お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第408話 厄と厄が交差する

『――っていうことだから、藍俚(あいり)ちゃんよろしくね』

「何をどう、よろしくすれば良いんですかね……」

 

 四番隊の隊首室で執務中、突然鳴り響いた伝令神機の向こうから聞こえてきた京楽隊長の言葉に、私はそう返事をするのが精一杯でした。

 

 ……四大貴族のトップが変わって、その交代劇は明らかに真っ黒で、しかもその当人は東仙や浮竹隊長の件の下手人!?

 これ!? これが射干玉の言っていた新しい厄のネタってワケなの!?

 

 こんなの事前知識がなくても厄の匂いオンリーでしょうが!!

 怪しむなって方が無茶でしょ!!

 どんなヘッポコ探偵だって「犯人はお前だ!!」って言うわよ!!

 

 ……と言いたいのをグッと我慢して、私は伝令神機の向こうの京楽隊長とやりとりを続けます。

 

『だって藍俚(あいり)ちゃん、絶対巻き込まれるでしょ?』

「巻き込まれたくないんですけど」

『けど朽木家に四楓院家、あと志波家と関わりが深いでしょ。そうでなくてもホラ、戦争中に卍解で色々とやったじゃない。当主に就任したことで時灘がちょっかいを掛けてくるかもしれないから』

「お気遣いありがとうございます……今更ですけど、こんな話を伝令神機でして大丈夫ですか?」

『平気平気、総隊長のお墨付きだよ。あと秘匿回線を使っているから』

 

 ……それ、涅隊長には筒抜けってことですよね?

 いや、あの人ならこの程度はもう全部知ってるわね……心配するだけ無駄かぁ……

 

『そういうワケだから、注意はしておいて。藍俚(あいり)ちゃんも時灘のことは昔から知っているでしょ?』

「昔から……?」

『ほら、霊術院時代に先輩後輩の関係だったでしょ?』

 

 霊術院、時代……???

 えっと……うーんと……お、覚えていない……七百年は前のことだし……

 患者さんのことなら、七百年前でも覚えているんだけど……後輩に……??

 

「……いましたっけ? あの頃の私、凄い劣等生でしたから……そもそも向こうも覚えてないんじゃないかと……」

『あれ、そうだっけ? まあ、連絡はしたから。よろしくお願いしますね、先輩』

「あ、ちょっと待って下さい! 良い機会なので、私からも一つご報告があるんです!」

 

 会話が切り上げられそうだったので慌てて待ったを掛けながら、気になっていることを口にします。

 

「――ということなんです。まだ未確認ですが……」

『……それ、本当? わかった、こっちでも調べてみるよ。だからそっちはお願いね』

 

 そう告げられて、今度こそ通話は終了しました。

 なので私も、嘆息しながら伝令神機を机の上に置きます。

 

「……隊長、何かあったんですか?」

「うん、ちょっとね……もしかすると、またちょっとだけ忙しくなるかもしれないの」

 

 私の通話内容から不穏な気配を感じ取ったのでしょうね。勇音が心配そうに尋ねてきました。

 ですが明確に答えるわけにもいかず、こんな風に曖昧な言葉を返すのが精一杯です。

 

「忙しく、ですか……? そういえば先ほど山田――えっと、清之介先輩がいらっしゃってましたけど関係ありますかね?」

「副隊長――じゃないわね、清之介さんが!?」

 

 山田清之介さん、覚えていますか? 私が副隊長に就任する前の副隊長だった人です。

 医術や回道の腕前は卯ノ花隊長と互角以上で、今では貴族街にある真央施薬院という場所の総代にまで出世しています。

 

 ……その清之介さんが、四番隊(ウチ)に?

 

「なんかは聞いて?」

「いえ、詳しくは。弟さんに会いに来たみたいですけど……」

「そう……」

 

 無関係ではないでしょうが、現状はどうすることも出来ません。とりあえず記憶だけはしておくことにして……

 

「こっちのことだと思ってたのに……」

 

 チラッと机の上の伝令神機に目をやり、小声で呟きます。

 その画面上には、京楽隊長から連絡が来る前の画面――織姫さんからのメールの文面が映し出されていました。

 内容を簡潔に言うと「XCUTION(エクスキューション)という宗教法人が現世(こっち)で有名になっています。そちらは何かありましたか?」という内容です。

 

 XCUTION……かつての銀城空吾が組織した、完現術者(フルブリンガー)グループの名前よね。

 これって偶然の一致、なわけないわよねぇ……

 

 てっきりコレが厄ネタの正体だと思ったんだけど……

 だからさっき、浮竹隊長にも報告したんだけど……

 

 清之介さんが来たって事で、別の方向からも変なキナ臭さが漂って来たわねぇ……

 

「隊長、今大丈夫ですか?」

「はーい、どなた?」

 

 すると隊首室の向こうからドアがノックされ、声が掛かりました。

 返事をすれば扉が開き、四番隊(ウチ)の隊士の子が顔を覗かせます。

 

「失礼します。お忙しいところ申し訳ありません。九番隊の檜佐木副隊長がいらっしゃっています」

「檜佐木君が?」

 

 今日、面会の予定とかあったっけ……?

 

 

 

 

 

 部下の子の連絡に首を傾げながらも応接室へと足を運んだところ、檜佐木君は椅子に座ることなく立っていました。

 そして私がやってきたのを確認すると、まず謝罪の言葉と共に頭が下げられました。

 

「先生、予約(アポ)もなしに急に来てしまって本当にすみません!」

「……あ、やっぱり約束してなかったわよね? よかったぁ、忘れてたらどうしようかと思ってたの」

 

 その言葉に自分が約束を忘れいていた訳では無いことにホッとしました。

 続いて頭を上げさせながら、私自身から率先して腰掛けます。

 

「急に来たのは驚いたけど、何か用事があったんでしょう? そこに掛けて。話はじっくり聞かせてもらうから」

「すみません……ありがとうございます……」

 

 私が先に座り、着席を促されたことで檜佐木君もようやく腰掛けます。

 ですが申し訳なさそうな表情はそのままで、彼は切り出してきました。

 

「実はその、取材協力の協力をお願いしたくて」

「協力の……協力……?」

 

 ――って、何かしら? 私、何をすればいいの?

 

「あ、すみません。そうじゃなくて、先生に取材依頼をお願いしたいのと。それとは別で取材依頼の仲介をお願いしたかったんです」

「ああ、だから協力の協力って言ったのね」

 

 その辺の言葉がごっちゃになってたわけか。

 

「それで私に取材って、何かしら? 瀞霊廷通信の復刊最初の記事は、新総隊長と新十三番隊隊長の記事だって話だけど……」

「ええ、浮竹総隊長と志波隊長の件は勿論記事にします。けどそれ以外に、霊王護神大戦の回顧録も作成しているんです」

「回顧録……?」

「あれ、聞いてませんか? そうなんスよ。というのも――」

 

 そう言って、檜佐木君が説明してくれました。

 瀞霊廷通信には"教えて! 修兵先生!!"っていう読者からの疑問に答える不定期のコーナーがあるんだけど。

 そこで今回のユーハバッハとか霊王の件について教えて欲しいって依頼が来ているそうです。

 当事者ならまだしも、よく知らない末端の子たちからすれば「ユーハバッハは復活しないのか?」とか「今回は結局何がどういう事件だったんだ?」みたいな、全体像が見えない不安が高まってたみたいなの。

 そこで檜佐木君が瀞霊廷通信の復刊に併せて、回顧録として公開しようと頑張ってるみたいなのよ。

 今は色んな人からの話を聞いて回っている段階らしいの。

 

藍俚(あいり)殿……ちょっとだけ! 一点だけ修正させて下さい!!』

 

 え、どこか間違った?

 

『"教えて! 修兵先生!!"は一応連載でござるよ。ただ人気が無いので打ち切り→需要があるときだけ復活→打ち切り……の連続コンボが続いているだけでござる!!』

 

 え、アレって連載だったの!? 知らなかった……

 

藍俚(あいり)殿もそう思っている通り、読者からは不定期だと思われているでござるが、檜佐木殿の名誉のためにも修正しておくでござる!!』

 

「――記憶も熱も熱くて新しい今だからこそ! 俺にしかできない戦いってヤツですよ!!」

 

 最後にそう熱弁を振るいました。

 が、頑張ってね……回顧録もそうだけど、特に連載枠について……

 

「そう言われれば、四番隊(ウチ)の子たちも『救護の様子について取材された』って言ってたわね……でもあれって、復興の記事についての取材じゃなかったの? 私はそう聞いているけれど」

「そっちと併せて、って感じです」

 

 なるほど、要領がいいわね。

 

「で、ここからが本番なんですけど。湯川隊長は当時のことを、他の誰よりも詳しいってお聞きしました」

「……私?」

「ええ、そうです」

 

 そうなの?

 

藍俚(あいり)殿が知らなかったら、多分誰も知らないって程度には。零番隊に取材に行くしないってレベルだと思うでござるよ』

 

 えっと……あの戦いっていうと……

 半裸で磔にされたり、ユーハバッハを泣かせたり、バンビーズに首輪を付けたり、神赦親衛隊(シュッツシュタッフェル)を泣かせたり、ユーハバッハ"だったもの"が出来たり……終わった後で霊王宮まで行ったり……

 ……本当だわ。

 

「今まではお忙しいでしょうってことで隊長や副隊長は敬遠してたんですが、そろそろ本腰を入れて、そういった方々に取材をするべきかって思ったんです」

「浮竹総隊長は?」

「そっちも取材はする予定です。けどまずは湯川隊長からってことで」

「えっと、まさか今から取材を?」

「いえいえ! 今日は御挨拶と取材協力の依頼だけで! また日を改めて伺いますから!」

 

 良かったわ……

 言ったら駄目なことまでポロッと言っちゃいそうなんだもの。

 

「それと、もう一つのお願いについてです」

「もう一つって……ああ、取材の協力についてね」

 

 仲介って話だったけど……私のツテからすると、おそらくは……

 

破面(アランカル)についてです」

 

 やっぱりかぁ……

 

「隊長はトップのハリベルとも交流があるって話ですし、他にも生き残った滅却師(クインシー)の身元引き受けもしてます。その辺りについても、取材をしたいんですよ!」

「え、破面(あっち)だけじゃなくて滅却師(そっち)も!?」

「色々な立場からの視点や意見が必要なんです! どうかお願いします!!」

 

 そう言いながら、檜佐木君は真摯に頭を下げて頼み込んできました。

 

「うーん……まあ、話だけは通してみるわね。許可が出るかは解らないけど」

「いえいえ全然! 繋ぎを取ってもらえるだけでもありがたいです! 俺にはどっちも顔が利かないんで!!」

 

『これが一般死神から見た藍俚(あいり)殿の姿でござるよ? 交友関係がおかしいでござる!!』

 

 そう言われてもねぇ……

 ハリベルやネリエルのお山(おっぱい)――じゃなくて! 縁を切るなんて不義理なこと、絶対にできないし……

 

「話を通して、その結果を檜佐木君に伝えればいいのね?」

「ええ、それで! ありがとうございます! ……あ、でも多少は後回しでも大丈夫ですよ」

「え?」

 

 多少は後回しでも……って……?

 確かに復刊予定はまだ先だし、日数に余裕はあるだろうけど……でも締め切りって早めの方が良いんじゃ……

 

「実は優先しなきゃいけない取材が入ってて……引き受けたんですけど、やっぱり気が滅入りしますよ……」

「気が滅入る? ああ、だからここに皺が寄ってるのね」

 

 私は薄く笑みを浮かべながら、檜佐木君の眉間を指先でチョンチョンと突きます。

 すると頬を赤くしながら、驚いたように私の方を見てきました。

 

「わ、ちょっ……え、俺、そんなに顔に出てました?」

「ええ、まあね。さっきまでの回顧録の話の時とは全然違ったわよ。辛いなら話くらいは聞くわよ?」

「ありがとうございます先生。でもこれは、俺の個人的な悩みっていうか……どこから手を付けるべきかで悩んでいるっていうか……」

 

 そう言いながらも檜佐木君はチラチラと私の方を見てきました。悩んでいて、言い出すべきかどうか判断が付かないって感じですね。

 なので「ドンと来い!」とばかりに微笑んであげると、遠慮がちながらも切り出してくれました。

 

「あの先生……つかぬ事を伺いますが、貴族街の事情に詳しい人にツテってありますかね?」

「朽木隊長でいい? それとも夜一さん?」

 

 パッと思い浮かぶのはこの二人よね。

 でもなんで貴族街のツテ……

 

 ……あ! まさか!! 綱彌代関連!?

 

『タイミング的に、そりゃあ連想するに決まってるでござるよ』

 

 うーん、でもなんで檜佐木君が?

 そりゃあ東仙要の件で因縁はあるだろうけど……

 

 ……探り、入れてみましょうか。

 

「それとも、四大貴族以外で詳しい人の方が良いかしら?」

「えっと……そう、ですね」

 

 言いよどんでいるわね……ということは……

 

「――それも、綱彌代家に詳しい人とか」

「……えっ!? な、なんで……!!」

 

 うわぁ……大当たりだわ……

 何がどうしたら、綱彌代の家に取材に行くことになるのよ……?

 

「まさかと思いますけど先生、知ってます?」

「綱彌代時灘が新当主に就任したってくらいはね。檜佐木君はその取材で綱彌代家に?」

「ええ、まあ。そんなところです。ただ、直接尋ねるじゃなくて、貴族回りの各施設への取材から始めようって思って……あ! 総隊長から取材の許可は貰ってますよ!!」

「なるほどねぇ、だから気が重かったんだ。あの辺、手続きがすごく面倒だもんね」

 

 私も隊長だし、多少は経験があるわ。

 

「となれば、ちょっと待っててね。山田七席を呼んでくるから」

「山田って……アイツですか? なんで?」

「真央施薬院の総代がね、あの子のお兄さんなの。一応、私の前の代の副隊長でもあるから、死神としても個人的に顔見知りでもあるけど、やっぱり家族がいた方が話も通しやすいでしょう?」

「マジですか先生……どれだけツテがあるんですか……」

 

 檜佐木君を置いて応接室から一旦離れようとする私の背中に、彼の独り言が聞こえます。

 

「しかも上流貴族専門の救護詰所のトップ……評判も詳しいはずだよな……俺ひょっとして、運が向いてきたか!?」

 

 そう上手く行けばいいんだけどねぇ……

 

 絶対、なにやら問題が起きるに決まってるわ。

 はぁ……檜佐木君の気は楽になったっていうのに、私の気が重くなってきたわ……

 




サクサクですね。

●霊術院時代
 藍俚(あいり)殿は小説版知らないし、時灘も目立たない様にしていたので。
 多分二人とも覚えてないと思う。
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