お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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タイトルが浮かばない……
檜佐木はハニトラに弱い、の方が良かったかもしれません


第411話 檜佐木と料理屋でデート

「ほらほら、遠慮しないで。お好きなのをどうぞ召し上がれ」

「いえ、けど……」

「遠慮しないの。それに私、知ってるのよ。檜佐木君、浦原さんへの支払いでお財布はカツカツなんでしょ?」

「う……す、すみません。なら、お言葉に甘えて……」

 

 そこまで言って、檜佐木君はようやくお箸を持って料理に手を伸ばし始めました。

 まったく、注文の時も遠慮しちゃって「もっと安いのを」なんて言うんだもの。その気遣いは嬉しいけど、若い子が遠慮するもんじゃないの。

 むしろ豪快にガツガツ食べなさいな。

 

 ……あ、ご説明が遅れました。

 私たちが今いるのは貴族街区画の中の一つ、料理街の中のとあるお店です。

 真央施薬院で彦禰(ひこね)さんとの衝撃的な出会いを果たし、色々とあって一度出直すことになったわけですが。

 その時檜佐木君に「自分の解ったこと、順を追って色々と教えてあげる」と言いました。

 けどその話の内容には色々と危険な事柄が含まれていて、とてもじゃないけど帰り道の道中、世間話のように口にすることは出来ないのよ。

 だから近くのお店で腰を落ち着けて、誰にも聞かれていないことを確認した上で説明しようと思ったってわけなの。

 注文も終えて、料理も来たんだけど、それでも檜佐木君ってばずっと遠慮してるのよね。

 そこまで気後れしないで大丈夫だってば。この様子じゃ朽木家のお持てなしを見たら、腰を抜かしそうね。

 

 あと、花太郎君は先に帰したわよ。

 話す内容が色々と危険だし、清之介さんに頼まれたし、何より"これから話す内容"に関わらせるのは危険だから。

 なので「この案内も通常業務扱いで良いし、帰る途中で少し遊んでもいい」と説明した上で、手間賃代わりに少しのお小遣いを渡して帰らせました。

 

「じゃあ説明するけど、食べながらで良いから聞いて」

「……ふぁい(はい)

 

 遠慮していたけど、お料理のおいしさには勝てなかったみたいね。

 二口目(ふたくちめ)からは遠慮を忘れたみたいに夢中で食べ始めてる。多めに頼んでおいて正解だったわ。

 けど、食べ物が口の中にあるのに返事をするのは止めましょうね。

 

「まず、施薬院で会った産絹彦禰(ひこね)さんから。あの子、人間と死神と(ホロウ)滅却師(クインシー)と霊王様の要素を持っていたわ」

「……ッ!? ……っ!! ……っっっ!!」

「大丈夫? ほら、苦しいなら吐き出しちゃいなさい」

 

 驚いて食べてた物を喉に詰まらせたみたい。

 ドンドンと胸元を叩く檜佐木君でしたが、勿体ないのかゴクンと全てを飲み込み終えてから声を上げました。

 

「ど、どういうことですかそれ!?」

「場所柄、静かにしてね」

「すみませ……いや、静かになんてしてられませんよ! なんですかそれ!?」

 

 そう言いますが、それでも気を遣って小声で叫んできました。

 

「あの子の治療で回道を使ったでしょう? その時に気付いたの」

「花太郎のヤツが手伝おうとしたときとか、虎徹副隊長でも無理だってのは、ひょっとしてそういう……」

「ええ、そうよ。花太郎君も医術の腕は間違いなく良いんだけどね。けど無理。あの時も説明したけど、卯ノ花隊長か清之介さんくらいの腕前がないと対応できないの」

「それと、先生もですよね?」

「私の場合は、(ホロウ)滅却師(クインシー)も治療したことがあるからね。でもその経験が無かったら、多分治せなかったと思う」

 

 手元のお茶を一口飲んで、先を続けます。

 

「続けるわね。私や六車隊長みたいに、死神と(ホロウ)の力を共存させる事例もあるわよ。でも滅却師(クインシー)(ホロウ)との相性が最悪。本来なら共存はまずありえない。けど自然発生する場合も、事例は一応あるの。檜佐木君も知ってるでしょ?」

「え……? いや、俺は知りませんよ?」

「たとえば、黒崎一護君」

「え……え……!?」

 

 あら? 知らなかったんだっけ?

 うーん……ええぃ! ままよ! 言っちゃいましょう!!

 

「けど彼の場合、相当特殊な事例だからね。それともう一人――」

 

 ここでワザと台詞を止め、手招きで檜佐木君を呼び寄せてから耳元で囁きます。

 

「――霊王様よ」

「……ッ!? ……っ!? ……っっっ!?!?!?」

 

 檜佐木君、今日一番の混乱でした。

 

「いや、でも……その、あの彦禰(ひこね)は本当に……本当に"それ"なんですか?」

 

 霊王様、と口にするのが憚られたみたいね。

 "それ"という表現を使いながら確認してきます。

 

彦禰(ひこね)さんを治療ついでに軽く診断したんだけど、あの子は多分色々な魂魄を寄せ集めて生まれた死神だと思う。どんな手段でつなぎ合わせているのかは不明だけどね。でも構成要素という意味では、間違いないわ。伊達に浮竹隊長の主治医をやっていたわけじゃないの」

「ああ、浮竹隊長にはあの……例の右腕が……」

 

 首肯して、さらに説明を続けます。

 

「それと彦禰(ひこね)さんは、清之介さんのことを知っていた。だから清之介さんなら、その"何らかの方法"について知っていると思うわ。実際あの人なら、それだけの技術はあるのよ」

「そうなんですか? 俺が死神になった時にゃ、もういなかったのでなんとも……」

 

 檜佐木君が死神になったのって……たしか五十年くらい前、か……

 なるほど、その頃じゃあ知らなくて当然よね。

 

「檜佐木君、(キミ)が真央施薬院を見た時に『雰囲気が技術開局に似てる』って言ったの覚えてる?」

「ええ、言いましたけど、それが……?」

「清之介さんはね、生かす為ならなんでもやるの。その姿勢は医者よりも研究者や技術者の方が近い。だから似てるってなんとなく感じたんでしょうね」

 

 ――とはいえ、その方針が原因で卯ノ花隊長と反りが合わない部分もあったんだけどね……面倒だったわ……なんで私が挟まれたのかしら……

 

 当時のことを思い出し、心の中だけで吐露します。

 

『多分藍俚(あいり)殿のスタンスが、卯ノ花殿と清之介殿の考えの間くらいだったからではないかと思うでござるよ』

 

「じゃあその、十二番隊みたいな技術であの彦禰(ひこね)を作ったってワケですか?」

「やったやらないは置いておいて、出来る出来ないなら間違いなく出来る人よ。涅隊長や浦原さんの次くらいには技術力があるって言えば、解ってもらえる?」

「マジですかそれ……」

 

 ようやく理解できたみたいで、辟易したような顔を見せてきました。

 

「……でもそれ、先生もできるんじゃ?」

「私? うーん……その辺は専門外だから、なんとも……もう少し詳しく調べれば、延命治療くらいは出来ると思うけど……」

「えぇ……」

 

 何だか今、檜佐木君から涅隊長と同格のマッドな科学者を見るような目で見られた気がするわ……

 

「話を戻すけど、彦禰(ひこね)さんはそういう存在。それとあの傷からはハリ――(ホロウ)破面(アランカル)の霊圧がしたわ」

 

『今、ハリベル殿の名を出しかけたでござるな?』

 

 いやいや、ハリベル以外の霊圧の気配もあったわよ?

 少なくとも虚圏(ウェコムンド)にいる元十刃(エスパーダ)関係者は間違いなくあの子と戦ってるわね。

 

(ホロウ)……!? アイツ、時灘の家来って言ってましたよね? じゃあ、ソイツの命令で……」

「うん、おそらく――」

 

 肯定しかけたところで、懐に入れていた伝令神機がブルブルと震えました。

 場所柄、ずっとマナーモードにしてたのよね。

 

「ごめんなさい檜佐木君、ちょっと失礼」

「え……あ、ど、どうぞ……」

 

 伝令神機を取り出し、誰からの連絡かを確認したのですが……

 なんで檜佐木君、顔を赤くしてるの?

 

『取り出すときに、藍俚(あいり)殿の胸元がチラッと見えたんでござるよ』

 

 ……この子、大丈夫?

 ハニートラップに負けて取材相手に絆されたりしない……わよね……?

 

 けどそれは私が気にすることじゃないか。

 えっと、相手は……

 

「もしもしチルッチ? どうした――」

藍俚(あいり)いいいぃぃっ! アンタ一体、今回はどういうつもりなのよぉっ!?』 

 うわぁ……またコレ?

 ピカロ騒動のときといい、ユーハバッハが攻め込んだときといい……

 

「落ち着いてチルッチ。一体何があったの?」

『何があった、じゃないっての! アレ一体どういうこと!? この間の髭オヤジの時だって色々と協力したのに、その仕打ちがコレってこと!? 死神はどいつもこいつも恩知らずってワケなの!?』

「いや、だから説明を――」

 

 通話口の向こうで、チルッチがすっごい怒ってるわね。

 けど、虚圏(ウェコムンド)に何かしたことなんて、ここ最近…………

 

 ……あっ……!

 

「待ってチルッチ! ひょっとしてだけど、浅黒い肌をした子供みたいな死神が関係してる?」

『やっぱり知ってるんじゃないの! アンタのことを信じてたあたしがバカだったわよ!』

 

 やっぱりかぁ……ウラ、取れちゃったわね……

 

「待って待って! ごめんなさい、それは死神じゃないの。詳しくは言えないんだけど、今ちょっと別の思惑が勝手に動いているのよ。身内の恥みたいなもので、管轄が違うっていうか……」

『管轄……? なによそれ!?』

「必要なら後で説明するし、改めてお詫びにも行くわ。でもそれは、私たちとは別の管轄がやったことで……いえ、全部言い訳よね。ごめんなさいチルッチ。迷惑掛けたわね。本当にごめんなさい」

 

 伝令神機を手に持ちながら、何度も頭を下げます。

 通話口の向こうから、微かですが息を呑むような声が聞こえてきました。

 

『まっ、まあ……そういうことなら……仕方ない、わよね! けどね、こっちはこっちで大変だったのよ。あの変なガキ相手にハリベルやらスタークやらウルキオラやらまでやってきて、全員大怪我したんだから』

「大怪我!? じゃあ治療を……」

『平気平気! こっちにはロカがいるからね。アイツの糸で治してるのよ。けど後でちゃんとお詫びには来てよね!? ……ま、待ってるから! 早く来なさいっての……!』

「ええ、勿論。ハリベルにもそう伝えておいて……あら? チルッチ? ……切れちゃった」

 

 最後、思いっきりツンデレみたいな言葉遣いだったわねぇ……

 

「先生……? あの、なんとなく聞こえたんスけど……」

「ええ、そうよ。確定したわ。彦禰(ひこね)さんは虚圏(ウェコムンド)で戦って、あの傷を負ったの」

 

 とはいえ、アレだけの破面(アランカル)相手によくもまあ無事で……

 ううん、あの子の実力と霊圧なら、生き延びる事も出来そうね。

 そう考えていると、どうやら檜佐木君も似たようなことを考えたみたいです。

 

「けどアイツ、破面(アランカル)の連中相手にしてよく生きてましたね……」

「あら? 気付かなかった? あの子、かなり強いわよ」

「え? いや嘘でしょ? だって思いっきりガキみたいな……」

「子供みたいな見た目でも強い隊長がいるでしょ」

 

 シロちゃんとかシロちゃんとかシロちゃんとか。

 

「あと檜佐木君、施薬院で清之介さんに掴み掛かろうとしたでしょ? あの時、彦禰(ひこね)さんが動こうとしたの。気付いてなかったでしょ?」

「え……あの時ですか……!?」

「あそこで私が止めなかったら、多分投げられて、押さえ込まれて、骨の一本くらいは折られたと思う」

「マジですか……? そんな気配は全然……」

「それに気付けない程度には、キミと彦禰(ひこね)さんの実力は開いてるってこと」

「いやいや、そんなはずは……」

 

 そう言っても信じ切れないといった様子の表情で悩んでいます。

 

「もう忘れたの? 彦禰(ひこね)さんは"霊王(あれ)"と似た存在よ?」

「う……そうでしたね……」

「綱彌代時灘の家来で、時灘はあの子を『王様にしてくれる』と言っていた。その王様っていうのは……言うまでもないわよね?」

「んな馬鹿な……」

「信じられないかもしれないけれど、今回の件のウラはそんな所だと思うわ。勿論、今見えている範囲でだけの話。もっと大きな何かが潜んでいるかもしれないけどね」

 

 もう一口お茶を飲んで、喉を潤してから尋ねます。

 

「どう? 取材の参考になりそう」

「え、あ……いやもう取材とか、そういうのを超えてて……」

「でも檜佐木君は瀞霊廷通信の編集長でしょう? ほらほら、頑張って編集長さん。まずは栄養をつけないと。はい、あーん……」

「え、いや先生、その……自分で食べられますから……!」

 

 手を付けるのをすっかり忘れられている料理の一つをお箸で摘まみ、檜佐木君に口を開けるように促して食べさせようとします。

 けど恥ずかしかったのか、自分のお箸を掴んで猛然と食べ始めました。

 宙ぶらりんになってしまった料理を仕方なく自分で食べながら、檜佐木君には説明しなかったことを思い返します。

 

 彦禰(ひこね)さんが虚圏(ウェコムンド)で暴れたってことは、間違いなく報復に来るわよね……少なくともグリムジョー辺りは……

 はぁ……ようやく静かになってきたと思ったのに……

 これ、報告しないと駄目よね……

 

「ねえ、檜佐木君。私この後、寄るところが出来ちゃったんだけど……檜佐木君も一緒に来る?」

「は……ほこっすか(どこですか)?」

「一番隊」

 

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