お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第347話 共同反撃 - 続 -

「はぁ……ぺぺ様ぁ……」

 

 乱菊はうっとりとした色気のある表情を浮かべ、猫なで声を上げながらぺぺに抱きつく。

 胸元をやんわりと押しつけながら、さらに谷間を強調させてるその姿は恋人を通り超して崇拝に近い。

 

「私、頑張りました。頑張りましたからぁ……」

「オーウ、乱菊ちゃんってばなんてイイ死神なんだろうねぇ! こんなにイイ子にはご褒美をあげなきゃ!」

「本当……? 嬉しい……!」

 

 アピールする乱菊の片手には始解した灰猫が握られており、周囲に無数の灰が浮かび上がっている。

 ご褒美をあげようと言われれば、彼女はさらに情熱的にぺぺへと抱きついた。

 さらに周囲では、無数の隊士たちが羨ましそうにぺぺに熱い眼差しを向けている。

 

「……地獄だ」

 

 その光景を見ながら、日番谷が呟いた。

 

 ぺぺの愛の能力の虜となった乱菊は、自身の持つ斬魄刀の能力にて日番谷が氷漬けにした隊士たち……つまり、既に愛の能力を受けて敵に回った隊士たちを解放したのだ。

 自由になった隊士たちはぺぺの命令を受け、まだ残っていた隊士たちへと襲いかかる。

 無論抵抗したものの、あっという間にぺぺの愛の能力に負けてしまった。

 

 死神側は日番谷だけ、それ以外は全て敵という状況になったところで、乱菊はぺぺにご褒美が欲しいとアピールしだして、数行前のような状態になっていた。

 ……つまり「乱菊に抱きつかれるぺぺが羨ましい」と思っているのではなく「ぺぺに抱きつける乱菊が羨ましい」という目で見ているわけである。

 死神側は野郎ばっかりで、ぺぺに情熱的な眼差しを向けているわけである。

 

 そりゃあ日番谷だって「地獄」と評するわけである。

 

 まあ、それはそれとして。

 

「おっと、ユーたちもご褒美が欲しいのかい? でも今回は乱菊ちゃんだけなんだ。欲しかったらもっと頑張らないと、だ・め・だ・ぞ♥」

「何やってやがるテメエええぇぇっ!!」

「きゃー、こわーい♥」

 

 無性に腹が立つポーズを決めるぺぺ目掛けて、日番谷は氷輪丸から冷気を放ち攻撃する。

 無数の氷の礫が襲いかかってくるものの、ぺぺは巫山戯た態度を見せただけだった。

 代わりに、周囲にいた死神達が身を挺してぺぺを庇う。

 

「隊長! なんてことするんですか!!」

「ぺぺ様が風邪でも引いたらどうするつもりなんです!!」

「やっぱりぺぺ様の為に俺! 隊長を斬ります!」

「じゃあ、あたしはぺぺ様を人肌で暖めて風邪を引かないようにするから。アンタ達は隊長を斬りなさい」

「ああっ! ズルいですよ副隊長!!」

「その役目は自分がやりますから! 松本副隊長は日番谷隊長の相手を!!」

「やーよ。だって隊長強いんだもん」

「……松本の奴、こんな時までサボろうとしてやがんのか……?」

「……死神というのは、随分と個人差が激しいのだな……」

「いや、アレはアイツが特別だ」

 

 部下の言動に思わず斬魄刀を取り落としそうになりながら、隣から聞こえてきた同情するような声に頷き、そして気付く。

 

「……お、お前は!!」

「下卑た霊圧を感じ、目的地を変更して戻ってみれば……なるほどこれは想像以上だな。まさか同士討ちを誘う滅却師(クインシー)がいるとは」

「確かハリベル、だったな……? 今の虚圏(ウェコムンド)を仕切ってる……」

「ああ、そうだ」

 

 日番谷の隣には、いつの間にかハリベルが並んでいた。

 彼女は既に帰刃(レスレクシオン)しており、戦意に満ちあふれている。

 ただ現場の様子にテンションだけは少々下がっていたものの、憂いを帯びた眼差しをぺぺの背後へと向けながら贖罪の言葉を口にする。

 

「……間に合わなかったか。すまない、せめて仇くらいは討ってやる」

 

 それは滅却師(クインシー)に攫われた破面(アランカル)たちへの、手向けの言葉だった。

 ハリベルは攫われた同胞たちを可能な限り助けたいと考えていた。

 尸魂界(ソウルソサエティ)に来た際に彼らの霊圧を感じ取った時には、なんとか助けられるのではないかと淡い期待を抱いた。

 だが結果的には間に合わず、襤褸(ボロ)の様に倒れている仲間の姿に自責の念を感じながら、短く冥福を祈るような言葉を口にする。

 一方、ハリベルが来たことに気付いたぺぺは、ねっとりとした下品な視線を向ける。

 

「オオ~~ウ! 知ってるよ知ってるよ! ユーは破面(アランカル)のハリベルだよね? ユーまで来てくれたなんて……それも、ミーの愛を求めにわざわざ来てくれたんデショ? なんて……ああ、なんて素晴らしいんだ! ミーってば嬉しすぎて嬉しすぎて昇天し(イッ)ちゃいそうだよ!!」

「……醜い」

「ああ、それだけは同感だ」

 

 ペペの一部が膨らんでいる。どことは言わないが。

 格好が格好なので、そりゃあもう目に余る。何がとは言わないが。

 思わずハリベルが肌を手で隠したくらいだ。何でとは言わないが。

 

「まずは貴様からだ! 下品な滅却師(クインシー)め!!」

「ゲッゲッゲッ、そんな怖い顔しないで~♥」

 

 耐え切れなくなったように、ハリベルはぺぺへと襲いかかる。

 その動きを見ながら、ぺぺは手から汚いハートマークの霊圧を放つ。

 

「気をつけろ、それは――」

掃射豪雨(チュバスコ・ペネトラール)

 

 日番谷が警告の声をあげるが、それより早くハリベルは無数の雨粒を放ち汚いハートマークを打ち落とす。

 

「同士討ちを引き起こす能力だという予測は付いている。そもそも相手の能力に迂闊に触れるなど愚策だ」

「……そうかよ」

「ぺぺ様!」

「お下がり下さい!!」

 

 だがそれだけでは終わらない。

 ハリベルをぺぺの敵と見なして、死神たちが襲いかかってきた。

 抜き身の斬魄刀を向ける彼らに対して、ハリベルもまた剣を構える。

 

「お、おい待て! そいつらは……!」

「ああ、知っている」

 

 操られているだけの部下の身を案じ、再び声を掛け注意を促そうとする日番谷だったが、ハリベルは聞く耳を持たないといった様子で、手にした大剣の刀身から大量の水を生み出した。

 

戦鞭(ラ・ラティーゴ)

「なんだ……うわっ!!」

「ぎゃああぁぁっ!!」

 

 生み出された水は瞬時に無数の鞭へと枝分かれ、うねりを上げながら死神たちへ襲いかかる。

 手首や腕、肩や足などを強烈に打ち付けたかと思えば、そのまま生き物のように巻き付き動きを封じていく。

 

「お前は部下の面倒を見ていろ。この下衆男は私が倒す」

「……そういうことかよ! だったらもう少し手加減してやれ!!」

「このくらいは必要経費と割り切れ。殺意は無い」

 

 これが操られた死神たちの動きを封じるための攻撃であることにようやく気付き、同時に日番谷は軽く戦慄する。

 最小限の動きで鞭を動かし、小蠅を払うかのように簡単に死神達を打ち据えていくそれは、彼の目から見ても恐るべきものだった。

 もしもハリベルに殺意があったなら、彼らは戦闘不能になっていただろう。

 捕縛に水の鞭を使ったというのも、日番谷の斬魄刀との相性を考えてのこと。

 彼女が敵で無いことに、今だけ感謝する。

 

 ……なお、その辺の原因は大体藍俚(あいり)にある。

 

「ぺぺ様!」

「邪魔だ! 皇鮫后の牙(エストカーダ)!」

 

 迫り来るハリベルを危険と感じたらしく、乱菊が灰猫にて襲いかかろうとする。だがそれはハリベルから見れば酷く鈍重な反応だった。

 大量の水を放ち乱菊を押し流すと、大剣から巨大な水の鮫を放つ。

 

「アハハッ! 頼んだよ……卍解、大紅蓮氷輪丸ちゃん!」

 

 鮫を見ながらぺぺは、星章(メダリオン)から卍解を発動させた。

 水晶のように美しい氷の翼がぺぺの背中から生え、ただでさえ汚い()ッサンが、ミスマッチでより汚い? 気持ち悪い? 吐き気を催す? とにかく、そんな感じの姿になっていた。

 

「……なるほど、少し面倒だ」

「ゲッゲッゲッゲッ! ねえねえ、どうかな!? ミーってばこんなにカッコ良くなっちゃって、これ以上愛されちゃったら……もう身が持たないよ!!」

 

 見た目は直視したくないたい格好であっても、卍解を操れるのは事実だ。

 大紅蓮氷輪丸の冷気にて一瞬で氷漬けにされた水の鮫を見ながら、ハリベルは自身の考えを修正する。

 

「……だが、この程度ならば脅威とはならん!」

「ぎゃひいいいいぃぃぃっっ!!」

 

 凍り付いたはずの水の鮫が、再び姿を現した。

 氷の牢を自らの鋭い歯で内側から砕きながら、ぺぺへと襲いかかる。

 その様子を、ぺぺは恥も外聞も捨てたように全力で逃げながら攻撃を躱すと、再び気色の悪いポーズを取りながら叫ぶ。

 

「ああ~~~っっ!! 欲しい欲しい欲しいよハリベルちゃん! ミーの愛をユーに分からせてあげたい!!」

 

 

 

 

 

 

黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)……素晴らしい、素晴らしい卍解だ!!」

「くっ……! ぐお……っ!!」

 

 BG9(ベーゲーノイン)の操る卍解の攻撃を、狛村は始解の天譴にて受け止める。

 振り下ろされた剣は一瞬だけ止まったものの、そのまま受け止めた狛村ごと地面に叩き付けられた。

 衝撃で地面が抉れ、小さなクレーターが出来上がる。

 

 ……卍解で黒縄天譴明王が呼ばれているのに、始解でも黒縄天譴明王の腕が呼ばれるってちょっと変だって? 細けぇ事はいいんだよ!

 とにかく巨大な卍解の攻撃を、始解で腕と刀だけ召喚して防いだわけである。

 

「隊長!!」

「ぬおおおっ!! 天譴!!」

「無意味な行動だ」

 

 そのクレーターの底から、巨大な刀が放たれた。

 狛村の天譴にて呼び出された、黒縄天譴明王の腕による一撃だ。

 だがBG9(ベーゲーノイン)は黒縄天譴明王を操り、軽やかな動きで攻撃を躱す。

 

「既に五度、同じように攻撃を回避した。まだ理解できないのか?」

「やかましい!」

「六度めだ」

 

 狛村の攻撃を、BG9(ベーゲーノイン)は卍解を操り再びひらりと躱す。

 そればかりか黒縄天譴明王は、回避と同時に反撃を仕掛けてきた。

 巨体の重さを一切感じさせないその動きを見ながら、射場が悔しげに吠える。

 

「……くっそぉぉっ! 認めるしかないっちゅうことか!?」

 

 認めたくはない。

 だが、もう認めるしかないだろう。

 

 ――敵は、狛村以上に黒縄天譴明王を上手く扱えるのだという事実を。

 

「認める? 理解不能だ。何故お前に認められねばならない?」

「ぐあっ!!」

 

 地面に転がる小石を蹴り飛ばすような気軽さで、黒縄天譴明王は蹴りを放つ。

 蹴りが狛村を僅かに掠めるだけで終わったものの、その速度と重量ならば掠めただけでも強烈な一撃だ。

 だがそれらを意に介すこと無くBG9(ベーゲーノイン)は射場に告げる。

 

「既に事実として証明されている。狛村左陣は卍解を扱えない。この私こそが、黒縄天譴明王を使いこなすに相応しい」

「じゃかましいわっ!! オドレ、隊長がその卍解を使いこなすのにどんだけ修練を重ねた思っとんのじゃ!!」

「その修練は極めて非効率かつ無駄だったことが証明されたわけだ。この卍解は(ケー)聖文字(シュリフト)を持つ私にこそ相応しい」

 

 耳慣れぬ言葉に、射場の動きが止まる。

 

(ケー)……じゃと……? そら、一体……!?」

「おや……? ふむ、知らなかったか。ならば改めて名乗ろう。我が名はBG9(ベーゲーノイン)動作(ザ・キネクト)BG9(ベーゲーノイン)、だ!」

「う、うおおおおっっ!?」

 

 生きている人間のような軽快な動作(・・)を見せながら、黒縄天譴明王は改めての挨拶代わりとばかりに射場に刀を振るう。

 その動作(・・)は、狛村の卍解をよく知る射場が認めるほど素早い動きだった。

 

 動作(ザ・キネクト)――その名の通り、自らが干渉したあらゆる物体を自らの思うがままに動す……それがBG9(ベーゲーノイン)の能力だった。

 射場をして「狛村よりも上」と認めさせるほど自在に黒縄天譴明王を操ったことからも、どれだけの能力なのかは推し量れるだろう。

 自らの能力にて機械の肉体を操り、金属の触手を操り、ついには卍解すらも動かす。

 

 攻撃を終えたBG9(ベーゲーノイン)は、興奮に打ち震えるように誰に向けるでも無く呟く。

 

「この卍解は素晴らしい。私の動きに連動し、自在に動く。機械人形として生きていかねばならなくなった私に、再び生の躍動を与えてくれる。我が身があったのならば、きっとこのような感覚なのだろうな」

「だったらもう一回殺してやるよ!!」

 

 突如、黒縄天譴明王を三つの虚閃(セロ)が襲った。

 

「む……? センサーの感知が遅れた? 狛村左陣との戦いで影響が出たのか……?」

「アヨン、やれっ! あのデカブツをぶっ殺せ!!」

「オオオオオオッッ!!」

 

 続いてアパッチの命令を受けた巨獣が、黒縄天譴明王を殴りつけた。

 拳の一撃に、狙われた顔面が僅かに凹む。

 

「天譴!!」

 

 さらに好機と見た狛村が、攻撃を仕掛けてきた。

 黒縄天譴明王の鎧に食い込み、その奥の肉体を浅く切り裂く。

 

「ハリベル様に命令されて嫌々来てみれば……なんだコイツ……」

「機械仕掛けの人形みたいですわね。二人にはお似合いでなくて?」

「アァン!?」

 

 アパッチ、ミラ・ローズ、スンスンの三人が言葉を交わしあう。

 

 本来ならばハリベルと行動を共にしていた彼女たちであったが、異変を察知したハリベルが二手に分かれるように命じていた。

 その結果ハリベルだけはヘンタイ……もといぺぺの所へ向かい、三人はBG9(ベーゲーノイン)の相手をする羽目となった。

 ちょっと間違っていたら、ぺぺの相手を三人がすることになって操られていただろうから、これはハリベルのナイス采配である。

 

「……なるほど」

 

 現れた三名の破面(アランカル)と、未だ闘志衰えぬ狛村など眼中にないのか。

 BG9(ベーゲーノイン)は、傷ついた自身の装甲(・・・・)を眺めながら呟いた。

 

 卍解が受けたダメージが持ち主にもフィードバックされるというデメリットも、機械の肉体を持つBG9(ベーゲーノイン)であれば大きな問題とはならない。

 仮に多少傷ついたところで、壊れた機械は直せば良い。

 手足を失う程の大怪我を負っても、彼ならば部品の交換だけで事足りてしまう。

 欠点が欠点たり得ない。

 

「やはり、この卍解は私が手にするのが最も相応しいということだ」

 

 

 

 

 

 

「十番隊から応援要請です!!」

「こちらも同じく、七番隊から!」

「分かった! すぐに人を回しますから、それまで耐えるように伝えて!!」

 

 部下の報告に、イヅルは矢継ぎ早に指示を出していく。

 それら全ては、負傷した死神たちへの対応に関する内容だ。

 

 護廷十三隊の各部隊が滅却師(クインシー)たちの迎撃に当たっている中、四番隊は全体の援護を担当していた。

 三名いる三席を前線指揮官として、近くにいる負傷者の救護に回る――いわば、移動式の野戦病院のような役割を担っていた。

 その三部隊の内の一つの責任者が、イヅルというわけである。

 

「三席! 負傷者が……うわあああぁっ!!」

「どうした!?」

 

 どこからか放たれた神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)が、一人の死神を焼く。

 身構えるイヅルの前に、複数の滅却師(クインシー)たちが姿を現した。

 

「おっ、いたいた。死神だぜ」

「けど残念、コイツら四番隊だ」

「隊長が陛下にやられたハズレ部隊かよ……まあ、点数稼ぎくらいにはなるか」

 

 ――ハズレ、か……つまり四番隊以外を主に狙っている……先生がいないからか、随分と舐められているみたいだね……まあ、その方がありがたいけど……

 

 軽口を叩く敵たちの言葉に、イヅルは相手の事情を推察する。

 救護担当の四番隊が狙われにくいのは、決して悪いことでは無い。邪魔されること無く仲間の救助ができるのだ。

 

「だったら……」

「見つけた!!」

「……え?」

 

 イヅルが斬魄刀を抜くよりも早く、チルッチが飛び込んできた。

 彼女は瞬く間に滅却師(クインシー)達を倒すと、詰まらなそうに息を吐く。

 

「また、コイツらか……ま、今のあたしじゃ、こうやって藍俚(あいり)に少しでも……あら?」

「あ、あなたは……確か……」

「あー、アンタって確か……藍俚(あいり)の所の部下、よね……?」

「は、はい……助かり、ました……」

 

 いまいち釈然としない様子で、イヅルはチルッチへと礼を告げる。

 

 だが、彼はまだ良い方だろう。

 

 別の部隊では、もっと釈然としない様子の()がいた。

 

 

 

「なるほど……ユーハバッハでなければ、この程度か。勝てない相手ではないな」

 

 ウルキオラは倒した相手の強さをそう判断する。

 その足下では、ジェローム・ギズバットという名の滅却師(クインシー)が事切れていた。

 

 ジェロームもまた先ほどのイヅルの時と同じように、偶発的に四番隊の前線部隊と遭遇し、襲いかかってきた。

 ただ彼が不運だったのは、偶然にもウルキオラが近くにいたことだ。

 決して弱いわけではないジェロームだったが、相手が悪かった。これに尽きるだろう。

 戦いを終えたウルキオラを、愛憎入り交じった複雑な表情で桃が見つめる。

 

「……一応、お礼は言っておきます」

「ああ」

 

 二人の不要な雰囲気に、桃が率いている部隊に属している隊士たちは何事かと囁き合う。

 というのも、かつての藍染の反乱の折、織姫の護衛役を買って出た桃を倒したのがウルキオラであり、その後の虚圏(ウェコムンド)へ攻め入った際に桃を倒したのもウルキオラである。

 いつか強くなって、実力でウルキオラをひれ伏せさせてやることを心に誓った桃であったが……

 そんな相手に助けられたのだから、こんな雰囲気にもなるだろう。

 

「余裕があるのなら、この辺りの安全確保もお願いします……」

「引き受けよう」

 

 それでも桃は、内心の感情を押し殺してウルキオラに依頼する。

 実力では叶わなくとも、四番隊としての任務を放棄して良いわけでは無いのだから。

 

 

 

 

「虎徹副隊長、重傷者が来ました!!」

「すぐに集中治療室へ! 後のことはお任せしますから!!」

 

 イヅルや桃が前線で働いているのであれば、勇音は後方の担当といったところ。

 隊舎にて四番隊全体の指揮を執りながら、前線の技術や機材では対処出来ない怪我人や案件を受け入れる――そんな役目の真っ最中だった。

 

 本来ならば隊長が担当するんだけど……

 ほら、今いないから……半裸で磔にされているはずだから……

 

「後は……――ッ!! 下がって下さい!!」

 

 続く指示を出そうとしたところで、霊圧知覚に異常を感じた勇音は部下たちへ大声で指示を出すと、遠くへ向けて睨むような視線を向ける。

 

「お~、いたいた。お前ら四番隊……あの女の部下だろ?」

 

 その視線に導かれるように、ドリスコールが姿を現した。

 彼は虫でも相手にするかのような相手を見下す眼と態度で、勇音たちを見つめる。

 

「あの女……まさか、隊長ですか!?」

「ああ、そうだ。あの女、俺が卍解を奪って殺してやりたかったのによぉ!! 勝手に陛下に負けてんだよ!!」

 

 身勝手な言い分を喚きながら、ドリスコールは近くの壁に拳を叩き付けた。

 衝撃に耐えられず穴が開く壁に目もくれず、彼はさらに身勝手な言葉を口にする。

 

「だからよ、おれは決めたんだ。お前らをあの女の前でぶち殺してやろうってな。だからよ……」

「ぐあああああぁぁっ!!」

 

 手に嵌めたメリケンサックのような武器から神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)を生み出すと、近くにいた死神の一人に放つ。

 一瞬にして消滅していく死神を、だが一瞥することもなく告げる。

 

「ま、半分くらいはここで死んどけ」

 

 

 

 

 

 

 

「ケッ……つまんねぇ野郎だったぜ……」

 

 始解した斬魄刀、野晒を肩に担ぎながら、剣八は少しだけ楽しそうに呟く。

 その巨大な鉈の先端には、先ほどまで相手にしていたシャズ・ドミノという名の滅却師(クインシー)の痕跡が僅かに残っていた。

 

「剣八、そちらも終わりましたか?」

「ああ、見ての通りだ。これでコイツは問題ねえ……ちょいと勿体なかったかもしれねえがな」

 

 卯ノ花は、最終確認するように剣八に尋ねる。

 その足の下に、ベレニケ・ガブリエリという名の滅却師(クインシー)を踏みながら。

 そして周囲の十一番隊隊士たちは、隊長と副隊長の二人の強さに僅かな恐れと絶大な信頼を込めた賞賛の声を上げていた。

 

 えっと……解説、要りますかね?

 

 見ての通り、剣ちゃんと卯ノ花さんが滅却師(クインシー)を一蹴したわけです。

 ただ、シャズ・ドミノだけはちょっと厄介だったので、最終的に剣ちゃんが野晒を力一杯振り回さないと倒せなかったので、その辺は頑張ったと言えなくもない。

 再生能力を持っているので、それを上回る破壊力で一気に倒さないと何時までも勝負が付かないので。

 

 ベレニケ? 卯ノ花さんの足の下で幸せそうに逝ってるよ。異議は認めない。

 

「ならば、この辺りは大丈夫でしょう……剣八、自由行動を取って構いませんよ?」

 

 周囲の霊圧を感じ取り、大きな問題は無いと判断した卯ノ花は含むような言葉でそう告げる。

 自由行動とボカした言い方をしているものの、つまりは「隊を離れて好きな滅却師(クインシー)と戦って構わない」と言っているのだ。

 戦いの匂いには格別鼻がきく彼が、その意味を理解できないはずがなかった。

 

「本当か!?」

「ええ、勿論。気になっている相手がいるんでしょう? ですが、あまり時間を掛けすぎると、誰かに取られてしまうかも……あら?」

 

 肩に乗せたやちると共に、食い入るような眼で卯ノ花を見たかと思えば、あっという間にその姿を消していた。

 おそらくは、ユーハバッハの霊圧を感じ取って戦いに行ったのだろう――そう、確信すると卯ノ花は中空へと呟く。

 

「しかし……あの子はどうしているのやら……いい加減、少しサボり過ぎでしょう? ねえ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藍俚(あいり)殿おおおおぉぉぉっ!!

 そろそろ、そろそろ出番ですので! 起きて欲しいでござるよ!!

 いやもう起きないと、後でとんでもなく大変な目に遭う気配がビンッビンでござるよ!!

 アンテナが、アンテナがバリサンでございますからあああああぁぁっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな声が、どこか遠くで聞こえた気がした。

 




聖文字(シュリフト)(ケイ)! 動作(ザ・キネクト)のBG9!!
 BG9は元々、普通の滅却師として生まれた普通の男だった。

 だが成長していくにつれて、小人症を煩っていることが発覚。
 一般的に成人と呼ばれる年齢となっても、低身長かつ骨や内臓に異常があるため滅却師としてはマトモに戦えなかった。
 (小さいので接近戦は出来ないし、乱装天傀でもカバーしきれないほど肉体が脆弱。
  そもそも単純なタフさや体力が致命的に足りない。
  コイツを無理に使うなら、別の滅却師を使った方がずっとマシ)

 そんな彼の前に滅却師の技術班が現れて、提案する。
 「霊圧を生み出すパーツ兼、機械人形を操作する頭脳」にならないか? と。
 (いわゆる生体コンピュータの核と動力源。雑に言うとNARUTOのサソリさん。
  (ただこっちは完全に霊圧だけの存在という感じ))

 機械なら身長も内臓も体力も関係ない。ということで彼はそれを了承。
 BG9という名と新たな生を受ける。

 加えて彼の「普通の身体で動き回りたい」という願いから、キネクトの能力に目覚める。
(BG9が無茶苦茶スムーズに動き回ったり、金属の触手を自由自在に操るのもこの能力のおかげ)

 さらにユーハの血杯を受けることで能力は完全に開花し、聖章騎士にまで至る。

 だが機械の生体部品となったことで、眠らず休まず常に機械情報を処理し続けた反動からか、人間性の大部分が消失している。

 ――以上、全て妄想。

(完全機械人形ではなく)元人間を改造した存在らしいので。こんな感じかなと。
(グレミィの廉価版な印象は否めませんが)

(なお、単純に「Kだからキラーマシンで」でも問題ない模様)

●狛村の卍解がお気に入りのBG9の理由
・「自分の身体もこんな風に大きく育ったらなぁ……」と怨念や願望的な部分がある。
・キネクトの能力で卍解を自由自在に操れる。
・壊れても(卍解のダメージフィードバック)機械を修理すれば復活。狛村よりお手軽。

という感じ。

●ジャズ・ドミノ
「V(生存能力(ザ・ヴァイタリティ))」(後に「聖痕(スティグマ)に改名」の文字を持つ人。
「ガンガン自己再生しまくる」という「不滅の肉体」の能力の人。
なお「元・グレミィの空想」の人。
(身体が欠損すると周囲の霊子を取り込んで自己再生する。この取り込みを繰り返した結果、妄想から実在する存在になった人)

拙作中では「バケモノには不死身をぶつけるんだよ!!」理論で剣ちゃんの相手。
(が、剣ちゃんが「死なないけど弱いからツマラナイ。でも死なないなら、ちょっと本気でもいいよね?」と、ちょっとヤンチャした結果、周囲の霊子ごとズタズタにされて、回復が間に合わなかった)

(原作の彼は「侘助に複数回斬られる→重くて沈む→(重さに耐えられず)自壊→再生→自壊→再生→自壊……」のループ(加えてガンガン沈む)という末路)

●ベレニケ・ガブリエリ
異議(ザ・クエスチョン)の人。
異議を唱えて答えさせる(出オチ)能力

●ジェローム・ギズバット
咆哮(ザ・ロア)の人。
吠え声で相手の頭を爆発させる(剣ちゃんの耳をキーンとさせる)能力。

●四番隊の絡み(三分割だから短い短い)
・チルッチとイヅル。
 絡みが薄いけど、まあ顔くらいは知ってる関係。

・桃とウルキオラ。
 この二人は(拙作中ですが)因縁があるので……

・勇音。
 ちょっと耐えてね。
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