今年こそ終わらせ……られるといいなぁ……
今、この
逃げて下さい、って言ってたわよね……? 私の聞き間違い、かしら……?
『拙者の耳にも「逃げろ」と聞こえたでござるよ』
だって私、死神なのよ?
それもユーハバッハがようやく捕まえた相手で、治療してでも生かしておきたい程度には思われた相手なのよ!?
捕まえてやる! 牢に戻れ!! みたいな言葉ならまだしも「逃げろ」って言われるなんて完全に想定外……
『まさに奇妙奇天烈で不可思議でござる!!』
「……あなた、どうして逃げろなんて……?」
「それは……」
目の前の、若くて誠実そうな顔つきの男性
「……二百年前のことを、覚えていますか?」
「……あっ!」
そう言われて、私の脳裏に繋がる記憶が浮かび上がりました。
なにしろ二百年前といえば、死神が
懐かしいわぁ……
『
……あの頃の私は、まだまだ下っ端で……副隊長どころか十席にも満たないくらいの役立たずで……だけどなぜか、最前線の野戦病院で怪我人を必死に治療してて……四番隊で私よりも前線にいたのは、卯ノ花隊長くらいで……後方支援の任務、大変だったわぁ……
『……後方支援とは一体……』
それ、当時の私も思った。
『具体的には34話でございますな』
それで、その最前線で後方支援任務をやっていたときのことなんだけど。
治療の拠点が
いえ、一団っていうよりも、破壊工作員とかゲリラとかの決死隊って方が正しいかしら? 戦況が不利だから、後方を攪乱して一発逆転だ! みたいな感じの部隊なのよ。
その部隊が襲ってきたときに返り討ちにして、相手を治療して、見逃した……そんな過去が私にはあるんだけど……
そのときの部隊を率いていた女性
道理でさっき「どこかで見たことがあるわねぇ……?」って思ったわけだわ!!
……ということは、この子はあの時の女性のお子さん……!?
うえぇ……時間が経つのって早いわねぇ……
「そっか……あの時の……」
「はい。あの後、色々とあって……母はここ、
「そう……」
私が「200年前」というキーワードに反応したことで、気付いてくれたと思ったのか。彼は簡単に身の上話を語ってくれました。
よかったぁ……なんとかやっていけてたのね……
だってね、ちょっとだけ! ちょっとだけだけど、心配してたのよ! あの女性のことを!! だから彼を見たときだって、記憶が繋がったわけだし!!
あの時に仏心を満載で彼女を助けたのは間違いじゃなかったの!
『子孫が美人になって会いに来てくれるかも!? とか バンビエッタ殿に繋がるかも知れないから今のうちに仲良くしておこう!! などと言っていた気がするのは、拙者の記憶違いでしょうか……? 満載だったのは
いいから!! ほらほら、まだ何か話すみたいよ?
「あなたのことは、母から時々聞かされました。殺し合いをしていたはずなのに、命を助けてくれた妙な死神がいた、と……姿形と名前に"アイ"がつく、くらいのことは聞かされていましたが、まさか生きていてるとは……」
「ふふ、確かにそうね。自己紹介をした覚えもないし、そもそも二百年前のこと。死んでいたと思ってもおかしくはないわね」
そっかぁ……そういう風に伝えてくれていたんだ……
なんだか、ちょっとだけ嬉しいわね。
「ただ、母と違って自分はあまり強くありませんでした。なので今の様に後方支援組に回されて……陛下があなたを連れて戻ってきて、自分があなたの処置担当に選ばれたときには本当に驚きました」
『
ええ、そうね……これは……
『つまりこれは「どこかで伏線として使えるだろう」と思って用意したものの、機会を逃してズルズル来てしまったので「だったらもう丁度良いタイミングだしここで使っちまおうぜ!! ネタの再利用だぜグヘヘww どうせ気付かんやろww」という悪乗りの産物でござるな!?』
いや、何を言ってるのよ!!
ここは「善因善果」とか「情けは人のためならず」とか言うべき所でしょ!!
『昔、命を助けて頂いたツル、もとい
いやいや、間違ってはいないけれど、言い方ってあるでしょう!?
「ああ、なるほど。この怪我、あなたが治してくれたんだ。こんな立場じゃなかったら
射干玉から軽く聞かされていましたが、さも「今初めて聞いて気付きました」といった雰囲気を纏いつつ、胸元を軽く覗かせながら傷口に目を落とします。
ちょっとだけ頬を赤くしながら、目の前の
「それで、そのときの恩返し、ってわけじゃないんでしょうけれど、表だって敵対するのも憚られたから、私に逃げろって言ってくれた、と?」
「…………」
目を背け、無言のまま。彼は一つ頷くと、一枚の紙片を差し出して来ます。
「これは……?」
「大まかですが、
「……いいの?」
「本当は、ダメです。ですが……」
「そう……」
紙片を受け取りながら尋ねれば、自分は見ていないとばかりに顔全体を背けていました。
……まあ、それはそうよね。明確な背任行為だし、大問題よね。相手としても苦渋の選択だったってことかしら。
紙片を受け取り、軽く目を通して書かれていた事柄を暗記すると――
「……あっ、いけない! 書き付けを落としちゃったわ。でもこれを拾っている余裕なんてないし、目の前には強そうな
「え、えっ……!?」
紙を丸めて投げ返しながら、わざとらしい口調と共に彼に背中を向けます。
彼は紙を受け取りつつも何が起きたのか分からず、オロオロと目を丸くしています。
「さっきの二人の気配も近くにあるし、三人で協力されたらやられちゃうー! いえその前に撃たれちゃうわー!」
「……ッ!!」
『
いいのよ、気付かせるためなんだから!!
リジェとジェラルドが近くに来ているから、もうこれ以上は無理! なので
『なるほどぉ! やはりそうではないかと!! 拙者の考えと全く同じですな!!』
……そーね。
「そこにいたか死神ィッ!!」
「殺しはしない。ただ、手足を撃ち抜いて動けなくしてやる」
「は……っ!? やっ、くっ!!」
あらら、噂をすればなんとやら。ジェラルドとリジェの二人の姿が見えました。
なので焦った様子を見せながら背中を向け、この場から逃げ出します。ついでに舌打ちしたように見せかけて、それとなく「撃て!」と伝えるのも忘れません。
「……くっ!!」
「きゃああああああぁぁっ!!」
「……!?」
ジェラルドらの視線を集めるように空まで躍り出た辺りで、彼は意を決したように
ですがそれは私を大きく外れた位置を狙ったもの。多分、万が一にも当たらないように気を遣ってくれたんでしょう。込められた霊圧も弱々しくて、仮に当たってもダメージらしいダメージにはなりません。
そんな気を遣った矢に、自ら当たりに行くように動き、自分の身を晒します。当たった瞬間には大きく悲鳴を上げながら、大げさに吹き飛ばされる演技もしておきます。
……このくらいやれば、彼が疑われることもないでしょ。
当たった瞬間に「え、まさか!?」みたいに驚いた顔をしていたけれど。
『
大丈夫よ。
話をしている間にも、それとなく殺気や挙動を探っていたけど、それらしいのは感じられなかったし。本気で私を騙そうとして罠を仕込んでいるのなら、もう少し上手いやり方くらい幾らでもあるでしょ。
『まあ、
「おおっ、貴様よくやったぞ!! あとは我らに任せておけ!!」
「…………」
私に当てたのを見て、ジェラルドは機嫌良くこちらに向かってきました。美味しいところだけ持って行こうって腹づもりね。
リジェの方は、チラリと彼を一瞥するものの何も言うことはありませんでした。
……ひょっとして、戦力として数えられていなかった弱い
サ、サービス過剰すぎたかしら!?
けど、やっちゃったものは仕方ありません。
彼の心意気を無駄にしないためにも、さっさと
ただ、その前に――
「そこかあぁっ!!」
「読めてるのよ!!」
吹き飛ばされた私を追撃するように、ジェラルドが襲いかかって来ました。
勢いよく振り下ろされた大剣を避けながら、カウンター気味に腹を思い切り殴ります。
「ぐおおっっ!!」
ですが、苦悶の声を上げつつもジェラルドからは余裕の気配が漂ってきています。
でもね、そう上手くいくかしら……?
「ふははははっ!! 愚かなり死神よ!! 我の能力を忘れたか!? 貴様がどれほど抗ったところで、我には勝てぬ!! そのような"奇跡"は起こらぬのだ!!」
「そうでしょうね!!」
まるで
鋭い速度にて何度も繰り出される攻撃を紙一重で避けながら、さらにもう一撃。今度は顔面を思い切り殴ります。
「ぐぅっ!! だが、効かぬわ!! その一撃で我はさらに強くなる!!」
頬を殴り抜かれてもなお、余裕の表情を見せながら。ジェラルドは
……ひょっとして、気付いてない?
実はね、さっきの攻撃は全て、殴ったと同時に回道で治療していたのよ。
だから、ダメージそのものは全てゼロ。打たれても肌が赤くなることすらないの。
ただ痛みだけは消していないから、肉体は殴られたと錯覚する。けどダメージは無いから
……そんな風に、絶妙な攻撃をしかけて戸惑わせる……あわよくば「何故だ!? どうして奇跡が起きぬのだ!!」みたいな感じで翻弄する予定だったんだけどなぁ……
能力で交換する間も無いくらいの早業だと気付かれても、それはそれ。相手を警戒させられるから問題ないはずだったんだけど……まさか全く気づかないなんて!!
……ッ! むしろ警戒しなきゃいけないのは、むしろこっちよね!!
「痛っ!! 脚が……!!」
「脚の付け根を、片足全てが吹き飛ぶように狙ったはずだが……これも治すのか」
ジェラルドとの接近戦を繰り広げている最中、リジェに左足を狙撃されました。
激痛が走り、チラリと見てみれば一射目と同じく、太ももの付け根の当たりが円形に抉れています。
ただ、皮膚で止まっているから治すのは簡単なのが不幸中の幸い、かしら……?
それよりも。
不可解なのは「ジェラルド越しに私の脚の付け根を狙い撃って、当てた」こと。
今の位置関係で私の脚を撃とうとすれば、どうやってもジェラルドが邪魔で当たらないはず。なのに当てた……つまり、これは……――
……なるほど。段々、見えてきたわねぇ……
脳裏に浮かんだ推論を再確認しながら、心の中で溜息を吐きます。
厄介すぎるコイツら二人をなんとかして抑えつけないと、
仕方ない、もう少しだけ頑張りますか!!
●
「200年前に見逃した
なんだか、どこかでこのネタを使ってしまったような記憶があったり無かったりしています。
実は「石田雨竜の母(片桐さん)の先祖だった」とか「バンビーズの誰かの肉親だった」とか。そんなことを書いた気がするようなしないような……
●助けてくれた男性
イメージはバンビちゃんが部屋に連れ込んだあの男性(を、もう少し頼りない。線を細くした感じ)