「かくかくしかじか」
「まるまるうまうま、美味すぎる……って
「湯川……」
浮竹総隊長と京楽隊長に揃って白い目で見られました。
『……え? い、今のってまさか、本当に"かくかくしかじか"とだけ言ったんでござるか!? 漫画的や文章的な表現でよくある説明したのを省略しました、的な描写ではなく!?』
ええ、そうよ。
だから今、こうやって怒られているんでしょ?
『それをなんで、そこまで誇らしげに……ほらぁ、一緒に来ている檜佐木殿も胡乱げな目で
檜佐木君、隣にいるのよね。
顔を見た後にチラッと、胸元に視線が動いたもんね。
ちなみに彼は、私が誘ったら「取材のコヤシになりそうだ」ってことで着いて来ました。
まあ、檜佐木君の話はこのくらいにしておいて。
「申し訳ありません。ただ、内容が内容なので……こんな風に
ここまでのやり取りでなんとなくご理解いただけたと思いますが、すでに一番隊舎の総隊長室に来ています。
入り口で「綱彌代時灘に関わることで重大な話があります。事前の約束をしておらず大変申し訳なく心苦しいのですが、総隊長に取り次いでもらえませんか?」とお願いして、通してもらいました。
巫山戯た導入にしてしまったことを謝り頭を下げます。
続いて、頭を上げながらチラリと視線を別の方向へ向けます。
「あの、どうして狛村隊長が一番隊にいらっしゃるのでしょうか……? いえ、別に構わないのですが……」
「彼も綱彌代に
『おお! 狛村殿でござるな!! ユーハバッハ殿との戦いに駆け付けられなかったあの!!』
そういうことを言わないの!! 戦いには勝ったけど、大怪我してマトモに動けなかっただけだから!!
ちなみに狛村隊長は、
しかし綱彌代に縁……その縁って具体的には時灘、東仙要に関係することよね……
……ひょっとしてこの話って、狛村隊長が主役なのかしら!?
かつての友を悩ませていた相手を今度こそ手に掛ける! みたいなのって、割と熱い展開だもんね!!
あ、けど檜佐木君も、その資格は一応持っている……わよね……?
でも立場がジャーナリストだから、特定の勢力に肩入れしすぎるのは……
「儂に気を遣うことはない。お主が知ったことを、しっかりと報告してくれ」
数秒ほどジッと見つめながら考え事をしていたことで、勘違いをさせちゃったみたいね。
狛村隊長が先を促してきたので、私は軽く会釈するように頷きながら口を開きます。
「実は先ほど、少し用事がありまして真央施薬院まで行ってきました。そこで――」
真央施薬院で産絹
――などなど。
知りうる限りの情報を、浮竹総隊長たちに包み隠さず報告しました。
『これ、最初の"かくかくしかじか"って言ってたシーンが、本当に何の意味もなくなってしまったでござるよ!!』
「――以上です」
一通りの報告を終えたところ、お三方は完全に絶句していました。
度肝を抜かれたように呆けた表情を浮かべながら、口をぽかんと開けています。
……あ、いけないいけない。忘れるところだったわ。
「失礼しました。一つ、報告を忘れていました。物的証拠として、こちらをご提出させていただきますね」
そう言いながら懐から
「これは?」
「そこには産絹
「な……ッ……!?」
説明を聞いた途端、浮竹総隊長は
隣の檜佐木君は驚きながら私の顔を見てきます。
「えっ!? 先生、いつの間にそんなモンを……」
「
ぶっちゃけあの時って、かなり隙があったからね。
取り放題……とまでは言わないけれど、そのくらいは楽勝でした。
血液は本当なら専用の採取用の道具が欲しかったんだけど、仕方ないので
『ですがあまり露骨にやると
仮に襲いかかられても、あのくらいなら何とかなったけどね。
でもこっちも斬魄刀が無くて丸腰だったから……いえ、それ以上に貴族街の真央施薬院で戦うってことで罪に問われる……わね……
「油断も隙も無いな……あまり手放しで褒められないが、今回は礼を言わせて貰うよ」
「いえいえ、涅隊長に比べれば可愛い物ですから」
ドサクサ紛れの入手ルートに少しだけ難色を示されましたが、好意的に受け入れられたみたいですね。
「そういうわけですので、技術開発局の涅隊長にお渡しして解析をお願いしてください。資料なり証拠なりの足しにでも、ご利用はお好きにどうぞ」
「そうだね……涅隊長なら、喜んで解析してくれそうだ……」
「涅隊長ならもう
冗談めかして言いましたが、多分……というか間違いなく、もう知ってるんでしょうね……涅隊長なら……
あの人、今はまだ
……そこに人造の霊王様とか、間違いなく食い付くわね。
「いっそ、涅隊長に全面協力してもらいますか?」
「いやそれは……とても魅力的だが、駄目だ。確かに手段を選ばなければ、
浮竹総隊長、一瞬心が揺らいだみたいだけど、持ち直しました。
涅隊長に任せばあっという間に決着がつくと思うのよね。非合法な手段、になっちゃうのが欠点だけど。
「でも涅隊長に協力を依頼するのはボクとしては賛成だね。どうせ勝手に知ってるだろうし、ならこっちから巻き込んでおこう」
「……仕方ないな。なら京楽、そっちは任せた。それから湯川から貰ったこれも頼むぞ」
「頼まれましょう! ……鈴を付けるのも、鈴を鳴らすのも大変そうだけどね……」
京楽隊長は、私が提出した
あの……それ一応証拠品なんですけど……
いや、付着した血と包んだ毛髪が大事なので、せめてビニール袋か何かに入れておいて……
あと、そのボヤキ……
総隊長からの命令とはいえ、涅隊長の手綱を握るのって難しいですもんね……
胸中お察しします。
「それから湯川。お前から報告された件だが……」
「……?」
え、報告された件……?
まだ、何か、ありましたっけ……? えっと……えっとえっと……
……あっ!
「……現世の
「ああ」
危ない危ない、忘れるところだったわ。
なにしろ
……って、それ報告してからまだそんなに時間経っていないはずなのに。よく解りましたね……
そんな私の不安を悟ったのか「といっても、まだ調査は完璧とは言い難いがな」と断りを入れてから、浮竹総隊長は続けます。
「現世で数ヶ月ほど前に設立され、急速に拡大してきた新興宗教団体だ。といっても霊王護神大戦の影響は現世にまで届いていたからな。混乱に乗じて似たような団体は幾つも出来たらしいが……だが、その団体は本物らしい。なんでも教祖が奇跡を起こすそうだ」
「教祖が奇跡を、ですか……」
それ、ネタとして扱って良いのかしら……?
「それから、流魂街に
「その反応って……まさか……!?」
流魂街に来る人の中には「なんで天国に行くはずの俺がこんな貧乏くさい場所に来なきゃならねえんだ!!」みたいな、自分の宗教観と食い違うせいで暴れる人もいたりします。
『現在だと"チートスキルをハーレムを寄越せ!"って言う人が多そうでござるな!!』
チート……?
卯ノ花隊長に数百年くらい殺さ――鍛えて貰えれば、誰だって持てるわよ……
「ああ。
「つまり、その宗教団体にも綱彌代時灘が関係しているということだな?」
これまで沈黙を貫いていた狛村隊長が、ようやく口を開きました。
浮竹総隊長も、その言葉に頷きます。
「ああ、だろうな。その
「いずれにせよ、座して待つような真似は出来なくなったと言う考えてよいのだろうな」
そうよねぇ……
私が持ってきた内容が衝撃的過ぎたわよねぇ……
「それから
「……映像庁を取り仕切っている綱彌代家なら……」
「可能、だろうな。そもそも銀城の代行証に仕掛けをするときから時灘は関わってているんだ……俺たちを挑発するためだけに、そんな名前を付けても不思議じゃない……」
うーん……けど、今ひとつ腑に落ちないのよね……
「あの、質問してイイですかね……?」
そう考えていると、これまで沈黙していた檜佐木君がおずおずと手を挙げます。
「何の目的で現世の影響力を強くしているのか、イマイチ解んなくって……
「そう、よねぇ……現世で信者を集めて、かつての痣城剣八がやろうとしたことを再現……いえ、意味が無いわね……」
痣城剣八が流魂街の住人全てを改造して、
まだまだ記憶に新しいです。
……なんだが「キヒッ!」という声が聞こえた様な気がします。
『あ、それ空耳でござるよ』
いや、そのくらい解ってるから。
「ふむ。だが人数を集めて何かを企んでいるという目の付け所は良い気がするな。たしか数十万は信者がいるらしい」
「うわー……その半分、いや三割でも良いんで、瀞霊廷通信の定期購読契約してもらえませんかねぇ……」
「……ん?」
ボソッと呟く檜佐木君の愚痴に、京楽隊長が何やら反応しました。
「どうかしましたか?」
「いや、なんだか今……閃いたような、何にも思いつかなかったような……」
「???」
顎に手を当てながら、京楽隊長は自分でもよく解らないといったように首を傾げていました。そのまま二、三回ほど指で顎髭を弄ぶと、檜佐木君に視線を向けます。
「そういえば檜佐木クン。ちょっと前に号外を頼んだ身で申し訳ないんだけど、アレやっぱり無かったことにしてもらえるかな?」
そういうと少しだけ視線を宙で揺らし、さらに続きを言います。
「いや……発行前に無くなるってのが、正しいのかね……? どうにもキナ臭いことが次から次に出てきてる。こうなると隠密機動にでも頼んで、極秘裏に調査してもらう必要もあると思うんだ」
「だな。湯川の証言だけとはいえ、産絹
浮竹総隊長と京楽隊長、二人が揃って申し訳なさそうに告げる言葉の意味を、檜佐木君は正確に理解したようです。
はぁ……と重々しく溜息を吐きだしました。
「仕方、ありませんね……せっかく費用をがっぽり貰って、色々と立て直すチャンスだって思ったのに……」
「本当にすまない」
「いえ、遅かれ早かれ解ったことでしょうし……たはは……」
そうは言っても、やっぱりどこかで未練があるみたいですね。
……仕方ない、一肌脱ぎますか。
「ほらほら修兵君、気を落とさないの」
「ゆ、湯川隊長!?」
肩を落とす檜佐木君の腕を取って、抱き締めるように腕組みします。
ついでに「修兵君」と名前で呼んであげます。
「霊王護神大戦の回顧録を作るんでしょう? なら、こんなところで落ち込んでる暇なんてないってば。取材、気の済む何回だって付き合うから……ね?」
「そ、そっすね!」
効果は抜群で、目に見えて機嫌が良くなりました。
檜佐木君は顔を真っ赤にして大興奮しています。
『頭の中は真っピンクでござるがな!!』
「よっしゃ!! ならついでに綱彌代時灘の件も記事にしてやりますから!! 期待してて下さい!!」
「ええ、待ってるから」
「んじゃ隊長方、申し訳ありませんがお先に失礼します!!」
その勢いのまま、彼は先に退出していきました。
後に残った私たちは、彼の背中を無言で見送ります。
「……湯川」
「隊士のやる気を引き出してあげるのも、隊長の役目ですよ。落ち込んでるよりずっとマシです」
私、間違ってないもん。
「まあ、いい。京楽、涅の方は頼む。俺は元柳斎先生のところに行ってくる」
「山じいの? なんでまた」
「先生なら、色々知っているだろうからな」
先代の総隊長を迷い無く頼るところに、浮竹総隊長の本気具合が見えました。
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このくらいのこと、しますよね。