お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第421話 巨大なる出オチ

 茶番をしているところに彦禰(ひこね)さんが飛び込んだんだけど……

 今、あの子……王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)を吸収したわよね……? 見間違えじゃないわよね……!?

 そんなことが、出来るわけが……――

 

 ……考えてみたら、それほど意外でもなかったわね。

 

 浮竹総隊長の双魚理みたいな、吸収する能力の亜種みたいな斬魄刀かもしれないし。

 破面(アランカル)にはネリエルみたいに、相手の虚閃(セロ)を喰らって自分の虚閃(セロ)に上乗せする人もいるし。

 滅却師(クインシー)にも、リルトットみたいに食べる子がいる。

 

 うん。結論、普通のことだったわね!

 

『その考えはどうかと思うでござるが……結論を出すのが早すぎるでござるよ!!』

 

 だってこの子が持っているのって、(ホロウ)の特性を持った斬魄刀みたいな感じでしょ? つまりは、対(ホロウ)に特化している斬魄刀。そう考えたら、普通のことかなって……

 ほら、朽木響河の持っていた村正って斬魄刀があったでしょ? アレは対死神に特化していたし。十分アリでしょ?

 (ホロウ)の霊圧を取り込んで強くなる特殊な斬魄刀、みたいな感じで。

 

「……誰だよ、お前」

「あ、あれ? 時灘様に言われて来たんですけど……銀城さんたちは……」

 

 私の方はこのくらいにして、戦場(あっち)の方に視点を戻すわね。

 ルピが質問したんだけど、彦禰(ひこね)さんは飛び込んだ姿勢のままきょろきょろと辺りを見回しています。

 言葉通りなら、どうやらここで茶番をやっていた人たちを探しているみたいね。

 

「……あ! いました! 初めまして。自分は産絹彦禰(ひこね)を申します。時灘様に言われて、皆さんに会いに来ました!」

 

 とはいえ特に霊圧を隠蔽していたわけでもないので、少し探せばお目当ての人たちはすぐに見つかります。

 あの子は銀城君たちに無邪気な笑顔を見せながら挨拶をしました。

 

「それと、十刃(エスパーダ)の四番目の方ですよね? お久しぶりです!」

「む……あ、ああ……」

 

 続いてウルキオラにも、やはり屈託のない微笑みで挨拶をしました。

 うわぁ……あまりにも場違いな態度にウルキオラが毒気を抜かれて、困惑してる……

 

「ところでグリムジョーさんはどうしたんでしょうか?」

 

 そして最後に、すぐ近くにいたグリムジョーのことを心配そうに見上げます。

 えっと……グリムジョー、どうしたの? 毒でも受けた? 全身麻痺しているみたいだけど……

 

「おい。お前は誰だって聞いてるだろ? 答えろよ」

「はい? えっと……申し訳ありません、どちら様でしょうか? 時灘様から教えて頂いていませんので……」

「あ……? ボクの名前、知らないんだ……グリムジョーは知ってるのに……」

 

 あ。今ルピがもの凄くイラァッとしたわね。

 

『それ、誰でも解るでござるよ』

 

 グリムジョーは知っててルピは知らないって、そりゃあ怒るわよねぇ……

 同じ六番目だったものねぇ……ライバル視してたからねぇ……

 

「そろそろ落ち着きたまえ」

「ちょっ! 何するんだよドルドーニ!?」

 

 今にも襲いかかりそうだったルピの肩を、ドルドーニが掴んで止めます。

 

「見て解らないのかね? その少年――いや、少女かね?――は、今回の目的だ」

「目的……? あー、そういえばそうだったね……ごっめーん、忘れてたよ」

「そうか……ならば、少年が手にしている斬魄刀をよく見ておきたまえ……忘れぬうちに……」

 

 そう告げるドルドーニの表情からは、なんとも言えない恐ろしさを感じているのが窺えました。

 忠告に従ってルピも彦禰(ひこね)さんの斬魄刀を一瞥すると、彼は無意識に一歩退きます。

 

 彦禰(ひこね)さんが手にしている斬魄刀。その刀身はまるで光を白色で塗り潰したような色合いをしていました。かといってルキアさんの袖白雪みたいな澄んで美しい純白とは違い、ところどころに禍々しい漆黒の模様が混じっています。

 不気味な白色の中に、不気味な黒色を浮かび上がらせている斬魄刀とでも形容すればいいのかしら……?

 斬魄刀から漂ってくる気配は、私が直感的に感じた「(ホロウ)から生成した斬魄刀」という考えを圧倒的なまでに補強してくれます。

 

「湯川……」

「ウルキオラ? 来ていたとは聞いていたけど……」

「なんだよあの斬魄刀……圧倒的なのに、ちっと懐かしさを感じるってのはどういうことだ……? あんた、何か知らねえか?」

 

 彦禰(ひこね)さんの斬魄刀に圧を感じたのか、この場にいたウルキオラと銀城君が私のところにやってきました。

 

「おそらくだけど、彦禰(ひこね)さんが持ってるのは(ホロウ)を原料に鍛造した斬魄刀だと思う、のよ……」

(ホロウ)を……だと……!?」

「なるほど。その見立ては間違いないだろうな」

「どういうことだ!?」

 

 どうでもいいけど、なんだかこの二人、ちょっと仲良くなったのかしら?

 銀城君の質問にウルキオラは答えます。

 

「以前、この子供が虚圏(ウェコムンド)に来たのは知っているな? その時あの斬魄刀は黒腔(ガルガンタ)を開いた」

「なんだそりゃ……おいおい浮竹、そりゃちょっと聞いてねえぞ……」

 

 銀城君の額に、僅かに汗が浮かび上がっていました。

 

 

 

「よお、ナックルヴァール。やっぱり生きてたか」

「ん? リルトットかよ」

 

 私たちから少し離れた場所では、遅れてやってきたバンビーズの子達がアスキンとの再開を果たしていました。

 

「というか、生きてたかって言い方はないだろ……」

「ぬかせ。お前が死ぬわけねえだろ」

星十字騎士団(シュテルンリッター)でも、一番死なないって思うの」

「え? 死なないのってボクの役目でしょ? コイツ初見だと危ないよ」

 

 リルトットに続いて他の子達も会話に混じります。

 え? バンビエッタちゃんはどうした? キャンディスの背中に隠れてるわね。人見知りかしら?

 

「けど、耐性を得て生き伸びちまったのがちょいと恨めしいぜ。今もこうやって、あのマッドな死神にコキ使われる羽目になっちまったからな」

「なんなら食い殺してやろうか?」

「やめとけやめとけ。死んでも蘇生させられてコキ使われるんだよ。ナジャークープって実例があるからな。なら生きて人権を主張できる方がまだマシだ」

 

 あらら、なんだかブラックな会話をしてるわね。

 

「んで、お前らはどうなのよ?」

「こっちだってコキ使われてるぞ?」

「けどま、メシは美味いからな」

「そこそこ楽しくやってるって思うの」

「ボク……もうやだ……」

 

 ジゼル(あんた)は自業自得!

 

藍俚(あいり)殿の逆鱗に触れてしまったでござるからなぁ……』

 

「ま、今回の件でウチの死神(あいり)がオメーのことを引っ張る予定だから、もうちょいだけ辛抱してろ」

 

 え、ちょっと待ってリルトット!? その話、私は聞いてないんだけど!?

 なんで確定しているの!?

 

「あとあの彦禰(ひこね)ってガキもな」

 

 うん、そっちについては聞いてる。でもアスキンは知らないんだけど!?

 

 

 

「グリムジョー! 湯川……!?」

「あーっ!! 藍俚(あいり)っ♪」

 

 悪いことは重なる物、というべきなのかしら?

 それともいっそ、盆と正月みたいに一遍に来てくれたから手間が減ったと考えるべきなのかしらね……

 

『現実逃避はそのくらいにしておいた方が……というか来ることは知っていたはずでござるよ?』

 

 うん、知ってたけどね……

 

 グリムジョーたちの霊圧を追ってきたのでしょうね。現場の直上に黒腔(ガルガンタ)が開いたかと思えば、そこからハリベルとチルッチがやってきました。

 

『空から破面(アランカル)の女性が振ってくる!! これが禁止カード、天よりの宝札の効果でござるか……』

 

 遊戯王のカードでしょそれ! 手札が六枚になるってやつ!! けど実際のカードになったときはそんな効果じゃなくなったみたいよ!?

 でも表現的な意味でそれくらい嬉しいって意見は大いに認めるわ!!

 

「ハリベル! チルッチ! 来てくれて嬉しい、んだけど……今は……」

 

 そう。今はちょっとだけ問題なのよね。

 彦禰(ひこね)さんがやる気になってるから、どうしたものかしら……

 

「……あっ! あのガキ、性懲りも無く!」

「この霊圧……グリムジョーはどうしたのだ? それにルピにドルドーニだと……? 彼奴らがどうして生きているのだ……?」

 

 悩んでいる間にチルッチは彦禰(ひこね)さんを見つけて敵意を剥き出しにして、ハリベルはルピたちの存在に気付いて思案顔となりました。

 まあ、涅隊長が死体を蘇生させて手駒にしているからです。なんて結論には、そうそう辿り着かないわよねぇ……

 

「うわぁ、十刃(エスパーダ)の皆さんもいらして下さったのですね! 時灘様からいらっしゃったと聞いてはいませんが……ですが自分、頑張って皆さんを屈服させますから!」

「はぁ!? アンタ何を言って……な、何よその斬魄刀……」

 

 彦禰(ひこね)さんからすれば、ハリベル達が来てもやることは同じ。

 そして敵意剥き出しだったチルッチは、手にしていた斬魄刀の存在に気付くと気後れしたように語気を弱めました。

 

「これですか? 破面(アランカル)の皆さんはもう御存知だと思いますが……いえ、そうですね。改めてご紹介させていただきます! この子は已己巳己巴(いこみきどもえ)! 時灘様から頂いた、自分の斬魄刀です!」

 

 已己巳己巴(いこみきどもえ)って……うわぁ、なにその名前! 私、漢字で書ける自信はこれっぽっちも無いんだけど……

 いえ、確かに已己巳己(いこみき)って言葉はあるわよ!! それぞれの字形が似ていることから、形がそっくりで似ているものを例える言葉として! まず使わないけど!!

 そこになんで、巴の文字まで足したの!? 誰よ、そんな面倒な名前を付けたのは!!

 

『今、遠く遠く天の上の方で、誰かがクシャミをした気がするでござる』

 

 それって、零番隊!? それとも霊王様!?

 

 あと時灘様から頂いたって……碌でもない匂いがプンプンしてきたわねぇ……

 

【……嘆カワシヤ】

 

「え……?」

 

【見カケヌ顔ダガ、貴様ラハ面ヲ砕キシ同胞 ダガ同胞ノ霊圧ガ、コノ程度トハ】

 

 しゃ、喋った……!?

 

『斬魄刀が……斬魄刀が喋るなんて!! 藍俚(あいり)殿!! コイツはドエライことでござるよ!! まさかこんなことが起こるなど!! ありえねぇ……ありえねぇでござるよ!!』

 

 突然主張しないでよ……いや、喋れるのは知ってるからね……

 

 えっと、今のは彦禰(ひこね)さんが持っていた已己巳己巴(いこみきどもえ)から聞こえた言葉です。

 ですけど、別に驚く程のことではありません。

 今の射干玉みたいに、斬魄刀が持ち主に語りかけてくることはありますし――

 

『美味い……美味すぎる……そう、風が語っているでござるよ……』

 

 …………

 

『放置プレイ……ハァハァ……拙者に向けられた、その冷ややかな視線……拙者だけの宝物……』

 

 あと、卍解を会得する際には斬魄刀を具象化します。

 その時には、普通に喋りますからね。

 ん……? ということは具象化しているの? それとも能力として自我や会話を自在にする……?

 

【バラガン ハ ナニヲ シテイル!? 我ト同ジヨウニ封ジラレテイルノカ!?】

 

「バラガンだと!? その名を知っているのか!?」

「え、でもアイツもう滅んでるでしょ?」

 

【ソウカ……虚圏(ウェコムンド)カラ、アノ老獪ナル王ガ消エタカ……】

 

 チルッチの言葉に、已己巳己巴(いこみきどもえ)はなんだか懐かしむような、そんな感情の込められた声を上げました。

 

 ……えっと、どういうこと? どんな因縁があるって言うのよ!?

 

 ……よし! 解らないから直接聞いてみましょうか!

 

彦禰(ひこね)さーん! ちょっと聞いていーい!?」

「湯川さん! はい、何でしょうか!?」

 

 ほら返事が返ってきた! やっぱり知ってる本人に聞くのが一番よね!

 

『割と前代未聞の行動でござるなソレ』

 

 伊達に手懐けたワケじゃないもん! あと彦禰(ひこね)さんが喋っているってことは、知られても困らない情報って事でしょ。

 

「その斬魄刀って何なの!? 喋れるの!? ひょっとして(ホロウ)なの!?」

「ええ、そうなんです! 最近喋れるようになったんですけど、口が悪くって……それから、(ホロウ)らしいですよ! 昔、尸魂界(ソウルソサエティ)に攻め込んで零番隊の方々に退治されて斬魄刀にされたそうです! 時灘様が教えて下さいました!!」

 

『便利でござるなぁ……』

 

 大昔の(ホロウ)……いえ、大虚(メノス・グランデ)? 零番隊が出張ったって事は最上級大虚(ヴァストローデ)なのかしら?

 

【然リ! サレド我ハ斬魄刀ニアラズ! 我ハ……我ハ……オノレ……我ガ名ヲ……】

 

「ほら已己巳己巴(いこみきどもえ)! 自分はこの方達の心を折って王だと認めさせなきゃならないんですから! いきますよ!!」

 

 無邪気な言葉だけど、挑発的よねぇ……

 グリムジョーがまともだったら、一瞬で沸点を超えてたと思うわ。

 そのまま斬魄刀を構えると、彦禰(ひこね)さんは解号を唱えます。

 

葬送(おく)(しる)せ――『已己巳己巴(いこみきどもえ)』」

 

 その瞬間、霊圧が竜巻のように吹き上がりました。彦禰(ひこね)さんの足下から湧き上がった霊圧は光と影が入り乱れた不気味な壁になって、その姿を……を……――?

 

『どうしたでござるか藍俚(あいり)殿!?』

 

 これ、私知ってる! アニメとかで、巨大ロボットとかを召喚するシーンの演出よね!?

 竜巻が吹き上がって術者の姿を覆い隠して、土煙が晴れるとロボットの肩に操縦者が乗ってて、コクピットに乗り込む!

 みたいな感じの演出!! 昔、そんなのを見たことがある気がするわ!!

 

藍俚(あいり)殿……例えが俗物的すぎるでござるよ……』

 

 ほらほら見て見て! 竜巻が晴れたわよ!

 そこにいたのは――

 

「なんだよ、ありゃ……」

 

 銀城君の声が聞こえてきました。

 他の皆も、息を呑む声や絶句しているのが伝わってきます。

 

 そこにいたのは大虚(メノス・グランデ)よりも巨大で、中級大虚(アジューカス)のような禍々しい形状をしていながら。並の最上級大虚(ヴァストローデ)以上の霊圧の密度が感じられる。

 召喚されたのは、そんな感じの生き物でした。

 

 あと、私の予想はちょっと外れちゃいましたね。

 惜しいことに彦禰(ひこね)さんが乗っているのは、肩じゃなくて頭頂部でした。

 ちょこんと乗ってはいますけど、召喚された已己巳己巴(いこみきどもえ)があまりにも大きくて、相対比較すると彦禰(ひこね)さんは豆粒みたいな大きさに見えます。

 

 ……そういえば、グリムジョーは?

 他の人たちは全員、彦禰(ひこね)さんが斬魄刀を解放する際の気配を察して大きく逃げたんだけど……

 

 ……あ。いた。召喚の余波で吹き飛ばされて、シャルロッテに回収されてるわ……

 アレはアレで相当屈辱でしょうねぇ……

 

「ねえ、ハリベル……あのガキ、あんな解号じゃなかったわよね……?」

「そもそもこんな能力ではなかっただろう、もう忘れたか……?」

 

 チルッチたちは一度彦禰(ひこね)さんと戦っているだけに、斬魄刀が解放されたのを見たことがあるみたい。しかもどうやら、前回とは違う能力みたい。

 

「……詳しく教えてくれる?」

「前回、虚圏(ウェコムンド)に来たときは『星を巡れ』と口にしていた。刀身が鞭のように変化し、持ち主から独立した動きで我々を攻撃してきた」

「つまり斬魄刀が進化している? いえ、あるいは……」

 

 思い出して……初めて彦禰(ひこね)さんと出会ったとき!

 あの時に持っていた斬魄刀はどんな感じだったかしら……!? その時の霊圧と比較すれば、ある程度は絞れるはず……

 

「――! ――――――――!!!!!!!!!」

 

 そう思ったのですが、どうやら思い出すだけの余裕はありませんでした。

 巨大な已己巳己巴(いこみきどもえ)は大きく息を吸うような動作をすると、まるで全てを破壊するかのような咆哮を叫び放ちました。

 声なき声のような絶叫は大気を震わせ、震えた大気は殺意に満ちた竜巻を何本も生み出しました。

 竜巻たちは、その全てがまるで意思を持ったかのように私たちへと襲いかかってきます。

 

「くそがっ! なんだよこれは!」

「知るか! あっちがやるってんなら、こっちもやるっきゃねえだろうがよ!!」

「こいつは致命的だぜ……」

「決め台詞言ってる場合じゃないってば! ボクもう逃げていい!?」

「えっと逃げられないと思うの……」

「おいおい……なんだよこれ? いつから巨大ロボットアニメになったんだ?」

「銀城、キミロボアニメとか見るのかい?」

「ガキの頃に見てたんだよ……うぉっ!?」

「うっわぁ……何あれ、ムカつくなぁ……」

「こんなもの……被害が前回の比ではないぞ……」

「別にいいでしょ! 虚圏(ウェコムンド)が被害に合ってるわけじゃないんだから!! 藍俚(あいり)たちがなんとかするわよ!!」

「仕留めようと動いたグリムジョーは正しかったな……問題は実力差を見抜けなかったことだが……俺も探査回路(ペスキス)の鍛え直すか……」

 

 あーあー、あっちこっちで蜂の巣を突いたような大騒ぎね。

 それでも竜巻は、私を狙う動きは見せないみたいだけど……死神は狙わないって事かしら……って、危ない!?

 

 巨大な已己巳己巴(いこみきどもえ)が直接私を狙ってきました。

 大きくて動きが緩慢に見えるけれど、あの巨体がアレだけの速度で動いているってことは、相当なスピードなのよね……

 ああっ! 縮尺がおかしくって頭がヘンになりそう!!

 

『こうやって見ていると、狛村殿の卍解って凄いんでござるな……』

 

 本当にね……

 

 ……ん? 已己巳己巴(いこみきどもえ)の動きが、止まった……?

 いえ、よく見えないんだけど……彦禰(ひこね)さんが、止めた……のかしら……?

 

「……あ」

 

 目を凝らせば頭頂部の彦禰(ひこね)さんは、懐から一枚の札のような物を取り出しました。

 その札を見た途端、大慌てで叫びます。

 

已己巳己巴(いこみきどもえ)! 時灘様が"あちら"からお呼びのようです! それも火急のご様子です! すぐに向かいますよ!」

 

【アヤツノ安否ナド知ッタコトデハナイ ……ダガ今ハ従ッテヤロウ】

 

 已己巳己巴(いこみきどもえ)が低い声を響かせたと思うと、その巨体は一瞬で収縮して元の斬魄刀の形状へと戻りました。かと思えばそのまま彦禰(ひこね)さんが持つ鞘へと収まります。

 ……自動納刀システム?

 

『イマイチ格好が悪い気もするでござるよ……時代劇の最後は、チンと音を鳴らしながら納刀することで、斬られた悪党が倒れて終わるでござる!!』

 

 殺陣の演出としては、それでいいんだけどね……

 

 巨体から降りた彦禰(ひこね)さんは、申し訳なさそうに頭を下げながら叫びます。

 

「もうしわけありません! 皆さんの御相手よりも優先しなければならない大切な用事ができてしまいました! 急がねばなりませんので、今日はこれで失礼します!!」

「「「「……はぁ!?」」」」

 

 ほぼ全員が声を揃えてツッコミを入れたわね……

 けど無理もないわよね……ここから大立ち回りだ、と思ったらコレだもの……

 

「皆さん、せっかく本気で戦っていただけると思ったのですが、誠に申し訳ございません! 自分は時灘様の"本殿"に向かいますので、ご納得が出来ない方は、そちらまでお越し下さい! 納得するまで自分は戦いますので!!」

 

 彦禰(ひこね)さんの上には、已己巳己巴(いこみきどもえ)が開けたと思しき小さな黒腔(ガルガンタ)があります。

 その中へと身体を躍り込ませると、去り際にもう一度頭を下げました。

 

「それから銀城空吾さん! 王になるのは自分ですので! 負けませんから絶対に来て下さいね!!」

「……何がだよ……」

「っていうかさぁ……逃がすわけないよねぇ!!」

 

 ルピが虚閃(セロ)を放ち、同じ気持ちの滅却師(クインシー)破面(アランカル)も霊圧を放ちます。

 ですがそれが当たるよりも早く、彦禰(ひこね)さんは黒腔(ガルガンタ)の向こうへと消えていきました。

 

「向こうの私から連絡が入ってネ。綱彌代――いや、名も無き時灘という男に逃げられたそうだヨ」

「涅隊長……!?」

 

 すっかり閉じた黒腔(ガルガンタ)の痕跡を眺めていた私は、突如として話しかけられた涅隊長の声に反応しきれず驚きの声をあげてしまいました。

 

「向こうは通魂符(ソウルチケット)のような物を使ったが、こちらも似たようなものだろう。いやいや、まさかこのような事が起きるとはネ」

「向こう……? 浮竹総隊長たちも、時灘を逃がしたんですか!?」

「そう言ったつもりだヨ。まさかその程度のことも考えられぬほど察しが悪かったのかネ?」

 

 うわ、この言い回し……

 でもどうやら、この事態は浮竹総隊長らが想像以上に引っかき回してくれた結果なんでしょうね。

 だから彦禰(ひこね)さんは、とにかく時灘の元に戻ることを優先するしかなかった。そのくらい追い詰められていたってことになるはず……

 

「フン。まあ、いいさ。まだ機会はあるからネ。新しい総隊長殿に睨まれぬように、精々私も粉骨砕身させてもらうとするヨ」

 

 ……え? 涅隊長がそんなことをいうなんて……

 

 ……いえ、涅隊長が……そもそも準備時間が数日はあったはずなのに、獲物を逃がした……!?

 

 でも、その割には全然焦っていない……様に見えるんだけど……

 

 どういうのことなのかしら……?

 




●撤退が早い
 あっちが原作よりもスムーズに行っている関係上、どうしてもこっちの撤退も早くなってしまうわけです。

已己巳己巴(いこみきどもえ)(巨大な姿)
 上手いことボケられなかったんですけど、なんて言うのが正解だったのかしら?
 カオナシとか例えれば良かったのかなぁ……
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