お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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色々あって、本日は30分ごとに計3話更新しています。
これはその2話目です。ご注意ください。



第402話 諸法墨染

 (ホロウ)化して刀剣解放(レスレクシオン)した状態で、卍解を発動させる!

 私が使える強化能力をてんこ盛り全部乗せの最強形態!!

 名付けて!!

 

『おおっ! 名付けて!?』

 

 その名も!!

 

『その名も!?』

 

 …………えっと…………

 

『わくわく……どきどき……(あ、これもしかして……)』

 

 な、名前は特に決めてないの。

 

藍俚(あいり)殿ぉ!? ここまで引っ張っておいて、それはないでござるよ!? 前回! 前回のラストであれだけ……!!』

 

 し、仕方ないでしょ!! 

 

 使えるようになったのは随分と昔だけど、でもまさか使う場面があるとは思ってもなかったんだもん!!

 基本的には卍解か刀剣解放(レスレクシオン)までで片が付くんだもん!!

 ユーハバッハみたいな化け物が、ここまで化け物になるなんて思わなかったんだもん!!

 

 総隊長と更木剣八と黒崎一護がいれば、必要ないって思ってたんだもん!!!!

 

 ……ふう。

 さて、それじゃあ今回のトッピング全部乗せ変身について説明しますね。

 

『ラーメン屋さんのメニューみたいな呼び方になってるでござるよ……(けどまあ、一護殿が74巻で変身した半虚化状態? も正式な呼び名は無かったような気がするので……原作と痛み分けですな)』

 

 そもそもこれって、力と力の相性の悪さから、本来ならば不可能な手段なの。

 (ホロウ)化をすれば卍解は出来ず、卍解を使えば(ホロウ)化は出来ない。ただの死神では、到達できないはずの技術のはず……なんだけど……

 どうも、一護は出来てるみたいだけどね。

 

『一護殿は生まれからして、超特別でござるからな!』

 

 まあ、一護は例外ってことで。

 私の場合は……主に射干玉のおかげ、かしらね。

 あと、(ホロウ)化できるようになってから時間が長く経って慣れた。もしくは崩玉を使わずに(ホロウ)化している、異質で奇妙な存在だから。

 多分、きっと、おそらくそんな感じ……だと思う……

 

『ふわふわぁ~っ~とした理由でござるなぁ』

 

 だって解らないんだもん! 出来るようになったんだからいいでしょ!!

 ほら、見てよこの姿!!

 

 刀剣解放(レスレクシオン)と卍解を同時発動したおかげで、姿がまた変わったの。

 これでは刀剣解放(レスレクシオン)で狐とか狼みたいな獣っぽい仮面を被っていたけれど、今回は完全に仮面が消えて素顔が露わになってるわ。

 頭部には角が生えてて、その角がケモミミっぽい感じになってて、刀剣解放(レスレクシオン)の時から生えていた尻尾はそのまま。身体の各所には毛皮も生えてるから、ますます獣っぽさ――っていうか、獣人っぽい感じが出てるのよ。

 

 一言でいうと「あざといくらいの女性獣人っぽい姿」って感じになんだけどね……

 

藍俚(あいり)殿は今の姿はお嫌いでござるか?』

 

 そんなことはない。これは断言するわよ。強くなってるし。

 

『お、おう……』

 

 ただ、これで戦うっていうのがちょっとね……引っかかるっていうか……

 あと卯ノ花隊長とかは今の姿を知ってて、試し斬り合いに付き合わされたから、そういったトラウマがちょっとだけ……

 

『お、おう……』

 

 それと、変身したときにちょっと人型の範疇から逸脱する関係上、死覇装がアチコチ破れちゃうのも困りものよね……

 

『それはつまり、お色気要因だと自ら認めたということでは!?』

 

 え、私ってば自分で自分の首を絞めてた……?

 え、フラグ……?

 

 …………。

 

『…………(わくわく!)』

 

 期待した目で見ないの!

 あーもう、説明はこれまで! 終わり!!

 ユーハバッハ戦に戻るわよ! ちゃんと着いて来て!!

 

 

 

 

 

「更木剣八よりも強い?」

「嘘だと、思うかしら?」

 

 卍解した更木剣八より強いというのはブラフ、ハッタリですが。敢えてゆっくりとした口調と強調するような言い回しを心がけて、さも真実のように演じながら。

 私は見せつけるように片手を軽く掲げます。

 掲げた手の平からは、黒い粘液がじわじわと湧き上がって来るのが見えます。

 

 その粘液こそ、卍解によって呼び出された射干玉の本体。

 不定形にして有形。有機物にして無機物。概念にして事実。ありとあらゆる事柄に作用して有り様を変える摩訶不思議な粘液。

 

 溢れ出る粘液は手の平から滑るように零れ落ちると足下まで糸を引いて滴り、続けて地面の上をゆっくりと広がっていきます。それでも粘液は止まらず、手首から肘へ。ついには私の身体の上を這って伝わり、太ももから足を通って先に落ちていた粘液と混ざりあいます。

 じわじわと黒い領域を広げていく粘液にユーハバッハは意識を向け、一護はむしろ私の姿を凝視していました。

 

「湯川さん、アンタ……その姿……どうやって……」

「別に大したことじゃない。鍛え上げる時間さえあれば、誰だってこのくらいのことは出来るわよ。それよりも……いいの、ユーハバッハ?」

 

 驚愕する一護に曖昧な言葉と笑みでお茶を濁しながら、再びユーハバッハへ言葉を投げかけます。

 同時に粘液の中から刀を生み出し、見せつけるようにゆっくりと手に取れば、少しだけ機嫌悪そうな呻き声を上げました。

 

「それは……!」

「ええ、そうよ。貴方が前回来たときに折った刀。卍解した斬魄刀じゃなくて、ただの刀」

 

 ギリッと歯噛みする音が聞こえました。

 どうやら前回やった例のねえねえ、どんな、気持ち(N・D・K)は相当頭にきてるみたい。

 ならばと、さらに数本の刀を纏めて生み出して、より私に意識を向けさせます。

 

「ふふ、苦い思い出があるものね。私に注目したくなるその気持ちも解るわ。でもね、もう一度聞くけど、良いの? 私以外にも気を配るべき相手がいるんじゃない?」

「う……うぅ……」

「お、のれぇ……」

 

 消えそうな程に小さな呻き声が聞こえて、ユーハバッハは私へ向けていた意識を僅かに逸らしました。

 声の主は総隊長と雀部副隊長です。

 もしもユーハバッハが声のした方へ視線を向けていたら、卍解の粘液で傷が癒えていく二人を見ていたことでしょうね――尤も、その瞬間に私と一護が不意打ちをしていたでしょうけど。

 けど残念なことにも、ユーハバッハは気にも留めませんでした。油断なく私を見つめるその姿に軽く肩を竦めながら、射干玉の粘液をさらに操ります。

 死なない程度まで治療を施してから、二人を粘液で運んで私たちから距離を取らせ、ついでに巻き込まれない様に防護壁で囲んでおきます。

 

「山本重國らを退場させるか」

「治療をしたいところなんだけど、ちょっとね……でも、もし気になるのなら、今からでも追撃しても良いのよ? 卍解を奪い取る技術を作るくらい、総隊長たちのことが怖かったんでしょう?」

「まさか。部下の死神からも見放されるとは、千年前とは随分と趣が変わったと思っただけのこと。なにより今更卍解程度を恐れるはずもない」

 

 あ、誤解しないで欲しいんだけど。卍解も復元して、霊圧も補充して、二人ともまた戦えるように完全復活させることだって勿論出来るわよ。

 でもそれをやると私も消耗が激しいし、なにより一護が特別な状態になってるんだもの。

 なら一護(そっち)に任せた方が確率は高いはず。

 

「どのみち、貴様ら二人の相手を終えた後で相手をすることには変わらぬ」

「二人じゃねえよ!!」

 

 来たわね!

 絶好のタイミングで話に割って入ってきた剣八は、その勢いのまま目にも映らない速度でユーハバッハに斬りつけます。

 既に卍解を済ませており、鬼のようなその姿で巨大な斬魄刀を振り回しています。

 ついでにいえば、先ほどユーハバッハから受けた傷もすっかり癒えていて……いえ、もっと元気いっぱいですね。今まで私が目にした中で、最も霊力に満ちあふれています。

 見ている私ですら、思わず霊圧で押し潰されそうなほどに。

 

 この霊圧の高さ……剣八本人や卍解で上昇した分に加えて、おそらく卯ノ花隊長が霊圧を限界まで注ぎ込んでいるみたいね。

 治療をして、さらには残った力も全て託した。だからきっと、今この場に卯ノ花隊長はいないんでしょう。

 もしも元気なら、総隊長のようにユーハバッハへの攻撃に加わっていたはずですから。

 

 更木剣八は卍解(やちる)卯ノ花隊長(やちる)――二人の女性から加護を受けて刃を振るいます。

 ええ、断言します。今の剣八は、私が今まで見てきた中で最も強い。

 今の彼なら、藍染惣右介ですら易々と倒せても不思議では無いほどに。

 

「おい藍俚(あいり)! その姿も久しぶりじゃねえか!!」

 

 そしてどうやら剣八も私と似たようなことを思ったのか、ユーハバッハに向けて攻撃を続けつつも、こちらに向けて叫んできました。

 

「しかもどうやら前に見たときよりも強くなってるみてぇだな!! 嬉しいぜ!!」

「ええ、更木副隊長も一段と強くなったみたいで。心強いです」

「まあな。今すぐにでもお前とも斬り合いを楽しみてぇところだが――」

 

 叩き付けた斬魄刀が、ユーハバッハの持つ霊圧の剣を弾き飛ばしました。ですがユーハバッハもまた、剣八の身体に斬撃を叩き込んでいます。

 

「優先すんのはコイツだ」

「ほう」

 

 切り裂かれた傷口を一瞥すらせずに、剣八ははっきりと告げました。

 断言するその言葉に、ユーバッハは嬉々として口の端を歪めます。

 

「湯川さんも……剣八も……スゲぇな……」

 

 一護も剣八と似たようなことを感じたようで、米神(こめかみ)に生えた白い角が僅かに震わせながら呟きました。

 これは恐怖というより、憧憬や強い相手への敬意ですね。手にした斬魄刀を、さらに強く握り締めているのが何よりの証拠です。

 

「負けねぇ! 俺だって、負けてられねぇんだ!!」

 

 滾る闘志を燃やしながら、一護もまたユーハバッハ目掛けて切り込みました。

 ユーハバッハは弾き飛ばされた剣の代わりを既に生成しており、手にした剣でその突撃を優々と迎え撃とうとします。

 

「一護! 邪魔すんな!!」

「剣八!?」

 

 剣八が二人の間に割って入りました。

 見ようによっては一護を庇ったようにも見えますが、実際は違うんでしょうね。ユーハバッハと一対一で斬り合いをしたいという欲求が勝ったんでしょうね。

 一護もそんなことは理解しているのでしょうが、彼もまた言葉を止めません。

 

「わかってんだろ! コイツは、ユーハバッハはとんでもなく強えんだ! だから――」

「ああ、わかってる! だから俺に斬らせろ!」

「諍いか? 私を前にして随分と余裕だな」

 

 言い争いをしつつも、二人は即席のコンビネーションで攻め込みます。

 どちらの斬撃も凄まじい破壊力を持っているものの、けどユーハバッハはそれを軽々と受け流します。

 それどころか、二人の不格好な連携の隙を一瞬で見抜き、反撃を仕掛けようとしました。

 

「そこっ!」

「む!?」

 

 反撃に転じようとするその一瞬を狙い、私は挑発目的で作った刀を数本纏めて投げつけました。出鼻を挫くその投擲攻撃に、ユーハバッハも僅かに足を止めます。

 

 ……止まったわね!

 

五百津(いほつ)速雨(はやさめ)

 

 本来ならば射干玉の粘液から無数の矢を造り出し、雨のように降らせて相手を攻撃する技なのですが。今回は少しだけ趣を変えて、矢ではなく無数の刀へと変えています。

 原材料となる粘液は、今の私ならば瞬時かつ大量に呼び出せますし。さっきからずっと粘液は垂れ流して、せっせと仕込んでいるからね。

 既に周囲は射干玉の領域(テリトリー)。このくらいのことは可能なのよ。

 

「うぉっ!」

藍俚(あいり)! お前もか!!」

 

 豪雨のように降り注ぐ刀を前に、けれどもユーハバッハは少しだけ渋面を覗かせながらも、その全て手にした剣で打ち払いました。

 それから、狙っていませんが意表を突かれたのでしょう。

 二人は僅かに身じろいで刀を避けようとする動きを見せ、剣八はついでとばかりに私に文句を言ってきます。

 

「あら、駄目だったの? てっきり割って入って良い物だとばっかり……まさか更木剣八ともあろう者が隙を見せるなんて思わなかったから……」

「……あ?」

 

 一本だけ残しておいた刀で、ユーハバッハ目掛けて自ら斬りかかります。瞬歩(しゅんぽ)を使って、相手とのすれ違い様に斬りつける居合いの一撃。

 五百津(いほつ)速雨(はやさめ)で生み出した刀を捌いている隙を狙って攻撃したんだけど、ユーハバッハは驚きこそすれど何とか対応に成功しました。

 攻撃は受け止められ、それどころか刀は半ばから切断されます。

 役に立たなくなった刀を捨てながら、私はさらに口にしました。

 

「一人で斬り合いを愉しみたいのなら、割って入るような隙を見せたそっちの落ち度じゃないかしら? 卯ノ花隊長なら、その程度の事は言うと思うけど?」

「……くはははっっ!! 確かにそりゃ、俺の落ち度だ!!」

 

 剣八はニヤリと笑みを浮かべ、笑いながら納得してくれました。

 半分喧嘩を売ったようなものですが、これで剣八も快く共闘してくれるわね。

 

「理解できねぇ……けど、戦って良いんだよな!?」

 

 一護だけは、ちょっと理解が追いついていないようですが。

 それでも私たちのやり取りを何とか飲み込むと、ユーハバッハ目掛けて再度攻撃を仕掛けます。

 剣八は既にユーハバッハ目掛けて攻撃を仕掛けており、一護はそれに追従するような形です。ですがその動きは、先ほどの即席コンビネーションよりもずっと洗練されていました。

 

「共闘か、特記戦力として数えた更木剣八が」

「知らねえな! 俺はただ俺の斬り合いを愉しんでるだけだ!」

「この力、トゥミューが敗れるわけだ。斬り合いを愉しむ余裕があるのも当然か」

 

 そう言いつつも、一撃でビル一つは粉々にできそうなほどの剣八の斬撃を、ユーハバッハは受け止め、受け流していきます。

 

「だが貴様はあっても一護はどうかな?」

「くぅ……っ……!」

 

 水を向けられ、僅かに呻き声をあげます。

 二人の攻防に対して一護は遅れ気味でした。勿論その攻撃速度も威力も並大抵ではありませんが、二人を相手にするには不足のようです。

 二振りの斬魄刀を操り、手数で上回りながらも一瞬の隙を突かれて身体を切り裂かれました。

 

「まだ、だっ!」

「それがどうしたよっ!」

 

 斬撃を受けて僅かに怯みながらも、その傷を押して一護はさらに反撃に出ました。

 剣八は、ユーハバッハが一護へ向けてさらに攻撃を行おうとした瞬間を狙い、力強く踏み込みながら大振りの一撃を放ちます。

 

「無駄だ」

 

 二人の攻撃に対してユーハバッハは焦るどころか、むしろ余裕を見せてきました。

 空いていた手にもう一振りの剣を生み出すと、二人目掛けて素早く振るいます。ですがその一撃は、本来ならば到底当たるはずのない攻撃です。

 

「ぐっ……!」

「……ちっ……」

「……?」

 

 まるで無造作に剣を振っただけにしか見えない攻撃でしたが、不思議なことに一護は身体を斬り裂かれて攻めの手が緩みました。

 剣八もまた斬られはしたものの、一護と比べれば傷はずっと浅く、舌打ちしながらも攻撃の手は一切緩みません。

 

 けど一番不可解なのはユーハバッハの反応ね。

 あの程度の攻撃なら今の一護は勿論、私だって阿散井君やルキアさんすら避けられます。なのにどういうわけか二人は怪我をしている。

 なのにユーハバッハはこの結果に納得していない。

 

 さて、このことから考えられるのは……いえ、考えている余裕はないわね!

 

(あかつき)玉響(たまゆら)

「ぐ……ぅっ……っ……!」

 

 ユーハバッハが追撃に動くであろうとことを見越して、再び私は動きます。

 射干玉の粘液を今度は膨大な熱へと変換します。それも光を発せず、指向性を持った熱へと。目視するのが困難ながら、指向性があるので目標以外には殆ど影響を及ぼさないという一撃を、ユーハバッハはまともに受けました。

 身体を焼き尽くさんほどの熱は彼の纏う黒い霊圧すらも焦がし、口からは苦悶の声が上がります。

 

「今だ!」

「おおおおぉぉっっ!!」

 

 焼けたユーハバッハを、二人の斬魄刀が襲いかかります。けれどその結果は、先ほどの焼き直しのようでした。

 再びユーハバッハが剣を振るえば、一護と剣八が傷を受けました。怪我の度合いも、一護の方が深手なのも同じです。

 

「おのれ……」

 

 一護と剣八を退けると、私にだけ憎悪の感情を向けてきました。

 ですが攻撃を仕掛けるでもなく、ユーハバッハが行ったのは回復でした。油断なく私を睨み、剣八にも気配を向けているものの、動くことはありません。

 なら、今のうちのこっちは一護の治療を――

 

「良いのか?」

 

 ユーハバッハの言葉と共に、周囲に突然無数の神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)が生み出されました。

 それらの矢は全て、至近距離から私を狙って――狙いは少々外れていましたが――放たれます。

 

「くっ……!?」

「……!?」

 

 一護の治療を行おうとしていたので、少しだけ意識を逸らしていたのが災いしました。

 狙いが甘かったのもあって直撃こそしませんでしたが、神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)の攻撃は私の身体を浅く削っていきます。

 どうやらユーハバッハは、この結果にまたしても納得していないようですが。

 

「隙だぜ!!」

 

 ですがユーハバッハが動けば、それに反応して剣八もまた動きます。

 巨大な斬魄刀を振りかぶり、けれども何故か見当違いの場所で振り下ろしました。斬魄刀が空を切り裂き、剣八の身体が浅く切り裂かれます。

 ユーハバッハは再度、渋い顔を見せました。

 

 何故……?

 私の時もそうだけど、納得が行っていない……?

 

 ……全知全能(ジ・オールマイティ)……未来を見る能力……

 未来を見られるのなら、対処は可能なはず……

 現に一護も剣八も、そうやって逆手に取られて……

 

 いえ、ちょっと違うわね。剣八の方が被害が少ない。

 ユーハバッハの動きと結果にズレがあるのも気になる……

 

 それ以上に気になるのが、熱で焼かれた身体の治療。

 あれはなんて言うか、治療というよりも傷を否定しているような……

 

 ……ああ、そっかぁ……なんとなく解った……!

 

「……未来を見て、未来に干渉している……?」

「これだけ時間を掛ければ、流石に気付くか……」

「未来に干渉、だって……!?」

「なんだそりゃ!?」

 

 忌々しいと言外に吐き捨てつつも、私の呟きにユーハバッハは肯定の意思を見せました。

 私の言葉に一護は思い当たるフシがあったような反応を返し、剣八は……よく解らないとばかりの反応です。

 

「今までの結果を見れば、気付くなって方が無理でしょう? 現在の行動に対して、未来を自由に決定できる。でも干渉には個人差がある――そんなところかしらね」

 

 あえて"個人差"という表現を使ったんだけど、そのカラクリも想像は付いています。

 ええ、お察しの通り射干玉が原因です。

 

 

 

 射干玉は、不定形にして有形。

 有機物にして無機物。

 概念にして事実。

 ありとあらゆる事柄に作用して有り様を変える――不確定要素の塊。

 未来を見て、その未来に干渉・改変する能力の全知全能(ジ・オールマイティ)からすれば、天敵以上の天敵。

 なにしろ未来が決まっていないんだもの。

 

 未来を観測して、観測した未来に干渉する。

 その未来の数は何千か何万か、それとも那由他を超えてもまだ足りないくらい多いのかもしれない。

 けどそれだけの数の未来全てに干渉して、絶対に望む未来を引き寄せられるとしても。

 射干玉という不確定要素は常に存在し続ける。

 それは常に新しい未来が、新しい世界が生まれ続けているといってもいい。

 下手をすれば、干渉したはずの未来すらも書き換えているのかもしれない。

 

 となれば当然、未来なんて見えるわけが無い。

 仮に見えていても、望んだ結果なんて絶対に引き寄せられない。

 常に別の未来という不確定の可能性が残り続けているんだから。

 

 私に対して仕掛けたり、私から仕掛ける場合は、その影響が特に顕著みたいね。

 本来ならば未来を見て、未来に干渉することで無効化・有効化できるはずなのに、不確定要素が常に付き纏うことで、望んだ未来を引き寄せられず――それどころか、望まぬ未来すら掴まされている。

 だから私に対しての攻撃はやたらと精度が低かったり、逆に私の攻撃だけをマトモに受けることになっていたんでしょうね。

 

 

 

 それから剣八の場合だけど。

 彼の場合、望んだ未来と若干ズレている。

 大きな括りで見れば同じ結果だけど、望んだそれと比べれば明らかに物足りない。

 これはおそらく、未来が決定する直前で、それとよく似た別の未来が生まれているんでしょうね。

 

 ユーハバッハが望んだ未来が到来するその直前、剣八が新しい未来を無理矢理作り出している。けど、下敷きになっているのはあくまで直前の世界。

 だから大きく見れば望んだ結果、望んだ未来が訪れているんだけど、細部が違う。

 与えるダメージが本来よりも小さかったり、逆にあり得ない傷を負う羽目になる。

 

 その理由だけど……

 多分、更木剣八が更木剣八だからでしょうね。

 

 理屈なんて一切通用しない、野生の勘。それから斬り合いを愉しみたいという想いと、今まで積み重ねてきた戦いの経験値。

 それらが複雑に絡まり合って、ユーハバッハの未来見ですら超えて完全に見通せないような要素を生み出している……だと思うの……

 付け加えるなら、どんな場所でも戦えるという卍解の能力も影響があるんでしょうけれど……

 

 でも「卍解の能力だから」っていうよりも「剣八だから」って理由の方が"らしい"でしょう?

 

 

 

 最後に一護だけど……

 本来のユーハバッハがやりたかったことが、コレなんでしょうね。

 むしろ一護だけは望んだ通りの未来が決定し続けているから、ユーハバッハが混乱している気さえするわ……

 私と剣八の結果と比べて、戸惑い続けているんでしょうね……

 全知全能であっても、ユーハバッハ自身は完全無欠ではなかった。そんなところかしら?

 

 

 

「ほぼ正解だ」

 

 未来に干渉するのに個人差がある――そう口にした私の言葉を、ユーハバッハは再び肯定しました。

 

「私は全ての未来を見て、全ての未来を改変することができる」

「なん……だと……!?」

「だがどうやら一護以外の貴様らにだけは、少々誤算があるようだ。それが何故か知らぬ」

 

 射干玉の事を知らなければ、更木剣八への理解も足らない。

 なら、理由が分かるはずも無いわね。

 

「だが、それがどうした? 貴様らを相手にするのに……むっ!?」

固成(かためなせ)……ようやく気付いたみたいね」

 

 繰り返しになりますが、射干玉の粘液は先ほどから垂れ流し続けています。そしてユーハバッハは私の未来に影響を与えられない。

 ならばこっそりと、射干玉を接着剤へと変質させて動きを封じる――そんなことも可能なわけです。

 

「なまじ未来を見続けていた分だけ、どうやら予期せぬ未来には反応が遅れるみたいね。なら次は!!」

 

 動きを封じられた一瞬を狙ってユーハバッハ目掛けて一気に距離を詰めます。

 足下が固まっていることに気付き、けれども捨て置くにはあまりにも不利だと思ったのでしょう。ユーハバッハは霊圧で接着剤を破壊して動きを取り戻しました。

 けどその一瞬だけ、私への対応が遅れます。

 

「こんな未来はどうかしら!?」

 

 私はユーハバッハの顔面に手を伸ばすと――

 

「ふんっ!!」

「があああっっ!?!?」

 

 その口髭を指で掴み、思い切り引き抜きます。

 顔の皮膚ごと剥がれかねない勢いで髭はブチブチと音を立てながら引き抜かれていき、ましてやそんな馬鹿なことをされるなど予想すらしていなかったのでしょう。

 私のされるがままに髭を引き抜かれて口髭の一部が禿げ上がらせ、痛みで口元を抑えながら叫びました。

 

「こ、このような児戯を……!!」

「ええ、こんなの所詮は子供の遊び。でも観測できなかったでしょう!? 都合の良い未来ばかり見ているからそうなるのよ!!」

 

 口髭を粘液で溶かして始末しつつ、今度は接近したときと逆の要領でユーハバッハから距離を取ります。空いていた方の指で後ろを指差し、後方注意を呼びかけながら。

 

「斬り合いの最中に余所見してんじゃねえぞ!!」

 

 その先では、剣八が襲いかかってきていました。

 あれだけ隙と醜態を見せてしまえば当然のこと。剣八がそんな好機を見逃すはずがありません。

 そしてもう一人。

 

「卍解! 天鎖斬月!!」

 

 元々確信していたでしょうが、ちらりと私を見てさらに確信を深めたのでしょう。

 一護が半(ホロウ)化状態からさらに卍解を発動させ、ユーハバッハへと斬りかかります。

 未来改変の影響を受けないことで、私だけを警戒しすぎた。二人は全知全能(ジ・オールマイティ)の能力で対処可能だと甘く見すぎた報いですね。

 ユーハバッハの表情が、目に見えて焦ります。

 

「くっ……仕方あるまい!!」

 

 焦りつつも両手をそれぞれに向けて伸ばしました。

 その途端、凄まじい量の霊圧が世界に干渉したのを感じ取れます。どうやら全知全能(ジ・オールマイティ)の効果を理解したことで、その発動を感じ取れるようになったみたいですね。

 次の瞬間には一護が持っていた斬魄刀は刀身の半ばから真っ二つに折れり、剣八が持っていた斬魄刀にも大きな傷が刻まれていました。

 とはいえ、かなり余裕が無い状況で能力を発動させたんでしょうね。ユーハバッハ自身も消耗しているようですが、それでも二人分の斬魄刀とでは釣り合いが取れません。

 

「――ッ!?」

「っ……!?」

 

 斬魄刀が折れたことに、傷ついたことにようやく気付いたのでしょう。

 ですが二人が声を上げるよりも早く、二つの斬魄刀は一瞬にして元の形へと戻ります。めまぐるしい変化に、二人は動揺する暇すらありませんでした。

 

「馬鹿な!!」

 

 唯一、ユーハバッハだけが叫びました。

 こちらを見つめるその視線には「貴様の仕業か!?」という呪詛の様な感情がありありと詰め込まれています。なので私も、視線で応じることにしました。

 

 ええ、そうよ。やったのは私。今の状態なら修復にも時間は掛からないし、何より過去に卍解修復は経験済み。そんなことも覚えていなかったのかしら? その沢山あるお目々は飾りなの?

 

 ――と、そんな嘲笑と侮蔑の意思を込めながら。

 

「オオオオオオオオオッッッ!!」

「ユーハバッハァァァッッ!!」

 

 鬨にも似た咆哮を上げながら、天鎖斬月と野散(やちる)――二人の斬魄刀が、ユーハバッハ目掛けて叩き込まれました。刹那の差もなく同時に打ち込まれた斬撃は、まるで魚でも捌くかのようにユーハバッハの肉体を軽々と引き裂きます。

 崩れ落ちたユーハバッハは散り散りとなりながら、自身が纏っていた黒い霊圧と混ざり合いながら水面のように広がっていきます。

 およそ、生きてはいられないでしょう。

 

「やった、のか……?」

「いえ、まだよ!」

「その通りだ。仮に本気でそう思ったのであれば、実に愚かとしか言いようがないな」

 

 ……普通なら。

 

 一護の呟きに反応したかのように、四方へと広がっていた黒い霊圧が再び一カ所へと寄り集まりました。霊圧たちは意思を持ったかのように捻れ絡み合い、やがて真っ黒な人型を取ります。

 真っ黒な人型の表面には、ユーハバッハが纏っていたのと同じ無数の瞳の紋様を張り付かせながら。

 

「私の力は未来を改変する。一護、お前では我が未来を変えることなど出来ぬ!」

 

 どうやら絶命するよりも早く未来を改変することで、死を乗り越えたようですね。直前に、霊圧が世界に干渉したのを感じられましたから。

 剣八も、ユーハバッハが生きているのを直感的に察知していたのでしょう。肉体が崩れ落ちても一瞬も油断すること無く、黒い人影が現れたと同時に攻撃を開始していました。

 

「更木剣八か! 私が死していないと勘付いたのは流石だ! だがもはや今の私は貴様にも止められぬ!!」

 

 けれどその刃はユーハバッハの身体に届きこそしたものの、致命傷とはほど遠い手傷を負わせる程度でした。

 どうやら自らの肉体を影のような存在へと変質しているみたいで、しっかりと霊圧を伴った攻撃でなければ効果が薄いようです。

 

「そして湯川藍俚(あいり)! 貴様もだ!! 通じぬのであればこれ以上全知全能(ジ・オールマイティ)は使わぬ! 我が霊圧のみで磨り潰してやろう!!」

 

 さらにもう一撃、剣八は攻撃を行いますが、影のようになったユーハバッハはそれすらも耐え切りました。

 私という最も厄介な存在を倒すことを第一目標としたらしく、その身に宿した膨大な霊圧の全てを私へと向けてきます。

 

 ……ちょっと、危険かもしれませんね。

 未来を改変できるという絶対能力。それは裏を返せば、最も脆い部分です。全知全能(ジ・オールマイティ)があるからこそ油断して、その油断を突くことで戦えていた部分が少なからずあったわけです。

 それが単純な霊圧勝負となった場合、話が違ってきます。

 私だって、少ないわけではありませんが……霊王となったユーハバッハの霊圧と勝負できるかというと……

 

「これで終わりだ!」

「ッ! 千引(ちびき)伏雷(ふすいかづち)!」

 

 霊圧のみにて磨り潰すと言ったのは伊達では無いようです。

 言葉通り、ユーハバッハは自らが纏う黒い霊圧を津波のようにうねらせながら、周囲一帯諸共私目掛けて襲いかかってきました。

 触れた物を飲み込みながら蠢く黒い霊圧目掛けて、私は射干玉の体液から作り上げた雷を放ちます。

 超重力の影響を受けたかのように相手を絡め取って動きを止め、その場へと縫い付けるという特異な特性を持った雷撃は、黒い津波の侵攻を止めました。

 

「それがどうした!!」

「え……っ……!?」

 

 ですがその津波の先からユーハバッハが現れました。

 影の特性を生かして霊圧の津波の中を通ってきたのでしょう。手には既に霊圧で生み出した剣が握られており、それどころか振り抜かれています。

 

「うぐ……ッ……!!」

「まだだ!」

 

 片腕が切断された。

 そう感じたときには、ユーハバッハはさらに返す刀で二撃目を放って来ていました。

 しかしその攻撃はこっちだって気付いています。

 その場から離れて距離を取りつつ、射干玉の粘液を操って切り落とされた腕を回収し、手元へと引き戻します。

 

「させぬっ!」

 

 その粘液目掛けて、ユーハバッハはさらに攻撃を放ってきました。

 再生することもできるものの、くっつける方が治療は楽ですからね。少しでも私を消費させる魂胆なのでしょう。

 

 だったら、こっちにも考えがあります。

 

王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)!」

「む……っ……!!」

 

 血を流しているのならば、その状況を利用するまでのこと。

 ましてや(ホロウ)化して刀剣解放(レスレクシオン)までしているとなれば、取るのは当然コレです。

 血を混ぜ込んで威力を最大限に高めた極大の虚閃(セロ)を、真正面のユーハバッハ目掛けて放ちました。

 グリムジョーが使った時でさえ、空間すら捩じ曲げるほどの威力があります。そんなものを今の私が使えばどうなるか、考えるまでもありません。

 

「ぐ……おおおっっ!!」

 

 目が潰れるほどに輝く虚閃(セロ)が、ユーハバッハを飲み込みました。ですがユーハバッハもまた、自らの纏う黒い霊圧で王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)の光を飲み込んでいき、それでも足りぬ分は受け流して凌いでいきます。

 

「この、程度ならば! 問題にはならぬ!!」

「やっぱり、か……」

 

 けれどこれは、ある意味では予想通りでした。

 単純な霊圧勝負じゃ私の方が分が悪いのは、初めから想定済みですからね。

 ではそんな相手に勝つにはどうすれば良いか?

 

「ハハハッ! すげぇ霊圧じゃねえか!!」

「やるぞ! 斬月!!」

 

 答えは簡単。もっと霊圧が高い相手に任せれば良い。

 

 私が放った王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)から漏れ出た霊圧を斬魄刀で受け止めながら、剣八が高笑いを上げます。

 その隣では一護も王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)を発動させ、月牙天衝と合わせて放とうとしているところでした。

 

「なに……っ……!」

 

 背後から放たれるのは、(ホロウ)と死神の力を混ぜ込んだ最大級の月牙天衝。

 それと、名前こそありませんが、月牙天衝とほぼ同じ原理で、更木剣八が一切の手加減抜きで放つ霊圧の一撃。

 おそらく、考え得る最強の攻撃です。

 嵐のように破壊と暴力を伴った霊圧が、黒い津波ごとユーハバッハを飲み込みました。

 

「ぐ、ぐ……っ……!!」

 

 二人の放った一撃はユーハバッハを巻き込んでなお勢いが衰えず、その直線上にある物全てを消し飛ばしていきます。

 

「大した物だ……実に、実に大した物だ! これだけのことをやってのけるとは! だがそれでも私は倒れぬ!」

「なんだよ、それ……」

「いいえ、まだよ!」

 

 それでもなお、ユーハバッハは耐え切りました。破壊の霊圧の中から黒い影はゆっくりと姿を現すと、歓喜にも似た叫び声を上げます。

 信じられぬ結果に、一護がとうとう肩を落とし始めました。ですが私は檄を飛ばして彼の気力を奮い立たせます。

 

「貴様らの破壊の霊圧すら取り込み、我はこの世界を――」

「ああ、まだだぞ黒崎!」

 

 遠く離れた場所から声が聞こえ、黒い影となったユーハバッハを一条の矢が貫きました。

 

「我は……何だ……これは……?」

 

 胸元から生える矢を――正確にはその鏃を見下ろしながら、呆然と呟きます。

 その鏃は、石田君が持ってきていた対ユーハバッハ用の特別武器。静止の銀と呼ばれる、ユーハバッハの能力全てを無力化する道具です。

 

 この戦場の最外周、燃えさかる炎の壁は外からの侵入者を拒み続けました。

 生半可な実力者では通ることすら不可能な、延々と燃え続ける炎の壁です。

 ですがその壁を超えられずとも、石田君は常に内側の様子を伺い続けていました。

 そこへ、天恵とばかりに放たれた直線上にある物全てを消し飛ばす(・・・・・・・・・・・・・・・)破壊の霊圧。それはユーハバッハが作り上げた炎の壁をも消し飛ばして、石田君が持つ鏃を届けるための道を作り上げました。

 

「今だ!!」

 

 静止の銀は、伝承通りにその効果を発揮しました。射貫かれたユーハバッハの肉体は、影から再び人間のそれへと戻っていきます。

 ですが伝承通りならば効果はほんの一瞬。

 そして、その一瞬を逃さないのは流石ですね。

 一護の持つ斬月は、ユーハバッハの身体を切り裂きました。

 

 え、私はどうした? 参加しないのか……ですか?

 ……二人が放った一撃から必死に逃れたせいで、ちょっと距離があって参加できないのよ……

 

 別にいいでしょ!! 誰が倒そうと、最終的に勝てば!!

 むしろ一護が倒すのなら、全部丸く収まるんだか……ら……!?

 

 えっと……嘘でしょう……!?

 静止の銀は確かに効果を発揮しました。

 一護の攻撃は、確かにユーハバッハの身体を切り裂きました。

 

 なのにどうして……

 

「どうしてユーハバッハの霊圧が、まだ生きてるのよ……!!」

「……えっ!!」

 

 一護が大慌てで私の方を振り向きました。先ほどの言葉の真意を確かめたいのでしょう。

 けど、それよりも早くユーハバッハの声が聞こえてきました。

 

「その通りだ。どこまでも目聡く忌々しい……!」

「間に合わなかった、のか……」

「いいや、お前は確かに間に合った。だが、我は超越者! 我は既に霊王と同じ存在! その我が! ありえぬ! 静止の銀などに囚われる訳がない!!」

 

 超越者……ね……

 確かに、そう呼んでも良いでしょうね……こっちが用意した策の悉くを、ポンポン乗り越えてくるんですもの……

 

「だが、僅かとは言え死の恐怖を確かに味わった。そして死の恐怖を乗り越えたことで改めて確信した! やはり私は正しかった! 生も死も無い世界を作ることこそが唯一絶対の正義なのだと!!」

 

 でもね、ユーハバッハ。気付いている?

 死の恐怖を体験したからこそ、静止の銀をも乗り越えて更なる高みへと至れたんだって。

 

 あなたが言っている生も死も無い世界には、そんなものは無い。

 だって死なないんだもの。

 だったら、乗り越えようとすることもない。

 ただ、そこにあるだけの存在。

 

「くそっ……どうすりゃいいんだよ……!!」

「決まってんだろ! 斬りゃいいんだよ!!」

「悩むことは無いぞ一護! 我が力の前に全ては一つとなる! 更木剣八よ! もはや貴様では私は斬れぬ!!」

 

 霧散していた霊圧が再び集まり、影の時のようにユーハバッハの形を作ります。

 ですが今回、ユーハバッハは身体を影ではなく霊圧そのものへと変質させているようでした。

 世界は一つとなるという言葉通り、自らの霊圧で三界全てを自分の物としようとしているのかも知れません。

 

 

 

 これ、どうしましょ……

 射干玉の能力なら、可能性はあるかもしれないけれど……

 

 行ける? 余裕はある?

 

『できればそろそろ、その……お気遣いをお願いしたいでござるよ……ご覧下さい。頬がこんなに痩けてしまって……まるで入院患者の様相でござる……』

 

 となると、封印?

 

『あのー、藍俚(あいり)殿……? 拙者、先ほどボケて……』

 

 でも封印するにしたってどこに? どうやって?

 

『ああ、ご説明が遅れましたな。この状態になると、藍俚(あいり)殿ってば性格が変わってしまい拙者の声も聞こえなく――』

 

 ……って、真っ黒ゴムボールの頬って一体どこ!?

 

『なったりは全然しないでござるよ!!』

 

 そもそも冒頭で散々ボケたもんね。

 変身したら性格が変わるとか、そんな使い古されたネタ。世界がひっくり返ってもありえない……

 

 ……あ、そっか。

 

藍俚(あいり)殿?』

 

 射干玉、もう一踏ん張りして。

 

『ほえ? い、一体何を……拙者、心と嫌な予感がビンビンでござるよ……』

 

 前々から言ってたでしょ。ユーハバッハを泣いたり笑ったり出来なくしてやるって。

 ついにその時が来たのよ。

 

  

 

「……黒崎君、更木副隊長。もう少しだけ頑張れる?」

「まだ、何かあんのか?」

「まあ……一応、ね……」

「なら考えるまでもねえ! やれ藍俚(あいり)!」

 

 剣八の言葉に、私は一つ頷きます。

 するとそれ以上の返事を待つこと無く、剣八はユーハバッハ目掛けて襲いかかりました。

 

「え、ちょ……!」

「俺にできんのは斬ることだけだ! んなことくらいわかってんだろ!!」

 

 なんとまあ、思い切りが良いというか……

 確かにちょっと準備に時間が掛かるから、時間稼ぎをお願いしたかったんだけど……

 

「湯川さん、俺からも頼んだ!」

 

 一護も一護で、剣八と同じようにユーハバッハへと突撃していきます。

 

 ……よし! やりましょうか。

 私は集中して、霊圧を思い切り高めると、謳うように言葉を紡ぎます。

 

「たまはこに ゆふとりしでて たまちとらせよ みたまがり――」

「なんだそれは?」

 

 耳慣れぬ詠唱を不審に思ったのでしょう。

 ユーハバッハは二人を相手にしながらも、私を邪魔しようとしてきました。

 ですがそうはさせじと一護と剣八は決死の覚悟で戦います。

 

「たまかりまししかみは いまそきませる――」

「鬼道か? それとも、兵主部一兵衛が唱えていた裏破道? いや、そのいずれとも体系が異なる……一体何を……!? 読めぬ! 解らぬ! だが、いつまでも指をくわえて見ていると思ったか!?」

 

 霊圧で押し潰そうとしてきました。

 ですが極限まで高めた今の私の霊圧ならば、短時間とはいえユーハバッハにも十分抗えます。放たれた霊圧を逆に撃ち返しながら、私はさらに集中を続けます。

 

「みたまみに いまししかみは いまそきませる たまはこもちてさりくるみたま たまかへしすなや――ひと ふた み よ いつ むゆ なな や ここの……たりや!!」

 

 十分すぎるほど時間を掛けて霊圧を高め終えれば、今度はその力の一部を使って即座に接近します。

 狙うは、ユーハバッハそのもの!

 

天地開闢(てんちかいびゃく)混元(こんげん)

 

 膨大な霊圧が込められた大量の粘液が、ユーハバッハを包み込みました。

 




●最後の平仮名ばかりの部分
 阿知女作法という神楽歌の一部です。ちんこん祭とかで使われます。
 なお作中では「それっぽさ(かっこ良くて、神聖で厳かな雰囲気)」を出しているだけ。特に唱える意味は無いです。ええ、本当に無いです。
 メガテン3で千晶がバアル・アバターを呼ぶ場面を連想した人、正解。

●陛下が見える未来(簡単なまとめ)
・一護:丸見え。結果も予想通り。
・剣八:見えてるけど、結果が予想と幾つか食い違う
・藍俚:全然違う。結果が全然予想出来ない。けどたまに予想通り。わけわからん。

 戦闘中の反応も、基本的に上に沿ってます。

●陛下が銀の鏃を克服
 こういうのは失敗するのがお約束ですし。
 原作では成功してたので、失敗してもいいかなって……

藍俚(あいり)殿のてんこ盛り変身
 仮面ライダーが映画版でだけ見せる特性最強フォームみたいなもの。
 多分もう出ない。

 なお(以前も書きましたが)イメージは
 ・虚化:Zガンダムのバウンド・ドック(MA)の顔(モノアイ周辺)みたいな仮面
 ・刀剣解放:同上(MS)の顔みたいな仮面+尻尾(狼や狐っぽい獣人みたいな)

 なので、その流れから考えて
 ・今回:完全に獣人状態。仮面は無くて、ケモミミみたいな角が生えている。色は黒っぽい感じ。狐獣人とか狼獣人(♀)が、あざといくらいに分かり易い姿をしている。そんなイメージを妄想していただけると、大体合ってると思います。

実は今回タイトル、この状態を名付けた場合.
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