お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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新年、明けちゃいましたね。おめでとうございます。
……今年こそは終わらせる……予定……です……


第391話 ダイヤモンドダストは曲がらない

 ――朗報だヨ、卍解は取り戻した。是非とも喜んでくれ給え――

 

 本来ならば歓迎すべきマユリのその言葉を、白哉は素直に喜ぶことはできなかった。

 何しろ彼は、奪われ掛けた卍解を自らと斬魄刀との絆によって取り返している。

 奪われていない物を取り戻すことなどできない。

 それはつまり、現在の状況から何も変わらないということだ。

 

「ありゃ? 卍解が取り(もろ)されたって……キルゲのやつ、負けちまったろか?」

 

 とある貴族の屋敷の一室。本来ならば豪華な内装によって整然としていたはずのその室内は、今や燦々たる有様となっていた。

 畳は細かな傷が無数に走り、ズタズタに引き裂かれている。四方にあったはずの壁は、今や一枚のみが辛うじて立っているだけ。他の三面は、畳と同じように無数の細かな刀傷で細切れになっており、壁の体を為していない。室内にあったはずの調度品も、同じように粉々になっていた。

 例えるなら圧縮した台風か竜巻を部屋の中で放った様な光景。部屋そのものが見るも無惨なほどに切り裂かれている。

 

 これらの惨状は全て、白哉の卍解――千本桜景厳によって刻まれたものだ。

 無数に枝分かれした細かい刃による一斉攻撃。掠っただけでも全身がズタズタになるほどの威力と密度を兼ね備えたその攻撃を何度も受けながらも、ニャンゾルは無傷だった。

 小さな傷どころか、文字通り傷一つ負っていない。平然とした様子で立つその姿は、彼の周囲だけ千本桜景厳の刃が全て避けて通っているかのようだった。

 

 ――いや、実際に避けて通っているのだ。

 その証拠に、周囲は全て無数の傷が付いているのに、彼の足下だけは一切の傷が無く綺麗なまま。

 つまりはニャンゾルの周囲に千本桜の刃が届いていないことを意味している。

 

「んれ、もう終わりか?」

「まだだ!!」

 

 千本桜の刃でニャンゾルの周囲一帯を取り囲み、全方位から一斉に攻撃をする。

 本来ならば防ぐことの不可能な無数の刃に全身を切り刻まれるはずの攻撃だが――

 

「らから、解ってるんらろ? オイには通じねえって」

 

 取り囲んでいたはずの刃の流れの一部がぐにゃりと歪み、ニャンゾルが顔を覗かせた。そこから見える姿は先ほどと同じく、無傷のまま。

 これは全てニャンゾルの仕業だ。

 彼の操る紆余曲折(ザ・ワインド)の能力は、彼が見つけた敵の攻撃を曲げて、自身に当たらないように逸らすというもの。

 刀や槍といった物理的な攻撃は勿論のこと、敵を見つけてさえいれば液体や霊圧によるものであっても曲げてしまう。ニャンゾルにしてみれば、どれだけ枝分かれようとも元が刃の千本桜の攻撃など無効化するのは容易いことだった。

 

「ああ、解っているとも……だが、無駄だと知って看過することなどできぬ……」

 

 無論、白哉とて指を咥えて見ていたわけでは無い。

 視界の外からの攻撃や、気取られぬ様に意識の外から攻撃を仕掛けたり、単純に圧倒的な物量で押し潰せないかと、様々な手段を試みていた。

 だがその全ては、ニャンゾルによってぐにゃりと曲げられてしまう。

 千本桜による攻撃は全て朽木白哉という敵の手によって行われていると認識している為、紆余曲折(ザ・ワインド)が影響を受けてしまうのだ。

 

「それにそろそろ、陛下のところにも行かなきゃなん()ぇんだ。さっき黒崎一護がどうとか言ってたろ? ()から……」

 

 そう口にしながら、ニャンゾルが動いた。

 一歩一歩、歩みを進める度に周囲に舞い散る刃で出来た桜吹雪がニャンゾルを避ける様にふわりと舞い上がり、流れていく。ともすればそれは、幻想的な光景にも見える。

 だが今まで突っ立ったまま敵攻撃を無効化し続けていた相手が始めて能動的に動き出したことに白哉は強烈な悪寒を感じ、全力でその場を離れる。

 

「くっ……!!」

「そろそろ死ん()くれ……って、ありゃ?」

 

 ニャンゾルがしたのは、無造作に近づいてゆっくりと指を突き出しただけだ。

 白哉がいなくなった空間に突き出された指は、そこに舞っていた千本桜の花びらを数枚まとめてぐにゃりと曲げると、そのまま真っ二つにしてしまった。

 

「なぁん()、気付いてたんらな」

「これだけ手の内を見れば……何をしてくるかくらい想像が付く……」

 

 先ほど行われたのは、紆余曲折(ザ・ワインド)の能力を応用して対象を捩じ切るという攻撃だ。

 ニャンゾルの身体に当たらない様に曲げるということは、身体と対象との位置関係によっては当たらない様に曲がるだけでは避けきれない場合もある。その場合、対象は今回のように捩じ切れてしまう。

 初めて目にした攻撃だったが、白哉は経験則に従って魔の指先から逃れていた。続くもう一度の指先からも、白哉は身を躱す。

 

「なら、()れなら()()?」

「……なっ!?」

 

 ニャンゾルが見せたのは、飛廉脚(ひれんきゃく)にて加速しながらの体当たりだった。だがそれは、ただの体当たりなどでは決してならない。

 前述したように、ニャンゾルの身体へ触れようとすればその瞬間に捻じ曲がり、当たりどころによってはそのまま捩じ切れてしまうという死の抱擁だ。

 加えて、これまでゆっくりとした動きを見せていたニャンゾルの急に加速したこともあってか、白哉の動きは一瞬だけ遅れていた。

 

「速い……」

「ちぇっ、()()も当たらねえろか」

 

 後退して直撃こそ避けたものの、紆余曲折(ザ・ワインド)の効果範囲から完全には逃げ切れなかったようだ。回避が間に合わず、掠めてしまったのだろう。

 白哉の片脚、そのスネから脹ら脛の辺りぐにゃりと曲がり、血が吹き出している。

 戦闘続行に支障はないだろうが、回避などには間違いなく影響が出てしまうだろう。

 

「けろ、その足ならもう今まれみたいな動きはできないらろ?」

 

 次に飛んできたのは、滅却師(クインシー)の基本能力である神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)の一撃だった。

 放たれた霊圧の矢は千本桜の刃たちが一瞬にして掻き消すものの、それでも僅かに白哉の視界が遮られる。

 

「そこらろ!」

「むぅっ……!?」

 

 その隙を逃すこと無く、ニャンゾルは突っ込んできた。

 白哉はなんとか避けたものの、間一髪であり動きも先ほどまでの精細さを欠いていた。

 死覇装の袖や裾といった末端部分が捩じ切れている事が、その何よりの証拠だ。ねじ曲がった片脚の怪我が、ジワジワと動きを遅くしていく。

 

「……そろそろみたい()な」

 

 白哉の動きを見極める様に、ニャンゾルは呟いた。

 

「そろそろ、だと? それは私を倒せると言っているのか?」

「その足、もう限界らろ? こんな場所にいたら、助けも来ねえらろ?」

 

 戦場となっているのは、瀞霊廷の内部の貴族街と呼ばれる区域だ。

 元々、死神があまり寄りつかない地区であることに加えて、数少なく存在していた死神たちは滅却師(クインシー)らの侵攻で手が離せない――仮に存在していたとしても、紆余曲折(ザ・ワインド)に対抗できる死神でなければ意味が無い。

 

「それなら、そろそろ()って言ってもおかしくはねえらろ? 違うか?」

 

 そういった諸々の状況を理解しているからこその言葉だった。

 勝利を確信するが故の言葉を吐いた瞬間、ニャンゾルの全身が凍り付いた。

 同時に、空の上から少女の声が響く。

 

「助けならば、ここに一人いるわ。たわけが」

 

 その声に、白哉は初めてニャンゾルから視線を外して上を眺めた。

 

「ルキアか」

「兄様、遅くなり申し訳ありません」

「いや、正直に言って助かった」

 

 始解させた斬魄刀――袖白雪を構える義妹の姿に、白哉は少しだけ安堵する。

 霊王宮にて一護らと共に修行を受けていたのは知っているが、実際に目にするその成果は圧倒的としか言いようがなかった。隊長クラスを凌駕するほどに霊圧が高まっており、一瞬別人かと思ったほどだ。

 それでいて相手に気取られないように気配を隠す技術も高めているらしく、実際ニャンゾルはルキアの存在に全く気付いていなかったことからもそれが窺える。

 一瞬で氷に閉じ込めた事から、ルキア本人の練度の高さが嫌でも窺える。

 

「だが油断するな。あの滅却師(クインシー)は――」

 

 そこまで目にしながらも、白哉は卍解を解除せぬままニャンゾルへと気配を向けていた。

 あの化け物が、この程度で倒せるとは思えなかったのだ。

 故に警告の言葉を発しながらトドメを刺そうとするが、それよりも先に巨大な氷塊がぐにゃりと曲がり、そのまま砕け散った。

 

「危らいところ()ったろ。お前に気付くのがもう少し遅かったら、氷漬けになってたところらろ」

「……やはり、か……」

 

 氷の中から姿を見せるニャンゾルは、白哉にとっては期待半分といったところだった。

 直接的な攻撃では無く、鬼道や特殊な能力ならばあるいは効果があるのではないかと思っていた。とはいえ鬼道による攻撃ならば白哉も試し、無効化されていた。

 それでも、鬼道系の斬魄刀ならば効果はあるのではないかという淡い期待を持っていたのだが――

 

「一体、どうやって倒せばいいのだ……?」

無駄無駄(むらむら)、陛下でもないとオイは倒せないんらって」 

「そうかな?」

 

 絶対に勝てぬと豪語するニャンゾルの言葉に待ったを掛けたのはルキアだった。

 千本桜の花びらが舞い散る中、彼女は始解させたままの斬魄刀を突きつける。

 

「ならば試してみると良い。滅却師(クインシー)相手にこれ以上の遅れは取らぬ」

「待てルキア! お前は知らぬだろうが、この男の能力は……」

「平気です、兄様。この者の能力は大凡理解できています。攻撃と認識したもの全てを捩じ曲げ、当たらない様にする……といったところでしょう?」

「む……」

 

 自身の認識と大凡間違っていない言葉に、白哉はこれ以上の言葉を紡げなかった。

 そして、ルキアに任せるという意思表示代わりとばかりに、千本桜の刃たちをスッと戦場から退かせる。 

 

「感謝します、兄様……卍解、白霞罸(はつかのとがめ)

「お前! ()うして卍解が……!?」

 

 卍解発動の影響によってルキアの装束は白一色に変貌し、髪までもが純白に染まる。氷の結晶を思わせる様な髪飾りを付けたその姿は、袖白雪本体が実体化したときを思い起こさせるような姿となっていた。

 ルキアが卍解を発動させた事に驚くニャンゾルだが、すぐに思い直す。

 

「ああ、そうらった。キルゲの奴がやられたんらったな。け()、オイには通用しねえ()? お前のことはしっかり認識してるんらかんらな」

「そうかな?」

 

 卍解を使ったとしても、自分には届くことは無いと告げる言葉に、ルキアは抑揚のない低い声で呟くと、ニャンゾル目掛けて冷気を放出させた。

 袖白雪と同じようにただ凍気を放っただけだが、その威力は桁違いだ。絶対零度の冷気が、一瞬にして襲いかかっていく。

 

()から、オイには――」

 

 けれどもニャンゾルは慌てることはなかった。

 どれだけ猛烈な威力を備えていたとしても、敵と認識した相手からの攻撃であれば紆余曲折(ザ・ワインド)の前に届くことは無いのだから。

 今回もまた、そのはずだった。

 

「……な、なんらこれ!! なんらこれぇぇぇっ!?!?」

 

 ニャンゾルの口から、初めてはっきりとした怯えの声が響き渡った。

 紆余曲折(ザ・ワインド)の能力は間違いなく発動しており、その証拠にルキアが放った冷気は彼に届く直線でぐにゃりと曲がり届いていない。

 だが曲がったところで冷気は凍り付くと、そのまま周辺の空気をも凍らせながら紆余曲折(ザ・ワインド)の壁を瞬く間に乗り越えニャンゾル本人へと手を伸ばしてくる。

 

「なんれ!! なんれオイの紆余曲折(ザ・ワインド)が効かないんら!?」

「確かに冷気そのものは私の攻撃だ。捩じ曲げられるだろう」

()ったら……!!」

「だが、凍り付くのに私の意思は関係が無い。ただの自然現象。ただ冷気が伝播しているだけだ。そこには悪意、敵意、殺意――そういったものは一切関わることがない」

「――ッ!!」

 

 ニャンゾルの紆余曲折(ザ・ワインド)は確かに、ルキアの攻撃を捩じ曲げていた。

 ただその冷気が放つ圧倒的な冷たさは、捩じ曲げられてなお周囲の空気すらも凍りつかせる。

 植物が地中に根を張っていく様に、冷気は伝播し続け広がっていく。そこにルキアの意思は存在していない。

 見つけた敵の攻撃であれば全てを曲げてしまう紆余曲折(ザ・ワインド)の能力であっても、意思を持たぬ現象までは対象外だった。なにしろ仮に自然現象までもを曲げてしまえば、冷気は勿論のこと、熱も光も届かなくなってしまうのだから。

 

「お、あ……さ、さむ……ひ……」

 

 伝播を続ける強烈な冷気は一瞬にしてニャンゾル本人まで到達すると、そのまま肉の全てを凍り付かせる。

 物言わぬ氷像へと成り果てたその姿に、白哉はようやく決着がついたことを理解した。

 

 

 

「ルキア、改めて礼を言わせて貰う。ありがとう」

「いえ、こちらこそ遅くなってしまい申し訳ございません。兄様の危機を察知は出来たのですが、到着に時間が掛かってしまい……」

「そう言うな。お前が来てくれなければ私は負けていたかもしれぬ」

 

 卍解が解除され、ルキアの姿が戻り桜吹雪も収まったところで、二人は短くやり取りを躱す。

 だがその時間すら惜しいとばかりに、白哉はこの場から離れようとする。

 

「どちらへ?」

「六番隊だ。戦いの前に、その男が気になることを言っていた。すぐにでも戻らねば、緋真が! 鴇哉(ときや)が! 部下たちが!」

「それでしたら大丈夫です。そちらには、頼りになる男が既に向かっております」

 

 焦る白哉の言葉に、ルキアは胸を張って答えた。

 




 多分今回辺り(と次話)が、朽木家関係の人たちの最後の出番です。

●ニャンゾルを倒す方法
 彼は「本能で見つけた敵や対象を曲げる」能力。
 本能で見つけているので、攻撃が視界に入っていなくても問題ない。
 (原作では固体は勿論、液体(お湯)も曲げていた。多分鬼道や霊圧でも「敵の攻撃だ」と認識すれば当たらないと妄想(なので本文中で「鬼道も曲げた」と記載してます))

 弱点は、自分の意思で発動させている為、認識できない攻撃に弱い。
 よって罠に弱すぎる。

 ……原作のアレって「(目の前の)千手丸が罠を仕掛けた(と公言している)」ので、認識できるのでは? と思うのですがダメなのでしょうか?
 (もっと分かり易い地雷のような罠ならまだしも、アレは罠としてバレバレすぎるのではないかと)

 そう疑問に思ったからか、拙作では「白霞罸(ハッカのど飴)」の絶対零度にて倒させています。
 (絶対零度→周囲の空気とかも凍る→自然現象だから敵の攻撃とか関係ない→曲げられず凍り付いて終わり→QED。という雑な論法)
 
 あとルキアさん、強くなってるので卍解を(原作よりも)平気で使ってます。
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