お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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ここからは「Can't Fear Your Own World(小説版)」の内容です。


原作終了後
第407話 最後の厄ネタ


 霊王護神大戦――ユーハバッハらが引き起こしたあの戦いが集結してから、半年ほどが経過しました。

 といっても、大凡(おおよそ)は前回報告した内容の延長線みたいなものね。

 死神は瀞霊廷や護廷十三隊の立て直しに必死で、滅却師(クインシー)は新たな生き方や新たな関係性の模索に忙しくて。

 虚圏(ウェコムンド)では一部の(ホロウ)破面(アランカル)が「霊王や滅却師(クインシー)に苦戦した奴らに代わって自分たちがトップに立ってやる!」っていう、身の程知らずな反乱があったらしいわ。

 

『なぜそんなことを御存知なので?』

 

 聞いたのよ、チルッチから。グリムジョーが暴れて鎮圧したらしけど。

 

『お、おおう……(普通にそういうことを知っている時点で、死神としては相当アレなのでござるが……相変わらず自覚が仕事してないでござるよ……)』

 

 一護たちも現世に戻ったし、新総隊長を筆頭に各隊は忙しいみたいだけど、ユーハバッハに攻め込まれていた頃と比べれば楽勝よね。

 だって命の危険が無いんだもの。

 

『(労災……過労……あ、そうなる前に藍俚(あいり)殿が治すんでござるな……お料理とマッサージは藍俚(あいり)殿が担当……バンビーズがナース服で手厚い看護……拙者、ちょっと入院してくるでござる!!)』

 

 なので、今一番命の危険があるのは、間違いなく私です。

 

 ……ほら、ユーハバッハ戦で、更木副隊長の前で惜しみなく切り札を使いまくったでしょう?

 私の全部乗せ変身は知ってたけど、あそこまで出来るんだってことで更木副隊長の興味が再燃しちゃって……

 

月一(つきいち)くらいで戦わされていますからなぁ……藍俚(あいり)殿もバンビーズの皆様から手厚い看護を受けるべきでは?』

 

 それが出来れば苦労しないんだけどね……

 あの子たち、段々遠慮が無くなってきてるのよ。特にリルトットなんて、顔を合わせる度に「お菓子寄越せ」って言ってくるものだから、最近はお菓子が手放せなくて――

 

『それ、やちる殿と(ましろ)殿と同じでは?』

 

 ……そう言われればそうね。ちょっと増えただけか。

  

 

 

 ――とまあ、瀞霊廷の日常はこんな感じです。

 

 ユーハバッハなんていう、世界を改変しちゃうような最大最強っぽい厄ネタも終わったことだし! 後はもう、ゆっくりしているだけで良いわよね!?

 忙しくても平和な日常を過ごして、私はお山(おっぱい)登って(揉んで)いればいいのよね!!

 

 ああ、平和って素晴らしい……

 

『と、藍俚(あいり)殿が思っているその裏で、新たな陰謀が渦巻いていたのでござるよ!!』

 

 射干玉!? え、ちょっと……うそ、でしょう……!?

 ゆっくり、できない、の……??

 

『んもぅ、藍俚(あいり)殿ってば御存知のくせにぃ!』

 

 な、何を……?

 

『こうやって拙者たちが会話している時点で、新しい厄のネタが振ってくるということでござるよ!!』

 

 もうお腹いっぱいなの!!

 黒髪ショートボブでミステリアスな雰囲気を漂わせている、スーツ姿が似合う出来る美人秘書みたいな女性でも出てこない限りは、私は動かないわよ!!

 

『なんでござるか……その妙に具体的な注文は……?』

 

 そういうタイプも素敵でしょ!

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 檜佐木修兵は、ガラにもなく緊張していた。

 今より少し前まで、彼は瀞霊廷通信の編集長として"とある仕事"をしていた所だった。

 その途中伝令神機に通知が入り、一番隊に呼び出された。

 何事かと思いながら隊舎へと赴いた彼が案内されたのは隊首室だった。副隊長の立場である彼には、お世辞にも縁があるとは言えない場所である。

 一体何が起きるのか、緊張の中に少しばかりの不安を混ぜながら、彼は入室する。

 

「おう、遅えぞ修兵」

「やあ檜佐木クン。良く来てくれたね。待ってたよ」

 

 隊首室へ足を踏み入れた彼を出迎えたのは、九番隊隊長の六車拳西と一番隊副隊長を兼任している京楽春水だった。

 檜佐木が来るまでの間に二人で何やら談笑でもしていたのか、和気藹々とした雰囲気がなんとなく感じられる。

 

「おっと、これは。俺が待たせてしまったかな?」

 

 続いて別の扉から、半年ほど前に新総隊長に任命されたばかりの浮竹十四郎が顔を出す。

 全員が揃ったであろうことを見計らい、六車が声を上げる。

 

「で? 何事だよ総隊長。九番隊だけを呼ぶってのは、何か特別な理由でもあるのか?」

「ああ。瀞霊廷通信に関することで少し、な」

「ん? ならなんで俺まで? 修兵だけでいいだろ」

「隊長……それ、言ってて情けなくありません?」

 

 思わず檜佐木は溜息を吐いた。

 九番隊の業務には公共機関誌である瀞霊廷通信の発行があり、代々の隊長が編集長を務めている……のだが。

 六車は雑誌の編集には全く関わっていない。

 

「まあ、その通りなんだけどね。ただ、一応六車君にも話を通しておくべきだと思って。なにしろ(こと)(こと)だから」

 

 その質問に答えたのは、京楽だった。

 少しだけ愁いを帯びた表情を見せながら、彼は手元の通達書を弄びながら続ける。

 

「実は四十六室から正式な通達と依頼が来てね。直々に瀞霊廷通信で公布してくれって話なんだ。だから、隊長であるキミにも話を通しておこうって」

「中央四十六室から!? ってことは、貴族絡みか……面倒くせぇ……」

 

 何人か例外はいるものの、基本的に貴族とは反りの合わないこと。加えて瀞霊廷通信に関わっていない事もあって、六車の興味は既に消え失せていた。

 檜佐木もまた、今ひとつ理解しかねるといった様子を見せる。

 

「まあまあ、そう腐らないで。実はね、四大貴族の一つが新しい当主に代替わりすることになったのさ。といっても官庁街には話が既に通っていて形式上はもう新当主なんだけど、その新当主の要望で、自分の就任を広く尸魂界(ソウルソサエティ)に広めたいらしいんだ」

「はぁ、そういうことですか……何ページくらいですか? そもそも休刊していますし……」

「いや、号外を出して欲しいそうだ。費用は全てその貴族が持つから瀞霊廷の外、流魂街まで配ってくれ――そう依頼されたよ」

「ご、号外ですか!? それも費用は全額向こう持ち!! それ、本当ですか!?」

 

 浮竹の口から出てきた"号外"という言葉を聞いた途端、気乗りしない様子だった檜佐木の目の色が変わった。

 そもそも霊王という最上位の存在がいる以上、四大貴族の慶事や弔事であろうとも号外を出すのは尸魂界(ソウルソサエティ)では滅多にないことだ。

 加えて突発的な発刊なので想定外の予算が掛かる……つまり、号外を出すのはお金が掛かるのだ。

 それを流魂街まで広く配布するとなれば、それはもう大金が必要になる。年間予算を食い潰しても不思議ではないくらいの額が動く。

 その金額全てを貴族が持つと言っているのだ。食い付かないわけがない。

 

「やります!! ……って、あれ? どうしたんですかお二人とも……?」

 

 制作費をやりくりしたり、号外にかこつけて復刊予告や定期購読者を広められないものかと、檜佐木は頭の中で算盤を叩き、答え、そして気付いた。

 浮竹の表情が、やけに険しくなっていることに。

 京楽の表情もまた、先ほどよりも曇っていることに。

 

「今ならまだ、断っても良い」

「え、あの……」

「その新当主が、綱彌代家の時灘だとしても受けるかい?」

「……ッ!!」

 

 喜色を浮かべていた檜佐木の顔が、一瞬にして蒼白に変わった。

 

「綱彌代、時灘……」

 

 それは檜佐木も知っている名だった。

 東仙の親友を殺した男の名であり、完現術者(フルブリンガー)の銀城空吾が死神と敵対した件についても関与が疑われている男の名。

 二人の態度が一変したのもこれが理由かと、心の中で納得する。

 

「そうか、だからお二人とも……いえ、待って下さい! そいつは確か分家の末席のはずじゃ……」

「のし上がったんだよ。藍染が中央四十六室を虐殺したときや、この前の戦争のゴタゴタに乗じてね。その上、先週綱彌代家の当主とその回りの人間が次々と暗殺者に殺されてね」

「暗殺者!?」

「それ、俺たちが聞いてもいい話なのかよ?」

 

 四大貴族の暗殺騒動など箝口令が敷かれて当然だ。副隊長はおろか、隊長であっても軽々に伝えて良い内容ではない。

 六車の言葉に浮竹が頷く。

 

「ああ、俺が許可する。吹聴されるのは困るが、お前達には知っておいて貰うべきだ」

「ってことで総隊長のお墨付きだ。話を続けるよ。その暗殺者たちを綱彌代時灘は一人で討ち、その功績を以て分家筋から昇格。都合の良いことに本家の人間は誰もおらず……って話さ」

 

 誰が聞いても「コイツが仕組みました」と解るような話だった。

 

「ボクも浮竹も、彼のことは知っている。霊術院時代には同級生だったからね。その上で言うけれど、君たちが考えているようなことを、彼は平気でやるよ。ボクもそう思っている……んだけど」

「俺としては、なんとかアイツに更生して欲しいと思っている……だが……」

 

 京楽と浮竹。

 綱彌代時灘を知る二人と男は、どちらも苦々しい顔をしていた。

 あまり人の悪評を口にしない京楽がそう断言しており、聖人君子のような浮竹ですら言葉を濁すことから、その男がどういった人間性をしているのかを如実に物語っている。

 

「……まあ、そういう話なんだ。それを踏まえた上で、もう一回聞くよ? 断っても構わない」

 

 しばしの沈黙の後、総隊長の責務だとばかりに浮竹は口を開いた。念入りに前置きし、逃げ道すら用意した上で尋ねる。

 

「綱彌代時灘の就任を祝う号外を出せという指示……出来るかい、檜佐木君?」

 

 

 

 

 

「正直に言って、意外だったかな」

「ああ、俺も断られても仕方ないと思っていた」

 

 九番隊の二人へ号外発行の話を終えてから、暫く後。

 人の気配が少なくなった隊首室で、二人は言葉を交わしていた。

 

「まだユーハバッハが刻み付けた爪痕はあちこちに残っている。それらを理由にすれば、引き延ばしは当然、断ることだって出来る」

「心情を鑑みても、お世辞にも前向きにはなれないはずなのに……立派なものだよ」

 

 話題は先ほどの檜佐木への号外発行の依頼について――より正確には「依頼を受ける」と答えた檜佐木についてだ。

 浮竹の問いかけに、檜佐木は力強く答えた。

 ただし「取材をして号外を造るに値するかを調べて、自分が見たままを正直に書くと言った上で、それでも良いのなら書く」とのことだ。私怨はあれど、記者の感情で記事を曲げるようなことはしない。

 そうはっきりと口にした彼に、一番隊を任されている二人は簡単な指示や取材許可を与え、その場はお開きとなった。

 

「でもさ、やっぱり心配だよね。浮竹もそう思うでしょ?」

「まあ、そうだ……待て京楽! 何をする気だ!?」

「いやいや、頼りになる先輩(・・)にも話を通しておこうと思って」

 

 伝令神機を片手にそう告げる。

 京楽と浮竹は共に長く死神を務めており、山本や雀部、卯ノ花といった初代護廷十三隊の隊士だった者を除けば、最年長と言って良い。

 その彼が先輩(・・)と表現する死神は、護廷十三隊に一人しかいない。

 

「お前……まあ頼りになるのは俺も同意だが……」

「でしょう? それに後輩が慣れない一番隊業務で苦しんでいるんだから、先輩には助けて貰わなきゃ」

 

 どこか楽しそうに口にしながら、京楽は伝令神機から目当ての相手を呼び出した。

 




●綱彌代時灘
 小説版のボス。
 他人の不幸で飯が美味いを地で行くタイプ。権力を持ってるからタチが悪い。

 歌匡が斬られた件で直訴しにきた東仙との
「殺したのは時灘ってやつだよ。五大貴族の権力で無罪になったよ。復讐するかい?」「いえ、彼女はそれを望まないでしょうから」「よかった。あ、自己紹介が遅れたね。ボクが時灘だよ。復讐しないでくれてありがとう」
 ってやり取り、正直たまらないと思う。
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