お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第382話 藍俚、対魔忍になる

『妙な視線……でござるか?』

 

 射干玉は感じない?

 

『いえいえ、全く全然ちっともさっぱり……はッ! つまり、あああんっ♥ ダメでござるダメでござる、感じちゃうでござるよぉ♥ と――』

 

 あのね、そういうネタ振りじゃないから……本当の話だから……

 バンビエッタたちと戦っていた途中から気配が混じっていたのよ。

 最初は気のせいか、それとも一般隊士の誰かが戦いの気配を察知して近くまで来たかと思ったんだけどね。

 

「バンビエッタちゃん」

「なーに、ママ?」

「悪いんだけど、キャンディスちゃんと一緒にちょっとだけ離れてくれないかしら?」

「……え……っ……!!」

 

 あああっ! なんでそんな、この世の終わりみたいな顔をしてるのよ!! 可愛いじゃない! このまま抱き締めて、トコトン甘やかしてあげたくなっちゃう!!

 お菓子作ってあげて、一緒にお風呂に入って、最後はお布団の中で……

 

『お布団の中で!?』

 

 体力の続く限り、全身をマッサージしてあげたくなっちゃう!!

 

『素晴らしい!! ではその野望を成就させるためにも、アレを倒す(・・・・・)というわけでござるな!!』

 

 ええ、そうよ!

 ……あ、ごめんね。アレ(・・)って言われても解らないわよね。

 

 具体的にいうと、視線と妙な気配を放っていた主のこと。

 私がバンビエッタに泣きついて来られた頃合いで、遠巻きに様子を伺うのを止めたかと思ったら一瞬で私たちの近くに姿を現してきたの。

 あまりにも素早い移動だったからか、キャンディスたちはまだ気付いてないくらい。敵ながら、この歩法は見事よね。

 

 でもね、一つだけ言わせて!!

 煙みたいにふわっと現れてくれちゃって! なのに殺気だけはバリバリ漏らしちゃってさぁ! せっかく穏便にバンビエッタちゃんを戦場から遠ざけようと思ってたのに、段取り台無しじゃないの!!

 

「……え、な、なんだ!?」

「う、ウソぉ……こ、この人って……」

 

 少し遅れて彼女たちもようやく気付いたようですね。

 バンビエッタちゃんは殺気が怖いのか、私の腕にぎゅううって抱きついてきました。

 キャンディスやリルは警戒するように身構えます。ミニーニャだけは両手を口に当てて「信じられない」って感じの反応をしていて、ジゼルは単純に驚いて目を丸くしているだけです。

 

 現れた、真っ白い外衣(ローブ)を頭から被った小男でした。

 ……ごめん、ちょっとウソ。頭の天辺から足下まで外衣(ローブ)を被っているから、顔が見えないのよね。だから、女性かもしれない。

 でも背が低いのは間違いないわ。シロちゃんよりも少し低いくらいってところかしら……? でも、極端に猫背だから、実際にはもう少し高いって見積もるべきね。

 あと頭部が極端に膨らんでいるのも、すっごく気に掛かる。何か仕込んでたりするのかしらね?

 

 それにしても……

 

 見た瞬間、浮竹隊長をなんとなく連想したの。全然似てないのに、なんでかしら……?

 似てないんだけど、似てる。似てるけど、似てない。まるで鏡に映った浮竹隊長を見ているみたいな、そんな印象が拭えなくて……

 

「コロ……ス……シニガミ……」

 

 戸惑っていると、ローブの小男は呻くような声を出しました。

 たどたどしい口調ですが、意味は解りますね。

 

「……ひょっとしなくても、滅却師(そっち)のお仲間?」

「そうだよ。ペルニダ――……えっと、なんだっけ?」

「パルンカジャスだったと思うの」

「ついでにいうと、お前が暴れたときに鎮圧に出た神赦親衛隊(シュッツシュタッフェル)の一人だよ……あ、やべ。思い出したらまた腹が立ってきた……」

 

 ああ、あの時の!! ジェラルドたちと一緒に遊んだときの事ね。懐かしいわぁ……

 つまり、同じ親衛隊として同僚の不始末の後片付けに来たってところかしら?

 

 ……あとキャンディス、その節は本当にごめんなさい。

 

「その辺の迷惑については、この戦いが終わったらちゃんと謝罪するから。髪やお肌のお手入れなんかもさせてもらうわね」

「そいつぁありがてえな」

 

『言質を取りましたな!!』

 

 ええ、逃がさないわよ!!

 

「迷惑ついでに尋ねるけれど、彼の能力は?」

「いや、それは無理だろ。言えるわけねえだろ」

「やっぱり?」

 

 リルトットのツッコミに、ジゼルがさらに口を開きます。

 

「それ以前に知らないんだよねぇ。親衛隊の人たちの能力なんて、ボクら教えて貰えないしーっ」

「ジジ!?」

「だってそうでしょ? 特にそこのペルニダ様なんて、ボクら顔も見たことないし――って、その辺はボク、隊長さんに説明したでしょ!!」

 

 ジゼルを捕まえたときに、ある程度の情報は話してくれてるのよ。だから死神全体でも、ある程度は滅却師(クインシー)の情報について共有はしてます。

 

「ええ、ジゼルが知っている情報については、ね。でも三人増えたんだし、何か教えて貰えるかなって思ったのよ」

 

 とはいえ期待薄だったし、ある意味では予想通りではあるんだけどね。

 簡単な情報収集も終えたので、小男――じゃなくてペルニダへと向き直ります。

 

「それでペルニダ、親衛隊の恥を雪ぐために私を殺しに来たってわけかしら?」

「オマエ、ダケ、違ウ……オマエタチモ、コロス」

「な……!?」

 

 外衣(ローブ)の奥に隠れているはずですが、刺すような視線がバンビエッタちゃんたちに向けられたのが手に取るように解りました。

 上司であるはずのペルニダから殺気を向けられて、キャンディスたちに明確な動揺の色が見て取れます。

 

「どうして彼女たちを殺すのか、理由を聞いてもいい? 仲間でしょう?」

「リユウ、負ケタカラ。サイショ、ユズッタ。役立タズ、イラナイ。死ネ」

 

 えっと……「サイショ、ユズッタ」ってことは、ペルニダも私を狙っていた。でもバンビーズも私を狙っていると知って、先鋒を任せた。

 彼女たちが倒せればそれで問題なし。ダメでも手傷を負わせたり消耗はさせられるって見積もりだったけど、全員生き延びて懐柔されちゃった。

 だから殺す、って所かしら……?

 

 あらら、全く……

 これだから滅却師(クインシー)ってのは……戦争をしている以上、死ぬのは仕方ないんだけど……

 

 この私の前で"死ね"ですって……面白いことを言ってくれるじゃない……

 

 しかもバンビエッタちゃんを殺すってこと!? ふっざけんじゃないわよ!!

 そんなの絶対に、ママ許しませんからね!! ほら、パパも何か言ってあげなさい!!

 

『……え、拙者!? 拙者がパパに!? よーし、とりあえずパパとママと一緒にお風呂に入ってから考えるでござるよ!!』

 

 あのねぇ……

 

「死ね。死して陛下の糧となれ」

「え……!?」

 

 ちょ、ちょっと待って!? 今、今ペルニダの言葉が!!

 さっきまであんなに辿々しかったのに、冷酷な王様みたいな喋り方をしたわよね!? 何あれ、どういうこと!?

 

「――考えてる時間は無いみたいね! 破道の九十! 黒棺!!」

 

 ペルニダの外衣(ローブ)の内側から、赤黒い鞭のような物が何本も放たれました。それらはまるで触手のように蠢いて、バンビエッタちゃんたちへと向かって行きます。

 ですが彼女たちへと届くよりも前に超重力の鬼道を放ち、押し潰して赤黒い触手の動きを止めます。

 

「ギイイイィィィィィァァァァァッッ!!!!」

 

 黒棺に触手を潰されると、凄まじい悲鳴を上げながら身悶えました。

 つまりこの触手はペルニダの肉体の一部。痛みや神経なんかも繋がっている。能力で生み出した使い捨ての鞭なんかとは違うと考えて良さそうね。

 

「ね、狙われた……」

「コレって、つまり……そういうことだと思うの……」

「オレたちは、陛下から見捨てられたって事か……」

 

 一方。ペルニダから攻撃を受けたことで、彼女たちの動揺の色が濃くなりました。

 今までの滅却師(クインシー)全体の言動などから推測するに、仲間意識はあるけど出し抜くのアリ。同僚だけどライバルみたいな関係かなって思っていたんだけど……

 どうやら親衛隊っていう上位の立場の存在から見捨てられるのは、また違った意味があるみたいね。

 

「良いから逃げなさい! ペルニダの相手は私がするから!! こんなところで死にたくはないでしょう!!」

 

 ここで仲間同士で潰し合わせた方が、きっと楽なんでしょうね。けど、私には彼女たちを見過ごすなんて真似は出来ません。

 動きやすくなるように大声で活を入れながら、逃げろと檄を飛ばします。

 

 ……だって、まだお山(おっぱい)を堪能しきっていなければ、マッサージも完了していないのよ!!

 生きていればまた会える!! ゆっくり落ち着いた頃に、落ち着いた場所で、全員満足するまで揉んでやるんだから!!

 

『さっすが藍俚(あいり)殿!! そこに痺れる憧れる!!』

 

「それからバンビエッタちゃんの面倒もお願い!」

「え、ママ……ママ!?」

「あーもう、バンビエッタ来い!」

「やだぁ! キャンディちゃんはなして! ママが! ママーッ!!」

 

 バンビエッタちゃん、私にしがみ付いていたから引き剥がして、キャンディスたちの方に行くように突き飛ばしたんだけど……

 うわぁ……すっごい後ろ髪を引かれるわね……声も表情も、本当に母親と引き離された子供が泣き叫んでるみたいで……

 

 おのれペルニダ!! この感情の全部、アンタにぶつけてやるわよ!!

 ウチの(むすめ)を泣かせたこと、絶対に後悔させてやるんだから!!

 

 それはそれとして。

 バンビエッタちゃんも離れた場所に移動した――見えるくらいの位置にいるわね――みたいだし、このペルニダを倒すために……

 

「ええっ!?」

 

 黒棺の超重力で押し潰して、ペチャンコにしたはずの触手ですが、どうやらまだ生きてるみたいです……いえ、生きてるなんて生優しい物じゃないわね!

 触手は潰れたまま石畳に潜り込むと、そのまま血管みたいに根を張りました。と思ったのもつかの間、根を張った石畳が襲いかかってきます。

 

「見た目といい動きといい、まるで本物の腕みたいね!」

 

 足下に石人形(ゴーレム)の腕だけを呼び出したら、きっとこんな感じなのかしら。

 石畳で作った腕は、起き上がったかと思えば即座に倒れ込み、私を押し潰そうとしてきました。倒れてくる瞬間、その腕に広がった例の触手が小さく脈動しているのがハッキリと見えます。

 けれど、所詮は単純な倒れ込みの動作。避けるのなんて簡単です。

 

「死ネ、死神」

 

 それから、後ろから伸びている触手もね!

 

「!?」

「破道の三十一、赤火砲(しゃっかほう)

 

 潰れた触手を隠れ蓑に、別の触手を伸ばして背後から不意を突こうとしていたみたいですが、その程度は察知できますからね。

 身を躱しつつ鬼道で炎を放ち、こっそり伸びていた触手を焼き払います。

 それどころか炎は触手を伝わって本体まで焦がそうと伸びていきますが、ペルニダは新たな触手を生み出すと古い触手を無理矢理切り離しました。

 

「痛そう……けど、おかげで能力は割れたわね……」

 

 自分で自分の身体を傷つけるのは相当の苦痛なんでしょうね。

 けれども、痛みに身悶えるペルニダの様子とこれまでの情報から、相手の能力は大体解りました。

 

「血管、いえ神経かしら? 物体に――いえ、有機物無機物関係なく神経を潜り込ませて根を張り、意のままに操る……そんなところかしらね……とすれば直接触れるのは危険。鬼道や虚閃(セロ)などを介して攻撃すべき……」

 

 ……あ、危なかったぁ……!

 さっき、一瞬だけ刀で斬ろうか迷ったのよね。敵が石の手を作ってくれたおかげで、ギリギリ思いとどまれたわ。

 あとあの神経は本体と繋がっている。だったら接続した部分から何かしら悪影響を受けるような可能性も視野にいれておくべきね。

 

 下手に物理的な手段で手を出そう物なら――

 

『……ほえ? いかがしましたか藍俚(あいり)殿? いくらイケメンでも見つめられると恥ずかしくって……耳どころかこんなところまで赤くなってしまうでござるよ!!』

 

 そうね、赤いわね……角まで赤くて三倍になりそうね……

 

 

 ……じゃなくて! 物理的な手段で手を出そうものなら!

 最悪の場合、コレと悪魔合体して突然変異とかしかねないってことでしょ!?

 そうなったら敵も味方もあったもんじゃないわ!!!

 絶対に気をつけないと!!!!

 

 

 

「フーッ! フーッ! フーッ!!」

 

 私が世界の危機(推定)を未然に防ぐべく決意を新たにした頃、ペルニダは痛みに苦しんでいました。

 荒い呼吸を繰り返しながら、外衣(ローブ)の下の瞳を怒りに輝かせています。

 そして怒りを表現するかのように、元々大きかった頭部をさらに巨大に膨らませました。

 

 ……え? 違うわね、アレって!!

 

「フウウゥゥーッ!!」

 

 呻き声とも怒声とも付かない声を上げながら、外衣(ローブ)は内側からの圧力に耐えきれずに破れました。

 その下にあったのは、人間の手。

 死人のように青白い肌の巨大な左手でした。その掌には単眼が黄色く輝きながら、私のことを睨んでいます。

 単眼と表現したものの、眼球には複数の瞳があるので、複眼でもあるわけで……ああもう、なんて訳の分からない生き物なのかしら!!

 

 ……あ! ちょ、ちょっと待って! 左手!?

 

「まさかあなた、霊王の左腕!?」

 

 半信半疑に口にしましたが、多分正解だと思います。

 

 そっかぁ……そりゃあ、浮竹隊長に似てるって思うわよね。右手と左手だもんね。

 既視感を抱いていたのは姿形じゃなくて、霊王の気配だったってわけか。それが敵なのね……

 

 私の言葉にペルニダは何も答えず、けれどもまるでその推測が正解だとでも言わんばかりに、その身体を巨大に膨らませていきました。

 外衣(ローブ)を纏った時でも小柄な女性くらいの大きさだったのが、あっという間に見上げるほどの巨体へと変化します。

 このサイズで左腕だけって……驚きの連続だわ……

 

『怖じ気づきましたか?』

 

 ……え、なんで?

 コイツはバンビエッタちゃんを殺そうとしたのよ? ウチの(むすめ)を泣かせたのよ!! 例え左腕だろうと右足だろうと、絶対に落とし前は付けて貰うわよ!!

 

『お、おおう……』

 

「死神ハ、クインシーノ、テキ!」

 

 巨大になったペルニダは、背中――手の甲って言うべきかしら?――から今までとは比較にならないほど多くの神経を放ってきました。

 幾つかの神経は私を直接狙うように、その他の大多数は私の周辺に根を張ってから確実に捉えようとしている、ってところかしら……?

 

「オマエ、陛下ノ敵!! 殺ス! 絶対ニ、殺ス!!」

 

 掌の眼は私を常に睨み付けていて、絶対に逃しはしないという意気込みが感じられます。

 普通の死神だったら、いえ隊長であっても怯えてしまいそうなくらい強烈な眼光と霊圧ですね。

 

 

 

 

 

 ……でもね、ペルニダ。

 その能力って多分、私とすっごく相性悪いわよ……?

 

 

 

 

 

 射干玉、アレをやるわよ!

 

『アレでござるな! ガッテン承知の助……はて、アレとは一体……?』

 

 あーもう!! 解ってるわよその反応!! 言ってみただけだから!!

 

「これでも喰らいなさい!!」

 

 お忘れかも知れませんが、今現在は卍解を継続したままの状態です。

 なので呼び出した射干玉本体を"とある薬"へと変質させ、ペルニダから伸びている神経を目掛けて投げつけます。

 

「バカ! オマエ、バカ!! オマエノ卍解、モラウ!!」

 

 ペルニダは、私が投げつけた薬を射干玉の一部と思ったのでしょう。

 神経を操ると自ら受け止め、薬にも神経を潜り込ませました。

 

「貰ったぞ! これで……」

「……これで?」

 

 薬を取り込んだ瞬間、ペルニダの動きが止まりました。

 

「ギ、アッギギギギギャガガガガガガガギャアアアアアアアアアアアアアアアァァァッッ!?!?」

 

 その後、狂ったような悲鳴が上がりました。

 天を突くようにそびえ立つ左腕は、まるで陸に上がった魚のように忙しなく暴れ回り、その掌の眼の奥では瞳がグルグルグルグルと何度も回転しています。

 きっと今のペルニダの視界は天と地が激しく入れ替わり続けていて、周囲の建物や瓦礫に身体を衝突する痛みが絶え間なく襲いかかっているんでしょうね。

 

「オ゛ッ!! オ゛オ゛オ゛ゥッゥゥゥゥッ!!! オ゛ッゴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォッ!!!」

 

 ですが、それ以上の刺激をペルニダは堪能しているようです。

 だってほら、こんなに汚い喘ぎ声を上げているんですから。

 身体をビクンビクンと激しく痙攣させながら、白目を剥いて涙を流しているんですから。

 

『……ああ、あの薬! 何かと思ったらあの時の!』

 

 そうそう、思い出した?

 卍解を覚えてから色々試していて、対魔忍ごっこしたときに作ったアレよ。

 感度三千倍になるお薬。

 アレを使ったの。

 

『……え゛!? ということはアレ、ペルニダ殿は「あぁん♥ らめぇ、感じちゃう♥」の真っ最中ということでござるか!?』

 

 当然でしょう。

 アレは風が吹いても絶頂して、その絶頂の刺激でまた達してしまうような、とんでもない効果のお薬。立ってるだけでも服が擦れて、その刺激で頭がおかしくなるような物なのよ?

 瓦礫にぶつかる痛みなんて、耐え切れるものじゃない。

 痛くて痛くて、でもその痛みに耐えようと脳内麻薬を出して気持ちよくなっちゃうからねぇ……

 

『お、おおぉぅ……敵ながら同情するでござるよ……』

 

 注射で体内に打ち込まないと効果が出ないし、なにより「コレを使ったら相手が可哀想すぎる」ってことで封印していたんだけど……

 神経を直接打ち込む能力だなんて……そんなの……

 

 そんなの「使って下さい」って言ってるのと同じじゃない!!

 この剥き出しの神経に直接薬を塗って下さいって言ってるようなもんじゃない!!

 

『お、おぅ……』

 

「オ゛オ゛オ゛ッギョオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォゥッゥッゥッゥッゥッゥッゥッ!!!!!!」

 

 ペルニダから、一際大きくて情けない声が上がりました。

 彼は全身を震わせながら、何やら真っ白い液体を大量に分泌させながら小さく萎んでいきます。同時に左腕そのものが力無く倒れ込みます。

 ビクンビクンと反射反応こそしていますが、それ以外の動きは一切ありません。

 眼は完全に白目を剥いていて、充血して真っ赤になっています。

 

『うっわぁ……うっわぁ……これ、大丈夫でござるか!? 本当に大丈夫でござるか!? 特にこの謎の白い液体!!』

 

 それと、さっきまであんなに自由自在に動き回っていた神経なんだけど……

 全部焼き切れているわね……刺激に耐えられなかったみたい……

 

『つまり……?』

 

 うん……ペルニダはね、生きて()いるわよ。

 けどこれが健全な状態か? と聞かれたら……ねぇ……

 

 でも、うちの(むすめ)を泣かせたんだから、仕方ないわよね。

 

「……た、倒したのか……?」

 

 あの最期の絶頂の叫び声を聞いて、戦いが終わったと悟ったみたいね。

 キャンディスたちがおっかなびっくり近寄ってきました。

 

「ママ! ママ、ママ! かっこ良かった!!」

「バンビエッタちゃん!? よしよし」

 

 抱きついてきた(むすめ)の頭を撫でながら、キャンディスたちに説明します。

 

「ええ、そうよ。生きて()いるけれど、もう廃人。回復はあり得ないわね」

「聞くのが怖いんだけどよ……何やった……?」

「神経を操る能力だったから、ちょっとそれを利用させてもらったの。耐え切れなくて自滅したのよ」

「自滅……」

 

 今やすっかりと、外衣(ローブ)を纏っていた頃よりも小さくて力も無くなってしまったペルニダを見ながら、そう説明します。

 すると何やら三人は考え込み始めました。

 

「ところで、貴女たちはこれからどうするの? どうやらペルニダは命を狙っていたみたいだけど……」

「そのことだけどよ。とりあえず、保留にさせて貰えねえか? 虫の良い話だってことは解ってるけどよ」

「リル!? お前、何を言ってんだ!?」

 

 その言葉に、キャンディスが胸ぐらを掴み掛かりました。

 ですがリルトットは平然としながら、続く言葉を口にしてきます。

 

神赦親衛隊(シュッツシュタッフェル)がこうってことは、多分陛下も同じ意見なんだろうぜ。けどそれは、陛下から直接聞いたわけじゃない。ペルニダの独断って事もありえる」

「だから保留、一時休戦にして、真意を確かめようってことか?」

「休戦っていうよりは、命乞いに近いぜ。忘れたのか? この死神がその気だったら、あの時オレたち全員を始末できたんだ」

「……う……」

 

 射干玉に捕まっていた時の事ね。

 あれは、あのまま殺害することだって当然できたわね。絶対にやらないけれど。

 でもリルトットのその意見は真っ当な物で、ペルニダっていう上位者を苦も無く倒してしまったことから、どうやら私には勝てないって結論を出したみたい。

 

「あの~、あたしも、死ぬのはちょっと嫌かなって思うの……だから……」

「ミニー!? ……くぅっ、けど、まぁ……そうだな……それに、バンビエッタの面倒も見なきゃならねえし……」

 

 続いてミニーニャがおずおずと手を挙げたところで、言い訳するようにブツブツと口にしながらキャンディスも手を挙げました。

 全員がリルトットの意見に賛同したところで、確認のために尋ねます。

 

「別に構わないけれど……ユーハバッハに確かめて、本当に見捨てられていたらどうするの?」

「そんときゃ、そうだな……陛下を一発殴ってやる」

 

 ……え?

 

「ふ、ふふふっ、あはははっ。良い返事ね。解りました。その提案、受諾します」

 

 思いがけないくらい男前な言葉に、思わず心を動かされてしまいました。

 私が許可したことで、リルトットたちは小さく胸をなで下ろし、バンビエッタちゃんも嬉しそうに笑っていました。

 

 

 

 ただ、話がまとまった後で――

 

「な、なあ……後でその、あの粘液をだな……」

 

「またヌルヌルにされると、ちょっとだけ嬉しいかなって思うの……」

 

「お前の菓子、また喰わせてくれ……それと、あのマズイのを……い、いや、何でもねえ!!」

 

 みたいなことを、それぞれから個別に相談されたんだけど……

 どうするべきかしらねぇ……

 

 

 

 

 

 

 いけない、忘れるところだったわ。

 ジゼルなんだけど――

 

「うわぁ……なんだかよく解らないけれど、ボクたち友達になれたかもね……」

 

 合掌しながらペルニダの冥福を祈っていました。

 




●今回のタイトル
 神経なら、もう三千倍にするしかないでしょう?
(「三千倍になるのはそっちじゃねえよ!!」とか「対魔忍になってないだろ!」的なツッコミ待ち)

 ……おかしいな?
 仮にも親衛隊なのに……ペルニダさん、なんでこんなノリで負けてるんだろ……

(ネム殿をネムちゃんにするのは、拙者の腕では無理だったでござるよ……)

●ペルニダ
 身長150cmだったんですね、知りませんでした。
(ですがこの150という数字は、手をパーにした状態の数値だと思うので。
 最初は「猫背、二頭身、手がグーの形だった」という理由から、藍俚(あいり)はちょっと低めの数値で見立てています)

 話の都合上、初めから割と良く喋ります(バンビーズに補足説明もさせていますが)
 藍俚(あいり)がジェラルドとリジェを手玉に取ったので「死神に良いように暴れられた! 自分がケリを付けてやる!」と息巻き藍俚(あいり)を狙う。
(バンビーズも狙っているので「先に相手をさせて多少なりとも消耗させておこう」という考えで専攻を譲った)

 神経を差し込んで操る能力なので、陛下も「まだ目覚めていない自分よりイケるはず」と許可を出しました。
 その結果がコレだよ陛下……イケるどころか逝っちゃったよ……

まあ拙作の中でのペルニダのメイン役割は、バンビーズを狙うことで彼女たちに「見捨てられた」と思わせて、死神側という沼へ早期に引きずり込むための踏み台なんですけどね


左腕、ゲットだぜ

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