お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第381話 藍俚、ママになる

 ――というわけで。

 

 バンビーズの四人が……その、なんていうのかしらね……色々とあったワケで……決着は付いたと判断して、あの射干玉空間を解除したわけなんだけど……

 

「……し、死神!?」

「……あ、あああーっ!!」

「おえぇ……まっじぃ……こんなマズイもんを……なっ!?」

 

 三人とも、それぞれが思い思いに快楽を貪っていました。

 キャンディスとミニーニャは、それぞれお尻と胸に手を伸ばしていて。リルトットは、必死になって射干玉に食らい付いていました。

 そんな風に行為に没頭している途中で元の空間に戻ったものだから、しばらくの間は気付かないまま。

 数秒経って、ようやく自分たちが解放されたことに。それと、今自分がしている行為を私とジゼルに見られていることに気付いて、顔を真っ赤にしました。

 

「おかえりなさい」

「うわぁ、三人とも大胆(だいたーん)っ! 良い物見ちゃったなぁ……にししっ! ……あいたたたた……」

 

 とりあえず、自分たちの現在の状態に気付いた三名に挨拶をします。

 ジゼルは……股間を押さえて苦しんでますが、視線はしっかりと三人の恥ずかしそうな表情を凝視しています。この子、本当にブレないわねぇ……

 

『そりゃあ、あの三名の痴態でござるよ? ジゼル殿でなくともガン見するに決まってるでござる!!』

 

「ジゼル、テメエええぇぇぇっ!!」

「ま、まさかあれ全部、見ていたんですかぁ……!?」

「……畜生が。全部死神(コイツ)の手の上かよ……」

 

 そして私たちに見られていた事に気付いた三人は、思い思いの反応をしました。

 キャンディスは、単純に恥ずかしがっているみたい。

 リルトットは、勝負はおろか生死すら握られていた事に気付いて嘆息を。

 最後にミニーニャは……多分、あの猫被っていた様子を知られたって思ったんでしょうね。特にジゼルに見られたのが致命的とか思っているみたい。だからか、今にも私たちを殺しそうなくらい思い詰めた表情をしています。

 

『秘密をバラされるくらいなら、藍俚(あいり)殿を殺して私も死ぬ!! というやつでござるな!! ヤンデレでござるよ!!』

 

 ヤンは認めるけれど、デレ要素は多分皆無よ……

 

「大丈夫。あの空間内で何が起きたのか、知っているのは私だけよ」

「本当ですかぁ!?」

「ええ、勿論。ジゼルが見たのは、あの空間を解除した後からだから」

 

『拙者も知ってるでござるよ?』

 

 アンタは別枠! 説明したら混乱するでしょう!!

 ただでさえ、好き勝手やらかした後始末を今からしなきゃいけないんだから! 厄介ごとの種を増やさないで!!

 

「ミニーちゃんひょっとして、何かしたの? ひょっとして、人には言えないような恥ずかしいことをしちゃってたりとか?」

「なっ、なんでもないの! ><」

「ふーん……」

「…… (*`皿´*)」

 

 あ、怒った。

 まあ、あれは自業自得だから放置しておくとして。

 

『いいのですか!? なんだかもの凄く逞しい両腕で、ブォンブォン風切り音を鳴らしながら殴りまくっていますが!? ジジ殿が必死になって逃げ回っておりますが!? あと、ついでにキャンディス殿も加わっておりますが!?』

 

 死にはしないから平気よ。

 

『二つの能力が合わさって、雷パンチ状態になっておりますが……』

 

「問題は、この子よね」

「……っ! バンビエッタ!?」

「一応言っておくけれど、死んではいないわよ。ちょっと脅かしはしたけどね」

 

 バンビエッタですが、未だに意識を失ったままです。

 とはいえ放置しておくわけにもいかないので、今まで肩に担いでいました。

 

『あの、藍俚(あいり)殿……? バンビエッタ殿は、前回のラストでおもらしをしていたような……そんなバンビエッタ殿を肩に担いでいるということは……その……』

 

 なにか問題でも?

 

『いいえ、まったく! 拙者が同じ立場なら、お姫様抱っこしてるでござるよ!!』

 

 惜しい!

 今はお米様抱っこしてるから、一文字ズレてるだけ!! 大体あってるわね!!

 

「気絶してんのかよ……死神、お前一体何をやったんだ!?」

「さっきも言ったでしょう? ちょっと驚かせただけよ。そうしたら気絶しちゃって……ほら、そろそろ起きなさい?」

 

 肩から下ろして、リルトットから顔が見えるような位置に寝かせます。

 軽く頬をペチペチと叩きますが、意識は取り戻しません。

 

「んー、ダメかぁ……」

「……暢気に寝てやがんのな。なんか腹立ってくるぜ」

「何か気付けになるような物を……あら……?」

「……ん……っ……」

 

 手持ちの道具を漁ろうとしたところ、バンビエッタはようやく目を覚ましました。

 ゆっくりと目を開けると、ぼんやりとした表情で私の顔を見つめます。

 

「…………」

「……? どうしたの?」

 

 まだ寝起きで意識がハッキリとしていないのかしら?

 目を覚ましたバンビエッタは、何も言わないまま私のことをぼんやりと見つめ続けています。

 こっちも見つめ返したり、彼女の顔の前で手を振って反応を確かめたりしたんだけど、無反応のまま。目の焦点も合っていないので、身体は起きているけど意識はまだ寝ているんじゃないかと思うくらい。

 でも、ちゃんと覚醒していないからか、その表情はとっても穏やかなの。

 ちょっと前に見せていたような、勝ち気で好戦的なバンビエッタと同一人物とは思えないくらいに。

 

「おーいリーダー、寝ぼけてんなよ。喰うぞ?」

 

 見かねたのか、リルトットがそう言って彼女の頭を軽く叩いたときでした。

 

「……ママっ!!」

「……え?」

 

『ををっ!?!?』

 

 え、えーっと……叩かれた衝撃で完全に意識を取り戻したのか、バンビエッタの表情が晴れやかな物になった途端、私に抱きついてきました。

 

 ……そのとき、聞き慣れない言葉を言った気がしたんだけど……気のせいよね?

 

藍俚(あいり)殿、気のせいでは無いかと……というか、拙者もハッキリと聞こえたでござるよ! ママでござるよママ!! いやぁ、藍俚(あいり)殿もついに母親デビューでござるか……長かった……愛娘を嫁に出す気分でござる』

 

 それは何か違うでしょう!! そもそも私、産んでないから!!

 

「ママ! ママっ♪」

「えっと、バンビエッタ……?」

「なーに、ママ?」

 

 ……やっぱり、聞き間違いじゃなかったみたいね。

 

 バンビエッタは私に"ぎゅっ"て抱きつきながら、何度も頬ずりしてきます。

 その言動は、どこからどう見ても幼い子供ですね……

 けど、身体は大人のままです。

 だから大きなおっぱいがぎゅうううって押しつけられて来て――

 

『柔らけえでござるよ!! ここが天国……! この幸せが永遠に続けば、世界から争いも差別も貧困も全部が無くなるというのに……かくもこの世は無常なもの……』

 

 っていうか、見なさい射干玉コレを! バンビエッタの目!

 もの凄くイノセントな瞳をしてる!! 全然まったく、これっぽっちも疑ってない目をしてるわよ!!

 何コレ演技? 演技なの? 演技で私の寝首を掻こうとしているの??

 リルトットも、バンビエッタの突然の行動にぽかーんと口を開けてるわよ!? 目を丸くしながら、私たちのことを見てる!! 動きが完全に硬直してる!!

 

『はいはーい、射干玉ちゃんにこの状況の心当たりがあるでござるよ』

 

 言ってみて。

 

藍俚(あいり)殿はバンビエッタ殿に、もの凄いハッタリをカマしていたでござるよ。負けたらヒキガエルになるって大嘘を吐いて、バンビエッタ殿にセクハラなマッサージをした挙げ句、気絶させてしまったでござる。それに耐え切れず、精神がぶっ壊れて幼児退行してしまったのではないかと、拙者は愚考するでござる』

 

 気絶したときに元々の人格は完全に死んじゃってて、それでも粉々になった精神と身体を守るため、本能的に別の人格を作り出したってこと?

 

『生み出された人格は、天敵の藍俚(あいり)殿を敵に回さないように。いっそ藍俚(あいり)殿の庇護下に入れればベスト! という感じだったのではないかと』

 

 だから、圧倒的に無力な子供の人格。加えて無条件で私を慕うことで、愛されるような存在になった……

 

『プラスするなら、気絶から目覚めたときに最初に見たのが藍俚(あいり)殿なので、刷り込みの要素もあるかと。その結果がママでござるよ』

 

「……ママぁ……?」

 

 私が混乱していると、バンビエッタは――

 いえ! "バンビエッタちゃん"は、私の顔を不安そうな顔で覗き込んできました。

 

 ……守護(まも)らなきゃ。

 

 寂しそうなこの子の表情を見た瞬間、決意が固まったわ!! 

 バンビエッタちゃんは、私が立派な淑女に育ててみせる!! 強くて誠実な子にしてみせる!! ユーハバッハとは完全に手を切らせないと!!

 

『おお、藍俚(あいり)殿が使命感に燃えているでござるよ……(つまり、バンビエッタ殿の狙いは、完全にハマっていた……生存本能ってすげぇでござる……)』

 

「……なんでもないわ。バンビエッタちゃん、私がママよ!」

「ママーっ!!」

 

 バンビエッタちゃんを抱き締めると、彼女はもっと強く私に抱きついてきます。

 

「受け入れんのかよ死神!? てかバンビエッタはどうなってんだ!? 説明をしろ!!」

「「……?」」

「二人揃ってそんな目でオレを見るな!! オレが悪いのか!?」

 

 リルトットは、この状況を受け入れられないのね……

 

『個人差があるのは当然でござるよ』

 

 ツッコミ役としてエキサイティングしていたリルトットを見かねたのか、バンビエッタちゃんは私に抱きつくのを止めると、彼女の前に移動します。

 

「……リルちゃん」

「なんだよ?」

「リルちゃんもすきっ!」

「……はぁ!?」

 

 そのまま抱きつきました!

 やだ……バンビエッタちゃん(ウチの子)ってば可愛い……博愛だわ……

 

「お、おい止めろバンビエッタ! お前、自分が何やってんのか解ってんのか!?」

「あーっ! ちょ、ちょっと待ってよ二人とも! ほら、あっち! バンビちゃんが何だか変なことになってるから!!」

「はぁ!? んなことに騙され……ホントだ……」

「バンビエッタちゃんが、リルトットちゃんに抱きついてる……なんでぇ?」

 

 ジゼルたちもこっちの騒動に気付いたようですね。

 雷タイプと格闘タイプを相手に逃げ回っていた足を止めると、様子を伺う様にバンビエッタちゃんの所へと近づいてきました。

 

『そうやって表現されると、ポケモンバトルにしか思えんでござる……ジジ殿は、ゴーストタイプ? デスカーン……』

 

「だってリルちゃん頼りになるもん!」

「は!? お前、何言ってんだよ!? てか離れろ!」

「やーっ!」

「えっと、隊長さん……何コレ、バンビちゃんどうなってんの?」

「まるでガキみてぇだな」

 

 事情を全然知らないジゼルたちは、二人の美女が抱きついている光景に首を傾げていますが……これ、説明の必要ってあるのかしら……?

 この光景があれば、他にはもう何も要らないんじゃ……

 

「キャンディちゃん!!」

「おわっ!?」

 

 天国が増えました。バンビエッタちゃん、今度はキャンディスに抱きつきました。

 純真無垢な笑顔と殺気が全くない行動に意表を突かれたのか、反応できずに殆ど押し倒されるような形になっています。

 

「キャンディちゃんも好きっ! だって優しいから!!」

「は、はぁ!? お前、何言ってんだよ!?」

 

 口ではそう言うものの、素直に褒められて嬉しいんでしょうね。

 顔を真っ赤にしながら困惑したように視線をキョロキョロとさせています。

 ……さっきリルトットに抱きついたときよりも感情表現が激しいから、多分キャンディスの方が好きなんでしょうね。

 

「あたしのことはどうでもいいんだよ! ちょっとミニー、代わってくんない!?」

「ええーっ、あたしですかぁ……?」

「ミニーちゃん……ダメ?」

 

『おおっ! な、なんというアンニュイな表情!!』

 

 本当! バンビエッタちゃん可愛いわね! こんな顔されたら、大抵のことは許しちゃうわよ!!

 

「だ、ダメじゃないかなって……思うの」

「えへへ、ミニーちゃんも好き……」

 

 今回は控えめね。

 許可出たけれど、それでも恐る恐る抱きついたって感じかしら。

 

「……ほら、バンビちゃん♪」

 

 リルトット、キャンディス、ミニーニャと来たワケですから、流れ的に最後は自分だろうと思ったんでしょうね。

 ジゼルは両手を広げながら「いつでも飛び込んでこい」とばかりの体勢を作ります。

 

 ですが、その予想は簡単に裏切られました。

 

「……ぁっ! ママっ! ママが一番好きなのっ! でもね、キャンディちゃんもリルちゃんもミニーちゃんも好きなの……」

「あら、バンビエッタちゃんってば好きな人がいっぱいいるのねぇ。羨ましいなぁ」

「ママー……」

 

 私の視線に気付いたのか、バンビエッタちゃんは私の胸に勢いよく飛び込んできました。

 申し訳なさそうに小さくなりながら胸の内を口にします。 

 

「……ボクは?」

「ジジ嫌い」

「なんで!?」

 

 私の胸に顔を埋めたまま、目も合わせずにきっぱりそう言いました。

 ジゼルがショックを受けているのは……置いておくとして。

 

「えっとね……実は、バンビエッタちゃんのことなんだけど……」

 

 困惑している三人に"バンビエッタちゃんがどうしてこうなったのか"を、推測混じりに説明してあげました。

 

 

 

 

 

「……つまり、ビビってガキになったのか」

「バンビエッタちゃん……ちょっと情けなさ過ぎるかなって思うの……」

 

 貴方たちも、けっこう危ない感じに思えたんだけど……

 射干玉に、ほぼ完全に屈服してなかったかしら……?

 

 けど、それを知っているのは私だけだって、最初に伝えちゃったからね。

 仲間に知られる心配は無いって思ったからか、バンビエッタちゃんを見ながらそんな感想を口にします。

 そんな二人の反応とは対照的に――

 

「……任せときな! あたしもバンビエッタを守ってやる!」

 

 何故かキャンディスは、やる気満々でした。

 瞳には母性が燦々と輝いており、決意に満ちあふれています。

 

『さっきの藍俚(あいり)殿みたいでござるな! まあ、こういった荒々しい()ほど、実は良いお母さんになりそうなので、この反応も不思議ではないかと!!』

 

「キャンディちゃん!?」

「そこの死神! 藍俚(あいり)、だったよな? お前だけには任せておけねえんだよ! 教育に悪いだろうが!!」

「え、そうかしら……?」

「決まってんだろ! あ、あんなことしやがって……!!」

 

 それやったの、射干玉ね。

 

『まさかこんな展開になるとは思ってもいませんでしたからなぁ……ついキャンディ殿のお尻を心ゆくまで舐め回してしまったでござるよ! 拙者は悪くねえ!!』

 

 教育には悪いけどね。

 

「やーっ! ママもキャンディちゃんも、けんかしちゃだめーっ!!」

 

 剣呑な雰囲気を敏感に感じ取ったのか、バンビエッタちゃんが泣き叫びます。

 

「あー、大丈夫だ心配すんな! 喧嘩してないから、な?」

「そうよバンビエッタちゃん。心配しないで」

「ほんとう……?」

 

 不安そうな表情のバンビエッタちゃんを、私とキャンディスはそっと抱き締めました。

 

 残った三人は「ついて行けない」と目で訴えながら私たちを見ています。ですが、この程度の視線なら、別に問題はありません。

 

 

 

 ……何か、妙な視線が一つだけ混ざっているのよね……

 




 公式はゾンビエッタです。
 だったらもう、逆でいいやって……

 そんな謎電波を受信した結果、バンビちゃんはこんなオチになりました。

●バンビエッタちゃん
 恐怖やストレスが限界突破して心が壊れ、気絶をきっかけに幼児退行した。
 幼児になって恐怖の対象(あいり)の庇護下に入ることで、心と体を守っている。

 つまり「藍俚(あいり)から身を守るために幼児になっている」ので「藍俚(あいり)がいる限り回復しない」ことになる。
 なお、身体や能力はそのままなので戦闘能力は据え置きだが、絶対に戦わない。本能レベルで戦わない。
 (「戦える→ママに見放される→ママが敵に回る→終わる」みたいな思考)

●バンビエッタちゃんの好きな人の設定
 上から藍俚(ママ)・キャンディ・リル・ミニー・ジジ。

 ママ大好き(自分の身を守る的な意味で)
 キャンディちゃんは、謎の母性を発揮してすごくお世話してくれるから。
 リルちゃんは、口では面倒だと言いながらちゃんと面倒みてくれるから。
 ミニーちゃんは、普段は構ってくれないけど二人きりだとすごく優しいから。

 ジジ嫌い。
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