お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第352話 彼は噛ませになって酷い目に遭うのがお仕事です

 というわけで、ようやく尸魂界(ソウルソサエティ)まで帰ってきたワケなんだけど……

 

 瀞霊廷のあちこちから黒煙が上がっていて、耳を澄まさなくても喧騒や悲鳴が途切れること無く響いてきて、濃厚な戦いの気配が各地から漂ってきていて……

 見える範囲でこれって……控えめに言って、大混乱……してるわねぇ……

 

『まあ、半分くらいは藍俚(あいり)殿の責任なのですが』

 

 え、嘘でしょ!?

 

『いえいえ、この嘘ホント。というか説明したでござるよ!! 藍俚(あいり)殿が首を突っ込んだことでユーハバッハ殿が勝手に予定を早めて、ついでに藍俚(あいり)殿の斬魄刀を盗んで卍解も奪っておこうと……もうお忘れですか!?』

 

 ……わ、忘れてないもん!

 ようするにアレでしょ!? ユーハバッハをとっちめれば、大体解決するんでしょ!?

 

『まあ、間違ってはいませんが……もう少しその、表現を……』

 

 なら、今すぐに行くわよ!!

 そんなこともあろうかと、出口はちゃんと四番隊の隊舎の近くにしておいたわ!!

 

『完全に偶然だったでござるよそれ!? 藍俚(あいり)殿は出口にまで気を回していなかったのは拙者も見ていたでござるから!!』

 

 ち、違いますーっ! ちゃんと真っ先に自分の斬魄刀を回収できるように気を回したのっ! 私、デキる女なんだからね!!

 まだ何か言いたそうな目で訴えかけてくる射干玉を無視して、四番隊の敷地内へと飛び込みます。

 

 ……あのね、その……ここだけの話なんだけど。

 

 この場所に出てきたのは、実は半分は偶然なの。

 もう半分は、そうね……なんて言ったら良いのかしら? 呼ばれてきた? ここに来いと本能が訴えかけてきた? 上手く言えないんだけど……

 

 そんな直感に従って総合救護詰所の前まで来たところで、私は見ました。

 

「たっ、隊長!?」

「あァん?」

 

 勇音と、面識のない滅却師(クインシー)が戦っている光景を。

 

 

 

 勇音は自分の斬魄刀を始解させているものの、随分と苦戦しているみたい。

 呼吸は荒くて、身体はあちこちを怪我していて、死覇装もところどころ破れていて、なにより「私は現在絶賛、苦戦中です」って表情に出し過ぎているわね。

 うーん……ちゃんと指導はしたつもりだったんだけど……相手も手練れってことかしらね?

 

 でも、そんな表情になっちゃう要因の一つは、勇音の背後よね。

 あの子の背後には四番隊(ウチ)の隊士たちが何人も倒れているの。まだ全員息はあるみたいだけど、少し危険な状態みたいね。

 彼らを庇って戦っていたから、ここまで苦戦しているというのが一つ。

 

 それともう一つ、というかおそらく最大の要因は――

 

「テメエは! 誰かと思えば陛下にぶち殺されかけた死神じゃねえか!! なんでこんな所に居やがるんだ!? ……まあ、いいぜ。手間が省けた。テメエの前でコイツらを殺して、ついでに卍解も頂くとするか!! ぶはははははははっ!!」

「うぅ……たい、ちょう……?」

韮場(にらば)君!!」

 

 思わず名前を叫んでしまいました。

 なにしろ部下の彼は、目の前の滅却師(クインシー)の手に、人質として捕まっていたんですから。

 

 この場にいたのは筋肉質で、上背は七尺六寸(230cm)はある大男の滅却師(クインシー)。アゴヒゲとモジャモジャの髪が特徴的で、容姿は凶悪な顔つきという言葉がよく似合います。

 そんな相手が、部下の頭を掴んでいるわけですから。隊長として心配するのは当然のことですよね。

 

 ……けど、不思議ね。

 見た目のマイナスを差し引いても、この男を見ていると無性に腹が立ってくるわ。

 なんて言うか「コイツは泣かせて、謝らせて、もう一度泣かせろ。それでも許さねえ」って、私の本能が訴えかけてくるのよ。

 なんでかしら……?

 

『あー……それはですな……まず、この方はドリスコール殿というお名前でして……その……』

 

 その?

 

藍俚(あいり)殿が意識を失っているときに、その……色々とやったわけでござるよ(物理的な意味で)』

 

 色々とされた!?(性的な意味で)

 

『いや、あの……その……黙っていた拙者も、申し訳なかったと言いますか……なにか勘違いを……』

 

 ……へぇ……そうなの……

 じゃあ、さぁ……コレはもう、いいわよね……?

 ついさっき、私が感じた本能的な何かは、コイツを絶対に許すなっていう天からの使命みたいなものだったのね、きっと……

 

『へ……? ええっと……藍俚(あいり)殿、それは構いませんが……ご自身でも言っていたように、人質が……』

 

 うんうん、分かってるから。

 きっとこのドリスコールってのが勇音達に襲いかかってきて、韮場君がボコボコにされて人質に取られて、それでも勇音は頑張ったけどジリジリ削られていて、でもまだ誰も死んでいないから、この場の全員を後々の人質として使うつもりだった。

 四番隊を狙ったのは回復役を潰すためと、本来なら捕まっているはずの私に対する手札として使うため――そんなところよね。

 

 ……舐めた真似してくれるじゃない。

 

『あ、藍俚(あいり)殿が怖いでござる……でもそんな藍俚(あいり)殿も好きでござる♥』

 

「なるほど、大体理解できたわ……ごめんね勇音。皆も。遅くなっちゃって。ちょっと道が混んでいたのよ」

「隊長……! 私、私……!!」

「その口振り、まさか自力で脱出したってのか!?」

 

 私の言葉に緊張が切れたのか、勇音は涙を滲ませます。

 けれどドリスコールは私の言葉に、凶悪な顔をさらに凶悪に歪めながら笑い出しました。

 

「……ぶはははははははっ!! 面白えぇ!! それにおれは運が良いぜぇ!! 親衛隊を突破してきた死神をブチ殺せば、おれの評価はますます上がる!! 陛下からの覚えもめでたくなって万々歳だ!!」

 

 続いて私の全身を、じろりと軽く見回すと、さらに上機嫌に声を張り上げます。

 

「それにその格好、親衛隊の奴らに大分苦戦したみてえだな……? いくらテメエが死んだヤツも蘇らせるほどの腕前でも、そこまで弱ってりゃ殺すのなんざワケもねぇ!! 上手く行きすぎてコエーくらいだ!!」

「……そう、上手く行くと良いわね?

「行くに来まってんだろーが!! コイツが見えてねえのか!?」

 

 片手に掴んだ韮場君を見せつけるように掲げました。

 はいはい、人質ね。

 

「良いんだぜ、別によ。このザコの命が惜しくなけりゃ、掛かってこいよ。そんときゃコイツと合わせてお前も殺してやるぜ? ここに来てから、殺した数が少なくてイライラしてんだ。このおれがだぜ?」

 

 このおれが、って言われてもねぇ……知らないわよ。

 

『(あー……大量虐殺(ジ・オーヴァーキル)のヒントですが、気付かないでござるか。まあ、殺した数を自慢する異常者の台詞とも取れますからなぁ……どうでもいいですがオー"バー"ではなく、オー"ヴァー"なのがオサレ感マシマシでござるよ)』

 

「おまえもつれーよなぁ? ザコ過ぎるせいで真っ先に足を引っ張って、今度は隊長サマまで迷惑を掛けるってわけだ!! つれーつれー、ザコ過ぎるってのもつれーなあ!? はははははははっ!!」

 

 と思ったら今度は人質の韮場君に話しかけました。

 内容は明らかな挑発。誘ってるわねコレ、私に手を出させようとしている。

 

「ぐ、あ……隊長……お、俺のことは、いいですから……コイツを……」

 

 あらら、苛められたからか韮場君が涙を流しながら訴えてきた。

 でもそれ以上に……勇音が何か、動いているのよね。ドリスコールの注意から逸れているのを良いことに、必死で目で合図を送ってきてる。何か策でもあるのかしら……?

 

 でもね、勇音……あなたが私に何をして欲しいのか、全然読み取れないの。

 

藍俚(あいり)殿!? そこはこう、隊長副隊長のあうんの呼吸的な何かを!!』

 

 無理だってば!! 打ち合わせすらしていないんだもの!!

 そもそも何か策があるのなら、もうとっくに勇音がこの状況を解決しているはずだし!! となればもう、ノリと勢いとアドリブで行くしかないでしょ!?

 

「そう、わかったわ……キミの覚悟、無駄にはしないから!」

「はっ! 馬鹿が!!」

 

 私が一歩踏み出した途端、ドリスコールは韮場君を掴む手に力を込め、もう片方の手に槍の形をした霊圧を生み出し投げつけてきました。多分アレが、ドリスコールの神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)なんでしょう。

 私に直接ダメージを与えて、人質を痛めつけることで精神的にもダメージを与える、そんなところが狙いの行動かしら?

 

 だとしたら、甘いわね。

 

「ちょっと痛いかもだけど我慢してね!!」

「なにッ!?」

 

 最初の一歩を普通に踏み出し、二歩目からは全力の瞬歩(しゅんぽ)を用いて攻撃を躱しつつ、一瞬でドリスコールまで接近します。

 私の動きに反応しきれず僅かに硬直している隙に、彼を掴んでいる方の腕に向けて移動の勢いのまま膝蹴りを叩き込みました。

 

「ぐあ……ッ!! テ、テメエぇっ!!」

 

 蹴り上げられた痛みと衝撃で片腕から力が抜けて、韮場君を取り落としました。

 ドリスコールは憎々しげに私を睨んできますが、相手にしている暇はありません。まずは解放された人質を助けるべく、落下した彼を抱えて――

 

「隊長! これを!!」

 

 ――って、えええっ!?

 ここで勇音が動きました。自分の物では無い斬魄刀を投げつけて……って、アレ私の斬魄刀だわ!!

 なんで勇音が持ってるの!? 記憶の糸を辿ると、隊首室に置いたままだったはずなのに!?

 あと、狙っていたのってコレなの!? 私に斬魄刀を渡せば何とかなるって思ってたの!?

 

 ……。

 …………。

 

 ……なんとかしてやろうじゃない!! 遅れてきた分を一気に取り戻すわよ!!

 

「ありがと勇音!」

 

 さも「今までの一連の流れは全て予定通りでした」といった雰囲気を醸し出しながら、軽く跳躍して斬魄刀を掴み取ります。

 そのまま飛び上がった勢いでドリスコールから少しだけ距離を取ると、韮場君を下ろしながら抜刀します。

 

 ……なんだか斬魄刀を握って戦うのも久しぶりね。

 

『拙者もなんだかやる気がムラムラ沸いてくるでござるよ!! こんな幸せな気持ちは初めてでござる!! 今なら男でも女でもバッチコイ!! なんでも来いでござる!!』

 

 もう怖い物なんて何もない、って感じよね。

 

「良かったぁ……隊長がいつ帰ってきても良いように、ずっと持ち歩いていたんです……」

 

 人質と斬魄刀の両方を取り戻したのを見て、勇音がホッと胸をなで下ろしました。

 でもね、言わないけどちょっとズレてたわよ? ちょっとギリギリだったわよ? 言わないけどさ。

 

「……チッ」

 

 斬魄刀を取り戻すと、ドリスコールは少しだけ含みのある様子で舌打ちしました。

 ……? まだ、何か狙っているのかしら……?

 

「舌打ちなんて、余裕ね……それとも、まだ逆転できると思ってるのかしら?」

「当たり前だろ? お前の目の前で殺してやろうと思って、今までザコ共を相手に殺さねえように気を遣って戦ってたんだ! けどようやく、んな我慢もする必要なくなったってわけだ!!」

「……そう」

 

 ゲラゲラと笑うその表情の裏には、やはり何か含みが見え隠れしてるわね。

 でも、ここは押していきましょう。

 

「私は、敵であっても命を奪いたくはないんだけど……少し、やり過ぎたみたいね……卍解――」

 

 その途端、ドリスコールと勇音の表情が一変しました。

 えっ、えっ!? 何、何なの!? どういうこと!?!?

 

『あー、そうでしたな。藍俚(あいり)殿はご存じなかったでござった』

 

「馬鹿が! 乗りやがった!!」

「ああっ、駄目です隊長! 乗っちゃ駄目えええぇぇぇっ!!」

 

 乗っちゃ駄目って言われても、もう止まらないってば!!

 

「――射干玉三科」

 

 卍解の発動に合わせてドリスコールは懐からメダルのような物を取り出すと、にやけ顔のまま私に向かって掲げてきました。

 

「なにィ!?」

「え……あ、あれ……? なんで……??」

 

 ――しかし なにも おこらなかった。

 

 とか言いたくなるくらい、何にも起こらなかったわ。

 メダルを掲げたまま、ドリスコールは信じられない物を見たとばかりに目を白黒させて、私と手の中のメダルへと、何度も視線を行き来させています。

 勇音も、泣きそうな表情だったのが、今では呆然とした顔になっています。

 

「何故だ!? コイツの卍解だろうと、おれなら……くそったれがぁっ!! おれじゃ駄目ってことかよ!!」

 

 ええっと……何があったの……? というか、何がしたかったの?

 

「隊長……卍解は、大丈夫なんですか……? 奪われるんじゃ……??」

「卍解が? いいえ、平気だけど……もしかして、奪われるの?」

 

 私の問いかけに勇音が恐る恐るコクン、と首を立てに振りました。

 うわぁ……卍解、奪うのね……またとんでもないことを……

 

『(藍俚(あいり)殿は、卍解を奪われるかもしれないという知識がありませんからなぁ……死神の皆様は本来ならば縛道で周知されたので知っていて使わないのですが、その辺りの事は影の領域(シャッテン・ベライヒ)という圏外にいたことで仲間はずれ……言うなれば今この瞬間だけは情弱! 初めて上京した学生状態でござるよ!!)』

 

 とんでもないわね……卍解を奪うなんて……

 

『ですが(ホロウ)化可能な死神だけは例外――』

 

 射干玉を奪っても、扱えるわけないでしょ……?

 どう考えても暴発するわよ? 核廃棄物の方がまだ扱いやすいでしょうに……滅却師(クインシー)って常識が無いのかしら……

 

『ちょ、藍俚(あいり)殿!? それはあんまりなお言葉!!』

 

 私以外に扱えるわけないでしょ、っていう信頼の意味での言葉だったんだけど……取り消した方が良い?

 

『それは、もっと言って!! あと出来れば、ちょっとだけ罵ってほしいでござる!!』

 

 うん、言ってあげたいんだけど……

 けど今は、このドリスコールの処理から優先させてね。

 

「クソッ! そういや確か、何か例外があるとか言ってやがったな! この女がそうだってことかよ!!」

「よく分からないけど、残念だったわね」

 

 卍解にて生み出された真っ黒い刀を向けると、ドリスコールは手にしていたメダルを投げ捨てながら怒声を上げてきました。

 

「ケッ! 卍解を奪えなかろうと、テメエを殺せばいい! それで、何にも、問題はねえんだよッ!!」

「そう?」

 

 怒りと共に打ち込まれた槍を、私は手にした刀で弾き飛ばします。

 

「でもあなた、ユーハバッハよりも、ジェラルドやリジェよりも、随分と弱いみたいだけど……」

「……ッ!!」

 

 親衛隊二人の名前を出した甲斐があったわね。

 引き合いに出したことで少しだけ、でも明らかに怯えの表情が出てきたわ。

 

「本当に私を、倒せるのかしら?」

「う、うおおおおおっっ!!」

 

 恐怖に突き動かされたように再び巨大な槍を生成しましたが、それが撃ち出されるよりも早く、私は相手に肉薄します。

 韮場君を助けに動いたときよりも、よっぽど楽だったわ。

 

「……死ね」

「!!」

 

 ドリスコールにだけ聞こえる程度の声量でそう呟くと、全力で刀を振り下ろし、相手に力一杯叩き付けました。

 打ち込まれた鋭い一撃に、ドリスコールは声すら上げませんでした。

 衝撃に耐え切れず、白目を剥いて意識を飛ばして、力無く崩れ落ちていきます。

 

「なんてね……殺したりはしないわよ。それは私の矜持に反するから」

 

 手にした刀の峰が下を向いているのを誇示しながら、そう声を掛けます。

 まあ、気絶しているので見えてはいないでしょうが。

 

 お察しの通り、さっきの一撃は峰打ちです。

 本気で斬っていたら、今頃は胴体が泣き別れしてるもの。

 とはいえ卍解した上で全力の一撃を放っているわけですから、峰打ちとはいえ大怪我は免れないけどね。

 でもこれくらいで済ませてあげたんだもの。泣いて感謝して欲しいくらいだわ。

 私も、あなたのズボンがビショビショに濡れているのは黙っておいてあげるから。

 

「……けど、あなたの身柄は、そうね……総隊長か、涅隊長にでも引き渡すとしましょうか」

 

 気絶しているドリスコールに向けて、私はそう声を掛けました。

 




●韮場(にらば)
ただのモブ死神なのですが、なんとなく名前を付けました。
名前の由来は「バニラ(TCGで特殊な効果を持たないカードへの俗称)」から。

(イメージは「98話でなんとなく出した彼」が、四番隊に入隊したその後)

●ドリスコール
以前「虚化可能な死神の卍解は奪えないかもしれないと、周知されている」と書きました。
ですので拙作の設定上では、当然ドリスコールも説明を受けています。
ただコイツの場合は「あー、わかったわかった」と適当に聞き流してそうなイメージがあったの、こんな感じに。

この後は多分、標本用の瓶のラベルに名前が書かれるお仕事が待っています。
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