――あれからおよそ二ヶ月後。
まず肝心の時灘についてですが。
私たちに捕縛され、形通りの裁判が行われ、刑罰が執行されました。
本来であれば「即刻処刑すべき」との意見が多数を占めていたこともあって、処刑される予定だったのですが。
そこに待ったを掛けたのが京楽隊長と浮竹総隊長の二人です。
単純に死を与えるだけでは、この男は反省しない。
自分が何をやったのかを、もう一度深く反省してほしい。
二人はそう言って真央四十六室の面々を説得して回り、その甲斐もあってか刑罰は変更されました。
真央地下大監獄の最下層・
『おや、藍染殿のお隣さんでござるなぁ』
そんな暢気な状況なんかじゃ、決してないんだけどね。
時灘は“見えず聞こえず喋れず”といった中で、延々と生き続けることになります。
『スパッと殺された方が楽でござるよそれ……めっちゃ発狂しそうでござる……』
そういう刑罰を与える意味があるからねぇ……
それに腐っても、存在を無かったことにされても、元綱彌代家の人間よ? 人造の霊王を用意した人よ?
下手に刺激を与えたり、よからぬことを考える貴族などに利用されないように、深い深い場所に収監するのが一番だったみたいね。
『(刑罰を重くすることで、今回の件についてアンタッチャブルな雰囲気を作っておく……
刑罰が確定して、時灘が収監されて、全てが終わったのを見届けてから。
狛村隊長は、東仙要と
目的は――わざわざ言う必要も無いかも知れませんが、全てが終わったことを報告するためです。
狛村隊長が墓前で東仙と
その場にいませんでしたし、付き合うのも無粋だと思ったので。
なによりこういうのは、生きている人の……狛村隊長の心の整理が一番重要なことですからね……
ただ、なんとなく、ですけど……
決して感謝の気持ちが無いわけではない。
でも、どこか申し訳ない面持ちで、狛村隊長の報告を聞いているような……
そんな気がします。なんとなく、ですけどね。
次に、銀城君たちです。
彼の罪は冤罪だったと――全ては時灘が仕組んだことで、彼らは被害者だったと四十六室から公的に認められました。再審で無罪を勝ち取ったことになりますね。
そして、時灘が収監されるときに特例として立ち会ったそうです。
立ち会った際に、彼が何を言ったのか……それとも何か、行動を起こしたのか……私は知りません。
浮竹総隊長は教えてくれませんでしたからね。あくまで「特例で立ち会った」ことだけを教えてくれました。
全てが終わり、彼らは現世に戻ることにしたそうです。
出立の際には、十三番隊総出で見送ったそうですよ。
しかも餞別代わりに、代行証を浮竹総隊長が贈ったそうです。
なんでも「お前がこれに良い思いがないのは解っている。だけど、あえて代行証を渡すことにした。こうすればお前は忘れないだろう?」と言って、渡したそうです。
さらに「当然だけど、盗聴機能も発信器も付いちゃいないよ。だけど通信機能は付いているから、何かあったらこれで連絡して欲しい。正直、ここで捨てられるのも覚悟の上で尋ねるよ……銀城、お前が嫌でなければ受け取ってくれないか……?」とまで言ったとか。
もうこれ、半分くらい告白か何かなんじゃないのかしら……?
『恋人同士の別れ際か何かでござるか?』
銀城は、代行証を受け取ったそうです。
それと代行証とは別に、二人分の
彼らが何をやっているのかは、もう私には解りませんが……あっ、でも一つだけ。
織姫さんから、伝令神機を通じて連絡があったの。
「黒崎くんのところに、銀城さんたちが来た」って。
次は、そうね……
といっても、
その後は
『(ホント、ホイホイ行くのは死神としては大問題なのでござるが……)』
そして
アスキンさんとナナナさんの身柄なんだけど……現在、まだ技術開発局に拘束されています。
なんでも現在、能力解析中のとのことです。
……コレってつまり、涅隊長が二人の
免疫を得て延々とタフになりながら時間を稼いで、稼いだ時間で観察することで相手を確実に無防備にしてしまう……涅隊長なら、間違いなくやるわね……
『コピーどころか、間違いなく応用するでござるよ……嫌な予感しかしねえでござる!』
副隊長のネムさんとか、これからどうなっちゃうのかしらねぇ……
とはいえ返却にはそこそこ前向きみたいです。
なので、二人ともある程度は自由にやっているみたいですよ。
バンビーズの子たちが、時々そんなことをチラッとお喋りしていました。
そうそう、忘れちゃいけないのが朽木家です。
無事に第二子が産まれました。産婆役を再び、しっかりと勤めさせていただきました。
二人目で長女の朽木
出産自体も大きな問題は無かったのですが、あえて問題を上げるとするならば。
出産予定日が近づくにつれて、千本桜がソワソワし続けて。
出産の当日は、千本桜がずーっと五月蠅くて。
出産後は、千本桜がずーっとテンション高くて
射干玉が教えてくれました。
『同じ斬魄刀でござるので、このくらいは』
朽木隊長の機嫌がちょっとだけ悪かったのは、きっとこれが原因だったんでしょうね。
何はともあれ、無事に子供が産まれたことは瀞霊廷通信でも取り上げられました。
瀞霊廷はユーハバッハ戦後の復興の途中でしたし、暗い空気を払拭する明るい話題の一つとして好意的に受け入れられたみたい。
『あと、時灘殿が捕まったのは大っぴらに記事にするのは面倒でござるからなぁ……注意を逸らす意味でも、綱彌代家がちょっとだけ、朽木家の出産の話題を後押ししたみたいでござるよ』
そして、最後に――
「赤ちゃん、可愛かったですね母様!」
「そうですね……とても小さくて、でもいっぱい泣いて、とても元気で……何度見ても、生きているのだと実感させられて……」
つい先ほどまで朽木家にお邪魔しており、今はその帰りです。
ですので、大きなお咎めは無し。
完全に無罪放免とはならず、多少の監視が付いているものの、けれどその程度の処分で済みました。
そして私は、二人のお世話役を任命されました。押しつけられたとも言います。
だって只でさえ、私ってば
厄介な相手の受け入れ皿としての実績が既にある人がいたら、そりゃあ押しつけるわよねぇ……
なので「二人ともお前に懐いてるみたいだし、やれ。拒否権は無い。けど面倒事は起こすなよ。あと監視もしておけよ」って命令されました。
なので先ほど言った“監視が付いている”というのは、私のことです。
四番隊の敷地内に新しく家を建てて、そこへアウラさんと
けどこの命令の裏には、今回の綱彌代家の件や人造霊王の件を下手に広められたくないので、口止め料や他言無用といった意味合いが含まれています。
こうやって便宜を図って、自由にやれるだけの裁量を与えたんだから、解ってるよな? という遠回しな圧力だったりもします。
政治とか偉い立場って大変よねぇ……
『めっちゃ人ごとみたいに言うでござるなぁ……当事者でござるよ
ええ、まあね……
こんな風にあっさり説明しているけれど、実際には私も結構頑張ったのよ。
二人を受け入れて、その上で自由な行動権を得られるように必死で交渉したんだから。
そうそう。交渉の途中で、涅隊長のところにも行ったのよ。
けれど、いざ交渉してみたら案外あっさりと話は終わりました。
涅隊長曰く――興味はあるが、そこまで必要ではない――とのこと。
どうやらあの騒動の裏でさらに暗躍していたらしく、時灘が隠し持っていた
ただでさえ
本当に、抜け目がないですよねぇ……
『マユリ殿を敵に回して時間を与えると、尻の毛まで抜かれて持って行かれるということがよく解るでござるなぁ』
本当にね……
とまあ、そういう戦利品を山ほど手に入れたこともあって。
まあ、私が以前渡した毛髪や血液のサンプルもあるし……
あと霊王の心臓も手に入れているし……
『あー……そんな状況なら、マユリ殿は価値を見いださない気がするでござるよ……なにしろ時灘殿のヘタクソな技術で作ったわけでござるから……』
――とまあ、こういうことがありまして。
話を道羽根アウラさんと産絹
同じ姓を名乗っていることからも推察できると思いますが、二人の関係は親子となりました。
ですが、二人とも出自が少々特殊ですので。親子とはいったいどういうものかを勉強中の身でもあります。
その勉強の一環として、朽木家の出産に立ち会わせてみたのですが。二人とも予想以上に赤ちゃんのことを気に入ってしまって。
何かにつけては朽木家に行ったり、アウラさんは緋真さんから「母とはどうすればいいか?」を教えて貰ったりしています。
「ああ……ッ! なんだか、もう一度
「まあ、
「そうでした! 約束していたんでした! すっかり忘れていました!!」
そういうと
「ほら、母様! いそぎましょう! 湯川さんも早く行かないと!」
「
「いえいえ、お気になさらずに。子供は元気なのが一番ですから」
そう言いながら、私たちは帰路を急ぎました。
ちなみに向かう先は御存知、いつもおなじみ
『もう完全に、やっかい案件の受け入れ所になってるでござるよ……』
「おう、遅えぞ」
「あーっ!
「やっと来たか……待ちくたびれたぜ……」
「一番に待っていたキャンディちゃんが、何言ってんだって思うの」
「アウラさん美人だなぁ……」
隊舎に戻って調理場へ顔を覗かせれば、そこにはバンビーズの子たちが既に待っていました。
私たちが帰路を急いでいた理由は、お菓子作りです。
親子生活が始まってすぐの頃、アウラさんに相談されました。
美味しい料理とは、どうやって作れば良いのでしょうか? ――と。
アウラさんですが、昔は父親と一緒に生活していたそうです。
軟禁みたいな状況だったそうですが、それでも父親からの愛は感じていたとのこと。
けれどある日、父親が出かけたきり帰ってこなくなった。
毎日食事を与えられていたので空腹とは無縁だったアウラさんは、この時に明確に飢えを覚えました。
やがて、飢えや渇きに我慢できなくなった彼女は無我夢中で
飢えていた彼女は、キッチンにあった生の食材を本能のままに囓ったのですが……
それが腐った食材だったそうです。
その一件から、僅かに興味を抱いていたはずの食事に対しても無関心になってしまったとのこと。
なので
自分のような食事に興味を持っていない人間が、
『さらにさらに!
ええ、それを教えられたときは驚いたわ……
でもまあ、色々あったけれど、それはそれ。
料理を教えてくれと頼まれたので、快く引き受けて指導をすること数ヶ月――
そして今日は、その練習成果を発表する日なのです。
どのくらい上手になったか、どうせなら大勢の人に味を見て貰おうというわけですね。
『そして毒味役はバンビーズの皆様でござるよ! 話を知ったときに、リルトット殿が立候補したのでござるよ!!』
彼女たち以外にも、
「では、いきます……!」
「頑張って下さい母様! 自分も頑張りますから!!」
そして、アウラさんが料理を始めました。
その隣では
アウラさんが料理を習っている事を知って、
なので今回の発表会は、アウラさんと
親子二人は並んで厨房に立ち、色んな料理を作り始めました。
といっても、今回披露するのは簡単な物が中心です。
サラダとかパスタとか、ソテーとか。強いていうならオムレツがちょっと難しいくらいでしょうか? 駄目だった場合はスクランブルエッグにしておけと伝えました。
それから、
こちらもクッキーとかマフィンとかバスク風チーズケーキとかなので、そこまで失敗することは――
「上手に出来ると良いんですが……」
「大丈夫です。洋菓子は分量と時間を間違えなければ失敗しないと、湯川様が言っていた……ええ、大丈夫、失敗していない……私は失敗していない……自分を信じなさい、アウラ……」
なんだかちょっとだけ不安な声も聞こえてきたりしましたが、時間は進んで無事に料理は出来上がりました。
「いっただきまーす! ……んー、美味しい!!」
出来上がった料理に真っ先に手を付けたのはバンビエッタちゃんでした。迷うことなく口に含むと、幸せそうな顔を浮かべます。
それを見て安心したのか他の隊士の子たちも手を伸ばし、口々に感想を言います。
ですが概ね、高評価みたいですね。
「よかった……皆様、本日はありがとうございます」
それを見たアウラさんは、深々とお辞儀をしました。
その一方で、
「えっと、リルトットさん……いかがですか? 美味しく出来ていると、思うのですが……」
「ん、そうだな。結構イケるぜ」
「よかった……」
その言葉にホッと胸をなで下ろしました。
「なんででしょうか……リルトットさんにそう言ってもらえると、安心するんです……自分の記憶では、リルトットさんと知り合ったのはあの時が初めてなのに……」
「そうか……ま、これからも作ってくれ。オレが全部残さず喰ってやるからよ」
ぶっきらぼうに言いますが、リルトットが纏っているのは何とも柔らかな雰囲気でした。
『(……ああ、よかったでござるなぁ……グレミィ殿との約束が、果たされたでござるよ……)』
「それじゃあ皆さん、今日の試食会の感想についてインタビューを……」
さらには檜佐木君が参加者達から話を聞いて廻っています。
檜佐木君ですが。
浦原の取材で現世に行ったときに巻き込まれ、色々あって
到着したのが空中楼閣の内部で、そこでアウラさんや
とはいえ話の途中で
涅隊長たちに助けられるまで、やきもきしていたそうです。
そこでアウラさん達と話をした影響なのか、彼はアウラさんと
……案外、アウラさんに惚れたのかしらね。
『アウラ殿、美人でござるからなぁ……ジジ殿もムラムラしっぱなしでござるよ……』
そうよね……あんな笑顔を浮かべてる美女なんだもん。男なら確実に惚れるわよ。
ただ、今のアウラさんには一つだけ問題があるのよね……
『えっと、何かあったのでござるか?』
今のアウラさん、人間じゃ無いのよ。
『……ええっ!? ま、まさか霊になっているとか!?
違う違う、私も時灘も何にもしてないわよ。
アウラさんが
気がついたら、死神にみたいな存在になっていたの。
『えっと……どういうことでござるか???』
私もよく解らないんだけどね。
どうも
多分、
『ああ、なるほど……???』
イマイチ納得できないのは、私も解るわよ。でも納得して。
多分、
そんな風に思った結果なんでしょうね。
母親の愛というか、執着というか……
この人も結構、深い闇があったのね……
なんもかんも時灘が悪い
●アウラさん、人間やめるってよ
原作だと死んで霊になって
この世界だと
という位置づけです。
最初は「
●檜佐木
繰り返しになりますが……私には無理でした……
これが精一杯でした。