お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第368話 人化の術

「はーい、お待ち遠様でした」

 

 食堂に足を踏み入れるなりそう声を掛けると、中にいた隊士たちが一斉に振り返って私の顔に――もとい、私が手に持っているお盆の上の料理に、視線が集中しました。

 

「追加の料理はいっぱいあるから、そんなに焦らないでね。でも食べ過ぎは身体に毒よ? 分かってるとは思うけど」

「ハァ……なんでボクがこんなこと……」

 

 その視線をちょっとだけ心地よく受け止めながら、私は出来上がった料理を取り皿の上へと並べていきます。

 私が作業しているその隣では、謎の新人隊士(笑)ことジゼルも同じように、出来上がった料理を飾台の上に並べています。

 ブツブツ文句を言っているものの、仕事自体はちゃんとやってます。

 まあ、監視(わたし)の目もあるからね。

 

 さて、まず四番隊の料理を食べて死神全員強くなろう作戦ですが、未だ継続中です。

 団結式で気分を高揚させすぎてしまったのが原因なのか、予想通り食べに来ました。

 というか何だったら団結式後の帰り際に「明日はコレが食べたいんで作っておいてくれますか?」とか予約していく隊士までいやがったわよコンチクショウ!!

 

 一体誰よ! 団結式なんてやらかしてあんなテンションにしたのは!!

 

『……あの、言うまでも無いとは思いますが……藍俚(あいり)殿がご自分の首をご自分で絞めまくりんぐでござるよ?』

 

 わかってるのよそのくらい!!

 

『ひょっとしてそういうご趣味が? ドMなのですかな??』

 

 あるわけないでしょ!! っていうか"ド"は付かないから!! 精々がソフトくらいだから!!

 

 ……!! ……こほん。

 

 ということで、まず食事ですが取り放題形式にしました。

 ホテルとかのビュッフェみたいに、セルフサービスで好きな物を取って、食べて、帰るスタイルです。

 個人の注文なんて毎度々々聞いていられませんからね。

 四番隊(ウチ)は、時々料理を補充するだけです。

 これでも初日と比べれば随分と手間が減ったし、あと準備の時間も取れるようになったから、楽になったのよ。

 あと、一護達の誤解が解けて賓客待遇になったときに軽く歓迎会をやったから、そのときの経験が四番隊(ウチ)の隊士たちの間でちょっとだけ活かされてて、少しだけ手慣れているってのもあるかもね。

 

「なあ、あの子今日もいるぞ」

「やっぱり新人、かな……?」

「湯川隊長が目に掛けてるみたいだし、ひょっとして滅却師(クインシー)相手の切り札とかなんじゃ……?」

 

 もう一つ挙げるとすれば、まだ二日目なのにジゼルが割と好評です。

 まあ、黙ってれば美人に見えますからね。

 それに加えて未だ詳細を公表していないということもあるので……知らぬはなんとやら、というやつです。

 

『黙っていて&動かなければ美人、かもしれませんでござるよ? ジジ殿の能力的にも』

 

 そんな死体愛好(ネクロフィリア)みたいな言い回しはちょっと……

 

「でも可愛いよな。ちょっと、いやかなりグッと来る」

「おっと、いけね。箸落としちまった……」

「~~~~ッ!!」

 

 食事中の隊士の一人がワザらしく箸を落としたかと思えば、拾おうと身をかがめ床に這いつくばりました。

 途端、ジゼルは顔を真っ赤にしながら(スカート)の裾を抑えます。

 

 えっと……以前も説明したと思うけど、ジゼルの格好は涅ネム副隊長みたいな太もも丸出しの超ミニの死覇装なのよ。

 で、そんな格好の相手の前で身を低くすればどうなるか……ね? 分かるでしょう?

 

『チラ見スマイルというやつでございますな!! ってかこれはもう、チラ見どころがガン見レベルでござるよ!? それをやる隊士の方もレベルが高すぎて高杉晋作でござる!!』

 

 本当に……もうここまで来ると褒めるレベルよね……

 

『やはり、あの時の侵影薬が変な性癖を蔓延させてしまったのでは……?』

 

 あれは卍解が使える死神限定でしょ!?

 この子は二十年くらい前に死神になったし、まだ斬魄刀と対話レベルくらいだったはずよ!! だから使ってないし蔓延もしてない!!

 

「はい、取れたわよ。そんなに必死になって落としたお箸を取らなくてもいいから、新しいのを取ってきなさい。不衛生でしょ?」

「あ……ゆ、湯川隊長! ありがとうございます!!」

 

 そうは言っても、チラ見しようとしているのは見過ごせないので。

 二人の間に割って立つと、床のお箸を拾い、隊士の子には遠回しに軽く注意をしておきます。

 

「……ふーんだッ!」

 

 ジゼルからの反応は微妙なところだけどね。

 

「さて、それじゃあ次は……」

「あの湯川隊長、ちょいとばかしええですけえの?」

 

 調理場に戻ろうとしたところで、声を掛けられました。

 

「射場副隊長……? どうかしましたか? あ、お料理の味についての文句とか……」

「いえ、そがあなわけ(そういうわけ)じゃなくて! ……あ、料理はえらい美味いです! 儂のことでものぉて(なくて)――」

「……ああ、狛村隊長のことですか」

 

 まあ、射場副隊長が歯切れとか悪い時って大体が狛村隊長関連ですもんね。

 

「もしかして、料理の中のにんじんが……?」

「ワザと言いよります(いってます)か!? そうではのうて……!!」

「すみません、冗談ですよ」

 

 くすくすと世間話の延長線であるかの様に振る舞い、ついでにジゼルを次の仕事に戻らせたところで、少しだけ声を潜めます。

 

「……卍解のこと、ですね?」

「ええ、そういうこってす(ことです)

 

 射場副隊長の首肯する姿に、私は軽く頭を抱えました。

 

 ……ああ、またこういう感じになるのね

 ……ってかあの人ってば、悩み多すぎでしょう!?

 

「少し、詳しくお話を聞いても良いですか?」

「ええですが、出来れば隊長本人から伺った方が早い思います。そこにおりますんで」

「え……?」

 

 指差す方向を見れば……いました。狛村隊長です。

 昨日から引き続いた様子で、必死になってご飯を食べていました。

 

『ですが犬食いではないようですな?』

 

 当たり前でしょ!!

 ちゃんと食器もお箸も持てるんだから、犬食いする意味はないでしょ!?

 

「ここ、少し良いですか?」

「すんません、隊長」

「……む!?」

 

 尋ねはしましたが返事を待たず、狛村隊長が食事を取っていた卓の空いている席へと勝手に腰掛けます。

 射場副隊長も狛村隊長と一緒の卓にいたようで、幾つか食べかけのお皿がある席へと腰を下ろしました。

 目の前に私たち二人の姿が増えたことに気付くと、狛村隊長は食事の手を止め、やがて得心したように呟きます。

 

「なるほど……鉄左衛門の仕業か」

「ええ、そういうことです。詳しくは本人から聞けということでしたが……率直に伺いますね。狛村隊長、何か……上手く言えないんですが、自分の命を捨てるようなことをしようとしているんじゃ、ないでしょうか……?」

「……そこまで口にしたか」

「いえ、私の勝手な想像です。けれど射場副隊長がそこまで心配されるのは、そのくらいの事だと思ったので」

 

 狛村隊長の言葉に首を横に振りながら、推測を口にします。

 

 ……だってこの人、東仙の時からずっとこんな感じだったんだもの!!

 どうせアレでしょ!? 今回は総隊長がどうたらとか、卍解が奪われてご恩がどうたらで、迷っているんでしょう!?

 迷うくらいならさぁ!! 今、あなたが食べている油淋鶏にマヨでも掛けた方がよっぽど建設的だと思うんだけど!!

 

『"(まよ)"と"マヨ"を掛けた駄洒落ですな!! これはビックリ、スカイツリーが二つ三つ建ちそうなくらいの建設的さでござるよ!!』

 

 美味しい食事は活力になるからね。

 

「……ああ、その通りだ。湯川隊長も知っての通り、儂の卍解は未だ戻っておらぬ。このままでは、再び滅却師(クインシー)共との戦いになった場合、足手纏いとなるのは必定……それでも、元柳斎殿がご健在であれば要らぬ心配であろうが……今は……」

 

 ご健在って……いや、無事だからね? 倒れてませんからね?

 ただ卍解を奪われたままだって話ですからね? 狛村隊長と同じ立場ってだけですよ?

 

「ならば、儂自らが新たな力を得て、元柳斎殿の力とならねばならぬのではないか? ……そう考える自分が、儂の中におるのだ……」

「それが、ご自身の命と引き換えにするという?」

 

 狛村隊長は首を横に振りました。

 

「いや、そうではない――いや、それも違うな。そうなるやもしれぬ、というのが最も正しい言い方か……?」

「え……? どういう意味、ですか……?」

「我が一族には、特異な秘儀が伝わっている。それを用いれば、強大な力を得ることができると、そう伝えられている……詳しくは大爺(おおじじ)様しか知らぬのだが……」

 

 大爺様って誰!? また変な新キャラが出てきた!!

 ……あ、でもジジだったら四番隊(ウチ)にいるわよ!?

 

『あの、藍俚(あいり)殿……? ネタバレになりますが、そのジジ殿ではありません……コレ本当の話……』

 

 なん、だと……!?

 

「得られる力がどれほどか? どのような代償があるのか? それすら不明だ……そもそも今の儂に秘儀を用いる資格があるかも解らぬ……だが、元柳斎殿と尸魂界(ソウルソサエティ)の為となるのならば……!! 何よりも、敵に好き放題された挙げ句卍解を奪われた己が! 己自身が許せぬのだ……!!」

「狛村隊長……」

 

 苦悩する様子を目の前で見ながら、私はそっと口を開きます。

 

「その苦悩は、私にも解ります……ですが、お忘れですか……東仙のことを」

「……ッ!! そ、それは……」

「狛村隊長の心の中に、彼への想いがまだ残っているのなら……そんな不確かな物を求めることはないと思います……」

「そう、だが……だが、儂は……!!」

 

 あら、まだ駄目なの?

 この様子なら「東仙のためならば!!」って感じで、割とあっさりと解決すると思ったのに……もう一押しが必要なのかしら……?

 

「足らない力を自分に求めるのではなく、周囲の方の手を借りても良いと思いますよ?」

「周囲の……?」

「ええ、そうです。もうご存じかも知れませんが、雀部副隊長はご自身の戒めを破ってでも総隊長のお力となることを決意したそうですよ」

「なんと……! 封印されたはずの卍解を……!?」

 

 ちょっと噂になってるレベルなんだけど、死神たちの間では広まっています。

 というか狛村隊長、席は遠くても同じ現場にいたんですから……聞いておいてくださいよ……なんで「初耳だ!」って反応をしているんですか……

 

「それと同じように、例えば射場副隊長に卍解を会得して貰うですとか……」

「鉄左衛門に、か……?」

「え……ええ! かまやしません!! 儂ゃ狛村隊長のためでしたら、明日にでも卍解を会得してみせますけぇ!! ですから、儂らのことをもっと……もっと頼っちゃもらえんでしょうか!?」

 

 私自身、ちょっと無理だと思うんだけど……という気持ちで出した案です。

 その不安さは狛村隊長にもしっかり伝播したらしく、心配そうな瞳で射場さんを見ましたが……当人は、半分以上ヤケクソって感じですね。

 じゃあ、私もその自暴自棄(ヤケクソ)感にちょっとだけ乗っちゃおうかしら!

 

「それにもう一つ。始解が卍解より劣るとは限りませんし、始解もできない死神が常に弱いとも限りません。鏡花水月は始解でしたが、私たち全員が脅威と感じていましたし……後者の場合は……更木副隊長という例もありますから……」

 

 自分で言っておいてなんだけど……後者の例はちょっと厳しいわよね……

 でも前者はそれなりに自信が有るわよ! 

 

『狛村殿の卍解を暗に要らない子扱いするのはどうかと思いますが……』

 

 違うからね!

 その証拠に……ホラ見て、あんな説得でも狛村隊長には効果があったみたいよ!

 

「……なるほど、確かに。儂はまだ死ねぬ……ならば出来ることは可能な限り取り組まねばな!! 鉄左衛門、隊に戻るぞ!! まずは隊全体の引き締め直しからだ! それと十一番隊との合同演習! それからお主に卍解も覚えて貰わねばならぬ!!」

「は、はい!!」

 

 少し前までの悩み、落ち込んでいた様相がウソみたいです。

 吹っ切れた様子で狛村隊長は立ち上がり、これからやるべきことを口にし始めました。

 

「それと、湯川隊長……すまぬな、またしても迷惑を掛けた」

「いえいえ、お礼でしたら射場副隊長にお願いします。私は何もしてませんから」

「ならば迷惑ついでに、その……しばらく七番隊の怪我人が多くなりそうなのでな。手当の準備をしておいてもらえぬだろうか……?」

 

 ……ああ、そういうことですか。

 

「わかりました。となると、お料理も……少し多めに用意しないと駄目ですか?」

「すまぬが、そちらも頼みたい」

 

 はぁ……また自分で自分の仕事増やしちゃったわ……

 まあ、これは仕方ないわよね!

 

「任せて下さい。お肉多めで、ニンジン少なめにしておきますから」

「……っ! す、すまぬ……恩に着る……」

 

 少しだけ恥ずかしそうに頭を下げると、狛村隊長たちは食堂を後にしました。

 

 

 

 

 

 

 

 これで終われば、きっと良い話だったんだけどね。

 

「湯川頼む! なんとかしてくれ!!」

 

 狛村隊長が帰ってから少しした頃。

 四番隊隊舎の裏側に呼び出されたかと思えば、土下座で必死に懇願される羽目になりました。

 

「俺の卍解を! 氷輪丸を!! なんとかしてくれ!!」

 

 土下座しているのは、ご存じシロちゃんです。

 斬魄刀を抱えながら必死の形相で私にすがりついてきます。

 

 一応、呼び出されたのが建物の裏って辺りが、人目を避けたい気持ちとかの表れなんでしょうね……

 

「卍解を、と言われても……私には無理ですよ……そういうのは涅隊長の管轄でしょうから……」

「んなことねえだろう!? 聞いてんだぞ! お前が卍解を直したことがあるってことは!!」

 

 ああ、はいはい。一角の卍解の事ね。

 

「それに涅の方法は失敗した! だったらもう、お前に頼るしかねえだろうが!!」

「出来るのなら、もうやってますよ!!」

「そこをなんとか!」

「あんまりしつこいと、雛森三席を呼びますよ!?」

「な……っ! 雛森は関係ねえだろうが!!」

 

 ……きっと、ぺぺ対策とかで余裕がなかったんだと思います。

 明日になればきっと、かっこいいシロちゃんに戻ってくれると思います。

 

藍俚(あいり)殿、現実逃避はそのくらいで……』

 




……なんでジゼルのスカート覗こうとしてる隊士のシーンとか書いているんでしょうか?
(見返すとその発想に至った自分が自分で信じられない)

●人化の術
そんなもん無かった
(卍解は奪われたままだけど、山爺生きてるし、東仙のこともあるし)

(大爺に狛村が詳細説明を受けていたシーンから、人化の術は「大雑把に伝わっているだけ。でも名前すら知らないし、リスクとかも不明。強くなれる秘儀らしい」くらいが、狛村の認識のはず)

●お肉とニンジン
狛村の好きな物と嫌いな物

●シロちゃん
オチ担当
(これ以外なにも浮かばなかったとも言います。卍解奪われ組の恥さらし(ボケたんとう)ぇ……)
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