お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

38 / 293
第38話 長い夜が明けた日

「すみません、卯ノ花隊長! 急患です!!」

 

 既に一日は終わり、床についたところを不粋な大声で呼び起こされて、卯ノ花は不機嫌な表情を隠そうともせずに目を開けた。

 今日は別件の用事があり、四番隊にいられない。日帰りをするのも面倒だったので、出先で泊まるためにその日の内には戻ってこない。

 何かあったらば連絡をしろと住所こそ伝えていたものの、何か火急の用事が入るとは思えない。

 そうタカを括っていたところにこれだ。機嫌も悪くなろうというものだろう。

 

「申し訳ありません、何の用でしょうか?」

「あ! これは申し訳ございません。私、護廷十三隊の四番隊の者です! こちらに四番隊の卯ノ花隊長がおられると」

「はあ、確かにいらっしゃいますが……」

「緊急の重傷者が担ぎ込まれ、湯川四席が対応していますが、手が足りません! 至急隊長を呼べとの四席の言葉でしたので!」

 

 遠くから聞こえてきた声に、卯ノ花は思わず身体を起こした。

 やりとりをしているのはこの家の家人。そしてもう一人は彼女の部下だったのだ。

 もう後は寝るだけだというのに、そんなことを言われてはたまったものでは無い。

 何か緊急事態が起きた――それも、卯ノ花との付き合いが一番長い部下が手を借りたいと願う程の大事件が起きたのだろう。

 そう考えると、いても立ってもいられなかった。

 慌てて飛び起きると、そのまま勝手口――いわゆる門代わりの場所へと向かう。

 

「何の騒ぎですか?」

「これは卯ノ花様! 申し訳ございません……」

「隊長! 卯ノ花隊長!! 緊急事態です!!」

 

 頭を下げるのは、今日用事があって訪れた家のお手伝いだ。

 それとは対照的に、四番隊の死覇装を纏った隊士――たしか、千種十五席だったか――は悪びれることすらなく、彼女の顔を見た途端に安堵したような緊張したような、そんな複雑な表情を浮かべた。

 

「一体、何があったのです?」

「重病人です!! 湯川四席が隊長を呼べと命令してきて、それで……」

「落ち着きなさい。急患が担ぎ込まれた、と認識して良いのですね?」

「はい!」

「では、容態は?」

「えっと……」

 

 そう問い質すと、彼女は言葉に詰まった。

 なるほど、その反応で何が起こったのか、卯ノ花にはある程度の察しがついた。

 

 おそらくだが、怪我人――それも、夜勤の隊士たちでは対処しきれないような重傷者――が出たのだろう。そしてその怪我人の命を救うために自分が呼ばれたのだろう、と。

 卯ノ花はそう結論付けた。

 

「……分かりました。では私は、四番隊の隊舎へ行けば良いのですね?」

「は、はい! そうです!!」

 

 ――やれやれ。せっかくの休暇が、そして古い知り合いの家を訪れたというのに、最後の最後でこんなことになるとは……

 

 そんなことを考えながら、卯ノ花は家人たちへと向き直る。

 

「大変もうしわけありません。どうやら緊急事態のようです。無礼なこととは重々承知ですが、今日はもうお(いとま)させていただきます。家の者にも、そうお伝え願えますでしょうか?」

「はい……」

 

 事態を飲み込めぬものの、何かあったということは分かったのだろう。

 応対に顔を出した雇われ人は、戸惑った様子ではあったもののそう返事をしていた。

 

 

 

 

 

 ――藍俚(あいり)……何があったのですか?

 

 四番隊の隊舎へ向けて全力で駆けつけている間、卯ノ花は胸中でそう問い質す。

 彼女が覚えている限りでは、入院患者のなかにはそこまで緊急の対応が――それこそ、隊長が手を出さねばならないほどの――必要な患者はいなかったはずだ。

 

 それがどうして、部下を派遣して自分を直接呼び寄せねばならないのか。

 

 彼女には分からなかった。

 湯川藍俚(あいり)には数百年に渡って彼女が手ずから鍛えており、ちょっとやそっとの緊急事態ならば独力で乗り越えられるくらいには鍛えている。

 先の滅却師(クインシー)殲滅作戦でも目覚ましい活躍――四番隊の隊士としても、戦闘能力という意味でも――を見せており、その実力は疑いようがない。

 そこまで鍛えるのに時間は掛かったものの、あともう少し……ほんの百年もすれば、満願が成就する日も近いはず――そう卯ノ花に希望を抱かせほどの実力を持っていた。

 

 ――つまり、彼女一人では手が足りないような重傷者を見つけた、ということですかね。

 

 四番隊の隊舎へと向かいながら、その道中で起こりうる可能性と対処方法を模索する。

 既に彼女を迎えに来た死神――たしか、千種十五席――は遠く離れ、見えなくなっていたが、気にした様子もなく彼女は道中を全力で駆けていった。

 

 ほどなくして四番隊の敷地内へと到着し、綜合救護詰所へと飛び込んだ。

 

「隊長!」

「卯ノ花隊長! どうしてこちらへ!?」

 

 そこには、夜勤を命じられた隊士以外の者が数名詰めていた。

 さらに隊社内には見知らぬ少女がおり、女性隊士が見守る中を集中治療室の扉へ向けて大声で叫んでいた。

 

「にいさま! がんばって!! わたしが、わたしがついてますから!! どうか、どうか、負けないで!! 先生も約束してくれましたから!!」

 

 声は掠れており、息も絶え絶え。よほど長時間の間叫び続けていただろう。もはや声を出すことすら辛いだろうに、けれども少女は怯むことなく叫び続けていた。

 治療室へ向けて声を投げかけ続ける少女の姿に、卯ノ花は驚きと興味を持つ。

 

「あなた、どなた?」

「……え?」

 

 そう返事をした途端、集中が途切れたのだろうか。

 ゴホゴホと咳き込みながらそれでも強い意志の込められた視線で少女は卯ノ花を見やる。

 

「わっ、わたし……は……っ……ゴホゴホッ!!」

「無理はしないで。頷くか首を振るかだけでいいから答えて貰えるかしら?」

「…………」

 

 首肯する少女を見て、卯ノ花は続ける。

 

「集中治療室にいるのは、あなたの家族。そして、治療をしているのは湯川 藍俚(あいり)という死神で間違いありませんか?」

「…………」

「わかりました」

 

 再び少女は首肯するのを見て、卯ノ花もまた頷いて見せた。

 

「誰か、この子を休ませてあげなさい。それと私も、治療室へ入ります!」

 

 隊士がやってきたかと思えば、少女を連れて下がる。その様子を見ながら、卯ノ花もまた治療室へと入った。

 手術着に着替え、手指の消毒を急いで終えると手術場へと飛び込む。

 

「遅くなりました!」

「隊長!!」

 

 彼女が姿を現した途端、その場にいた誰もが安堵したような表情を浮かべる。

 それはつい先程まで現場を仕切っていた藍俚(あいり)も同様らしく、治療に回していた手を止めていた。

 

「あ、れ……?」

 

 手を止めた途端、彼女の様子がおかしくなる。

 意識を失い、糸の切れた人形のようにふらりと倒れ込んだ。

 

藍俚(あいり)!」

「湯川四席!!」

 

 それを近くにいた勇音が慌てて抱き留めた。

 ほぼ同じような体格をしている彼女だからこそか、崩れることなく何とか支える。これが手術場にいた他の隊士たちでは一緒に倒れていただろう。

 

「……気を失っていますね」

 

 一目見ただけで分かるほど、彼女は疲弊しきっていた。

 ぐったりとした様子を見ただけでも、何か神経を極度にすり減らすような事があったと分かる。霊圧を探れば、普段よりも大きく減っている。

 こんな状態になるまで霊圧を消費し続ければ、並の死神ならばミイラのようになっても不思議ではない。

 

「無理もないと思います。班長、自分たちに指示を出しながら凄い勢いで施術を続けて、霊圧治療も長時間行ってて……」

「何があったのです?」

「それは……――」

 

 卯ノ花の問いかけに、その場の隊士たちが答える。

 深夜頃に重傷者を発見したこと。それを今まで必死になって治癒し続けたおかげか、大きな峠は越えたこと。外の少女はこの患者の妹であり、藍俚(あいり)の言葉を信じて必死に声を掛け続けていたこと。

 

「……なるほど」

 

 全て――とはいえ状況が状況なので簡単にではあるが――を聞き終え、もう一度患者の様子を確認すると、卯ノ花は軽く唸った。

 

「大した処置ですね。これならば問題はないでしょう」

「えっ! 本当ですか!?」

「嘘ではありませんよ。容態も安定していますし、聞いた限りと今見た限りですが致命箇所にも全て適切な処置が施されているようです。確かに細かい処置は残っていますが、それは四番隊の隊士であれば誰でも出来ます」

 

 そこまで口にすると、卯ノ花は一度手術台の上へと目をやり、再び隊士たちへと視線を戻す。

 

「私の到着を待っていては、この患者は助からなかったでしょう。皆、よく頑張りましたね」

「やった……っ!!」

「よかった……よかった……」

 

 やはり隊長が断言すると安心感が違うのだろう。彼らはまだ施術が終わっていないというのに歓喜の声を上げる。平家ら女性隊士など涙を流すほどだ。

 そんな彼らを横目に、卯ノ花は残った一人――抱えているのである意味では二人――へと視線を向ける。

 

「虎徹隊士」

「はっ、はいぃっ!」

「彼女を連れて外へ。もう使い物になりませんからね、ゆっくり休ませてあげなさい」

「はいっ!!」

 

 肩を貸すようにして藍俚(あいり)を支えながら、勇音は誇らしげに返事をした。

 

「ああ、それと。外で待っていた少女にも、命が助かったことを伝えてあげなさい。彼女、ずっと声を掛け続けていたようですよ」

「わかりました!」

 

 そうして一足早く手術室を出て行く後ろ姿を見送ってから、患者へと向き直る。

 

「さて、あの子がここまでやったのです。せめて、後の処置くらいは私がしましょう」

 

 とはいえ彼女自身が口にしたように、残った処置は新人隊士でも可能なものだけ。一人で手早く作業を終えながら、卯ノ花は処置結果に満足していた。

 

 ――ようやく花が咲いたか、と……

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「ん……あれ……?」

 

『グッドモーニングでござるよ』

 

 はいはい、ベトナムベトナム。

 ……え? グッドモーニング(おはようございます)

 

「今何時!?」

「ふえっ!? すみません、寝てません! 寝てません!!」

 

 思わず飛び起きると、すぐ隣で寝ぼけたような慌てた声が響きました。

 

「ここって……」

 

 見回せばここは隊舎内の病室、その一室です。入院患者が入る個室ですね。布団が敷かれていて、私はそこに寝ていたようです。

 そして隣を見ればそこには――

 

「えーと……起きてる?」

 

 ――勇音がいました。

 あ、別に添い寝をしていたわけではないですよ。隣で正座しているだけです。

 声を掛けて意識が半覚醒したのでしょうか? 眼が虚ろといいますか、寝ぼけているといいますか、焦点の合わない目をしていますね。

 

「……あっ! はい、すみませんすみません! 起きてます!」

「そ、そう……というか、あれからどうなったの? 私、なんでここに寝てるの?」

「えーと、それはですね……――」

 

 勇音の説明を聞くに、なるほど卯ノ花隊長が来た時点で安心しすぎて気絶してしまったようですね。元々神経をピンピンに張り詰めていたところを緩めてしまい、その落差が一気に襲い掛かってきたようです。

 気絶した医者なんてもう邪魔者以外の何者でもありませんから。退場を命じられた挙げ句、ここに寝かされたそうです。

 そう言えば目がしょぼしょぼするというか、頭が重いというか、疲れの諸症状が出ていますね。

 

 ただ、治療自体は成功したようです。よかったよかった。さすがは卯ノ花隊長ですね。間に合わなかったら、どうなっていたことやら……

 

「――……なるほどね。ありがとう」

 

 ……あっ! いけない、あれは謝っておかないと。

 

「忘れるところだったわ。手術室では乱暴な言い方をしてしまって、ごめんなさい」

「いえっ! そんなことは!! わ、私が悪いんです……せっかく見込んで貰ったのに、全然お役に立てなくって……」

 

 頭を下げると勇音もまた、頭を下げてきました。

 ということで、四席と新人隊士がお互いに頭を下げている状態です。

 なんですかこの状況?

 

「先生っ!!」

 

 と、そこにあの少女が飛び込んできました。

 

「よかった! 目がさめたんですね!! 先生、ありがとうございます!! 先生のおかげで、にいさまは……にいさまは……私、私……かんちがいしてて……家族がいなくなるって……死んじゃうかもしれないって……私がまちがっていました!! 約束を守ってくれて、ありがとうございます!!」

 

 部屋に入ってくるなり私に突撃するような勢いで抱きついてきて、なにやら言っていますが……何が間違ってたんでしょうか? 多分、この子が考えていた何かとか、そういうのが関係していると思うんですが。

 さすがに名前も知らない女の子の心情を汲み取れというのは無理です。

 

「落ち着いて、ね?」

 

 とりあえずこの子を落ち着けようと頭を撫でてあげます。

 

「えーと……そう言えばまだ名前も聞いてなかったわね。私の名前は湯川 藍俚(あいり)。あなたのお名前は?」

梢綾(シャオリン)……(フォン) 梢綾(シャオリン)です! 湯川先生!!」

「そうなの、梢綾(シャオリン)ちゃんね」

 

 元気いっぱいですね。

 

 ……あれ? どこかで聞いたような……というか、(フォン)という言葉が記憶の片隅になんとなく引っ掛かっているような……

 

 ……え、まさか? ひょっとして……?

 

梢綾(シャオリン)ちゃん、お兄さんの名前はなんていうの?」

「にいさまですか? 探蜂(タンフォン)と言います」

 

 うーんこれは……確定、でしょうね。

 

「そっか、ありがとう。名前を聞きそびれちゃったからね。お兄さんはしばらく入院して身体を休めないと駄目だけれど、それが終われば元気になるから。それまで待っててね」

「はい!!」

 

 今さら何でそんなことを聞くのだろうと不思議そうな顔をしていましたが、理由を話せば納得したように破顔しました。キラッキラの輝くような笑顔です。

 

 ――後の二番隊隊長の砕蜂(ソイフォン)ですよね、この子。

 

 

 

 

 

 そういえば射干玉、あなた今回静かだったわね。

 

『失礼な! それではまるで拙者がニートのようではござらぬか!! 拙者にも用事の一つくらいあるのでござるよ!!』

 

 用事、ねぇ……なにか変なことしてたんじゃないの?

 

『いえいえ、なにも。ただ、もう少し寝かせてほしいでござるよ……働きたくないでござる……働いたら負けでござるよ……』

 

 あ、寝た。

 というかその言い方だと、ホントにニートじゃないの……

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 その部屋では、大手術を終え生死の境から奇跡的に生還した探蜂(タンフォン)が寝かされていた。

 未だ麻酔は切れず意識こそ取り戻してはいないものの、呼吸音は健常者のそれと同様。全身に巻かれた包帯が無ければ、ぐっすりと眠っていると言われても信じられるだろう。

 

 そして、室内には眠り続ける彼の他にもう二人の死神がいた。

 二人とも眠る探蜂と手にした紙――出来上がったばかりの診療記録の間を、何度も熱心に往復させている。

 

「明け方にたたき起こされ、大急ぎで来たかと思えばもう全て終わりましたか……まったく、我が部下ながら優秀だね」

 

 やがてその中の一人が、皮肉を交えた口ぶりで呟く。

 彼は鋭い目つきに泰然自若とした物腰を見せており、その立ち振る舞いからは思慮深さが感じられる。

 

「あら、あなたの部下ではなく私が鍛えたのですよ? 山田副隊長」

「……それでも四番隊の隊士なのですから、部下と呼んでも差し支えはないでしょう? 卯ノ花隊長」

 

 まるで言葉という名の真剣勝負のようなやりとり。

 卯ノ花と共にいるこの男の名は山田(やまだ) 清之介(せいのすけ)といい、現在は四番隊の副隊長を任されている男でもある。

 藍俚(あいり)が探蜂の怪我を診て慌てて呼び寄せた者の一人だ。

 とはいえ彼は卯ノ花よりも遠い場所にいたため、呼び出しの隊士が現れた時には既に夜明け後、四番隊の隊舎へと来た時にはすっかり日が昇っていたわけなのだが。

 

 そうしてやってきた清之介は、卯ノ花と共に探蜂の容態を診ていた。

 

「死んでもおかしくない大怪我をしたと聞いていたが、見事なものだね。あの人もやっと、花実が咲いたようでなにより」

「あなたもそう思いますか?」

「当然ですよ。僕より年上なのに、席次はずっと下。命令する度に気を遣うったらなかった」

 

 そう口にする清之介に、卯ノ花はくすりと笑う。

 

「嘘ばっかり。あなたはそんなことは気にしないでしょう?」

「心外ですね。これでも最低限の礼儀は持ち合わせているつもりですし、これだけの治療を施せた相手ならば尊敬もしますよ……まあ、この治療記録が全て事実であれば(・・・・・・・・)、ですが」

「疑っていますか? 彼をここまで連れてきた同僚の証言もあれば、治療に参加した席官たちの証言もあります。最後だけですが私も治療に参加しました。少なくとも嘘はありませんよ」

 

 少しムッとした様子で言い返す卯ノ花であったが、今度は清之介が嘆息する。

 

「では全て事実だったと仮定するとなれば、これだけの怪我を全て治癒したことになる……となればこれはもう、隊長はおろか(・・・・・・)僕すらも超えた治療の腕前を持っていることになるわけですがね」

 

 清之介の回道の腕前は群を抜いている。

 四番隊でも、卯ノ花すら上回ると言われるほどだ。

 つまり現時点で最も優秀な回道の使い手が診ても「不可能だ」と判断した程の大怪我を藍俚(あいり)は治した、ということになる。

 それも長年の間、下っ端で燻っていた者がだ。突然そんな事実を突き付けられても、(にわか)に信じられないのも当然だろう。

 

「それこそ、あなたは自分で口にしていたでしょう? "やっと花実が咲いた"と、それだけのことですよ」

「それはつまり"青は藍より出でて藍より青し"――師であるあなたを超えたのを認める、ということですかね?」

 

 互いに押し黙り、病室内に剣呑な空気が流れた。

 

「……まあ、いいでしょう。実績も出来たし、時期も丁度いい。良い機会ですからね、あの人もそろそろ報われても良いでしょう」

 

 やがて、根負けしたように清之介は口を開く。

 

「隊長が良ければ、引き継ぎの準備をしておきますが……どうします?」

「問題はないでしょう。私の方でも準備を進めておきます」

「よろしい。実際には来年度の頭からになるでしょうが、ではそのように」

 

 そんなやりとりの後に、二人は頷き合うと病室から出て行った。

 

 それぞれの思惑を抱えたまま。

 




●蜂家の家族事情
兄がいたけれど、みんな死んでいた砕蜂さん。
原作では彼女は「なんでそんな弱い兄ばっかりなんだ?」と思ってましたけれど。
そう考える裏には「兄の死を報告だけで知って、実際に命が消えるかもしれない場面を知らなかったんじゃないか?」とか妄想してました。
(「数字だけでXXXX人死にましたと知る」のと「実際にXXXX人分の死体を見て知る」のとでは、情報や実感が全然違うと言いますし)

で、藍俚(あいり)が四番隊で頑張っていたので死亡率とかがちょっと変わって、その結果が積もり積もって、砕蜂兄が助かるようにエフェクトがバタフライした。
家族が死ぬかもしれないを恐怖を間近で見て、彼女の価値観が一気に変わった。
という感じです。
(なんで砕蜂が夜に出歩いていたかや、細かい心情や関係性の変化はもう少し後で)

●探蜂(タンフォン)
斥候役や調査を得意とする意味を込めて、探の字を使用。
(ざっと調べると読み方はタァンらしいのですが)
一応、砕蜂の1つ上の兄という位置づけ。
(原作だと名前すら出ずに死んでるので)

●山田清之介
原作キャラ、山田花太郎の兄。
回道の腕は卯ノ花以上とまで言われた凄い死神だが、絡みは特に無し。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。