お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第424話 空中楼閣

 それは、異形の獣の群だった。

 地平線の彼方まで続くと錯覚するほど、視界に収まりきらぬほどに無数の群体。

 無人の荒野を行くが如く進んでいたはずのその群は今、まるで見えない壁にぶつかったかのように歩みを止めていた。

 いや、見えぬ壁にぶつかっていた方が、よほど幸せだっただろう。

 少なくとも、殺されることはないのだから。

 

「おらあぁぁぁっ!!」

 

 腹の底からの絶叫を上げながら、更木剣八は手にした斬魄刀を振るう。

 始解すら行っていない、ただの浅打でしかないそれは、たまたま近くにいた(ホロウ)を数匹纏めて易々と斬り裂き、屠る。

 その姿に周辺の(ホロウ)たちはギチギチと昆虫が鳴くような音を鳴らそうとするものの、それが最後まで鳴り響くことはなかった。

 

「うるせえよ」

 

 部屋の外から聞こえた音が、たまたま癇に障った。なんとなく喧しかった。

 その程度の気軽さで斬魄刀を振るい、音を鳴らした(ホロウ)を縦一文字に真っ二つにしてしまう。

 

「ギィィィッ!!」

 

 剣八の動きが止まった瞬間を狙って一匹の(ホロウ)が顎を開き、剣八の身体に牙を突き立てようとした。

 だが身体に食い込み肉を斬り裂くはずの牙は、薄皮一枚を僅かに凹ませたところで動きを完全に止めてしまう。

 

「ありがとよ。おかげで斬りやすくなった」

 

 自らの牙が通じぬ理由は単純明快。剣八の霊圧があまりにも強大すぎるだけだ。

 鉄板よりも堅牢な剣八の皮膚を突き破るには、その(ホロウ)の霊圧はあまりにも低かった。

 大虚(メノス・グランデ)へと進化し、中級大虚(アジューカス)にまで至った彼が最後に目にしたのは、自らの眉間に迫り来る斬魄刀の切っ先だった。

 

 群の中でも強い霊圧を放っていた一匹が瞬時に屠られたことで、周辺の(ホロウ)たちは一気にざわめく。

 圧倒されたかのように、その場から逃げ出そうとする。

 

「テメェら、逃げてんじゃねえ!!」

 

 だがその動きを察したのか、剣八は吠えた。その瞬間、まるで金縛りにあったかのように(ホロウ)達の動きは完全に止まる。

 

 金縛りの正体は、ただの霊圧。

 苛立ち混じりに放った剣八の霊圧は、万を超す群の全てを覆い包むと、その中の(ホロウ)達全員に作用しただけのことだ。

 地上型の(ホロウ)たちは蛇に睨まれた蛙のように竦み上がり、空を飛んでいた(ホロウ)達は飛ぶことを忘れたように真っ逆さまに落下していく

 

「ギイィィィィツ!!」

「ガアアアアアアッッ!!」

 

 自由に動くことを封じられた恐怖から逃れようと、一匹の(ホロウ)が反射的に虚閃(セロ)を放った。

 弾かれたようなその動きに、周辺の(ホロウ)達は同調すると剣八へ向けて虚閃(セロ)を放つ。

 

「……はっ!」

 

 視界の全てを塗り潰さんばかりの、白い閃光。

 一匹一匹は弱くとも、これだけの数の(ホロウ)が放てば、その威力は最上級大虚(ヴァストローデ)破面(アランカル)のレベルを超えるだろう。

 剣八は歯を剥き出しにしながら笑い、一歩たりとも動くことなく純白の奔流に自ら飲み込まれていった。

 

「ちっとばかり、ピリッと来たぜ。やりゃあ出来るじゃねえか」

 

 飲み込まれた白い津波の中から、僅かに肌を焦がしただけの剣八が現れた。

 

 それを直接目にした個体は――

 それを霊圧で感じ取った個体は――

 

 剣八から逃れようと新たな行動を取り始めた。

 

 ある個体は戦力を増やすべく自らの分身を生み出し始め、またある個体はただ本能に従い今度こそ全力で逃げ出そうとする。

 だが逃げようにも、自身の背後にも周辺にも無数の同胞たちが詰めている。道がない。ならば、どうする?

 邪魔な同胞を殺してでも、己の安全を確保すればいい。

 

「おいおい、なにしてんだよ?」

 

 隣の同胞が生み出した分身を食い殺し、真後ろにいた同胞を自らの爪で斬り裂きながら我先に逃げだそうとしていく(ホロウ)達。

 その姿に剣八は落胆しかけるが、すぐにその機嫌は直る。

 

「……なるほど、そういうことか。やってみろよ」

 

 逃げるのでもなく、戦力を増やすのでもない道を選んだ(ホロウ)がいた。

 その(ホロウ)が選んだのは、自身の強化。

 (ホロウ)を喰らい、大虚(メノス・グランデ)を喰らい、最下級大虚(ギリアン)を喰らい、中級大虚(アジューカス)を喰らい――何万もの(ホロウ)を喰らい尽くして、更木剣八を倒せるほどにまで進化すればいい。

 

 幸い餌には事欠く心配はない。

 都合良く向かってくる同胞もいれば、わざわざ餌を増やしてくれる親切な同胞までいる。

 生き残った最後の(ホロウ)ならば更木剣八も倒せるはず。

 そして生き残る(ホロウ)は、自分に決まっている。

 そんな考えが恐慌状態に陥った(ホロウ)たちに伝播し、群の各所で新たな惨劇が始まった。

 

「こちとら朝まで付き合わされて、昼寝してたところをたたき起こされたんだ……ならせめて、愉しませてみせろってんだ!!」

 

 さながら蠱毒の壷の底と化した狂気の戦場の中へ、更木剣八もまた嬉々として参加した。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

  

「――っていう感じだよ」

「あ、ありがとう……」

「どういたしまして」

 

 私の肩に乗ったやちるさんが、更木副隊長の今の様子を教えてくれました。

 どうやら、そんな感じ……みたいです……

 

 なんで分かるんだろう? とか、そういう細かいツッコミは無しでお願いします。

 私にも理解できないから……

 

『敢えて言うなら、剣八殿とやちる殿だから。でござるな!!』

 

 本当にね……

 

「えっぐいことになってんのね……」

「俺、頭がおかしくなったか? ゾンビにされたの、一瞬だけ感謝しちまった」

「恐怖で同士討ちかよ。滅却師(クインシー)でもそこまでやらねーぞ」

「平子隊長の逆撫の卍解があれば、とか言ってたけどさ……いらなかったね……結果論だけど」

 

 破面(アランカル)やら滅却師(クインシー)やら死神やらが、実況中継を聞いて色んな感想を口にします。

 ま、まとめると……更木副隊長が元気そうでなによりです、ってことでいいのよね?

 

『……そうでござるな!!』

 

 でも、強いヤツと斬り合いたいなら自分も参加するのは悪手なんじゃ……? 蠱毒の理屈なら残ったのが最強なんでしょ?

 

『それは簡単でござるよ。だって更木殿は――』

 

「剣ちゃんってば、最後の一人になるまで我慢できないんだよねぇ」

「下手に最上級大虚(ヴァストローデ)を増やされても困る。ならば更木の行動は間違っていない」

「そのようなこと、一切考えてはおらぬだろうがな……」

 

『あ、全部言われたでござる……ひっく、ひっく……拙者の台詞……』

 

 泣かないの! アンタいつも好き放題喋ってるじゃない!!

 

「一つ疑問なのだが」

 

 狛村隊長が口を開きました。

 

「あれだけの数の(ホロウ)を時灘はどのようにして集めたのだ? 儂らならば殲滅させれる程度の霊圧しか放っていなかったとはいえ……あの数は単純に脅威となるぞ?」

「確かに。あれだけの数を瀞霊廷にでも放たれれば、先の大戦の二の舞になりかねぬほどの被害が出る」

 

 朽木隊長が頷きます。

 確かにそうよね。数で攻めるってのは、ある意味基本中の基本なんだけど。

 そう思っていると、涅隊長が推測を教えてくれました。

 

「当然、已己巳己巴(いこみきどもえ)の能力だろうヨ。あの大量の(ホロウ)からは、同種の霊圧が検出された。無論全個体を検査したわけではないが、あの混ざり物がこれまで見せた能力から推測するに、可能性は極めて高いだろうネ」

 

 最後に「検体を無数に入手可能……だが全て近縁種では食指も動かんネ。ツマラン能力だヨ」などとぼやいていましたが。

 けど、確かに納得出来る説明よね。(ホロウ)の能力を持った斬魄刀なら、そのくらいは平気でやりそう。

 ……私たちが瞬歩(しゅんぽ)で移動している中、飛廉脚(ひれんきゃく)で優々と移動していなければ、素直に納得できたんだけど。

 

『歩く歩道で移動しているみたいで、ちょっと面白いでござるなぁ』

 

 

 

 などとやっている内に、空中に浮かぶ巨大な楼閣の下まで辿り着きました。

 首が痛くなるほど見上げなければならないその建造物の姿に、浮竹総隊長たちは呆れるやら関心するやらといった様子で目を細めます。

 

「しかしまあ……場所が叫谷(きょうごく)とはいえ、こんなものを人知れずに建造するなんてさぁ……四大貴族の権力があるとしても、これほどとは……」

「まさかとは思うが、霊王宮と同じ仕組み……か?」

「実際に目にしてきた総隊長殿が言うのであれば、間違いなかろう。ただアレは秘匿技術だったはずだが……」

 

 霊王宮と同じ仕組みという言葉には、私も同意見です。

 ここに夜一さんがいたら、何て言ったかしらね……

 

『……え、まさか……ハリベル殿に続いて夜一殿も不在でござるか!?』

 

 当然、砕蜂もいないわよ!

 その人達は、綱彌代のお宅を徹底的に調べるからってことで不参加……うぅ……

 朽木隊長もいるし、四大貴族という名の権力は足りてるからって言われて……

 女っ気が、女っ気がない……!!

 

『褐色成分が足らんティーノ……でござるよ……拙者、もう駄目…………説明しよう! 射干玉ちゃんは黒いので、褐色巨乳美女がいないと、なんかこう、やる気があまり出ないのだ……』

 

 何を適当なナレーションを入れてるのよ……

 私で我慢しなさい、私で!! 褐色じゃないけど!!

 

「技術の無断登用の件は追加するとして……あんなものを浮かべているとなると、やっぱり転界結柱(てんかいけっちゅう)の片方は……」

「だよねぇ……」

 

 時灘の隠れ家を調べていた時に、転界結柱(てんかいけっちゅう)のような道具が見つかっていました。

 藍染の時に、偽物と本物の空座町を入れ替えるのに使ったアレです。

 正確には、浦原が作った転界結柱(てんかいけっちゅう)を無理矢理見よう見まねで作ったものらしいですけど。

 

 その劣化転界結柱(てんかいけっちゅう)が時灘の元から見つかり、瀞霊廷で打ち合わせをしている最中には「何かを入れ替えるのだろう」と推測していました。

 涅隊長の調査から「上方、つまり空に向けて転送範囲が設定されている」ということは分かっていましたからね。

 さらに加えて「檜佐木君から限定解除の申請が来ていた」ことや、現世担当死神から「空座町がおかしい。まるで隔離されているようだ」という報告が来ていたことも、その節を裏付けてくれました。

 

「だがまだ、現世に転界結柱(てんかいけっちゅう)を設置するような大がかりな真似をどうやって秘密裏に行ったかは疑問のままだな。涅、重ねて尋ねるが本当に何もしらないのか?」

「総隊長殿には既に一度、同じ返事をしているはずだがネ。私も知らんヨ。四六時中現世を監視し続けるほど暇人ではないのだからネ」

「そんな動きがあれば、浦原さんやひよ里さんが気付くはずですし……」

 

 そういえば檜佐木君、限定解除の申請を最後に連絡が取れなくなったけど。大丈夫、よね……?

 ……東仙要の件で関わりがあるとはいえ、檜佐木君だもん。大丈夫か。

 

『その、変にメタな信頼は止めた方がよいでござるよ……』

 

 私が「ひよ里さん」と言ったところ、元技術開発局のメンバーとして関わりのある涅隊長が頷きました。

 

「ひよ里? ああ、あの喧しい小娘かネ。なるほど確かに、アレなら気付くだろうネ。何しろアレは対して役に立たない割に、面倒ごとはコチラに押しつけてくる要領の良いタイプだったからネ」

 

 ――なんやそれ、喧嘩売っとるんか? それなら高値で()うたるぞコラァッ!! それとも自己紹介でもしとるんかワレェッ!!

 

 ……あら? 今のって、空耳かしら……? 疲れているのかしらねぇ……

 

『きっと神のお告げでござるよ』

 

 神のお告げ……? ……あっ!!

 

「……あの、アウラさんはどうでしょう?」

 

 ひよ里さんからの天啓を得たので、ダメ元半分確信半分で提案してみました。

 私の言葉に、この場のほぼ全員が不思議な顔をします。

 

「アウラ? 湯川殿、それは一体……?」

「ん? どこかで聞いたなソイツの名前……」

「は? 全然聞いたことないわよそんなヤツ」

破面(アランカル)のキミたちが知らないのは当然だけど、朽木隊長たちは知らなかったんだっけ? 現世でXCUTIONって宗教団体の教祖をしている人の名前さ」

「湯川? 何故その名前が出るんだ?」

 

 浮竹総隊長の問いかけに、私は応えます。

 

彦禰(ひこね)さんが言っていたんです。曰く、母親のような存在だそうですけど」

「聞いてないぞ、その報告は」

「申し訳ありません。何しろあの子が戦場に割って入る直前くらいに話してくれたので……今まで忘れていました」

 

 だって、あのタイミングだったんだもの!

 名前を聞いたと思ったら、あの茶番の戦いに割って入ったんだもん!! かと思ったら斬魄刀を抜いて虚閃(セロ)を食べるんだもん!!

 そんなの忘れるに決まってるでしょ!!

 心の中で逆ギレしつつ、頭を下げながら仮説を口にします。

 

「たしか会員数は多かった、ですよね? だったらその信者に協力させたら、どうでしょう? 更木副隊長に恐怖した(ホロウ)の群みたいに」

「……なるほど。百年に一度くらいは、マシなことを言うのだネ」

 

 涅隊長が珍しく褒めてくれました。

 

「涅、何か解ったのか?」

「現世の人間ならば、多少不自然な動きをしようと担当死神が気にすることはない。アイツらは(ホロウ)や霊共しか見ていないからネ。人間が多少霊圧を持っていようと、知ったことでもないからネ。非効率だが、隠れ蓑としてはマシな方だネ」

「なら、その信者たちを使って何かをするというのか!?」

「生きた転界結柱(てんかいけっちゅう)に造り変えたか、あるいは例の劣化品を持たせるか……実際に検証したわけではないがネ。どちらの手段も、一度限りの代理品として使うだけなら十分だヨ」

 

 一度だけの代理品という言葉に、死神たちは顔を顰めます。

 造り変えるというのも、かつての痣城剣八の時を考えれば、ありえますからね。

 

「その辺は、直接問いただそうじゃないか」

「ああ、そうだな……答えろ! 時灘!!」

 

 浮竹総隊長と京楽隊長の言葉を聞いていたように、宮殿の上部――霞台(バルコニー)のような場所から時灘が姿を現しました。

 

 

 

 

 

「来たか、死神ども。破面(アランカル)滅却師(クインシー)完現術者(フルブリンガー)まで。揃いも揃って私の邪魔をしたいというわけか」

 

 天上の建造物の上から私たちを見下ろすその姿は、さながら時灘が王にでもなったみたいですね。

 とはいえその実態は、家名を失った犯罪者なのですが。

 

『しかも全国売り出し中の激アツ犯罪者でござるよ!!』

 

「まったく……私の崇高な目的を理解せぬまま、目先の些事にのみ囚われ続ける……実に嘆かわしい……」

「何を言おうと構わないけどさぁ……キミ、既に大罪人だよ? 大人しくしてくれるとこっちも助かるんだけどなぁ……」

「はぁ!? 一発くらい殴らせろよオッサン!」

「オッサン!? ま、確かにそうだけど……」

 

 リルトットのオッサン発言に、京楽隊長が落ち込んだように僅かに肩を竦めました。

 それと入れ違うように、今度は浮竹総隊長が口を開きます。

 

「随分と態度が大きくなったな、時灘。その建造物はそれほどまでに自信があるのか?」

「自信? 違うぞ十四郎。これは証拠だよ」

「証拠? 何を証明するつもりだ?」

 

 何やら重要そうな話になってきたわね。

 ここは黙っていましょうか。邪魔になりそうだし。

 

『ヘタに口を挟んでもロクなことにならないでござるからな』

 

「ユーハバッハが討たれねば、世界は魂魄の循環しない世界へ戻っていた。それは尸魂界(ソウルソサエティ)の歴史を無に帰す行為だ。それを阻止した功績に見合った称賛を届けてやりたいのだよ」

「「「「…………」」」」

 

 ……え? あの……なんで私のことを、みんな見てるの?

 なのに時灘だけ、全然私のことを見てないんだけど……

 黙ってましょうって言った途端に何コレ!?

 

藍俚(あいり)殿、ユーハバッハ殿に色々やったでござるからなぁ……』

 

 ハリベルもバンビエッタちゃんも泣かせるようなヤツには、当然でしょう?

 

『(そのお二人、今はいないのでござるが……)』

 

 しかもなんだか、私の発言をみんな待ってる……?

 え、私!? 私が何か言うタイミングなの!? ターン制の舌戦バトルか何かなの!?

 

『そりゃあ、ユーハバッハ殿に一番色々やったのは藍俚(あいり)殿でござるよ? 一護殿や更木殿も相当頑張りましたが……』

 

 だから代表として私が何かを言えってこと!?

 えっと、えっと……

 

「……そんなもの、別にどうでもいいんだけど……」

「口を挟むな、烏滸がましいぞ湯川藍俚(あいり)!」

 

 怒られたんだけど!? リアクション待ちだったのはそっちでしょ!?

 

「偽物作りが多少上手い程度で思い上がったか? それとも称賛は己のみが受け取るものだと錯覚したか?」

「どれだけ言葉で着飾ろうと、あなたにそんな権限はない――いえ、そのつもりも無いのでしょう!? 浮竹総隊長たちから聞いた限りですが」

「だよねぇ……ボクもそう思うよ」

 

 京楽隊長が援護してくれました。

 

「ちょっと考えた。その大きな空中楼閣を空座町に転移させて、死神や(ホロウ)の存在を公にする。現世でXCUTIONの関係者が動いていたんだ。世界中に広まるだけの下地は出来ている。そうなりゃ世界は大混乱さ。だって今まで信じていた物がぜーんぶひっくり返っちゃうんだから」

「混沌とした世界に産絹彦禰(ひこね)という王を立て、お前はそれを眺め、笑う……京楽の言葉ではないが、そんなところか? そんなことのためにこれだけの騒ぎを起こしたのか、お前は!!」

 

 浮竹総隊長が叫び、尋ねます。

 

「うっわ、サイテー。やりたきゃ勝手に一人でやってよ。こっちに面倒掛けるんじゃないっつーの。そんなんだから死神連中全員敵に回すのよ……」

「己の欲望のため、か……グリムジョーとて、そこまでではなかったぞ」

「ほーんと、美しくないわぁ。やな男ね」

「ルピ殿なら仲良くなれるのでは?」

「は? やめてよね。ボクそこまで頭悪くないよ」

 

 破面(アランカル)のみんなが、そんなことを吐き捨てます。

 ……あら? なにやら袖が引っ張られる感触が……視線を動かすと、リルトットの仕業でした。

 彼女はこっそりと、耳打ちするような小声で私に尋ねてきます。

 

「なあ、死神。あのクズ野郎、ひょっとしてお前のこと知らねえのか?」

「……え?」

「ユーハバッハがあんな事になってんだぞ? 功績だ称賛だって名目なら、お前を担ぐんじゃねえのか?」

「自分もそう考えました。大霊書回廊の記録ですら狂った以上、時灘が当時のことを正確に知ることは不可能です。湯川殿の卍解を正確に知っていたのであれば、色々と杜撰が過ぎます」

「では黒崎一護のみに注意を払っていたと? 霊王としての素質のみしか脅威と見なしていなかったと?」

 

 朽木隊長や狛村隊長が話に入ってきました。

 そういうこと、なの……?

 確かにあの辺りは、記録がグチャグチャになっていたって聞いたし。馬鹿正直に記録に残せないことばっかりだし。

 

 でも綱彌代家って歴史を司ってて、時灘は映像庁のトップだったはずだけど……

 それなのに踊らされたってこと?

 本来の目的からすれば、その辺は“それっぽい理由”さえあれば、どうでも良いんでしょうけど……

 

「相手が馬鹿であればやりやすい。喜ぶべきだろうネ。しかし馬鹿でも力があると、ほんの少しだけ厄介だヨ」

「涅隊長?」

「涅……何か解ったのか?」

 

 総隊長たちに並ぶようにして現れた涅隊長は、空中楼閣を眺めます。

 

「大したことではないのだがネ。あの楼閣の中には様々な武装が施されているのが解ったのだヨ。瀞霊廷の一区画くらいなら全てを吹き飛ばしてなお余る砲撃に、数多の人間を紙の様に撃ち抜く無数の銃弾……おや、毒素まで仕込んでいるのかネ? ククク、いいじゃないか。嫌いじゃあないヨ」

「涅マユリ……見抜くか?」

「よもや、見抜けないと思っていたのかネ? この程度のことを」

 

 んべーっと舌を出しながら、事もなさげに言いました。

 ……って、ちょっと待って!!

 

「待て、つまりこの空中楼閣を現世に飛ばしたら……」

「その兵器で人間を殺すと……!?」

「ありゃりゃ、そりゃ駄目だってば。時灘……大人しく捕まってよ――」

 

 京楽隊長の姿が一瞬にして消えました。

 

「――ねっ!!」

「くっ!!」

 

 次に現れたのは、楼閣の霞台(バルコニー)に立つ時灘の足下でした。大小二振りの斬魄刀を既に抜いており、現れると同時に斬りかかります。

 花天狂骨ですね。ということはアレは陰鬼(かげおに)の能力、影を伝わってワープしたわけか。

 舌戦に付き合っていたのも、隙を突くためだったんでしょうけど。武装の内容を聞いて強硬手段に出たってところかしら?

 けど時灘もある程度は予期していたようで、煌めく刃から身を捩って避けます。

 

「ありゃ、避けられちゃったか」

「警戒はしていた! 当然だ! 私を誰だと思ってる!?」

 

 誰って……犯罪者よね?

 あと、私の情報をちゃんと集められなかったおマヌケさん。

 

『すっげー哀れみの目で見られてるでござるなぁ……時灘殿が、ちょっとだけ可哀想でござる……』

 

 時間を稼げば更木副隊長が追いついてくるのよ? 最悪、あの卍解で暴れられるのよ? 唯一の回避策である地位や権力すら失ってるのよ?

 もう完全に詰んでるでしょ……

 

彦禰(ひこね)!!」

「はい! 時灘様!」

 

 とはいえ、その程度のことは時灘も理解しているのか。

 名前を呼べば、彦禰(ひこね)さんが空中楼閣の天辺の辺りから降ってきました。

 綺麗に着地を決めたその姿からは、少し前に出会ったとき以上の霊圧が感じられます。まるで何十年も修行したみたいな、そんな印象を。

 

「……アイツ、あのガキよね……? あたし、見間違えてないわよね……?」

「成長が早いな。だがまあ、やってやれないこともあるまい」

「やっぱり!? やっばぁ……ハリベルとグリムジョー(かえ)らせたの間違いだったかな……」

「言いだしたのはチルッチ殿であろう? 良い女性は自らの発言に責任を持つものだぞ?」

「えっと、当初の目的通りならアレにボクらが戦うの……? うわぁ……」

 

 破面(アランカル)組も彦禰(ひこね)さんから伝わる霊圧に、腰が引けています。

 

「アレ、俺が最前列だよな?」

「決まってんだろ。堂々と盾になってろ(死んでこい)

「致命的だぜ……」

「あとナジャークープ! とっとと盗撮してろ!」

「だからリルトット! お前、言い方ってあるだろ!!」

 

 滅却師(クインシー)組は、アスキンががっくりと肩を落として、ナナナが憤慨していました。

 

彦禰(ひこね)! 彦禰(ひこね)! ここにいる者達を見ろ! そいつらの事が好きか彦禰(ひこね)!?」

 

 京楽隊長と切り結びながら、時灘は叫びます。

 その叫び声に彦禰(ひこね)さんも応えました。

 

「はい! あの時お会いした方々から少なくなっていますが、皆さん大事な方です! それに皆さんは将来私の民になるのですから、嫌う理由がありません!」

「そうか、それは何よりだ! 好きな物は大切にしろ。常日頃から真心を手向けることを忘れるな!」

「はい! ありがとうございます! 時灘様!」

「だが、そのお前が好きな者達は、私のやることを邪魔しようとしている敵になったのだ! 今すぐ皆殺しにしてくれないか?」

 

 健やかな調子で語られた、残酷な命令に対して――

 

「……えっ!?」

 

 彦禰(ひこね)さんは、困惑したような声を上げました。

 

「どうしたのだ彦禰(ひこね)!? そいつらはお前が王になることを拒んでいるのだぞ! お前の民になることを拒んでいるのだぞ!?」

「で……ですが……その、毎日……」

 

 それまでの、世間話でもしているような気軽な声から一転して、時灘の声は焦りや怒りの感情がありありと込められていました。

 自分の言うことに従えと告げる声に、彦禰(ひこね)さんは困ったように私のことを見ます。

 

 ……え? 私? また私??

 

 なんでそんな、訴えかけるような目で私を見てるの……?

 

 ――って、原因は一つしか無いわよね。

 私が彦禰(ひこね)さんに「毎日お菓子を作ろうか?」とか言ったから、そこで揺れ動いているに決まってるわよね!

 時灘、あなたは子供のあやし方を知らなかった! それが敗因よ!!

 

藍俚(あいり)殿も言うほど詳しくはないでござるが……そもそも時灘(アレ)と比べたら、誰だって上手そうでござるよ……織姫殿とかと合わせた日には、すっごい意気投合しそうでござる……』

 

 あ、それ私も見てみたい!

 

彦禰(ひこね)! 私の言うことが聞けないのか!? 私はお前を王にしてやるんだぞ!!」

「う……うううう……」

 

 彦禰(ひこね)さんは頭を抱えながら、もの凄く悩んでいます。

 それを見た浮竹総隊長たちが動き出します。

 

「今のうちだ! 行くぞ、時灘を!!」

「ああ!」

「承った!!」

 

 邪魔されぬうちに、京楽隊長を援護しようということでしょう。

 なので私も続きたい……んですけど……私も、行って大丈夫なの?

 

 彦禰(ひこね)さん、私がいるから悩んでいるのよね?

 私がいなくなったら、とりあえず時灘の言うことを優先させたりしない?

 けど……時灘が持っている斬魄刀は……

 

「……行って! 藍俚(あいり)!!」

「邪魔なんだよ、死神!!」

「えっ……いたっ!?」

 

 チルッチから声を掛けられて、リルトットからお尻を蹴られました。 

 

「死神の目的はあの腐れ犯罪者だろ? ならとっとと行ってこい! 浮竹を助けてこい!!」

「そういうこと。あ、ちゃんと生きて連れてきてよ? 銀城が怒るからさ」

「……ありがとう!」

 

 さらに銀城君たちからの声も受けて、私も時灘目掛けて駆け出します。

 

「掻っ切れ! 車輪鉄燕(ゴロンドリーナ)!」

(とざ)せ、黒翼大魔(ムルシエラゴ)

 

 背後からは、チルッチ達が帰刃(レスレクシオン)する気配がしました。

 

 

 

 ……あれ? 涅隊長は??

 




最後にこう一行書くだけで、ものすごく伏線っぽく見えるから不思議。
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