お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第415話 囮寄せ

 技術開発局での密談から一夜明けた朝。

 流魂街の外れの道――それも、年間を通してすら滅多に人通りを見かけないほど外れの道を、銀城空吾と月島秀九郎の二人は歩いていた。

 

「……ったく、なんで俺たちがこんなことを……」

「それも前日にいきなり、だもんね。事前連絡くらいはちゃんとして欲しいよ……」

 

 まるで散歩をするかのような軽い足取り。

 だがその足取りとは対照的に、二人の完現術者(フルブリンガー)の心は荒々しく苛立っていた。

 

「時灘って、いけ好かねえ陰険な貴族の鼻を明かせるって聞いてたのによ……蓋を開けてみりゃこんな扱いとは……」

 

 銀城は一人ごちると、耳の後ろに手を当て――

 

「おい! その辺、ちゃんとやってんだろうな!?」

 

『いやいや、ごめんね。本当にごめんね』

 

 声を上げる。すると京楽の申し訳なさそうな声が、銀城と月島にのみ届いた。

 銀城の耳の後ろには――当然、月島も同じだが――超小型の通信装置が付けられており、先ほどはその通信機を使って離れた場所にいる京楽に問いかけたのだ。

 その申し訳なさそうな声に続いて、今度はマユリの声が聞こえてくる。

 

『やかましいネ。お前らは黙ってこちらの指示に従っていればいいのだヨ。空っぽの頭で余計なことを考えたところで、生産性は皆無なのだからネ』

 

「チッ……この野郎……やっぱり一回くらいはぶった斬ってやるべきか……」

「その時は僕も協力するよ」

 

『待った待った! 二人とも待った! そうヘソを曲げないでよ。ほら、敵を騙すにはまず味方からって言うし。ヘタに知りすぎると相手に勘付かれるかもしれないからさ。それにキミたちには事前に何をするか、ちゃーんと説明したでしょ? 浮竹の動きも含めてさ』

 

「……」

 

 マユリの悪態で額に青筋を浮かべる銀城たちだったが、京楽の言葉に怒りを抑える。

 罵詈雑言代わりにツバを吐くその姿を確認すると、今度はマユリに向けて忠告する。

 

『それから涅隊長も、そう喧嘩を売らないでよ。浮竹がいない代わりに、この場はボクが仕切るって知ってるでしょ? それにボクだけじゃなくて七緒ちゃんもいるんだから。下手なことはしないでよ? 風当たり、強くなるよ?』

 

『フン……』

 

『隊長、お察しします。ですが、仕事ですので』

 

『ありがとうねぇ、七緒ちゃん。でももうちょっと甘やかしてくれてもいいんだよ?』

 

『綱彌代家に出向いている浮竹総隊長に顔向けできるのでしたら、どうぞ』

 

『それはさぁ……はぁ……』

 

「……アンタも大変だな……」

 

 マユリの声に続いて届いた、上司と同僚と部下とで板挟みになって情けない声を上げる京楽の気配に、銀城は少しだけ同情していた。

 

 そろそろ、今の状況について説明しよう。

 まず現状を簡単に表すならば、"囮作戦"の決行直前と言ったところだった。

 マユリから聞かされた対綱彌代時灘の策。その全体的な流れは二正面作戦である。

 

 まず別働隊が完現術者(フルブリンガー)を囮に、産絹彦禰(ひこね)という綱彌代側の最大戦力を釣り上げる。

 そうして下手人の周囲が手薄になったところを、本隊が直接捕縛に向かうというものだ。

 

 単純かつ面白みのない――言ってしまえば「マユリらしくない」策なのだが、これは浮竹らが釘を刺したことが影響している。

 つまりは"やり過ぎな策"は許可されなかったのだ。

 その代わりと言っては何だが、捕縛に向かう本隊は合法・非合法含めて集めた山のような証拠を持っている。

 ついでに時灘のところへ乗り込むと同時に家宅捜査を行い、証拠の品々を発見する手筈となっている。

 なおなっている(・・・・・)と表現したのは、マユリの手で既に調べは付いているからだ。予め用意した"それらしい証拠品"を発見することで確証を得て、大々的な家捜しへと移行する予定となっている。

 色々とアウトな面があるのだが、時灘を相手にするのにそのくらいは必要経費である。

 なにしろ相手は四大貴族筆頭、綱彌代家の当主なのだから。

 

 そして別働隊の仕事は、彦禰(ひこね)を呼び寄せる囮と足止め。

 銀城たちが騒ぎを起こして彦禰(ひこね)を呼び寄せる役目。京楽やマユリは離れた位置で指揮を執る役目と、彦禰(ひこね)相手の増援役も兼ねている。

 

 だがそれらは表向きの目的。 

 マユリは伏せていたが、別働隊の真の目的は産絹彦禰(ひこね)の捕縛である。

 

 何しろ彦禰(ひこね)は死神・(ホロウ)・人間・滅却師(クインシー)・霊王の欠片をより集めて作り上げた、他に類を見ない希少な存在である。

 ただでさえジェラルドという極上の実験動物を手に入れたところで、不格好ながらも霊王の人造品を見かけたのだ。

 マユリが食指を動かさないはずがない。

 協力的な姿勢を見せ、囮を利用した別行動を申し出たのも、戦闘を利用した彦禰(ひこね)の能力解析。ついでに騒動のドサクサで捕獲まで狙っている。

 

「ところで、今更なんだけど。僕たちは向こう(本隊側)じゃなくてよかったの? 必要なら、僕が幾らでも挟み込むのに。こんな囮作戦なんて必要ないでしょ?」

 

 そんなマユリの狙いを知ってか知らずか、月島が本の栞を片手に通信機ごしに尋ねる。

 彼の操る完現術(フルブリング)は、過去の情報を書き換える。証拠の捜索は勿論、必要ならば過去を含めて完璧な改竄だって可能だ。

 とても魅力な提案だが、その問いかけに京楽は苦い顔をする。

 

『それね、考えたんだけど……バレた場合は当然として、月島クンがいるってだけで疑われて難癖つけられかねないのよ。万が一にもキミがいたことで原因で証拠能力が疑われて、減刑されるような事は避けたいんだ』

 

「なるほど……面倒だねぇ……」

「その代わりに暴れろってか……」

 

『ああ、好きに暴れたまえヨ。君たちにはそれしか求めていないからネ』

 

「いちいちムカつく野郎だな……」

 

 完現術者(フルブリンガー)の二人を囮に選んだのも、当然マユリの考えだ。

 表向きは「霊王の代替物であり、霊王の欠片を持っている完現術者(フルブリンガー)は囮に最適だヨ。そんな存在が暴れれば、綱彌代時灘という男の性格から考えて例の混ざり物(ひこね)を動かすだろうネ」と打ち合わせの場にて告げていた。

 さらには「襲う相手は私の手駒を使うとするヨ。なに、先の大戦で面白いモノを捕まえたからね。少しは役に立って貰わないと」と、自分の部下――技術開発局の職員ではなく、実験体として捉えた存在を使うことで、より多くのデータを取ろうという魂胆がある。

 

 彦禰(ひこね)のデータを。

 仮に彦禰(ひこね)が現れなくとも、完現術者(フルブリンガー)のデータを。

 浮竹の庇護下に入ったことで満足に実験も観察も出来ていない完現術者(フルブリンガー)のデータがあれば、研究の足しになるとマユリは踏んでいた。

 

『皆様、そろそろ予定の時刻です』

 

 再び怒り掛けた銀城たちに、涅ネムの無感情な声が聞こえてきた。

 続いてマユリの声が通信機から聞こえてくる。

 

『さて聞こえるかネ? 実験体の滅却師(クインシー)および涅骸部隊(むくろぶたい)の諸君。目的はその完現術者(フルブリンガー)二人。何をするかは、事前に通達した通りだヨ。さあ、行け。精々、私が解放を許可する程の活躍を見せてくれたまえヨ』

 

 

 

 

 

 その言葉に、マユリや京楽たちが控えている場所とはまた別の場所から、幾つかの影が動き出した。

 

 真っ先に動いたのは、ヒラヒラとした白い服を纏う滅却師(クインシー)の色男――アスキン・ナックルヴァールだ。

 先の大戦にてマユリに捕縛された彼は、その後はマユリに色々な処置を施されて手駒兼頑丈なサンドバッグのような扱いを受けていた。

 如何に絶対不死身に近い致死量(ザ・デスディーリング)聖文字(シュリフト)を持つ彼であっても、涅マユリでは相手が悪かった。

 只でさえ能力を突破してくる特殊な処置を施されたのに加えて、ユーハバッハが倒されたことを知らされたことで完全降伏。

 今は自由を得るべく粛々と働く身である。

 

「致命的で済んでたってのは、幸福だったんかねぇ……」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら銀城たちへと向かう彼の姿を、さらに四つの白い影が見送っていた。

 

 シャルロッテ・クールホーン。

 ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオ。

 ガンテンバイン・モスケーダ。 

 ルピ・アンテノール。

 かつての破面(アランカル)の実力者たちにして、現在はマユリに捕まり蘇生処置など(・・)を施され、使役される日々を送る者たちである。

 尤も、四人の思惑はそれぞれが様々なのだが。

 

「出番が来たと思えば、八百長の片棒を担げとは……我輩を何だと思っているのやら……」

「そういう戦いは好きじゃねえ」

「まあいいじゃん。楽な仕事なんだし。テキトーに暴れりゃいいんでしょ」

 

 嫌悪を示すドルドーニとガンテンバインとは対照的に、ルピだけは気楽な様子を見せる。

 あと、シャルロッテは我関せずとばかりに謎のポーズを取っていた。

 

「そもそも、あのオレンジ髪のぼうや(ニーニョ)に会わせるという約束はどうなったやら……」

 

『なら、良いことを教えよう。近い相手ではあるヨ』

 

 呟くドルドーニの言葉に、マユリからの無線が入った。

 

『今回の相手の一人は黒崎一護と同じ死神代行。加えて呼び寄せる相手は黒崎一護と同じ要素を持っている。これほどまでに近い相手の所へ連れてきているという私の慈悲を、是非とも感じ取って欲しいところだヨ』

 

「近い相手、か……だが彼は未だ、チョコラテのように甘いのだろうね……」

 

 

 

 

 

「さて、どうなることかじっくりと解析させてもらおうじゃないか」

 

 アスキンが動き出し、銀城たちに襲いかかる様子を離れた場所にて眺めながら、マユリは呟いた。その視線には、完現術者(フルブリンガー)の解析を少しでも進めようという意思が込められている。

 ちなみにその横ではネムが複数の計器を操りデータの観測に努めていた。

 

「怪我とかは止めてよね……」

 

 そして京楽は、横目でマユリの動きに細心の注意を払い続ける。

 目的を直接聞かされた訳では無いが、マユリが何を狙っているかを察する程度は容易だ。漁夫の利を防ぐべく、周辺に気を配り続ける。

 

 ――まあ、応援が来る手筈にはなってるけどさ……それでも涅隊長が相手じゃ、出し抜かれる時は一瞬で出し抜かれる……

 

 遠く離れた場所で強大な光が放たれたのを確認する。

 アスキンが神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)を放ち、銀城がクロス・オブ・スキャッフォルドでそれを弾き飛ばしたのだ。

 この程度、両者にとってはまだまだ挨拶代わりにもならない。

 

「けどさ、涅隊長。彦禰(ひこね)って子は本当に来るのかねぇ……?」

「私の予測が気に食わないのかネ?」

「いやいや、そういうわけじゃないよ。ボクも時灘の性格は知っているさ。でも破面(アランカル)に負けたばっかりだし……」

 

 戦闘がじわじわと激化していくのを眺めながら、京楽は疑問を口にした。

 

虚圏(ウェコムンド)に向かわせたのは、一番御しやすいと考えたのだろうネ。尸魂界(われわれ)の目が届きにくく、適度な強者が揃っている。手頃な戦場だヨ」

「適度って、破面(アランカル)だって強いよ?」

「更木剣八のような話の通じぬ獣がいないという意味だヨ。なにしろせっかく作った大切な玩具を壊されては困るだろう? かつて、藍染惣右介が統べていた頃ならまた話が違ってくるだろうがネ」

「ああ、なるほど」

「適当な経験を積ませたところで、今度は名のある相手と戦い霊王の名を轟かせる。貴族の考えそうなことだヨ。故に霊王の欠片を持つ完現術者(フルブリンガー)は餌として価値が高い」

 

 ――それに、浮竹が守っていた相手だもんね……なら、時灘が狙う理由としては十分アリか……

 

 マユリの説明を聞き、さらなる推測に京楽は胸中で納得した。

 

『隊長! 霊子反応です! それも、黒腔(ガルガンタ)が……!』

 

 そこに、第三者からの無線報告が割って入ってきた。

 声の主は技術開発局の壷蔵リンだ。

 黒腔(ガルガンタ)という言葉と共に、マユリの手元には計測された霊子データが送られてくる。

 

破面(アランカル)、それもこのパターン。噂をすれば、などという非科学的な言葉は大嫌いなのだがネ……まあ、偶然にしては都合が良い。精々上手に動いてくれたまえヨ。私の為にもネ……!」

 

 手元の計器に表示された二体分の破面(アランカル)の霊子データに目を落としながら、マユリは呟いた。

 

 

 

 

 

「とうとうここまでついて来やがった……」

「当たり前だ。お前が好き勝手に暴れられては、虚圏(ウェコムンド)にまで迷惑が掛かる」

 

 銀城たちやマユリらがいる区域から、さらに遠く離れた地点に開かれた黒腔(ガルガンタ)。そこから現れた白い影は、互いに疎ましそうに言葉を交わす。

 

「好き勝手だぁ!? そもそも最初に仕掛けてきたのは死神だろうが! なら、こっちから乗り込んで何が悪いってんだよ! ウルキオラ!!」

「その件についてはハリベルが説明していただろう。もう忘れたのか? ヘタに手を出して火傷をしても俺は知らんぞ。グリムジョー?」

「チッ……」

 

 ウルキオラの言葉に、グリムジョーは盛大な舌打ちをする。

 

「んな弱気ならついて来るんじゃねぇよ……まあ、いい。まじりもん(・・・・・)の気配みてーなのが近くにいやがるじゃねえか……!!」

「……探査回路(ペスキス)の鍛錬をもう少し……待てグリムジョー!!」

 

 霊圧を探り彦禰(ひこね)に似た気配を感じ取ると、その反応目掛けて一直線に駆け出した。

 だがそれは、似てはいるものの別人の霊圧だ。

 ウルキオラが訂正しようとするが、それよりも早くグリムジョーは動いていた。

 

「馬鹿が……」

 

 軽く目を瞑り、天を仰ぎながらウルキオラもまたグリムジョーを追って駆け出した。

 




●骸部隊とかの人員
 (チルッチ生きてるので)ガンテンバインがいます。活躍しません。
 滅却師(クインシー)の差異は(捕縛された)アスキンくらい。

 チルッチもミニーちゃんもキャンディちゃんもいない。
 色気が無いですね。

●グリムジョーが来た辺り
 (読んでいる人にとっては全く意味が無い情報ですが)
 原作小説よりも早く来ています。虚圏での彦禰戦で破面の数が多かった。怪我も軽くて復帰も早かった(原作基準で)

 ウルキオラは、近くにいたというか。ほぼ監視役で同行。
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