お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第425話 急募! ここから時灘を強く見せる方法

「京楽!」

「京楽隊長! ご無事ですか!」

「おっと、援軍の到着だね。いやぁ、ありがたい」

 

 陰鬼の能力で移動した京楽隊長の後を追って、私たちも時灘の所へ到着します。

 目の前の敵から目を逸らさず警戒を怠らないまま、それでも京楽隊長は背中越しに安堵したような声を上げました。

 

 京楽隊長の背中から追いついたわけですから、私たちからは時灘の正面の姿がはっきりと見えます。

 時灘は、すでに斬魄刀を抜いていました。そして、私たちが揃ったのを見てニヤリと笑いました。

 

「四海啜りて天涯纏い、万象等しく写し削らん――」

「まずい!」

「させぬぞ!!」

「……千本桜」

 

 解号を唱え始めた瞬間、京楽隊長は慌てて花天狂骨を操り時灘を斬り捨てようとします。

 狛村隊長は全力の瞬歩(しゅんぽ)を用いて、時灘へと迫ります。

 その後ろでは朽木隊長が斬魄刀を始解させ、攻撃を仕掛けようとします。

 

 私たちは全員、時灘が持つ斬魄刀の能力について知っています。

 始解のみとはいえ、あらゆる斬魄刀の能力を模倣可能。

 現存する全ての斬魄刀の――いえ、下手をすれば過去に存在した強力な斬魄刀の能力を模倣される可能性すらあります。

 時灘は映像庁の担当でしたからね。その手の知識はお手の物でしょう。

 つまり、どんな攻撃が繰り出されるか予測できない。手段と組み合わせによっては、無限に苦戦を強いられることになります。

 

 さらには使えば使うほど魂魄を削る、つまり死に近づくという短所があるわけですが。

 今回に限っては、これが長所として働いています。

 好き放題に暴れた挙げ句、自分の罪を償うことなく死んで逃げられる可能性すらあるわけです。

 

『てっきり「寿命なんて作者のさじ加減一つだから、最終回間際まで死なないぜ。なんならノリで克服するぜ」みたいな事になるとばかり思ってたでござるよ』

 

 娯楽作品の「命を削るデメリット」の扱いに対する考え方、否定はしないけどさぁ……

 それは持ち主が人気の味方キャラとか、人気のライバルキャラの場合だけだから。

 今回の場合、死んで終わるのがアリのタイプだから。

 

 なので、使わせるわけにはいかないと、時灘から斬魄刀を奪い取ろうとします。

 迫り来る複数の刃に対して、時灘は……

 

 ……待って! それは駄目!!

 

「だめっ!!」

「気付いたか!」

 

 京楽隊長達を止めようと声を上げましたが、時灘の動きの方が早かったようです。

 彼は、迫り来る刃に向けて身を晒しながら自ら飛び込みました。その異様な行動に、京楽隊長たちの手元が僅かに狂います。

 花天狂骨と浅打状態の天譴に貫かれ、千本桜の舞い散る花びらに身体中を斬り裂かれる。口から血を垂らし、全身を傷だらけにしながら、それでも痛みに怯んだ様子は一切見られません。

 

艶羅鏡典(えんらきょうてん)!」

 

 時灘は斬魄刀の名を口にしました。

 名を呼ばれた斬魄刀は、その刀身を変化させます。

 正方形と十字楔を組み合わせた幾何学的な鍔から伸びていたのは、鏡の様に鮮やかな刃。その刃が目を眩ませるほどに強く輝きました。

 強すぎる光に思考力と判断力を奪われた一瞬の間に、時灘は大きく下がって自分の身体に突き刺さった刃を強引に引き抜きます。

 

『……見えてるんでござるか?』

 

 ちょっと離れていたから、なんとかね。

 京楽隊長達は近くにいたから、光をモロに受けて竦んじゃったみたいだけど。ほら、閃光手榴弾ってあるでしょ? あんなの、理解してても戸惑うでしょ? それと同じよ。 

 

 そして、斬魄刀の解放を終えた時灘の姿は予想通り無傷でした。先ほどまで付いていた傷の一切が見当たりません。

 そうそう、見当たらないと言えばもう一つ。彼が手にする斬魄刀にも、刃がありません。

 

「やっぱり……瓠丸(ひさごまる)の能力ね……?」

「ご名答」

 

 とりあえず、無傷の方から片付けることにします。

 脳裏に浮かんだ斬魄刀の名を告げたところ、時灘はあっさりと首肯しました。

 ですがそれを知らないのか、狛村隊長は光に焼かれた目が痛いのか顔を顰めしながら聞いてきます。

 

「……湯川隊長、それは一体?」

四番隊(ウチ)の席官の斬魄刀です。斬った相手の傷を吸い取って癒やし、攻撃に転化します」

「なるほど、それなら気付くのも道理……」

「いえ、気付くのが遅れたのは私の失策です。申し訳ありません」

 

 朽木隊長たちに向けて、私は頭を下げます。

 浮竹総隊長達は、さらに私へと尋ねてきました。

 

「つまり……治療のアテがあった、ということか」

「オマケに聞いた限りだと、どれだけ斬っても無駄ってことかい?」

「吸える傷には限度があります。なのでそこまで追い込むか、一撃必殺か。あるいは斬魄刀を奪い取るか」

「そう上手く行けばいいがな」

 

 余裕綽々とばかりの態度で、時灘は刃の無い斬魄刀を見せつけるように揺らします。

 いえ、刃が無いというのは間違いですね。

 ただ見えないだけ。

 霊圧を探れば、そこには艶羅鏡典(えんらきょうてん)の刀身が確かに存在しているのが感じ取れます。

 

 それにしても瓠丸かぁ……完全に忘れてたわ……

 当初の予定では、艶羅鏡典(えんらきょうてん)を使わせないハズだったんだけどね……

 けどこうして使われた以上、あれ(・・)を使われることも考慮しないと駄目よね。

 いえまあ、対策は考えてあるんだけど。

 死神も破面(アランカル)も恐怖させた、あの斬魄刀を。

 

「この刀をこのように使うのは、実に詰まらない……興醒めだ。だが、追い込んだお前達が悪いのだぞ?」

 

 その言葉と共に、パリンと何かが砕け散る音がしました。

 目の前の光景が、まるで水が砕け散るみたいに霧散していきます。

 

「この斬魄刀の能力を知っていたのだ。ならば当然、警戒しているはずだろう? さあ、見せてみろ! 私に教えてくれ!! 鏡花水月(きょうかすいげつ)への対抗手段を」

 

 想定通り、時灘は鏡花水月を使ってきました。

 

 

 

 

 

「湯川、どうだ?」

藍俚(あいり)ちゃん、行けそう?」

「わかりません。ですが、おそらくは……」

 

 浮竹総隊長と京楽隊長の二人の言葉に、私は少しばかり自信なさげに返事をします。

 まだ時灘の底が見えてないから、確約が出来ないんですよ。

 

「頼む」

「……全力を尽くします」

 

 そう告げると、私は一人。斬魄刀を抜きながら時灘の前へと出ます。

 すると時灘は馬鹿にしたような薄笑いを浮かべてきました。

 

「まさか、女一人を最前線に立たせるのが対抗手段だとでも言うのか? ハッ、護廷の死神も墜ちたものだな」

「墜ちたって言うけどね、時灘。藍俚(あいり)ちゃんは現役隊士の中じゃ、一番先輩なんだよ? そりゃあ、隊長になるのは遅かったけど」

「それがどうかしたのか? この女一人でどうにかなるのなら、藍染惣右介はとっくに倒れているぞ? お前達が無い知恵を絞って考えた、妙な機械(カラクリ)を今からでも取ってきたらどうだ?」

 

 妙な機械(カラクリ)って……ああ、アレですね。

 映像を外部から撮って、戦う死神に耳にイヤホンを付けて指示を出すやり方。

 

『テメェ、ディレクターの言うことが聞けねえのか! ならこの事務所のタレントは二度と使わねえ! テレビ局大作戦でござるな!!』

 

 そんな作戦名にした覚えは微塵もないんだけど!?

 やってることは大体合ってるから文句が言いにくいんだけどさぁ!!

 

「そんな時間は無いよね。だから、時灘。ここで大人しく捕縛させて貰うわよ」

「威勢の良い言葉だが、大丈夫か? 目にした姿も耳にしている声も、全てが完全催眠の偽物かもしれぬのだぞ?」

「いいえ、それは……ありえない!」

 

 煽る時灘の言葉を真っ向から否定すると、瞬歩(しゅんぽ)で接近して斬魄刀で斬りつけます。

 

「な……っ!?」

 

 私がここまで堂々と動いたのが不思議だったのでしょうね。

 時灘は若干慌てながら、横に回避を――いえ、違う。

 

「こっちが本物!」

「――ッ!?」

 

 回避したと思わせたのは、完全催眠の虚像。流れた血か何かを囮に見せかけただけでしょうね。

 一瞬引っかかり掛けたものの、即座に本体目掛けて追撃を仕掛けます。

 驚いて完全催眠の操作が甘くなったらしく、息を呑む声がハッキリと聞こえました。

 

「ならば!」

「灰猫!? いえ、神槍も併用してる!?」

 

 斬魄刀の刀身から流れ出る灰色の砂を躱し、その中に紛れて伸びてくる槍の様な刺突を頭を動かして避けます。 

 更に迫り来る灰を見て、私は大きく回避しました。

 

餓樂廻廊(ががくかいろう)を灰に被せて、さらに流刃若火まで!? 完全催眠、多少は使えるのね……けど餓樂廻廊ごと焼き捨てるのは、酷いんじゃない?」

「何故だ……!? 何故見えている?」

 

 ……うん、行ける。

 相手の反応は、おそらく本物。見えているのも、どうやら相違ないみたい。

 

「あら、落ちぶれたとはいえ元映像庁の所属でしょう? だったら、思いつくはずなんだけどなぁ……」

「……おのれ、巫山戯た真似を……!!」

 

 ギリギリと歯ぎしりするその姿から察するに、どうやら私が出したヒントにはさっぱり気付いてないみたいね。

 まあ、私が逆の立場なら「それはちょっと……」って言いたくもなるけれど……

 

 時灘が鏡花水月を使ってきた際の対処方法。

 それは――

 

 

 

 私に丸投げです!

 

 

 

 ……あの、これ本当なのよ。冗談とかじゃなくて。

 正確には「私の過去の経歴にワンチャン期待」って感じなんだけど……

 

 ほら、覚えてますか? 私が副隊長時代のことなんですけど。霊術院の非常勤講師、やっていたでしょ?

 その時に、まだ眼鏡を掛けて(ねこをかぶって)いた頃の藍染惣右介を特別講師として、毎年の様に呼んでは鏡花水月が始解する瞬間を見ていたの。

 あの頃の霊術院では「また今年も藍染隊長だ」とか「来年も再来年も、多分十年後も藍染隊長だぜ」と生徒達が言うくらい、藍染を呼んでいました。

 そして私は、講師として藍染の特別講義には毎回参加していました。

 つまり――

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)で……いえ! 虚圏(ウェコムンド)と現世を含めても、鏡花水月が始解する瞬間を一番多く見ているのが私!!

 それなら耐性が付いて、完全催眠だって見抜けるはず!? だから頑張って!!

 

 大体そんな感じの作戦です。

 

『あ、ちなみに藍染殿はカウントから除外でござるよ。そして藍染殿が捕まった以上、藍俚(あいり)殿の記録は殿堂入りでござる!! ワールドホルダー、おめでとうございます!! 今のご気分は!?』

 

 そうですね……って、どこのレポーター気取り!?

 

 あと、始解の瞬間を何度見ても大して役に立ちませんよ。そのくらいのことは解っています。

 大切なのは「鏡花水月の能力を知っていた」ことと「完全催眠を見抜けないかと百年近く足掻き続けた」ことです。

 結論としては、藍染の完全催眠は見抜けない。

 でも、それ以外の人間の不完全な完全催眠だったら? 今まで足掻いた経験で、見抜けるんじゃないか?

 

 ――そんなことを対策会議の時に告げたところ……採用されました。

 

『いい加減でござるなぁ……護廷十三隊……』

 

 通用したから問題なし!!

 現に今みたいにこうやって、藍染惣右介と比べれば粗雑な完全催眠を見抜いて、攻撃に防御にと戦えています。

 おかげで時灘が操る鏡花水月は「一瞬だけ判断に困るけれど、その程度の足止めしかできない」能力へと成り下がりました。

 

『一応、フォローをしておきますと。通用しなかった場合は、卍解した藍俚(あいり)殿が拙者の分身を呼び出しまくったでござるよ。新たに複製された拙者は鏡花水月の影響なし! 複製体から常に最新情報をアップデートすることで完全催眠に惑わされない! という次善策がちゃんと用意されていたでござる』

 

 そうなの。だから、完全に丸投げの希望的観測だけじゃなかったの! ちゃんとそれっぽい対策も用意していたのよ!!

 ……って、いけない! 時灘にはその辺もちゃんと伝えてあげないと!!

 

 

 

「はぁ……まだ気付かないの? その斬魄刀に合わせて、卍解を使わないであげているのに……ねえ、射干玉?」

 

 斬魄刀を片手で構えながら、もう片方の指で刀身をなぞりつつ、斬魄刀の名を呼びます。

 始解によって真っ黒な刀へと変わった斬魄刀と私とを交互に見ながら、時灘は忌々しげに吐き捨てました。

 

「……ぐ……っ……!! 何が、何があるというのだ……」

「藍染惣右介と比べるのも、酷な話だけどね……」

 

 卍解を使わないでいるという言葉で、浮竹総隊長たちに対抗策が上手く行っていると遠回しに告げます。

 理解できないのは、時灘ただ一人。

 全ての死神と破面(アランカル)を恐怖させた鏡花水月が全く通用していないことに、混乱しているようです。

 どれだけ自信があったのかしら……? 鏡花水月が悪いんじゃなくて、持ち主がへっぽこ過ぎるだけなんだけど……

 

「くすくす……その下手くそな始解の扱い……見てられない……もう一度、霊術院からやり直したら? 私がみっちり講義してあげるわよ……?」

「講義だと……? 偉そうなことを……!!」

 

 ……え? まだ気付かないの!? これ以上のヒントが必要なの!?

 そうなるともう答えを言うのと変わらないんだけど!?

 

『まあまあ、相手は藍俚(あいり)殿なんて知らないでござるよ。おかげで楽ができているでござる』

 

 私、一応隊長なのに……?

 

「ならばこれでどうだ!!」

 

 半分ヤケクソになりながら、時灘は斬りかかってきました。

 ですがその動きは、何かを狙っているのが丸わかりです。さて、何をする気……

 

「……これは!」

「もう遅い!!」

 

 時灘が振るう斬魄刀、その刀身に見えたのは……

 射干玉でした。私が見間違えるはずがありません。

 これは絶対に射干玉です。

 

 ……ゴメン、前言撤回させて。

 

 えっと、見間違えじゃないわよね……!?

 時灘が持つ艶羅鏡典(えんらきょうてん)の刀身から漏れ出てくるヌルヌルの粘液……これだけを見れば、確かに射干玉っぽいんだけど……

 

 私が使う射干玉の! 普段のドロドロしたヘドロみたいな感覚が微塵も無いんだけど!?

 

藍俚(あいり)殿おおおおぉぉぉっっぅつぅっ!?!?!?』

 

 だって、ほら、見てコレ。

 まるで清らかな清流、流れ出る石清水。一点の澱みも無い水面の下では、まだ若い鮎たちが楽しそうに泳いでいる――例えるなら、そんな感じです。

 

『まるで拙者の粘液が汚れた沼みたいな言い方、止めて欲しいでござるよぉ……べそべそ……』

 

 射干玉……あなたって、見方によってはすごく好青年でイケメンだったのね……

 うっかり「素敵! 抱いて!」って言いそうになったわ。

 

 さすがは今回の事件の影のボスね。まさかこんな変化球で私を驚かせてくるなんて……!!

 

『ふえぇぇん……! 藍俚(あいり)殿が苛めるでござるぅぅ……! 時灘殿が酷い侮辱をするでござるよぉぉ……べそべそ……』

 

 でもね、安心して……

 この艶羅鏡典(えんらきょうてん)の射干玉は、ちっとも魅力的じゃない!! こんなの射干玉じゃない!!

 

『……ぽっ』

 

 さて、射干玉の魅力が再確認できたところで。

 続いて時灘の動向になります。

 どうやら射干玉の粘液で摩擦を操作して、私に斬魄刀を使わせないと画策しているみたいですね。同時に完全催眠を使って隠れ蓑にしながら、金沙羅の鞭で遠距離から攻撃を仕掛けて来ますが……

 

「……っと」

「くっ……!?」

 

 その程度は通じません。

 時灘の艶羅鏡典(えんらきょうてん)を軽々と射干玉の刀身で弾き返します。

 

「頼みの綱の鏡花水月が使えなくて自棄になったの? 射干玉の能力で私に挑むなんて……ッ!?」

「私がその程度だと思ったか!?」

 

 その言葉に、手にしていた斬魄刀から一気に重さを感じました。

 これって、侘助……! つまり射干玉のアレは囮、ただの見せ札! ああもうっ、本当に油断ならない……!

 とはいえ、重くなってもまだ二倍程度なので、大した問題にはなりませんけど。

 

「そもそも貴様の能力、まるで使えなかったぞ!! 摩擦を操ると知って期待したが、これなら刀油を直接塗った方がよほどマシだ!!」

「あら、そう?」

 

 そりゃあ……ねぇ……

 あんな川下り出来そうな粘液じゃあ、使えるわけないわよねえ……

 

「じゃあ、教えてあげる。射干玉の使い方をね! 狛村隊長!!」

「おうよ!!」

 

 私が声を上げれば、その意図を汲み取ってくれたのでしょう。

 それまで待機していた狛村隊長が、時灘目掛けて飛び掛かっていきます。

 

「何をするのかと思えば、馬鹿々々しい……貴様は鏡花水月に……」

「愚か者が!!」

「ぐっ!?」

 

 おそらく、私の姿を時灘だと誤認させようとでもしたのでしょう。

 悠然と構えていた時灘は、狛村隊長の拳が顔面に向けられた瞬間、怯えたように大きく飛び退きました。

 

「逃すと思うか!!」

「馬鹿な……! 艶羅鏡典(えんらきょうてん)は……鏡花水月は確かに……」

 

 そう言いながら手元に視線を落としたところで、時灘はようやく気付いたようです。

 自分の手中から、艶羅鏡典(えんらきょうてん)が消え失せていたことに。

 

「どう? これが射干玉の正しい使い方よ。いつ落としたか、気付かなかったでしょう? ホント、使えない能力よねぇ……」

「貴様の……貴様の仕業か!!」

 

『あの……いつ使ったんでござるか?』

 

 さっき、金沙羅の鞭を弾いたでしょ? その時にちょっとね。

 真っ当な戦いだったら仕込む暇は無かったけど、相手も侘助を使うのを狙っていたから、隙だらけだったの。

 というか、射干玉……アンタ、気付かなかったの……? 自分のことでしょ……

 

「おや、こんな所に刀が落ちてるよ」

 

 取り落とした艶羅鏡典(えんらきょうてん)を京楽隊長は目聡く見つけ、わざとらしい演技を付け加えながら拾い上げました。

 

「しかもこれ、綱彌代家の宝剣だよ。どうしようか浮竹……」

「そうだな。綱彌代家の人間がいれば、即座に返還したが……」

「仕方あるまい。朽木家の方から、綱彌代へと返しておこう」

 

 少し離れた場所で行われる、しらじらしいやり取りに時灘が顔を顰めます。

 ですが、それに反応するだけの余裕はありません。

 

「貴様が! 貴様の様な者がいたから!!」

「狛村左陣……艶羅鏡典(えんらきょうてん)がなければ私に勝てるとでも思ったか!?」

 

 取り回しが悪いと感じたか斬魄刀を始解せぬまま攻撃をします。

 ですが時灘も大したもので、狛村隊長の攻撃を素手による白打の技法にて辛うじて防いでいました。

 確かに霊圧だけならば隊長格程度はありますからね。

 けど、甘く見すぎです。

 

「ええ、勝てるわよ」

「が……ッ……これは……湯川、藍俚(あいり)……貴様……ッ!?」

 

 狛村隊長の攻撃のみに意識を割きすぎですね。

 背後に近寄り、注意の逸れた隙に時灘の胸元を斬魄刀で貫きました。

 突如として自分の胸元から切っ先が生えたことに驚いて動きが止まり、それと同時に聞こえてきた声に時灘は目を丸くしながら肩越しに睨んで来ます。

 

「貰ったぞ!! 綱彌代時灘ああぁぁっっ!!!!」

 

 そうやって動きが止まった瞬間、狛村隊長は全力の袈裟斬りを放ちました。

 身体そのものを真っ二つにしそうなくらい鋭い一撃に、大量の血しぶきが舞い散ります。

 狛村隊長の動きに併せて、私も斬魄刀を引き抜きました。

 

「おのれ……おのれぇぇ……っっ……」

 

 力強い一撃をまともに受けて、時灘は膝から力無く崩れ落ちます。

 ですがそこは怒っていても手加減をしていたのか。まだ息はあり、袈裟斬りにされた身体も両断されることなく付いています。

 

「回道」

 

 そして当然。

 傷ついた人を四番隊の隊長である私が放っておくわけがありません。

 回道を唱え、傷を塞いでいきます。

 

「く、くくく……はっははっはははっ!! そうだとも。お前らは私を殺すことは出来ない……! 癒やすしかないのだ!! 残念だったな、狛村。東仙要の仇を討てずに!!」

「ああ、残念だ……実に残念だとも!!」

「ぐぼっ!!」

 

 死ぬ間際になっても煽るその根性だけは大した物ねぇ……

 ですがその煽りの報いとばかりに、狛村隊長は時灘の顔面目掛けて全力で拳を振り下ろしました。

 顔の形が歪み、私は即座に治療を行います。

 

「あの、狛村隊長? 治療中なのですが……」

「む? すまぬな湯川隊長。どうやら、未だ鏡花水月に囚われているようだ」

「そうですか……じゃあ仕方ありませんね」

「な……!?」

 

 白々しい言葉ですが、それを咎める者はこの場には誰もいません。

 浮竹総隊長すら「聞こえなかったことにする」とばかりに明後日の方向を向いています。

 

「そういうことだ。貴様が鏡花水月を使わなければ、どうとでもなったのだがな……」

「治療の妨げになるので、できるだけ重要器官は避けて下さいね」

「善処しよう」

 

 そう告げながら、狛村隊長は再び時灘の顔面を殴り飛ばしました。

 

「貴様のような男に……! この程度の男に! 東仙は、正義を……己の人生を狂わされたというのか!! 時灘! 貴様のような者がいたから!!」 

「ぐ……あ……ひ、ひひっ……ひひひ……っ……!!」

 

 積年の恨みとばかりに叫び声を上げながら、何度も何度も拳を振るいます。

 狛村隊長の豪腕から繰り出される攻撃を受けながら、それでも時灘は笑っていました。

 

「何が……何がおかしいか!!」

「おかしいに、決まっているだろう……? 短絡的な暴力は、楽しいか? その程度で満足か? 護廷の死神の名が泣くぞ……?」

「楽しいわけがなかろう!!」

 

 不気味に笑う時灘の胸ぐらを掴み持ち上げると、狛村隊長は今にも射殺しそうなほど強烈な視線を向けます。

 ですが時灘の言葉に、興味が失せたとばかりに投げ捨てました。

 

 ……あの、治療……

 

「……家名を失い、力を失い、それでもまだ笑うか……いや、お主にはもはやそれしか残されておらぬのだろうな……もはや貴様には、怒りも哀れみも覚えぬ……大人しく裁かれておれ!」

「くくく……はははっ! はははははははっっ!!」

 

 ボロ雑巾の様な姿になり地べたを這いながら、それでも時灘は打開策はあるとばかりに懐に手を入れました。

 その動作に浮竹総隊長らが慌てて反応します。

 

「狛村左陣! やはり貴様は愚か者だ!!」

 

 時灘が懐から取り出した呪符のような物。それは通魂符(ソウルチケット)でした。

 私も、直接見たわけではありませんが、何が起きたかは聞いています。

 浮竹総隊長たちが捕縛に向かった際、一瞬の隙を突いて逃げ出した方法。それがこの通魂符(ソウルチケット)だと。

 

 勝ち誇った様子で時灘は通魂符(ソウルチケット)を使い――

 

「なんだと……?」

 

 ましたが、転送されることはありませんでした。

 何も起こらない結果に、私たちは勿論のこと時灘本人も驚いています。

 

「おやおや、何がしたかったのかネ?」

 

 戸惑う私たちのところに、そんな声が聞こえてきました。

 今までどこにいたのか、涅隊長は空中楼閣の中から姿を現すと、時灘を詰まらなそうな目で見下ろします。

 その動作だけで、この転送阻止は涅隊長の仕業だと誰もが理解しました。

 

「……貴様……貴様……ッッ!」

「この私の前で、中途半端な技術を臆面もなく披露していたからネ。てっきり解析して欲しいのだと思っていたのだヨ」

「涅、マユリ……」

「やかましいネ。気安く私の名前を呼ぶんじゃあないヨ。犯罪者が」

 

 犯罪者……??

 

『マユリ殿に言われたら……なんというか、その……おしまいでござるな……』

 

「涅……今までどこにいた?」

「この中を探検していたんだヨ。中々面白い玩具だからネ……尤も、会いたくもない相手にも会ったけどネ」

 

 問いかけに涅隊長は、少々苦々しい顔を見ながら答えました。

 

「ああ、そうそう。見回りついでにこの玩具は、掌握させて貰ったヨ。もはや貴様の言うことを聞くことはない。残念だったネ」

「何……!?」

「ついでだ。この叫谷(きょうごく)も頂こうじゃないか。どうせ悪評に塗れた空間なんだから、構わないだろう。総隊長殿?」

 

 そう口にした瞬間、私は――いえ、私たちは涅隊長の狙いがようやく悟りました。

 

 涅隊長が今まである程度従順だったのも、直前で相手を獲り逃がすという“らしからぬ”ミスを犯したのも。

 全てはこのため。

 狙っていたのは、時灘が綱彌代の名を利用して造り上げたり用意した道具や建物。

 それらの全てを奪い取るために、敢えて時灘を泳がせていたんでしょうね……隠し持っている全てを吐き出させるためだけに、可能な限り追い詰めながら……

 そもそも霊王の心臓を実験材料に持ち、彦禰(ひこね)さんのサンプルも手に入っているわけです。

 となれば無理に彦禰(ひこね)さん本人を狙う必要はない……か……

 

「……それが、お前の狙いか」

「なんのことかネ? 慈悲深く循環型社会の構築を願う私としては、この役に立たない粗大ゴミを無料で引き取ろうとしているだけなのだがネ」

「……わかった。好きにしろ」

 

 あ、総隊長が折れましたね。疲れ果てた表情で許可を出しました。

 

「よろしい。ではこれはサービスだヨ」

「ぐ……!」

「な……!!」

 

 許可を得た途端、涅隊長は今度は時灘の胸元にメスを突き刺しました。

 その光景に、全員が驚きの声を上げます。

 

 ……あ、位置は……

 

「何をしている涅!!」

「面倒な裁判に掛けるのだろう? 手間を省いてやっただけだヨ」

「手間を……だと!?」

「まさか殺したと思っているんじゃないだろうネ? 魄睡を少々傷つけてやっただけだよ」

「なに……!!」

 

 魄睡は、霊力の源となる器官ですね。これが傷つくと、霊力を失うわけです。

 とはいえ涅隊長のメス捌きは見事なもので、最低限の傷だけを付けています。

 これなら時灘の霊圧も、平隊士以下といったところでしょう。

 

「それに文句をいうのなら、湯川の方が先だろう? この女、私より先に鎖結を傷つけているんだヨ」

「なにっ!?」

「やっぱり、わかっちゃいましたか……」

 

『あー、藍俚(あいり)殿がマユリ殿の行いを不自然に冷静に見ていたと思ったら、そういうことでござるか……あと、鎖結は背中から刺した瞬間ですかな?』

 

 ええ、そうよ。

 鎖結は霊力の増幅装置だからね。下位の席官くらいが限界になるように、出力を落としておいたの。

 おかげで狛村隊長の斬撃と拳を癒やすのが大変だったわ……

 

『おっかねぇ……おっかねぇでござるよ!! この人たちおっかねぇでござる!!』

 

「道具も、力も、全てを失ったか……」

「こんな……こんなものが、俺の……最後だと……尸魂界(ソウルソサエティ)の業を、正しく引き継いだこの俺が……こんなところで……歌匡(かきょう)……」

 

 全てを失い、正気を失った目をしながら独り言を呟く時灘の手を、京楽隊長と浮竹総隊長はそっと引いていきました。

 




●タイトル
 脳内(そこ)になければ無いですね……いえ、ホント……
 一応、最低限斬魄刀を使わせてあげたんですが……

●(藍染(もちぬし)を除けば)三界で鏡花水月の始解を一番見た女
 事実。
 
(からくりサーカスの「僕はこの世で一番濃い生命の水を飲んだんだよ!」みたいなことをやりたかったのですが……
 なにより藍俚(あいり)殿と射干玉ちゃんコンビは、こんな感じかなと)

●マユリ様
 こんな感じでしたとさ。
 空中楼閣まで奪い取って、ほっくほく。
 (時灘が隠していた研究資料とかも奪い取るので、ほぼ一人勝ち状態)
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ヨン様の妹…だと…!?(作者:橘 ミコト)(原作:BLEACH)

ヨン様こと藍染惣右介の妹にTS転生したオリ主がビビりながらもヨン様と愉悦したいな~と思う話。▼※ゆーぼ様から支援絵を頂きました!ありがとうございます!!(2022.5.6)▼【挿絵表示】▼※作者が描いた主人公イメージ単行本表紙絵風▼【挿絵表示】▼


総合評価:24434/評価:8.63/連載:67話/更新日時:2025年10月28日(火) 19:00 小説情報

転生したので、欲望の為に突っ走る(作者:やがみ0821)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

▼TS転生最強チート系主人公が自分の欲望の為に突っ走っていく話。▼原作改変・性格改変・捏造設定・独自設定・ハーレムその他色々てんこ盛り。▼タグは随時増えたりします。▼※20巻で色々と設定が開示されましたが、設定を反映できないことがあります。▼今後も新刊の度にそうなると思いますので、ご了承ください。▼主人公のイメージをAI生成したよ!▼素人にはこれが限界だった…


総合評価:14718/評価:8.49/連載:146話/更新日時:2026年08月03日(月) 21:33 小説情報

雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」(作者:ろぼと)(原作:BLEACH)

最高峰の美少女に憑依転生したクソ主が歪んだ愛情でイケメンショタ幼馴染を愛でて色々引っ掻き回して満足するお話だゾ。▼【挿絵表示】▼


総合評価:72046/評価:9.14/連載:145話/更新日時:2022年11月29日(火) 22:00 小説情報

どうしてこうなった?(作者:とんぱ)(原作:HUNTER×HUNTER)

 オリ主がHUNTER×HUNTERの世界にトリップして四苦八苦しつつも楽しく過ごすお話です。基本はギャグですが、たまにダークな表現やシリアスもあります。▼ この小説はArcadia様にも投稿しています。題名をほんの少し変えただけで内容に変化はありません。各話の見直しが終わり次第投稿していきたいと思います。▼ 挿絵が入りました。※が付いている話のあとがきにあ…


総合評価:43729/評価:8.69/完結:86話/更新日時:2015年11月08日(日) 20:00 小説情報

〝鬼の女中〟と呼ばれる女(作者:悪魔さん)(原作:ONE PIECE)

前世はロクな人生じゃなかったので、今世は自由を謳歌したい女海賊がいた。▼その名は、クロエ・D・リード。後に〝鬼の女中〟と呼ばれる事になる海賊である。▼これは、前世持ちの女海賊が自由気ままに海に君臨する物語。▼


総合評価:20233/評価:8.6/連載:129話/更新日時:2026年08月13日(木) 22:57 小説情報


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