お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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ちょっとだけ、ひよ里もいます。



第36話 マッサージをしよう - 曳舟 桐生 -

 曳舟隊長の手作り料理は怪我人が食すには最高の物だというのは前にもお話したかと思います。

 ただ、彼女の霊圧を取り込む技術――ひいては料理を真似するには、なかなかどうして難しいものがあります。個人が容易に模倣できるような物ではないわけですね。

 とはいえ"無理でした"で諦めるにはあまりにも惜しい。

 その恩恵を半分、いやさ三分の一でも良いから手軽に実現できないか? という考えに辿り着くのも当然のことです。

 

 つまり、何が言いたいかと言いますと――

 

「なるほど、ここに霊圧を……」

「そういうことさ。なかなかスジが良いじゃないか」

 

 ――現在私は、十二番隊の調理室にて曳舟隊長と二人で"ああでもない、こうでもない"と言いながらお料理の真っ最中です。

 あの作戦で怪我人に食べさせた料理の評判が予想以上に良く、四番隊の病院食として作って貰えないかという話が持ち上がりました。四番隊(ウチ)としても損する話ではないので、まず一番交流がある私が覚えてから、四番隊の調理担当者に教える。

 という方式を取っています。

 勿論、必要とあれば曳舟隊長に直接講義をしてもらう予定ですが、まずは私がどれだけ出来るかをテストの意味も込めて実践中、と言うところですね。

 四番隊の調理場はある意味で私が仕切っているようなもので、新人に料理を教えてるのも私ですから。教え子の中には死神やめてから調理人になった子もいるくらいにはちゃんと教えてますよ。

 

 そしてこの試みが上手く行けば、死神全体の負傷率――ひいては死亡率が下がるはず。

 やってみる価値はあります。

 

 ちなみに作っているのは洋菓子からイチゴのショートケーキです。さすがに詳しいレシピは知りませんでしたので、射干玉に教えて貰いました。 

 瀞霊廷内は和菓子が中心ですからね。

 大福とか金鍔(きんつば)とか饅頭とか。餡子(あんこ)を使ったお菓子も美味しいですが、いい加減洋菓子も食べたくなりました。前にプリンとかも作りました。

 

「さてそれじゃあ、試食といこうか?」

「はい! 上手く出来ているかな……」

 

 一応、私と曳舟隊長のそれぞれの技術の結晶です。

 サッと切り分けてお皿の上に、フォークはないのでお箸ですがいざ実食……!!

 

「へえ、甘口だけれど良い味じゃないか」

「霊圧が……! 凄い、良い感じに高まってます!」

 

 これなら問題ありませんね。味としても霊圧を高める料理としても。

 

「これ、もうちょっと効果を劣化させてもいいかもですね。ヘタに強すぎると、料理に頼り切って努力を疎かにする死神が出てきそうですし」

「確かにその辺はもう少し調整だね。あとこのケーキ? ってお菓子も、男性死神にゃあウケが悪そうだね」

「献立は変えますし、あと甘い物は女性死神にはウケますよ。あとせっかく覚えた新しい料理で挑戦してみたかったというのもあるので」

 

 お互いがお互いの視点で感想を言い合います。とはいえ大きな失敗はありませんね。どちらも及第点といった結果でしょうか。

 

「まあ、今回はこんなところだろうね」

「そうですね。試しにやってみたにしては、上出来かと」

 

 お互いににっこりと微笑み合います。

 

「しかし、慣れない洋菓子なんて作ったからね。どうにも肩が凝っちまったよ。またあれ、頼めるかい?」

「そう来ると思って、そっちの道具も持ってきましたよ」

 

 私はニヤリと笑います。

 

 以前に曳舟隊長に料理を教えた時にも何度か、マッサージをしていました。とはいえ、それは軽い肩や腰を揉む程度の物でした。

 ですが今回は違いますよ。

 こうなることを料理道具の他に、マッサージ用の道具も持ってきました。時間もたっぷり多めに取っていますから、曳舟隊長が言い出すのも織り込み済みと言うわけです。

 

「隊長の私室をお借りすることになりますけれど、せっかくの機会ですし技術を教わるということでもあるので、本格的にやらせていただきます」

「へえ、これが噂の藍俚(あいり)ちゃんの……! 準備がいいねぇ、それじゃあお言葉に甘えようかね」

「ちょい待ちぃ!」

 

 いざマッサージ(おさわり)という直前に、怒鳴り声と共に一人の少女が飛び込んできました。

 

「またお前かい湯川っ!! 曳舟隊長を怪しい道に引き摺り込もぉしおって!!」

「そんな、誤解ですよ。猿柿(さるがき)四席」

 

 彼女は猿柿(さるがき) ひよ()さん。

 関西弁のような喋り方がなんとも特徴的です。

 

「じゃっかぁしぃわっ!! 何が誤解じゃ、五階も六階もあるかボケぇ!! だいたい、うちの目の黒い内はそんな怪しいことさせへんからなっ!!」

 

 背は小さくて、目つきが悪くて、そばかすがあって。

 生意気な少女というか、もう……クソガキって言うのが大正解といった感じの見た目と性格をしています。

 以前に十二番隊へお邪魔したときにも、こうやって何度か絡まれました。

 

「だいたいお前はうちと似たような髪型しおってホンマ……ファンか!」

「……私の方が先にこの髪型なんですけど」

 

 彼女も一応ツインテールですね、金髪ですけど。

 

「やかましいわ!! そんなん知るか!」

「それと怪しい道というのも、ただ肩や腰を揉むだけですよ」

「それやったらうちがやったる! アンタが出る幕なんぞないわ!!」

「そうは言いますけれど――」

 

 スッ、と一瞬で彼女の背後に回り込みます。

 

「のわっ!?」

「――肩や腰って自覚がなくても疲れるものなので」

「お、おおおお……これ、ええな……い、いやいや! 悪くはないが良くもないなぁ!!」

 

 そのまま彼女の肩を揉んでいきます。

 途端に思いっきり本音が零れましたが、それを大声で誤魔化してますね。

 まあ、彼女は曳舟隊長を物凄く慕っているので。私が頼られているのが気にくわないだけのようですが。

 

「それに曳舟隊長のように魅力的な体型をしていると、胸の重みもあるんですよ? 猿柿四席にそれがわかりますか?」

「ひょあわあああああああぁぁぁっ!?!?」

 

 肩から二の腕へと下ろしていき、油断させたところで思いっきり胸を鷲づかみにします。

 けれども悲しいかな、彼女の身体は見た目を裏切ることはありませんでした。

 肉付きのないスレンダー……を通り越して、幼児体型の域ですね。一応、微かな柔らかさはありました。

 指先で少し感じ取れる程度ですが、こう僅かにむにっとしたような、しないような。

 

 ホント、こんな小さいのに私と同じ席次……というか、私よりも先に四席になっているとかどういうことですか!

 頭に来たからもう二、三回揉んでおきましょう。記念です。

 

「って、何すんねん! 離せボケがぁっ!!」

「まあまあ、ひよ里。これ、アタシが作ったんだ。食ってみな!」

「ンガッ!?」

 

 胸を掴まれたショックで動きが硬直し、再起動したかと思ったら間髪入れずに曳舟隊長がケーキを掴んで彼女の口の中に押し込みました。

 

「んぐ……もぐもぐ…………ごくん……あまっ! なんやこれ、甘っ……甘いなぁ……」

 

 今度は蕩けたような表情をしています。怒ったり笑ったり忙しいですね。

 

「どうだい? 美味いだろう? ほらこれ、残りは全部アンタにあげるから残さず食べるんだよ」

「これ、ぜんぶ……ひとりじめ……」

 

 その言葉に、花の香りに誘われたミツバチかなにかのようにふらふらとケーキに向かっていきました。

 

「さっ、待たせたね藍俚(あいり)ちゃん。行こうか?」

「……子供舌には効果絶大、ということですかね」

「あっはははははっ! 確かにそうだね、次からひよ里が何か言ってきたらこの手を使うとするか!」

 

 そうやって笑いながら、私たちは調理場を後にしました。

 

 

 

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「さっ、それじゃあ頼むよ」

 

 曳舟隊長は一糸まとわぬ姿のまま、うつ伏せ状態で横になりました。

 裸になっているというのに一切の照れや怯みを見せない、あまりに堂に入ったその様子は寧ろ見ているこちらが恥ずかしくなるほどです。

 

「ん、どうかしたかい?」

「あ……い、いえ! あまりに堂々としていたのでちょっと面食らってしまって……」

 

 隊長私室へとお邪魔して、施術の準備を整える私に曳舟隊長は「服を脱ぐ必要があるのだろう?」と聞いてきました。どうやら私のマッサージについて、事前にある程度は聞いていたようです。

 なのでYESと返事をしながら持参していた紙製の下着を渡そうとしたのですが、それを見るよりも先に彼女は全裸になっていました。

 

「何か問題でもあるのかい? 裸の方がいいんだろう?」

「そ、そうですけれど……早い子でも何回か体験するまでは慣れずに照れていたので、こういう反応は新鮮というか何と言いますか……」

「なぁに、藍俚(あいり)ちゃんが良い子だってのはわかっているからね。それに女同士なんだ、誰に気兼ねすることもないよ」

 

 すみません。私、良い子じゃないです。

 

 和紙で作った特製シーツを敷いた布団の上に寝転がる彼女目掛けて、心の中でこっそり謝罪しておきます。

 

 背中しか見えないのに、大きな胸は隙間からはみ出ています。キュッと引き締まった括れに張りのある大きなお尻。むちむちとした太腿のラインは艶めかしくて頭がクラクラしそうなほど。

 思わず仕事を忘れて、欲望のままに撫で回したくなるほどに女の肉体です。

 これが隊長にまで上り詰めるような女性の身体ということでしょうか? 今まで相手にしてきた平隊士や席官とは全くレベルが違います。

 

「それじゃあ、始めますよ」

 

 精神を集中させるように一つ息を吐き出します。心が落ち着いたのを確認してから、彼女の背中から腰、お尻の周りに向けてゆっくりとオイルを垂らしていきます。

 

「ん……っ……な、なんだいこれ……っ……? 少しだけ冷たいような、温かいような不思議な感じ……」

「特製の油です。肌にとても良いんですよ」

「へ、へぇ……」

 

 今までこんな刺激を受けたことはなかったのでしょう、声が僅かに上擦っています。

 やがて、たっぷりと満遍なく油を掛け終えた彼女の背中はぬらぬらと怪しい輝きを放っています。見ているだけでドキドキさせられます。

 

「準備は終わりました。次に行きますよ」

 

 そう声を掛けてから、その肢体へ手を伸ばしました。

 腰に手を添えて、ぐっと揉み解していきます。

 

「……っ……!」

 

 触れた途端にビクンッと身体が震えました。

 曳舟隊長の肌はなんとも言えずに柔らかく、指先に吸い付いてきます。その感触を堪能するように何度も念入りに施術を施していきます。

 腰の辺りをぐぐっと解すように押し込み、円を描くようにして優しく刺激を与えます。

 彼女の体温と手の動きによる摩擦でオイルはゆっくりと温度を上げていき、ぬるぬるとなんとも言えない感触と気持ちよさを伝えてくれます。

 

「ん……んんっ……あ、はぁ……っ! いい、じゃないか……すっごく……」

 

 俯せの姿勢は崩さぬまま、されるがままにマッサージを受け入れていますね。

 

「気に入っていただけましたか?」

「ああ……前に、簡単にやって貰った時とは大違い、ぜんぜん別物だよ……は……ぁ……っ……」

 

 ですが声は先程と比べても若干ですが余裕がなくなっており、艶めかしい吐息が漏れています。

 指先を少し動かすだけで背中がふるふると震え、お尻やはみ出た胸が柔らかなプリンのように揺れます。

 

「ふふ、ありがとうございます。このまま背中から肩の方にいきますよ?」

 

 美人で自分よりも上の役職の相手を好き放題できるというのは、かなり興奮しますね。

 ですがその興奮を必死で押し殺しながら、背中へと指を這わせます。

 

「ふ……ぅ……っ……!」

「すみません、痛かったですか?」

 

 途端に今までよりも大きな声が漏れてきました。

 

「い、いや……痛くはないよ……ただ、驚いてさ……」

「ああ、なるほど。背中はあまり触れる機会がないので、敏感な人も多いんですよ」

 

 その背中は広く、それでいて肌は淡雪が降り注いだように白いです。

 新雪に足跡をつけて汚していくような感覚を覚えながら、その雪原を流れを整えるようにしてゆっくりとマッサージをしていきます。

 

「……ああ、なるほど……ココ(・・)、ですね?」

 

 指先の感触に加えて霊圧照射を併用すれば、凝りのポイントなんて簡単にわかります。

 微かに筋肉が強張っているような箇所目掛けて、指先を少し強く押し込みます。

 

「あ、ああ……そこは確かにっ!」

「ふふふ、その反応で充分ですよ」

 

 思い切り背筋を仰け反らせる動きを見ながら、再びじっくりと刺激していくと、彼女の身体は刺激に応じるように跳ね上がり、震えることで返答してくれます。

 

「ふ……っっ……は……っ……! あ、あんまりイジメないどくれよ……」

「いじめてるつもりはありませんよ?」

 

 いけしゃあしゃあと言いながら、さらに別のポイントを刺激します。

 

「あふ……っ……!」

 

 愉悦の声が熱い吐息を伴って漏れ出ます。

 そのまま何度も、反応を見ながら背中から背骨、そして肩からうなじまでをゆっくりと刺激していきます。

 

「そ、こ……ああ、そこ……すご、く……いい……んんっ!!」

「はいはい、ここですか? それともこっち?」

「ど……どっちも……りょうほう……頼めるかい……?」

「お任せください♪」

 

 欲望の赴くままに答えるので、私もたっぷりと欲望を満たせて貰いました。

 

 

 

「名残惜しいかも知れませんが、そろそろ下にいきますよ?」

「はぇ……し、した……?」

 

 呂律の怪しくなった声を了承の返事と勝手に解釈して、今度はお尻に手を触れます。

 

「ひんっ……!?」

「隊長職も座り仕事ですからねぇ。お尻や腿なんかも疲れるんですよ」

「け、けど……そこは……」

「たっぷり時間を掛けて、本格的にやるって言いましたよ?」

 

 そう言われては返す言葉もないのか、押し黙りました。

 なのでそのままお尻から太腿の感触をたっぷりと堪能しつつマッサージしていきます。

 こちらもオイルをたっぷり塗ってあるおかげで、ヌルヌルとした感触が肌に伝わっています。滑りが良くなってなおもお尻も太腿もプリッとした張りが感じられて、熟れた果物を手にしているようです。

 たまに"蹴ってください、ご褒美です"みたいな被虐的な言葉がありますが、納得ですね。全面同意してしまうくらい素晴らしい足です。

 

「ふ……あ、お……ぅっ……!」

 

 肩や腰、背中から伝わるそれとはまた違う感触なのでしょうか。曳舟隊長が必死で声を押し殺し始めました。

 

「曳舟隊長? あまり声を我慢なさらないほうが……」

「そ、そうかい……? いや……っ、べ、別に我慢してるわけ……じゃ……っ!」

 

 お尻の奥の凝りを強くもみほぐし、太腿の疲れを解消するように指を動かしていきながら、ときどき焦らすように力を入れます。

 

「~~~~っ!」

 

 白かった筈の背中は湯気が立ち上りそうなほどに熱を帯びて赤くなっており、必死に堪えるような声にならない声が断続的な吐息となって流れ出ています。

 どうやら、満足していただけているようですね。

 

「次はお腹側ですよ」

「……ふえ……っ……?」

 

 夢見心地になっている曳舟隊長に声を掛けつつ、軽く半回転させて仰向けにします。完全に反応が遅れ、されるがままになっていたのでしょう。

 気がつけばひっくり返されていたようで、最初に見せた堂々とした表情はどこへやら。気持ちよさに負けて蕩けた表情を浮かべていました。

 上気した顔はピンク色に染まっており、額にはじっとりとした汗の粒を幾つも浮かべています。

 

「まずはお腹から」

 

 敏感なおへそ周りを中心に、じっくりと刺激していきます。

 

「いけない、油を忘れていました。追加しますよ」

「ま、まって……!」

 

 当然、聞く耳なんて持ちません。

 ゆっくりと垂らしながら、もう片方の手でじっくりと肌を撫で回してオイルを塗り広げていきます。まるで射干玉の始解能力みたいですね。

 指先からのねちょねちょした感触の奥には、柔肌の感触が伝わって来ます。

 お腹にはうっすらと、見苦しくならない程度の絶妙な量の脂肪が乗っており、その柔らかさが女性らしさを倍増させています。

 

「お……ふううっ……!」

 

 そのままお腹から下半身へと、リンパの流れを意識しながらゆっくりと手を下げて刺激を与えていきます。

 くびれた腰が艶めかしく蠢いて、気のせいか甘い匂いが部屋中に広がっているようです。

 下半身から足の付け根、そのまま太腿へと流れるようにじっくりと、たっぷり時間を使ってもみほぐしていきます。

 

「はっ……はっ……はぁ……っ……!」

 

 まるで喘ぎ声のような呼吸が聞こえます。

 ですがこれはあくまでマッサージ、整体や按摩といった身体を解す医療行為です。何も問題はありません。

 

 むしろ問題があると思う方が下劣、下衆の勘ぐりというやつですよ。

 

 曳舟隊長もそう思っているのでしょう。

 声を我慢しなくていいと言ったのに、必死で押し殺そうとしています。ただ、太腿同士をもじもじと擦り合わせるその様子は、まるで何かを訴えているようにも見えました。

 

「それじゃあ最後に」

 

 お待ちかねです。最後の仕上げ、とばかりに胸元へ指を這わせました。

 

「そ、そこは別にいいじゃないかい……?」

「いえいえ、駄目ですよ。左右の大きさが違っちゃうと問題ですし、そもそも胸元は繊細で微妙な手入れが必要なんですから!」

 

 文句は絶対に言わせません。

 曳舟隊長の小山のように大きな胸に手を掛けました。

 

「…………っっっ!!」

 

 思わず両手で口を抑え、顔を真っ赤にしながら我慢しています。

 今までの施術がとてもとても気持ちよかったのでしょう。

 胸元に置いた手には火傷しそうな熱が感じられ、ドキドキとした心臓の鼓動が伝わってきます。

 そしてその山の頂には――いえいえ、なんでもありませんよ。ただ、曳舟隊長の性格と違って可愛らしかった、とだけ言っておきます。

 何がとは言いませんが。

 

 少し指を動かせば、大きなおっぱいがたゆんっと揺れました。

 今まで相手にしたこともない大きな胸を、円を描くようにしてマッサージしていきます。

 

「それと、胸の谷間や下乳なんかは汗や汚れが溜まりやすいので。念入りな手入れが必要なんですよ」

「~~~っ!!」

 

 ちゃんと理由を説明するのも忘れてはいけません。

 私の言葉を聞いているのかいないのか、ぐっと奥歯を食いしばったままコクコクと小刻みに首肯しています。

 まあ、頷いているので全てを私に任せるということでしょう。

 なのでたっぷりとオイルを足していきながら、時間を掛けて念入りに、手の平全体から指の先までを余すところなく使って柔らかな感触を堪の――もとい、精魂込めてマッサージをしました。

 

「これで一通り終わりです、お疲れ様でした」

「あ、ああ……」

 

 私の言葉、聞こえていますよね?

 曳舟隊長はぐったりとした様子で生返事をするだけです。

 

「それじゃあ最後に、曳舟隊長はお風呂に入って洗い流して貰えますか? 私はその間に後片付けをしておきますから」

「あ、ああ……」

 

 先程と同じ返事です。ホントに大丈夫ですかね?

 まあ、軽く襦袢を引っかけてフラフラとした足取りで外に出て行ったので大丈夫でしょう! 多分!!

 

 

 

 ……そういえば、今日は射干玉がヤケに静かね?

 

 後片付けを一通り終え、部屋を出たところで気付きました。どれどれ、どうしているのかしら――

 

『わ……我が生涯に……一片の悔いなし……でござるよ……』

 

 ――干からびてるーっ!?

 

 ちょ、ちょっと落ち着いて! てか蘇生しなさい!! 今回は凄く良い経験だってことは認めるけれど、あんたまだメインには到達してないのよ!! この後にもっと凄いご馳走が控えてるのが確定してるのよ!? 射干玉!! ここで満足してちゃ駄目でしょ!!

 

「なにしとんねんボケがっ!」

 

 慌てて刃禅を始めようとする私の後頭部に、猿柿さんの跳び蹴りが刺さりました。

 

 

 

 

 

 後日談――という程でもありませんが。

 

 曳舟隊長はあの施術の後、まるで生まれ変わったかのように元気になっていました。まるで全身の細胞全てを新品に入れ替えたようで、今までも美人だったのが更に五割増しくらいで美人になっていますね。

 おかげで男性死神たちの視線が凄いこと凄いこと。

 

 それどころか、あの施術から二日後に四番隊(ウチ)に直接乗り込んできました。

 

藍俚(あいり)ちゃん! 十二番隊(ウチ)に来る気はないかい!? 三席……いや、副隊長の席を用意してあげるよ!」

「え……えっ!?」

藍俚(あいり)ちゃんも知っての通り、隊長には上位席官を任命する権利があるからさ! 今までは特に使おうって気も起こらなかったが、今回は話が別だ! 藍俚(あいり)ちゃんの按摩技術とアタシの技術で尸魂界(ソウルソサエティ)に革命を起こそうじゃないか!!」

 

 ……知りませんでした。

 ええっ! 隊長ってそうなんですか!? そんなカラクリがあったなんて……

 

「お、お気持ちはありがたいのですが……」

 

 私の技術は自分のための物ですから。あと、了承すると卯ノ花隊長に睨まれそうな気がしたので。

 とても良い話だったのですが必死で、角が立たないようにお断りしました。

 

 

 

 ……選択、間違ったかなぁ……?

 




早くしないと零番隊に行っちゃいますからね。
(原作キャラ中で)最初になるのは仕方ない。

あと、ひよ里はこのくらいでいいでしょう?

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