お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第367話 団結式

「はい、こっち出来たから誰か手の空いている子、配膳をお願い!」

「わかりました!!」

「残っている食材は……あっ! それ駄目です緋真さん!! そっちじゃなくて隣の塩を使って下さい」

「え……? けど、どっちも同じ塩ですよね……? 岩塩とかですか……?」

「いえ、同じ塩です。ただ、隣の塩は細かく砕いてあるんです。そっちの方が舌触りが柔らかくて滑らかになるんですよ」

「なるほど……」

 

 ふう、これで大体大丈夫――

 

「あ、そっちに並べてあるのは十一番隊の子に出してあげて! 多分、他の隊より暴れてるだろうからちょっと塩と味を濃いめにしてあるの!!」

「わかりました隊長!!」

「また追加で隊士が来ました!」

 

 じゃなかったわね。

 それにしても、これだけの人数を捌き続けるのって大変だわ……

 流魂街で働いていた頃だって、ここまでじゃなかったわよ……?

 

 …………

 

 ……あ、ごめんね。ちょっと置いてけぼりになっちゃってたかしら?

 

 前回から引き続き、厨房でのお料理の真っ最中です。

 というか、未だに終わりの目処が見えないの。

 元四番隊の子とか他の隊の子からボランティアのお手伝い要員を募って、必死で回している最中なんだけど……

 

 けど、噂が噂を呼んだって言うか……私が目にした時よりもさらにやってくる子たちが増えてるみたいで……

 しかも人数が増えると「ちょっと位は自分の好みを伝えても大丈夫では?」みたいに考える子もチラホラ出てきて……

 

「隊長、鶏肉をお願いしたいって言ってきてます」

「こっちは魚が良いって」

「漬物定食が食べたいって注文が……」

「無理! 嫌だったら別の場所に食べに行けって伝えて頂戴!!」

 

 ね?

 しかも部下の子たちも律儀に報告に来るのよね。

 四番隊(ウチ)は大衆食堂じゃないんだってば!

 お代は取ってないけど、材料費くらいは徴収してやろうかしら……

 

藍俚(あいり)おば様、これでいいですか?」

藍俚(あいり)のお姉ちゃん、こっちも出来ました!!」

「んー、どれどれ……」

 

 そうそう、忘れるところでした。

 朽木さん家の長男の鴇哉(ときや)君と、志波さん家の長女の氷翠(ひすい)ちゃんも、手伝ってくれています。

 どっちもお母さんが手伝ってくれていますからね。

 二人も当然のように母親と一緒にいて、その流れで手伝ってくれました。

 

 二人が「自分たちも手伝わせて欲しい」って言ってきた時……思わず涙が出そうになっちゃった……

 良い子! この子たち、すっごい良い子!!

 

 でもあんまり危険なこともさせられないので、皮むき器(ピーラー)を使って野菜の下ごしらえとか、そういったことをお願いしています。

 

「うん、大丈夫ね! それじゃあ次は……あ、あっちで洗い物が溜まっているからお願いしていいかしら?」

「わかりました」

「任せて!!」

 

 雑用ばっかりお願いしてるんだけど、嫌な顔一つしないで了承してくれるのよね。

 あの子たちって何? 天使なのかしら……?

 

 ……それにしても、なんだか久しぶりに登場したって感じよね。

 ラストが近いから無理にでも出番を作っているのかしら……?

 

『下手に活躍の場が増えると死亡フラグの可能性もありますので、ご注意下され』

 

 は? あの二人を?

 そんなことになった日には、ユーハバッハを殺して、生き返らせて、もう一回殺すわよ。

 

『……ガチでやれそうで怖いでござるよ……』

 

 本気だけど?

 

「あ、そのお魚はもう大丈夫! それ以上は火が通り過ぎちゃうから! ……その厚揚げは逆に火を入れすぎ! スが入っちゃってる!!」

「え、あ……!? ど、どうしましょうか……!?」

「普通なら作り直しだけど、うーん……仕方ないわね。(スープ)と煮込んで味を染み込ませましょう」

 

 本当は妥協したくないんだけどね。

 

「湯川先生、すごいですね……」

「そうですね……いえ、私も死神だった頃にお世話になったことがあるんですけど、ここまでとは思ってもみませんでした」

「私も知っていたつもりだったんですけど……朽木家の料理人の皆さん顔負けの腕前、だと思います」

「仕切りも凄いですよ。流魂街のとある食堂って、かき入れ時はこんな感じなんですけど、それより多い注文をこうも……」

 

 緋真さんと都さんがなんだか小声で話し合っているわね。

 ひょっとして悪口とか、かしら……?

 気になるんだけど……気になるんだけど……!! 気にしてる暇がないのよ!!

 

「あ、みんな! 簡単だけど賄いを作っておいたから、手が空いた子からお腹に入れておいて! 私はこれの配膳に行ってくるから」

「隊長すみません!」

「ありがとうございます!」

 

 賄い料理を作っておいたことを伝えながら、少しだけ手が空いたので配膳に回ります。

 

「……あの隊長さん、なんでこんな物作れるんだろ……?」

 

 食堂に向かう直前、微妙に暇があるジゼルが真っ先に賄いへお箸を付けているのが見えました。首を傾げながらもその手は止まらず、口に運び続けています。

 

 きっと、お漏らしの後に手料理を食べさせて、餌付けをした成果なんだと思います。

 

 

 

 

 

 

「はい、これ。出来上がった分よ。次も今一生懸命作っているから、もうちょっと待って――」

「精が出るな、湯川」

「……って、そ、総隊長!? どうしてこちらに……!?」

 

 必死で配膳をしていたため気付くのが遅れましたが、なんと食堂には総隊長がいました。

 料理を配っていた近くの席に悠然と腰を下ろし、私のことを見ています。

 

 ただ……おかしいわね……

 私が認識したときは、そこまでの大物はいなかったと思ったんだけど……いつの間に来たのかしら……?

 

「あの、まさかとは思いますが……」

「お主の料理を食べたいと訴える隊士が後を絶たぬと聞いてな。少々視察に来ただけのことじゃよ」

「……視察なら、食事は無しでも良いですよね?」

「いや、いかん! それはいかんぞ!! やはり直接味わってみねば分からぬことも多い!」

 

 そういえば、総隊長も卍解奪われ組ですもんね……

 そっかぁ……お料理頼みに来ちゃったかぁ……

 

「く、くくっ……え、丿字斎(えいじさい)殿……そこまで必死にならずとも……素直に食べたいと申し出れば良いでしょうに……」

「長次郎! お主、何を言うか!! それにその丿字斎(えいじさい)と呼ぶのはやめんか!!」

「いざとなれば私が、禁を破ってでも手助けいたしましょう。なのでどうぞ、ご安心を」

「お、お主……ッ!!」

 

 総隊長の影に隠れて気付くのが遅れましたが、雀部副隊長もいました。仲良く一緒の席に座っています。

 ただこっちは総隊長の付き添いというか、半分くらい揶揄いにきてますね。

 そしてもう半分は、本気で総隊長を心配しています。

 禁を破って、と口にしているということは……総隊長の代わりにご自身の卍解を使うという覚悟の現れでしょうから。

 

「……待って。ということはまさか……」

 

 もしもの可能性に気付いて食堂を見回してみれば……いました。シロちゃんと狛村隊長です。二人とも必死になってご飯を食べています。

 あはは……あのねシロちゃん、そんなにご飯食べても、背は伸びないわよ?

 霊圧だって同じで、無理に取り込んでもそこまで血肉にならないってば!

 

「ま、考えることは皆同じって事だよね」

「京楽隊長まで!?」

 

 二人の様子に肩を落としていると、その落ちた肩に顎を載せながら京楽隊長が私の顔を覗き込んできました。

 匂いからすると、汗を流したってわけじゃないみたいだけど……でもちょっとお疲れなところを見るに、京楽隊長は京楽隊長で何かやってたみたいね。

 

「ところで藍俚(あいり)ちゃん、お酒ない?」

「お酒ですか……まだ昼間ですよ? ほら、伊勢さんがこっちを睨んでますし、控えましょうね」

「そんなこと言わないでさ。山じいもどうかな?」

「私がお酒に弱いのはご存じですよね? それにまだ料理の途中なので失礼します」

 

 お付き合いできない私は、その場から退散してそそくさと厨房に引っ込みます。

 でもこれ、きっと京楽隊長なりの気を落とさないための気遣いなんでしょうけどね。

 お酒で気張らしするっていうのも、悪くはないんでしょうけど……

 

「……あ、そういえばそんなのがあったわね!」

 

『おや、何か悪巧みでも?』

 

 悪巧みじゃないわよ!

 厨房に戻ろうとしていた足を再び反転させて大急ぎで食堂に戻ります。

 

「総隊長! それに京楽隊長! あと、できれば隊長副隊長くらい! 集めて貰えませんか! 時間がある人だけで構いませんし、それに多くの隊士がこの場には集まってますから!!」

「何をする気じゃ湯川……!?」

「団結式です」

「……?」

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「お待たせしました」

 

 食堂へと再び顔を出してみれば、隊長副隊長が勢揃いしていて、その周囲には席官や一般隊士までもがずらっと並んでいました。

 ただ、十二番隊だけは姿が見えません。けど涅隊長ですからね……こういうイベントは嫌いなんでしょうね……

 それにしても……食事に割り込んで中断、無理を言って隊長副隊長を優先させた形式でしたが、隊士のみんなは快諾してくれて本当に助かったわ。

 心の中で感謝しつつ、私と勇音は隊長たちにお膳を配っていきます。

 

「これは……?」

 

 お膳を覗き込みながら不思議そうに総隊長が尋ねます。

 上に乗っているのはアワビと栗と昆布、それとお酒を入れた杯ですね。

 どうやら馴染みが無いみたいで、総隊長どころか殆どの隊士が首を捻っています。

 

「ご存じありませんか? 四方膳です」

「……ああ、なるほど。あったな、そんなものも」

 

 この説明で総隊長や卯ノ花隊長、それに京楽・浮竹隊長は思い出したみたいですが、他の隊長たちは未だに分かってないみたいですね。

 

 四方膳というのは、武士が出陣の前に食べた縁起物です。

 メニューも正確には打ちアワビ・勝ち栗・昆布・お酒で、これら食材の語呂合わせで必勝を祈願したんですよ。

 けどもう廃れちゃって……瀞霊廷で公式行事として最後に行ったのって……五百年くらい前、かしら……?

 

『その当時を知って体験している藍俚(あいり)殿もすげーでござるな』

 

 それだけ大きな騒動は無かった。願掛けに頼るくらい追い込まれることが無かった。ってことでもあるから、一概には言い切れないんだけどね。

 この四方膳で何をするのか分からず隣近所と顔を見合わせていた隊士たちですが、そんな彼らの困惑を鎮めるように総隊長がすっと立ち上がり、杯を手に取りました。

 

「知らぬ者も多いだろうが。湯川が言った様に、これは四方膳といい勝利を祈願するためのものじゃ」

 

 そしてアワビを口に入れると、それをお酒で流し込みます。

 

「かつては瀞霊廷でも時折、このように縁起を担ぐこともあった。だがそれも次第に廃れていったが……どうやら此度、またしてもこの力を借りねばならなくなったようじゃ……」

 

 続いて栗と昆布を口に入れ、同じようにお酒を飲み干しました。

 この辺、ちょっと短縮してるけど四方膳のお作法ね。

 

「既に必勝の儀は済んだ! これより我らはより一層! 一丸となりて滅却師(クインシー)共を打ち倒し、この場の全員で共に勝利の喜びを分かち合おうぞ!」

 

 最後に、トドメとばかりに杯を振りかぶると足下に叩き付けました。

 陶器がパリンと音を立てながら勢いよく割れるその姿に敵を打ち砕く未来を連想したのか、この場にいた隊士たち全員が鬨の声を上げます。

 

「うむ! お主らがいれば、勝利は間違いないじゃろう!!」

 

 総隊長の言葉に隊士たちはさらに湧き上がりました。

 各隊長たちも総隊長を真似するように口にして、隊士たちに勝利を誓っています。

 

「よかった……鬱屈した空気も少しは払拭できたみたいね……」

「そうですね隊長」

「でも多分、明日も明後日もこうやって食べに来そうよね……」

「あ……!」

 

 勇音の言葉に頷きながらも、明日以降の食事の用意を考えると気が重くなります。

 

「……明日からはもっと、楽な形式にしましょうね」

「はい……」

 

 はぁ……私も何も考えずに、呑気に沸き上がれる方になりたいわぁ……

 




景気づけということでこんなネタもありかなと。
(卍解奪われ組へのちょっとした配慮という側面もありますが(つまりフォローを入れるということ))

●四方膳
武士たちが出陣の前、勝利のゲン担ぎに食べた物。
メニューは
・打ちアワビ(アワビを細長く切って、延ばして干した物)
・勝ち栗(栗を乾燥させて、殻と渋皮を取った物)
・昆布
・お酒
の四種類で「"打ち"・"勝ち"・"(よろ)昆布"」(お酒は、景気づけや勝利の美酒的な意味合い)の意味合い。

平安時代から始まったらしく、現代でもちゃんと残っています。
(ネット通販とかもできるみたいです)

こういった勝利食というのは、世界中にあるみたいですね。
(ビフテキとトンカツで「テキにカツ」とか「白菜(はくさい)食べて百財(ひゃくざい)を為す」のように音であやかったり。
 他にも「形(聖なる形の食べ物)」や「数(象徴的な数字(節分で歳の数だけ豆を食べるみたいな))」であやかったり)

それとは逆に「食べない」ことで、ゲンを担ぐパターンも世界にはあります。
文化や習慣は沢山あるってことですね。
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