お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第397話 ミラクルコマンドー外伝 すごいよ!!ジェラルドさん

 リジェを倒したので、次はジェラルドの戦線へと向かいます。

 

『あの、つかぬ事をお伺いしますが……藍俚(あいり)殿が戦っていたのってリジェ殿でしたっけ……? ゲーミング鳥っぽい感じで光輝くカカポと戦っていたような気がするのですが……』

 

 いい、射干玉……

 それは気のせい! もしくは白昼夢よ!! 医者が言うんだから間違いない!!

 

『良かったぁ、気のせいだったでござるか……! となると背後で罪深ゆるるんバードを駆除している海燕殿たちは一体……』

 

 アレは鳥を締めているだけ。

 

『今日の夕飯はフライドチキンを所望するでござる!!』

 

 勝って生き残れたら、何でも料理して(つくって)あげるわよ!!

 でもその前にまず、このジェラルドを何とかしないと……

 

「とはいえ……本当、どうしたものかしらね……」

「湯川サン!?」

 

 戦場に到着こそしたものの、六十六尺(20メートル)を超えるくらいの高さにまで巨大化していたジェラルドを前にして思わず弱音を呟いたところ、浦原が反応しました。

 彼はたしかユーグラムの相手をしていたはずですが……

 

 どうやら私がリジェと戦っている間に、ジェラルドの加勢に来たみたいですね。

 なにしろ今のユーグラムは、更木副隊長が戦っていますから。下手に横やりを入れようものならその瞬間、間違いなく敵味方関係なく斬られます。

 その証拠に、ちらりと視線を向ければ……うわぁ、すっごい戦いを繰り広げてる……

 

 まあ、それはそれ。

 今は目の前のジェラルドを相手にしないと!!

 

「遅くなりました! こっちに来る前にペルニダを! 到着してまずあっちのリジェと戦っていたので! それでようやく加勢に来たんですけど……何があったんですか!?」

「見ての通りっスよ。いやぁ、この人ってとんでもないですね。攻撃も足止めも、まるで効果がなくて……もう笑うしかありませんね! あははははっ!!」

 

 笑ってる場合じゃないってば!

 いや、笑うしかないっていう気持ちは解るけれども!!

 

「能力は報告してましたよね!? 攻撃を与えると、回復して巨大化・強化するって!」

「いやいやそれがどうも、破面(アランカル)の方々にはちゃんと伝わってなかったようでして……グリムジョーさんが攻撃しちゃいましてね」

 

 ……あちゃぁ……

 

「それでどうやら焦って、動きを封じるために日番谷サンが凍り付かせたんスよ。実際、冷気を使ったのはある程度の効果があったんスけど……」

 

 と、話をしていたところでシロちゃんとハリベルが私に気付きました。

 

「湯川……!? お前、こんな姿になるなんて話は聞いてねえぞ!!」

「湯川か!? すまない、奴を止めきれなかった……」

 

 片方は、私に文句を。もう片方は、自らの不手際を詫びてきます。

 この二人、水と冷気だから相性は良いのよね。

 どうやら戦いの最中、一旦下がっただけみたいです。

 ジェラルドの近くではウルキオラやグリムジョーが回避に専念しているのが見えます。攻めあぐねてるわね……

 

 ……というか今、巨大化した責任を責められた!?

 言いたいことだけ言って、シロちゃんは再びジェラルドへと向かっちゃうし……

 

『まあまあ、こんな巨人サイズの敵と戦う羽目になったら、思わず言いたくなるその気持ちも解らなくはないでござるよ!!』

 

 確かに!

 以前、私が戦ったときにはこのサイズになるまで殴らなかったから……今回が初のお披露目ってことね!

 

「それより奴の剣だ! アレを傷つけると、こっちも同じダメージを受ける! 気をつけろ!」

「そうなの!? ありがとうハリベル! それは知らなかったから助かったわ!

 

 ハリベルは残って、追加の注意を教えてくれました。

 

 ……反射的にお礼を言っちゃったけど……

 え、そうなの……? あの剣って、そんな能力もあったの……?

 でも以前にジェラルドと戦った時って……たしか……

 

 ……あの時は素手だったし、あの剣については私は何もやってないわね……

 つまり誰も知らない、ジェラルドの能力だから事前注意はできないわけで……

 知らないまま、強い相手の武器を破壊して少しでも戦力を削ろうとするのは当然なわけで……

 ごめんねスターク……あの丈夫な剣を必死に折ろうとしてくれたのね……ありがとうね……

 

 ……あら? でも、ちょっと待って。

 

「日番谷隊長の冷気、ある程度の効果はあったんですよね!? だったら縛道や封印・結界の術は!?」

「試しましたけど、無理でした!」

 

 浦原に尋ねたところ、あっさりとそう言われました。

 

「誤解しないで下さいね! 結構強力なのを取りそろえておいたんスよ!? けどあの人ってば『我の奇跡の前には無力』とか言いながら、力任せに突破しちゃって……!!」

 

 うわぁ……その時の様子が目に浮かぶ様だわ……

 

「でも浦原さん! 私なりのジェラルドの対処方法について教えましたよね!? 銀架城(ジルバーン)で戦った時にダメージを与えた方法! そっちはどうなってるんですか!? アレならなんとか戦えるはず――」

「あー……あれっスか……」

 

 続いてそう尋ねると、珍しくばつの悪そうな表情を見せます。

 

「すみません、無理でした!」

 

 ポリポリと軽く頬を掻いたかと思うと、浦原が珍しく素直に頭を下げ……え? ちょ、ちょっと待って!!

 ……無理、なの!?

 

「いやあの、湯川さんが以前使った戦法……回道を攻撃に転じさせるって戦い方、ですけどね……ぶっちゃけアレ、無理です!! 上手く真似したり手段に落とし込もうと思ったんスけど、どうやっても上手く行かないんですよ!!」

「ええっ……!?」

「正直に言いまして、湯川さんの経験と技術の賜物です。他の人には無理です。ひょっとしたら、零番隊の方々ならなんとかなるかもしれませんけど……」

「そこまでだったの……? え、浦原さんならなんとかできません……?」

 

 まさかの諦めのお返事でした。

 

「報告を聞いて何度か試してみたんですが、無理でした! 調整が難しすぎまして……どれだけ精密な霊圧コントロールが必要だと思ってます!? ぶっちゃけ、劣化コピーを用意するだけでも時間が掛かりすぎるんですよ! ……なので後回しにして、湯川サンに頼んだ方が確実という結論に……」

 

『(おおぅ……浦原殿が模倣すら諦めるレベルとは……藍俚(あいり)殿の技術のヤバさを思わず再確認でござる……)』

 

 そっかぁ……浦原も別の色んな対応で忙しかった物ねぇ……

 

 でもアレってそこまで難しかったの……?

 私も、ぶっつけで試して何回か失敗してようやく成功したけど……浦原ならもっと上手に真似するどころか発展させられるんじゃ……

 

藍俚(あいり)殿! 以前も似た様なことを言いましたが、もっと自信を持って下さい!! 今現在、割と一分野のトップに立っているでござるから!!』

 

 う、うん……

 

「――とまあ、現在はこの様な状況なワケだが……湯川、何か手はあるか? お前は以前コイツと戦ったと聞いた。その時と同じ手は使えるか?」

「どうかしらねぇ……」

 

 思わず手にしている刀を強く握り締めます。

 前回は回道を使って過回復でダメージは与えられましたが、果たして今もそれが効くかしら……

 案外「我が奇跡の前に同じ手は二度も通用すると思うな!」とか言ってきても不思議じゃないのよね……

 

 それに前回とは違って、今回のジェラルドはこれだけ大きくなっている。

 ということは肉体サイズの分だけ、こっちも治療度合いを調整をしなきゃならないわけで……

 となるとジェラルドも私の卍解で倒さなきゃ駄目なのかしら……?

 念のためリジェの時に発動させた卍解は継続中だけど、このジェラルドを相手にどうやって……

 

「まあ、なんとかしてみるわね」

「……すまない」

「すみませんが、お願いしますね。アタシはアタシで、なんとかヒントを探ってみますから」 

 

 二人にそう告げてから、私もジェラルドの前へと進み出ます。

 彼の前に立ち、巨体を見上げながら、旧友に出会った様な気さくな雰囲気で声を掛けてみました。

 

「久しぶりね、ジェラルド・ヴァルキリー」

「むっ、貴様はあの時の死神!!」

 

 それまで周囲の破面(アランカル)や平子隊長たちに攻撃を仕掛けていましたが、私の挨拶を聞いた瞬間にジェラルドは動きを止め、私を憎々しげに見下ろしました。

 同時に、平子隊長らもジェラルドから距離を取ります。

 ほぼ一対一の状況になったところで、片手をひらひらと振りながら懐かしい話を始めました。

 

「今回はパンツもブラジャーも被ってないみたいね。アレ似合ってたのに、止めちゃったの?」

「貴様ああああああぁぁぁぁっっ!!」

 

 あらやだ、一瞬で怒髪天だわ。まるで瞬間湯沸かし器みたい。

 

『がっつり煽っておいて、その発言はどうかと思うでござるよ……藍俚(あいり)殿ェ……』

 

 だって、戦ったときのジェラルドって言ったらアレでしょ?

 バンビエッタちゃんの下着を被ったあの奇跡(ザ・ミラクル)こそが、彼の真骨頂でしょ?

 

『確かにインパクトは強かった……って、アレってバンビエッタ殿の下着だったでござるか!?』

 

 サイズ的に間違いないわ。

 

藍俚(あいり)殿のことだからてっきり、匂いを嗅いで確かめたとか……』

 

 嗅いでないわよ!!

 

「あの下着の匂いを知っているのはジェラルドだけでしょ!!」

「は……下着……?」

「匂い……?」

「つまり下着を嗅ぐような奴だった……?」

「なんやコイツ、そないな変態やったんか……」

 

 あっ、いっけなーい。

 射干玉だけに言ったつもりが、思わず口に出しちゃってた。藍俚(あいり)ちゃんってばうっかり屋さん♪

 

「ふざけるなあああぁぁっ!! 我はそのようなことなどしてはおらぬ!!!!」

 

 私の発言を聞いて、それまで戦っていた死神と破面(アランカル)のみんなは怪訝そうな表情で――中には「コイツならやりそう」という表情をしている人もいましたけど――ジェラルドを見ます。

 そんな視線の集中砲火を受けて、目を血走らせながら私目掛けて襲いかかってきました。

 

 よし、怒らせるのには成功したわね。

 

『あ、これ作戦だったんでござるか?』

 

 兵は詭道なりって孫子もジョジョも言っているでしょ。

 単純なジェラルドを相手にするなら、コレが一番楽なのよ。前回もこんな感じで、ジェラルドから情報を引き出せたからね。

 

『奇跡ェ……』

 

「下着を被ったのは本当でしょ? ああ、ひょっとして滅却師(クインシー)の下着は飽きちゃった? なら、私の貸してあげましょうか?」

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!! 我をそこまでコケにするとは!!! 許さぬ!! 絶対に許さぬううぅぅぅっぅっ!!!!」

 

藍俚(あいり)殿の下着が借りられると聞いて!!』

 

 申し訳ありませんが、本日の受付時間は終了しました。

 

『そんな!!』

 

 ジェラルドは怒りのあまり全身に血管を浮かび上がらせながら、希望の剣(ホーフヌング)を力一杯握り締めると私目掛けて叩き付けてきました。

 まったく……受付時間はもう終了しているっていうのに……

 

『というか藍俚(あいり)殿? ひょっとしてジェラルド殿の下着の件は報告してないでござるか?』

 

 報告……する必要ってある……?

 その場合、私は隊首会の席で「敵の一人はレースの付いた黒のスケスケ下着を被りました」って言わなきゃならないのよ……!?

 

『それのどこに問題が?』

 

 ……?

 

『……?』

 

 ……えっと、話を戻すわよ。

 地面ごと抉り飛ばすような、斬撃とも剣術とも呼べない力任せの攻撃を何度も放ってきますが、そんな乱暴な攻撃に当たるほど私は弱くはありません。

 攻撃と攻撃の隙間を縫いながら接近すると、丸太よりも太くなったジェラルドの腕に自分の手を当てます。

 

「回道」

「またそれか!! バカの一つ覚えめ!!」

 

 悪い!? 私はその芸の無いバカの一つ覚えが評価されて隊長になったのよ!!

 私からそれを取ったら――

 

『おっぱいマッサージが残るでござるよ!!』

 

 素敵なフォローありがとうね射干玉! けど今は止めて!!

 

「だが効かぬ!!」

 

 回道を発動させた方の腕を振り回し、空中の私目掛けて叩き付けてきました。

 ですがこちらも、ジェラルドが反撃してくるのは解っています。なので攻撃が来るよりも一瞬早く、既に身を躱していました。

  足下の霊子を固めて足場を作り、それを思い切り蹴って離れた位置へと逃れます。

 

「……失敗、か」

「ふん! 当然だ!! 我の奇跡の前に同じ手段が二度も通じると思ったか!?」

 

 あ、大体予想通りの返事だったわ!

 

 回道を使った過回復ですが、失敗しました。

 唱えた瞬間の感覚が、前回と違ったのよね。あれじゃ、ただの弱い回道みたいなもの。効果がないどころか、反撃されて当然だわ。

 

 けど、ジェラルドは一つだけ間違ってます。

 

 今のは通用しなかったんじゃ無くて、目測を誤っただけ。

 巨体と奇跡(ザ・ミラクル)の能力で強化された身体を相手に、私が加減を間違えただけだから。

 確かに前回よりも難易度は上がっているけれど、そこを修正すれば――

 

「醜悪な死神め! 貴様の企てなど、もはや我には決して通用せぬ! 大人しく塵芥と化し、我が誇りに泥を塗ったことを永劫後悔し続けろ!!」

「……っと!」

 

 ジェラルドの剣が再び襲い掛かってきます。

 どうやら私が回道を失敗したことで、もはや恐れるような相手ではないと判断したみたいね。

 大ぶりの一撃を避けたものの、今度は少し頭を使ったようで。ジェラルドは空いた手で私を握り潰そうとしてきました。

 

「そこだ!」

「残念、もうそこじゃないわ」

 

 ですがその一撃も空を切ります。

 一瞬だけいるように見せかけてから、瞬歩(しゅんぽ)で一気に駆け抜けました。

 

「とりあえず、こんな感じでどうかしら!?」

「ぬ……!?」

 

 攻撃の切れ目が生じた隙に、卍解にて生み出された射干玉の粘液を放ちます。

 それらはジェラルドの足下付近に付着すると、そのままジワジワと広がっていきながら自信の性質をオイルのように変化させます。

 

「うおぉっ!?」

 

 足裏の抵抗が急激に無くなり、ジェラルドは見事にスッ転びました。

 その隙に再び接近すると、回道を唱えます。

 転んで動けなくなったとしても、精々が一瞬くらい。その隙に――

 

「今度こそ……」

「聞かぬと理解しておらぬのか!? それとも無駄な希望に縋るのか!? 愚か者め!! 希望とは我が背に守る民衆のためのもの!!」

 

 駄目だったわ!

 今回のは上手く行ったと思ったけど、ジェラルドの動きが予想よりも速い!! 降り注ぐ刃から逃げるのが精一杯でした。

 

「……希望、ね。なら一つ聞きたいんだけど、ペルニダがバンビーズを殺そうとしたのはどういうことなの?」

「ペルニダ? おお、そういえば! 貴様! まさかペルニダを退けたというのか!?」

 

 え? 今更なの!? 気付いてなかったの!?

 ま、まあ、いいわ……それより、尋ねたいことを聞いておきましょう。

 

「ええ、そうよ。ただその時にペルニダは敗れたバンビーズを殺そうとしたの。陛下のための糧になれ――そう言ったんだけど、アレはユーハバッハの考えって事で良いのかしら? 希望を口にしておきながら、同胞は平気で見捨てると考えて良いの?」

「バンビーズ……? ああ、彼奴らか! あれも仲間だ! なにより失敗しても陛下の力となれたのだ! 光栄のはずだ!!」

「そう……」

 

 そっかぁ……

 リルトット、どうやらそういうことだったみたいよ?

 

「つまり、そういうことでいいのね? 私の前で、役立たずは死ねってことよね?」

「何を……ぐ……っ……!?」

 

 三度接近して、今度はジェラルドの膝へ回道を唱えます。

 その瞬間、巨大な身体がグラリと大きく揺れました。

 

「こ、これは……!? これはまさか!!」

「ええ、そのまさか。ようやく調整が出来たわ。貴方が通じないと散々口にしていた"過回復の攻撃"よ」

 

 既にまともに立っていられなくなり、両手両膝を地面に着けてなんとか身を起こしている状態です。

 膝からはドクドクと噴水の様に血が溢れ出て、あっという間に真っ赤な池が出来ていきます。

 明らかな大怪我――ですが奇跡(ザ・ミラクル)が発動する気配は微塵もなく、ジェラルドも様子も目に見えて焦っています。

 

「正義も希望も奇跡も、まとめて立っていられなくなったみたいだけど……今の気持ちはどんな気分かしら? そんな状態で民衆を守れるの?」

「おのれ、おのれ死神ぃぃっ!! この程度で……この程度のことでえぇぇぇっ!!」

 

 その一言がよほど癇に障ったのか、傷ついた膝で強引に立ち上がろうとします。

 ですが膝に力が入らず、ジェラルドは再び地面に――今度は先ほどよりもずっと無様な格好で倒れました。

 とはいえ、そうやって倒れ込みながらも、私目掛けて巨体で押し潰そうとしてくる辺り、その精神だけは少しだけ認めます。

 

「神の……神の戦士たる我が……! 最強の滅却師(クインシー)である我が、このような屈辱を……おのれえええええぇぇぇっっ!!」

「はぁ……はぁ……」

 

 悔しそうに吠えるジェラルドですが……

 実は、私も結構ギリギリ。いっぱいいっぱいだったりします。

 

 さすがに言うだけのことはあって、ジェラルドの一部分を破壊するだけでも相当な量の霊圧を消費しました。

 倒れ込み攻撃を躱して距離を取り、なんとか平静を装って呼吸を整えていますが……

 このまま相手を倒せるだけの回道を使えるかしら……?

 

「いやぁ、流石っスねぇ」

 

 そう思っていたところ、いつの間にか浦原が隣に居ました。

 斬魄刀の紅姫を手にしたまま、私に声を掛けてきます。

 

「他に何か手段は無いものか? どうやったら倒せるのか、観察していたんスけど……正直、驚きました。脱帽です」

 

『その割には浦原殿、帽子を被ったままでござるが……』

 

 いや、文字通りの意味じゃないから。

 

「ところで湯川さん……その回道、まだ使えます? 倒せそうですか?」

「……使えるけれど、倒せるかどうかは……」

「それじゃ、あとはアタシがサポートしますんで!」

 

 耳打ちの言葉に小声で返します。

 

「サポート……?」

「ええ、そっスよ。卍解、観音開紅姫改メ(かんのんびらきべにひめあらため)

 

 卍解!?

 そういえば、どういう能力なのか知らないわね……

 

 驚いている間に卍解は発動します。

 浦原の背後に女性型の人形が現れました。それはまるで巨大な絡繰り人形……あるいは女神像といったところでしょうか?

 死神の数倍はある巨大な絡繰り人形は瞳を伏せながら、まるで浦原をその腕の中で守るように付き従っています。

 

 これが……浦原喜助の卍解……

 

『美人のお姉さんを呼ぶ卍解……ひょっとして羨ましいでござるか?』

 

 なんの! こっちもヌルヌルの粘液を呼ぶ卍解よ! 負けてないってば!

 むしろニッチ度でこっちの勝ちまであるわよ!!

 

『さっすが藍俚(あいり)殿!! どこまでもニッチ向け!!』

 

「説明は後でしますんで、湯川さんはアイツに回道を唱えて貰えますか? 弱くて良いんで」

「ええ、解ったわ」

 

 説明、して欲しかったんだけどなぁ……

 けどこの状況だし、仕方ないわよね!!

 私はジェラルドに接近すると、浦原の注文通り過回復の回道を発動します。

 

「それじゃあ、息を合わせましょうか紅姫」

 

 するとこっちの動きに合わせるように浦原も動きました。

 背後の巨大な女性人形だけは動かないまま、けれども浦原の動きに合わせる様に両手を巧みに動かします。

 あら? この指の動き……私、すっごく見覚えがあるわね……

 

「なんなのだ! なんなのだこれはぁぁっ!?!?」

 

 回道を唱えた部分をなぞるように、ジェラルドの身体の一部がぱっくりと開きました。

 まるで手術用の刃(メス)を入れて切り開いたかのようです。

 けれど開いたそこからは血の一滴すら流れることはなく、それどころかすぐに糸で縫合されていきました。

 

 ……なるほど、あの指に見覚えがあるのは当然よね。

 なにしろ手術の時の縫合の動きなんだもの。

 

「成功っスね。次、どんどん行きましょう!」

「何をする! やめろ、やめろぉぉぉっ!!」

 

 立ち上がれぬままでも、無事な手足を振り回して私たちを追い払おうとしてきます。ですがジェラルドの動きにはキレがありません。

 私たちはそれらをあっさりと躱しながら、回道を唱え、身体を開いていきます。

 ジェラルドの肉体は瞬く間に、手術跡のような縫い目が無数に刻まれていきました。

 

「こんなところですかね」

「はぁ……いい加減、教えてくれないかしら……? 何をしたの……?」

 

 縫い目が全身に刻まれたところで、私たちはやっと動きを止めます。

 弱めとはいえ、あれだけ広範囲に回道を唱えればやはり消耗は大きくて……

 私は荒い呼吸を隠そうともしないまま尋ねます。

 

「観音開紅姫改メの能力ですけどね。触れたものを造り変える能力なんスよ」

「な……っ!?」

 

 あらら、これまた……

 ……なんていうか、射干玉にちょっと似てるわね。

 

「つまりその能力で、ジェラルドの肉体を造り変えた……?」

 

 じゃあ、私が回道を使った意味は?

 それ以前に、そんな能力があるのならもっと早く倒せたわよね……?

 

「そうなんスけどね。とはいえ無条件に何でもかんでも造り変える、ってわけにはいかなくてですね」

 

 浮かんだ疑問に対して、まるで心を読んだかのように浦原は答えてくれました。

 

「特に拒絶する相手を造り変えるのには、時間も手間も凄く掛かるんスよ。ましてやジェラルドさんの場合、アタシの造り変えもダメージと見なしかねない……なので湯川さんの回道の助けが必要だったわけです」

「私が……?」

「要は相乗りっスね。異変を異変と認識できないほどの微細かつ精緻な霊圧コントロール。それに乗っかることで、紅姫の造り変える能力も同じように察知されなくする――気付かないのなら抵抗もされないわけで、造り変えるのも簡単でした」

 

 ああ、なるほど。

 私が道を作って、その道を浦原の能力が通ったワケか……

 だから「息を合わせて」とか言ったのね。

 

「ところで、どんな風に造り変えたのかしら?」

「それは勿論、ダメージをダメージと認識できない様にですよ。その証拠に、ホラ――」

 

 そこまで口にすると、浦原の姿が消えました。

 瞬歩(しゅんぽ)でジェラルドまで接近すると、造り変えた証拠とばかり斬魄刀で身体の一部を深々と切り飛ばします。

 

「うおおおおおおおっっっ!! 馬鹿な、馬鹿な……!!」

「ね?」

「奇跡が……我が肉体が……神の力が……発動しないだとぉぉっ!? 死神風情に、こんな馬鹿なことがあぁぁっっ!!」

 

 斬られた部分から血が流れますが、奇跡(ザ・ミラクル)の能力は発動することはありませんでした。

 私の過回道を下地(ベース)にしたのなら、痛みどころか触れられたという認識すら皆無のはず。現に、さっきのジェラルドは「斬られたことを視覚情報で認識」してから悲鳴を上げていたもの。

 

 ……どうやら、本当に、完全に、造り変えちゃったみたいね。

 

 本当に、頼もしい……ことで……

 

「はぁ……でも、これ、なら……」

 

 そこまで確認し終えると、全身からどっと力が抜けていきました。

 おもわず数歩ほど蹈鞴(たたら)を踏み、倒れ込みそうになる脚を踏ん張って倒れ込みそうになる身体を必死に支えます。

 

「~~ッ!?」

「おっとと、大丈夫っスか湯川サン? アタシもですけど、大分お疲れみたいですね。でも、もう休んでも平気っスよ。だって、ほら」

 

 手にした斬魄刀で、ジェラルドを指し示します。

 そこには、ようやくマトモに戦えるようになったことで、これまでの鬱憤を晴らそうとでもいうのか。嬉々として襲いかかるグリムジョーらの姿がありました。

 

「あの人たち、元気もやる気も有り余ってますからね」

 

 いえ、勿論ジェラルドは未だ健在です。

 手を足を振るって、群がる破面(アランカル)や死神を叩き潰そうと試みてはいるんですが、やはり動きが鈍くて……彼らには通じていません。

 これなら、大丈夫でしょうね。

 

「けど、あの人はまだどんな奥の手を持っているか、解ったモンじゃありません。なので適当なところで封印しときますよ」

 

 浦原もジェラルドへと向かいます。

 それと入れ違う様に、ハリベルがやってきました。

 

「大丈夫か湯川?」

「ハリベル……? ジェラルドの相手は……?」

「あの状態だ。私一人がいなくとも、問題はないだろう。それに万が一にも復活された時、お前に倒れられていては困るからな」

「そっか、優しいのね……気遣ってくれたんだ……」

「な……ッ!!」

 

 そう告げると、ハリベルの顔が目に見えて真っ赤になりました。

 慌てて否定の言葉を口にしようとしますが、それよりも先に私はハリベルへもたれかかります。

 

「でもお言葉に甘えちゃう……ちょっと、肩を貸して……」

「……今だけだぞ」

 

 お許しが出たので、思う存分ぎゅってしなきゃ!!

 

 

 

 ……あ、すっごい……ハリベルから良い匂いがする……

 

 柔らかくて、こうしているだけで安心する……

 

 もうユーハバッハとかどうでもいい……

 

 私、死神とか戦いとか止めて、ここに住む……

 

 まあ、バンビエッタちゃんが泣くから、忘れたりはしないけどね。

 ……そっか! 一緒に住めば良いんだ!!

 

 

 

「神の戦士が! 神の戦士が!! 我が魂が、このようなところで潰えるだと!? そのようなことは……ありえぬ! ありえぬぅぅぅっ!!」

 

 ……うるさいわねぇ。

 今私はこの瞬間を力一杯堪能してるんだから邪魔しないで。

 

藍俚(あいり)殿!? お気持ちは解りますが!!』

 

 全身をズタボロにされて、肉体的にも精神的にも完全に追い詰められたんでしょうね。

 ジェラルドは救いを求めるように両手を天へと掲げます。

 その姿は、英雄だ奇跡だ希望だと口にしていた頃とは真逆の――助けを求める無力な民衆のものでした。

 

「陛下……陛下ぁっ!! お力を……御助力を!! 我が……我がこのような……このようなことになるなど……何故だ……何故だあああぁぁっ!!」

 

 よかったじゃない。

 これで貴方もユーハバッハの糧になれるわよ? 本望なんでしょ?

 

「奇跡よ!! 起これ! 起これぇぇっ!! なぜ起きぬぅっ!? 我は神の戦士!! それが、このようなチンケな小細工に!! 我は……我は! 湯川藍俚(あいり)いいいっぃぃっ!! 貴様さえいなければ! このような些事に囚われることなどおおぉっっ!!」

 

 神に見放されたからって、今度は責任転嫁かしら?

 ジェラルドは地べたを這いずりながら、私目掛けて手を伸ばします。

 当然、迎撃しようとハリベルが斬魄刀を構えますが――

 

「がふぁぁぁっっ!?!?」

 

 その手が届くよりも早く、ジェラルドは大量の血を吐き出しました。

 同時に胸元――心臓の部分が一際傷ついています。

 例えるなら、内側から破壊されたように。

 

「強引に奇跡(ザ・ミラクル)の能力を使おうとした結果、かしらね……?」

「能力の暴発……とでもいうのか?」

 

 ハリベルに尋ねられましたが、正直解らないです。

 だってこんなの専門外すぎるんだもの!!

 

 ……まあ、要因の一つは容易に想像が付くんだけどね。

 

『ほえ?』

 

 手の中の刀を見つめながら、思います。

 未だ卍解を発動させているので、ジェラルドの奇跡が射干玉と悪い意味でかみ合っちゃったんでしょうね……

 前回に引き続いて。

 

「が……が……は……がぁ……死……死な……なぜ……? あしゅ、とにぐ……」

 

 うわぁ……明らかに致命傷を通り過ぎてるはずなのに……

 アレでまだ生きているなんて……

 すごいわね……ジェラルドって……

 

 とにかく、これで終わりかしらね。

 浦原が封印術の用意をしているし、もうこれ以上は私の出番もないでしょう。

 

 

 

 ……え? 更木副隊長の加勢に行かないのか?

 今は無理……私、どれだけ疲弊していると思ってるのよ! 回復を優先させてよ!! ハリベルに抱きついていさせてよ!!

  

 あと、アレに首を突っ込むのは絶対に無理……

 アレに割り込むくらいなら、私は傍観者でいるわ……

 




●どうでもいいご報告
 今話が、通算で400話目でした。
 キリ番ゲットしちゃうジェラルドさんはミラクルです。
 (400……? え、まだ終わらないの……??)

●ジェラルドさん
 原作でもまともに倒せなかった人。
 (卍解した剣ちゃんが良いところまで行ったんですけどね。縦に真っ二つにされて復活するとか……霊王の心臓って頭おかしいよ……)
 どうやら滅却十字(クインシー・クロス)がコア部分っぽいので、それを破壊できれば倒せたらしいです。
 (ただ、師匠の言い回しから「破壊できるものならやってみろ」レベルな模様)

●神の権能(アシュトニグ)
 彼の「肉体はこの世の元素に囚われなくなる」発言はどう考えるべきなんでしょうか?
 (シロちゃんと白哉の連携で「ガチガチに凍り付いて、千本桜で頭を破壊された」辺り、傷つく度に耐性を得ていくとか、そんな感じなんでしょうかね? ただの強がりって可能性もありますが)
 
 倒し方が分からないのなら、理不尽を押し付けて使えない状態にするしかない……
 (親衛隊はどいつもコイツもホント……そんなんだからタイトルでボケちゃうんだぞ)

●浦原の卍解はジェラルドに通じるか?
 造り変える能力も、無条件に無制限の変更は不可能っぽい描写があった。
 (アスキンの毒耐性を下げて自滅させる、などをしなかった)
 加えて、ジェラルドが「造り変える=ダメージと判断⇒無効化・強化・巨大化」みたいなことをやりそうだったので、一手間加えました。
 完全無抵抗状態なので、あっという間に造り変えられた。

 藍俚と浦原の協力で執刀と縫合。手術っぽいイメージ。

●(タイトルの)次回予告
 次、ユーグラムなのですが。
 タイトルを上手くボケられませんでした。

 困ってChatGPTに「BLEACHの二次創作でユーグラムと戦う。タイトルが(前話と今話のアレ)だけど、良いタイトルは?」みたいなプロンプトで出力させたところ

①バランスブレイカー外伝 割と不幸なユーグラムさん
②神赦親衛隊編 天秤は突然に
③聖別カウントダウン ユーグラム最後の調整
④バランス オブ デストラクション 均衡は投げ捨てるもの
⑤神赦親衛隊決戦録 副団長は今日も冷静
⑥ザ・バランス外伝 不幸の総量保存の法則
⑦金髪副団長と愉快な不運たち
⑧ハッシュヴァルト無双? いや均衡ですから
⑨天秤が傾くとき、だいたい面倒なことが起きる

 という案を出してくれました。
 (悪くは無いけど、微妙にノリが違う感じ。
 ④は少し惜しい。「均衡を窓から投げ捨てろ!」みたいな方向性なら……
 ⑥や⑨辺りは、副団長の不幸日記みたいなのが作れそう)
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