お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

350 / 406
第348話 射干玉ちゃんと学ぶ楽しいドイツ語講座

 藍俚(あいり)殿っ♪ そろそろ出番でございますよ? いい加減起きて欲しいでござるよ。

 拙者、ひとりぼっちは寂しングでございますので。

 

『…………』

 

 藍俚(あいり)殿と射干玉ちゃん、二人揃ってプリキュアだと約束していただいたというのに……無視は涙がチョチョ切れまくリングというやつで……

 

『…………』

 

 あのぉ……いい加減、そろそろ起きないと凄い勢いでお仕置きされてしまうので……

 あ、でもなんだかこれって大昔の、藍俚(あいり)殿がまだ始解すら出来なかった頃を思い出してちょっぴりセンチメンタリズム……

 あの頃の藍俚(あいり)殿は少女のように可憐で穢れを知らなくて……巨乳で恵体でドスケベでムッツリスケベでハレンチで……

 

『…………』

 

 ……あ! あんなところにハリベル殿とチルッチ殿とネリエル殿が!!

 

『どこっ!? なんであの三人が半裸で敵に捕まって「好きに汚せ……だが私の心までを汚せると思うな!」みたいな展開になってるの!? そうならないために私が頑張ったのに!! でもそれはそれとして私も見学して良い? なんだったら参加して良い!? 私頑張るから、絶対絶対頑張るから!! ちゃんと百合の花を咲かせてみせる……あら??』

 

 おはようございます、藍俚(あいり)殿。お目覚めの気分はいかがですかな?

 

『えーっと……そうねぇ……なんというか、ハリベルとチルッチとネリエルの間に挟まって幸せな、感じ……みたいな?』

 

 なるほど、問診結果に異常は無し。極めて正常な状態だが脳に重篤な異常アリっと……

 

『問診!? 何がなの!? っていうか此処はどこ!? なんだかもの凄く寂しげな場所なんだけど!?!?』

 

 ――ジャラッ!

 

 あー、それに答える前にですな……藍俚(あいり)殿、ちょっとだけお時間をいただけますかな? 

 

『え? なんで? 時間とか必要なの?』

 

 いえその、なんといいますか……ちょっとオシリがムズムズするというか……体裁を整えたいというか……

 

『詳しい説明――』

 

 

 

 

 

 ――が欲しいんだけど! そもそも射干玉のお尻ってどこ!? 診察した方がいい!?

 

『いいえ、もう用事は完全に済んだので問題ナッシングでござるよ! それで先ほどの疑問ですが、藍俚(あいり)殿は滅却師(クインシー)に……ユーハバッハ殿に敗れて、捕まって……あー、何と言いますか……色々とあったわけでござるよ』

 

 色々!?

 まさか捕まって縛られて、ウッフンでアッハンなことをされちゃったの!?

 意識のない所で色々やられて、心は清純なのに体は汚れきってたりしちゃうの!?

 

『えーっと……捕まってから数時間といったところですので、まだそこまではされていませんでござるよ』

 

 え……数時間!? 嘘でしょ!?

 気のせいか三ヶ月くらい経過してるような認識してるんだけど……

 

『気のせいでございます!! 地球からナメックな惑星に行く時も、六日間が一年くらい掛かったような気がしますので! よって今はまだ、藍俚(あいり)殿が捕まってから数時間ほど!! 倒されて、気絶して、捕まって、半裸で磔にされて、怪我を治してもらって、ちょっと怪しいお薬を打たれて、男たちに乱暴されたくらいでございます!!』

 

 私、怪我してるの?

 

 ――ジャラッ!

 

 射干玉の言葉に慌てて胸元の傷を確認してみれば……あら、本当。大きな傷跡が。

 言われて、段々と思い出してきた。

 ユーハバッハに貫かれて、チルッチを泣かせちゃったんだった!!

 

 ……あー、思い出したら腹が立ってきた!!

 あの男、絶対に許さない!! 私を怒らせたこと、後悔させてやるわ!!

 目玉が飛び出るくらい悔しい思いをさせてやる!!

 泣いたり笑ったり出来なくしてやる!! 絶対に!!

 射干玉! あなたも協力するのよ!!

 

『拙者も!?』

 

 ――ジャラッ!

 

 でもそれはそれとしてこの怪我、上手に処置してあるわね……

 やったのって滅却師(クインシー)でしょう? 死神は敵なのに、なんでこうも丁寧に……?

 いえ、医療従事者から見れば正しいんだけどね。

 でも本当に上手……四番隊(ウチ)にスカウトしたいくらいだわ。これなら傷跡も残らないでしょうし……

 

 ――ジャラッ!

 

 ただ、ちょっとだけ傷の処置が甘いかしら。

 でもおそらく、ワザとこうやってるんでしょうね。

 死なないけれど、術後の回復が遅くなるようにっていうか、適度に弱らせたままにしておく為に。

 だって私、死神だもん。敵だもん。

 

『その辺は実は、色々と事情があったのでございますよ』

 

 ――ジャラッ!

 

『というのもですが、藍俚(あいり)殿が生きているのは……』

 

 ――ジャラッ!

 

 あーもう! さっきからジャラジャラ鬱陶しいわね!!

 

藍俚(あいり)殿!?』

 

 両腕両足に繋がれた鎖を力任せに引きちぎってやりました。その勢いで口の枷も同じように破壊してやりました。

 それにしても鎖、予想外に脆かったわねぇ……錆び付いてたのかしら?

 バキッ!! って音を立てながら粉々に砕けちゃったわ。

 

『……あの、藍俚(あいり)殿……? 仮にも捕まっている、囚われのヒロイン枠だったわけございますから……もう少し、何というか……その……拘束を力任せに破壊するというのは……』

 

 え、でも私の知ってる映画だと、こんな風に脱出してたわよ?

 

『……参考までに、なんという映画ですかな?』

 

 えっと……タイトルが思い出せないんだけど、確か主人公が「I am Hercules!!(俺はヘラクレスだ!!)」って叫びながら鎖を引きちぎって……

 

『あ、もう結構でござる』

 

 そうなの? でもあの映画、なんてタイトルだったかしら……?

 

『(もうご自分で答えを言ってるでござるよ……というか囚われのヒロインがゴリラの隠語のように感じてきたでござる……)』

 

 ところで、なんで私は生きてるの?

 

『ああ、それはですな。かくかくしかじか……』

 

 まるまるうまうま……

 

 なるほどね。

 つまり、また射干玉の身体目当てじゃないの!! あなたどれだけ好かれているのよ!?

 

『拙者も困ってしまって……知らない間に厄介なファンが大勢いるわけでござるよ! 嗚呼……この真っ黒ヌルヌルゴムボールぼでぃが憎い!! 一体どれだけの厄介ごとを引き寄せれば良いのか……いかがいたしましょうか藍俚(あいり)殿!?』

 

 しらんがな。

 

 でもまあ、何かされる前に気がつけたのは不幸中の幸いね。

 

『(男二人に色々と乱暴はされましたが……黙っておきましょう)』

 

 射干玉の斬魄刀を狙っているということは、逆に言えばそれまでは私の身は安全。

 だったらここはもう少し慎重に行動を――

 

『あの、それとでござるが。色々と予定が繰り上がりまして……現在絶賛、瀞霊廷が火の海の真っ最中で油断大敵火事ボーボーになっているはずでござるよ』

 

 ……ええっ!! ちょ、ちょっと待って! 尸魂界(ソウルソサエティ)が攻め込まれているの!?

 マジで!?

 

『マジでござるよ!! ハリベル殿やチルッチ殿と姉妹(スール)の契りを結んだ関係上、救援要請されるのは必定でござるので!!』

 

 契り……? 結んだ、かしら……?

 

『ですので、死神側の準備が整っていないウチに叩いて、ついでに藍俚(あいり)殿の斬魄刀も拾って盗んで自分の物にしておこうって腹づもりでござる!!』

 

 だったら、ここでのんびりしていられないじゃない!!

 

 えっと、まずは連絡! 伝令神機で情報を……

 

 ……無いんだけど!? 嘘、どこかに落とした!?

 可能性があるとすれば虚圏(ウェコムンド)でユーハバッハと殴り合っていた時かしら? ……でも、運良く見つかっても多分壊れてるわよね……

 

 仕方ない!

 

『何をなさるおつもりで?』

 

 勢いよく立ち上がった私に射干玉が尋ねてきました。

 

 やることなんて、決まってるでしょ! 脱獄よ!!

 

『だ、脱獄!?』

 

 このままここから抜け出して、尸魂界(ソウルソサエティ)まで帰る!!

 ついでにその途中、行き掛けの駄賃みたいに司令所とか補給施設とか、そういった場所を見つけ出して破壊する!! 情報の偽装とかもできれば、もっと良いわよね!!

 今は大勢の滅却師(クインシー)が瀞霊廷を攻めているんでしょう? ということは、逆にこの場所は警戒が少なめ!! 今が最高のチャンスなのよ!!

 

『脱獄はよろしいのですが、藍俚(あいり)殿は、そういったご経験がおありで……?』

 

 任せて!

 テロリストが乗っ取った戦艦に偶然居合わせた、元海兵隊出身のコックみたいな活躍をしてみせるから!!

 

『今回は映画ネタが多いでございますなぁ……』

 

 というわけで、脱獄することにしました。

 ですが幸いなことに、牢の出入りは自由でした。

 なんで此処には鉄格子とか鍵付きの扉とか、そういうのが用意されていないのかしら……?

 

『あえて! あえて言わせて頂きますが!! 藍俚(あいり)殿は「死にかけの怪我を負って」「手足に口を拘束されていて」「強力な麻酔を使われていて」まず目覚めない状態だったわけござるよ!? 拙者の見たところ、割と致死量ギリギリアウトなお薬をブチ込まれておりました! なので本来なら目覚めない想定なのでございます!!』

 

 そうだったの!?

 

『(まあ、おそらくは……藍俚(あいり)殿の肉体が滅却師(クインシー)の皆様の想定を遙かに超えていたのと、(ホロウ)化できるのでお薬の効き目が悪かったのでございましょうが……)』

 

 ……? どうしたの射干玉? 急に黙っちゃって。

 

『(ですが藍俚(あいり)殿ですからなぁ……無意識で回道を使っていても、もう驚かないでござるよ……)』

 

 とにかくもう、ここから出るわよ? いいわよね?

 

 急に無言になってしまった射干玉を心配しつつ、牢から外に出て慎重に進んでいきます。

 幸いなことにというか、予想通りにというか。誰にも会うことはありませんでした。

 

 でも、なんなのココ……?

 謁見の間みたいな大広間があって、そこを抜けると長い廊下があって……

 

 土地勘が無いから、どこをどうやって進んでいるのか今ひとつ分からないわねぇ……

 誰かに聞いてみようかしら?

 

『……え? い、いや拙者は道順までは知らんでござるよ!!』

 

 分かってるわよ。

 そうじゃなくて、もっと詳しい相手がいるでしょ?

 

『詳しい相手……???』

 

 あ、噂をすれば……

 

「今頃は陛下たちが大暴れしてんだろうな……あー、全くツいてねぇ! 俺も星十字騎士団(シュテルンリッター)と一緒に死神を殺して回りたかったぜ」

「腐るな腐るな、俺たちの出番だってあるはずだ」

 

 世間話をしながら二人組の滅却師(クインシー)が歩いて来るのが見えました。

 多分、見回りか何かかしらね。

 

『あの~……まさか、詳しい相手というのは……』

 

 絶対に私たちより詳しいでしょ? 大丈夫、イケるイケる!!

 気配と霊圧を慎重に消しながら、見回りをしている二人にそーっと近づきます。

 

「それに銀架城(ジルバーン)で待機し、陛下達をお出迎えする者も必要だろ?」

「そりゃまあ、そうだけどよ……」

「分かったら今は任務を――」

「ねえ、お手洗いってどこにあるのかしら?」

「あん? それならこの道を……」

「……?」

「……??」

「……???」

「だ、脱走だあああぁぁっ!! 死神が逃げたぞおおおっっ!!」

 

 なんで!? フレンドリーに話しかけたのにぃっ!!

 絶対に油断してくれるとおもったのにぃぃっ!!

 

『その考えの極地がトイレでございますかぁ!?』

 

 お手洗いは万国共通でしょう!?

 やっぱり、滅却師(クインシー)相手にはドイツ語で話しかけないとダメだったのかしら……

 

『いえいえ、ドイツ語とは……藍俚(あいり)殿はドイツ語が出来るのですかな? そもそも全員が日本語を……』

 

 wo ist die Toilette?(ヴォー・イスト・ディー・トアレッテ)(トイレはどこですか?)

 

『……なんで!?』

 

 これだけはイケるの!

 他には「Ich liebe dich(イッヒ・リーベ・ディッヒ)(愛している)」も知ってるわよ。

 

『せ、拙者だってその……お、オッパイプルーンプルン! と 畜生めえぇっ!! くらいはイケますからっ!!』

 

 (……「und betrogen worden(ウン・ベトローゲン・ボルデン)(騙された)」と「sie ist ohne Ehre(ズィー・イスト・オーネ・エーレ)(恥さらし)」なのは黙っておきましょう)

 

 

 

 あ、こんな会話を繰り広げているけれど、状況は割と深刻なのよ。

 

 私の存在を認識した途端、滅却師(クインシー)二人は大声で叫びながら警報装置を起動させました。

 けたたましいサイレンが鳴り響く中、私は一目散に逃げていきます。

 道順も目的地も、不明だけどね!!

 

『ところで藍俚(あいり)殿! 先ほどの二人を気絶させるとか、そういうのはダメだったのでしょうか? 段ボールに隠れてCQCの基本を思い出したり、エロ本を床に配置して気を引くなどが出来たのでは無いかと、拙者は愚行いたしますぞ!!』

 

 大丈夫! さっきの滅却師(クインシー)の口振りから、主力は出払ってるはず!!

 ここにいるのは精々、保守点検業務要員くらいでしょ?

 引きつけて、纏めて叩く!

 なにも完全に考え無しに逃げているわけじゃ……

 

「騒ぎを起こす者がいると聞き駆け付けてみれば、件の死神か!!」

 

 建物の中を勘を頼りに走り回り外に出ようとしていた私の前に、一人の滅却師(クインシー)が現れました。

 いえ……現れました、って表現していいのかしら? 壁を破壊しながら強引に私の前に立ち塞がったといった方が正しいのかもね。

 

 現れたのは筋骨隆々の大男。

 頭部と眼の周りは仮面で覆われていて、マントと盾と西洋剣を身に付けています。

 手甲や足甲は付けているのに、何故か鎧は着けておらず上半身はまっ裸。

 

 見た目から受ける印象は騎士……というより、ギリシャ神話に出てくる英雄……?

 

 ……ああっ! 思い出した!! あの映画のタイトル、ヘラクレスよ!!

 

『今更ですかぁ!? というか、明らかにヤバそうなのが出てきている点はスルーでございますかな!?』

 

「身勝手に息を吹き返すばかりか、陛下のお膝元たる銀架城(ジルバーン)で暴れる大罪人よ! 我、ジェラルド・ヴァルキリーの剣にて成敗してくれる!!」

 

 名乗りを上げながら、ジェラルドは手にした剣で斬り掛かってきます。

 

 ……ちょっと! まだ私、丸腰なんだけど!!

 




人質からテロリストにクラスチェンジ。
(なお留守番部隊)

●アイ アム ヘラクレスっていう映画
ドウェイン・ジョンソン主演のヤツ。
後半の暴れっぷりがたまらない。

●コックが無双する映画
沈黙の戦艦。セガールがたまらない。

●三か月ぶりくらい
書いてる人が「こんな感じだっけ?」と困惑するレベルで間が開いている

●ドイツ語
間違ってても気にしないで下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。