うーん……書類仕事が終わらない……
現在、副隊長執務室にて溜まった仕事を必死で片付けている最中です。
隠密機動へ往診に行く度に、ほぼ一日潰れちゃうんですよね……なので翌日は朝早くから四番隊に来てお仕事です。こっちの仕事もおろそかには出来ませんからね。
事務仕事が多くなったので、怪我人を治療する機会がグッと減ってしまったのは少しだけ寂しいです。すごい怪我人とか後輩の指導用とかでちょくちょく回道は使ってますが。前線で
あ、そうそう!
浦原に頼んだ家電製品ですが、とりあえず洗濯機と冷蔵庫は出来ましたよ。
大体が皆さんが知っての通りの形状と性能を有してます……時代を考慮するとこれでも相当なオーバーテクノロジーなんですけどね。
炊事場や縫製室の子たちに凄くお礼を言って貰えました。
これで仕事が楽になる!! って、喜んでました。
……まあ、余裕が出来た分だけ他の仕事が回ってきてるんですけどね。でも一応、お安めでも技術手当が出るようになったから頑張って!! 私の頃はそんなお手当なかったから!!
携帯電話の方はまだ難航中です。
いろいろ大規模なので、一朝一夕では難しいみたいですが、来年までにはプロトタイプを作ると意気込んでいましたよ。
あと先日往診に行った時、隠密機動の人たちに土下座して謝られました。
壮観でしたよ、黒づくめの忍び装束を身に纏った男たちが門の前で整列して土下座している姿は……
何があったかと尋ねると、診療の時にちょっとだけスケベ心を出していたみたいですね。大前田副隊長の説明を受けて、ようやく理解しました。
あー……なるほど……あわよくば下半身に触って欲しかった、と。だからあんなにお腹の具合が悪かったのね……
その気持ちはわからなくもなかったので「めっ」と口頭注意だけで許してあげました。
というか、さすがは影の仕事を担当する部隊です。視線に全然気付きませんでした。
お仕事モードだったから気にしてなかった……というのもあるのですが。
そもそも医療関係者なのでチン……だ、男性器! なんて気にしてられません。お仕事モードなら平気で触れますよ。
……でも、免罪符の理由にはならない気がします……卯ノ花隊長に知られていたら「気が抜けているようですね」とか言われて……
………………さーっ(血の気が引く音)
「湯川副隊長! よろしいでしょうか?」
おっと、そんなことを考えていたら部屋の外から声が掛けられました。
「はーい、なにかしら?」
「お客様が、九番隊の方々がお見えです」
「あらもうそんな時間だったのね。今行きますから、応接室で良いのかしら?」
「はい。そちらでお待ち頂いています」
執務机から立ち上がり、軽く身支度を整えてから応接室へと向かいます。
これもまあ、お仕事みたいな物ですからね。
「ええ、そこで探蜂さん――つまり、患者を発見したんです」
「ふむふむ。その時の様子はどんな感じでしたか?」
「同僚の方に肩借りていて、ですが怪我も出血も酷くて、意識も今にも消えそうで。これは危険だ、一刻も早い治療が必要だ。そう思ったんです――……」
応接間には九番隊の隊士が三名ほどが待っていました。
内訳は、話を必死でメモを取る人。なにやら絵を描いている人。そして私に根掘り葉掘り聞く人の三名です。
彼らに促されるまま、私はあの時の――探蜂さんの大手術当日の様子を時に詳細に、時に主観を交えながら話していきます。
彼らは九番隊――死神としてのお仕事をしながら、瀞霊廷通信を発行している部隊です。
一体何がどう転がってこんなことになったのかはさっぱりわかりませんが、過日の大手術が巡り巡って瀞霊廷通信に取り上げられることになったそうです。
驚きましたよ、九番隊から「あの事件のことについて取材させてください」と打診されたときは。だってまさかこんなことになるなんて微塵も思ってませんでしたからね。
「とにかく彼女を落ち着かせなければと、そしてもう一つ。こんな小さな子を悲しませてはいけないと、そう思ったんです」
「なるほど……麗しき兄弟愛ということですかね?」
しかし、インタビューを受けるのってこんなに難しい物なんですね。
事前に何を聞かれるのか、質問内容については送られてきました。なのである程度は頭の中に予め答えを用意していますが、それでもやっぱり難しいです。
これは聞く側も中々どうしてお上手ということでしょう。
「――……なるほどなるほど。本日は、ありがとうございました! 以上で終了となりますが、何か伝えておきたい。瀞霊廷通信で取り上げて欲しいことがあれば、お伺いしますよ?」
「伝えておきたいですか……? なら……」
一つしかありませんね。
「出来れば四番隊は全員が頑張っているんだぞ、ということを。記事にするには地味で大変かもしれませんけれど、今回の私みたいな例は本当に特殊なんです。それと比べたら規模は小さいですけれど、四番隊の隊士たちは全員が人の命を救うために頑張っています。そのことを忘れないで、伝えてあげて欲しいですね」
「なるほど……湯川四席の仰る通り、確かに地味ですが……上手くテーマとして扱えれば良い記事になりそうですね。上と相談してみます」
「よろしくお願いします」
私だけが頑張ってるわけじゃないですからね。
四番隊のみんなも、もうちょっと報われても良いって、いつもそう思っています。
『
なによ射干玉? せっかく良い話でまとまりそうだったのに……
『ここで宣伝を!
それは髪のこと!? それとも神のこと!?
……でもまあ、確かにそうね。
「すみません。それともう一つありまして――……」
なので
「では、これで我々は引き上げさせて頂きます。本日はお忙しい中、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。瀞霊廷通信を楽しみにさせてもらいます……あの、ふと気になったんですが……」
「なんです?」
片付けを終えて今にも退出しようとする隊士の方に、最後にどうしてもと質問します。
「今回の件は、それほど有名な話でも話題になった話でもないと思うんですが、どうして私なんかに取材を?」
「ああ、それはですね。とある方から取り上げて欲しいと依頼が来まして」
「えっ!? だ、誰なんですか?」
「申し訳ございません。その辺に関しては、匿名の秘密ということで……本当にすみません!」
ペコペコと済まなそうに頭を下げながら、帰って行きました。
……うーん、誰なんだろう? 卯ノ花隊長? それとも山田副隊長? 四番隊の誰か?? でも、どれも違う気がするんですよね……
夜一さん? いやいやいや、それこそないでしょう。広げる意味がないもの。
―― 一ヶ月後、二番隊隊首室にて。
「おーおー、出とる出とる。まさかの一面記事とはのぉ!! 九番隊のやつらめ、奮発しおったな」
四楓院夜一は最新の瀞霊廷通信を手にして満足そうにニヤリと笑う。
「へいへい、満足そうで何よりです。それよりこっちとしちゃあ、隊長が仕事をしてくれるかの方が重要なんですけどね」
対して、大前田希ノ進は執務机に座りながら、大して興味も無いとばかりの態度を見せていてた。
「しかしわかりませんね。部下の命を救った功労者とはいえ、どうして他隊の隊士をそこまで持ち上げるんで?」
「わからんのか? あれだけの腕を持っておる者なら、もっと前に出るべきじゃ! こういう明るい出来事は皆の希望に繋がるからのぉ!」
ビシリ! と指を大前田に突き付けながら、夜一は断言する。
「それに何より、その方が面白くなる!!」
――ああ、早い話が面白そうな遊び相手だと隊長に目を付けられたってワケか……可哀想に……
「おお! なんじゃあやつ、四番隊の隊士を持ち上げろじゃと!? まったく……むむっ! なにやら面白そうなことが小さく書いてあるではないか!! ……どれどれ……」
心の中でそう同情の声を上げるが、大前田はそれ以上何も言わなかった。
彼にとって目下の最重要案件は、目の前の気まぐれな隊長に今日の分の仕事をさせることなのだから。
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「おお
「よ、夜一さん……?」
今日は遅番(と夜勤)なので、午前中は少し時間があります。
なので図書館にでも行こうかと思ってたところに、夜一さんが突然降って湧いて来ました……いえ、本当に文字通り降ってきました。
忍者みたいにこう、シュパッとした感じで現れましたよ。
そんな派手な出現しておいて"偶然"はないでしょう?
『そのおっぱいで隊長は無理でしょ!』
はいはい、オレルアン奪回オレルアン奪回……だったっけ?
「何かご用でしょうか?」
「うむ! お主、いま暇か?」
「暇……といえば暇です。今日は遅番(+夜勤)なので」
「ではちょいと付き合え!」
そう言われたかと思えば、ガシッと肩を掴まれて、ヒョイっと担ぎ上げられてそのまま運ばれました。
というか速い!! 隠密機動の頂点で二番隊の隊長ですからね!! 走る速度が滅茶苦茶速いです!!
「なんじゃお主、結構重いんじゃの」
「それはまあ、この身長にこの体型ですから……というか、下ろして! 下ろして!! こうやって運ばれるの恐い!! 自分で走りますからあああああぁぁぁっ!!」
夜一さんって目測ですが155cmくらいですよね!? それなのに私を担げるってのも凄いですが……体勢が! これは無理!! 夜一さんの足が当たる当たる!! 恐い恐い!! 顔が地面に擦られるうぅぅっ!!
泣きながら叫んで、どうにか下ろして貰えました。
『拙者の能力を使えれば、擦れてもノーダメージでござったのに……』
無茶言うな!!
『あと、耐えていればその内に夜一さんのお尻を顔で堪能できた可能性がありましたぞ?』
……いや、それは……あの状況じゃあ愉しめないかなぁ……って……
「ここは?」
「うむ、知り合いの家じゃ」
「知り……合い……」
そう言われて連れてこられたのは、貴族街のおっっきなお屋敷です。先日お招き頂いた四楓院家にも劣らないほど、りっっっっぱなお屋敷です。
さすがは夜一さんですね、彼女がいるだけで貴族街は顔パス――どころか一緒になってVIP扱いでした。
しかしこの家って……まさか五大貴族の……
「朽木家というのじゃが、知っとるか?」
「むしろ知らない死神なんていませんよ……」
朽木の家かぁ……
「ほれ、何をしておる? はいるぞ」
「え……ちょ、ちょっと!?」
こっちの都合などお構いなしにガンガン進んでいきますね。
有無を言えない! 言わせない!!
『出ない! 出にくい!!』
はいはい、とりねない! ねにくい!!
案内されて入った朽木邸、そのお庭では――
「よう、
――生真面目そうな一人の少年が……って白哉!?!?
え、この真面目そうな少年が
うーん、これは意外というか何というか……あれ、いや、見た覚えがあるような無いような……やっぱり無いような……覚えてないような覚える気が無かっただけのような……
「化け猫、またか……! ……む、そちらの方は?」
「友達のおらんお主のために、今日は遊び相手を連れてきてやったぞ」
……え? なんですかそれ??
「お主も知っておろう、湯川
「湯川……まさか瀞霊廷通信の!?」
「おお! 貴様もちゃんと読んでおるようじゃの! 感心感心!! ワシも広めた甲斐があったというものじゃ!!」
あら、貴族にも知って貰えたんですね。ちょっとだけ嬉しい。
……って、あれ広めたの夜一さんですか!?
「知っての通りこやつは凄いぞ!! ワシの部下もこやつがおらねば死んでおったからな!! お主も何かあれば遠慮無く頼れ!!」
「えー……夜一さんのご紹介の通りです。四番隊第四席……あ、もうすぐ正式に副隊長になります。湯川
「む、これはご丁寧に。朽木白哉と申します」
「次期当主じゃが、これがなんとも頼りなくての……こうしてワシが
本音が透けて見えまくってます……夜一さん……
……って、あれ? もしかして、凄いことに気付いちゃった!! 時間的に考えて……
蒼純さんが白哉の父親だったの!?
『今頃でござるかぁっ!?』
ある程度遊んだところで「仕事がある」と言って抜けました。
夜一さんが「気軽に遊びに来てやれ」と言ってましたが、貴族街とかそんな簡単に行けませんって……
●瀞霊廷通信
こういう取材とかもすると思う。
けれどこの時期はまだ東仙が隊長じゃないから、瓦版みたいに地味なまま。
●そのおっぱいで隊長は無理でしょ!
元ネタは多分Fateの「このおっぱいで聖女は無理でしょ」だが、派生がいっぱいあるはず。
(使いやすいワードですからね)
●身長と体重
夜一 身長:156cm 体重:42kg
藍俚 身長:185cm 体重:○○○kg
……担ぐのは無理だってコレ。
というか夜一さん、体重が軽すぎません??
●とりねない!ねにくい!
FF11にて、焦ったチャットから。
●子供な白哉
本編で夜一に玩具にされていたから。