お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第384話 二対一

「死神! 貴様は……知っているぞ! 確か……」

「覚えていないのならそう言え。平子真子、五番隊の出戻り隊長だ」

「お前ら、出戻りて……ま、否定はでけへんけども……」

 

 神赦親衛隊(シュッツシュタッフェル)のジェラルドとリジェのやり取りに、平子は若干の苦々しい顔を浮かべながら頷く。

 

「それで? その出戻りが我々になんの用だ?」

「鈍いやっちゃな。滅却師(そっち)が喧嘩売って、死神(こっち)が買った。この状況で仲良う茶でもシバけ言うんか?」

「はははは! 良いぞ、実に我の好みの答えだ!!」

 

 上機嫌な笑い声を上げながら、ジェラルドは平子へと斬りかかっていく。

 大剣での鋭くも大ぶりな一撃を、平子は十分に引き付けてから躱した。だが避けてもなお風切り音が耳に五月蠅く、剣の威力の凄まじさを遠回しに伝えてくれる。

 

「先ほどから、我々を見た途端にどいつもこいつも一目散に逃げ出していく! ようやく気骨のある相手に出会えたというわけだ! 我が剣の錆となるに相応しい!!」

「あー……悪いんやけど、そのリクエストには応えられんわ」

 

 避けた平子へとさらに追撃を与えようとするジェラルドに対して、平子は柄頭に丸い輪の付いた(・・・・・・・・・・)斬魄刀を構えた。

 途端、ジェラルドは自身の視界がぐにゃりと反転したのを認識する。その強烈な違和感から思わず動きを止めて、何度も瞬きを繰り返したかと思えば忙しなく周囲に視線を這わせ始めた。

 その様子に、平子はにんまりと笑う。

 

「な、なんだこれは……!?」

「なんや、滅却師(クインシー)は勤勉なんやろ? オレの斬魄刀の能力くらい知っとるんちゃうんか?」

「……逆撫、だったな」

 

 戸惑うジェラルドを、平子は言葉で挑発する。だが答えが返ってきたのはリジェの口からだった。

 

「さか、なで……?」

「相手の認識を入れ替える能力だ。陛下からの情報(ダーテン)にあったはずだぞ?」

「む……???」

「知らぬのならそれでいい。ジェラルド、お前は動くな」

 

 そう告げると、リジェは手にしていたライフル銃を平子へと向ける。

 

「その能力は個人にしか効果を及ぼさない。ジェラルドが影響下にあるということは、僕には何の影響も与えられない。違うか?」

「せやな。確かにオレの逆撫は、多対一には向かん。タイマンやったら中々強いんやけどなぁ……」

 

 銃口を向けられながらも、平子は動揺することはなかった。

 不敵な笑みを浮かべながらリジェの言葉に首肯すると、さらに笑みを深くする。

 

「けど、能力も使いようやで?」

「ほざけ」

 

 それの反応を虚勢と判断し、リジェは躊躇うことなく引き金を引く。そして――

 

「……な……っ……!?」

「なんだと!!」

 

 ジェラルドとリジェは揃って驚愕の表情を浮かべた。

 リジェが放った弾丸は平子には掠りもせず、それどころかリジェ本人の真後ろの建物に当たっていたからだ。

 

「リジェ、お前が……まさか的を外すなど……ありえん……」

 

 狙った銃弾が真後ろに飛ぶだけでも驚きだが、真に驚くべきはそこではない。

 リジェの万物貫通(ジ・イクサクシス)の能力は、彼が認識した対象を必ず撃ち抜く。極論、相手に背中を向けて撃ったとしても対象を撃ち抜くのだ。

 そんな能力を持つリジェが狙撃を外すなど、普通はありえない。

 

「僕は確かに、死神を認識して……ま、まさか……ッ!!」

「おっ、気付いたか?」

 

 普通はありえないはずの出来事。その原因に気付き、ギリギリと奥歯を噛みしめながら平子を睨み付ける。

 

「そっちの黒い兄ちゃんは逆撫の能力を知っとった。そんなら発動条件も知っとるやろ? 逆撫は匂いを嗅ぐことで発動する」

「……つまり、影響は受けていなくとも発動条件は満たしている」

「そういうこっちゃ。影響を受けるんは一人だけやけど、匂いを嗅いどるんはどっちも同じ。そんなら、切り替えたったらええねん」

 

 ジェラルドが足を止めたところで効果を与える対象をリジェへと変更。認識している対象だけを逆に入れ替えることで、平子ではない背後を撃ち抜くようにする。

 さらに「逆撫の影響を受けるのは一人だけですよ」と自ら告げることで、認識のみが逆になっていることを気付きにくく誘導する。

 完全に掌の上で踊らされていたことに気付き、リジェは怒りを強くしていた。

 

 ――はぁ……なんとか、ここまでは上手く行ったか……

 

 銃撃の結果とその反応を見ながら、平子は心の中で一つ息を吐いた。

 藍俚(あいり)から事前に情報を齎されていたことや、隊首会での検討・情報共有などもあって、逆撫はこの二人への対抗手段の一つとなるだろうと、死神たちは認識していた。

 実際、一般隊士たちはそれを知っていたからこそ、ジェラルドらを見た瞬間に抵抗することもなく平子へ連絡を入れることを優先していた。

 それがなければこれほど早く平子が現れることはなかっただろうし、それどころか下手に対抗したことでジェラルドが強化されていた可能性もあった。

 

 ――こっからが、正念場やな。

 

 そして平子自身、自分ならばこの二人に対抗できるだろうと思っていた。

 だが実際に逆撫の能力が有効かどうかはまた別問題だ。認識を逆にしても、それでも問答無用で撃ち抜かれる可能性は残っている。その時に備えた対策も、一応あることはあるのだが……

 とはいえ、自分の能力がジェラルドたちに有効なことは確認できた。ならばこのまま優位を保ちつつ戦いを組み立てていくだけ。

 

「さ~て、ここで楽しい楽しいクイズの時間や。今、逆撫の影響を受けとるんはどっちで、何の認識が逆になっとるでしょうか? 失敗すると、また大恥掻くで?」

 

 内心の動揺を表に出すことなく。けれども相手だけはさらに手玉に取るべく、平子は底意地の悪い笑顔を浮かべた。

 だが一筋縄で行くような相手ではない。

 その挑発を逆に利用してやると言わんばかりに、リジェは平子の言葉を鼻で笑う。

 

「大恥、か……はたしてそれは、どちらかな?」

「あん?」

「こちらの情報も、湯川藍俚(あいり)から聞いているのだろう? ならばお前は、我々を足止めするだけの役目というわけだ」

 

 逆撫は間違いなく厄介な能力を持った斬魄刀だ。感覚の認識を自由自在に逆転させられては、まともに対応できるはずもない。

 だが、どれだけ相手の感覚を操ろうとも、影響を与える対象を変幻自在に切り替えようとも、攻撃系の能力ではない。

 つまりは足止めにしかならない。

 

「そしてこちらは二対一。どれだけ上手く能力を操ろうとも、いずれは手が足りず反応が遅れる時が来る。我々を相手にするには決定打が不足しているんだよ」

 

 加えてリジェもジェラルドも、まともな手段ではダメージを与えられない。

 ならば数の利を生かして追い詰めていけば良い。厄介な相手ではあるものの、倒せぬ相手ではない。

 驚かされこそしたものの、恐れる必要の無い相手ということだ。

 

「ふむ……? つまりは、そういうことだな!?」

「ああ、そういうことだ。時々感覚が狂うだろうが、それに気付いたら動きを止めて教えてくれ。僕が動く。逆に僕が動きを止めたら――」

「我が動けばいいのだな! よし、解った!!」

 

 単純明快な作戦を聞かされ、ジェラルドが動いた。

 だが自身の認識が狂わされていることに気付き、彼は動きを止める。

 

「リジェ!」

「解っている!」

 

 その動きを見逃すことなく、リジェは狙撃する。だがやはりその一撃は平子を撃ち抜くことなく、真後ろへと着弾した。

 とはいえその結果は予想していたのだろう。ジェラルドが平子への攻撃を再開する。

 

「足止めだけしかできんと思われとるんは心外やな。オレ、そこまで甘くはないで?」

「虚勢はそこまでにしておけ、見苦しい! 貴様らのような死神が我が肉体を破壊したこと事態が間違いなのだ!! 間違いは正さねばならぬのだ!!」

「うおぉ……!?」

 

 逆撫の影響を受けているはずなのだが、ジェラルドの両手剣は平子を正確に狙って放たれた。その動きに思わず平子は小さな悲鳴を上げながら、必死に身をよじって刃から逃れる。

 この一撃は、奇跡(ザ・ミラクル)の能力によって一時的に逆撫の影響を受けなくなったことによる、偶然の一撃のようなものでしかない。

 だがそんな詳細な情報を知らぬ平子は、ジェラルドの動きを見て「認識反転に徐々に対応し始めている」と判断した。

 

「……ああ、なるほどな。そういうことかい。自分ら、藍俚(あいり)ちゃんを怖がっとるわけか」

「何ィ!?」

 

 故に、予定よりも少し早いが切り札を切ることにした。

 

「話は聞いとるで。二人掛かりでボッコボコにされたんやろ? あんなこわーいこわーいオバハン相手にせなならん思たら、そら後回しにもするわな」

 

 平子がまだ仮面の軍勢(ヴァイザード)をやっていた頃。

 藍俚(あいり)が一人でアジトに乗り込んできたかと思えば、全員ボッコボコにされた経験を持っている。

 その時の経験をなんとなく重ねながら、けれどもおくびに出さずに続ける。

 

「その証拠に、自分ら瀞霊廷の好きな場所に出られるのに藍俚(あいり)ちゃんから離れた場所に出て来とるやん」

「誰がそのような卑怯な真似を――」

「ええってええって。オレらかて似たようなことしとるんやから」

「ぬがあああぁぁっ!!」

 

 怒りにまかせて大剣を振り回すものの、平子はそれらの攻撃を回避しながら、今度はリジェに矛先を向ける。

 

「それとそっちのオマエ、言っとったことは大体正解や。藍俚(あいり)ちゃんからの話で、自分らの能力はオレらもある程度は知っとる。せやから、対抗できそうな相手としてオレが来たわけやけど……別に倒せへんとは一言も言うてへんからな?」

「何……!?」

「お前らのその認識、そっくりひっくり返したるわ」

 

 そう告げる平子の声は、リジェの耳には何故か背後から聞こえてきたように感じられた。それもまた逆撫の影響なのだが、それを理解するような暇は無かった。

 

「卍解、逆様邪八宝塞(さかしまよこしまはっぽうふさがり)

 

 リジェの視線の先で、平子は斬魄刀を構えるとその真の名を口にする。

 霊圧が一気に数倍にも膨れ上がり、手にしていた斬魄刀はその姿をさらに変化させた。

 

「卍解……」

「なんなのだ、これは……」

 

 ジェラルドらの前には、巨大な花のような台座が現れていた。撫子の花に似た、美しくも巨大な台座。その中心に平子は立っていた。

 手にしていた斬魄刀には柄頭だけなく(きっさき)にも輪っかがついており、ますます刀から離れた形状をしている。

 

「なんやその反応? まさか、始解は知っとっても卍解は知らんのかい!」

「ふん! 卍解だろうと、叩き潰してしまえばよい!!」

「……ま、その方が好都合やけどな」

 

 如何に知らぬ卍解であっても自身の能力ならば打ち破れるはず――そう断じながらジェラルドは剣を振るう。

 ぼそりと呟やかれた言葉は、彼らの耳に届くことは無かった。その代わり、台座の花弁が平子の身体をゆっくりと包み込んでいき、ジェラルドが振るった刃はリジェへと(・・・・・)襲いかかる。

 

「な、何をしているジェラルド!?」

「おおおおっ!!」

「狙うのは、僕じゃないだろうが!!」

 

 慌てて声を出すものの、ジェラルドは止まることなくリジェへと攻撃仕掛けていく。

 その動きに慌てつつも、リジェは"本当に狙うべき相手はコイツだ"と言わんばかりに銃を放った。

 

「ぐわっ!」

 

 その一撃は、ジェラルドの身体を撃ち抜いた。

 だがそれだけならば、ジェラルドは自らの能力で傷を変換して終わってしまうだろう。

 

「……馬鹿な、再生が出来ない……!? おのれっ!」

「ぐ……っ……!」

 

 だが、何故か傷が再生することはなかった。

 かつて湯川藍俚(あいり)に良いようにやられたときに似た感覚。だが決定的に違うのは、回復ではなく攻撃を受けているにも関わらず能力が発動しないということだ。

 理解できぬ現象を体験しながらも、ジェラルドは臆することなく剣を振るいリジェの身体に傷を付ける。

 

 ――さて、こっからは我慢比べやな……

 

 そんな二人のやり取りを花弁の中で見ながら、平子は心の中で計算をやり直す。

 卍解、逆様邪八宝塞(さかしまよこしまはっぽうふさがり)は「周囲の敵・味方の認識を逆転する」という凶悪な能力だ。

 だが、凶悪な分だけ使い勝手も悪い。

 始解と違って敵味方の区別を付けられず、周囲の全ての相手を無差別に対象にしてしまう。近くに味方がいれば、その瞬間に敵も味方も同士討ちを始めてしまう。

 加えて一対一の場合、敵味方の認識を入れ替える対象がおらず能力は不発に終わる。

 つまりは「多対一の場合」のみ真価を発揮する卍解だ。 

 

 今回は幸運にも、ジェラルドとリジェという二人が揃って行動をしているという情報を得ていたこともあって使えたが、そうでなければ始解だけで粘って援軍を待つのが最善行動だっただろう。

 

 ――幸運にもダメージを与えられとる。このまま待っとけば潰し合うやろうけど……とはいえ卍解や。使える時間に限りが有る。それに加えて……

 

 再びチラリと、同士討ちをしている二人を確認する。

 片方は傷を糧に強化していき、もう片方は攻撃そのものを通り抜けてしまう――事前情報ではそう聞いていた。

 だが同士討ちはその対象外なのか、今のところはなんとか傷を負わせ合っている。

 

 ――思ったほどダメージは与えられてへん……いやまあ、もしかしたら同士討ちなら通じるかもしれんと思っとったから、これはラッキーなんやけど……それでも二人とも、シャレにならへんくらい強敵や……このままやと、こっちが先に息切れする可能性も十分にありえる……

 

 相手が潰れるのが先か、卍解を維持しきれなくなるのが先か。

 先の読めないチキンレースに挑みながら、平子はボソッと呟いた。

 

「ホンマ、藍俚(あいり)ちゃん来てくれへんかな……そしたらオレ、めっちゃサポートすんのに……」

 

 

 

 ……その人、今はバンビエッタちゃんから「ママ」って呼ばれて鼻の下伸ばしている頃だと思うから、あんまり期待しない方がイイと思うよ。

 




●親衛隊の相手を一人でする平子隊長
・斬ってもパワーアップする相手
・概念レベルで狙ったところを撃ち抜く相手

どっちも逆撫は効果抜群なはず。
(相手が霊王の一部持ち、そのくらいは通るはず)
(逆撫の能力が、こんな風にパッパッと切り替えられるかは不明ですが……ダメだったら)

加えて2対1なので、逆様邪八宝塞(卍解)も有効。
(同士討ちでダメージが入るのか? という疑問には「妄想設定」と答えます。
 ただ「リジェを八鏡剣で倒した」みたいに、同士討ちはある程度効果アリだと思う。
 似たように「リジェの神っぽい力なので、ジェラルドも利用できない」と妄想)

●こわいこわいオバハン
事実
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