死神達が時灘の捕縛へと向かったその一方。
とはいえその目的は、あくまで時間稼ぎ。
死神たちが時灘を捕縛するまでの間、
「そーらァ! ブった切れろぉッ!!
だが人造の霊王たる産絹
故にチルッチは、
先手必勝――というワケでもないが、
必要以上に翼を大きく広げ、周囲の空間諸共切り刻まん勢いで攻撃を放つ。
「ありがとうございます。皆さんが相手でしたら、遠慮する必要はありませんから!」
「ああもうッ! 忌々しいッ!!」
奇襲に近いその攻撃を、けれど
その光景に、チルッチは人目も憚らず罵詈雑言を吐き捨てた。
翼に生えた刃は秒間百万回以上という超高速で振動しており、見た目以上の切れ味と破壊力を有している。
以前、
少なくとも、あの時点での石田雨竜と再戦したのであれば、今ならば完勝できる――その程度には自信が有ったのだが、目の前の
だが同時に、チルッチは理解している。
実力が足らず
正直に認めたくはないが、ハリベルやネリエルと行動を共にするようになったことで、日々理解させられる。
「ほら、出番よ! ウルキオラ!!」
「言われずとも理解している」
広げた翼を一瞬の目くらまし代わりとしながら、
手には霊子で生み出した槍を持ち、尋常ならざる速度で一直線に刺し貫かんとする。
「わっわっ!」
「……ッ!」
最短最速で肩へ突き刺さり相手を行動不能とするはずだった一撃を、
同時に
「すごいですね! それが、えっと……
「……いや、これはただの
「言ってる場合じゃないでしょうが!!」
霊子を喰われ減衰した槍を手に持つ感触だけで気にしながら、馬鹿正直に訂正する。
それを少し離れた所からツッコミを入れつつ、チルッチが
「馬鹿
「はぁ!? 何よそれ!!」
「テメー! 話聞いてなかったのか!?」
その攻撃をリルトットは
だが機会を逸した攻撃は容易に回避されてしまう。
「チッ、
「おいおいクソ陛下ってのは言い過ぎだろ?」
「うるせぇよナックルヴァール! とっとと前に出てろ! んで盗撮野郎は見てろ!」
「ひでぇ言い草だな」
同じ
「もう観察は終わってるってのによ――モーフィーン・パターン」
「え……っ!?」
「なんだ……!?」
指先から放たれた霊圧が突き刺さった瞬間、
あまりの呆気なさに、対峙していたウルキオラが手を止めたほどだ。
「あれだけじっくり観察してりゃ、たとえ霊王だろうと俺の敵じゃないぜ! オマケにそこの
「……やるじゃねえか」
「ナジャークープはこの為に連れてきたからな。本当なら俺が時間を稼ぐ予定だったが……ま、致命傷を受ける前に終わって助かったぜ」
ナナナ・ナジャークープが持つのは
事前の下準備として相手の霊圧パターンをじっくりと観察・分析するという手間こそ掛かるものの、上手く決まればどのような相手であろうと一方的に無力化できてしまう。
涅マユリが産絹
「何よアンタ、そんな便利な能力持ってるならさっさと使いなさいよね!」
「無茶言うなって、鳥みたいな
「なんにせよ、とっとと終わったのなら楽で良いだろ。月島、コイツに……ん?」
ナジャークープの
月島の能力を使って過去を挟み込み、自分たちを味方だと思わせることで相手を確実に無力化させるためだ。
「――
だがそこでふと気付いた。
麻痺して動けなくなっているはずの
「離れろ! 銀城!!」
「――亡べ、
危険性に気付いた銀城が叫ぶと同時に、
解放された斬魄刀は刃を膨張させ、霊子を激しく吹き上げながら一つの生物を形作る。
現れたのは先刻の「葬送り記せ」と唱えた際の巨大な姿からすれば、とても小柄な姿。
だがそれでも相対比較をすれば、ちょっとした家屋程もある大きさの異形の怪物となった
天まで届きそうな巨体と比べて、より一層
「……ぷはっ! 驚きました! まさか、こんなことになるなんて。油断していたつもりはなかったのですが、勉強になりました!」
その巨大な異形の上に立った
「ですが皆さんのおかげで、ようやくここまで育ちました! やはり敗北は成長に繋がるってことなんですね! 皆さんのことは、殺した後も決して忘れません! ありがとうございます!」
「おいおいおい、ウソだろ……」
ナジャークープは絶望的に呟く。
その様子だけでどうなったかは自ずと想像はつくが、ナックルヴァールは敢えて尋ねる。
「ナジャークープ……お前、能力は……」
「残念なことに、穴が塞がってやがる……斬魄刀があの姿に変化したからか、観察もやり直しだ……」
「役立たず」
「使えない色黒」
「オイコラ! リルトットはともかく
「使えないヤツに使えないって言って何が悪いのよ! いいからアンタはとっとと盗撮を――」
「言ってる場合ではないぞ、チルッチ殿! あの
変化した瞬間、
そこには
「――ちょっと! なによそれぇっ!!」
とっさに尾の先に集めた霊圧を放って相殺させながら、矢の範囲から逃れる。
回避には成功したが、放った霊圧はあっさりと飲み込まれ消滅していた。その結果が、両者の力量の差を端的に現している。
「……
それを見ていたウルキオラは、覚悟を決めたように第二段階の刀剣解放を行う。
足止めや時間稼ぎで十分だという認識は、今の
「おい、ナックルヴァール。今のアイツは採取出来たか?」
「一応な。けど霊圧の質と量が違いすぎる。今の段階じゃ、免疫の上から磨り潰されかねないぜ」
「ならもっと喰っとけ!」
「ちょっと待てリルトット!?」
ナックルヴァールの首根っこを掴んで盾にしながら、リルトットは
その様子に、
「直接対決ですね? 自分は負けませんよ!」
「やれやれ、ここまでやる相手だったとはよ……無罪を勝ち取るってのも大変だな……」
銀城もまた、自嘲染みた言葉を呟きながら
一方、骸部隊を含めた
「あの子供もムカつくけどさぁ、こっちの
「ルピ殿!?」
「前回、バラガン様のことを知ってたよな? なあ、お前。バラガン様の何なんだよ!!」
「ガンテンバイン殿も!? いや、それは今尋ねることなのかね!?」
ルピとガンテンバインも既に
息のあった連携などとはお世辞にも言えないが、目的が一致しているためか最低限の気遣いは見せている。
「今だからだろうがよ、ドルドーニ!
「
「ええいっ!
その動きに便乗するように、ドルドーニもまた攻撃を仕掛ける。
そこへ二人の一撃が突き刺さった。
マユリの手によって強化改造された
その攻撃は
【小賢シイ!】
だが問題は比率だ。
その巨大な身体に有効打を与えるには、彼らの攻撃は威力はあれど少々規模が足らなかった。むしろ傷の影響など関係ないとばかりに
「どうやらその姿なら攻撃は通るみたいね!
「
ならば密度を上げれば良いとばかりに、チルッチとウルキオラは
二人の攻撃は巨体の大半を飲み込み、破壊していく。
【攻撃ガ通用スル。ダガ、ソレガドウシタ!?】
「超速再生……だと……!」
「アンタも出来るでしょ?」
傷を負った場所が、見る見るうちに癒えていく。それを見たウルキオラは思わず口にしていた。
【我ハ、無限ノ成長ヲ続ケル。バラガンノ老イモ、追イツカヌ速度デ。超速再生ナド、ソノ一部ニ過ギヌ】
「あらぁ、バラガン様の老いの能力を知っているのねぇ」
【当然ダ。カツテハ覇ヲ競ッタ敵ダカラナ……決着コソ付カヌガ、我ガ勝利スルノハ明白ダッタ……】
無限の成長を続ける
尤もバラガンにとっても、成長の止まらぬ
そのため、
「さながらアーロニーロのグロトネリアか」
「あたし、アイツ嫌い……」
同じ連想をしたらしく、ウルキオラとチルッチが揃って似たような感想を口にする。
「なるほど、けど残念ねぇ! あなたではあの方の品格も力も遠く及ばない! そして美しさではあたしの足下にも及ばないわよ!!」
「俺の信じる神に、大層なことを言うじゃねえか!!」
一方、バラガンの
「
「
黒い茨が周囲に伸び、
ならばと身を動かそうとするが、ガンテンバインの放った一撃が
【バラガンニ、従ウ者共ガ……ヨクモ……ッ!!】
「カビ臭い王様気取りのオッサンがさぁ、いい加減邪魔なのよねぇ!!
「
その場から距離を取り、黒い茨逃れようとするが、そこに二人の攻撃が再び襲いかかる。
翼から射出された刃が
【ソノ程度デハ、止マラヌ!!】
だが
何しろこの巨体だ。動き回り、体当たりをするだけでも立派な攻撃となる。
超速再生に任せて傷を無視しながら、
「えっ、きゃああああっ!!」
「なんとっ!!」
【貴様ラモダ! バラガンノ従者ドモ!!】
「うおっ!」
「いやぁん!」
同時に身体から
周囲の影響などお構いなしに破壊の嵐をまき散らしていくその光景は、災厄そのものだった。
自由に暴れ回れる快感に酔いしれるかの様に、かつての同胞である
「捉えたぞ……
それでもただ一人。
第二段階へと至ったウルキオラだけは、その動きに追いついていた。
物理法則を無視したように動き回りながら
それも
【グ、オオオォォッ!?】
閃光が
持ち前の霊力で際限なく攻撃を繰り出して、その全てが必殺の一撃に近い威力を秘めている。
一方で彼らの攻撃は容易に躱され、命中した攻撃ですら
「すごいですね、
「その辺が俺の取り柄でね! どうだい、致命的だろ?」
「致命的というのがよく解りませんが……はい、とてもすごいと思います! ですが自分も負けません! 絶対に貴方を殺してみせますからね!」
最前線で盾役を押しつけられていたナックルヴァールがヤケクソ気味に叫ぶが、彼の洒落た言い回しを
単純な自慢か何かだと判断すると、更に霊圧を込めた
「おいおい、致命的すぎるぜ……」
何より
「どいてろ兄ちゃん! 月牙天衝!」
矢が
完全解放されたクロス・オブ・スキャッフォルドの力を完全に引き出し、
「わあ、銀城空吾さんですね!! 自分は貴方にも負けませんから!」
「お前も時灘に踊らされちまったクチだからな。ちょいと同情するが……ま、お前はまだなんとかなんだろ!!」
同じ霊王の資質を持つ者として、ライバル意識の様な感情を持っているのか。
それが銀城の仕業と理解した瞬間、
「大人しく観測させろってんだ!」
「やっべーな、コイツ……オレも残っときゃよかったか?」
ナジャークープとリルトットは、舌打ちしつつも
だがその攻撃を、
「手数が足らねえ……! 優男! お前も手伝え!」
「僕のブック・オブ・ジ・エンドは近づかないと効果を発揮しないからね。銀城が危ないし、狙っているんだけど……」
月島は鋭い視線を向け続けながら、
だがどれだけ隙を窺おうとも、攻め込む機会が見えない。
「仮に挟み込んでも、あの子に効果があるのかな……?」
それ以上に不安なのが、二人の間の霊圧差だった。
あまりに巨大すぎる霊圧を前にして、果たして自分の能力は通用するのか? それもまた月島の不安を煽る。
その時だった――
【グ、オオオォォッ!?】
目に痛い程の閃光が走り、
いや、それだけではない。
「あははははっ! よくもやってくれたね……倍に、いや八倍にして返すからさぁ!!」
「痛ったいわねぇ……後で
ルピは、自身が操る全ての触手の先端に。
チルッチの尻尾の先端に。
それぞれ霊圧を集中させる。
己の血を混ぜ込みながら。
「「
さらなる破壊の光が、
【ギ、ガ……アァ……】
「あっちは、すげえな……」
「おいおいまだ生きてるのかよ……致命傷なんざとっくに通り過ぎてるだろ……?」
光が収まった中から現れたのは、巨体の大半が砕け散った
ウルキオラ・ルピ・チルッチの最大攻撃を受けながらも、未だに生きているのは驚嘆と呼ぶに他ならない。
だがその姿は、どうみてもこれ以上の戦闘は不可能だ。まともな意識が残っているかすら怪しいだろう。
そんな状況に陥りながらも、
【オノレ……我ガ名……名ヲ……】
「何を言っているんですか?」
「なに……!?」
いつの間に移動したのか、
「みなさん、ありがとうございます。自分の斬魄刀を――
【ソノ名……ハ……】
にっこりと笑顔を浮かべる
「さあ、行きますよ! ――
手を翳し、最後の名を呼び上げた。
異形の巨体が光り輝きながら崩壊したかと思うと、そのまま黒と白の混じった風となって
次の瞬間、
異形へと変貌していたはずの
だが何よりも異なるのは、
只でさえ強大だった
一瞬ごとに強く強大になっていくような、そんな感覚が周囲の全ての者達を包み込んだ。
「では、いきま……――」
圧倒的な霊圧を手にしながらも、以前とまるで変わらない様子で。
けれども
「剣ちゃんおそーいっ!」
「悪ぃな。なにしろあの
数万を超える
「けど、いいじゃねえか。どうやら間に合ったみたいだしよ」
「そうだねぇ。あいりんが言ってたみたいに、強そうだよ」
「ああ……悪かねぇな……コイツは斬り甲斐がありそうだ!」
血に汚れた表情を歪ませながら、ニヤリと嗤う。
ワザワザ確認するまでも無い。
この小僧は、産絹
出し惜しみをしては勿体ない。
そんなことをしては斬り合いを愉しめないと、剣八の本能が全力で訴える。
「――あ、ああ……」
「産絹
「あああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!」
自身の心の命じるまま、剣八は卍解を発動させた。
鬼のような姿へと変貌した剣八の姿を見ながら、
「……あん?」
「ひっ、なんですかこれは!? なんなんですかこれは!? 嫌です! もう嫌です! 勝てません!! 勝てっこありません!! 王様なんていりません! いりませんから!! 誰か、誰か助けて下さい!! 時灘様! アウラさん!! 母様!! だれかああああああああぁぁぁっっっ!!」
それは、今までの無邪気さとは異質な。
けれど、とても子供らしい姿だった。
それまで体験したことのない未知の恐怖に怯え、全身を恐怖で竦ませながら、母親の姿を追い求めて叫ぶ。
小さな子供ならば誰しもが通るような、ごくありふれた、とてもとても普通の光景。
唯一異質な部分があるとすれば、産絹
手にしていた斬魄刀を放り捨て、小さく
今まで恐れを知らずにいた存在が見せるその姿は、先ほどまでと同一人物とはとても思えなかった。
「
「あん?」
いつの間に現れたのか、一人の女性がそこにいた。
何もない空間から、まるで霧が実体化するかのようにして姿を現した彼女は、
それはまるで、泣く子供をあやす母親の様な姿だった。
「アウラ、さん……?」
抱き締められたぬくもりと、優しい声に
目と目が合った瞬間、アウラはにっこりと優しく微笑む。すると
「大丈夫ですよ。私がついていますから」
「ですが……ひっく……ですが、自分は変なのです……えぐ……なんなのでしょうか……この、身体の奥底が無限に冷え込むような……感覚は……ひっく……この寒さは一体……」
「コイツ、恐怖を知らないのか……?」
「あの時灘ってヤツが教えてる……わけがないよな……」
恐怖を理解できないままアウラへと泣き付く姿に、周囲の誰もが困惑する。
だが、当然だ。産絹
恐怖を感じたのは
更木剣八と戦い、卍解を前に恐怖して死していったグレミィ・トゥミューの記憶と感情が源だ。
死を間際にして刻み込まれたその強すぎる想いが、さながらトラウマのように蘇って
しかし情緒面が未熟な
ただ未知の感情に突き動かされ、大泣きをすることしかできなかった。
「なんだよ、こりゃ……」
斬り合う気が満々だった更木剣八ですら、所在なさげにコメカミを掻く。
いざ戦いが始まると思えば、小さな子供の様に泣かれればそれも仕方ないだろう。
誰しもが
重傷を負いながらも、失った霊圧を総動員して自身の形を無理矢理に作り上げると、
まるで泥棒が音と気配を消して動くような行為。
だが
「あぐっ……!!」
「
消えそうな霊圧であることと矮小な身体だったことが幸いして、
「痛い……痛いです……アウラさん……母様……!」
激痛が――まるで自身の肉体の一部がごっそりと失われたような感覚が走り、
【ハ、ハハハ……! ヤッタ、ヤッタゾ!!】
一方で、
彼が取り込んだのは、産絹
その力は絶大だった。
たとえ蛇のように小さな存在が、一口分だけ囓っただけの少量であったとしてもだ。
見る見るうちに力を取り戻し、周辺から吸収していく霊圧によってその身体を禍々しく変貌させていく。
肉体と共に膨れ上がる霊圧は、圧倒的なまでに濃厚な
【一欠片デアッテモ十分ヨ! 絶望ト共ニ、ソノ身ニ刻メ! 我ノ名ハ――】
「おい。つまり、テメエが代わりに相手をしてくれるってことでいいんだよな?」
確認の言葉と共に剣八は、巨大な鉈のような斬魄刀を振り下ろす。
それは、
「なんだこりゃ? これなら
物言わぬ斬魄刀を見下ろしながら、剣八は詰まらなそうに呟いた。
卍解を会得した剣ちゃんがいる時点で、バトルで盛り上げるとか無理……
剣ちゃんを足止めさせて時間を稼いで、その間にちょっとだけ他の子の見せ場的な物を作って……
作った結果がこれでござるよ……仕方ないのでござるよ……