お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第414話 この人に調査と対策の時間を与えては駄目

 四大貴族たちの会議が終わり、湯川藍俚(あいり)が朽木白哉と四楓院夜一を歓待したり、白哉と藍俚(あいり)の二人で夜一を揶揄(からか)っていたその頃。

 瀞霊廷技術開発局に、二人の大物が訪れていた。

 

「おやおや、突然の来訪とは一体何の用かネ? 一番隊の新隊長殿に新副隊長殿」

「何の用とは御挨拶だな。数日前に依頼をした件の確認に決まっているだろう?」

「そもそもボク言ったよねえ? 三日くらい経ったら話を聞きに行くって、最初に依頼したときに話したよねぇ?」

 

 技術開発局長の涅マユリの言葉に、浮竹と京楽はやや渋い顔をしながら尋ねる。マユリはやれやれとわざとらしく嘆息する。

 

「なんだ、そのことかネ。それなら何も問題は無いヨ」

 

 続いて手近な端末を操作すると、複数のモニター上に次々と様々なデータを呼び出していく。とはいえそのデータが何を示すのか理解できず、浮竹らは首を傾げる。

 

「そもそも件の、産絹彦禰(ひこね)という対象は、四大貴族が"干渉不要"と言ってきたのだヨ。ならば調べるのは当然のことじゃないか」

「ああこれ、例の彦禰(ひこね)って子のデータなんだ」

「……お前の目から見て、強いのか?」

「さてネ。ただ、霊圧の高さが強弱に直結するのなら、強者と呼べるのだろうネ」

 

 どうやらマユリが霊圧関係の値を操作したらしく、モニター上のデータの一部が強調された。

 

「とはいえ虚圏(ウェコムンド)破面(アランカル)の群れに敗れて逃げ帰ってきた。更木剣八や卯ノ花烈ならば『経験が足らぬ』『戦い方を知らぬ』とでも言うのだろうネ」

「……虚圏(ウェコムンド)での戦いの詳細なデータはないのか?」

「監視を付けたが、いまいち有用なデータが得られなかったんだヨ。行き来の際に測定した霊圧を比較した方が、まだ分かり易いだろう」

 

 行き来の際の霊圧――つまり、虚圏(ウェコムンド)に向かう直前と戻ってきた直後に計測した彦禰(ひこね)のデータを比較することで、何があったかを補完しろとマユリは言っているのだ。

 そんなことは、普通の死神には不可能だろう。

 

 ……案外、卯ノ花辺りならば可能かもしれないが。

 

「湯川はかなりの強者だと言っていたが?」

「証明されたのは、副隊長を相手に圧倒する程度の実力だけだヨ。強者と評するには弱いネ」

「むぅ……」

「なら、もう一つの質問いいかな?」

 

 考え込む浮竹と入れ替わるように、今度は京楽が口を開いた。

 

彦禰(ひこね)クンのことを藍俚(あいり)ちゃんは霊王様だって言ってたけど、涅隊長の意見はどうなのかな? サンプルだって上げたでしょ? 藍俚(あいり)ちゃんがこっそり採ってきたヤツ」

「クク……ククク……」

 

 その問いかけにマユリは珍しく笑みを浮かべた。

 口の端を大きく釣り上げ歯茎を剥き出しにしながら笑うその姿に、京楽はたじろぐ。

 

「そんなに面白い結果だったのかな?」

「アア。確かに、大した物だったヨ。霊王と呼んで良い仕上がりだ。素人の付け焼き刃にしては、だがネ」

「え……?」

「現時点で結論を出すには早いと、理解はしているのだヨ。だがこの時点のデータやサンプルから得た結果から考えても、これを霊王と呼ぶには完成度が低すぎる。童子の玩具に手を加えた程度だネ」

「そこまでかい? 一応、真央施薬院総代の山田清之助クンが手を入れていたんだけど……」

 

 ウラも取ったし――と、付け加えながら彦禰(ひこね)の状態について念を押すように再確認をするものの、その程度の情報でマユリが意見を変えることはない。

 

「その男がどれだけの技術力を持っているかは知らないが、むしろソイツが手を入れたおかげで形になっていると考えるべきだろうネ。まったく、何故最初から私に委ねるないのか……理解に苦しむヨ」

「その場合、時灘の言うことなんて一切聞かないんでしょ?」

 

 問いかけながらも京楽は「当たり前だろう」と返事をするマユリの姿を幻視していた。浮竹も言わずもがな似たような事を考えている。

 だが二人の予想は、悪い意味で裏切られた。

 

「何を言うのかと思えば、不要な存在は排除するに決まっているだろう? 出資者を気取って余計な口を挟まれては迷惑なのだヨ。まあ慈悲深い私としては、物言わず身動き一つ出来ぬ状態で延々と生き続ける程度に留め、結果を口頭で伝える程度はしてやるつもりだがネ」

「それ、絶対に止めてね……時灘はアレでも四大貴族の当主なんだから……」

「本当に止めておけよ。下手をすれば護廷十三隊としても庇いきれなくなる」

「フン。四十六室が喧しくなることくらいは理解しているヨ」

 

 浮竹と京楽が揃って念を押す。

 とはいえマユリも下手なことをすればどうなるかは理解している。

 

 ……面倒な招集要請を繰り返され、その結果自分の研究時間が削られる。そんな面倒ごとを呼び寄せるくらいなら、むやみに手出しはしない方がマシ。

 という程度の認識。

 マユリの気分や状況・優先度の変化によって、幾らでも容易くひっくり返る程度のことなのだが、それでも一応は節度を持っている。

 

「理解しているからこそ、今回の綱彌代時灘の件についても手出しをしていない。総隊長殿の命令に沿って動いているのだヨ」

「わかっているのなら……」

「ワザワザ迂遠で面倒な手段を取り時間を浪費しているのだ。となれば今後の私の研究についても、理解を得られたということでよいのだろう?」

 

 解っているのなら良いんだ――と言いかけて、浮竹は言葉に詰まった。

 大人しく従う見返りとして、今後の研究に対する緩和を――例えば、かつてマユリが滅却師(クインシー)に対して行った非道な実験のようなことをしても、余計な口を挟むな。今後は合法として扱え。と、言っているのだ。

 

「……その件については、別途話し合いの場を設けよう」

「浮竹!?」

「ホウ!! ならば期待させてもらおうじゃないか!!」

「その代わり! 今回の件については、一切の手を抜くな!! それと俺の命令には従え! 銀城たちの無実を証明するためにも!!」

「それこそ安心したまえヨ。そもそも調査に使う時間がどれだけあったと思うのかネ? 新総隊長就任祝いとして、特別丁寧かつ念入りな仕事させてもらったヨ!」

 

 マユリにフリーハンドを与えることの危険性は、護廷十三隊の者ならば誰しもが認識している。

 

「そこまで言うのなら、こちらも期待させてもらうぞ。今回の働きは、その話し合いの参考にさせてもらう。目に余る動きをすれば、考えを改めなければならない」

 

 だがそれでも。かつて時灘に苦渋を舐めさせられ、今回もまた霊王を造り出し暗躍する時灘に対する絶対的な手札として、浮竹は断腸の思いで許可を出した。

 同時に、余計な動きをしないようにマユリに枷を嵌めるのも忘れてはいない。

 

「解っているとも。では、コレを見てくれたまえ。(くだん)の混ざり物を捕縛し、綱彌代の当主を引きずり下ろすための計画だヨ。勿論、キミたちには全面協力してもらう予定だヨ」

 

 それぞれが思惑を絡ませ合いながら、話し合いは続いていく。

 

「これは……つまりウチとアイツらだけに苦労をしろ、と?」

「まさか!! そんな心苦しい真似はできんネ。なにしろせっかく捕まえたモルモットがいるのだから、アイツらにも潰れるまで働いて貰う予定だヨ」

「協力はする予定だし、ある程度の被害は許容するつもりだったけど……けど、手荒な真似をすると浮竹が本気で怒るよ? 勿論ボクだって黙っちゃいない」

「心外だネ。まさかこの私が無用な被害を出すつもりだったとでも? 結果そうなったとすれば、それはモルモット共が原因であって私の知ったことではないのヨ」

 

 その結果がどうなるかは、誰も解らない。

 

「――さて、ここまで説明すればどんな馬鹿でも理解できたと思うがネ。これまでの調査や反応から察するに、相手が何かしらの反応をするのは確実だヨ。罠と知っても、動かずにはいられない。それどころか、罠ごと踏み潰すような動きを取る可能性もある……そうやって暴れてくれた方が、私にとってきキミたちにとっても、実に好都合だと思わないかネ?」

 

 一通りの説明と合意を終えたところで、マユリは破顔する。

 その笑みは、綱彌代時灘の敗北がほぼ間違いなく決定づけられた証でもあった。

 




マユリ様を引き入れて、調査と準備の時間があった。
これはつまりどんな突拍子も無い展開でも「マユリ様がいる」と納得できる無敵の免罪符を得たわけです
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