お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第373話 第二次侵攻開始

「ねぇ……隊長さん……」

「あら、どうかしたの? お手洗い?」

 

 四番隊でお仕事中、不意にジゼルが声を掛けてきました。隊首室にて二人きりなので、誰に憚ることなく砕けた口調で尋ねます。

 対するジゼルは……なんて言えばいいのかしら……?

 頬を赤らめて、我慢できないというか、気持ちを抑えきれないというか……そんな切羽詰まった状態だったので、思わずお手洗いを我慢しているのかと尋ねたんだけど……

 

「もうさ、すっごい欲求不満なんだけど!」

「……え?」

 

 返ってきたのは、予想外の言葉でした。

 

「もうやだ! 我慢できない! 我慢したくない!! ムラムラが限界!! 取って、これ取って!! おちん――が、爆発する! 爆発するから!!」

「えぇ……」

 

 うわぁ……これはまた、ストレートに欲求をぶつけてきたわねぇ……

 しかも何で彼、わざわざ言葉を濁したのかしら? しかも顔を赤らめながら言うなんて……

 自分に付いている物なんだから、照れる必要ないでしょう? 素直におちんちんって言っちゃえば――

 

『いやいや藍俚(あいり)殿!? 藍俚(あいり)殿は一応女性! 女性ですから!!』

 

 だからって、言葉を濁す様なタイプには見えないのよねぇ……ジゼルって。

 むしろ嬉々として口にして、女性の反応を見てニヤニヤしそうっていうか……

 

『それは拙者もかなり同意でござるよ! ですが一応、ジジ殿は女性っぽい感じ! 男の()でござる!! なのでチンチンだタマタマだフグリだと公言するのは憚られて当然!! むしろ照れながら言ったところが、拙者的には好感触!! 射干玉ちゃんポイントを差し上げましょう!!』

 

 ポイントねぇ……

 

 ……そういえば、ジゼルの下着に染みが出来てたわね……あと寝具にも、匂いが染みついていたし……

 

『それはつまり、我慢しすぎて夢で果てたわけでござるか!? ……ほむ、続けて』

 

 ……いやいや! 続きなんてないわよ!?

 ただそれだけのことなの!!

 

 けど、さぁ……男の子ってそんなに我慢できないものだったっけ?

 

『まあ、仕方ありませんな! 何しろジジ殿のちっちゃいジジ殿は、元気いっぱいのお年頃!! 三日どころか一日我慢できなくても仕方ありません!!』

 

 ええっ!! それは元気すぎない!?

 っていうか、若い男性ってそこまで節操なかったっけ!?

 

藍俚(あいり)殿は女性だった時間の方が遙かに長いですので!! もうあの頃の情熱を忘れてしまったでござるよ……』

 

 失礼ね! まだまだ情熱的よ!!

 具体的に言うと、前回攻め込んできた滅却師(クインシー)――バンビエッタとかキャンディスとかをマッサージしたくてしたくて、仕方ないくらい!!

 ジゼルとドリスコールで培った捕獲術を炸裂させたくて仕方ないくらいなの!!

 

『それはつまり、期待してよいということでござるか!?』

 

 期待しておきなさい。

 儲かりはしないだろうけれど、損もさせないだろうから。

 

『みw なw ぎw ってw ……きたぁぁぁ!!』

 

 でも今はジゼルの相手が優先ね。

 

「だーめっ! まだ貴方のことを完全に信用したわけじゃないんだから、貞操帯(それ)装着した(その)ままね」

「そんなっ!! お願い隊長さん!! もう我慢できないから!! お願いだからぁ!!」

「お化粧でもして、気分転換でもしてみる? ほら、爪紅(マニキュア)なら手元にあるわよ?」

 

 そう言いながら、机の上に置いておいた爪紅(マニキュア)の瓶を手に取って軽く見せつけるものの、ジゼルの機嫌は直りませんでした。

 

「いらないよっ! あ、でも隊長さんがそのマニキュアを塗った手でシてくれるなら……ッ!! な、なんでもないです……」

 

 よかった、自重してくれて。

 殺気を放った甲斐があったわ。

 

『それは多分、脅して黙らせたというではありませんかな? というか、どうしてマニキュアなどを? 藍俚(あいり)殿はそこまでお化粧をするタイプではなかったはずですが……』

 

 これ? 四番隊(ウチ)の若い子がね、さっきくれたの。

 「新作が出ていたから、つい買っちゃいました! 隊長にもお裾分けです!」みたいな感じで、くれたのよ。

 

『なるほど……慕われておりますなぁ……』

 

 うん、貰えたのは素直に嬉しいんだけどね。

 でも今は、いつ滅却師(クインシー)の攻撃が再開されるか解らない状態だし。それを考えると、ちょっと緩んできたのかなって思っちゃうのよね……

 隊長として、引き締めたりした方が良いのかしら……?

 

『あまりキツキツすぎるのも、それはそれで問題になりそうでござるが? 適度にヌルヌルにして滑りを良くしておかないと……そして滑る粘液と言えば拙者!!』

 

 はいはい。

 いざとなったらその粘液は誰よりも頼りにしてるわよ。

 

 そうやって、仕事に戻ろうとしたときでした。

 

 

 

「――ッ!?」

 

 

 

 真っ先に感じたのは、猛烈な違和感。同時に身体の奥の野生の勘が、けたたましく警鐘を鳴らしていました。

 反射的に室内を見回すと、手の中の瓶を懐に納めつつ近くにあった斬魄刀を掴み取ると、その勢いのまま部屋の外へと飛び出します。

 そして、外の様子を目にした瞬間――

 

「なに、これ……!?」

 

 思わず絶句しました。

 

 見慣れたはずの瀞霊廷の景色が、急速に――まるで大量のペンキで一切合切全てを塗り潰しているかのように、瞬く間に入れ替わっていきます。

 青々とよく晴れていたはずの空は薄暗く変わり。立ち並んでいた木造の家々は、石材を積み上げた白く寒々しい建物へと変貌を遂げました。

 私たちが今までいた隊舎も、気がつけば石造りの建物に置き換わっています。

 

 そして、突然景色が切り替わったことに驚いたのでしょう、あちこちから悲鳴や戸惑いの声が聞こえてきました。

 見たことのない光景、感じたことのない空気……突然突きつけられれば、誰だって困惑するに決まっています。

 

 ですが、私は……私だけは、この景色に……この空気に、覚えがありました。

 死神の中で私だけが経験した内容……

 

「これって、滅却師(クインシー)の……影の領域(シャッテン・ベライヒ)の気配……!? 一体何がどうなって……!?」

 

 そう口にしたところで、近くにいたジゼルへと詰め寄ります。

 

「ちょっとジゼル!! これはどういうこと!? 説明して頂戴!!」

「ええーっ! ボク知らないよーっ!」

「本当でしょうね!?」

「本当だってばーっ! 知ってたら教えてるか、ここまで隊長さんに従ったりしないってば!」

 

 むむむ……それも、そうでしょうね……

 ジゼルだけならまだしも、ドリスコールという情報源もあります。

 

 つまり、この現象――なんて表現すればいいのかしら? 世界を入れ替える? ――は、二人レベルであっても教えて貰えなかったほどの機密情報だった、ってわけね……

 

「これって要するに、藍染の時の転界結柱みたいなことよね……!? 死神(こっち)がやったことなら、滅却師(そっち)も似たようなことができるってわけか……」

 

 しかも範囲はおそらく瀞霊廷全域。それだけの大規模作業を、涅隊長らに気付かれないほど秘密裏に実行するなんて……

 油断、していたわけじゃないんだけどなぁ……発想のスケールの違いで負けた、ってところかしら……?

 

 ……あら? そういえば……

 

「結果的に滅却師(クインシー)の世界に戻ったわけだけど、貴方は裏切らないの? 今なら低下した霊圧も元通りでしょう?」

 

 ふと、気になった疑問を口にします。

 

「ええーっ! それこそなんでなのさっ!? 隊長さんに逆らっても返り討ちなのは目に見えてるしーっ! それにボク、動きを封印されてるしーっ!!」

 

『股間の動きを封印でござるね? わかるでござるよ!!』

 

 なんというか、まぁ……清々しいわね……

 でもきっと、私が劣勢になったら嬉々として襲いかかってくるんでしょうね。

 今まで苦しめられたムスコの恨みだーっ! みたいな感じで……

 

「隊長!」

「ご無事ですか湯川隊長っ!!」

「大変っ、大変なんです!! 瀞霊廷が!!」

 

 この異常事態に混乱しているのでしょう。

 バタバタと喧しい足音を立てながら、数人の部下の子達が、今にも泣きそうな目で駆け寄ってきました。

 それを見た私は、努めて冷静に。普段通りの態度で声を掛けます。

 

「落ち着きなさい。状況は私も理解しています。かつての転界結柱の様に、滅却師(クインシー)の世界へと連れ去られた。世界が入れ替わったと考えるべきでしょうね。けど、私のやることは変わらない。後方支援と怪我人の救護よ」

「しかし! 瀞霊廷が入れ替わったせいで、せっかく準備した医療用の設備が……!!」

 

 ……あ、そっか!

 

 こっちがため込んだ道具とかリソース全部、持っていかれて使えないのね!!

 襲撃用に張った罠とかもあったんだけど、それも全部無駄になったわけで……

 つまり手持ちの道具だけで治療しろってこと!? なにそれ! どれだけ準備に時間を費やしたと思ってるのよ!!

 

 ……いえ、だからって私が取り乱すわけにはいかないわね。

 

「そうですね。なのでまずは全員の手持ちの道具を再確認。それから手の空いている子は、どこか拠点として使えそうな場所と綺麗な水を探して! 同時に他隊への呼びかけと案内も! あと判断は常に最悪の場合を想定! 詳細は勇音に一任します! とにかく勝手な判断と個人行動は厳禁!!」

「はい!」

「了解しました!!」

 

 私の毅然とした態度に感化されたらしく、どうやら部下の子達も冷静になってくれたみたいです。

 

「……あの、ですがその……隊長は……?」

「いいから! 今すぐに動きなさい! 駆け足!!」

「は、はいいいっっ!!」

 

 さらに強い口調での命令に驚いたのか、彼らは脱兎のごとく走り出しました。

 そんな彼らの背中に向けて、私は申し訳なさそうに届かぬ謝罪の言葉を送ります。

 

「ごめんね……私は、ちょっとお客様のお出迎えをしないとならないみたいだから……」

 

 世界が入れ替わった辺りから、こちらを目掛けて寄ってくる霊圧を感じ続けていました。

 数は四つ。

 それもどうやら、剣呑な気配を放ちながら一直線に私を狙って動いている様子。荒事が起こるのは目に見えてますからね。

 下手に巻き込むわけにもいきません。

 

「さてさて、お客様はどなたかしら?」

 

 そう呟く背後では、ジゼルが私を盾にするように隠れました。

 




●ということで
開始です(今回は「始まったよ」と区切りいうの意味合い)

(他の奴ら、もう少し描写してやりたかったんですけどね……つくづく私が潰れてなければ……)

●ジジの欲求不満
溜まってるんです……
と見せかけて、本侵攻開始の予兆を感じ取っているとかそんな感じに繋げたかったんです……

●爪紅(つまべに)
昔はホウセンカの紅い汁を爪に塗り、それが爪紅と呼ばれていました。

紅をさす(口紅を塗る)みたいな表現もあるので。
それの同類で爪と紅なんでしょうね。
(ただ、日本ではマニキュアほど有名ではない。少しマイナーな文化だったようですが)
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