「なんで来たんスか?」
「なんでって……いやいや、助けに来たに決まってんだろうが!」
「連絡の一つでもくれれば、お迎えに行きましたってのに……」
一護の言葉に浦原は思わず溜息を吐いた。
「ほら、見て下さいよ。黒崎サンが連絡なしで来ちゃったもんだから、海燕サンがなんかこう、仮装パーティでキャラが被ったみたいな感じになってますよ?」
「え……おわぁぁっ!?」
指摘されてようやく海燕の現在の格好に気付き、一護は思わず素っ頓狂な声を上げる。
なにしろその姿は二年ほど前に一度目にしていた姿であり、同時に自分も似た様なことをしたことを思い出したりしたりと――まあ、一言で言うなら「印象深い姿」の為だ。
「なんでまた、そんな格好を……」
「うるせぇッ! いつかもやっただろ! お前の偽物でおびき出すってアレだよ! 浮竹隊長の案だし、実績はあるし、何よりお前をこれ以上巻き込みたくなかったんだ!!」
これ以上の変装は不要だと判断したのだろう。海燕はどこからか溶剤のような物を取り出すと、染めた頭の色を落とし始めた。
それら作業を一通り終えると、腰の二振りの斬魄刀を引き抜きながら一護を庇うように前へと出る。
「本当ならお前が戻ってくる前にケリを付けられりゃ良かったんだけどよ……ま、仕方ねえ! こうなったら一緒にやんぞ!!」
「……ああっ!」
そうして、
「
「どわっ!!」
ネリエルが一護に飛び掛かった。
急に抱きつかれて思わず姿勢を崩し掛けるものの、一護は半歩だけ下がりながらもそれを受け止める。
「お帰り一護! また一緒だね!」
「ネル! お前なぁ……」
えっと、お前らさぁ……これ一応、敵陣のど真ん中だからね……
――と、一護が天から降ってきて漫才を繰り広げる、その少し前。
「陛下、この霊圧は黒崎……」
「捨て置け、今はそれよりも優先すべきことがある」
上空から迫ってくる霊圧を察知し、その正体に気付いたユーグラムはユーハバッハへと進言する。
だがその霊圧が一護の物であることなど、ユーハバッハは既に気付いている。むしろ、来てくれたことが好機とばかりにニヤリと嗤いながら、ユーグラムへ次なる行動を指示する。
「始めるぞ。鍵を」
「はい」
長剣を翳し、その切っ先から霊圧を放つ。放たれた霊圧はユーハバッハを中心に展開していくと、魔方陣のような紋様を刻み始めた。
結界か、それに準ずるような何かを作り始めていることは自明の理だ。
「いやいやいや、見過ごすわけないやろ。アホか」
「ユーハバッハ……今度こそ仕留めてみせる……」
となればそれを黙って見ているはずもない。
死神たち、そして
「陛下! ここは我らにお任せを!!」
「周囲を
だが
ユーグラムが霊圧を展開する中、この場に集まった
「黒崎一護」
それら全ての様子を眺めながら、ユーハバッハは呟く。
誰に向けるでも無い、まるで独白のようなその言葉は、何故か一護の耳にハッキリと届いていた。
突如として聞こえたその言葉に、一護は声の主たるユーハバッハを睨む。
「感謝するぞ。お前のお陰で私は労せずして霊王宮へと攻め入る事ができる」
天を指差しながら、ユーハバッハは淀みなくとうとうと語っていく。それは一護の行動をあざ笑う様な言葉だった。
霊王宮と瀞霊廷の間には七十二層にもおよぶ障壁が存在している。
それら障壁は一枚一枚が分厚く強固であり、ユーハバッハであっても突破は脅威――それこそ"
だが一護は瀞霊廷へと向かう際、王鍵と同じ零番隊の骨と髪で編まれた衣を身に纏い防御力を高めることで、強制的にそれら障壁を突破していた。
――そこまでは良い。
問題は、無理矢理突破された障壁の方だ。
強引に突破された障壁を再び閉ざすには、
それら一通りを語り終えると、ユーハバッハは天を――正確にはその先に浮かぶ霊王宮を一瞥すると、再び視線を地へと落とす。
既にユーグラムの術式は終了しており、そこはさながらバベルの塔のように天高くまで伸びる柱が生み出されていた。
霊圧で作られた霊王宮まで続く道。その中へとユーハバッハは足を踏み入れる。
「もはや、お前達に構っている暇などない。我が親衛隊よ、我が子らよ。私が霊王宮を攻め落とすまでの間、死神たちを殲滅しておけ」
周囲の状況には目もくれぬまま、ユーハバッハは告げる。
「後のことは任せるぞ――ハッシュヴァルト、雨竜」
「な……っ……! 石田ッ!?」
無論、そこまで口にされては一護とて黙ってはいない。霊王宮へ向かおうとするユーハバッハを止めるべく、駆け寄ろうとする。
だがそれを邪魔する者がいた。
放たれた
そして一護が足を止めている間に――いや、一護が動きを止めようと止めまいと、結果は変わらない――ユーハバッハは霊王宮へと移動していた。
霊圧の道はユーハバッハが通り過ぎた箇所からゆっくりと消滅していく。後に誰も追わせぬと言わんばかりに。
「ちっ! 間に合わなかったか!!」
「仕方ありませんね! 情けない話ですがこうなったら零番隊の方々にお任せするしかありませんって! それより今は、残った
「フン! 死神風情が!!」
「ユーグラムを含め、全ての
残った者達は、ユーハバッハの後を追おうと。同時に後を追わせまいと、刃を交えていく。
そこに、声が響いた。
「ぴんぽんぱんぽーん。死神の皆様に、並びに各隊長の皆様にお知らせです」
それは場違いすぎる声だった。
濃密すぎる死闘の気配を漂わせるこの場の空気を粉々に破壊するくらい、事務的で平坦な口調。
ただその声から、死神達は声の主が涅ネムだということを理解していた。
「繰り返します。死神の皆様に、並びに各隊長の皆様にお知らせです。マユリ様からご連絡がありますので、戦いの手を止めてご静聴ください」
「アー、手短にいこうかネ」
いやいや、戦っている最中に手を止められるわけないだろうが! というツッコミを入れる間もないまま、ネムの声に続いてマユリの声が聞こえてくる。
「朗報だヨ、卍解は取り戻した。是非とも喜んでくれ給え」
「馬鹿なッッッ!!!!」
マユリのアナウンスが聞こえた瞬間、キルゲはそう叫んでいた。
卍解は
取り戻せるハズが無い。
仮に取り戻せたのなら、それは彼の
――そんなことが……死神にそんなことが出来るはずがない……!
そう考えるキルゲの心を裏切るかのように。あるいはキルゲへ聞かせる為だけにか、マユリのアナウンスが再び響いてきた。
「聞こえなかったかネ? それとも理解できなかった阿呆がいたのかネ? 今の私は気分がイイので、もう一度言ってやろう。卍解は取り戻した。もはやあの監獄は牢の意味を為していないのだヨ」
「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿なッ!! そのようなことが……そんなことが……」
再び告げられる言葉を否定するようにキルゲは呟く。
だがその言葉の真偽は、新たにこの場へと飛び込んできた死神によって証明される。
「卍解! 大紅蓮氷輪丸!! ……なるほど、涅のウソじゃなかったか」
「それは……その卍解は……!!」
戦場へ飛び込んでくるなり、日番谷は卍解を発動させた。
真の名を呼ばれた斬魄刀から氷の龍が生み出され、日番谷自身の身体へ鎧のように纏われていくその光景を、キルゲは目を見開きながら凝視する。
だがどれだけ睨み付けようとも、目の前の現実は変わらない。
「……ッ……馬鹿、な……それはつまり、神の……陛下のお力が、死神などに……そのようなことが……そのようなことが、あってはならない!! あり得ないのだ!!」
「ッ!?」
それは、今の現実を否定したかったのだろう。
日番谷の卍解を目掛けて矢を放ち、
放たれた
「は……ははははッ!! 何が意味を為さないだ! 私の能力は――……はぁ……っ!?」
だが哄笑が最後まで続くことは無かった。
作り出されたはずの檻が一瞬にして跡形も無く消滅し、そこに残るのは平然と立つ浦原の姿だけだ。
目を丸くするキルゲへ、浦原は若干の申し訳なさを感じさせながら告げた。
「あー、ご愁傷様です。でも勘違いしないでくださいね。涅サンが解析を完了して、そのデータをこっちに回してくれたおかげで、今ようやく出来る様になったんです。数分前のアタシじゃ、為す術はありませんでしたよ。その点は、誇ってイイと思いますよ」
「――ッ!!」
慰めとも挑発とも取れる言葉を口にする浦原であったが、キルゲはその言葉を言い返す事が出来なかった。
彼が口を開くより早く、胸から巨大な剣の切っ先が生えてきた。
背中越しに貫かれる衝撃と痛みを堪え、口元から血を吐き出しながらも彼は背後へと視線をやる。
「き、さ……ま……」
そこにいたのは銀城だった。
両手には彼の武器である巨大な剣の柄を握りしめたまま、胸元目掛けてさらに力を込めている。
加えて、キルゲを追いかけてきたのだろう、すぐ近くには浮竹や月島の姿もある。仮に銀城をなんとかしようとすれば、その瞬間に彼らが動くのは明白だ。
「銀、城……く……ぅ……」
「マスターキーを奪われちゃあ、看守もおしまいってワケだな。もうアンタは怖くもなんともねえ」
「ばか……な……わた、し……が……っ……」
「何より敵に背を向けたのが、テメエの敗因だ」
「ば、があぁっっ!!」
胸元へ突き刺さったままの大剣を、銀城は思い切り振り抜く。
それがキルゲが最期に目にした光景だった。
●キルゲ
お疲れ。
彼については「〼(ます)」を上手く使えなかったのだけが心残りです。
●凄く個人的な話(恥晒し)
「障壁を6000秒(=100分)閉ざせない」の部分。「6000秒(=10分)」と、ずっと勘違いしていました……(恥)
●陛下だけが霊王宮へ
まだ下には「アレな死神」が残っています。なので「追ってこない様にちょっと足止めしといて」という理由で単独行動です。
(ユーグラムも置いている(=ちゃんと戻ってきてくれるはず、と信じられる程度の根拠がある)ので、ロバートも泣きません)
●原作のこの辺り。
陛下が「ラッキー、障壁壊れた。おかげで攻め込める(意訳)」と言っている様に。あの障壁って、もの凄い厄介みたいで。
(多分ですが)和尚も陛下が来るのを解っていて、一護を行かせた(誘い込むためにワザと障壁を突破させた)――と、個人的に認識しています。
誘い込んで、零番隊で陛下を倒す算段(布で偽物とかの準備をしていたので)
●卍解を取り戻した
……卍解、取り戻す意味あるか? と思ったのは内緒。