼女がネルからネリエルの姿に戻ったのは、一護が藍染を追って現世へと行った後だ。
その後の一護は霊力を失っていたのでタイミングが合わず、再会の機会に恵まれないままズルズルと今に至っていた。
そのため、突然現れた
さらに加えて、顔見知り同士のように何事もなく挨拶を交わす九条とネリエルの様子が、一護の混乱をさらに加速させる。
何しろネルがネリエルに戻ったことすら一護は知らないのだ。
そんな彼が「痣城剣八騒動が現世まで巻き込んだ際に、色々あって二人は共同戦線を張りました」など、教えて貰える筈も無い。
理解が全く追いつかないまま、さらに置いてけぼりにされる一護だったが、ネリエルの「湯川さんに治してもらって」の一言に、色々と事情を飲み込んだ。
「それより一護、大変なの!
「待て待て待て!!」
一気に情報を出されて、混乱する頭がさらに混乱する。
だがそれでも一護の耳は、キーワードを聞き逃すことはなかった。
気を取りなおさんとばかりに、再びアキュトロンへ斬魄刀を向け直す。
「……良く分かんねえが、テメエの言ってた事は事実だったわけだ」
「なるほど。何かと思えば陛下に見逃されたされた
ちなみにアキュトロンは、突然現れたネリエルに注意を払っていた。
だってほら、彼女は
あと会話に下手に割り込んで、これ以上テンポを崩すのも問題だから……
「てことは今、
「不可能だ」
「やってやるよ!!」
「一護! だったら私も加勢に……」
「私も!!」
「心配すんな! 俺一人で問題ねえ!!」
九条とネリエル、二人の申し出を有無を言わさぬ口調で断る。
一護は相手の霊圧を本能的に感知し、そして結論づけていた。
少なくとも九条の実力では、アキュトロンに通じないだろう。
そしてネリエルだが、何が理由かは知らないが酷く消耗している。万全の状態ならばまだしも、消耗が大きい今の状態では危険だろう――と、それぞれ判断する。
その見立ては、大凡正解だ。
九条の持つ斬魄刀ならば、アキュトロンを相手にしても意表を突けるだろう。だがそれは一回限りの奇策に近い。二度目は間違いなく通じない。
ネリエルは、地力だけならば問題ない。チルッチとの合体技で霊圧を消耗した今の状態でなければという但し書きが付くが。
「なんだ一護! その言い草は――」
「……けど、その申し出はサンキューな! 何かあったら、遠慮無く頼むぜ!!」
「――ん、お、おう! 任せとけ!!」
最後にコンも含めた三人に向けてそう告げると、一護は斬魄刀を強く握りしめる。
目の前の相手を倒し、一刻も早く
――来るか。
一護から発せられる言動や、僅かな焦りの感情を読み取ったように。アキュトロンもまたコートの下から
「行くぜ、卍解!! 天鎖斬月!!」
「
卍解発動に合わせて
「予想通り、貴様の卍解は奪えぬか」
「なんだと!?」
それは「
その情報を事前に知っていたからこそ、一切の感情を揺らすことは無かったのだ。
また、アキュトロンは知らないが。ローズの卍解奪取に失敗したバズビーもまた、同じ知識から似たような反応をしていたことを追記しておこう。
いずれにせよ卍解奪取失敗はアキュトロンに何の痛痒も与えることはなく、むしろ一護の方がアキュトロンの言葉に驚かされて大きな動揺をみせたほどだ。
――卍解を奪う、だと……!? じゃあ、まさか皆も……!!
この時点で一護が認識しているのは、
そこに新たに知らされた「卍解を奪われるかもしれない」という新たな事実が、彼の心を大きく焦らせる。
自分の力を相手に奪われる恐怖と無力感は、他ならぬ一護本人が経験したばかりだ。
幸いにも、一護は力を取り戻すことができた。死神たちの助力を受けて、だ。
だがあんな無力感を、死神たちにまで味わわせたくはない。自分が力を取り戻すのに協力してくれた死神たちに、そんな辛い思いはさせたくない。
そんな想いが、一護の霊圧をより強くする。
「うおおおおおっっ!!」
「遅い」
雄叫びを上げながらアキュトロンへと斬りかかるものの、相手は再び煙の様に姿を消した。一護の霊圧知覚は、アキュトロンの存在を確かに捉えているのだが、肝心の相手の姿がどこにも見えない。
居場所を見つけ出すよりも早く、一護の背中に強烈な痛みが走った。
「があああっ!?」
「……頑丈だな」
痛みと衝撃、そしてアキュトロンの言葉から、背後を取られて銃撃されたことは理解できる。だがどうやって移動しているのかが理解できず、一護は背中目掛けて強引に斬魄刀を振るうものの、やはり攻撃は空を切るだけだった。
「ならばこれだ!」
「っ!! 月牙天衝!!」
続いてアキュトロンの銃口から放たれたのは、一護の全身を飲み込んでもなお余りあるほど巨大な
回避は間に合わないと判断した一護は、相殺すべく月牙天衝の一撃を放つ。
二つの霊圧が激突しあい、だが月牙天衝の一撃はアキュトロンの
「なるほど」
その結果を眺めながら、アキュトロンは無感情に呟く。
全ては予定通りだと言わんばかりに。
●タイトルについて
もう少し死神側の描写をしようと思ったんですが、なんとなく現世を先回し。
「どっち優先すべきかな?」の葛藤がタイトルの「ここらで一つ」に現れています。
●ネリエルと会う一護
(拙作中では)一護はネリエルとは会っていませんので。
よってここがネリエルとの初対面になってしまいました。
(織姫とかも気を遣って一護に教えてなかったんでしょうね。伝えるタイミングを逃し続けて、その結果がコレ)
●メダリオンの不発に動じないアキュトロン
原作でイーバーンのメダルが「使われたけど不発」のログ発見時に
陛下「やっぱり無理だったかー」
ユーグラム「予想通りっすね。でも実証できただけ丸儲け」
の会話があることから。
滅却師たちの認識は当初の時点では
「死神の卍解は奪えるよ」
「でも虚化できる死神は無理かも知れないから覚悟しとけ」
といった感じだろうと認識して書いています。
(なのでアキュトロンも「やっぱり無理か。仕方ない切り替えていこう」の精神)
原作イーバーンの場合、上記を一切知らせずに「これ使うと卍解奪えるから、一護から奪って来て。そうすりゃ君は今日から主人公だよ! 漫画のタイトルもブリーチからアズギアロになるから!」って感じで送り出された結果がアレだと思ってます。
けれど、もしかすると「アイツ破面だからワンチャン奪えるのでは?」的な期待もあったかもしませんね。
……え、ちょっと待って……ひょっとしたらあり得るのかしら……??
・破面に使わせたら、虚化可能な死神の卍解も奪えるかもしれない。
そう思って、イーバーンにメダルを渡して送り出した。
・でも一護だけは(若い陛下が贔屓してるから)無理。世界でアイツだけは特例。
とか、そんな感じが本当の正解……??
・イーバーンがメダルを使えている
→ 術やメダルそのものは、虚の霊圧でも問題なく発動可能な術ということ。
・侵影薬で卍解を取り戻せたのは、滅却師は虚の霊圧が猛毒だから。
→ つまり、滅却師でなければ毒にはならない(侵影薬は意味が無い)
仮にメダルを使ったのが、死神や破面だったらそのまま奪い続けられる。
それこそ、卍解も刀剣解放も奪いたい放題……
……考えないことにします。
メダルの中の卍解の保存領域が虚の霊圧に脆弱。でいいです。
(多分OSR師匠、そこまで考えてないと思う)
●支援絵のご紹介
また頂いてしまいました。
今回は「安心院悪鬼(@ajimu_akki)」様からです。
【挿絵表示】
【挿絵表示】
(滅却師に捕まった後の絵もあったんですが、それは私が個人的に楽しみます)