「ちょ……待て、死神!! 早ぇ……!!」
「ママ、はやーい! 追いつけないよぉ……」
「くそっ……なんてスピードだよ……!! 置いていくな!!」
「えっと……えっと……待って欲しいって……てか待てや!!」
「……一番後ろって、いいよね……」
背後から響いてくるバンビーズの声は、どれもこれも私への文句の言葉でした。
そんな彼女たちの怨嗟は当然私の耳に届いているのですが、敢えて
「連れて行けって言ったの、貴女たちでしょう? 確かに手伝ってとお願いしたけど、最初に頼み込んだのはそっちよ。ほらほら、頑張って着いて来なさい!」
「くそっ……!!」
四番隊でリルトットたちに仕事を手伝うように依頼したわけですが、元々彼女たちはアスキンの霊圧を感じ取って「連れて行け」と言っていたわけです。なので渡りに船とばかりに、二つ返事でOKしてくれました。
なので今は現場に急いでいるわけですが……
『背後から聞こえてくる不満の声から解る通り! 絶賛、
彼女たちって、こんなにスピード遅かったかしら……? ミニーニャなんて、焦りすぎて素が出てるし……
揃いも揃って平和になった瀞霊廷の暮らしで鈍って、
『いえいえ
そんなお店ないから!! 需要がニッチすぎるでしょ!!
えっと、ということで現在は四番隊を離れて現場に向かっている最中です。
ちゃんと部下の子たちにも「ちょっと出かけてくる」って断りをいれました。
そうそう! 忘れるところだったわ! その時のことなんだけどね。
グリムジョーとウルキオラという二人の
特に霊圧感知に長けた席官以上の者は、相手の霊圧がどれだけ大きいのかを感じ取って、心底不安だったみたいね。
実際、私が出てくるって言ったときに「この
でもそれ以上に意外だったのが「十二番隊が実験するって聞いたんですけど、この霊圧はその実験に関係しているんですか!?」って本気で怯えてたこと。
下手な死神にとっては、
『ところでジジ殿はどうして最後尾に甘んじているのでしょうか……? もう完全に諦めモードでござるか?』
あら、射干玉は解らないの? なんて言うか……意外だわ……
『???』
つまり、射干玉の真逆ってことよ。
射干玉は彼女たちの必死の形相が見えるけど、ジジの場合は一番後ろでしょ? つまり……
『尻!! 尻でござるか!! ……いや待て! つまりジジ殿は位置的に
"ケ"の文字はどこから出てきたの!?
『"気"の字が似ているので、それで』
……なるほど。
『納得された!? いやあの、
私の尻がご褒美のニンジン代わりになって馬を動かせるなら、安いものでしょ?
『お、おう……』
そうそう。
バンビーズを連れてきた理由ですが……正直に言いまして、勘です。
『勘!?』
だって霊王を呼び寄せるために、死神が、
『えっと、現場には既にアスキン殿という
それがどうしたのよ!?
ただでさえ
だったらこっちも人数を揃えておかなきゃマズいでしょ!?
『
世の真理……かしらね……
と、遠い目をしながらカッコつけますが、霊圧感知は現場の方に向け続けています。
霊圧の気配から察するに、向こうでは色々とゴタゴタが起きてるみたいね。グリムジョーが暴れているのが手に取るようにわかる……
「……あら?」
そうやって霊圧を感じ取っていたところ、私たちとは全く別の霊圧を感知しました。
私たちとは違う場所から、同じ場所に向かって移動しているこの霊圧は――
「
間違いありません。以前、施薬院で感じ取ったのと同じ霊圧です。
どうやら涅隊長の作戦に引っかかって、釣り出されたみたい。
……それともグリムジョーたちが来たから、かしら……? 彼と同じような理由で、今度こそ叩き潰す為に動いた……とか……?
「うーん……」
可能性としてはありそうなんだけど、考えても埒があかないわね。
それならいっそ……
「みんな! 悪いんだけど、ちょっとだけ進路をズラすわよ!! ちゃんと着いて来てね!!」
「ハァ!?」
不満の声が一斉に上がりましたが、聞く耳は持ちません。
現場に向かう足は止めないまま、少しだけ斜めに移動して
私の姿が視界に入った途端、
「わあ! 湯川さんですね! お久しぶりです!」
「
「はい! 山田さんと湯川さんに治していただいたおかげで、もうこの通りすっかり元通りです!!」
「うんうん、それはよかったわね」
確かに。言うだけあって、
元気いっぱいなので動き自体が力強いし、これならハリベルたちが苦戦を強いられたのも頷ける……
……え、ちょっと待って……! この霊圧、以前感じた時よりも強大になってるわよ……!?
今の状態でもう一度
前回は、技術や経験の差で何とか撃退したんでしょうけど、この状態の
しかもそれ以上に不思議なのは、この子の持っている斬魄刀です。
なに、この……強い霊圧を放っている斬魄刀は……?
それに斬魄刀が放っているこの感覚、どこかで感じたような……
……えーっと……いつの事だっけ……
……あ! わかった!! 千本桜が朽木隊長に「なんで子供に桜の字を付けてくれなかったんですかぁぁっ!!」って号泣しながら訴えていたときに似てるんだわ!!
『よりにもよって、そこでござるかぁ!?』
いやいや、あくまで感覚。雰囲気の話よ? それに"似ている"ってだけ。
つまり、持ち主に対して強い不満があるような感じの気配を放ってるのよ。と言っても千本桜の時と比べて、今回の方が数百倍は濃い気配だけどね。
だからこの
きっと「なんでオレの持ち主が中性なんだ! 巨乳なら巨乳! ロリならロリッ子! もっと極振りして分かり易い持ち主が良いんだよ!!」みたいな不満があるんでしょうね……
『多分、絶対、間違いなく、断言しますが、違うでござるよ。その意見』
あ、それともう一つオマケ情報。
この斬魄刀から
斬魄刀だけど斬魄刀じゃない存在……無数の
『多分、普通の死神にはそっちの情報の方が重要だと思うでござるよ……』
うん、そうなんだけどね。
でもあくまで斬魄刀の状態なんだから、そこまで気にすることでもないかなって。
――だって更木副隊長と比べれば可愛い霊圧だし。もし仮に今のこの場で暴れ出しても、私が全力を出せば押さえ込めるレベルなんだもん。
『(ボソッと、とんでもねえこと言ってるでござるなぁ……)』
「ところで
「はい! 時灘様から王様だと示してこいと言われました!」
王様、ねぇ……
「具体的には誰に示すのかしら? あとそれ、言って大丈夫だったの?」
「はい! 銀城さんたちです! それから自分が以前戦った
ふむ……つまり、作戦自体は成功していたのね……
それとも、罠だと知っていてワザと……?
綱彌代時灘は、
「はぁはぁ……や、やっと……」
「ママぁ……待ってぇ……」
「あれぇ? 誰、この子? かわいい女の子みたいだけど……ボクもらっていい?」
「オラァ!」
「へぶっ!?」
……なんだか一名ほど、
『ジジ殿、溜まっているのでござるなぁ……ですが残念ながら
「わぁ、
「は……? 何言ってんだこのガキ……?」
「王様って、陛下のことなのかなって……?」
合流した彼女たちを見た途端、
ホラ見て、キャンディスなんてもう不機嫌になってる。
『初対面の相手がいきなり従えとか言ってきたら、そりゃキレるでござるよ』
「陛下……? ……ああ! ユーハバッハさんのことですね! お話でしか聞いたことはありませんが、自分はその方よりもずっと上だそうです!! 時灘様がそう仰っていました!」
「……はぁ?」
「何言ってんだコイツ?」
「王様になるの? すごいんだね~」
ユーハバッハより上という言葉に、キャンディスは毒気を抜かれたみたいね。リルトットと一緒になって訝しげな表情で
そんな中、バンビエッタちゃんだけは素直に称賛の言葉を贈り、
「そうです! すごいんです!! 自分は
「わぁ……すっごい偉いんだ……」
「ありがとうございます! もしも笑う人や怒る人がいたら力尽くで納得させろとも時灘様は命じてくださったのですが、解っていただけたみたいで嬉しいです!」
バンビエッタちゃんが目を輝かせて、
……こ、この二人、相性が良すぎる……わねぇ……
『すっごいありえない化学反応を起こしているでござるな……』
「けど、他の方々はどうでしょう……? 自分のことを笑ったり怒ったりしますか?」
「あん? あー……そうだな……」
最初は言動に苛立っていたリルトットやキャンディスも、この頃になると隣を走る
死神でも
その不気味さからか、言葉を濁し始めました。
「ううん、
「わあ、湯川さんありがとうございます! 護廷十三隊の方にそう言っていただけると嬉しいです!」
なので、私が代わりに口を開きます。
面識があって丁寧な対応をした経験からか、
そうそう、忘れないうちに――
「それとこれは、王様になった
と言って、懐からお菓子の包みを差し出します。
今回の作戦で
『ああ、だから前話はお菓子作りでキャッキャウフフしてたのでござるか』
その通り!
しかも前回食べさせた非常食みたいなのと比べて量も質も種類も、全部が比較にならない出来映えよ。携帯できるお菓子限定っていう誓約だけは、残ったままだけどね。
「この匂いは……わあ! ありがとうございます!」
差し出した包みを目の前で開いてあげれば、
すごい勢いで手を伸ばし、けれども摘まむ直前でその手を止めます。
「どうしたの?」
「あの、本当に良いのでしょうか? 自分は王様になるのに、死神の方に物を貰うなんて……それに前回の恩返しもまだ……」
「気にしないで。見返りが欲しくやってるわけじゃないんだから」
『ダウトおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!』
射干玉、うるさい!!
「それに
「そうなのですか!?」
「それとも食べたくない? お腹が空いていないとか?」
「……えっと、実は時灘様にも黙っていたのですが……湯川さんに以前いただいた味が忘れられなくて……先ほど会ったとき、またいただけないかと期待していました……なので、いただきます!!」
最後の「頂きます」の言葉、早かったわねぇ……
そう口にしたかと思った瞬間にはもう手が動いて、お菓子が口の中に消えました。
『なお、お忘れかも知れませんが。今の状況はグリムジョー殿たちの乱闘現場に向かって併走している最中でござるよ。走りながら物を食べるのはマナーとしてどうかと……』
いいでしょ、別に!
「ところで少し気になったんだけど、
「いえ……んぐ……時灘様のおそばに控えているときもありますが……ご命令があればどこであろうと待機します……もぐ……もぐ……」
食べながら喋ってる……器用ねぇ……
「そうなの? じゃあ食事とかはどうしているの? 綱彌代の家なら、頼めば私の作ったお菓子よりもっと美味しい物を山ほど出してくれそうな気がするんだけど……?」
「えっと……それは……」
ふと疑問に思ったことを尋ねると、
「実は……あの後、時灘様や皆さんにお願いしてみました……ですけど……」
「ですけど? もらえなかったの?」
「いえ、お菓子はいただきました! けれど、自分の思っていたものとは違ったといいますか……」
思てたんと違う……?
まるで私が射干玉と初めて会話した時の感想みたいね♪
『
「とても立派で美味しそうな見た目だったのですが、甘すぎたり、味が薄くて美味しくなかったり……いえ、そればかりか時灘様にご用意していただいた日々の食事も、とてもつまらないと思うようになってしまって……」
……あ、それってまさか……
お坊ちゃまが、初めてのジャンクフードに心を奪われる系のお話……!?
合成甘味料とか着色料とか保存料たっぷりの駄菓子が忘れられない、みたいな……?
『つまり
失礼な!! これでも一応、仮にも護廷十三隊でトップの医者なのよ!! ちゃんと気を遣ってます!!
「湯川さんのお菓子を、もう一度食べたいと思ってしまったんです! 時灘様には言えませんでした……自分は、悪い王様なのでしょうか……?」
「いえいえ、そんなことは。そのくらいのワガママだったら、何回でも聞くわよ」
「そうなんですか!? ありがとうございます!!」
これ……ひょっとして……このまま餌付けすれば引き込めるんじゃないのかしら……
……って、あら?
「なあ、オイ。新しい王サマよぉ。ちょいと良いか?」
なんだかリルトットが不機嫌……とも違うわね。色んな感情がごちゃ混ぜになっている……? そんな雰囲気で
「はい! なんでしょうか?」
「お前よ……グレミィ・トゥミューって名前……聞いたことあるか?」
グレミィ・トゥミュー……?
「おいリル? グレミィのヤツがどうかしたのか……?」
「悪ぃが、ちょっと黙っててくれ」
「えっと……キャンディちゃん? その王様って子供の霊圧がね……ひょっとしてだけど、ひょっとするかなって思うの……」
その名前が出たのは意外だったらしく、バンビーズの子たちも不思議がっていますね。
さて、グレミィ……っていうと……
…………えっと…………あの…………アレよアレ……
『
ルー・ルカ……エル・ビアンノ……エルピー・プル……じゃなくて!!
『それはひょっとして、ガンダムのグレミー・トト殿でござるか? あ、拙者はルー・ルカが良いでござる!!』
…………思い出した!!
更木副隊長と戦った
『思い出すのにこれだけ遠回りした挙げ句、無駄に時間まで掛かるとは……もう歳ですかな……?』
すぐに思い出せないのは仕方ないでしょ!
だって、直接の知り合いとかじゃないんだもの!! 報告書とかジゼルから引き出した情報とか、その辺から間接的に知っただけなの!!
「グレミィ……グレミィさんですか……? あッ!」
そうやって私が悩んでいたのと同じように
「ええ、知っています! 時灘様から教えて頂いたことがあります! グレミィさんは、自分を
「……ッ!! 材料……だと……?」
材料の一人という言葉に、リルトットは強く反応しました。
「はい! 自分の頭の中にある脳味噌は、ほとんどがグレミィさんの物だそうです! 時灘様がそうおっしゃっていました!」
「……そうかよ……つまり、同じ霊圧持っているだけの別人ってことだな……」
な、なかなかショッキングな事実が出てきたわねぇ……
でも、納得したわ。
無数の魂魄と霊王の欠片を繋ぎ合わせて
そして
「だよな。あのクズ野郎が生きているわけねえか」
――って、あら?
予想を裏切られ、リルトットの反応はなんだか冷めたものでした。
それにしてもクズ野郎って……凄い言い草ねぇ……
「あの、自分は何かしてしまったんでしょうか……? それでしたら謝ります」
「いや、てめえに罪はねえよ……おい死神! オレにもその菓子よこせ!!」
彼女の反応に
「……チッ。クソッ、良い味してやがんな……」
誰にも表情を見せないとばかに顔を伏せ、帽子を深く被りながらそう呟きます。
その姿を、仲間だったバンビーズの子たちが心配そうに見つめていました。
……うーん。
詳しいことは知らないし、無理に聞き出す気もないけど。リルトットとグレミィの間には何かあったんでしょうね。
バンビーズの仲間の子たちも知らない、個人的な何かが。
その証拠に、ほら――
「なあ、死神。コイツをとっ捕まえるウラで、時灘ってヤツも捕まえるんだよな?」
「え、ええ……」
「なら、半殺しでいい。オレに殺させろ」
「え?」
って、これはちょっと予想外だわ!
時灘を殺すってこと……? あ、でも半殺しならセーフ……かしら……?
「それと、この
「えええぇぇっ!?」
「できねえとは言わせねえぞ。全力でやれ」
こ、この子、こんな無茶を言う子だっけ……?
「……オレも、全力で協力してやる」
私にだけ聞こえる小さな声で呟くと、残っていたお菓子を袋ごと頬張り――
『デレた! リルトット殿が全力でデレたでござるよ!!』
ああもう! 射干玉うるさい!!
しかもそろそろ現場に到着する距離だし!!
……まさかとは思うけど、一緒に現れて誤解とかされない……わよね……?
●リルトットとグレミィ
小説版にて。
二次侵攻直前に、明らかなフラグ満載の会話をしていた。
(グレミィの想像でお菓子を作って貰い、その見返りにちょっとは手助けしてやる。勝って自由になれたら、もっとマシな食い物を作れるようにしておけ。味見くらいはしてやるさ。的な会話)
やはり食い物関係は死亡フラグですね(サラダとかステーキとか)
原作小説では、
ただこの世界のリルは、色々と立場とか知識が違います。
あとお菓子で結ばれているのもあってか、マイルドな感じになるかなと。
(
●
原作小説には特に描写は無かったと思うので、妄想です。
妄想したのは「見た目は立派だけど、つまらない料理を食べるだけ」みたいな。
(サプリメントの栄養補給のみ、という可能性もありそうですが)