お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

426 / 433
第423話 更木剣八にとってはウォーミングアップ

 初めて来たけど、叫谷(きょうごく)の中ってこんな感じなのね。

 なんだか観光気分って感じ!

 ……ごめんなさい、嘘を吐きました。観光地がこんな場所だったらイヤ……

 

 涅隊長が開いた空間を通って出た先は、砂地のような場所でした。

 足の裏からは砂の感触が伝わってきますが、周辺を漂うのはジメジメとした霊圧の感触です。身体中を纏わり付くような霊圧の感触……

 高温多湿で風が全然吹かない場所に放り出された、みたいな感じかしら?

 つまり、それだけ空間の中に霊子が濃いってことでもあるのよね。この中だったら、敵も味方も普段よりも強くなって暴れられそうな、そんな場所です。

 

 まったく、面倒よねぇ……

 帰り道が確保(・・・・・・)されているからまだマシだけど、侵入した瞬間に道が閉じて帰れなくなってしまう――なんてことが、あったかもしれないって考えると恐ろしいわ……

 

『(うーん……確か本来の予定では、これは半分くらい時灘殿の罠で閉じ込められるはずだったのでござるが……待ち伏せもしていたはずでござるが……マユリ殿に時間を与えるというのは、やはり危険でござるなぁ……)』

 

「それにしても、手厚い歓迎だねぇ」

「確かにな。時灘の怒りが伝わってくるようだ」

 

 総隊長と京楽隊長は、周囲を見回しながらのんびりとした様子で感想を口にします。

 私たちから離れた場所から、大量の(ホロウ)の霊圧が漂ってきます。その方角に目をやれば、空を舞う(ホロウ)達の姿が確認できました。

 ただ、霊圧の規模と数から考えると飛行型の(ホロウ)だけじゃないわね。見えないけど、地上型の(ホロウ)も大勢いるはず。

 総数は……ざっと数えて、万単位に届くくらいかしら?

 

「感心してる場合じゃないでしょ! 偶然離れた場所に出たからいいけど――」

「偶然ではないヨ」

「――へ?」

 

 文句を言いかけたチルッチの言葉を、涅隊長が遮ります。

 

「時灘が罠を仕掛けているのは明白だったからネ。転送先を、少し離れた位置に設定したのだヨ。この私がその程度のことを見抜けぬと思ったのかネ?」

「だ、だったら! あそこに直接送ればよかったんじゃないの!?」

 

 顔を赤くして怒りを露わにしながらチルッチが指し示した先には、王城みたいに巨大な建築物が空に浮かんでいました。

 というかアレって、霊王宮よね……

 

「あの回りは少々厄介なことになっているんだヨ。敵もそこまで馬鹿ではないということだネ。破面(アランカル)の女、お望みならお前だけ転送してやろうか? 直接飛ばせばどんな結果となるのか、是非ともデータを収集してみたいんだがネ」

「や、やめとく……」

 

 チルッチはすごすごと引き下がります。

 

「てか、あたしだけ驚いてたのが馬鹿みたいじゃない……アンタらは驚かなかったの?」

「いや、全く。この御仁なら、そのくらいはすると思っていたぞ」

「一緒に来てる時点で、最悪自分だけは絶対に逃げる算段は用意してんだよねぇ……」

「チルッチ……同じ十刃落ち(プリバロンエスパーダ)として言っておくぜ。この程度は当たり前だ」

 

 こっそりドルドーニたちに尋ねますが、チルッチが認識の甘さを再確認する結果となりました。

 

「チルッチの言葉では無いが。もう少し離れた場所が転送先でも良かったのではないか?」

「ウルキオラ! そうよね! もっと言ってやりなさい!!」

「……あの場の(ホロウ)たちは、最低でも巨大虚(ヒュージ・ホロウ)。中には中級大虚(アジューカス)と思しき個体もいる。面倒な数だぞ」

 

 ウルキオラの言葉は尤もですね。

 

「平子隊長を、呼んでくるべきでしたかね?」

「確かに、あの卍解なら打って付けだね」

「だが、今から呼ぶ時間は無いな。奴らは気付いたようだ」

 

 (ホロウ)達はこっちに向かってくるのが霊圧から感じられました。

 そもそもこれだけの数が叫谷(きょうごく)へ入ったわけですから、霊圧の動きで侵入が察知されるのは時間の問題ですが……

 

「ふん! どれだけの数がいようと、儂が――」

「いや、俺にやらせろ」

 

 意気込みかけた狛村隊長ですが、更木副隊長がさらに前に出ます。

 

「なあ、藍俚(あいり)。一つ聞かせろ」

「何かしら?」

「あそこにいるのは、強えのか?」

 

 くいっと顎をしゃくりながら、例のニセの霊王宮を指します。

 

「まだ子供で、成長途中って但し書きが付くけど、強いわよ。下手な隊長よりも、ずっとね」

「ほう! そりゃあいい!!」

 

 強い、と私が保証したからでしょうか。

 更木副隊長の顔が目に見えて上機嫌になりました。

 

「んじゃ、その前にちょっくら準備運動でもすっか……何しろさっきまで昼寝してたんでな!! ちっとばかし身体が鈍ってんだ!!」

「剣ちゃんがんばれー!!」

 

 やちるさんが応援しながら見送る中、更木副隊長は迫り来る(ホロウ)の群の方角へと突進していきました。

 

「予想通りだネ」

 

 ……涅隊長!? え、ということはコレも織り込み済みで、この位置に転送したの!?

 

『マユリ殿ならやりかねんでござるなぁ……』

 

 ま、まあ……更木副隊長なら負けないでしょうね。

 むしろ群れを皆殺しにして追いついてきた更木副隊長が、彦禰(ひこね)さんを殺さないかの方が心配だわ……

 どうか、どうか! 半殺し……いえ、九割殺しでいいので、済ませてくれますように!!

 

『殺すなとは、ずいぶんと無茶な注文するじゃねえか……大体こんなことを言いそうでござるな……』

 

「さて、それじゃあ急ぐぞ!!」

「え、ちょっと……!? いいの?」

「チルッチ、大丈夫よ」

 

 更木副隊長と、彼とは反対方向へ向けて進ん出す浮竹総隊長らとを交互に見ながら、チルッチが尋ねてきます。

 なので私は、力一杯断言しました。

 

「私たちが心配するのが、烏滸がましいんだから」

「そ、そうなの!?」

 

 ……破面(アランカル)が死神を一番心配しているってのも、おかしな光景よね。

 




●一緒に行くマユリ様
 原作では「接続距離が長くなると行動制御が不正確になる」「罠に飛び込むつもりはない」などと言っていましたが。
 準備時間がある以上、そんな罠に引っかかるわけもないんですよ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。