「……う、く……ッ!?」
「湯川隊長!」
突然、意識が遠くなりました。
足下がおぼつかなくなり、そのまま倒れそうになったところを雀部副隊長がとっさに支えてくれたおかげで、なんとか倒れずに済みました。
「大丈夫ですか?」
「いえ……流石に少し、疲れたみたいですね。ありがとうございます」
心配そうに顔を覗き込んできたので、私も笑顔を浮かべながら返事をします。
いや、だってねぇ……考えてもみれば、かなり連戦だったんだもの。
そりゃ疲れて意識も吹っ飛びそうになるわよ。アザトースとか変な空耳も聞こえるわよ。
『ユーハバッハ殿に殺されかけて、お持ち帰りされて、意識を失う薬を打たれましたな。覚醒後は傷を治して、お薬を中和して、ジェラルド殿とリジェ殿を相手に暴れまくり。
本当にね……なんで生きてるのかしら私……
まあ、今はそれよりも優先することがあるから。
『……?? 何をする気ですかな?』
「それよりも、雀部副隊長こそ大丈夫ですか?」
「私、ですか……? いえ、別に私は……」
「ご遠慮なさらずに」
本当に覚えが無いのか、謙遜する雀部副隊長の手をそっと取ると回道を唱えます。
ユーハバッハに刀を刺したとき、柄が血で汚れていたのを。自分の爪が食い込むくらい力一杯に拳を握り続けて傷を付けたのを、私は見逃していませんよ。
「ご自分の掌をこんなに傷つけるなんて……相当我慢したんでしょう?」
「いや、ハハハ……湯川隊長には叶いませんな……お見通しでしたか……」
軽く頬を掻いて照れを隠しながら、続きを口にしてくれました。
「元柳斎殿からは『隠れ潜み、ユーハバッハの隙を狙え』と厳命されました。またその際に元柳斎殿は『我が身がどうなろうとも決して助けに出るな』とも……全てはユーハバッハを確実に倒すため。そのためなら、ご自身の命すら省みないとご決断されていました」
「まぁ……」
その命令を厳守し続けた苦悩と忍耐の結果が、この掌の傷というわけですね。
このぐらいしないと自分を抑えきれなかった、言うなれば男の勲章みたいなもの……は、ちょっと違うかしら……?
「それに、途中からは更木副隊長と湯川隊長が加勢に来て下さいましたので。心持ちも随分と楽になりましたよ」
「そう仰って頂けると、私も無理をして戻ってきた甲斐があります……はい、コレで完全に治りましたよ」
「おお、ありがとうございます! ――……元柳斎殿、元柳斎殿!!」
完治したことを告げると、雀部副隊長はすぐに総隊長の所へと走って行きました。
あっちもあっちで、色々と決意をしていたのにユーハバッハに逃げられちゃったからね。
でも確実に雪辱戦を挑んでくるだろうし……それ以前に、死神や瀞霊廷全域の被害状況の確認やら残った戦力のとりまとめやらも必要だろうし……
『ですがその辺は、ユーハバッハ殿も必要になるのでしょうなぁ……
わ、私は暴れないもん! 壊したのはジェラルドだもん!!
……あ、ほらほら見て! 総隊長が「瀞霊廷全域に地獄蝶を飛ばせ! まずは此度の事態の正確な情報を知らねばならぬ! 全隊長も自部隊の損害について仔細漏らさず報告させよ!」とか命令してるわよ!!
『つまり
……あ、そっか……そっかぁ……
しかもその怪我人の治療とかも
『他にも厄介ごとのタネがそこら中に目白押しですからな!! イベントには事欠かんでござるよ!! ほらほら、さっそく厄介ごとが向こうからやってきたでござるよ!!』
ふぇ……?
「おう、
「更木副隊長……ええ、分かりました……」
卍解を解除しているものの、全身に怪我を負っている更木副隊長の姿を見ながら、私は思わず溜息を吐きました。
「しかし、この卍解ですか……まだ使いこなせていないんですね……」
「わかるか?」
「分かりますよ。それに、傷を診る限りは随分と楽しんで戦ってたみたいですね」
傷の具合から察するに、その多くは……筋肉痛の最上位っていうか、身体が付いていかなかっただけ。肉体の限界を超えて動かしたから耐えられなかっただけ、なんだけど……
……おかしいわね……? 怪我の具合から察すると……
「この傷、卍解の影響だけじゃない……?」
「へへ、分かるか?」
なにやら得意満面の顔を浮かべているんだけど……
何でかしら? その続き、すっごく聞きたくない……
「せっかく斬ったと思ったら、いつの間にか俺が斬られてんだ。どうも跳ね返されてるみてえでよ。自分の剣で斬られるってのはこういうもんかって思うと……楽しくて楽しくて仕方ねえ!! ったく、なんで逃げやがったんだアイツ……!!」
そこで「楽しい」って言える辺りが、とっても更木剣八なのよね。
あと、危うく聞き逃しそうになったけど今の話……攻撃を跳ね返す……?
あら? でもユーグラムは傷が無かったわよね……? それでいて攻撃を跳ね返す……
ということは、受けた攻撃を無効化して、全く同じ傷を相手に跳ね返す。
とかそんな感じ?
……え、それどうやって倒せばいいの……?
「ねえねえあいりん、剣ちゃんと一緒にあたしも頑張ったんだよ?」
「ええ、草鹿三席もお疲れ様でした。今日……はちょっと無理だけど、明日くらいには作っておくから」
「本当!?」
更木副隊長を治療していく傍ら、草鹿さんにもお菓子を作ることを約束しました。
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あれから少し時間が経ちました。
今現在、何をしているかと言いますと――
「全員、揃ったようだな。ではこれより緊急の隊首会を行う」
ということで、お察しの通りに隊首会です。
まあ、事前にも「被害の確認やら残った戦力の再確認やらを行う」と言っていたからね。まずはその辺の情報を持ち寄って報告と共有をするの。
場所はいつも通りの一番隊舎……と言いたいところなんだけど、ユーハバッハが大半を壊しちゃったのよね。
だけど意地で場所を変えず、半分廃墟みたいな場所で開催されています。屋根と壁はあるから大分マシよね。
「まず全員聞き及んでいると思うが、此度の
追い詰めた……うん、まあね……
でもそのあと一歩、ちょっとズレてたら負けてましたよね……?
『しかも卍解を奪われているでござるよ? もうこれ実質負けでござる!』
「これでは千年前の二の舞である! 故に、速やかに全死神を再編成! 準備が整った後に、
「「「「――ッ!?」」」」
この発言に、多くの隊長達が息を呑みました。
それぞれがせわしなく視線を動かす中、やがて平子隊長がおずおずと手を挙げます。
「あー……その、ちょいエエですか?」
「何か?」
「敵の本拠地攻めるん言うとるけども、どこにあるんかもうわかっとるんですか? まさかこれから全員で探すとでも……」
「いや、その件については湯川が知っておる」
おっと、今度は私に全員の視線が集まりました。
「ええ、その通りです。皆さんご存じでしょうけど、私は一度ユーハバッハに敗れ、連れ去られました。その後、敵の本拠地から逃げ出してきたのですが――」
「よ、良く生きておられましたね
砕蜂、そのツッコミはもう自分でやったから。
「そのときの座標を使えば、こちらから侵攻することも可能なはずです。そのときに見聞きした内容については後日、詳細な報告書を提出する予定です」
「ホウ! こんなことなら監視用の菌をもっと丈夫にしておくべきだったネ」
か、監視用の菌って何……?? 知らないんだけど……
耳慣れぬ言葉に目を白黒させる私に、砕蜂がこっそり耳打ちしてくれました。
「(以前現世で
「(……ああ、なるほど……涅隊長らしいわねぇ……)」
その菌が生きてたら、もっと大量の情報を手にしていたってことよね?
その場合、もっと簡単だっただろうなぁ……
「敵地に攻め込むと口にしたのは、こうした理由からだ。よって各隊長ならびに各隊士は、何時出発となっても問題無き様、準備を整えておくよう厳命する。では、此度の被害についてだが――」
「はい、まず一番隊ですが――」
「二番隊は――」
続いて、各隊の怪我人たちの報告が上がってきました。
十三番隊まで終わったところで――
「では最後に、四番隊の被害。並びに負傷者についてです。四番隊の隊士は比較的軽傷者が多く、治療業務については問題ありません。ですが収容した負傷者ですが、現在分かっているだけでも――人、全体隊士の――
四番隊の報告です。
……これ、被害状況を纏めるのは大変だったわ……
ほら、私が今まで使っていた伝令神機、ユーハバッハに壊されちゃったでしょ?
だから勇音やら桃やらイヅル君やらに連絡の中継を頼んで、集まってきた情報を必死に纏めたの。
「……なるほど。では湯川、全員を戦闘可能な状態にまで完治させるまでどれほど掛かる?」
「全員、ですか……? 重傷者も多いので、一概には言い切れませんが……」
「大凡で構わぬ。またその際には何を使ったとしても儂が許可する」
何使っても良いのよね? そうなると……
「最大限に上手く行っても、二十日ほどは掛かるかと思います」
「二十日、か……」
そこまで上手く行くとは思えないんだけどね。
ですが私の言葉に総隊長は渋い顔をします。
「あい、わかった。この件については後日答えを出す。では最後に……」
そこまで口にすると、総隊長はわざと言葉を切って数秒のタメを作りました。
「卍解を奪われた死神についてじゃ」
自分でも、言いたくないんでしょうね。でも立場上、話題に挙げないわけにはいかない。
卍解を奪われた死神という言葉に、心当たりのある各隊長は総隊長に負けないくらい渋い顔を見せます。
そんな中、心底嫌そうな顔で総隊長が口火を切りました。
「……まず、儂じゃ」
「十三番隊では、朽木ルキアが奪われました」
「十番隊……日番谷冬獅郎……チッ……」
「七番隊も同じく、儂が……くッ!」
隊長自ら卍解を奪われたお二人は、雰囲気がお通夜ムードですね。
特にシロちゃんなんて、不貞腐れてます。
まあ……それも仕方ない気もします。怪我人の確認中に知ったんですけど、十番隊は隊士たちも大変なことになってるみたいだし……
……ぷぷっ!
『
アレの治療、私にはできそうにないんだけど……
十番隊は隊長も隊士も全員ひっくるめて大変ねぇ……
「六番隊は副隊長の阿散井恋次が該当します。また、それ以外にご報告なのですが――」
あら? まだ何かあるの?
「私も一度卍解を奪われました。ですが自らの手で卍解を取り戻すことに成功しました」
「なんじゃと!?」
総隊長がもの凄い勢いで食いついて来ました。
他にも卍解を奪われたままの隊長のお二人も真剣な眼差しを向けています。
朽木隊長が取り戻せたなら、自分たちも取り戻せるかもしれないと期待しちゃうわよね。
ただ、涅隊長は別の意味で興味深そうな様子です。
「ありゃ、そうなんですか? 三番隊の鳳橋副隊長からは、卍解を奪われなかったって話を聞いてたんですが……?」
今度は三番隊の雨貝隊長が、不思議そうな顔をします。
まあ「奪われなかった」と「奪われたけど取り戻した」では、天と地ほども違いがあるものね。
「それなら私も、四番隊の湯川も卍解を奪われることはありませんでした」
なので私も挙手をしながら報告を。
それから、色々と判明していたこともついでに報告しておきます。
「どうやら
「……なるほど、そういうことですか!」
「ローズと湯川はどっちも
「ちょっと待った
私の話に得心がいったとばかりに騒ぎ出す中、京楽隊長が尋ねてきました。
「はい、捕まえました。ドリスコールという名の男ですが、処置をして四番隊に捕らえています。それと卍解を奪う例の金属片も現物がありますよ」
「……それはすごいね」
「それは素晴らしいネ!!」
若干引いている京楽隊長とは対照的に、涅隊長が一気に上機嫌になりました。
「新しいデータが山ほど手に入ったと思っていたら、まさか検体を捕獲していたとは!! いやはやご苦労、最大級の賛辞を送らせて貰うとするよヨ。さあ、今すぐに渡すんだヨ! この私が記憶を全て引っこ抜いて、ついでに新しい
「……一つ、約束してください」
「なにかネ?」
「お渡しする条件として、ドリスコールを殺さないでください」
「ホウ、面白いネ。いいだろう、五百万秒までは保証しておこう」
五百万秒……って、どのくらいかしら……?
『約二ヶ月といったところでござるよ』
なら問題ないわね。
私は頑張った、頑張って二ヶ月も譲歩させたわ。これはもう誇っていいレベルね。矜持的にも問題なし。私は殺してないもの。
『
「勝手に話を進めるな馬鹿者共が。その男はまず一番隊にて尋問する。よいな?」
「ではその尋問、我々も是非とも協力させてもらうとしましょうかネ」
総隊長が割り込んできましたが、涅隊長も譲らないわね。その辺の諸々についてはお二人で決めて下さい。
「しかし、湯川や鳳橋副隊長ならばハッキリとした理由があることが分かったが……となると朽木隊長はどうして……? 何か思い当たるフシはないのかい?」
「む、そうだな……敢えて言うのなら……」
浮竹隊長の問いかけに、朽木隊長は少し腕を組んで考えていました。
「……愛、でしょうか」
「あ、愛!?」
「あはは、朽木隊長も面白いコトをいうんだね。ねえ浮竹?」
「いえ、冗談ではなく事実です。私は卍解を奪われたとき、千本桜に必死に呼びかけました。千本桜もまた私の呼びかけに応え、呪縛から放たれた……少なくとも私には、そう思えました」
うわぁ……話を聞いていた涅隊長が「ツマラナイ」って顔全体で主張してる……
最初の頃はちゃんと聞いていたのに、今じゃもうすっかり興味を失ってるわ……
愛とか勇気とか根性で何とかしましたって、話のネタとしては面白いんだけどね。涅隊長からすれば、聞くだけ無駄な時間だったってコトよね。
それにしても、そういう根性でどうにかするのって一護とかの役なんじゃないの? 別に文句があるわけじゃ無いんだけどね。
あ、理由が分からないけど卍解を奪われなかったといえば!
「すみません、忘れるところでした。十一番隊の更木副隊長も奪われませんでしたが……
「ええ勿論。剣八はできませんよ」
私が恐る恐る尋ねると、卯ノ花隊長はにっこり笑って肯定してくれました。
よかった、本当に良かったわ! 知らない間に「覚えさせました」とか言い出すんじゃないかと、ちょっとだけ不安だったの!!
「では、更木副隊長も理由は不明ですが奪われませんでした」
「う、うむ。更木については儂もその場にいたので知ってはおる」
総隊長も更木副隊長の規格外っぷりは知っていたので、少々汗を流しながらも頷きます。
その後も多少の情報の共有――具体的には敵
「――では今回の隊首会はこれまでとする」
隊首会は終わりました。
「なお湯川は捕縛した
「……はい」
……私だけ宿題があるんだけどね。
でも、これでようやく一息付けるわね……四番隊の皆に謝って、それから怪我人の面倒を見て……
「湯川殿、少しよろしいでしょうか?」
頭の中でやることを列挙していたところ、声が掛けられました。
私のことを"殿"を付けて呼んでいることから、おそらくは……
「なんですか朽木隊長?」
「実は、折り入って頼み事が」
予想通り、朽木隊長でした。
彼は申し訳なさそうな表情で、やや言いにくそうに私を見てきます。
「その、緋真が懐妊していることが分かりまして……」
「えっ……!? い、いつですか……!?」
「妻の話では、もう二ヶ月ほどだとか。それで湯川殿には是非またお世話をお願いしたく……その……」
いや、そっちじゃなくて何時分かったのかってことで……ううん、でも妊娠何ヶ月かってのも知りたかったから間違いじゃなくて……
え、二ヶ月……?
それって逆算すると、一護に死神の力を渡しに現世に行った頃辺り? あの頃に仕込んだってコト……!?
確か、月島君と戦って、色々あったって……まさか……!?
『……あっ(察し) というやつでございますな!! 風に煽られることで炎は強く燃え広がる!! つまりはきっとそういうことでござるよ!! 差し込まれた記憶を疑似NTR体験に変換して白哉殿のやる気がカム着火ファイヤー!!』
いや、まさか、そんなことは……
なにはともあれ、射干玉の推測を聞きながら、私は奪われた千本桜がどうやって戻ってきたのか、その真の理由はなんとなく察せました。
……良かったわね、千本桜……次はちゃんと桜の名前を入れて貰うのよ……
『感慨に耽っているところ申し訳ございませんが、また朽木家の赤子の取り上げ係に任命されているでござるよ? 他の人から見たら
……うぇぇ……
●本拠地に攻め込むの?
パスが無いので、無理です。
(以前も書きましたが、出るのは簡単。入るのは無理。でも大昔のアカウントは生きてる。な状態ですので)
よってこの時点での総隊長の目論見は、不可能です。知らないので仕方ないのですが。
(最短ルートは石田祖父の持ってたパスを利用)
●奪われた卍解について
侵影薬、多分明日にはできます。