お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第383話 白い愛人、売り切れました

「みんなーっ! ミーのために、是非とも日番谷クンを倒して欲しいの♥ 全員でぇ、全力でぇ、やっちゃってぇ~♥」

「「「「うおおおおおぉぉぉっっ!!」」」」

 

 ペペのお願いに、愛の虜となった隊士たちは日番谷と乱菊を目掛けて殺到していく。その数は、一次侵攻の時に僕となっていた数よりも多いだろう。

 なにしろ今回の侵攻で改めて僕になった者たちは当然として、未だ正気のフリをして裏切るタイミングを見計らっていた者ですら、突撃部隊に参加しているのだ。数が多いのは当然である。

 そして、その光景はなんとも異様だった。

 周囲の無防備な一般隊士どころか、少し前まで刃を向けていた相手すら無視して隊長副隊長の二人へ雲霞のごとく群がっているのだ。

 ペペの「全員で、全力で」という言葉を真摯に受け止めた故の熱い行動といえるだろう。

 

「うおおおっ!? こ、こんなにいたのかよ……」

「お、俺は正気だったんだな……よかったぁ……」

「よかった……オレ愛されてなくて、本当によかった……」

 

 一方、僅かに残っていた無事な隊士たちは雪崩の様な光景を目にしながら思わず安堵していた。

 この馬鹿騒ぎに加わっていないということは、愛の能力の影響を受けていない――つまりはアレの虜になっていないという証明でもある。

 彼らは目配せしあい、互いの無事を祝う。中には感涙の涙を流す者もいたくらいだ。

 あんな(きったな)いオッサンを「ペペ様ぁ……」ってうっとりした声で呼びながら、眼の中にハートマークを浮かべなくていいんだ! と心の中で歓喜する。

 

 ……お前らさぁ……今が戦争の真っ最中だということも忘れてない?

 ペペのアレなビジュアルとアレすぎる能力のせいでイマイチ緊張感がないのは解るけどさぁ……

 今は隊長副隊長に目が行ってるから見逃されているけれど、シロちゃんが操られたら終わりだよ? そうなったらお前らも操られて、吶喊要員や生きた盾代わりに使われてもしらないよ?

 

「来ましたよ、隊長」

「解ってる。松本、そっちは任せるぞ」

「ええ、手筈通りに。その代わり、そっちこそ。失敗しないでくださいね」

 

 正気の隊士たちとは違い、無数の殺気に晒されている二人であったが、その表情には余裕があった。

 襲いかかってくる隊士たちとペペの両方に油断なく視線を向けると、霊圧を込めながら始解を発動させた。

 

「唸れ、灰猫!」

「霜天に坐せ、氷輪丸!」

「あらら~? ひょっとして、ミーの為に連携攻撃とか考えたりしちゃった? やぁ~ん、日番谷クンと乱菊ちゃんの二人からそんなに思われてたな・ん・てっ♥ ミーってば罪作り過ぎちゃう……♥」

 

 二人の会話と同時に始解を発動させたことから、何らかの連携を目論んでいると判断したのだろう。

 口と態度そこ巫山戯ているものの、サングラスの奥で輝くその瞳からは警戒の色が爛々と輝いていた。だが、ペペが警戒しているのを承知の上で、彼ら二人は行動を開始する。

 

「アンタら、いい加減目を覚ませっての!!」

「……すぅーっ……」

「そこのアンタ達も! 無事なら手伝いなさい! 足止めでいいから!!」

「は、はいぃっ!」

 

 乱菊は灰猫を巧みに操り、細かな灰の粒を愛の僕となっている死神たちの眼の中へと潜り込ませた。

 灰は周囲一帯に広がっており、寒々しい街並みをさらに黒く彩っている。

 さらに残っていた隊士たちに怒鳴り声をぶつけると、積極的に戦いに巻き込んでいく。

 一方の日番谷が、目を閉じて霊圧を斬魄刀へと集中させている。

 

 ――むぅ~ん……ただの死神じゃ、ミーの愛の前には役に立たないって解っているはずだよねぇ……? だけど戦うように声を掛けている。かといって乱菊ちゃんは目潰しで足止めに徹しているワケだからぁ……

 

 少し離れた場所から行動を見つつ、状況を分析していく。

 ペペだって伊達に聖文字(シュリフト)持ちに選ばれているわけではない。下衆で卑劣な性格ではあるが、だからこそ状況の変化を鋭敏に感じ取り自己保身は欠かさない。状況によっては仲間であっても愛の虜にして、平気で利用するようなイイ性格なのだ。

 

 ――あっちは囮。本命はやっぱり日番谷クンだよね! ゲッゲッゲ、何か集中して大技を狙っているみたいだけど……

  

「そんな状態でミーの愛を受けたらどうなっちゃうんだろう? おしえてぇ♥」

「……っ!」

 

 集中し続けている日番谷目掛けて、汚いハートマークを飛ばした。しかし単調な攻撃だったためか、日番谷は目を閉じたままそれを感じ取って身を躱す。

 

「いや~ん♥ ミーの愛を避けちゃ、いやいやいや~ん♥ いやいや~ん♥」

「……ぐっ……! 我慢だ、我慢しろ……」

 

 脂肪に塗れた肉体を汚らしく揺らし、何やらシナを作り「いやん」と気色の悪い声を上げながら、ハートマークを飛ばしてくるのだ。

 見るに堪えないペペの言動に激怒しそうになるものの、それを必死で抑えつけながら日番谷は集中を続ける。

 

「あらぁ、じゃあペペ様? 隊長の代わりにあたしからの愛を、受け取って……ねぇっ!!」

「ワオッ!!」

 

 日番谷を虜にしようとしていた隙に、乱菊が動いた。

 悩ましげな声を上げてペペの注意を自分に向けたかと思えば、(ふところ)から小さなボールのような物を取り出すと力一杯投げつけた。

 向かってくるボール球に驚いたような声を上げながら、ペペはそれらを目聡く観察する。

 大きさは精々がビー玉くらい。何やら金属で出来ているようだが、それ以上のことは解らなかった。

 ただ、その金属球はペペを狙ってるようで狙っていない。巧妙に直撃を避けた位置に投げ込まれては、虚しく地面へと落ちていく。

 だが乱菊は、まるで節分の豆まきでもしているかのように、懐から何度も金属球を取り出してはペペ目掛けて投げつけていく。しかも片方の手は斬魄刀を握っているため、もう片方の手だけで金属球を取り出しては投げていくという、なんとも効率の悪い行動だ。

 

「オォ~ウ! 何かなこれ、新兵器? でもミーには当たらないよぉ? コントロールミスかなぁ? それともミーの為を思って無意識に……キュン♥」

「いいのよ、これで……灰猫!」

 

 何度か投げ終えたところで、乱菊は斬魄刀を振り回した。

 その途端、地面に落ちていたはずの金属球たちが一斉に浮かび上がり、ペペの周囲を取り囲む。

 

「ええええっっ!?」

「切り裂け!」

 

 再び斬魄刀を振るう。

 すると付着していた灰は刃となり、金属球を一斉に切断する。球の中から真っ白な煙が勢いよく吹き出して来たかと思えば、一瞬にしてペペを取り囲んだ。

 

「わぶっ!? ゲホッ!? な、なんだコレ!? ゴホッ!?」

「安心しろ、ただの水蒸気だ……すぐに昇華するけどな」

「え……?」

 

 咽せている最中、白い煙幕の向こうから日番谷の声が聞こえてくる。だがペペはその言葉の真意を理解することは出来なかった。

 

「氷輪丸!!」

 

 集中し、霊圧を高めた状態で日番谷は斬魄刀を振るった。

 始解とは思えないほどの強烈な冷気が吹き荒れ、ペペへと襲いかかる。

 

「あ、が……さ、さむ……ぃ……!!」

 

 強烈な冷気は周囲の水蒸気と結びつくと、全てを凍らせた。

 一瞬にして巨大な氷塊へと閉じ込められることとなったペペだが、死神の攻撃はこの程度では終わらない。

 

「灰猫、トドメよ! 思いっきりやっちゃいなさい!!」

 

 三度乱菊が斬魄刀を振るう。

 今度は灰が氷塊へと降り注いだかと思えば、中のペペごと切断していく。最初の一撃で上半身と下半身を真っ二つに。次の一撃は両腕を。次は足を――と、まるで乱菊の怒りを思う存分にぶつけているかのような暴れっぷりだ。

 氷漬けとなったペペの肉体が切り刻まれる様子を眺めながら、日番谷は誰に向けるでもなく口を開いた。

 

「氷輪丸は始解と卍解で能力差の少ない斬魄刀だ。単純に生み出せる氷の量が少ないだけ……なら、生み出せる氷の量を増やしてやればいい。こんなモン使うのは趣味じゃねえんだが、そうも言ってられねぇ……」

 

 最後に「お前みたいなゲス野郎にこれ以上氷輪丸を預けておけねぇからな」と付け加えながら、彼もまた乱菊と同じように懐から小さな金属球を取り出すと指の先で軽く弾く。

 その球は十二番隊が作った道具だ。内部に水蒸気を溜め込むことの可能という、言うなれば持ち運べる加湿器のようなもの。欠点といえば、破壊する以外に中の物を取り出す方法がないということだが……

 だが今回に限れば、それは欠点ではなかった。

 

 金属球を大量にばら撒き、それらを灰猫で切り裂いて中の水蒸気を解放して湿度を一気に上昇させるのが乱菊の役目。

 日番谷は霊圧を集中させて強力な冷気を放ち、一瞬で水蒸気を凍らせる役目だ。

 狙いを悟られぬように乱菊が暴れ回りながら灰猫を広範囲に予め広げておく。必要な冷気を放てるようになるまで日番谷が集中し続ける等の下準備は必要だったが、苦労した甲斐はあった。

 

「松本のやつ……トドメ役を譲ってやったからって、暴れすぎだろ……ま、上手く行ってよかったよかった……ってとこか」

 

 凍り付いたペペを何度も切断している乱菊を見ながら、日番谷は安堵するように弱々しい言葉を吐き出していた。

 卍解が使えれば、こんな小細工など必要ない。強烈な冷気で一気に凍り付かせてしまえば良いのだ。そうでなくとも卍解時の霊圧があれば、金属球を投げつけ、それを破壊し、冷気を放って凍らせるという一連の動作は日番谷一人で出来たはずだ。

 だがそれは出来ない。

 卍解を封じられ、始解だけしか使えない状況になっても腐ることなく、勝つための方策を必死で模索し、部下と連携して戦う術を編み出した。

 そして、綱渡りではあったものの勝利を手にしたのだ。

 

「あの……た、隊長……」

「ん……?」

 

 ふと気がつけば、彼の周りには多くの隊士たちがいた。

 彼らは全員が頭を下げながら、沈痛した面持ちを浮かべている。

 

「申し訳ありませんでした……一度ならず二度までも……」

「気にすんな、俺だって卍解を奪われたままだ。こっちこそ情けねえ隊長ですまねえ……それよりもお前ら、もうあの変な術の影響はねえのか?」

「あ、はい! それはもう!! あんな気持ち悪いオヤジに愛を叫んでいたかと思うと……」

 

 隊士たちは皆、しっかりとした瞳を浮かべている。それは術者(ペペ)が倒れ、呪いが解けた証だった。

 もはや死神達が愛の虜になることは無いだろう。

 

「これで卍解が……」

 

 自らの卍解を奪った滅却師(クインシー)が死んだことを確信した日番谷は、斬魄刀へと視線を落とし――

 

「戻ってこねえじゃねえか!!」

「ありゃりゃ、ダメでしたね隊長」

 

 忌々しげに吐き捨てた。

 トドメを刺し終え、戻ってきた乱菊は、日番谷のそんな様子にクスクスと笑う。

 

 元々、卍解を奪われた上にどこかに封じ込められているという推測はされていたのだ。

 ならばその封印を解かない限り、日番谷の手に卍解が戻ってくる事はないはず。奪った本人を倒したとしても取り戻せる可能性は低いということは、予め全隊士には知らされている。

 ただ、そう知らされていたとしても……それでも一縷の望みに賭けてしまいたくなるのも当然のことだろう。

 

「チッ! やっぱり涅たちの言ってたように、卍解を封じ込めてる元から解放してやらねぇとダメってことかよ! ……あいつら、ちゃんとやってんだろうな……? なんか妙なモンを見つけて、その度に研究だ採集だって足止めてんじゃねえだろうな……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……聞き捨てならんネ」

「は? なんか言いましたか涅隊長?」

 

 移動の足を止めぬまま、マユリは突然そんなことを口にした。

 

「気にすることはないヨ。どうせ今頃、十番隊の隊長辺りが文句の一つでも言っているに違いないからネ」

「はぁ……」

 

 一角の言葉にマユリは何でも無いと返す。

 

 滅却師(クインシー)達の襲撃のタイミングに合わせて影の領域(シャッテン・ベライヒ)へ侵入し、卍解を取り戻す。これがマユリたちの役目だ。

 無事に影の領域(シャッテン・ベライヒ)へと潜り込んだマユリは、護衛役として十一番隊から借りてきた斑目一角と綾瀬川弓親と共に目的地へと急いでいるその途中だった。

 

「ネム、見落としてはいないだろうネ?」

「問題はありません。微弱ですが、卍解の反応は捉え続けています。当初の場所から動いていません」

「宜しい」

 

 その報告に、マユリは移動の足を早めた。彼が急ぐのを見て、残った三人もまた足に力を込める。

 歩法を続けながら周囲を見渡し、一角は思わず口を開く。

 

「しかし、これじゃ護衛なんていらなかったんじゃねえのか?」

「同感だね……多少は抵抗はあるものだと予想はしていたけど――」

 

 瀞霊廷に上書きした影響を受けて、影の領域(シャッテン・ベライヒ)には寒々しい光景が広がっていた。

 何しろ道や建物はおろか、空や空気、空間そのものまでもが瀞霊廷側に存在してるのだ。

 影の領域(シャッテン・ベライヒ)側に残っているのは僅かな残滓だけ。それらが辛うじて道や建物を形作っているに過ぎない。人っ子一人いない、無の空間を進んでいるようなものだ。

 だが、弓親の意見は街並みに対してだけではない。

 

「……まさかこんな物を用意していたなんて」

 

 彼らは、かつて浦原の作った霊圧を遮断する外套を身に纏っていた。

 藍染たちすらも有用性を認めて利用していたこの外套を使えば、察知される可能性は極限まで低くなる。

 無人の野を進むようなもの。護衛など不要だという言葉も、解らないではない。

 

「戦いたいのなら、この影の領域(シャッテン・ベライヒ)に残った滅却師(クインシー)と勝手にやればイイさ。ただし、全ては必要な要件を済ませてからだヨ」

「あー……なんつーか……」

「意外、ですね……そこまで仕事熱心でしたっけ?」

 

 勝手な行動を取るなと釘を刺す言葉に、十一番隊の二人は思わず顔を見合わせると歯切れの悪い言葉を口にする。

 

「卍解のみを分離し、そのまま捕らえておける牢獄! それだけでも利用価値があるんだヨ。解析し、利用できるようにすれば可能性はさらに広がる!! ……こんな面白そうな物を見過ごせというのかネ?」

 

 だが返ってきたのは、ある意味では予想通りの言葉だった。その反応に、一角たちは思わず胸をなで下ろした。

 それからしばらくして、彼らは目的の場所へと辿り着いていた。

 なにしろ敵がおらず、警戒もされていない場所へ、姿を隠して侵入しているのだ。問題など起こるはずもない。 

 

「ククク……! 見つけた、見つけたヨ!! これがそうか、これがそうなのかネ!!」

 

 寒々しい光景が広がる空間の中、僅かに残った立派な建物の一室にて青白い輝きを放つ霊子の牢。

 その存在を確認した瞬間、マユリは歓喜の声を上げていた。

 

「ネム! 計器の準備はどうだネ!?」

「既に設置済みです」

「宜しい。ではじっくりと、解析してやろうじゃないか……」

 

 まるで獲物を前にした肉食獣のような凶悪な笑みを浮かべ、マユリは監獄(ザ・ジェイル)の能力の解析を始めた。

 




●ペペ様
 能力が危険なので、原作の「ゾンビ状態は愛無効」のような絶対の対策か。
 でなければ油断している間に一撃で倒すしかない。卍解が無い、始解だけのシロちゃんなら、一撃はないだろって油断させてからのコレ。

(12番隊に頼んで作って貰った特製の水蒸気とかを溜め込める球。
 乱菊が投げつつ灰猫の灰で位置を微調整。その後、一斉に開封して湿気まみれに。
 シロちゃんは霊圧を溜め込んで、一気に氷漬けにする(この時点で勝負あり)
 トドメは乱菊。血の一滴まで凍り付いた状態を切断(下手に復活すると怖いので))

 ああ、ペペ様が……ペペ様をもう書けないなんて……
 恥も外聞も捨てて、好き勝手に気持ち悪い台詞を書けたのに……
 すっごい楽しかったのに……
 なんでシロちゃん、ペペ様を倒してるんだよ……空気読めよ……

(……いえ、わかるんですよ。ペペ様生存ルートは無理なことくらい。
 性根がアレな子だから面従腹背ですぐに裏切りそうな印象しかありませんし……そもそも死神たちが生かしておくとは思えませんし……)

●マユリ様ご一行
 護衛を引き連れて、さらに浦原製の霊圧と姿を隠すマントまでつけて準備万端。
 向かう先には人は居ないし、ステルス状態だし、何のイベントも起きない。
 そして封印された卍解を見つけて、解析開始。もう時間の問題です。

(一角たちが居る意味が無い? たまたま何もなかっただけで、護衛は必要です)
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