『性別が、不明……!?
解ってるわよそんなこと!! 他でもない、私が一番よく解っている!!
でも判別が出来ないんだもの!! こんなこと、今までなかったのに!!
見た目は小さくて無邪気な子供みたいなんですが、最大の謎はこの子の性別です。
なにしろ男の子みたいでもあり、女の子みたいでもあって……
いえね、この程度の年頃なら男女の区別が付きにくい容姿の場合も、あるわよ。
あるんだけど……
この子の場合、全然解らない……
男!? 女!? 一体どっちなの……? 中性的な見た目にも程があるでしょ!
『幾つもの
待って待って待って! やだ! 私はまだイケるから! 戦えるから!!
四番隊の隊長の名に掛けても、性別を……
……あ、ごめんなさい。ちょっと待って。
この子、全身を怪我してるから。先に治療しないと。
『……え、今更気付いたんでござるか?』
え? いやいや、最初から気付いてたわよ。
肩口から大きく切り裂かれているし、お腹には幾つも穴が空いているし、片腕と片脚が曲がっちゃダメな方向に曲がってるし、細かい傷は全身に無数に負ってる。
見えるだけでこのくらいの怪我してるのに加えて、骨もあちこちヒビが入っている。内臓も傷ついている。神経だって今にも切れそうで、奇跡的に辛うじて繋がっているの。
総評すると、満身創痍って言葉が軽傷に思えるくらいの大怪我ね。
『
だってこの子、まだまだ元気なんだもの。
大怪我はしているけど、生命力は下手な平隊士よりずっとあるもの。このまま放置してもしばらくは死なないわよ。
私が命を二の次にするとでも思ったの!?
多少は余裕があるから、こうやって性別の件を優先させたんでしょうが!!
まったくもう……
さて、というわけで。
傷口に手を翳して回道を唱え、傷を癒やしていきます。
「なんだコイツは……死神、ですか!? すげぇ怪我……!」
「隊長! 僕も手伝います……」
「待って! 山田七席じゃ無理だから手を出さないで!!」
「ええっ!?」
遅れてやってきた檜佐木君たちもこの子を見て驚き、花太郎君もまた回道を唱えようとしてくれました。
けど私はそんな彼を言葉で強く止めます。
まさか止められるとは思ってなかったんでしょうね。彼の顔は、みるみる間に曇っていきました。
「そ、そうですよね……僕なんかの腕じゃ、隊長のお邪魔にしか……」
「違う違う。ここにいるのが仮に勇音だったとしても、私は止めたわよ」
「え……ふ、副隊長でもですか!?」
「ええ。見ただけじゃ解らなかったと思うけど、この子の身体ってちょっと特殊なの。卯ノ花隊長か清之介さんくらいの腕前じゃないと、とてもじゃないけと診せられないわね」
「えぇ……」
「なんですかそれ……」
この子の身体、死神っぽいんだけど、よく見るとそれ以外の要素があるのよね。
人間と
死神をベースにそれらを全部纏めて、無理矢理くっ付けた生き物……そんな感じかしら?
だから死神や人間程度しか治療したことがない花太郎君じゃ治療はできない。
勇音はイイ線行ってるけど、霊王の欠片に触れてないから多分無理。応急手当レベルが精々かしら。
予備知識無しだと卯ノ花隊長くらいの腕前を持ってないと役に立たないの。
何しろこの子の霊圧、継続的に変質しているから。半端な技術じゃ対応できないのよ。
『むしろ、なんで
だって私、死神も人間も
手前味噌だけど、この子を治療するなら多分私以上の適任者は瀞霊廷にいないんじゃないかしら。
ただ、そんな霊王みたいな子がなんで大怪我しているのか、気になるのよね。
あとそれ以上に気になることがあるのよ。
『なんでしょうか?』
この子の傷口から、よく知っている
具体的に言うとハリベルの霊圧の残滓が。
『……
……え? あれ??
こういうのって、普通の死神には解らないことだっけ……?
『本人がいれば、霊圧で解ると思います。経験を積んで感覚を磨けば、残った霊圧が
えっと……
えっとね! だからね! この子、多分
『誤魔化したでござるな……』
そうしている間にも回道を続けているので、この子の傷はあっという間に治っていきました。出血が止まり、傷口は塞がり、内臓まですぐに治っていきます。
近くで見ていた二人も、傷が治っていく様子に安堵していました。
「う、うう……」
どうやら怪我と痛みと、それらを受けたショックで意識を朦朧とさせていたみたいね。
傷が治って痛みが引いたことで、意識を取り戻したみたい。
呻き声を漏らしながら目を開けました。
「あ、こ、ここは……」
「ここは真央施薬院の中庭よ」
「施薬院……あ、あああぁぁっっ!!」
そう答えたところ、この子は突然叫び声を上げました。
上体を起こすと目に涙を浮かべ、悲しそうに首を振りながら口を開きます。
「駄目です! 自分を助けないで下さい! もう自分には生きている価値などありません! 死なせて下さい!!」
……は?
え、何、この子……死なせてくれって言ったの?
この私を前にして? 死にたいって言ったの??
……ふーん。良い度胸じゃないの。
だったら意地でも生かして、今の台詞を言ったことを後悔させて――
「自分は、自分は時灘様の命令をこなす事が出来ませんでした! だから、だからもう死なせて下さい!!」
「……なにっ!?」
檜佐木君が思わず声を上げました。
そして私も、一瞬だけど絶句してしまいました。
この子、時灘様……って、今言ったわよね……?
その名前って四大貴族の……
檜佐木君に視線を飛ばせば、彼もまた同じ気持ちだったようで。無言で頷いてきました。
どうやら私の聞き間違いじゃなかったようです。
予想通り、厄ネタと関わる羽目になったわねぇ……それもこんな直接的になんて……
つまりこの子は、綱彌代時灘の関係者で、時灘の命令で
なら、私のやることは一つよね!
「何を馬鹿なこと言ってるの! 死ぬなんて許すと思っているの!?」
「ですが、自分は時灘様の命令を……」
「だからって勝手に死んだら、それこそ大問題でしょう!!」
「え……っ……!?」
「わかったら、これでも食べて落ち着きなさい!!」
「むぐっ!? ……? ……っ!?」
この子が怯んだ一瞬の隙に、口の中目掛けてお手製のお菓子をねじ込みます。
『あの、どこからそんな物を用意したのでござるか……?』
草鹿さんやらリルトットやらが頻繁にお菓子をねだってくるからね。最近はもうすっかり常備しているのよ。
前にも言ったはずだけど、覚えてない?
『ああ、そう言われれば、そんな説明もしていたでござるな……』
何より子供を黙らせるには、いつの時代もお菓子か玩具って相場が決まってるから。
突然お菓子を突っ込まれて驚くものの、どうやら気に入ってくれたみたいね。
口の中のお菓子を味わうようにゆっくりと咀嚼を始めました。先ほどまでの錯乱が嘘みたいに大人しいです。
「そもそも見殺しにするつもりなら、治療なんてしないわよ。ほら、治療の続きをするからちょっと着ている物を脱がせるわよ」
「…………」
無言ですが、抵抗はしないみたい。
なのでこの子の死覇装を脱がせて、傷の具合を……
……うん。その前にちょっとだけ、性別も確認しておきましょうか。
『
ちょっとだけ! 先っぽを確認するだけだから!!
どれどれ……ちらっ……さわさわ……ぺたぺた……
……なん、だと……
『どうしたでござるか!?』
この子、無いのよ……男の子のアレが! でも、女の子のアレもないの!
排泄器官はあるけど、生殖器がないの!!
『つまり、どういうことだってばよ?』
中性……いえ、
単体で成立している、雄も雌もない存在……なんでしょうけど……
でもそんなことがありえるの……?
……うーん……
…………
……あ、
『
いえいえ、これもお仕事だもの。
「ほう、流石だね湯川隊長。まあ、お前なら治せるか」
――と、治療をしていたところで不意に声を掛けられました。
少し後ろへ視線を動かせば、清之介さんが泰然自若とした様子で私が治療するのを見ています。
「お久しぶりです、清之介さん」
「ああ、久しぶりだね。時々便りを貰ったり噂話で活躍は知っていたが、こうして直に見るとよく解る。卯ノ花隊長が席を譲ったのも頷けるね。もう僕が手を出すまでもない」
あ、褒められました。何だか嬉しい……
私が思わず破顔しかけていたとき、浅黒い肌の子はゴクンとお菓子を飲み込みました。
「……あの、山田さん……自分は……」
「この湯川が言ってただろう? 勝手に死ぬな、と。その通り、君は綱彌代時灘の所有物だ。その命すら、勝手に捨てることは許されない」
「そう、ですよね……自分もこちらの方に言われて、そう感じました」
「それに運も良かった。この湯川は、僕と同じように患者が死ぬことを許さない。もう少し処置が遅れていれば、死んでいただろう」
クックックと笑います。
清之介さん、変わってないなぁ……
当時、
……現在も、慣れてない檜佐木君たちが泣きそうになってるけどね。
「そうですか。湯川さんですよね、ありがとうございます! おかげで時灘様にとんでもない不忠を働かずにすみました!」
「いえいえ。それより君の名前、教えてくれるかな?」
「自分ですか? 自分は時灘様の家来で、
産絹
……ちゃん付け? それとも君付け?
『悩むところ、そこでござるかぁ!?』
「綱彌代時灘の家来だぁ!? お前、そりゃいったいどういうことだよ!」
我慢できなくなったんでしょう、檜佐木君が問いかけます。
ですが
「悪いけど、医に携わる者として患者の個人的な情報をそれ以上は明かせないね」
「いや、待ってくれよ。聞きたいことが山ほど――」
「檜佐木君、そこまで!」
清之介さんに掴み掛かろうとした檜佐木君の腕を横から掴み取り、彼の動きを無理矢理に止めます。
「な、なんスか先生! なんで止めるんですか!! たとえ四大貴族絡みだろうと、このガキには聞かなきゃならねえことが……」
「この辺が限界、ってところですよね?」
「ああ、その通りだ。もう貴族の領域に足を踏み入れている。戦時特例でも無い限り、護廷十三隊の理屈は通じないよ。君は確かに正しいことをしようとしたが、今回ばかりは通らないと思った方がいいぞ。檜佐木修兵副隊長殿?」
檜佐木君の名を口にしながらそう言うと、今度は花太郎君に向き直りました。
「改めて言っておくよ、花太郎。しばらく休隊することだ」
そして最後に、清之介さんは私の方を向きます。
「弟をこれ以上巻き込みたくないのでね。面倒ごとはお前が引き受けろ湯川」
「そういうことはいつも私ですね」
「卯ノ花隊長に散々鍛えられたのだろう? そのくらいはやってみせろ」
軽く肩を竦めながら、挑発するような笑みを浮かべました。
ですがその……言われなくても絶対に巻き込まれるのよね……だから、結果的にやる羽目になるわけで……
「……わかりました」
「任せるぞ。さてそれでは、わざわざ来て貰ったところ悪いが、日を改めてもらってもいいかな? この子の処置をしなければ色々と面倒なんでね」
「え、あ……」
私の言葉に満足そうに頷くと、清之介さんは
展開について行けない檜佐木君が何かを言おうとするものの、どうやら言葉は出ないみたいね。
そんな中、
「ありがとうございました湯川さん! 治療も、食べさせて貰った物も、なんだかとっても嬉しかったです! まるで母様……いえ、なんでもありません! この御恩、自分は忘れません! 時灘様に王様にしていただいたら、ちゃんと恩返ししますから!」
「それ、人に喋ってもいいって綱彌代時灘に言われたのかい?」
王様にしてもらう、という発言に私も檜佐木君たちも困惑するしかありませんでした。
事情を知っているであろう清之介さんが苦笑しながらそう言えば、
「……? ……! あ、あああっ! 今のはなんでもありません! 忘れて下さい!!」
「はいはい、私は何にも聞いてないから。またね、
去って行く二人を、私は手を振りながら見送ります。
「……色々と、わかっちゃったわねぇ……」
「あの、先生……その、何がわかったんスか? 俺にゃ何が何だか……」
「慌てない慌てない。順を追って説明してあげるから」
檜佐木君に向けて、私はにっこりと微笑みました。
タイトル詐欺(服を脱がせていない)に、今気付きました。
ごめんなさい。
●産絹
綱彌代時灘が頑張って作った人造死神。
なおこの子は作中で「性別がない」との設定ですが。
(正確には「生殖機能も性別も成長も必要ない」ですね)
じゃあ股間は具体的にどうなっているのか? と思ったので。
今回、妄想でそれっぽく書いてみました。
(師匠や成田先生は「チ○コはあります!」「ありません!」のどちらかもハッキリ言ってくれない……(涙))
●怪我の具合
この時点の
その結果、
(でも痛みよりも、相手が思った以上に強いってことに大きなショックを受けてた気がします)