お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第385話 グエー萎えるンゴ

「良い場所も見つかったし、物資もなんとかなりそうですね」

 

 そう呟く勇音の視線の先には、清潔に整えられたベッドや医療物資。保存食や飲料水などが並んでいた。それら全ては、四番隊の面々が必死になって集めてきた物だ。

 瀞霊廷が影の領域(シャッテン・ベライヒ)に上書きされ滅却師(クインシー)たちの強襲を受けた際、四番隊隊長の湯川藍俚(あいり)は部下達に「拠点となる場所や道具の確保し、四番隊として出来ることをやれ」という命令を与えていた。

 

 その命令を受けた彼ら彼女らは、副隊長である虎徹勇音の指揮の下で各々の役目を果たし続けていた。

 ある者は要救助者を探し周り、またある者は他の部隊への呼びかけを。またある者はすっかり様変わりしてしまった街並みの中から、使えそうな物を必死に掘り起こした。

 そして勇音は、全体の指揮を執りつつ見繕った拠点に集積された物資の管理などを行っていた。うずたかく詰まれた物資に加えて、ベッドの上には怪我の手当をされた死神たちが既に何人か横たわっている。

 大学の講堂の様な広さの空間の半分以上が既に埋め尽くされているのだから、隊士たちがどれだけ働いていたのかも自ずと理解できるだろう。

 尤も、これは隊士たちの奮戦だけが理由ではなかった。

 

「それにしても、助かりました。織姫さんがいなかったら、ここまで物資を集められたかどうか……」

 

 言いながら、織姫に向けて勇音が頭を下げる。

 四番隊の世話になっていた織姫は、滅却師(クインシー)たちの襲撃に際しても藍俚(あいり)の命令を手伝う形で桃や勇音たちと行動を共にしていた。

 彼女の持つ事象の否定の能力によって怪我の治療は勿論、集めて来た道具や食料も元に戻していた。少々傷んでいたり破損していたとしても使えるようにしてしまう。彼女の能力が無ければ、集まった物資の半分以上は使い物にならなくなっていただろう。

 だがそんな勇音の行動を、織姫は慌てて謙遜する。

 

「そんな……勇音さんや皆さんが頑張ってるからですよ。あたしだけじゃ、ここまでは……それに、勇音さんだって凄いですから」

「そんなことありませんよぉ……織姫さんがいなかったら……」

 

 集められた物資は勇音の斬魄刀、凍雲の能力によって劣化速度を可能な限り遅くされている。これによって長期保存が可能となっていた。織姫の事象の拒絶ほど目立たないものの、与える影響は決して引けを取らないだろう。

 加えて怪我人への治療や部下に指示を出すその姿も立派な物だ。

 だが勇音は織姫の言葉を謙遜しながら、困ったような表情を見せる。それは自信が無いというよりも、この先の事を憂いているからだ。

 

「それにしても、外に出ている皆さんも心配ですね……」

「茶渡君や桃さんたち、ですよね……?」

「ええ、それもありますけど、他の隊の方々への連絡もそうです……伝令神機も使えませんし、天挺空羅をしようにも上手く行きません……隠密機動の方々に頼りたいんですけど……」

 

 二人の美女が互いに先のことを案じていると、突如として聞き慣れぬ声が響いた。

 

「ほ、ほほほほ、ほっほーう? これはこれは……随分と集まったのぉ……」

「え……?」

「な……っ!!」

 

 織姫は驚いたように周囲を見渡し、勇音は素早く周囲の油断なく気配を伺いながら斬魄刀を強く握り締めた。

 左から右へ視線を動かし、やがてある一点で止める。

 

「必死になって集めた場所・人・物。ある程度まとまったところで叩き潰すのが、一番手っ取り早くて楽だからの~」

 

 見つけたのは、痩せ細った老齢の男だった。

 顔には深い皺が幾重にも刻まれており、眼鏡の奥から覗く眼球は右目だけが常に右上を向いている。髪はピンク色でパーマが掛かっており、さらには奇妙なヘッドホンを装着している。それら一つ一つの要素が、なんとも言えない異質さを放っている。

 そんな老人が、物資の山の麓にいつの間にか現れていた。積み上がった物資をペチペチと遠慮無く叩きながら、剣呑な言葉を口にしている。

 正体は解らないが、それだけで動く理由としては十分だった。

 

「何者かは知りませんが、覚悟ッ! ……あれ?」

 

 老人を敵の滅却師(クインシー)と仮定し、油断なく飛び掛かろうとする。だがその瞬間、老人は勇音の視界から完全に姿を消していた。

 攻撃しようとする相手が居なくなったことに驚きながらも、慌てて周囲を確認する。だが今度は織姫が声を上げた。

 

「……勇音さんあそこ!」

「なにより、必死こいている者達の目の前で、その努力の成果を叩き壊す……その時の絶望に満ちた表情といったら、これはもう……ひ、ひひ……ひひひひっ! たまらぬ!」

 

 彼女が指を差す先に、老人はいた。

 いつの間に移動したのか物資の山の頂上付近に立ちながら、片手に火の付いたマッチを。もう片方の手には消毒液を持っている。

 

「とくと見物させてもらうとするぞ!」

「な……!」

「あっ……!」

 

 消毒液を足下に叩き付けると、そこにマッチを投げる。

 アルコールに引火すると、炎が瞬く間に燃え上がり物資の山へと燃え広がっていく。

 

何で火が(・・・・)!?」

「い、一体誰が(・・・・)こんなことを! け、消さないと!」

「戻りま……え、えええっ!! なんですかコレぇ!!」

 

 その様子を、まるで始めて見たように驚きながら、織姫たちは消火活動を始める。

 さらに間の悪いことに、外に出ていた桃たちの小隊が戻ってきていた。彼女たちもまた炎に驚きながら、消火活動に参加する。

 幸いにも水など多くあったことや規模が小さかったこともあって、鎮火そのものは簡単にできた。

 

 だが物理的な火は消えても、心の奥底で燻る火種は残ったままだ。

 拠点となる場所の警護も、残っていた勇音の役目の一つだ。

 待っていてくれると信じたからこそ桃たちは安心して外へと出てられたのだ。それが戻ってきた途端にこれでは、黙っていられるはずもない。

 

「何やってるんですか虎徹副隊長! 織姫さんも!」

「でも、急に火が付いて……」

「そうなんですよ桃さん! 気がついたら火が……」

 

 ――努力の成果を叩き潰すのは見ていてとても気持ちが良い!! じゃがわしにはそれ以上の愉悦があるんじゃよ!!

 

「じゃあ……まさか、敵が入ってきているってことですか!? 二人とも、気付かなかったんですか!?」

 

 ――こうして存在を消し、間近でやり取りを見物すること!

 

「けど、私たちは確かに……」

「しっかりして下さい! もう怪我人だって運び込まれているんですよ!?」

 

 ――仲間同士で醜く争い、身内同士で責任を擦り付けあう……そんな最高の醜態を特等席で見物できる……特権! わしだけの特権じゃよ!! ああ……た、たまらぬうぅっ……!!

 

 同じ仲間であるはずの死神たちの言い争う様子を間近で眺めながら、彼は恍惚の表情を浮かべていた。

 老人の名は、グエナエル・リー。

 星十字騎士団(シュテルンリッター)に属しており、消尽点(ヴァニシング・ポイント)の能力を持つ者だ。

 

 消尽点(ヴァニシング・ポイント)は「透明人間」「存在消失」「記憶消失」という三段階に別れている。

 透明人間は、その名の通り姿が見えなくなるだけ。勇音の視界から消えたのは、この第一段階の能力によるものだ。

 存在消失は、姿に加えて存在までが消えて一切の干渉が行えなくなるというもの。

 そして第三段階の記憶消失――相手から自分に関する全ての記憶を消すという能力だ。これによって「グエナエルが物資に火を付けた」は「気がついたら物資に火が付いた」という記憶に書き換わった。

 勇音たちからすれば「突然火が燃え上がった」と認識していてもおかしくないし、桃の問いかけに要領を得ない返事しか出来ないのも当然のことだ。

 なにしろ侵入者に関する記憶の全てが二人の頭から消えているのだから。

 

 ――この小娘()が戻ってきた時、炎の能力で放火でもしたと疑ってくれれば万々歳じゃったが、そこまで上手くは行かぬか……じゃがまあ、これでも十分……ひひひ!!

 

 二人の記憶から自分の存在を消した後、再び透明になってやり取りを間近で見物していたグエナエルは、期待していた通りの成果に笑みを隠しきれなかった。

 同時に、これ以上どのように引っかき回してやろうかと思案し、やがて次なる行動に打って出る。

 

「おお、遅かったか……」

「え……!?」

「ど、どなたですか……?」

 

 透明のまま入り口まで移動してから、さも「今来ました」と言わんばかりの雰囲気を纏いながら姿を見せる。口から出た言葉は「この場の状況を対処しようと急いできた」というニュアンスを含ませながら。

 当然、突然現れたグエナエルの姿に勇音たちは警戒する。だがグエナエルはそんなことは気にしないとばかりに三文芝居を続ける。

 

「お主たちの動きを目障りに思い、叩き潰そうとしている滅却師(クインシー)がおるのじゃよ! わしはそれを知らせに来たんじゃ!」

 

 ――わしのことじゃがな!

 

「まさか! だってあなたは星十字騎士団(シュテルンリッター)の……」

「信じられぬのも無理はないがの。滅却師(クインシー)の中にも陛下のやり方に疑問を覚える者もおるのじゃよ」

「え……ッ!?」

 

 ――ぷ、うぷぷ! ぷぷぷぷぷぷぷっ!! 少しでも信じおったのか! 阿呆ばっかりじゃのぅ~! 信じるかフツー!? やはりトップからして救護だなんだと言っておる連中の集まりじゃな!!

 

「その山に火を付けたのも、その滅却師(クインシー)じゃよ。そしてその滅却師(クインシー)は――」

「危ない!」

 

 彼女たちの様子を心の中であざ笑い続けながらグエナエルはさらに口を開くと、姿を消した。同時に、勇音が織姫たちを庇うように前へ出る。

 

「く……っ……」

「わしのことじゃよ。しかし、上手く逃げよったわい」

 

 グエナエルの手にはいつの間にか、小型のナイフが握られていた。姿を消したまま斬りつけたのだ。

 だが織姫を狙ったその攻撃は勇音に邪魔されて届くことはなかった。勇音が傷を受けたのとほぼ同じタイミングで、桃は見えぬグエナエル目掛けて斬魄刀で斬りかかる。

 

「弾け、飛梅!」

「おおっと!」

 

 始解を発動させながら、相手の気配頼りに斬りかかるものの、その瞬間に消尽点(ヴァニシング・ポイント)を存在消失に切り替えて攻撃を無効化する。

 

「なんで……!? 確かに気配はあったはず……」

 

 つい直前まで気配があったはずの空間を斬ったのに、何も手応えがないという錯覚のような違和感が桃を襲う。

 その違和感を処理しきれぬ間に、グエナエルは能力を透明人間へと切り替えると困惑する桃を斬りつけた。

 

「あぐっ……!」

「桃さん!?」

 

 ――ひひひ! 楽しい、楽しいのぅ! じゃが、さらなるお楽しみはこれからじゃよ!

 

 斬られ血を流す二人の様子を眺めながら、能力を今度は記憶消失へと切り替える。

 その瞬間、この場にいた者たちの記憶からグエナエルの存在が消える。

 

「え……!?」

「なんで、血が……!?」

「勇音さん、桃さん! 二人ともどうしたんですか!?」

「わ、わかりません、なんで傷が……!?」

「これは刃物の傷……」

 

 ――おーおー、よいぞよいぞ! わざわざ小刀を用意した甲斐があったわ。疑え、もっと疑え! 潰し合ってしまえ!! 

 

 滅却師(クインシー)の使う武器とは異なる傷を与えることで、死神同士を疑わせるようにする演出の一つとして用意したのだ。そうやって疑ってくれねば困るというもの。

 内心の嘲笑を必死で抑えながら、グエナエルは再び勇音たちの前へと姿を現した。

 

「おお、遅かったか……」

「え……!?」

「ど、どなたですか……?」

「わし――ぬおっ!?」

 

 再び同じやり取りが繰り返されようとするが、続く言葉を口にしようとしていたグエナエルは存在消失の能力を発動させながらその場から全力で離れる。

 それとほぼ同時に、侘助の刃と泰虎の拳がグエナエルのいた空間を通り過ぎていく。

 

「ム……?」

「避けた、いや消えたと言うべきかな……?」

 

 手応えの無い様子を不思議に感じながらも、現れたイヅルと泰虎の二人は背中合わせになりながら油断なく周囲を警戒する。

 桃と同じように、二人もまた外での仕事に一区切りを付けて戻ってきたところだった。だがグエナエルの姿を見た瞬間に顔を見合わせると、有無を言わさずに襲いかかっていた。

 

「お二人ともなんてことをするんですか! あの人は敵か味方かわからないんですよ! それなのに……」

「勘だ。上手くは言えないが、嫌な予感がした」

「仮に僕たちに味方をしてくれるつもりなら、建物の外で待ったり自分の動きを封じるなど、もっとやり方があったはずです。けどそうじゃなかった。なので敵と判断しました」

 

 結果だけを見れば大正解の行動なのだが、勇音からすれば何も知らない相手に突然襲いかかったようにしか見えず、彼女は思わず文句を口にしていた。

 だがその言葉に二人はそれぞれなりの理由で反論する。特にイヅルの言葉は耳を傾けるだけの説得力がある。

 

 ――なるほどなるほど、確かにそうじゃのう……じゃが、だからといって急に襲うか!? わしが情報を持ってきた裏切り者の滅却師(クインシー)だったらどうするつもりじゃ!? そもそもお主は救護を専門とする隊の所属じゃろうが!! 生意気な若造め!! ……そうじゃ! ならば、今度はこうしてやろうかの!!

 

「……ム?」

「あれ……?」

 

 腹の中で苛立ちを爆発させながら、グエナエルは再び記憶消失の能力を発動させた。

 記憶を失った瞬間、泰虎とイヅルは自分がどうして臨戦態勢を取っていたのか解らず、困惑したように顔を見合わせる。

 

「……あれ……なんでこんな……僕たちは、どうしてこんなことを……」

「わか……らない……何か、大事な……邪悪な気配があったような……」

「二人とも手が空いているなら手伝って下さい! 大変なんですよ、どうも敵がいるみたいで!! けど、全然見つからなくて……!!」

「わかりました!」

 

 ――ひひひ、動いた動いた。さて、わしも動くとするかの。

 

 イヅルたちが散らばったのを確認してから、グエナエルは存在を消したままこっそりと織姫へと近づく。

 彼女は桃が傷を負ったことから、何者かが講堂内にいると考えて索敵を行っているところだ。だがどれだけ厳重な警戒をしようとも、存在そのものを消している相手を気付くことなどできなかった。

 故にグエナエルは悠々と織姫の背後に回ると――

 

 ――くらえ!

 

「……え?」

 

 能力を透明人間へと切り替え、織姫の豊かな胸を鷲掴みにした。

 

「きゃああああああああああああああっっ!!!!」

「どうした井上!?」

「織姫さん!?」

「どうかしましたか!?」

 

 突然胸を揉まれた衝撃に、織姫の口から絹を裂いた様な悲鳴が上がった。

 当然、桃たちが異変に気付き戻ってくるが、グエナエルはその悲鳴を耳にしながら、さらにたわわな胸をたっぷり時間を掛けて揉みしだく。

 片手に修まり切らないほど豊かな胸を無遠慮に揉まれ、織姫は顔を真っ赤にしながらグエナエルの手から逃れようと身を捩る。

 

 ――さて、このくらいでいいじゃろ。

 

 存在を消失させてその場から離れると、続いて記憶消失の能力を使う。これにより「何者かが織姫の胸を揉んだ」という事実だけが、彼らの記憶に残ることとなった。

 その結果、どうなるかというと――

 

「む、胸、胸……も、揉まれ……」

「えええっ! 誰にですか……?」

「わかりませんよぉ! ただ、急に後ろから……」

「誰かが、織姫さんの胸を……?」

「まさか……」

 

 一通りの説明を聞き終えたところで、二人の女性死神は一人の男性死神に視線を向ける。

 

「……ちょ、ちょっと待った! まさか僕のことを!?」

「い、いえ、そういう訳じゃ……ただ、この中だと一番可能性が高いかなって……」

「信じますよ、信じますけど……」

「……イヅルはそんな男じゃない」

「ありがとう茶渡君! でももっと主張してくれていいんだよ?」

 

 ――おうおう、醜い争いじゃのう! 見ていて気持ちが良いわい! じゃが安心せい、若造。わしが今、お主の疑いを綺麗さっぱり晴らしてやるからの。

 

 ゆっくりとイヅルの背後に回り込むと、再びナイフを取り出し構える。だがイヅルは女性陣からの疑いの目に慌てており、それに気付くことは無い。

 グエナエルは舌なめずりしながら絶好のタイミングを待つ。

 だがその瞬間はすぐにやってきた。

 

 ――死ねば無罪よ! さあ、死ねええええぇぇっ!!

 

「ッ! 後ろ!?」

 

 ナイフの刃が突き刺さろうとするその刹那、イヅルは弾かれた様に飛び上がった。そのまま空中で身体を反転させながら斬魄刀を振るい、凶刃と腕ごと切り裂く。

 

「ぐううぅっ!! な、何故じゃ……!? どうしてわしが……!?」 

「どうやってかは知らないけれど、殺気が一瞬漏れていたよ。疑いの目で見られていたからかな? それがよくわかった」

 

 ――なんじゃとおおおおっ!! そんなことで!?

 

 歯噛みする一方、勇音たちは混乱していた。

 なにしろグエナエルが突然現れたか思えば、それと同時にイヅルが斬りつけたのだ。敵であることはなんとなく理解できたとしても、それ以上の思考が追いつかない。

 

「え、え……誰……?」

「見えず、記憶にも残らない能力。おそらくそんな能力を持った敵です! 注意して下さい!!」

 

 言葉で危険性を訴えかけると同時に、イヅルは侘助の背を床へと走らせる。

 

「雑だけど、文字を刻ませてもらったよ。これで忘れることはない。仮に忘れても、注意喚起は十分に可能だ」

「お、おのれ!!」

「悔しいかい? けどね、僕はお前のせいで白い目で見られてもっと悔しい思いをしたんだよ。だから……記憶から消えようと、僕は決してお前を逃がさない」

 

 すうっと目を細めながら、イヅルはグエナエルの眼前に斬魄刀を突きつけた。

 だがグエナエルはその程度ではひるむことは無かった。

 

「舐めるなよ若造! この程度でこのわしが、敗れると――」

 

 侘助に斬られ重くなった片腕を煩わしく思いながら、それでもなおも戦わんと消尽点(ヴァニシング・ポイント)の能力を発動させようとしたところで、グエナエルは動きをピタリと止めた。

 

「な、なぜ……どうして」

「……?」

 

 蛇に睨まれた蛙のように全身を硬直させながら、怯えた目を浮かべている。その視線に導かれるように、イヅルたちもまたグエナエルの視線の先に目をやる。

 そこにいたのは、真っ白なコートを羽織った金髪の少年だった。コートについたフードを被り、医療用のベッドに腰掛けながら悠然とした瞳でグエナエルのことを見つめている。

 

「いつの間に!?」

「あなたも滅却師(クインシー)……星十字騎士団(シュテルンリッター)ですか!?」

 

 白コートの男のことを明確な敵と認識したのだろう。

 勇音たちも斬魄刀を構えるが、相手は何の動きも見せることは無かった。まるで勇音たち全員の存在など目に入らないとばかりに、彼は意識をグエナエルだけに向けている。

 そして、意識が向けられていることはグエナエルも理解しているのだろう。男のことをまっすぐに見ながら焦ったような表情を浮かべ、懇願するように声を絞り出し始めた。

 

「ま、待て! 待ってくれグレミィ! わしはまだやれる! この程度の相手にこれ以上苦戦することなど……」

「うん、そうだね。僕もそう思うよ。それにグエナエルさんの能力に、その引っかき回す下衆な行動。とっても面白いから、まだまだ見ていたかったんだけどさ」」

「ならば!」

 

 まるで僅かな希望が繋がったとばかりに、グエナエルの表情がぱあっと明るくなった。

 だが白コートの男はベッドに腰掛けたまま僅かに首を傾け、壁の方を向く。

 

「気がつかないかな? すごい相手が寄ってきてるんだよ。だから、グエナエルさんのことを考えていられるような余裕、なくなっちゃった」

「待……ッ!」

 

 待て、という言葉を言い切ることは事は出切なかった。

 グエナエルの肉体は一瞬にして弾け飛んだ。風船に空気を入れすぎたかのように内側から破裂し、無数の血と肉片を周囲一帯にまき散らす。それは仕事柄、血や臓物にある程度の耐性を持つ四番隊の隊士たちですら絶句するような光景だった。

 その数秒後、講堂の扉が蹴破るように乱暴に開けられた。

 

「気配を辿ってきてみれば……テメエか?」

「ふぅん……これが特記戦力かぁ……」

 

 乱暴に現れた更木剣八の姿を眺めながら、男は楽しそうに呟いた。

 




●グエナエル・リー
 ①原作でも2話くらいしか出番がないので、性格・言動などに個人的妄想があります。
 ②原作で割とあっという間にやられたのは、相手がやちるだったからというのも大きいと思ってます。
  よってマトモな面々が相手なら、多対一でもこんな感じに苦戦するはず。チクチク攻撃に徹せられたら、このメンツじゃ勝てません

 まあ、そんなことはどうでも良いとして。

 原作で、勇音とやちるちゃんにもっとセクハラしなさいよ。なんの為の透明人間なの? やくめでしょ?
(ペペ様は書いててあんなに楽しかったのに……)
 なので、セクハラさせました。
 美女と元気な野郎が同じ空間にいる、セクハラで仲違いしないはずもなく。という立派な策です。不和のタネを撒く。

 これはひつようなせくはらなんです。かきたくないけどしかたないのです。
 あー、かきたくなかったなー しかたないなー

●没ネタ
「バンビエッタたちが、絶対に殺すと息巻いておったわ」
「知らぬか? ジゼルを」
「ペルニダもあの女を狙っておる!」 
「知らせに来てくれたんですか……?」
「ひひ、そういうことじゃ。ユーハバッハ陛下のやり方は強引での。わしはほとほと――」
「陛下に従ってお主らを殺したかったんじゃよ」
「案ずることはない。お主らもすぐに、隊長の後を追わせてやるからの」

 みたいな感じで、口八丁でかく乱させようかと思ったんですが。
 このじーさんらしくない気がしたので。

●凍雲
(原作で能力が明かされなかったので)拙作中では「時間を遅くする」になっている。
 これで
 水や食べ物などを常温で長期保存可能にしています。

●桃とイヅル
 卍解とか、当初は思ったんですけどね……
「飛梅、卍解! 紅梅天女(こうばいてんにょ)!」とか「侘助、卍解! 有楽冠者(うらくかじゃ)!」
(「侘助は椿。首が落ちる。もしくは、有楽冠者は狂言の役目より主人に尽くす能力。周囲の者を平伏させ、自分はもっと平伏する(平伏する・させるが卍解のリスク)」
 「飛梅は和歌。見た目が変わって、空を飛んで、匂いを嗅いだだけでも燃える。和歌から道真公みたいに大切な人を想う・慕う心の卍解(主人の有無が卍解のリスク)」
 みたいなことがプロット的な物に書いてありました。

 ……使えなくてゴメンなさい……)
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