お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第392話 英雄に憧れて

「ミスター! あっちで黒崎一護が見つかったって言ってますが、どうしましょうか!?」

「放っておけジェイムズ! それよりもまずはこの者達からだ!!」

 

 黒崎一護(笑)が現れたという死神たちの誘いの声は、マスキュリンらにも当然届いていた。そして、特記戦力に指定されている一護を優先的に狙うというのは、滅却師(クインシー)からしてみれば至極真っ当な考えだろう。

 だがジェイムズの提案を、マスキュリンは怒りの形相で否定する。

 

「けど、良いんデスかミスター? 他の連中に手柄を取られちゃいますよ?」

「構わぬ! まずはこの者たちからだ!! コイツらを血祭りに上げねば、ワガハイの気が済まぬ!!」

 

 再度の問いかけにも応じることなく、マスキュリンは六番隊の死神たちに――いや、正確には彼らの背後にいる、一人の少年に向けて怒りの視線を注いでいた。

 

「怪我をした人たちは下がって下さい! 四番隊に連絡はまだ出来ませんか!?」

「まだです! 伝令神機も未だに不通で……!」

「刑軍の伝令を頼もうにも、場所が……」

「もう、ダメです……どうか、どうかお逃げ下さい……! 僅かですが、そのための時間は我々が稼ぎます!!」

「ダメです!! 諦めないでください!! 回道が使える人は怪我人の回復をお願いします!」

 

 その視線の先の少年は、六番隊の死神達に守られながら。同時に彼らに向けて必死に檄の声を張り上げながら、折れそうになる死神たちの心を支え続けていた。

 そして彼は、その背に庇う女性に気丈な表情を見せる。

 

鴇哉(ときや)……」

「母様、大丈夫です……母様は僕が守ります!」

 

 朽木緋真(ひさな)と朽木鴇哉(ときや)

 滅却師(クインシー)たちの前回の襲撃によって混乱した瀞霊廷と死神たちの力に少しでもなりたいと夫の朽木白哉へと申し出ており、業務や雑務を毎日の様に手伝っていた。

 この日も六番隊の隊舎にて仕事を手伝っていたのだが、運悪く滅却師(クインシー)の襲撃に巻き込まれていた。本来ならば朽木家の縁者ということもあって、思いつく限り安全な場所――戦闘に巻き込まれる可能性の低いであろう場所に避難していたはずだったのだ。

 

 そして、悪いことは続くもの。

 隊長である朽木白哉は避難を嫌がる貴族たちの説得に出ており、副隊長の阿散井恋次は霊王宮へ経ったまま戻っていない。主力を欠いた状況でマスキュリンの襲撃を受けていた。

 本来ならば、数刻を待たずして全滅していてもおかしくなかっただろう。

 だがその状況を支えたのが、鴇哉(ときや)だった。

 彼は、必死で戦う隊士たちの前に姿を見せると、声を枯らさんばかりの勢いで叫び、六番隊の死神たちの指揮を執ってみせた。

 無論、白哉本人と比較すれば拙さが目立つだろう。

 それでも、自分たちよりも幼く弱い少年が、必死に叫ぶその姿に。逃げ出したいであろう気持ちを抑えつけて母を守ろうとするその姿に、死神たちは限界を超えてマスキュリンへと立ち向かい続ける。

 

「母様も、皆さんも、諦めないで下さい! ここで踏ん張っていれば、父様はきっと来てくれます! 恋次さんだってルキア叔母様だって、異変に気付いて来てくれます!!」

 

 精々が小学校高学年程度の見た目の鴇哉(ときや)であったが、その彼が懸命に声を振り絞る姿に六番隊の死神達は、まるで朽木白哉がこの場に居る様な気さえしていた。

 

「それに怪我をしても、藍俚(あいり)のお姉ちゃ――藍俚(あいり)さんが絶対に助けてくれます! だから皆さん、諦めないで下さい!!」

 

 藍俚(あいり)のお姉ちゃんと言いかけて、慌てて呼び名を変える辺り、まだまだ子供な片鱗もあったが、それも愛嬌である。

 だが、その姿を見てマスキュリンはさらに怒りのボルテージを上げていく。

 

「死神の分際で、家族を守るなどと……巫山戯たことを抜かしおるのだ! その思い上がりは正さねばならぬ!! なによりあのガキ共は、先日新たに注意せよと言われた朽木……朽木……なんだったか?」

「朽木白哉デスよミスター!」

「うむ! その朽木(なにがし)とかいう死神の関係者だからな! 悪の種子は一人残らず叩き潰した上で、件の死神も仕留める! これこそが最高の方法! スーパースターにとって最も相応しい方法なのだ!!」

「ヘェ! 最高デスよミスター!! 流石はミスター!!」

「そう褒めるなジェイムズ。だが無理もない。なにしろ……!!」

 

 持久戦に持ち込もうとする死神たちの一人に向けて、マスキュリンは勢いよくドロップキックを放った。

 

「この程度……!」

「ッ! ダメです、避けて!!」

「ぐ、ぐああああああぁぁぁっ!!!!」

 

 予備動作の時点で丸見えのその攻撃を、死神は斬魄刀を構えて受け流そうとする。それに気付いた鴇哉(ときや)が注意を飛ばそうとするものの、少し遅かった。

 受け流せると思ったはずの攻撃は、彼の予想を遙かに上回る破壊力を持っており、斬魄刀をへし折りながら死神を遠くへと吹き飛ばす。

 

「ニャンゾルでは攻撃を防げても倒せぬだろうからな!! 朽木(なにがし)もトサカ頭の死神も! 悪の死神どもを成敗できるはワガハイだけだ!!」

「ミスターのおっしゃる通りデス!! ささ、ならもうコイツらはパパーッと片付けちゃいましょう!!」

「ハッハッハ!! 任せておけい!!」

 

 ジェイムズの声援に、マスキュリンはさらに力を増していく。

 これこそがマスキュリンの持つ英雄(ザ・スーパースター)の能力。相方のジェイムズからの声援でパワーアップしていくのだ。

 先の一撃も声援を受けたことで、予想を超えたパワーを発揮していた。

 

鴇哉(ときや)様、これ以上はもう……どうか、お下がりください!」

「後は我々が!」

貴方々(あなたがた)に何かあれば、朽木隊長に会わせる顔がありません!」

「ダメです!! あの男、僕たちを狙っている……逃げても、追いつかれます。だから、今は必死で耐えないと……! それに僕だって、朽木家の男なんだ! 父様がいない今は、僕が母様を――皆さんを守ってみせる!!」

 

 マスキュリンの力を改めて目にした死神達は、緋真と鴇哉(ときや)をなんとか無事に逃せないかと逡巡する。

 だが、逃げられないことを悟った鴇哉(ときや)本人はこの場に残ることを宣言し、背後の緋真へ向けてそっと耳打ちする。

 

「……ごめんなさい母様。父様の言いつけを破ります」

鴇哉(ときや)……?」

「何が母だ! 何が父だ! 貴様の様なガキはとっととワガハイに成敗されるがよい!!」

 

 息子の言葉が何を意味するのか、緋真は理解できなかった。

 マスキュリンは鴇哉(ときや)の言葉にさらに怒りを露わにすると、少年目掛けて一気に駆け寄ってくる。そこへ、霊力の籠もった声が響いた。

 

「破道の三十三! 赤火砲!」

「むッ!?」

 

 放たれたのは、一抱えほどの大きさの炎の塊だった。

 鴇哉(ときや)の掌から生み出された火球は、接近しつつあったマスキュリンの顔面目掛けて放たれると見事に着弾して爆発を起こす。

 だがその爆発の中から、マスキュリンは即座に姿を現す。

 

「フン! 何をするのかと思ったが、マッチ棒にも満たぬ炎では――」

「縛道の六十一! 六杖光牢!!」

「ぬおっ!? なんだこれは!?」

 

 その行動も計算ずみだったのだろう。

 続いて鴇哉(ときや)は六本の光の帯を生み出すと、マスキュリンを取り囲むように叩き込んで見せた。

 重なり合った霊圧によって動きを封じられ、さしものマスキュリンからも驚きと戸惑いの声が上がる。

 

「なん、だと……」

「六十番台の、縛道……!?」

「まさか、霊術院にも通っていないのに!?」

「俺、アレ使えない……」

 

 驚き戸惑うのは死神たちも同じだ。

 朽木白哉の子である以上、才があるとは思っていた。教育を受けている事も――朽木家の跡取りとして死神としての教育を受けていると、白哉からではなく恋次の口からではあったが――知っていた。

 しかし、まさか鬼道をここまで使いこなすとは想定外だった。

 

「はぁ……はぁ……」

鴇哉(ときや)、あなたって子は……」

 

 死神としての稽古は斬拳走鬼の一通りを受けている。だが斬魄刀を持たず、身体の小さな少年が巨漢を相手にするには鬼道に頼るしかなかった。

 とはいえ六十番台の鬼道は、鴇哉(ときや)にはまだ早かったらしい。霊力をごっそりと持って行かれたらしく、見るからに疲弊した様子で肩で息をしている。

 その様子に緋真は、息子が父親と交わした約束を思い出す。才はあってもまだ未熟な身である以上、精々が三十番台まで。四十番台以降の鬼道は使うなと言われていたことを。

 先ほどの「約束を破る」とは、このことを表していたのだ。

 自らの身を削ってまで家族を守ろうとする姿勢に、緋真は思わず言葉を失う。

 

「ふ、ふふふふ……ふははははははっ!! この程度では、正義のスーパースターたるワガハイを止めることなど不可能だ!!」

 

 だが、身を削ることが常に実を結ぶとは限らない。

 思い切り霊圧を込めることでマスキュリンは六杖光牢の封印を力任せに破壊すると、鴇哉(ときや)に殺意の籠もった視線を向ける。

 

「だが、ワガハイの行く手をほんの少しでも遮った!! ガキ! 貴様は万死に値する!!」

「……っ! ぁ、ぁぁ……っ……!!」

鴇哉(ときや)!!」

「か、母様……!!」

 

 最大級の殺気を向けられ、鴇哉(ときや)の全身が竦み動けなくなった。それを察した緋真は、自分もまた似た様な殺意を間近で感じながらも子供を庇うべく身を挺して抱き締めてみせた。

 その行動がさらにマスキュリンの怒りを買う。

 

「フン! ならば親子ともども死ねぇぇっ!!」

「させっかよ!」

 

 青筋を浮かべながら今にも襲いかかろうとするマスキュリンを、鞭のように分かれた分厚い刃節が襲いかかった。

 今にも攻め込まんとしていたところに不意打ちを受け、攻撃しようとした勢いもあってかマスキュリンは勢いよく吹き飛ばされて六番隊の隊舎へと突っ込む。

 その一連の動作に、この場にいた者達は目を丸くする。

 

「あ、い、今のって……」

「蛇尾丸、だよな……?」

「ってことは……!!」

 

「「「「阿散井副隊長だあああああぁぁぁっっ!!」」」」

 

「悪ぃなお前ら、遅くなった」

 

 始解させた斬魄刀を肩に担ぎながら現れた恋次の姿に、死神達は歓喜の声を上げていた。

 その声援に片手で応えながら、恋次は緋真へ頭を下げる。

 

「緋真の姉さん、遅くなってすんません。それに鴇哉(ときや)、お前やっぱり朽木隊長の子供だな。俺がガキだった時にゃ、ここまでの事は出来なかった。よく頑張った。こりゃ、将来が楽しみだわ」

「……ッ!!」

「――ってのは、俺じゃなくて朽木隊長に言われてぇよな。だから俺の役目は……」

 

 身近な、それでいて強い死神でもある恋次に褒められて、鴇哉(ときや)は思わず息を呑んで目を輝かせた。

 だが恋次はその話題をさっさと切り上げ、自らが吹き飛ばした相手へと注意を向ける。その視線の先では、吹き飛ばされた衝突の勢いから立ち直ったマスキュリンの姿があった。

 

「ワガハイをこのようなことをするのは何者だ!? ……ぬ、ぬぬぬ!! 貴様はトサカの死神!!」

「お前もまあ……なんつーか、良くやるわ。六番隊(ココ)にいるってことは、ワザワザ律儀に俺のことを狙ってたってことだろ?」

 

 瓦礫の中から、予想通り元気いっぱいな様子で現れる様子に、恋次は手にした斬魄刀を力強く握り締めながら振るう。

 

「なら、俺だけを狙え!! 女子供まで狙ってんじゃねえぞっ!!」

「フン! 死神に組する以上、女子供であろうとも悪党なのだ! その悪党を討伐しようとして何が悪い!! ましてやワガハイの邪魔をするような悪党など死んで当然!!」

 

 襲いかかる蛇尾丸の刃を、マスキュリンは受け止め掴み取ろうとする。だがその直前で刃の軌道が変わった。蛇の様に身をくねらせながら、掴もうとしたその腕を深々と切り刻む。

 

「チッ、生意気な動きを! だが卍解が使えぬ死神など恐るるに足らぬ! 今度こそ、貴様を完全に仕留め、卍解を完全にワガハイの物にしてやろう!」

「卍解、ねぇ……」

 

 蛇腹剣の刃を手元へ引き戻しながら、恋次は斬魄刀の刃を指先で軽く弾いた。

 

「すまねえな、蛇尾丸。今すぐ、元に戻してやるからよ。もうちょっとだけ我慢してくれ」

「スター・イーグルキィィィック!!」

「吠えろ! 蛇尾丸!!」

 

 銃弾のような勢いの飛び膝蹴りを伸ばした刃でいなし、隙を見ては切り裂いていく。その様子は大人と子供以上の力量差が見て取れた。

 

「ぐあ……っ……!? 貴様、このスーパースターにこんな真似を……」

「卍解を奪われても、修行は出来るんだよ。霊王宮じゃ嫌ってほど徹底的に叩き込まれたぜ。斬魄刀との向き合い方やら始解の使い方やらな!! 今じゃ、テメエ程度に卍解を使った過去の俺自身が恥ずかしいぜ!!」

 

 予想外の攻撃を受けて怯むマスキュリンに向けて、恋次は始解の刃を振るい続ける。

 その動きは本人が言った通り、以前までとは明らかに違っていた。力任せに攻め込もうとするマスキュリンの攻撃を封じ込み、次々に反撃を叩き込んでいく。

 

「ふーっ……ふーっ……お、おのれ……おのれぇぇっ!!」

「ミスター!! 負けないで下さいよ、スーパースター!!」

 

 全身を切り刻まれ、血まみれで片膝をつくマスキュリンへ向けて、ジェイムズが声援を送る。

 

「ミスター! 負けないでくだサイよ! ミスター! その死神にゃ一度勝ってるじゃないデスかぁ!!」

「む、むおおお……っ……!!」

「なんだ……?」

 

 声援を受け、膝をついたマスキュリンがゆっくりと立ち上がり始めた。明らかに異常なその様子に恋次が眉を潜めるが、声援は止まらない。

 

「立って下サイよ! 負けないで下さいよ! スーパースターァァァァッッ!!」

「ぬおおおおっっ!!」

「馬鹿な……!?」

 

 声援を受けて立ち上がったマスキュリンは、全身に与えたはずの傷が治っていた。

 これもまた英雄(ザ・スーパースター)の能力によるもの。声援は活力となり、マスキュリンの傷を癒やし再び立ち上がらせるだけの力を与える。

 しかし、ジェイムズの声援はそれだけでは終わらない。

 

「頑張れ! 頑張れ! スーパースター!! 頑張れ! 負けるな!! ミスターが本気になったら誰にも負けないんデスからああぁぁっっ!!」

「ぬっ……ぬうおおおおおっ!! エナジイイイイイイみなぎるうううううううぅぅっっ!!」

 

 さらなる声援を受けたマスキュリンは、自らの姿を変えていく。

 肥大化した筋肉が身を包むスーツを突き破り、黒パンツにチャンピオンベルトを巻いただけの格好となっていた。ついでに、今まで被っていた覆面マスクの模様も憤怒の炎が燃えさかるようなデザインになっていた。

 

 ……えっと、一見するとパンツ一丁の覆面レスラーな姿なわけで、とてもじゃないけれど命を賭けたやり取りをする時には適さない格好なわけですが……

 実はコレが彼の滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)なわけで……実際、この姿になったことで戦闘能力やら能力やらは格段に上昇してるんですよ……

 コレ、ウソみたいな本当の話。

 

「応援で強化……? つまり、その小さいのを倒さねえとダメ……いや、影響を相互に与えてるって考えた方が無難だろうな」

 

 滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)となったマスキュリンを身ながらも、恋次は冷静に事態を観察していた。

 そして、彼の能力の基本は全て付き人のように振る舞っているジェイムズとなっていることを看破すると――

 

「双王蛇尾丸」

 

 卍解を発動させた。

 

「な、ななななその姿は!! お前! お前なんで卍解できるんだぁ!? お前の卍解はミスターに奪われたままのはずだ!!」

「知らねえよ。けど斬魄刀が教えてくれたんだ。卍解でお前らを倒せってな」

 

 実際にはマユリが封印を解いたタイミングと偶然にかみ合ったに過ぎない。だがそれを知らぬ彼らからすれば、恋次と斬魄刀が卍解を自力で取り戻したように見えてしまう。

 少なくともジェイムズにはそう見えていた。

 

「ミスター!! コイツは危険デスよ!! 全力で!! 全力でお願いします!!」

「フハハハハ!! 任せろジェイムズよ!! お前に言われずとも、この死神は――」

「いいから!! 全力で倒せええぇぇぇっっっ!!!!」

「ジェ、ジェイムズ……?」

「おいおい、この後に及んで仲間割れかよ……行くぜ、狒狒王。オロチ王」

 

 久方ぶりに取り戻した卍解の名を呟きながら、恋次は二人へと力を振るう。それは、戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的な戦いだった。

 恋次が二人を蹂躙する最中、マユリの「卍解を取り戻した」というアナウンスがゆっくりと流れていった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「恋次!」

「おうルキア! それに朽木隊長!!」

 

 戦いが終わり、六番隊の隊士たちの手当や状況確認を行っていた頃。こちらも戦いを終えた白哉とルキアが揃って六番隊へとやってきた。

 ルキアたちがやってきたのを確認すると、恋次は声を上げて無事なことをアピールする。

 

「見て下さいよ、この通りです。まあ、ちょっと遅れたんで、怪我人やら隊舎が壊れてたりはしてますけど……」

「そうか……いや、よくやってくれた。ところで恋次――」

 

 素早く視線を巡らせて自らの隊の様子を確認すると、少しだけバツの悪そうな様子で白哉が妻子のことを尋ねようとしたときだ。

 

「父様!」

「白哉様!」

「緋真……鴇哉(ときや)……すまない、心配を掛けたな……」

 

 隊士たちが集まって壁の様になっていた所から、緋真と鴇哉(ときや)が飛び出してきた。二人は白哉の元へと駆け寄り、白哉もまた駆け寄ってきた二人をそっと抱き留める。

 家族の無事な姿を遠巻きに見ながら、やがて六番隊の隊士たちは遠慮がちに口を挟む。

 

「隊長、できればご子息を褒めてやってくれませんか?」

「ええ……自分たちが生きてるのは、鴇哉(ときや)様のお陰です。凄かったんですよ、自分たちを鼓舞してくれて……」

「おいおい、阿散井副隊長も頑張ってくれたろ?」

「いやぁ、鴇哉(ときや)様が踏ん張って下さらなかったら、今頃俺たち死んでたって」

「それにあの鬼道! 凄かったんですから!!」

 

 なんとか助かったからか、大怪我を負いながらも笑い話のように語る死神たち。だが鬼道を使ったという言葉を聞いたとき、少しだけ表情を曇らせる。

 

「鬼道を……そうなのか、鴇哉(ときや)……?」

「でも僕、父様との約束を破って鬼道を……」

「いや、構わない。約束を守るのは確かに大事だが、それはまず人を思ってのことだ。それを勘違いしては、後悔することになるぞ……かつての私の様にな……」

「父様……?」

「いや、なんでもない。よくやったぞ鴇哉(ときや)!」

「父様!!」

 

 素直な褒め言葉と共に頭を撫でられ、鴇哉(ときや)は白哉へさらに強く抱きつく。

 それをルキアと恋次は少し離れた所から見ていた。

 

「恋次、良くやってくれた。おかげで姉様も鴇哉(ときや)も……」

「よせよルキア。あいつらが言う様に、鴇哉(ときや)がいなけりゃ間に合ってたかどうか解んねぇんだから」

 

 照れを隠す様に鼻の頭を指で掻きながら、やがて恋次は意を決した様に口を開く。

 

「けどよ……ガキってのはスゲぇんだな……いつの間にか、ビックリするほど成長してやがる……」

「そうだな……」

「なあ、もし……俺らのガキがいたら、もっとビックリさせられんかな……?」

「そうだな……な、なぬぅっ!?」

 

 自分たちの子供という予期せぬ言葉に、ルキアは慌てて恋次のことを見る。

 

「恋次、お主一体何を考えておるのだ! このような時に……!」

「ルキア、俺は本気だ。緋真さんたちの危機を何とか救えて、俺も少しは朽木隊長たちに借りを返せたっつうか、誇れるような事が出来たっていうか……とにかく! 俺は本気だ!! 俺と夫婦になってくれねえか……?」

「……っ……っっ……!!」

 

 顔を真っ赤にしながら、金魚のように口をパクパクさせながらルキアは何かを言おうとするものの、何も言葉が出ない。それでも何とか言おうと悪戦苦闘する姿を、恋次はじっくり時間を掛けて待ち続ける。

 そして――

 

「……こ、今回の件が終わったら……考える……」

「っしゃあ!!」

 

 どうにか絞り出された言葉に、恋次は力一杯ガッツポーズを決めた。

 

 

 

 ……誤算があったとすれば。この場にいた全員にこの話を聞かれていた事だ。

 

 

 

 この後、滅茶苦茶祝われた。

 

 いや、今ってわりと瀞霊廷どころか世界の危機なんで……お祝いは手短にお願いしますね……

 




●書き上げた後で
 この世界のルキアと恋次は侵影薬を使ってないような……卍解、戻ってくるのかな?
 多分、マユリ様が封印から解放したとか、そんな感じの事をしたのでしょう。マユリ様ならそのくらい余裕。
(そう思ったので、作中で急遽「何か知らんが戻った」感を付け足しています)

英雄(ザ・スーパースター)の能力
 実は本体はジェイムズなのが確定だそうですね。
 なので正確には「マスキュリン(都合の良い英雄)を生み出す能力」みたいな感じ。能力で生み出したマスキュリンの不死性が、ジェイムズにも影響してるのかな?
 (能力と本体が相互に影響してとんでもないことになった、みたいな?)

●ちょっと裏話
 本当は、朽木家の妻子と一緒に志波家(海燕さん)の妻子も一緒にいさせようかと思ってたんですけど……状況が不自然なので止めました。
 (鴇哉(ときや)氷翠(ひすい)が親を庇って、そこからなんとなく意識しちゃう子供二人とか微笑ましいなって思ったんですけどね)
 (367話で二人(二家)が揃っていたのは、その辺の下準備的な何かです)

 なので、志波家の人たちは打ち上げの準備してることになりました。
 (合流ルートの場合、岩鷲と空鶴がいるわけで。都さんも元三席の死神ですし。お子さんの活躍の場なんて作れそうにないのも理由)

 あと朽木家の子供(鴇哉(ときや))、こんなことになるのならもうちょっと成長させておけばよかったかもしれません……
 (当初の予定では死神が居合わせて守られて「僕、もっと強くなる」みたいなことを言わせるくらいの想定だった。なのでちょい甘えん坊。
 まあ、甘えん坊が追い詰められて覚悟を見せるのは、それはそれで少年漫画っぽいかもしれませんが)

(なお彼の戦闘部分、恋次が来てからはほぼ原作と変わらないので大幅省略)

●恋次の方
 家族を救うとかそんな感じのネタを仕込みたかった。
 (孤児だった恋次がルキアと知り合って、朽木家の関係者になって、白哉の妻子を救えたことで自分を本当に心から認められたとか、そんな感じのネタを)

 そして気付けば何か変なことを言ってる件。
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