お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第49話 マッサージをしよう - 卯ノ花 烈 -

藍俚(あいり)。あなたがやっている整体を、私にも体験させてください」

「……え!? 卯ノ花隊長!?」

 

 隊長の口から飛び出てきた言葉の意味を理解した結果、脳が「ちょっと聞き間違えたかもしれない」という結論を出しました。

 

「本気ですか……?」

「本気ですか、とは……? あなたの言っている意味がよくわからないのですが」

「ああっ! 失礼しました。ただ、隊長は私が整体や按摩をしているのを昔からご存じなのに、今までそのような事は一度も仰らなかったので。てっきりそういうことに興味が無いのかと思っていまして、それで……」

 

 ごめんなさい、半分くらい嘘です。

 

 興味が無いのだろうと思っていたのは本当ですが、その"興味なし"をどうにかして"興味あり"に変えられないかとこっそり思っていました。

 ただ――ずっと頭の上がらない相手だったので――心の中に隊長への苦手意識というか申し訳なさというか単純な怖さみたいなのもあって……だって隊長に――

 

『ぐへへへ、卯ノ花さん。ええ乳しとりまんなぁ! すけべなんか興味ない、みたいな顔しておきながら、身体は正直でござるなぁ!! ほれほれ、ええか? ここがええのんかぁ? でござる!』

 

 ――みたいなことは出来ませ……今なんだか、意図することは合ってるけれど物凄く誇張した表現が入ったような……?

 

 と、とにかく!

 そういうことを私から誘うと、その瞬間に「遊んでいる時間があるのですか?」とか言いながら斬られそうなイメージがありました。それと、今までそういう話題について隊長と話した事が無い、というのもそう思ってしまう要因の一つでしょうね。

 

 なので、隊長の方からそんなことを言われるとは意外……果てしなく意外でした。

 

「あなたは私が木石(ぼくせき)か何かで出来ているとでも思っていたのですか?」

「いえ、決してそういうワケではなくて」

「私とて、疲れもすれば休みもします」

 

 嘘だッ!

 

「前々から興味はありました。ですが、あなたの成長を私の都合で阻害するのは問題かと思い、自粛していました」

 

 えっ! 隊長、そんな事考えていたんですか? なんだかちょっと嬉しい。

 

「ですが今日、私に成果を見せた。ならばもう充分、自粛する必要もないと思いました。それに、卍解を習得したからでしょうか? ここ一月(ひとつき)の間に、随分とそちらの評判も良くなっているようですから……体験してみたいと思っても、無理のないことでしょう?」

 

 あ、最後の理由を口にするときにちょっとだけ顔を赤くしてましたよ。

 なんだかんだ言ってもやっぱり隊長も女ですから。いつまでも若く、美しく有りたいという気持ちは、大なり小なり思うのは当然ということですね。

 

 それにマッサージの方は、平家十九席の件から一気に口コミで広がりまして。

 現在、人気が大爆発しています。

 女性隊士たちは"なんとか自分だけでも先に予約できないものか"と水面下で争っているみたいですよ。

 女って恐いわねぇ。

 

『あの、藍俚(あいり)殿も女でござるが……』

 

 私はいいのよ。女主人公って書いたら怒られる存在だから。

 

「なので、今日はもう稽古を切り上げようかと。で、藍俚(あいり)。可能ですか?」

「……わかりました。ただ、私の家まで来ていただく必要があるのと、施術の際に裸同然の格好になりますが。大丈夫ですか?」

「そのくらいなら問題ありません。さあ、善は急げと言います。行きますよ」

 

 そう言ったかと思えば、隊長は瞬歩(しゅんぽ)を使いあっと言う間に見えなくなりました。

 私、まだ稽古の後片付けもしてないのに!! それに隊長は私の家の住所知ってるから、案内とか必要ないですものね!!

 

 というか、そんなに楽しみだったんですか隊長!?

 

 

 

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「では隊長、隣の部屋で着替えてください。その間に準備をしておきますので」

 

 あれから急いで帰ると、当然ながら隊長は家の門の前で待っていました。

 勝手知ったるなんとやらと言いますが、それでも家主の許可もなく先に上がり込んで待たれなくて本当に良かったと思います。

 多分、急に護廷十三隊の隊長が来たらお手伝いさんが腰を抜かしていたはずなので。

 

 その後、隊長を連れてマッサージ室へ。

 お手伝いさんにはお風呂の準備をお願いしておき、私は施術の準備を。そして隊長には別室で紙製下着に着替えて貰います。

 さてさて、あの純和風なイメージのある卯ノ花隊長が果たしてどんな顔をして下着を付けてくるのやら。今からちょっと楽しみで……

 

「着替えました」

 

 ……おっと、そうこうしている内に隊長の準備が終わったようです。どれどれ――

 

「……なん……だと……?」

「どうしました?」

 

 ――そこにいたのは、素っ裸の卯ノ花隊長でした。

 

 肌色! 視界に広がるのは圧倒的な肌色率です。

 普段は肌を露出することを極力避けるかのように羽織袴をしっかりと纏い、首筋から胸元に掛けてのラインは結った髪で隠していたそれが今! 私の目の前に!

 

『刮目せよ! 両の眼にこの光景をしっかりと焼き付けておくのだ! 今よりこの時間、刹那に足りぬ一瞬たりとて、目を閉じることまかりならん!! でござるよ!』

 

 ……それは喜びすぎよ。いえ、それともまだ足りないって言うべきかしら?

 そのくらいレアな光景なのよね。

 

 いつもはまるで聴診器かネクタイのように胸の前で結っている特徴的な三つ編みも今は解いており、腰まで届いてなお余る長い髪が解放されています。まっすぐに下ろされた長い黒髪は、どこか恐怖を感じますね。

 

 って……うん?

 隊長の胸元……え、なんですかこれ?

 

「いえあの、渡した紙の下着は……?」

「付けなくても問題はないのでしょう? あってもなくても問題なければ、隠す必要もありません」

「確かに問題はありませんが……」

 

 今までの人は大体付けてましたよ?

 それがこうとは……潔いというか思い切りが良すぎるというか、どうにも隊長にペースを握られている気がします。

 

「で、では! 施術を始めさせていただきます! どうぞこちらへ横になってください」

「ふふふ、楽しみですね」

 

 初体験なはずなのに、微塵も緊張や戸惑いを見せないその態度は驚嘆ですよ。風格たっぷりに俯せる姿は、むしろ見てるこっちが緊張させられます。

 

「ではまずこの油を使って背中側から」

「ん……っ……」

 

 特製のオイルを背中に垂らし、まずは腰回りに手を触れます。手が腰に触れた瞬間、隊長はビクッと身体を震わせました。

 生温かなオイルと手の平の感触に驚いたのでしょうか、思わず釣られて私も手を止めてしまいました。

 

「再開、しますよ……?」

「ええ」

 

 そう告げてから再びマッサージを開始したのですが、どうにも力が入らないのが自分でもわかります。

 

「……藍俚(あいり)。そう気を遣う必要はありませんよ。死神としては私の方が先達ですが、この整体に関してはあなたの方が先。私はそれを体験する立場なのです。それを遠慮してどうするというのです?」

 

 そんな力の入らない按摩を見かねたのでしょうか、そんなことを言われました。

 

「すみません、隊長の仰る通りでした。では、ここからは思い切りやらせていただきます」

 

 確かに、ここでビビっていては女が廃ります。

 気合を入れ直すように一度深く呼吸をしてから、改めて隊長の背中に触れます。

 

「いきますよ」

 

 今まで、何人もの女性隊士に施してきた施術と同じように、ぐっと指先に力を込めて揉んでいきます。

 腰周りから背中へ、そして肩から腕にかけてをじっくりと力を込めて揉み解します。

 

 その都度、隊長の肉体に驚かされました。

 

 恐ろしいまでに鍛え上げられた超高密度の筋肉。その上を女性らしい柔らかさを残す程度に脂肪が覆っています。ですが決して贅肉ではなく、最低限必要とされる程度の量。

 その存在感へ指先を丹念に這わせていきます。

 

「どうですか? 強すぎたりは?」

「ふふ……良くなりましたよ。ああ、そこの二の腕の辺りをもう少し……」

 

 請われるがままに隊長の二の腕から肩に掛けてを集中的に解します。

 

「んっ……はぁ……いいですよ。肩の重荷が、すーっと軽くなっていくようです」

 

 ですよね。

 今までしっかり隠されていたので知りませんでしたが、隊長の胸って予想外に大きかったです。

 これだけ立派なお山(おっぱい)を持っていて、なんであんなに強いんでしょうか。この世界の方々は……まあ、私もそろそろ強いって自惚れてもいいかもしれませんが。

 

「そろそろ下半身の方に行きます」

 

 いくら凝っているからといって、その部分ばかりだとバランスが悪くなりますからね。

 軽くオイルを追加しつつ、再び腰回りからお尻へと手を這わせます。

 

「ぁ……っ……」

 

 腰からお尻へと流れるライン。

 柔らかく、けれども内側にしっかりとした芯を持っているような、そんな感触でした。まるで赤ん坊の肌にでも触れているかのような、そんな柔らかさです。

 優しい手つきで全身をなぞり、お尻から太腿にかけてを捏ねるように揉んでいくと、隊長の口から小さな吐息が漏れてきました。

 

 それだけならば、ほんの少し強めに息を吐いただけ、と取れなくもありません。

 ですが同時に、微かに肢体を震わせ始めました。

 

「すみません隊長、痛かったですか?」

「いっ、いえ……何も問題はありませんよ。つ、続けなさい……」

 

 そうは仰いますが、平静を装ったその言葉の中に、若干の熱が込められているのを私は見逃しませんでしたよ。

 

「そうですか? では……」

 

 ですがそんなことは顔にも出さずに、私はマッサージを続けていきます。

 別に隊長は鉄面皮をウリにしてるってわけでもありません。けれども部下の手前、見せられない姿というのはやはりありますからねぇ。

 我慢しましょうね、隊長♪

 

「……ふっ……!」

 

 お尻から太腿の内側へと指を入れ、内側から外側へと揉み解していきます。

 どうやら隊長はこの辺りがお好みのようですね。

 白い肌がじんわりと火照ったように赤みを帯びていき、うっすらと汗が浮き出てきました。触れている私も、指先が熱くなっていくのを感じます。

 では、お好みとあればこちらも集中的に責めさせていただきましょうか。

 

「……ぃ……く……っ……!」

 

 相手の変化を試すように何カ所も揉んだり、指先で押し込んでいきます。

 お尻のお肉の柔らかな感触を手全体で堪能しつつも、同時に関節の辺りも反応を窺うようにして指圧します。

 

「……ふあっ!」

「……ああ、ここですか?」

 

 とある一カ所を刺激した時、やたらと良い反応が返ってきました。

 尾てい骨の部分です。

 なにしろそれまで必死に抑えていた声を我慢できなかったとばかりに大声で漏らし、身体全体を大きくビクンッと跳ね上がらせましたから。

 

 ふむふむ、隊長はお尻周りが弱点のようですね。

 ほぼ確証を得ましたが、確認のためにもう一度。今度はもっと強めに。

 

「あうっ!」

 

 今度は大きく腰が浮き上がりました。

 

「ここ、気持ちいいですか?」

「そ、それは……」

 

 小首を傾げるようにして尋ねれば、隊長が言葉に詰まりました。

 なんと応じるべきか考えあぐねている。そんな感じですね、きっと。

 

「……良いんですよ、素直に言ってください。隊長は先程も仰ったでしょう? 自分は体験する立場なんだって。今は立場は関係ないですし、遠慮も無用ですよ。それに、誰にも言いませんから」

 

 迷っている隊長の耳元に、小声でそう囁きます。

 一聴したそれは、ともすれば悪魔の誘惑にも思えるかもしれませんね。

 

「そ、そうでしょうか……いえ、そう……でしたね……お願い、します……」

「勿論ですよ。では早速、こんな感じがお好みでしょうか?」

 

 了承の意を得たので、更に尾てい骨への刺激を強めます。

 指先で押し込んだり手の平全体を使って周辺を一気に解したりとしながら、隊長が一番気持ちよいのはどれなのかを探りますよ。

 

「ん……く……っ! は、あ……ぁぁっ……!」

 

 ですが、少しの刺激でも隊長は力尽きたように脱力して、口からは明らかに熱意が込められた吐息を吐き出しました。

 遠慮は無用って言いましたけど、凄いですねコレは……

 

 ひょっとして隊長、色々と溜め込んでいたのでしょうか?

 

 とはいえその反応は嬉しいです。

 なのでその勢いのままに、太腿全体から足裏までを一気に解していきました。

 やはり隊長は座り仕事ですからね。下半身の凝りを解すのは大事です。

 

 その間も隊長の口からは甘い吐息が漏れっぱなしでしたが。

 

「あの隊長、一通り終わりましたが……どこが一番良かったですか?」

「え……っ……も、もう終わりですか!?」

 

 完全にだらーんと脱力した様子で布団に身を任せていました。

 それでも隊長の身体は先程の刺激の余韻を味わっているのか、それとももっと刺激が欲しいと無意識に訴えているのか、小刻みに痙攣しっぱなしです。

 

 手を止めたことにも気付いていなかったのでしょうか。

 私が声を掛けた途端にガバッと顔を上げます。その表情は、普段の柔和な顔とも稽古の時の厳しいそれとも違う、なんとも蠱惑的なものになっていました。

 

 そして、言ってから気付いたのでしょう。だって"もう終わりか"ということは"まだもっと欲しい"という遠回しなお強請(ねだ)りなのですから。それを自覚して、赤かった顔がもう少しだけ赤くなりました。

 

「んんっ! そ、そうですね……強いて言うなら……ぜ、全部……でしょうか……」

 

 体裁を整えるように軽く咳払いをすると、微かな時間言葉を選ぶように瞑目して逡巡した後に、結局欲望に抗いきれなかったのか全部と口にしました。

 

 そんなに気に入ってくれるなんて、嬉しいですね。そんなことを言われると、もっとサービスしたくなっちゃいますよ。

 

「ホントですか! あの、では良ければ前の方もやりましょうか?」

「ま、前! ですか!?」

 

 寝耳に水、といった様子ですね。さて隊長、一体どうします?

 

「……わかりました」

「では、仰向けになってください。それと……あの、隊長」

 

 少し迷った様子でしたが、やがて頷きました。どうやら覚悟を決めたようです。指示するよりも先にごろりと姿勢を仰向けに入れ替えました。

 であれば私も尋ねずにはいられません。

 

「その胸の傷は一体……」

「ああ、これですか?」

 

 隊長の胸元に刻まれた、痛々しいほどの傷跡。

 それは明らかに刀傷が原因であり、ということは隊長にこんな致命傷を与えられるほどの相手がいたということですよね。

 尋ねるのも失礼かと思って、触れないようにしていました。背中側だけで止めるつもりだったのも、これが原因です。

 

 ですが隊長は自分で"続ける"と選びましたからね。であれば、この傷について聞いても問題ないでしょう。

 

「はい。その傷跡、隊長の回道の腕なら消せたのではないかと思って。差し出がましい申し出ですが、私ならその傷跡も消せます。もしも宜しければ……」

「いえ、これは私の未熟と屈辱の証ですから。たとえ誰であろうとも消させるわけにはいきません」

 

 ……未熟と屈辱の証!? なんですかそれは!!

 

「あなたも知っての通り、かつての私は初代剣八として暴れていました」

「……え!?」

 

 なんですかそれ!? 隊長の下で五百年くらい働いてきたけれど初耳なんですけど!!

 

「おや、知らなかったのですか? それなのにあの日、私にそんな態度を取ったと? ……まあ、いいでしょう。過ぎたことですし、今となっては何の問題もありません」

 

 ……つまり、私の知らない何らかの設定があるってことですか? あの日って……もしかして、入隊初日ですかね? 私何を言いましたっけ?

 

 絶対に癒やしてやるとは言った覚えが……あ、そうか。元剣八相手に絶対に癒やしてやるなんて、喧嘩売ってるのに等しいですよね……

 

「当時の私は乾いていました。戦うに足るだけの相手を、挑み続けてなお届かぬ相手を探し続けていました。そして、あの日――彼に出会い、この胸に烙印を刻まれたのですよ。余人相手には目に触れさせることすらも腹立たしい、この傷跡を」

 

 さっきまでの表情はどこへやら。

 当時を思い出しているのでしょう、阿修羅みたいな顔を浮かべながら話してくださりました。

 とはいえ、なるほど。

 だから着込んで髪も編み込んで人目に触れぬように隠していたんですね。

 ……ん? ちょっと待ってください。

 

「あの、そんな大事な傷跡を私に見せたということは……」

「そういうことです。見せるどころか、本来ならば私と彼以外には決して触れさせぬつもりでしたが……あなたなら良いでしょう」

 

 そんな大事な想いの詰まった部分を触れられるわけですか……

 せ、責任が重大すぎませんか?

 

「光栄です。では、失礼しますね」

 

 仰向けになった隊長の身体は、やっぱりおっぱいが大きいですね。

 良い意味で予想を裏切られるというか、嬉しいサプライズと言いますか。目の保養になって、稽古の時のそれとはまた違った印象を与えてくれます。

 

 そんな隊長の下腹部――お腹周りへと、オイルを塗しながら手を添え、ゆっくりと撫で回していきました。

 

「う……ん……っ!」

 

 僅かな肉付きの奥には引き締まった筋肉が指を押し返してくれます。オイルを通して伝わってくる肌の暖かさが心地よいですね。

 ゆっくりと撫で回しながら、少しずつ力を込めてお腹周りを揉み解していけば、先程までの話で眉間に刻まれていた険しいシワがゆっくりとゆっくりと、私の指の動きに合わせるようにして険が取れて穏やかな表情へと変わっていきます。

 

「う……っ……ふ、ああ……っ! いい、です……っ……とても、とっても……!」

 

 お腹周りから腰のくびれへ、そして太腿の付け根辺りまでを流れるように順番に揉んでいくと、隊長は切なそうに腰をくねらせました。

 身体から流れ出る汗の量がじわじわと増えていき、額には濡れた前髪が貼り付いています。布団の上には汗の染みがぽつぽつと刻まれていきました。

 

「そろそろ上の方も行きますよ?」

 

 果たして聞いているのかいないのか。

 手の平の動きを大きくして、そのまま胸元へと移動させるが返事はありませんでした。

 ですので許可を待たず、大きなお山(おっぱい)の周辺を指先で押し込むようにしていきます。

 

 (ふち)をなぞるようにしてゆっくりと揉んでいく。

 それだけでも指先にはふんわりとした感触が伝わってきました。

 このまま鷲づかみにしたい――という欲求を必死で抑えながら、指は外周部を沿うようにして刺激を与えながら上へと移動していきます。

 そして鎖骨から首筋にかけてを、優しく撫でるように擦りました。

 

「んんっ!」

 

 つつーっと羽毛で撫でるような微細な刺激に、隊長は身をよじって応じてくれます。

 

「この辺もお好きですか?」

「え……えぇ……そう、なのでしょうか……よくわからなくて……ん……っ!」

 

 自分の身体の反応に自分自身が一番戸惑っている、そんな反応が返ってきました。

 ですので首回りを何度も何度も、ゆっくりと刺激してあげると、隊長はうなじの辺りをぞくぞくと震わせながら、熱の籠もった返事をしてくれます。

 吐息の音を聞いているだけで頭がおかしくなりそうですね。

 

 そのまま柔らかな指使いで、胸の周りを擦っていく動きを再開します。

 外側から内側へ、螺旋を描くようにじっくりじっくりと揉んで行きました。

 

「これが、その傷跡……」

 

 胸の中心部に刻まれたそこに指を這わせます。

 隊長の白い肌に唯一刻みつけられた、他人の手によるもの。そっと触れた感触は少しだけデコボコしていて、すべすべとした肌の感触にそこだけ違和感があります。

 

 今までずっと隠し通してきた大事な部分へ、他人が指を触れる。

 

 ……今さらながらこれ、大丈夫なんでしょうか? 私、あとで殺されたりしませんよね??

 

 浮かび上がった悪寒を必死で振り払いながら、指の動きに意識を集中します。

 胸の曲線をそっと指でなぞりながら、違和感を感じさせない程度にじわじわと胸を揉んで解していきます。

 

「あ……あぁ……っ!」

 

 うーん、ホントに大きいですよね。

 私の手でも余るくらいですから、これはかなり……

 隊長にもう少し隙があったら、男性隊士たちが放ってはおかないでしょう。それだけの色気があります。

 私の動きに合わせて肩が震え、その振動で胸の先がふるふると揺れます。

 その柔らかな感触を指から手の平まで全体で感じ取りながら、けれども決して力を入れすぎず、形をなぞる程度に止めておきます。

 はぁはぁという切なそうな呼吸の音がかなり大きく響き、何かを我慢するかのように隊長は拳をぎゅうっと力いっぱい握りしめています。

 

「隊長、どうかしましたか?」

「い、え……なにも、問題っ! ……は……あり……っ!! ……ありません、よ……」

 

 わざとらしく尋ねれば、喉の奥から声を絞り出して来ました。

 少し悪戯心を刺激されて指の力を強めましたが、それでも隊長は理性を総動員したのでしょうか、堪え続けていました。

 

 驚いたことに、隊長は最後までその姿勢を崩しませんでした。

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした、隊長。お湯の用意が出来ていますので、もしよろしければどうぞ」

「で、では……いただきますね……」

 

 施術は全て終了しました。

 ですが隊長の様子は明らかに精彩を欠いています。

 顔は真っ赤になっており、どこか物欲しげな表情を見せています。

 いつものような行住坐臥の全てに隙を見せない様子とは異なり、どこかふらふらと虚ろな様子で立ち上がり、お風呂へと向かいました。

 

 うーん、これは隊長の意地でしょうかね? 必死で理性で抑え込んでいたのでしょう。

 顔を真っ赤にして、誰の目に見ても明らかなのに当人だけは必死で何でも無い大丈夫だと否定し続ける、それを見て愉しむ。

 そんな感じでしょうか?

 

 

 

 ……ところで射干玉。隊長の胸の傷、知ってたの?

 

『そうでござるよ』

 

 ……相手、誰なの?

 

『いやぁ、卯ノ花殿もなかなかおっぱいが大きくて良い意味で予想を裏切られますなぁ! 普段だと母性たっぷりで、思わず甘えながらママと呼びながらむしゃぶり付きたくなりますぞ! 優しくって頼りになって、個人的にはもっと肉付きが良いと更に辛抱溜まらなくなるのでござるが!!』

 

 ……露骨に話を逸らされた。

 まあ、いいわ。その内わかるでしょうから。

 

 

 

 

 

 翌日。

 隊長は明らかに元気になっていました。

 立ち振る舞いは普段通りなのですが、なんというかつやつやと輝いて見えるというか。より魅力的で精力的になった、という感じです。

 やたらと機嫌も良かったのでしょう。

 業務終了後に、訓練場で稽古に誘われました。

 

 ……昨日とは比べものにならないくらい強くなってました。あの修行は何だったんでしょうか?

 

 

 

 ――ねえ、射干玉? あなた何かした?

 

『いえいえ、したのは藍俚(あいり)殿でござるよ? 拙者の卍解能力と藍俚(あいり)殿のマッサージが組み合わされば、凄まじい程の復元と成長が発揮されますので。その辺りについては平家殿の時にご理解いただけているはずでござるよ??』

 

 ――つまり、簡単に言うと……マッサージしたから隊長が強くなったと?

 

(しか)り! でござる!!』

 

 うえぇ……ようやく背中が見えるくらいには追いつけたと思ったのに……

 

『女性は強く美しくなって嬉しい!! 藍俚(あいり)殿はお山(おっぱい)登れて(堪能できて)嬉しい!! 拙者も嬉しい!! 男性隊士は同僚が美人になって嬉しい! 誰もが得する、これこそ理想の世界でござるよ!!』

 

 そう、言われれば……そう、なのかしら……?

 

『ああ……なのに世界はどうして、このようにエロく平和であるだけでいられないのでしょうか……? どうして戦争なぞ起こるのでしょうか……?』

 

 永遠の命題よね……

 




卯ノ花さんは頑張ったけれどこれが限界……

●胸の傷
普段はがっつり隠していますが、勇音は見せていた。
なのである程度信用した相手には見せるし素性も教えていた、と推定。
では、傷を触らせるということは、これはかなり信用しているということになる。
まあ、アホなペットも飼い続ければ愛着湧きますし。
(信用度75以上で傷を見るイベント発生
 信用度85以上で素性について教えて貰うイベント発生
 信用度95以上で傷を触れるイベント発生(個別ルート確定)
 ……みたいな感じですか?(もしブリのギャルゲみたいなのがあったら))

●しつもん
Q.自分で自分をマッサージしたら無限に強くなれるんじゃない?

A.黒ゴムボール「残念ながらこれは男性と自分自身は例外なのでござる」
  変態死神「うまい話はそうそう無いって事ね」

  最狂死神「では私がどんどん強くなって鍛え続ければ良いわけですね」

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