お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第376話 滅却師を迎撃せよ

「ぬうぅ……おかしい、おかしいぞ!! ワガハイが卍解を奪い取った、あのトサカ頭の死神がどこにもおらぬではないか!!」

 

 マスキュリンは、マスクの下で怪訝な表情を浮かべながら、確認するように周囲を何度も見渡す。

 彼の足下には多くの死神たちが地面へと沈んでおり、同時に倒れた以上の死神たちに囲まれていた。

 死神たちは全員が斬魄刀を抜いており、殺気と共にその刀身を向けている。だがその全ての気配など、彼にしてみればまるでそよ風でも吹いたかのようなものだ。

 彼らの存在など初めから視界に入っていないとでも言わんばかりに、マスキュリンはもう一度周囲を見回すと、確認するように叫んだ。

 

「確かヤツは六番隊のはず……そうだなジェイムズ!?」

「ヘエ! おっしゃる通りですミスター!」

 

 マスキュリンの言葉に反応したのは、黒眼鏡を掛けた禿頭の小男だった。ジェイムズと呼ばれたその男は、マスキュリンの言葉を笑顔で肯定すると、もう一言だけ付け足す。

 

「けど確か、あの阿散井ってトサカ頭は別件で、今は瀞霊廷にいないって話デスよ!」

「何ィ!! いないだと!? それではワガハイは、誰を倒せば良いのだ!?」

「落ち着いてくだせぇミスター! とりあえずヤツが六番隊にいるのは間違いありませんデスから、そこを潰そうって決めたじゃないスか!!」

「おお、そうであったな!!」

 

 カッカッ、と豪快に笑いながら、マスキュリンは周囲の死神たちをギロリと睨む。

 

「ならば、ヤツが戻って来たときのためにメッセージを残しておかねばな!! 迷わずワガハイの所まで来られるように!!」

「ヘエ! 分かり易て、スーパースターらしいのを期待してますヨ!!」

「任せておけぃ!!」

 

 その鋭い視線と膨れ上がった殺気に気圧されつつも、周囲の死神達は自らを鼓舞するように叫び返す。

 

「気圧されるなぁッ!! 隊長(・・)と副隊長が戻って来るまで、なんとしても耐える……いや、ここでこの滅却師(クインシー)を倒す! そのくらいの気概で行くぞ!!」

「「「応ッ!!」」」

 

 だが多くの死神たちが活を入れ直すものの、その一方でどうしても踏ん張りきれず、気圧され負ける者も出てきてしまう。

 

「け、けど……副隊長だけじゃなくて隊長まで(・・・・)が不在の時に来るなんて……」

「せめて、もっと弱点とか情報があれば、俺たちだって……」

「ま、守り切れるのかよぉ……!?!?」

 

 前回襲撃時のマスキュリンの姿を想起したのか、身を震わせながら怯えた表情を見せる何人かの死神たち。

 副隊長の阿散井恋次が零番隊の元で鍛え直しているのは周知の事実だが、間の悪いことに朽木白哉も現在は別件のため不在だった。

 隊長、副隊長が不在の瞬間を突いた侵攻――全くの偶然なのだが、六番隊の死神達からしてみれば、この襲撃は最も手薄になった瞬間を狙われたとしか思えないだろう。

 

「弱音を吐くな馬鹿者ぉッ!! 隊長は俺たちを信頼しているからこそ、任せて下さったのだ!! ここで背中を見せるような真似は絶対に許されん!! この場に誰がいるのか、もう一度思い出せッ!!」

「そ……それは……っ……」

 

 滅却師(クインシー)の二次侵攻に備えて、隊舎を避難所代わりに瀞霊廷の居住者に解放している隊もあった。

 この六番隊も、その一つだ。

 加えて、隊士の中には知り合いや恋人、家族(・・)が避難している者もいる。

 

 極論を言ってしまえば、遮魂膜(しゃこんまく)の内側――瀞霊廷は、どこであろうと影を利用して滅却師(クインシー)が現れる危険性を秘めている。

 瀞霊廷に安全な場所など無いのかもしれない。

 ならばせめて、大切な者の傍に居て、守ってやろう。そう考える者も少なからずいた。

 

「ここで意地を見せねば、朽木隊長(・・・・)に顔向けできんぞ!!」

 

 

 

 

 

 

「うわああああぁぁぁっ!!」

滅却師(クインシー)だあああぁぁっ!!」

「た、たたたたた助けてくれぇぇぇっ!!」

 

 朽木白哉の周囲は、さながら地獄絵図といったところだった。

 突如として現れた滅却師(クインシー)の姿を見た瞬間、それまで大言壮語を平然と口にしていた者たちが、我先を争いながら必死に逃げ惑う。

 そんな阿鼻叫喚のただ中を、白哉はゆっくりと立ち上がり、斬魄刀を抜く。その動作の最中、視線は常に現れた滅却師(クインシー)へと向けられていた。

 

 白哉がいたのは、とある貴族の屋敷だ。

 その場には多くの貴族たち――滅却師(クインシー)の侵攻を未だ対岸の火事と認識し続け、楽観的な言動を取り続けている貴族たちが集められている。

 彼らに危険性を訴え、認識させ、可能であれば避難を、そうでなければ自衛を約束させる。それが白哉の今の仕事の一つであり、彼が六番隊を不在にしていた理由でもあった。

 この説得の試みは、既に片手では足りない回数にまで達している。

 

 だがそれだけの数を重ねようとも、彼らは意見を変えなかった。

 滅却師(クインシー)など恐るるに足らない。

 自分たちを襲うことなどない。

 総隊長の山本が健在なのだから任せる等々を口にし続けた挙げ句、もうこれ以上は話すことはないと席を立とうとしたその瞬間まで。

 

 ――滅却師(クインシー)が現れる、その一瞬前まで。

 

「やれやれ、なんらか喧しい場所らろ」

 

 "(ダブリュ)"、"紆余曲折(ザ・ワインド)"のニャンゾル・ワイゾルは、周囲の貴族達の姿を焦点の合わない目で眺めると、そう呟いた。

 彼はまるで少年の様に背が低く、貫頭衣(ポンチョ)のように袖の無い服を頭から被っている。さらには裸足だが、その部分だけは畳敷きの部屋に奇跡的に合っていた。畳に土足は厳禁である。

 

「んれ、お前()朽木白哉らな? 陛下のご命令らから、オイがお前を倒しにきたんらお」

 

 だが何よりも特徴的なのは、舌っ足らずなその口調だろう。幼い子供の様な拙い喋り方をしているが、それも当然だ。

 彼は二枚舌――比喩的な表現ではなく、文字通り舌を二枚持っているのだから。

 

「朽木殿! こ、この滅却師(クインシー)は貴殿を倒しに来たと! ならば責任は取って貰いますぞ!!」

「そ、そうだ! 貴方が来なければ、ここに滅却師(クインシー)が来ることは無かった!!」

「殺せ! 早く殺すのだ!!」

「…………」

 

 ニャンゾルの言葉を聞いた途端、逃げ惑っていた貴族たちはその矛先を白哉へと向ける。その自分勝手な物言いに、思わず胸の中で盛大に溜息を吐くものの、だが白哉の考えは彼らのそれと一致していた。

 元より滅却師(クインシー)を見過ごすつもりなどない。

 

「ん~? (べちゅ)にお前らを見逃すちゅもりもないんらろ? この死神がいたからオイが来たらけれ、ろうせお前らは遅かれ早かれオイたちに殺されるんらから」

「な……ッ……」

 

 遅かれ早かれ殺される――その言葉にようやく、貴族たちも事態を認識し始めた。

 だがニャンゾルの意識は既に彼らになど向いてはいない。

 

「けろ、お前()一番らろ。お前この前、卍解を自力で取り(もろ)したらろ? 特記戦力れもなんれもなかったお前がそんなことをしたから、陛下が気になったんらと。んれ、オイが倒せって命令を受けたんら」

「そうか……」

 

 エス・ノトから千本桜を奪い返したことで注目が集まった。それはつまり、白哉に多くの強敵が集まってくるということになる。

 ならばいっそ好都合。その全てを打ち倒し、瀞霊廷を――何よりも家族を守らねばならないのだから。

 そう思った時だ。

 

「そうそう、お前の部下の……トサカ頭? あの死神を倒すって、ジェイムズのヤツが張り切ってたろ」

「何……ッ!!」

「早く行ってやっら方ら、いいと思うんらろ。たしか……お前の家族がいるんらろ?」

 

 ニャンゾルの言葉に、白哉の表情が初めて大きく変化した。その反応に、言葉を放った滅却師(クインシー)はニヤリと笑う。

 

 先ほど「六番隊も隊舎を避難所として解放している」と「そこへ家族を避難させている者もいる」と述べた。

 その者の範疇には白哉も当てはまる、というよりむしろ最初の一人と呼ぶべきだろう。

 

 一次侵攻を受けた折り、心配してやってきた隊舎までやってきた緋真(つま)鴇哉()と、そして朽木家(ゆかり)の者たち。

 白哉のことを心配し続け、離れようとしないどころか少しでも負担を減らそうと懸命に手伝に働く彼らに対して、ならばいっそ近くに置いて守ってやろうとしたのが、隊舎を避難所とする考えの発端だ。

 親しい者を避難させ、無事でいてくれと願うよりも、常に目の届く場所に居てくれた方が安心できると、そう考えた。

 

「……なるほど、安い挑発だな。だが、敢えて乗ってやろう」

 

 だがその考えは、いずれこうなることも予想は出来た。

 それでも、自分が近くにいれば守ってやれると考えていた。襲われたとしても対処できると考えていた。

 なにより、家族と共に長くいられるこの瞬間を少しでも長く続けていたいと、思ってしまった。

 それらを己の甘さが招いたミスだと叱責されるのであれば、甘んじて受け入れよう。

 

 だが、まだそれが致命的な間違いと決定したわけではない。

 目の前の滅却師(クインシー)を倒し、六番隊へと戻り家族を守る。死神として、隊長として、なにより父としての責務を果たすべく、白哉は動いた。

 僅かに残った理性で、近くにいた貴族達に警告を発しながら。

 

「全員、この場から離れろ! 卍解、千本桜景厳!!」

 

 狭い室内に、視界全てを覆い尽くさんばかりの刃桜が舞い吹雪いた。

 

 

 

 

 

 

 瀞霊廷が影の領域(シャッテン・ベライヒ)に上書きされる――それはつまり、それまで瀞霊廷に存在していたものが置き換わるということ。

 建物は勿論、設備や施設といった物の全てが使えなくなるということでもある。

 それはつまり、今や全ての死神が持っており、使えて当然だと認識している道具が突然使えなくなるということでもある。

 

 ――すなわち、伝令神機が使えなくなるということだ。

 

 今の瀞霊廷の状況は、現代社会に例えるならスマートフォンや携帯電話、ノートPCなどの機器の一切が使用不可能ということに等しい。

 電波を利用するのは当然として、有線による固定電話の通信も言うまでも無く不可能。

 テレビやラジオといった機器を利用しての情報共有も、これままた不可能。

 それどころか、スピーカーを利用したアナウンスすら出来ないといった状況だ。

 重ねて言うが、それら情報を伝達するために必要な設備や施設、その一切が存在していないのだ。

 

 トランシーバーの様な、単体で通信できる機能を持った機器があれば話は別だ。

 だがそれらを持たない多くの隊士たちは、各隊の状況を共有することが出来ない。

 

 天挺空羅を使える者が多くいれば、話は別だ。

 だが仮にも七十番台後半の縛道だ。使用者は限られ、使用回数もまた限られる。

 

 そのため、情報のやり取りは自然と口頭に頼ることとなる。

 

「――ならば、その情報伝達の要となる隊を真っ先に潰し、死神全体の連携を断ち動きを鈍らせる。当然の選択だ」

 

 砕蜂と夜一、そして多くの刑軍に属する者達の前にその身を晒しながら、アキュトロンは当然のことのように告げる。

 彼の持つ拳銃、その銃口からは神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)を放った後の霊圧の残滓が硝煙の様に棚引き、その足下には刑軍の装束を着た者が倒れていた。

 倒れている者達は皆、一撃で頭部を撃ち抜かれており、もはや完全に手遅れなのは一目瞭然であった。

 

「それが、我々を狙った理由か……」

「ああ、説明しただろう? その通りだ。むしろ、隊長副隊長の君たちより配下の――」

 

 その言葉を言い終えるより早く、砕蜂はアキュトロン目掛けて蹴りを放った。

 顔面を狙ったそれは一瞬で頸椎を捻らんばかりの勢いを秘めていた。だが、確実に相手を狙ったはずの一撃はむなしく空を切る。

 

「む……!?」

「忘れたか砕蜂! こやつは現世で一護と喜助の二人を相手に戦い、食い下がったのじゃぞ! 迂闊な動きは逆効果にしかならぬ! 共有された情報を思い出せ!!」

 

 砕蜂に警戒を叫びながら、夜一の視線は少し離れた場所へと向ける。

 すると砕蜂の目の前にいたアキュトロンの姿が消え、同時に夜一が視線を向ける先から現れた。

 

「そうか、幻影……」

「正確には光、じゃな……」

「こちらの情報が知られているのは当然のこと。だがそれでもなお、私の能力は君たちとの相性が良い。一人一人順番に始末していけば問題は無い」

 

 自らの手の内を共有されたが、アキュトロンは動揺することはなかった。

 眼鏡の奥の視線を淡々と砕蜂に、夜一に、そして刑軍の者へと向ける。 

 

「ああ、それとも。全員で一斉に、全ての方向にバラバラに逃げるか? それが一番困るな……」

 

 相手がそれを選ぶことは決して無いという、確信に満ちた言葉。

 あからさまな挑発に、動いたのは夜一だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――瀞霊廷に存在する設備や施設といった物の全てが使えなくなる。

 

 先ほどこう告げたが、厳密には全てでは無い。

 滅却師(クインシー)が影を利用して移動をするということは、その逆。影を無くせば、手を出せなくなるということになる。

 

 とはいえそれは、並大抵のことでは無い。

 光があれば、必ず影が出来る。影を一切作り出さない場所など、自然にはあり得ない。

 だが、そのあり得ないということを平然とやってのけるのが技術開発局――というよりも、涅マユリと浦原喜助の二人である。

 

「いやいや、これはまた凄いっスねぇ。影の中にいて、時間制限があるって難題をどう解決するのか疑問でしたが……」

「二つの世界が同時に同じ場所に存在しながら触れ合わない。ならば今まで触れ合わずにいたその世界を一つにしてしまえばいい、か……非常識極まりない発想だが面白いヨ」

 

 彼ら二人は、技術開発局に残った機器のモニターに目をやり、そこに表示される僅かな情報の数値を見ながら、感心したように呟いていた。

 

「けど、まさか本当にここまで大規模にやられるとはねぇ……油断してたつもりはなかったんですが……対策に時間が全然足りませんでしたよ……」

「物事には常に優先順位があるのだヨ。そしてどこを優先しろという命令は受けていない。ならば技術開発局(ココ)を優先するのは当然のことだ」

 

 二人がそう言葉を交わす部屋は、その全体が光り輝いていた。

 壁も床も天井も、それどころか室内に存在する物の全てに特殊な改造が施され、一切の影を生み出さないようになっている。

 無論、死神も影を生み出す対象となるので本来は改造すべきだが、そこは光を放つ特殊な着物を身につけるということで落ち着いた。

 そのため一見真面目な話をしているものの、今の二人はピカピカと光を放つ衣装に全身を包んでいる。

 雰囲気こそシリアスだけど、シリアスなんて言葉はとっくの昔に光の彼方に消え去っているぞ。

 とはいえ、そのピカピカの格好のおかげで技術開発局や一部の計測機器は、上書きされることなく無事なのだから文句も言えないだろう。

 

 影を作らない改造の優先順位が、マユリの研究材料とか機材を最優先にしてなければな!

 

 ……まあ、どのみち浦原が言うように瀞霊廷全体にそんな改造をするのは無理なので。

 総隊長や四十六室に提案しても「そんな恥ずかしい格好ができるか!」と断られるかもしれないので。

 となれば大事な場所から優先していくというマユリの考えも、間違い……ではない……と思う……

 おかげで技術開発局には誰一人滅却師(クインシー)が入れなかったわけだし……

 残った機器で、多少なりとも支援とか解析とか出来るはずだし……

 

「しかし、こうなると涅サンの出番は無くなったかもしれませんね」

「ホウ……どういう意味かネ?」

「だって瀞霊廷全部が上書きされたわけっスから、もう影の領域(シャッテン・ベライヒ)は存在し……あ、いやいやいや、ンなわけ無いっスよね」

 

 途中まで口にした考えを、浦原は自ら首を振って否定する。

 

「当然だヨ。私が影を作らない改造をしたように、滅却師(クインシー)共が上書きの対象から意図的に外した箇所は必ずある。不退転の覚悟とかいうヤツをどれだけ決めようと、再起のための拠点は残しておくべきだ」

「ええ、その通りっスよね。アタシとしたことが、どうやらちょっとだけこの現象の大きさに驚かされてたみたいっス」

「何より、封印された卍解の反応は未だ見つかっていない。これはつまり、上書きの対象から外されたということだヨ。まあ、せっかく鍵付きの保管庫にしまったというのに、その保管庫を我々の前に持ってくるほど相手もバカじゃないということだネ」

 

 上書きを免れたある程度の空間がまだ残っている筈。そして、キルゲの能力によって監獄に閉じ込められた星章(メダリオン)もそこにある筈だ。

 二人はそう結論付ける。

 

「ネム! 解析はどうなっているかネ?」

「さきほど、それらしき反応がありました」

「ホウ、お前にしては上出来だよ」

 

 自らの副官の言葉に、マユリは珍しく上機嫌でニンマリと笑う。

 

「では、私はそこに向かうとするかネ。とはいえ、どれだけの物があるかは解らんが。やれやれ、皆の前で言ってしまった以上は仕方ないヨ」

「お達者で~、あとはアタシがやっておきますから」

 

 口では不本意そうに言う、マユリの口元からは隠しきれない笑みが零れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ゲッゲッゲッ、みんなー! ちゃんとミーのこと待っててくれたんだねぇ! ありがとー!! みんなのこと、愛してるよ~♥」

 

 死神達の前へと姿を現すなり、ぺぺは笑顔を浮かべながらアイドル気取りで両手を振り、汚いハートマークを投げかける。

 その姿を見た瞬間、この場にいた十番隊の隊士たちウチの数名が、突如として味方であるはずの死神たちへと攻撃を始めた。

 

「うおおおおおっ」

「ぺぺ様あああぁぁっ!!」

「ぺぺ様の愛を感じるぜええっ!!」

 

 これに驚いたのは、残った死神たちである。

 

「お、お前ら、どうして!?」

「お前らは操られなかったはず……ぐああああぁぁっ!!」

 

 ぺぺの能力は理解している。

 理解していてなお、突然襲いかかってくる仲間を前にとっさに反応出来ずにいた。

 彼らの中には前回の侵攻でぺぺの愛の能力の虜となった挙げ句、月島さんの能力で正気に戻された後、そのときの姿を上映会でたっぷり見せつけられた者もいる。

 

 だが彼らは全員、ペペの能力から解放されたことは確認済みだ。加えて今回は、ぺぺの汚いハートを受けるどころか、まだ放たれてすらいない。

 にもかかわらず、数名の隊士たちは嬉々として仲間に襲いかかる。

 

「ちゃーんと良い子で待っててくれた、我慢強い皆には~、ミーが特別にハグとかぁ……それ以上のことも、しちゃおうっかなぁ……な~んて……いや~ん、ミーってば恥ずかしい~♥」

「「「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!」」」 

 

 ランニングとブリーフだけの汚い汚い格好をしたオッサンが、身悶えするように身体をクネクネとさせる。

 その地獄のような光景に、彼らは腹の底から歓声を上げた。

 

「ハグ! ハグって抱き締めて貰えるんだよな!? ぺぺ様に!!」

「しかもそれ以上! それ以上ってことは……!!」

「まさかぺぺ様、ビッチなのか!?」

「バカ!! ぺぺ様は清い身体に決まってんだろ!!」

「このときのために、耐え難きを耐えて、忍び難きを忍んでいました!!」

「や~ん、それ本当? うれしぃ……♥ そんな頑張り屋さんな皆のた・め・に、ミーは恥ずかしいのを我慢してるんだから~♥ だから、ユーたちも頑張って……ね?」

「「「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!」」」 

 

 再び湧き上がる、操られたと思しき死神たち。

 

「おえええ……っ……!!」

「み、見たくねえぇ……」

「地獄って、こんな近くにあったんだな……」

「けど俺、前回はあっち側に……」

「言うな!! 言うんじゃねえ!! そんな過去は無かった、無かったんだ!!」

「お、おう……」

 

 そして正気を保った死神たちも、違う意味でエキサイトしていた。

 主に、過去を全力で否定する的な意味で。

 

 ……まあ、それはそれとして。

 

 ネタを明かせば、ぺぺに操られている死神たちは、前回の侵攻で「愛の能力を受けたがそれを表面化させなかった」者たちだ。

 愛の能力を受けても、ぺぺの「次の侵攻まで、ちゃーんと良い子で我慢してるんだぞぉ? お・ね・が・い♥」という命令を忠実に実行していた……させられていた? ――というわけである。

 

 それはさながら、ウィルスの潜伏期間のようなもの。

 目に付いた諸症状が出ていなかったので、愛の能力の影響を受けていないと判断されてしまい、そのまま埋伏の毒として機を窺い続け、そして今まさに毒が牙を剥く。

 

「ぺぺ様!! 捕まえた、捕まえました!!」

「え……なっ! なんでお前……!?」

 

 多数派側にいた死神の一人――さきほど「見たくねえ」と口にしていた男――が、近くにいた死神を一瞬にして羽交い締めにすると、ぺぺに向けて誇らしげに告げる。

 それに驚かされたのは、捕まえられた側の男だ。

 先ほどまで嫌悪感を露わにしていた仲間だと思っていた相手の裏切りに、反応が遅れる。

 

「よーし、動いちゃダメだぞぉ? ばきゅーん♥」

 

 その隙を逃さずぺぺは両手でハートマークを作ると、そこから汚い汚いハートの霊圧を撃ち出した。

 その一撃は狙い違わず羽交い締めにされている男に命中し――

 

「ぺぺ様ぁ……」

 

 また一人、地獄へと引きずり込まれた。

 

「ゲッゲッゲッ、ユーってば本当に良い子だよ♥ 上手すぎてミーってばビックリしちゃった!」

「う……そ、そういうことか……」

 

 上機嫌なぺぺの姿に、彼らはようやく理解する。

 今、本当に危険なのは「あっち側」にいる連中ではなく、「こちら側」にいる連中ということに。

 愛の影響を受けておらず、マトモなフリをして虎視眈々と機会を狙っている……ひょっとしたら、今まさに隣にいる仲間がそう(・・)なのかもしれない。

 疑心暗鬼が疑心暗鬼を呼び、下手に動くことすら出来ない。

 意識をぺぺに向けた瞬間、次は自分が狙われるかもしれない。

 かといってぺぺを無視していては、そのまま直接愛の虜になりかねない。

 

「ミーってば本当に、なーんて頭がいいんデショ♥ でもぉ、この作戦が実現できたのもみんなのお・か・げぇ♥ 死神のみなさーん、無能でありがとーっ! ゲッゲッゲッゲッ!!」

「ようやく……ようやく現れやがったな……」

「……ゲッ?」

 

 挑発するように再び両手を振るぺぺに、地の底から響いてくる様な声が届いた。その声色には、これ以上無いほどの怒気が含まれており、ぺぺはその声のした方向を見る。

 

「ワーオ、乱菊ちゃんに日番谷クンじゃないかぁ! キミたちも、ミーの愛がわすれられなかったんデショ?」

「日番谷隊長! 松本副隊長!」

「うげぇ……隊長ぉ、あたしやっぱり帰っていいですかぁ……?」

「却下だ却下! 今更何言ってんだ松本ぉッ!!」

「だってアイツ……見ただけで吐き気が……うぇ……っ……しかもあたし、あんなやつに……おえええええぇぇっ!!」

 

 おう、気持ちは分かるが、やめてやれ。

 ホラ見ろ、ぺぺだって悲しそうな表情を……

 

「ホワーーーット!? ひょっとして乱菊ちゃん、ツワリ!? ひょっとしてミーの子!? どうしよう、ミーってばみんなのアイドルなのにぃ♥」

 

 ……全然してなかった。むしろ喜んでる。

 

「……殺しましょう隊長」

「お、おう……」

 

 むしろ乱菊の怒りゲージがリミットブレイクし過ぎて、シロちゃんの方が引くくらいである。

 ……ま、まあそれはそれとして。

 

「氷輪丸、返して貰うぜ」

「やっだもーん! あれはもうミーのもの! キミのものじゃないデショ! ミーはキミを完全に殺して、もーっとカッコいいミーになっちゃうんだから!!」

 

 激戦が始まる……始まる筈……!

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこりゃ?」

「瀞霊廷、無くなっちゃったね剣ちゃん」

 

 更木剣八と草鹿やちるは、突如として切り替わった瀞霊廷の光景に首を傾げていた。

 二人には、何が起きたのかは解らない。

 

「これは」

「うん、そうだと思うよ」

 

 ただ、これが滅却師(クインシー)の仕業だということだけは本能的に理解していた。

 そして同時に、こう考える。

 一次侵攻の時に決着の付かなかった斬り合いの続きが。いや、ひょっとしたらあの時には温存していたさらなる強敵が現れるのかもしれない。

 そう思い描いた瞬間、彼らの興奮は一気に高まる。

 

「だな。んじゃついでに聞くが、一番強えヤツはどこにいると思う?」

「あたしでいいの?」

「ああ、構わねえ」

「えっと……あっち!」

「根拠は?」

「勘!」

 

 剣八の肩の上から身を乗り出しながら、やちるは適当な方角を指差す。理由を聞かれれば、胸を張って当然とばかりに言い切ってみせる。

 その姿に、剣八は凶悪そうに笑う。

 

「んじゃ、仕方ねえな。隊長もいねえことだし、副隊長権限の自己判断ってやつだ」

「そうそう、ジコハンダンだよ剣ちゃん! いっちゃえーっ!!」

「任せとけ!」

 

 勘が導く方角へと、二人は全力で駆けて行く。

 

 

 

 

 

 その大雑把な方角へと進み続けた先には、四番隊の者たちがいた。

 彼ら彼女らは、隊長の指示に従い拠点となる場所の捜索や、物資の収集を必死に行っている最中だった。

 上位席官たちに加えて、織姫とチャドもまた彼らに協力していた。

 聖兵(ゾルダート)と呼ばれる一般兵たちを相手に、それぞれの能力にて敵を倒し、そして怪我した死神達を治療し続けていた。

 

 全員が、必死で戦っているその頃。

 

 

 

「えっと、これ……どうしようかしら……」

 

 

 

 湯川藍俚(あいり)は、バンビーズらの言い争いに困惑していた。

 




●隊舎を避難所にする
 流魂街まで逃げれば安全だと思います。
 でも瀞霊廷に住んでると「流魂街はちょっと……」とか思っても不思議では無いと思うので(二次侵攻が具体的に何時で、逆算してどれだけ流魂街で我慢すればいいのか不明なのも忌避される理由)
 瀞霊廷の内側だと影から奇襲される心配が常にありますが「どうせ奇襲される(どこでも一緒)なら家族と一緒にいたい。隣で守ってあげたい」の心理が働く。

 そんなこんながありそうだなと思った結果、気がついたら白哉の妻子が危険になってました。

●六番隊の状況
 事前説明を受けたが聞いていないので、卍解を奪った者が優先的に仕留めるの暗黙から、六番隊に向かうスーパースター。恋次がいないので、とりあえず六番隊を潰す。
 (ジェイムズは恋次がいないのを知っているので、ならザコを潰して点数稼ぎ&ワンチャン近くの別の隊長とか倒せるかもということで、そのまま行動させた)
 (さらに家族を人質に取って白哉本人も倒せれば、もっとラッキー)

 白哉の方は、ニャンゾルが相手をする(陛下のご指名)
 (本文中でも書いたが)特記戦力でも無ければ、虚化もできない。弱くは無いけどノーマークだった相手が卍解奪い返して聖文字を1つ潰してるので、警戒対象となった。
 相性的に千本桜は完封できるはずなので「とっとと潰して戻ってこい」的な命令も受けているはず。

●アキュトロン
 (ベリたん不在、浦原は影対策万全で奇襲不可なので)
 彼には、二番隊の相手をしてもらうことになりました。
 伝令神機が使えない(中継基地局やwifiスポット・公衆電話すら無い。上書きされているので、それを剥がさないと使用不可能)ので混乱してる死神たち。
 その動きをさらに鈍らせるべく、情報伝達役を潰そうという渋い考え。

●十二番隊
 影対策は万全だ! 自分の研究材料とか機材が最優先だけどな!!
 
 それと、上書きされなかった部分が本当に残っているかは知りません。
 ですが「陛下が勝った! 全部終わった! じゃあ残っていた貴重品を移動させよう!」という考えはあっても不思議では無いと思うので。
 (つまりお宝の山の可能性が高い)

●剣ちゃん
 隊長いないんだから仕方ないんだ。

●ぺぺ様
 書くのめっちゃ楽しい。
 それはそれとして。本文中のように使うと、愛の能力はもっと危険だと思う。
 (誰が敵で誰が味方か不明にするのは基本)

●四番隊
 隊長の命令通り、見知らぬ場所で必死に拠点とか作ろうとしている健気な部隊。
 (だが隊長は……)
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